まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

ちなみに、敬老の日は何だか上の意向でどうも九月の第三月曜日になってるみたいですけど。
(2009年以降)これはそのままでいっております。あしからず…
何とぞご了解くださいな~
うにゃ!?
公式設定資料でアカリの誕生日が五月十七日でした…
でもな~、も、他の日に設定しちゃったし(汗
しかし、らっき~♪
対局の履歴が公式設定集にのってたv
…多少組み換えとかしてがんばろう…(汗
というわけでぼやきつつもいくのです。

#####################################

「ほほぉう」
ばさっ。
棋院に立ち寄り、今朝発売の新聞を手にとる。
「どうなさいました?桑原先生。何かおもしろいものでも?」
めったに販売コーナーに立ち寄ることのない彼だというのに珍しいこともあるもの。
それゆえに首をかしげつつも問いかける。
「プロ試験の結果がのっておるんじゃよ」
「プロ試験?」
そういえば、今年の試験が昨日、終わったはずである。
去年はもうプレーオフにもつれこみながら、試験は十月中盤までさしかかってしまったが。
「あのガキ、さすがにうかっておるの。ほほほほほ」
「?あれ?この子、たしかこの春の若獅子戦の優勝者じゃあ?」
桑原がみている場所に視線をおとすとどこかでみたことがある子供の写真がのっている。
あとの二人はみたことすらないが。
「そうじゃよ。進藤とかいうこぞうじゃ。一度すれ違ったことがあるんじゃがの」
「すれちがった?」
「そう、ちょうどそこじゃ。ちょうど去年の今ごろ…いや、十月じゃったかの?
  わしがエレベーターからでてきたら院生らしい小僧どもがいっぱいおっての。
  そのときにな、ちょっとこの子にただならぬ気配を感じての。わしの勘も捨てたもんじゃいて。ほほほほ」
あのあと、院生で初の優勝者が誕生した。
写真をみてみればそのときの子ども。
自分の勘もまんざらではない、とほくそえんだものである。
「やはりこやつが、緒方や塔矢がいっていた新しい波か、ほほほ。たのしくなりそうじゃて」
「ただらなぬ気配。ですか。それはたのしみですね」
「おお。ほんとうに楽しみじゃて。ほほほほほ」
じゃが、まだまだ若いものにはまけてはいられんわ。
塔矢の息子に続いて新しい波。
これから囲碁界はおそらくどんどん楽しくなってくる。
だからこそ碁はやめられない。
終わりのない果てしなき道だからこそ――

星の道しるべ   ~九月の布石~

九月十五日。
水曜日。
水曜日、とはいえ敬老の日で一応は基本的には世間一般ではお休みの日。
「…というか、何でこうなるのかなぁ?」
おもわずぼやくヒカルは何も間違ってはいないであろう。
一応ヒカルとてその籍は今だに囲碁部在籍扱い、とはなっている。
部活動をしているかどうかは別として。
この十一日に試験がおわったばかり、だというのに。
『何かなつかしいですねぇ~、これ』
「そういえば、先輩はこれでひっかかって囲碁部にはいったんでしょう?」
「誰がいったんだよ?そんなこと」
「三谷先輩が以前、筒井先輩から聞いたことがある、と」
小池は時間があわないせいかいまだに筒井にはあったことがない。
それでも、今回のこの創立祭にて、ヒカルとともに模擬店をだせることがとてもうれしいらしく何やらハイテンションとなっている。
「あ~。ひっかかった、というのかな~?あれって?」
そもそも、佐偽がめざとくみつけて、さらに塔矢名人の棋譜集の本がほしかったらしくて挑戦してみたのに。
まさかその結果、中学の大会にひっぱりだされ、そこで塔矢にあって、それから友達づきあいが本格的に始まる。
とはまさか夢にもおもっていなかった。
「しかし、秋っていってもきついぞっ!」
