まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

今回はプロ生活の始まり。
つまり佐偽が消えるまであとすこしっ!!
きえた後のヒカルの入院とか、それからのこととかは原作にはない設定もありますが(こら
佐偽がもどってくるのはプロローグにもあったとおりに北斗杯のときですしv
まあ、何はともあれ、ゆくのですv
ポイントは、桑原本因坊をさくっとじ~ちゃんよばわりしまくってるヒカルだったり(笑
ではでは、いくのですv

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ふわ~~~!!
「進藤君、盛大なアクビねぇ。夜更かしかしら?」
どっ。
「あ、す、すいませんっ!」
朝のホームルーム。
そのさなかにおもいっきり大アクビ。
「テスト勉強もほどほどにね」
「ヒカルの場合はテスト勉強かどうかわかんねぇがな」
「ちがいないっ!」
どっ。
クラスメートの横やりがはいり、さらに教室は笑い声にと包まれる。
「わるかったなぁ!そりゃ、両方だよっ!碁と勉強とっ!」
囲碁の勉強…これはもっぱらヒカルの決意が本物だ、と佐偽が理解し。
今まで以上にスパルタ式になっているがゆえにヒカルからすればたまったものではない。
それでもまだヒカルが望んだ結果でもあるので悪くはないが。
それ以外の気分転換、といえばとにかくひたすら今度は逆にヒカルが佐偽に教える番。
ヒカルがやっているテキストを佐偽とともにやり、逆に現代の知識にて佐偽をやりこめる。
そんな関係がここ数か月続いている。
碁の棋力に関しては佐偽になかなか及びもしないが、というか佐偽は対局するたびに強くなっているのだから、
おいつけないのも仕方がない。
それでも鬼神のような強さをもつ佐偽でも現代の常識や勉学に関してはむちゃくちゃ無知。
それゆえに反撃するチャンスもヒカルにもある、というもの。
最近は確定申告にむけて会計士の資格の勉強をもはじめているヒカルである。
すべてはこの四月からのプロ生活にむけての努力。
生半可で何ごとも挑みたくない、とおもうのはヒカルの特徴。
それはヒカルとアキラ、そして佐偽に共通する性格でもある――