さすがに秋とはいえまだまだ残暑は厳しい。
そんな中、テントもなしに模擬店をだすのはかなり厳しいような気もしなくもないが。
日曜日の午前中にアカリが訪ねてきて、
「せっかく合格したんだから、囲碁部のためにひとはだぬいでね♡」
そういって有無をいわさずにヒカルを納得させた、という事情がある。
どうやらあのあと、模擬店の話になったらしく、ヒカルにやらせればいい。
という話でヒカルの知らないうちにまとまってしまったらしい。
模擬店、とはいっても以前と同じく、長机が一つと普通の机がひとつ。
パイプイスがいくつかあり、もう一つの長机には一応景品らしきものを多々とおいている。
ちなみに、何でも今回の囲碁部の模擬店の売りは
【あなたもプロの指導碁を一度うけてみませんか?】
というキャッチフレーズであるらしい……
「俺の知らないところでかってにきめられてたけどね…これは…」
ぶつぶついいつつも。
「でも、さすがです!先輩!」
一度に四人から五人、対局ができるようにはなっている。
「いやぁ。さすがだね。君、今年うかったんだって?」
「いやはや。うちの孫にも見習わせたいよ」
ヒカルが指導していたお客達がそんなことをいってくる。
さすが祭日。
あまりお金をかけたくない人々はこぞってここにやってきているらしくかなりの人でが見てとれる。
多面打ちだというのにすべてを指導碁にしてしかも丁寧に解説を加えてゆく。
つまりそれは一面、一面の局面をすべて覚えている、ということにすぎないのだが。
最も、佐偽が面白がってやりたがるのでヒカルはとりあえずこの対局は佐偽にと任せっきりだったりするのだが。
合格したことを証明するためにご丁寧に新聞までクリアファイルに入れておいてあったりする念の入れよう。
とりあえず、景品を配る局面はヒカルにまかせるわ。
そこまで丸投げでいきなり大任のようなものをまかされてもかなり困るというのが本音。
それでも、まだ受けたのは佐偽がものすごく乗り気になったがゆえ。
まあ、品物もポケットテッシュから簡単なものばかり、なのであるが。
せっかくなのでならば、というので簡単なホッチキスのみで止めただけの本ではあるが、
家にて表紙をパソコンでつくり、簡単な冊子をいくつかつくっていたりするヒカル。
そこには、【心に残った棋譜集】という題名がつけられているのだが。
よもやそのほとんどが佐偽との対局の棋譜である、ということはおそらくよくよくみなければわからないであろう。
ちょうど、アキラがまだヒカルの家にいたときにアカリが訪ねてきたこともあり、
アキラもまた面白がって自分も手合いがおわったら参加するみたいなことをいってきた。
昨夜、とりあえず碁をたしなむものならば喜ぶかも、というのでわざわざ塔矢行洋のサイン色紙までもってきていたりする。
「ねえねえ。君、これ、本ものなの?」
ぱっとみただけでは本ものなのか偽物なのかはわからない。
「塔矢自身がもってきたから本ものだとおもいますよ?」
何でもアキラいわく、葉瀬中でおもしろいことをやるらしいので、景品に何かないですか?
といったところ、明の家からもかなりの品が回されてきているのも事実である。
何でもまったく使わないから…という理由で。
ある程度の品々は、かなりいい品だから、というのでバザーの出し物のほうにとっていかれてしまったが。
まあ、偽物をわざわざ景品などにはしないではあろう。
「先輩。それじゃ、相手につうじませんよ。えっと、塔矢名人の息子さんがもってきてくれたらしいんです」
「おお、あの塔矢ジュニアか。君、友達なの?」
「え、ええ。あいつは昼からくるとかいってましたけど?」
今日は何でも対局が一局ほどあるらしい。
それがおわったらすぐに合流する、とはいってきたが。
しかし、海王中に在籍している彼に手伝わせていいものなのであろうか?