星の道しるべ   ~始まりの三月~

「…え~!?しんじらんねぇっ!」
思わず呆れて大声をだす。
「和谷。うるさいぞ!」
部屋の中には今のところ二つほど碁盤がでており、それぞれが対局している最中である。
そんな中、和谷と冴木が対局しているのをみていたヒカルが信じられないことをいったがゆえに和谷が叫んだのだが。
「だって先生!進藤が大手合いをしらないっていうからっ!」
何となく雑談の中でその会話がでれば、ヒカルがそれって何?とききかえし。
そして冒頭にいたっていたりする。
「何!?大手合いをしらん!?」
和谷のセリフに思わずこちらもあきれておもいっきり叫ぶ森下の姿。
今、ヒカルがきているのは棋院でおこなわれている森下九段の研究会。
家に閉じこもり気味のヒカルを誘ったのは他ならない和谷当人。
「だ~か~ら!大きい手合いって何だよっ!和谷っ!」
むっとしつつも、そんなことをいっくてる和谷にと負けずと言い返す。
わからないのだから聞いているのにどうしてこんなにいわれなければいけないのか。
「おおきい…手合い?」
ぱちくり。
「…はぁ?」
きょとん。
ヒカルの台詞に目をぱちくりさせている白川に、そして目をまんまるにしている鈴木の姿。
…ぶっ。
「…ぷっ。あははは、あははははっ!!」
どうやら本気でいっているのがわかり、こらえきれずに笑いだす冴木。
何か彼がくるたびに笑っているような気がするのはおそらく気のせいではないであろう。
恐ろしいほどに実力はあるとみうけられるのに、基本的なことをほとんど知らないヒカル。
そのギャップが何ともいえない。
笑のつぼにはいってくるような基本的なことをヒカルはほとんどわかっていない。
「ったく、こんなバカみたことねぇ!何で棋力はどんどん成長してんのにそんなことしらないんだよっ!」
ここ最近、ヒカルの棋力はさらに伸びている。
そのことを和谷は一応自覚している。
ときどきヒカルの家にいき一局うっているからこそわかること。
「むっ。和谷に馬鹿っていわれたくないよっ!」
「あはははは。大手合いっていうのは昇段のための手合いのことだよ」
言い合いをしている和谷と進藤に対し、笑いをこらえつつも説明してくる冴木であるが、
「そんなのがあるの?」
そんな彼のセリフにきょとんとした表情でといかける。
『へぇ。そういうので段位がきまるんですかぁ』
佐偽も初めてきいたがゆえに感心した声をだす。
「お~ま~え~は~!!ようやくタイトル戦など全部おぼえたとおもったらそんな基本しらなかったのかぁ!?」
おもわず感心しているヒカルの首をつかんでヘッドロッグをかます和谷。
…まあ、気持ち的には間違ってはいないのだろう。
「大手合いもしらんでもうプロか」
まあ、彼はここに初めてきたときからその棋力には驚かされたものである。
そのときはまったく囲碁界のことをヒカルはわかっていなかったが。
「進藤君の成長ぶりにはおどろかされますねぇ」
いったい全体どうやって碁の勉強をしているのか今だに彼らからすれば理解不能。
いまだにヒカルは決まった師匠はいないのだから。
「ほんとうに。私の囲碁教室にかよっていたころをおもうと信じられませんよ」
何しろ石をもったことすらなかった生徒である。
それなりに難しい手を即答し、さらにはあの塔矢明にもかったといい。
ついでにいえば囲碁教室ではかなりつよかった亜子多を中押しでぎゃふんといわせた。
素人のはずなのに、ヒカルは信じられない塊、といっても白川からしてみればそうとしかいいようがない。
『何といっても先生がいいですからねぇ』
そりゃ、お前最近さらに容赦ないもん。
「まあ、二人ともうかってよかった。われわれもうかうかしてられんなぁ。
  まあ、でもしかし当分は大手合いもタイトル戦の予選も低段者が相手だ。しっかりもまれてこい」
和谷もまた進藤と対局することによって確実に腕をのばしていってるしな。
そんなことをおもいつつも、豪快にと笑みをうかべてそんなことをいってくる森下であるが。
「?あの~?大手合いは昇段のための手合いって?珠算の試験みたいなもん?」
説明をうけてもヒカル的にはよくわからない。
ヒカルは一応、珠算は段位をもっている。
あれは点数にあわせて段位がきまるが。
それと似たようなものなのかな?
そんなことをおもいつつも問いかける。
「大手合いは年に十局前後うつんだけど。その成績によって昇段していくんだ。
  冴木君が今四段。僕と鈴木さんが七段」
そんなヒカルの素朴な疑問に答える白川。
彼はヒカルが石をもったことすらなかった初心者のころから知っている。
そもそも、ヒカルが佐偽に取り憑かれて初めていったのが白川の囲碁教室である。
いわば白川とは佐偽とおなじくらい長い付き合い、ともいえるだろう。
「あ~あ、はやく五段になりたい」
何やら冴木がそんなことをいっているが。
「おい。冴木!塔矢門下の芦原が同じ四段だろ。あいつより先に五段になれよ!」
すばやくそのつぶやきをききとり、ばんっと手にした扇で正座している足をたたきながらいってくる。
「先生はすぐに塔矢門下ときそわせようとする」
そんな師匠である森下の言葉に苦笑まじりにつぶやく冴木。
「まず、大手合いがはじまって、夏が近付いてくるといろいろなタイトル戦の予選が順番にはじまります。
  他の大会の予選などは春になったら始まったりするのもありますけどね。
  とにかくそれぞれの予選の対局は月に二、三局ってところかな?」
どうやらよくわかっていないようなので、鈴木、と呼ばれた人物がヒカルに丁寧に説明してくる。
最も、予選開始の日時はそれぞれの大会にあわせて異なりをみせているのだが。
早いものでは四月から予選は開始され、一年がかりや二年がかり、というものも多数ある。
「おまえ、詳しくは日本棋院のHPで確認したほうがいいぞ。ぜったいに」
棋院のHPの中には一応これまでの対局結果がのっている場所がある。
大まかの日程を確認するにはもってこいであろう。
「へぇ。そんなものなんだ」
まあ、かえってからネットで確認してみるか。佐偽。
『そうですね』
とりあえず納得し、心の中で佐偽にと話しかける。
佐偽も興味があるらしく、佐偽もまた素直にヒカルの言葉にうなづいてくる。
「予選をかちあがっていけば嫌でも手合いはふえてくる。
  塔矢明なんか、本因坊戦、名人戦と二次予選にコマをすすめてる。
  対局数はどんどんふえていくだろうな。いよいよ注目のまとさ」
アキラは基本的に予選を突破したからとかいう報告まではヒカルにはしてこない。
別に予選を突破してもアキラからすればさほど重要なことではない。
むしろ、ヒカルといつ対局できるか、というのが気にかかるらしく、ヒカルの都合を最近よく夜に電話できいてくる。
「ええいっ!おまえたち!何とか塔矢明をとめろっ!」
それでなくても連勝を続けている。
それゆえにいらいらしてしまうのは自分の門下生がなかなかふがいないが故。
「冴木さん、森下先生の前で塔矢門下の話をしたらだめだってば。
  ま、あいつとめられるの進藤くらいじゃないのかな?たぶん」
師匠でもある森下の言葉に苦笑しながらも冴木にこたえ、ちらりとヒカルをみていっている和谷。
「そういや、何か最近日曜日とかも対局やら仕事がはいってるとかいってたな~、あいつ。
  俺のほうはとにかく勉強一色だけど」
とにかく、自由がきく時間のうちにとヒカルは徹底的にとやっている。
最も、佐偽にヒカルが教えられること、といえば現代の勉学くらいなのでそれもあるのだが。
佐偽もまた、現代の勉学を昔とくらべて感心することしきり、ではある。
「だからさそったんだけどな。お前最近ずっと勉強ずくめってきいたから。よくやるよな~」
「そういうけどさ。和谷。こずかいかかってんだぜ!?」
「お前の基準ってかわってるよな~」
たしかに、ここ数か月、ヒカルはとにかくひたすらに自室にこもってテキストをやるか、
もしくは佐偽とともに碁の特訓。
そのどちらか。
最近そういえばネットにもほとんどはいっていない。
それゆえにネット上ではsaiの身に何か!?
と騒ぎになっていたりするのをヒカルはしらない。
「そういえば、進藤君。対局用の通帳を別につくっといたほうがいいよ?」
「あ、それは前、お母さんに頼んでつくってもらいました」
「そう。ならいいけど」
対局をしてゆく中でお金の振込など、囲碁関係のものは一つにまとめていたほうが確定申告のときにもかなり助かる。
いくつも通帳をわけていれば申告するときにかなり面倒。
「確定申告のことをも踏まえて会計士の勉強もしてるし」
「おまえ、よくやるよな~、オレはたぶん、ひとを雇うぜ?」
そのほうがはるかに効率的である。
「何かやるからにはとことんやっときたいんだよな~」
「おまえ、そんなんでどうやって棋力あげてるんだよ?そもそもお前最近ネットしてないっていうし?」
「えっと、基本的には棋譜ならべ?」
正確にいえば佐偽ととにかく片っ端から対局しているのだが。
佐偽の本気モードで指導をうけつつ。
「ま、とにかく。進藤、お前この二十七日にはきちんとしてこいよ!?」
「免除授与式だっけ?」
「免状授与式!…何か不安になってきた……」
しばしそんな会話がここ、日本棋院の中の森下研究会にて繰り広げられてゆく。

三月二十七日。日曜日。
「ん…ん~……」
気慣れないスーツとネクタイ。
それゆえにどうしても違和感を感じてしまう。
「ふぅ。何だか似合わないわねぇ」
溜息まじりにそんな息子の姿をみてそんなことをいっている美津子。
『ぶくくくくっ、くくくくっ』
確かに佐偽からみても似合っていない。
それゆえに美津子の台詞におもいっきり笑いをこらえていたりする。
佐偽のやつ…あとでおぼえとけよ……
そんなことを思いつつ、
「いいんだよ。今日は特別なんだから。新棋士の…とにかく授与式があるんだから」
どうも言葉を噛みそうでとりあえず言葉を濁すヒカルに対し、
「免状授与式でしょ?」
さらに溜息をつきつつもあきれつつ、つぶやく美津子。
こんなんでやってけるのかしら?
とおもうのはおそらく美津子が母親だから、ではないであろう。
第三者がみてもおそらくその気持ちはおなじはず。
「だいたい、あんたがネクタイにスーツだなんて。それでなくてもまだ中学生なのに、はぁ~……」
しかも、何でもプロ棋士、というのは普通の何かの資格とは違って一応は社会にでた。
つまりは仕事をもった、ということになるらしい。
中学生の息子がそうなった、といわれても、囲碁界のことにまっくた無知な彼女からしてみればぴんとこない。
「越智だって中学生だし塔矢だって中学生だいっ。それに今後は先の話だけど確定申告もあるらしいし」
「か…確定申告!?何て世界なの。は~。不安でしょうがないわ。健康診断書と履歴書はもった?」
「うん。もった。でも申告のことはいったじゃん。だから会計士の資格とろうと勉強してるんだし」
「そうだったかしら?」
資格をとりたいから、というのはきいたが、確定申告のため、とはきいてなかったような気がひしひしとする。
まあ、きれいさっぱりその言葉を流していた、というのもあるのだが。
「じゃ、いってきま~す!」
『何かたのしみですね~。では、いってきます、母君』
いいつつも二人して玄関をでてゆくヒカルと佐偽。
「は~…不安だわ……」
あの子、粗相しなきゃいいんだけど……
そう思うのは親心、なのであろう……