『たしか手合いが終わるのが二時過ぎとかいってましたっけね』
「まあ、来るのは三時以降になるとはおもいますけど」
ちなみに、残った品々などは生徒たちでわけあうことになっている。
「よっし!なら挑戦してみるかっ!」
何でもちょうどそのことを伝えたときに研究会のまっただ中であったらしく、
面白がった他の棋士たちもこぞってサインを色紙にかいた、という逸話があることをヒカルは知らない。
サインの名前をみただけではヒカルは誰がだれやらまったくもってわからない。
表にはだしていないが、挑戦した人々用に研究会に参加していた棋士全員の寄せ書き色紙があったりする。
どうやら悪乗りしてそれぞれがそれぞれにいろいろと名前や一言、かいてみたらしい。
めったに塔矢門下の研究会ではそんなお遊びのような感じにならないがゆえに、かなりハメをはずした。
という内情をヒカルは知らない。
まあ、色紙が足りなくなったら好きな品物を変わりに渡すのでもいっか。
というので一応、朝、開くときに一緒にやることになった一年生の部員、小池とともに打ち合わせで決めている。
「えっと、じゃあ、どのレベルのを挑戦しますか?」
どうやら指導碁をうけていた全員が挑戦してみる気になったらしい。
ひとまず、一年生の小池でもわかるように一応、棋譜は作成してレベルごとにと渡してある。
まあ、当日、さららっとノートに書きあげて、初級、中級、上級、最上級。
それぞれごとの棋譜と答えを書いているので初心者でも石くらい並べることは可能。
「わしは上級レベルをいくぞ!色紙目当てに!」
それでなくても、本物なのはおそらくまちがいはない。
ならば囲碁仲間にあの塔矢行洋のサイン色紙をもっている、といえばかなり自慢できる。
「わしも!」
「わしも!」
「…塔矢のおじさんってそんなに有名なのかなぁ?」
おもわずヒカルがぽそっと本音を漏らしていたりするのだが。
そりゃあ、何か五冠をとるかもしれない、とはアキラからきいてはいる。
だけども実力のあるものならばいくらタイトルをとっても不思議ではない。
ヒカル的にはそう実感しているのも事実。
…まあ、横に佐偽、というとんでもない存在がいるがゆえの感覚なのだが。
それはおそらく誰にも理解されることはないであろう……

ざわざわざわ。
「…えっと、何これ?」
「あ!塔矢!ちょうどいいところにっ!」
午前中の噂が噂を呼んだのか、いつのまにか二人ではさばききれないほどに人だかり。
仕方ないので少し席を離れて学校の電話から和谷の家に電話してみたところ、
たまたま和谷もまた家にいたらしく、何かおごるから、という名目で和谷すらをもひっぱりだした。
それでも三人。
どんどん増えてゆく希望者をどうにか三人でこなしている最中、鴨がネギをしょってやってきた。
指導碁兼詰め碁をやるとかいっていた模擬店。
中学の模擬店なのでそれほど有名ではないはずなのに、手合いがおわりきてみればかなりの人だかり。
様子をみにきてたアカリたちをも巻き込んで、とにかくひたすらにひとをさばいていても人ではたりない。
「…何、この人だかり?」
とりあえずのどがかわいているかも、というので飲み物くらいはかってきた。
面白そう、というので芦原もアキラとともにくっついてきていたりするのだが。
「それがさ~。おじさんの色紙を景品にしてた詰め碁。それ挑戦した人達にお前からもらったほかの人たちの色紙。
  あれ挑戦した人に参加賞でくばってたらいつのまにか人がふえちゃって……」
それでも模擬店の規模が小さいがゆえにそれほど人は捌けない。
それでも今だに手にいれられた人がいない、というのがさすがといえばさすがであろう。
ヒカル的にはそれほど難しくない詰め碁のつもりでも、他の人からしてみればものすごく高いレベルの詰め碁である。
それゆえに正解できるものがいなかったりするのも事実。
「あ~…なるほど。だけどそろそろつきてるんじゃないの?」
「うん。だから、ジャンケン状態?」
「…なるほど」
何でも色紙の残りが少なくなったので、色紙がほしい人はジャンケンの勝ち抜き戦となっているらしい。
何かとことんはじめの主旨から外れているような気がするのはおそらく気のせいではないであろう。
一応、この創立祭りは五時まで、と決まっている。
四時を過ぎたあたりから他の出店などは片づけなどが始まっている最中。
ここのみ人だかりができているのもかなり目立つ。
「そういえば、まだ父の色紙はのこってるみたいだね」
みれば今だに塔矢行洋の色紙はのこっている。
「うん。何かみんな詰め碁、こたえられなくてさ~」
「…どんな問題にしてるの?」
「これ」
いいつつも、佐偽とともに考えたそこそこ高レベルであろう詰め碁のノートをアキラにと手渡す。
「…進藤、これ絶対に素人にはむりだよ……」
まあ、誰もが簡単にこたえられるような問題ではたしかに一番いい景品をいくつも用意するわけにもいかない。
「ま、とにかく。僕もあと少ししか時間ないけど手伝うよ」
とりあえず、このいつのまにかヒカルいわく増えている、という人々をさばくべく、
アキラもまたヒカル達囲碁部にと協力してゆく。
しばし、そんな光景が、ここ葉瀬中の創立祭りがおこなわれている一角において見受けられてゆく――

九月二十日。
ヒカル、十四歳の誕生日、である。
佐偽と出会ったのが十二の誕生日を迎える前。
そう考えれば佐偽とであって丸々二年が経過したことにとなる。
今年は二十日は月曜日にとあたるがゆえに一応は平日。
「え?ネット教育?」
「うん。君が気にしてたからいろいろときいてみたらさ。
  最近はけっこうネットで勉強してる人達、多いみたいだよ?」
学校がおわり、帰路につこうとしたところ、門の前にてまっていたアキラ。
先日、ヒカルに相談されたこともあり、先輩にあたるプロ棋士にいろいろと聞いてみた。
プロ棋士の中にはプロとして活躍しながら大学にまでいっているものや、
はたまた特殊な資格を所得するものも多々といる。
最近は、ネット、という世界規模の通信システムができているがゆえに、パソコンを使った勉強をしているものも少なくない。
「はい。これがアドレスだって」
とりあえずめぼしいアドレスを記入してきた。
ネットならば家にいながらさまざまな通信教育が受けられる。
在宅ながらに資格を所得することすらも。
「サンキュ~、塔矢」
アキラの後ろではタクシーが一台ほど用事がおわっているのをまっているらしく常に待機状態。
「でもお前も忙しいんだろうに、わざわざごめんな」
「気にしないで。ついでだし。じゃ、またあとで」
「うん、またな」
たわいのない会話ではあるものの、忙しい相手を引き留めるほどヒカルは空気が読めないわけではない。
そんな会話をかわしつつも、ヒカルはアキラとわかれ、帰路にとついてゆく。


九月二十三日。秋分の日。
「ええ!?伊角さんが院生をやめた!?九星会も!?」
寝耳に水、とはまさにこのことかもしれない。
「ああ。普通卒業するのも三月まではのこるのに」
「九星会ってたしか伊角さんがずっとかよってた囲碁道場だろ?何で?」
まさか、あのときの一局のせい?佐偽?
『そんなことはないとおもうのですけど…
  もしかしたら、彼は……一人になるのも時には必要、そう判断したのかもしれませんね』
「?一人になるのも必要?」
何それ?
思わず佐偽のいっている意味がわからずに声をだす。
「ん?何だ。進藤。お前まで篠田先生とおなじようなことをいって」
そんなことはまだ和谷は一言もいっていない。
それゆえに篠田師範とおなじことをいったヒカルを思わずきょとん、として見つめる和谷。
「あ、いや。でもさ。伊角さん。院生も九星会もやめてこれからどうする気なんだろう?
  …まさか、もう碁をやらない…とか……。和谷、何かはなした?」
あのときの一局がまだ尾を引いている可能性もあるかもしれない。
だからこそきになってしかたがない。
越智との対局で持ち直したように見えたけど……
伊角さんはまじめだからなぁ。
もしかしたら手が離れている状態でも俺が気にせずに打ち続けようとしたのが気になってるのかもしれないし。
だからといって、手がはなれたよね?
というような空気がよめないヒカルではなかった。
だからこそ、あのときあのまま打ち続けることを決断したのは後悔はしていない。
「いや、電話とかかけにくかったしな。この十九日の院生研修日にちょっとのぞきにいったんだ。俺。
  そうしたら篠田先生から伊角さんがやめたことをきいたんだ。
  篠田先生はそのほうが伊角さんにはいいかもしれないって」
「何それ!?」
『おそらく。自分を冷静に見つめよう、そうおもったんでしょう。彼は。
  ですけどおそらく彼は納得していないとおもいますよ。
  自分の碁がここまでのものだ、とは絶対におもっていないはずですし。
  私もまだまだ、ですしねぇ~…神の一手は遠いです……』
お前がまだまだ、っていうんなら俺はどうなるんだよっ!