日本棋院会館の中にとある大ホール。
今日の授与式はこの大ホールにて執り行われる。
ざわざわ。
周囲ははっきりいって大人ばかり。
きょろきょろとしつつも会場の中にとはいってゆく。
『あ、ヒカル。あそこに和谷がいますよ?』
「ほんとだ。お~い!和谷!」
大人ばかりの中で知っている顔をみればほっとする。
「お。進藤。お前にしちゃはやいじゃん。しかしお前、にあってないな~」
「わるかったなぁ!そういう和谷だって!」
いいつつも互いに顔をみあわしてくすりと笑う。
おもいっきりスーツ姿の子ども、というものはかなり浮いている。
それでもまあ私服のほうがこの場の雰囲気からいけばかなり浮くことは間違いない。
「お。進藤と和谷だ」
「あ、倉田のお兄さん。あれ?倉田のお兄さんもきたの?」
「し~ん~ど~う~!ここにきてまで俺に恥をかかすなっ!今日はほかの表彰式もあるんだよっ!」
そもそも、倉田は去年の最多勝利者でもあり最多対局者である。
呼ばれているのが当たり前。
「そうなの?」
「…たのむから。その手の知識もおぼえてくれ~!同期の俺達まであきれられるんだぞ!?」
「何?まさかそんなこともしらなかったの?」
おもわずむっとなってしまうのは倉田が性格上、子供っぽいからなのかもしれないが。
だがしかし、去年手合せして一気にここまでのぼってくるとはおもわなかった。
しかも若獅子戦では優勝、ときたものだ。
あの若獅子戦に参加していれば進藤光の棋力を測るいい機会になったかもしれないのに。
それでも噂をききつけて緒方棋士がつけたという塔矢明と進藤光の棋譜は倉田も手にいれている。
「ま、これからおまえらもがんばれよ。もっとも、そう簡単に近づけさせないけどな。あはははは!」
たかが新初段。
されど新初段。
気をひきしめないとやられる。
それは倉田にはよくわかっている。
だがその思いを表にだすことなく、笑いながらもその場を立ち去る倉田の姿。
「あいかわらず変な人。それより、他の表彰ってなに?」
「……は~……。いいか?進藤。今日の表彰式は他にもいろいろあるんだよ。
  去年、さまざまな偉業を成し遂げた人たちの表彰式が主なんだ。オレたちはおまけだよ」
「そっか~、オマケかぁ~……」
『それが何です。去年も塔矢もおまけとしてここにいたんでしょう?ヒカル?』
「そういや、塔矢、どこだろ?あいつもくるとかいってたけどな~」
昨夜、電話で明子からそのように聞いている。
「塔矢か。あいつは去年の成績で連勝第一位賞と連勝賞の二つを受賞してるんだよな~」
和谷がそうつぶやくとほぼ同時。
『すべては一局、一局の積み重ねの上に形作られていきますからね。ヒカルもこれからですよ』
「だな~。あ、塔矢!」
ふとみれば、何やら歩いてる場違いな子供の姿をみとめて片手をあげて声をあげるヒカル。
「…進藤。って、…君、にあってないよ?」
「むっ。わるかったなぁっ!って、開口一番それって何!?」
『ぷっ』
おもわずヒカルの姿をみてあまりに似合っていないので一瞬目をまるくして思わず本音がぽつりと漏れるアキラである。
アキラのことばに今までこらえていた佐偽もまた再び噴き出していたりするが。
こんにゃろ~。
そんな佐偽をぎろりとにらみつつ、
「おはよ~。塔矢。何かお前も賞うけるんだって?」
「らしいね。そういえば大手合いの組み合わせ表、みた?」
「あ~。オレたちはまだ何ももらってない。何だ、お前のほうにはもう届いたのか?」
ヒカルと話しをしているその会話に割って入り、和谷がそんなアキラにと問いかける。
「そうか。まだみてないのか…楽しみにしてるよ。進藤。いっとくけど!今度はまけないからなっ!」
「?よくわかんねえけど、こっちこそ!」
ざわざわざわ。
あの塔矢明と話しているあの子は誰?
あ、あの子、たしか若獅子戦の院生優勝者!?
何やらそんな声が周囲から聞こえてくる。
そんな周囲の声はヒカルもアキラもどうやら気づいていないらしい。
というか、こいつら絶対に注目あびてるの気づいてない。
絶対に。
どうもこの二人は会話をしていればそれぞれの世界にはいるのか、周囲のことを気に掛けないらしい。
それゆえにため息をつかずにはいられない。
近くにいるあの子は誰かしら?
たしか、あの子と一緒に同期合格した子じゃなかった?
そんな声がきこえてくれば、和谷からすれば多少いじけてしまいそうになってしまう。
ヒカルはたしかに院生ながらも若獅子戦で初優勝を飾った、という功績をもっている。
それゆえに棋士の中ではかなり注目をあびているのはわかっている。
それでもこうあからさまにそのことを思い知らされると何だかむなしくなってしまう。
「でも、よく君が僕が二つ表彰されるってしってたね」
「あ、今和谷からきいた。他にも何か賞とかってあるの?今日の表彰式?」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ~………」」
さらっといいきるヒカルのセリフに思わず目をまるめて互いに顔を見合せて同時にため息をつく和谷とアキラ。
周囲にいくらそのあたりのことを教えてくれる師匠がいない、とはいえこの無知具合はどうにかしてほしい。
そうおもうのはおそらくアキラや和谷だけではないであろう。
そもそも、ヒカルに教えているのは佐偽であり、現代の事情など知る由もないのだから仕方がないといえば仕方がない。
「…僕も忙しくなってるから進藤に詳しくおしえる時間はめったにないしな……」
だけども自分が生涯のライバル、とおもっているヒカルがここまで無知だと何だかとても腹がたつ。
彼の棋力は確かだというのにそれで彼が見下されることになるのはアキラとしても許せないこと。
「何だよ!二人とも!おいおいとおぼえてけばいいだろっ!」
しかしすでにプロである。
普通はプロになる前にそういったことは覚えている、というのが一般的な今までの常識。
どうもこの進藤光、という人物はそういった常識をことごとく覆す人物ではある。
「とりあえず。今日表彰されるのは、僕や君たち、新初段の免状授与式だけでなく。
  いろいろな人たちが表彰されるんだよ。たとえば最優秀棋士は父だし。
  他にも優秀棋士賞とか、女流賞とか。って説明してわかる?」
「まったく」
「「・・・・・・・」」
説明してもよくのどおりがいってないらしいヒカルにさらに無言になり盛大にため息をつかずにはいられない。
「おはよう。何はなしてるの?」
そんな彼らの背後から聞きなれた声が聞こえてくる。
「あ、越智。おはよう」
「越智君。おはよう」
「あ、越智。おはよ。って何でおまえはスーツにあってるわけ?」
越智のスーツ姿はぱっとみため、どこかのいいところのおぼっちゃん、という感じをうける。
ヒカルや和谷の着こなしとは何だかまったく違っている。
「…進藤、たのむから大手合いが始まるまでにはある程度はおぼえといてくれ……」
は~…
ぽんっとヒカルの肩にと手をおき溜息まじりに話しかけつつも、
「あ、そろそろいかないと。挨拶もしなきゃらならないし。じゃ、また。進藤。それに和谷君たちも」
いいつつ、そのままその場をたちさるアキラの姿。
そんな彼の姿を見送りつつ、
「で?何はなしてたの?」
「こいつが今日のことよくわかってないみたいだからそれで塔矢とあきれてたとこ」
「なるほど」
「って、何でそれで納得するんだよっ!越智っ!」
詳しく説明しなくてもそう聞けばおのずとわかる。
そもそもヒカルの知識のなさは院生の中でも有名すぎたのだから……
「そういえば、俺の初手合いの相手ってそういえば誰になるのかなぁ?」
「さあな。もしかしたら俺かもしれないし」
「だけど、たしか相手は初段、とはかぎらないよ。二段、三段ということもありえるし。
  とにかくはじめは低段者との対局になるんだしね。いいかたらなしだよ」
ヒカルたちがそんな会話をしているそんな中。
「あ。塔矢君。大手合いの組み合わせ表、みたかい?手合い課が送ったとおもうけど」
席にとついたアキラの姿をみつけて、声をかけてくる天野の姿。
「あ、天野さん。はい、みました」
「すごいよね進藤君の初めての相手が……」
「彼のほうはまだ知らないみたいですけどね。次はまけませんっ!」
アキラの目標はとにかくヒカルを追い越して先に神の一手を究めること。
ヒカルも一手をきわめてみたい、といっていた。
その思いは佐偽とて同じ。
以前の公式手合いともいえる若獅子戦はまけてしまった。
だけども次はそうはいかない。
その思いがアキラにはある。
「あはは。しかしものすごい一局になりそうだよね~」
若獅子戦のときの棋譜を手にいれているからこそいえること。
そもそも、かなり紙面がにぎわいそうな対局の組み合わせ、である。
【え~、テス、テス。まもなく、合同表彰式。および新入段棋士の免状授与式を行います。
  ご出席の方は二階の大ホールにお集りください。まもなく合同表彰式、及び……】
棋院全体にと流れる放送。
何でも席はきまっているらしい。
「あ、はじまるみたいだな。席につこうぜ。えっと、オレたちの席は……」
放送をうけて、決められた席にとヒカルたちはむかってゆく。

え~と……
「なあ、佐偽?席…どこだったっけ?」
『さあ?たぶんあのへん?』
表彰式がとりあえず自分の番がおわり、何やらじかんはものすごくかかる。
しばらく静かに見ていたが、トイレにいきたくなり席をたった。
そこまではいい。
いいが出るときにはおもわなかったが人の数がものすごい。
思わず大ホールの扉の前で立ちすくんでしまう。
「うん?何じゃ?たしか進藤とかいったの。何たちすくんどるんじゃ?」
しばし呆然と立ちすくんでいると背後から声が投げかけられる。
『あ。たしか今現代の本因坊とか言う人!』
「あれ?えっと。あ、たしか桑原とかいう本因坊のじ~ちゃん」
ふとみれば、背後にいるのは桑原本因坊そのひとである。
「ひょっひょっひょっ。いかにも、桑原じゃが。何つったっとるんじゃ?小僧?」
「あ、え~と、席がわかんなくなっちゃって……」
しかも席の位置がかかれている書類などもすべて席にとおいてある。
かといって、うろうろして席を探す、というわけにもいかないであろう。
「ふぉっほっほっ!なるほどのぉ。ま、ついてきなさい。新初段の座る位置はきまっておる」
「え?そうなの?」
『すいません。たすかります~』
佐偽が空とんで確認するとかできないの?
『それは無理ですっ!』
ヒカルが心の中でそんな会話をしていると。
やはり、こやつからは何かを感じるのぉ。
それもとてつもない何か、を。
「たすかったぁ。あ、でも桑原のじ~ちゃんは、何で?」
「ほほほ。歳はとりたくないのぉ。どうしても近くなってしまってのぉ。
  そういえば、お主の大手合いの初戦は塔矢のセガレだったの」
「え、あ、はい?」
言われている意味がよくヒカル的にはわからない。
そうおもいつつおもわず首をかしげるヒカルをみてさらに高らかに笑いつつ、
「これから先、面白くなりそうじゃのぉ。お主とは機会があればぜひともうってみたいの。ひゃっひゃっひゃっ」
『私も本因坊の名前をついでいるこのものとはうってはみたいですけどね~。
  ですけど、やっぱり何か違和感が…このご老人が本因坊…』
とりあえず、小声でそんな会話をかわしつつも、すたすたとあるいてゆく桑原のあとをついてゆくヒカル。
「ほれ、新初段はあそこじゃ」
「あ、ありがとうございました」
「何の。ではまたの。小僧」
「…って、げっ!おい!進藤!何桑原先生と一緒にいるんだよ!?」
あまりにヒカルの戻りが遅いので気になって席を立ちあがった和谷がみたのは、
桑原本因坊とともにいるヒカルの姿。
「あ、席がわかんなくなってたらあのじ~ちゃんがおしえてくれた」
「…お前はほんっと大物だよ……」
まさか桑原本因坊に迷子案内させる新初段、など聞いたことがない。
あきれつつもヒカルをつれて和谷も再び席にとついてゆく。
本日は午前中に表彰式や授与式があり、午後からは新たにプロ入りする新初段の研修会が執り行われる。
しばし、席につきながらも、表彰式を眺めるヒカル達の姿がその場にてみうけられてゆくのであった。