横で溜息をついてつぶやく佐偽におもわず心の中で突っ込みをいれる。
「先生がいうにはさ、そうして自分を冷静に見つめたほうがいい、って。
  九星会や院生をやめても対局だけが碁の勉強ってわけじゃないし。
  伊角さんのレベルならば棋譜を並べるだけでも十分に勉強になる。
  一人になることは時には必要だ。…だってさ」
…先生も佐偽とおなじようなこといってる。
「自分を冷静に?」
「よくわかんねぇけどな。だけど、先生はこうもいってたんだ。
  『伊角君は納得していない。来年もくるよ』って。
  マジ顔でさ。『自分の碁がここまでのものだ、とは彼は絶対に思ってもおらず納得していまい』って」
「…そんなもの?」
ほとんど佐偽とおなじようなことを先生もいったっていうことは。
佐偽と、そして和谷に確認のためにと問いかけると、
『ええ。彼はおそらく来年、くるでしょう。私にも覚えがありますねぇ。
  一時、とにかくひたすらに周囲をたちきって碁ばかりをやってて、義父に心配かけましたっけねぇ~』
何やらかなり思いで話しが長くなりそうな予感がひしひしとする。
ヒカルがそんな思いを抱いているなど当然気づくはずもなく、
「よくわかんないけどな。ま、そのあと。
  『伊角君のことは伊角君のことにまかせておいて。和谷君。君はキミで今まで以上にがんばらないと!』
  っていわれちゃったよ」
『それはヒカルにもいえることですね』
確かにそうかもしれないけどさ。
だけど、伊角さん、気になるな……
しばらくその場で考え込むヒカルをみつつ、
「それよりさ。今日はお前に記録係りの仕事を教えてやろうとおもってきたんだ。
  お前、院生の中ではやったことなかっただろ?」
数年、院生生活をしていたらいやでも順番はまわってくるが。
ヒカルはそこに回ってくる前、たったの約一年ほど院生生活をおくっただけで合格をきめた。
「記録係り?」
和谷の言葉にきょとん、とした声をだす。
「そういうのがあるんだよ。まあ学校いっているやつにはあまり依頼はこないけどな」
「…そ~いえば、最終日、合格したときに塔矢のやつがそんなこといってたな~」
あの日、アキラはヒカルの家にととまり、プロになっての心構えなどをさんざんと口をすっぱくしていわれたものである。
『たしか、プロの手合いは三次予選からひとがついて棋譜をとる、とかいってましたね。
  そのとき時間も入れて普通の棋譜とは違った書き方をする、とも』
ヒカルがいま、つくっている棋譜は新聞などにのっている簡単な棋譜。
公式手合い用のしっかりした棋譜ではない。
「そういや、あの日。塔矢のやつ、おまえん家にとまったとかいってたっけ?
  とにかく、プロの手合いには三次予選からひとがついて棋譜をとるんだ」
「たしか時間とかもつけるとかいってたっけ?」
あのときは意味がよくわからなかったが。
「ほら、これが見本、な」
「…な、何これぇ!?文字ばっかり!?」
おもわず手渡された紙をみて目をテンにする。
そこには文字がずらずらと並べられているいつも作っている棋譜とはとうてい似つかない何か。
そう、何か、としかいいようのない、文字がずらずらと並べられている紙が数枚。
『おやまあ』
「だから、一手に何分かけたとか、その合計、とか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
『…ヒカルには無理のような気がするんですが。こんなの』
「あと、秒読みもあるしな」
「…だぁぁっ!塔矢がいってたのこれかぁぁ!時間あるときみっちり仕込むとかいってたのはぁぁ!!」
わかっていないらしいヒカルをみて溜息をつき、時間がとれた日に君にみっちりとしこむ!
といっていたのが記憶にあたらしい。
「というか、和谷。お前はこんなのやれるのか?!」
「やれるよ」
「何でお前がこんなのやれるんだ?!」
「何だと!?ま、塔矢のやつがお前に仕込む、っていうんだったらあいつに習っといたほうがいいぞ。
  知らないだろう、とはおもったけどやっぱり知らなかったか~」
…篠田先生にいわれてもってきて正解だったぜ。
【あ、和谷君。たぶん進藤君って手合い時間を記入する棋譜、絶対に知らないとおもうから、
  それとなく教えておいてあげてくれないかな?…彼の周囲にはそういうことを教える人がいないからねぇ】
あのとき、もう一つ篠田から頼まれたのがこれ。
「…こんなことで俺を呼びだしたのかよ~…あ~、ぐちゃぐちゃしてくる。数式とか化学式とは違うしなぁ~」
「おまえ、そんなのがわかるくせに何でこれがごちゃごちゃにみえるんだよ」
そもそも、あんな摩訶不思議な公式や化学式などがこんがらがった問題を解けるというヒカルのほうが、
和谷からすれば不思議でたまらない。
「おぼえないとだめなの?これ?」
「あのな~!あたりまえだろ!?春からプロなんだぜ!?俺もお前もっ!
  というか、お前のためにオレがきてやってるんだぜ!?わかってんのか!?」
「う~、春までにとにかく勉強を集中しようとおもってたのに~。おこずかいあやしいし」
『あはは。まあまあ、ヒカル。私が覚えますから。一緒に覚えましょ?ね?
  何だかこういうのをつけるのも楽しそうですし』
ヒカルにできなくても、佐偽が覚えていればどうにか横で口出しして補える。
そんなヒカルのようすをみて、もはや呆れるというよりは唖然としてしまう。
そもそも、すでにプロ試験に合格した、というのにやはり知らなかったか。
というようなヒカルであるがゆえの無知具合は健在、ということなのであろう……
「う~…あ、それよりさ。プロは対局だろ?対局!塔矢と俺って公式試合でいつやれるのか和谷、しらねぇ?」
「知るか!塔矢明本人にきけっ!」
自分にきかれてるわかるはずがない。
それならばプロになっている彼ならばすでに一年間の対局表は先にともらうはず。
それゆえにおもわず言い返す和谷であるが。
「いろんな人とあたるんだろ?和谷とか、冴木さんとか、そういえば塔矢のおやじさんともやるのかなぁ?」
ふと、おもいついたように首をかしげてつぶやくヒカルに対し、
「…塔矢名人をそうよぶのはおそらく世界中をみても絶対におまえだけだよ。
  それに、いっとくけど。普通はトップの人との対局なんて五年は先だぜ?…普通は、だけど」
こいつの場合、一年もたたずにいきそうな気はするけど。
という言葉は何とかのみこみ溜息をつきながらもヒカルに説明する和谷。
「ずっと勝ち続けててもだめなの?ねえ?」
『そうです!強いものとの対局!それにあのものとの対局もできるのですか?!
  なぜかいつも塔矢邸にいってもあのものと時間があわずにすれちがってばかりなんですよ~!!』
ものの見事にヒカルに続き佐偽の台詞もその言葉にかぶる。
佐偽からしてみれば、塔矢行洋という人物と打ちたくてたまらないのに都合がつかない。
それが焦りとなって表れている。
「そりゃ、まあ。ずっと勝ちつづけていればいずれはトップまでいきつくけどさ。
  現実は無理だぜ。四段以下のプロなんて二次予選までがせいいっぱいだ。
  お前さ、いまだに師匠いないんだろ?森下先生もきにかけてたぜ?」
師匠がいない状況では何かとつまづくことも多々とでてくる。
そんなときは和谷、あいつをとにかくここにひっぱってこい!