午後。
新入段者の研修会が表彰式が済んだ後にと執り行われる。
「棋士会のほうからは以上です」
一室に集められ、さまざまな注意事項や心構え。
それらが新たにプロ入りしたヒカルたちにと説明がなされてゆく。
「では、封筒の中のものを出してください。ひとつづつ説明していきます」
う~…何だかもう頭がパンクしそう……
『ヒカル。そんなことでどうするんですか。これは家にもどってからおさらいが必要ですねぇ』
げっ…
佐偽からしてみれば今の時代の囲碁界の仕組みというか注意事項。
それらを知ることはとても興味深い。
ゆえにどちらかといえばヒカルよりも佐偽のほうが熱心に説明をきいている。
説明をうけて目の前に並べられた封筒の中身を確認し取り出すヒカル達。
「あ、これ。大手合いの組み合わせ表だ」
封筒の中にはいくつかの冊子などがはいっており、その一つをみて和谷がつぶやく。
「そうです。今年度の大手合いの組み合わせの対戦相手が全部のってます」
そんな和谷にこたえるかのように説明していた棋院のものが追加説明をしてくる。
「え?俺、どこ?」
「最後のほう」
「え~と……」
パラパラ。
棋士全員の大手合いの対局表がこれにはのっているらしい。
それゆえに自分の名前の場所を探してパラバラとめくる。
すでに夏に試験が終了している以上、今いる棋士と対局をくみ翌年の三月までに全員の手合いをきめる。
これもまた棋院の手合い課の仕事である。
「自分の名前の右にかかれている人が初戦の対戦相手となります。順番に右へ第二戦、三戦…となります」
「進藤…進藤ヒカル…っと、あ、あった」
『これですね。ヒカル』
いいつつも、それぞれに手にした冊子をのぞきこむヒカルと佐偽。
「俺のデビュー戦の相手は…って、ええ!?塔矢!?」
おもわずそれをみておもいっきり叫ぶヒカル。
「あ、ほんとだ。お前ほんっと塔矢のやつと縁があるよな~」
とはいえ手合い日は同じ日なので対局をみることはまずできない。
それが多少おしくもかんじてしまうのはおそらく気のせいではないであろう。
塔矢のやつは知ってるのかなぁ?
『彼はしってますよ。ですから今朝がた、あのようにいってきたのでしょう』
ヒカルの心のつぶやきに佐偽がかわりに答えてくるが。
「基本的に低段者の手合い日は水曜日。高段者の手合い日は木曜日です。
  水曜日は基本的にあけておくようにしてください。では次に……」
塔矢とかぁ。
よぉし!
今の俺でどこまで塔矢相手にできるかやってやる!
佐偽に以前よりもかなり特訓されてるから少しは力つけてるとおもうし。
それでも佐偽にはまだまだかなわないんだよな~。
『ヒカル~。塔矢との対局が楽しみなのはわかりますけど、きちんときかないと!ほらっ!』
ヒカルが説明されているのをまったく聞いていない。
というのはそばにいるからこそわかる。
それゆえにため息まじりにそんなヒカルに注意を促している佐偽。
しばし、棋院の関係者による新たな新初段にと説明が織りなされてゆく光景が、
ここ、日本棋院会館の中において見受けられてゆく。

「おお!ついに本格的に始動かぁ!」
「って、河合さん!っていつ仕事してんの!?本当に!?」
思わず叫んでしまうのは仕方ない。
棋院にて免状授与式がおわり、いつもお世話になっているから、というので碁会所石心をのぞいたヒカルである。
タクシー運転手には日曜、祭日、祝日といったものはおそらくないはずなのに。
なぜにいつもくるたびにほとんどここにいるのだろう?
そんな疑問をヒカルが抱くのは至極当然の結果ではある。
「しかし、進藤君も本格的にプロかぁ。初手合いはいつ、だれと?」
石心のマスターがそんなヒカルにと聞いてくる。
この石心の常連はヒカルがまだ院生のころから知っている、ということもあり、
最近ではほとんど進藤ヒカル後援会と化しているメンバーも少なからずいる。
後援会、といってもヒカルの知らないところでヒカルを静かに応援する、という程度のものなのだが。
ぐしゃぐしゃと頭をなでてくる河合に叫ぶヒカルにしみじみつぶやくそんな彼に対し、
「それがさ。塔矢となんだ。大手合いの初日。俺の初手合いの相手って。
  見知った相手だからそんなに緊張はしないとおもう。相手の手筋もわかってるし」
何よりも初めての対局が気心しれた相手、というのはかなり救いといえば救いである。
逆に絶対にまけるかっ!
という思いが芽生えるにしても。
まったく知らないものと対局するよりは心構え的にもかわってくる。
「ほぉう。塔矢君とねぇ」
幾度かヒカルがここにアキラをつれてきているので彼らもまたアキラとは顔見知りになっている。
中にはアキラに頼んで塔矢名人のサインをもらっている人がいたりするのはお約束。
「タイトルなんかぱぱっととってやれ!」
「ぱぱ、ってなんてむりだよ~。俺、棋力、まだまだだ、と日々自覚させられまくってるし」
「まあ、その向上心はすごいけどね。進藤君、今日は一局うってくのかい?」
「あ、いや。報告にきただけですから。対局はじめたら時間がおそくなるし」
それにあまりおそくなったらおそらく母親がかなり心配するのはめにみえている。
何だかここにくればヒカルも佐偽もどこかほっとする。
それはここがとても家庭的な雰囲気にあふれている場所だから、なのであろう。


「あ、そ~いえば、最近まったくネット碁、やってないよな~」
『いわれてみれば』
ふと、パソコンで今日の棋譜を作成していてふと気付く。
棋譜作成においては少しばかり検索してみたところ、
今までかなり手間暇かけてやっていたというのに、院生になったのち。
日本棋院のサイトから棋譜作成の無料ダウンロードというものが存在しており、
それゆえにそれを今では活用して以前ほど時間をくわなくなっているヒカルである。
佐偽といく度もうち、検討を終え、最後にパソコンで本日の棋譜を作成して注意点などを付属して保存する。
それが毎日の日課になっている。
最も、保存、といってもすぐさま外付けのHDのほうにきちんと保存してパソコン本体のほうにはそれらの痕跡はのこっていない。
万が一、誰かがみてもsaiの棋譜はすぐさまにはみつからないようにとなっている。
「ん~。今ちょうど春休みだし。佐偽、ひさしぶりにやるか?」
『はいっ♡』
春休みは他の休みと異なり、はっきりいって進学、または進級する前の休みであり宿題などといったものは存在しない。
そのかわりに休みもたがたか二週間程度、とかなり短いが。
ヒカルの中学は三月二十五日から四月の八日までが春休みとなっている。
別にこの休み期間は夜遅くまでおきていても怒られない。
しかも、中学二年の成績がかなりいいままに進学となれば親としてもあまり文句はいわない。
ちなみに、ヒカルは全国模擬テストでも上位クラスに通信教育を始めてからはいるようになっている。
それもあり両親は囲碁のプロになる、というのをしっても多少不安はあるものの、
勉強さえしてくれればまあ好きにさせておくか。
といった認識で今のところ暗黙の了解をしている節がある。
何だかものすごく久しぶりのような気がしなくもない。
そのまま本日の棋譜をすべてつけおえて、佐偽の名前でネット上にと入ってゆくヒカルの姿が、
ヒカルの自室においてみうけられてゆくのであった。


                                -第54話へー

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あとがきもどき:
薫:神出鬼没の佐偽さんなのですv(こらまて
   ネット上ではいきなりsaiがあらわれて、また偽物?とかもおもいますけど。
   対局してみれば本物とすぐにわかりますしv
   やはり佐偽は負け知らずv
   噂は噂をよんですでにネット碁をやらない人にまでその噂は海外ではのぼっていたりするのですが。
   そんなことを佐偽もヒカルも知りません(まて
   ようやく次回で塔矢との対局&塔矢名人の入院!です!ながかったな~
   これがおわったら佐偽の消滅まであと一か月vvふっふっふっ♪(だからまて
   ではでは、また次回にて。
さてさて、例のごとくに小話をば♪


五月。
「ほんと、ごめんね。塔矢君。いっつもお母さんが無理いって」
「ううん。僕も棋院には用事があったし」
いまだに試験の締切は先ではあるが、先にだしておくのに問題はない。
棋院に用事がありタクシーを使うから一緒にどうですか?
といってきたアキラの申し出は美津子からすればかなりありがたいものがある。
いくら段位ともおとらぬ腕前をもっているヒカルとて女の子。
このご時世、何があるかわかったものではない。
今日よりヒカルは院生にと入る。
「でも何だかわくわくする。私、塔矢君以外の子どもとうったことないもん」
実際に主に彼とうっているのは佐偽、であるが。
最も、saiにいわれて、ネット登録してヒカルも日々棋力は一応磨いてはいる。
「ついたよ」
「あ、ほんとだ。じゃあね、塔矢君。ありがと」
いこ、佐偽!
『え、ええ。塔矢、ありがとうございますね』
棋院についたのをうけて、ぺこりと頭をさげてそのまま棋院の中にとはいってゆくヒカル。
「あ、進藤さん…ってもういっちゃった…ま、いっか。運転手さん、少しまっててくださいね」
「はいはい」
先払いでしっかりと金額はもらっている。
帰り用のタクシー券をまだヒカルに渡していない。
とりあえず用事をすませてからあとから院生研修場をのぞこう。
そうおもいつつも、アキラもまた棋院の中にとはいってゆく。