あんなやつがつぶれるのも何か癪だしな。
そういっていた森下師匠の言葉が脳裏をよぎる。
「え?あ、まあ…」
師匠、ねぇ。
佐偽がいるけど。
佐偽の場合は師匠、というか身内みたいなものだしなぁ~…今だにかなわないけど。
「でも、たしかに。塔矢のおやじさんの塔矢名人とは、いっつも何か間がわるいんだよな~。
  何でか塔矢の家にいってもいつもおじさん、いないし」
そう。
まるで何かが邪魔をしているかのごとくに。
「まあ、塔矢名人は対局多忙、だしな。休みの日なんてまずないだろうし」
しかも、日本全国、さらには世界各国まで飛び回っているのが現状である。
そんな中で時間が有り余っている…というほうが普通どうかしている。
「あ、だけどさ。一応はつながってるんだよな?塔矢や塔矢のおやじさんにも。
  もう同じ世界にいるんだしさ。いつかは対局できるんだよな!?桑原の爺ちゃんにも!」
「おまえな~!調子にのるなっ!というか桑原先生を爺ちゃんよばわり…って、お前恐ろしいことすなっ!」
「でも、前みた今の本因坊とかいうあの桑原ってひと、爺ちゃんだったじゃん?」
「……は~……。お前なぁ。まあ、塔矢名人や桑原先生はともかく。
  まあ、塔矢明となら早いうちに対局できるんじゃねえか?あいつもまだ低段者。二段だし。
  でもとにかく対局相手は抽選できまるからなぁ~」
「抽選、かぁ。…俺、運ないからな~」
「そういえば、白川先生や森下先生とも真剣勝負ができるんだ?かってってたら?」
「だから!高段者とは対局はずっと先!
  いっとくが、先生曰く、真剣勝負のときと研究会の手合いとでは、まったく違うらしいからなっ!」
もっとも、ヒカルをつれていった研究会の手合いにおいても真剣になるらしく、
そばにいる和谷ですらその空気にのまれそうになってしまうこともしばしば。
そういうときは対局しているのはもっぱら佐偽なのだが……
『つながっているのはヒカル…なんですよね…』
そんな会話をききつつも、横でしゅん、となる佐偽。
佐偽とて公式手合いをつぶしてまでヒカルに打たせてほしい、とはさすがにいい難い。
打ちたいのは山々なれど、…のっぴきならない相手以外でない限りは。
ま、それに関しては考えてることあるからさ。佐偽。
『え?』
へへ~、そのときまでのお楽しみ♪
『ヒカル、ヒカル!?何なんですか!?ねえってばっ!』
「?どうかしたのか?お前、何か体ががくがくしてるぞ?」
ヒカルの体がいきなりがくがくと動いているのをみて首をかしげてといかける和谷。
「え、あ、何でもない。ちょっとトイレいきたくなってさ!」
「…はやくいってこいよ。みじろぎしだすってことはおまえ、だいぶがまんしてるな?」
「あはは…」
佐偽!おまえ、いきなり体をゆするなっ!
お前の姿は俺にしか視えてない以上、はたからみたらいきなりがくがくしだしたとしかうつらないんだぞ!?
『だって、だって、ヒカルが意地悪するからぁ~!!』
「じゃ、ちょっといってくるわ」
いいつつも、席をひとまず立ちあがる。
『ヒカル、ヒカルってばぁぁ~!』
「ああもうっ!」
抱きつくなっ!体ゆするなぁぁ!
「…あいつ、それほど我慢してたのか?」
真実は佐偽とじゃれあっているのであるが、はためにはヒカルの姿しかそこにはない。
それゆえに、どうしてもトイレを我慢しているがゆえにがくがくと体をゆすっているようにしか傍目にはみえない。
そんなヒカルの姿をみおくりつつ、ぽつりとつぶやく和谷の姿が、その場において見受けられてゆく……

「おまえ!今ごろ合格の報告かよっ!こっちはとっくにしってるってば!」
ぐしゃぐしゃ。
「こんにちわ。前はどうもありがとうございました」
横のほうにて河合に頭をぐしゃぐしゃされているヒカルを横目でみつつ、マスターにぺこりと頭をさげている和谷。
バーガーショップにて簡単な昼食を済ませ話しをしたのち、二人でやってきたのはここ、碁会所、石心。
「おせ~んだよ!もっとはやくこい!おまえが合格できたのも俺のおかげだろうがっ!」
「って、何で河合さんのおかげなんだよっ!」
あはははは。
そんな彼らをみつつもその場にいたお客達から笑いがおこる。
「?何?試験に合格?」
「ああ、寺内さんは進藤君たちをしらないんだったっけね。
  彼らはときどきここにきては打ってた院生の子なんだよ。この間のプロ試験で二人とも合格してね」