ざわざわ。
「いらっしゃ~いっ!」
「え?」
『え?』
何だか六階に入ると何やら騒がしい。
きょとん、とするヒカルの前にいるのは二人の女の子と、奥のほうに男の子が数名。
たしか、院生試験のときに少しばかり会話した人達ではある。
「あの?」
『?何だかみなさん、ざわざわしてますね~』
たしかに何だか雰囲気がおかしい。
それゆえにヒカルともども佐偽もまたきょとん、と首をかしげざるを得ない。
ヒカルは知らない。
棋院の中で塔矢明が彼女をつれてやってきた!
という噂になっている、ということを。
まあ、院生試験のときに明がつきそっていれば、それを目撃したプロ棋士が面白おかしく吹聴した。
というのもあるのだが。
それがだれかはヒカルは知る由もないが。
アキラの父の門下である緒方、とよばれる人物が面白そうだから、と噂をひろめた、という事実をヒカルは知らない。
「あ、ごめんね。おどろいた?私は奈瀬明日美。よろしく」
「え、あ。進藤光です。よろしくおねがいします」
「う~ん、たしかにかわいいけど」
「ねえねえ。その髪って地毛?」
何だかあっという間に女の子に囲まれているのは気のせいではない。
「え?あ、うん。よく染めてるってまちがわれるけど」
しかし、顔つきも整っており、ヒカルの瞳も薄い淡い色であるがゆえに黙っていればハーフにみえなくもない。
「あ、進藤さん、きたね。こっちに。はいはい。みなさん。注目~。
  今日からみなさんの仲間になります、進藤光さん、小学六年です。仲良くしてあげてくださいね」
「「は~い」」
女の子陣に囲まれていたヒカルに気づき、院生師範だ、という篠田という人物がヒカルを手合い場の中にとうながしてゆく。
未だ手合い開始時刻にはなっていない。
その間、ヒカルに簡単な説明をしていっている篠田。
「わかったかな?進藤さん?」
「はい」
『私もわかりました♪』
ヒカルが納得しなくても佐偽がなっとくすればどうにかなる。
そのつど、佐偽が訂正を入れていけば問題はないのだから。
「え~と、今日の君の相手は、内山さんって子だね」
「はい」
いいつつ、ヒカルに手合い表を手渡す篠田。
とりあえず初めて、というのもあり一応初心者には手合い表、というものが手渡される。
それ以後は自分で確認するようになるのだが。
一通りの説明がおわり、対局相手、という女の子に挨拶をしているそんな最中。
「あ、いた。進藤さん」
「あれ?塔矢君。どうしたの?」
ふとみれば、何やら手合い場をきょろきょろとのぞいている見慣れた顔が目にとまる。
どうやらヒカルを探していたらしく、ヒカルの姿をみつけると何やらこばしりでかけよってくるが。
アキラの登場によりにわかに手合い場が騒がしくなっているのをヒカル的には多少首をかしげるものの、
それでもまさかアキラがきたから、というので騒がしくなっている、というのはまったくもって気づいていない。
「これ、さっきわたしわすれてたから。これ、帰りのタクシー券ね」
「え?いいのに。こんなの」
「そうはいかないよ。おばさんから君のことを頼まれたのもあるしね。
  何なら君の手合いがおわるまで僕、まっててもいいけど」
ざわざわざわ。
ねえ、あの子だれ?
かっこいい!
というか、あれって噂の塔矢明じゃない!?
何だか院生の子供たちがざわめきをます。
「ん?何だ。塔矢君じゃないか。どうかしたのかい?」
「あ、こんにちわ。篠田さん。いえ、進藤さんにわたしわすれてたタクシー券もってきたんです。
  棋院についたら進藤さん、さっさとタクシーおりちゃったから」
騒ぎをききつけてみてみれば、何やら今日はいった進藤光という女の子と話している男の子の姿が目にとまる。
知らない子ならばいざしらず、おそらく知っているものならば確実にしっているその容姿と名前。
そういえば、試験のときにも彼は何かついてきてたっけ。
そんなことをおもいつつ。
「なるほど。でももうすぐ手合いが始まるから、みんなの気がちってしまうからね。
  そもそも君の棋力だとみんなのみても意味ないとおもうよ?」
彼がすでにプロに匹敵する力をもっている。
というのは篠田とて知っている。
どうしてこの彼がこの子を気にかけているのかはわからないが。
まあ、何かがあるんだろう。
その程度。
噂をしらないわけではないが、調べてみれば噂の出所はあの緒方棋士である。
彼ならば面白おかしく吹聴しかねない、というのも篠田はよぉぉく理解している。
「塔矢くん、わざわざありがと。だけどだいじょうぶだよ?
  それに塔矢君も忙しいだろうし。今日はありがとね」
「あ、いや…」
にっこりほほ笑まれれば何かこそばゆいような感覚におちいるのはなんでだろう?
そんなことを一瞬おもいつつも言葉につまるアキラである。
「じゃあ、また何かあったら遠慮なく相談してきてね。君の周り詳しい人まったくいないみたいだし」
事実、光の周りに囲碁界のことに詳しいものはまったくいない。
「では、篠田さん、失礼します。進藤さん、またね」
「うん。今日はありがと」
何やら周りが騒がしいけど、何でかな~?佐偽?
『さあ??』
まさか噂が一人歩きしている、などと夢にも思わず互いに首をかしげているヒカルと佐偽。
アキラがわざわざヒカルに会いにきた、というこの事実は。
院生仲間たちにある警戒をあたえてゆくことになるなどとは、ヒカルは知る由もない。


のような感じでv
アキラ、ヒカルが院生生活初日にわざわざタクシーでおくっていってあげてます。
理由は、五月という季節がら、変質者が増えてる、という美津子の心配もあって明子に相談がいったところ、
アキラがじゃあ、試験申込するからついでに、という話の流れになったという。
ちなみに、なぜ女の子に囲まれたのか、といえば。
女の子はどうしても噂話やコイバナが好き、というのが定番ですから(まて
こののち、ヒカルがアキラにまったくもって普通の友達感覚しかない、というのがわかりますけど。
アキラのほうははたからみてたらそうではない、と勘のいい子はきづきますからねぇ(笑
ちなみに、ヒカルはアキラのことを、石をもったこともなかった私相手に親切に対局してくれたひと。
というようにいってたり。
…ま、まあ嘘ではないんですけど…ですけどねぇ(苦笑
よもやそれを佐偽がうった、などと夢にもだれもおもわないv
おもしろいのでこの院生仲間さんの中に、海王囲碁部にかよってる生徒の兄弟がいることにしてみたりv(まて
噂、というのもは一人歩きをしておひれがつきまくるのが宿命なのですよ。ふふふふふ♪(だからまて
何はともあれ、ではまた次回にてvv

2008年9月6日(土)某日

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