石心のマスターが、首をかしげていた寺内、という人物に説明する。
「なぁにぁ!?オレのおかげじゃないだとぉ!?」
「河合さん一人のおかげじゃないやいっ!」
そんな彼らの前ではいまだに河合にヘッドロックまでかけられているヒカルの姿がみてとれる。
「ちょっと前の週刊碁にプロ試験の結果がのってるよ。…ああ、これだ、これだ。はい。寺内さん」
「へ~、進藤光くんに、和谷義高君、か。すごいねぇ」
年齢をみれば十四と十五、である。
寺内、とよばれた人物はそこにかかれている内容と、その場にいるヒカルと和谷をみくらべて素直な感想をもらす。
まだ中学生だ、というのに。
自分の孫とさほどかわらない年でもある子供たち。
そんな彼らがプロの世界に足を踏み入れたというのはかなりすごい。
プロなんて雲の上のこと、とおもっていればなおさらに。
めったに本物のプロ棋士と出会うことすらないのだから。
「いいか!おまえ、タイトルとったら、今の自分があるのは河合さんのおかげです、っていうんだぞ!?」
「何だよ?!それ!いうんだったら佐偽のおかげっていうやいっ!」
日々、佐偽に教えを請うているがゆえに、確かにヒカルがいまあるのは佐偽の存在のたももの、ではある。
『ヒカル……』
そんなヒカルの言葉に思わず感激せざるを得ない佐偽。
「ネットの顔もわからないやつをひきあいにだすなっ!」
「sai、かぁ。いまだになぞのネットの中の打ちて、らしいよね。彼は」
「しかし、タイトル。か。塔矢名人みたいに四冠くらいとっちゃえ!」
「いやいや、もうじき五冠になるって」
「?五冠?塔矢のおじさんが?」
「第一局、二局と連勝したから可能性はたかいよ」
『たしか、王座戦、とは塔矢がいっていましたけど、五番勝負で三勝すればよかったんですよね。ヒカル』
「じゃあ、あと一局で王座とかいうタイトルもとるんだ」
「その合間をぬって、天元の防衛線もやってるし。大変だよな。塔矢名人も」
「そういえば、囲碁もオリンピックの競技にきまったんだったっけ?」
『おりんぴっく?何です?それ?』
「そうなの?和谷?」
「お、ま、え、は!しらなすぎ!まだ正式ではないけど、そんな可能性もでてきてるって話しだぜ?」
「ふ~ん」
とりあえず、佐偽。オリンピックに関しては家にかえってからネット検索して丁寧におしえてやるから。
言葉だけでは説明しがたい。
それよりもネットで検索してそのとおり、佐偽にみせたほうがてってりばやい。
ひとまず、お世話になったこともあり、和谷とともに合格報告を兼ねてやってきたヒカル達。
祭日、ということもあってか人数はまばら。
ヒカルがいままでみたことのない人の姿も垣間見えるようであるが。
「しかし、ま、せっかくきたんだ。ゆっくりしていきなよ」
「あ、でもこの後、俺、こいつをつれて出かけるので」
「?どこにいくの?和谷?」
「森下先生がお前をつれてこいっ!っていってんだよっ!
  お前、師匠がいないから基本的なことくらいはみっちり教えるとかいってたぜ?」
「え~?森下先生までそんなこといってるの?塔矢とおなじこといってるし……」
『ヒカル、いきましょ、ね、ね、ねっ!』
「お前が無知すぎるのが問題だろうがっ!そもそも、お前が何もしらなきゃ、同期の俺達も恥かくのわかってんのか!?」
ヒカルのものすっごくめんどくさそうなそのセリフに、和谷の声が石心の部屋の中に響き渡ってゆく。
たかに、ヒカルの知識のなさは、はっきりいってプロになる前にどうにかしないといけない事項ではあるであろう……


                                -第50話へー

Home   Top   Back    Next

#####################################

あとがきもどき:
薫:何となく、公式設定集をひとまず購入。
  購入にふみきったのは、ネットで書き下ろし漫画がある!とみたからですv(まてこら
  白いフクロウ…いいなぁvあれv
  それをみて、すこし佐偽の過去話しをいれよっかな?とかおもったり。
  たしかに、次期的に藤原家ってかなり栄華を極めまくった時期ですしねぇ…佐偽がいた時代って(しみじみ
  まあ、例のごとくに、小話、ゆくのですv
  実体化佐偽のパターンがつづいたので過去?話しをばvv


「すいません。えっと……」
「市川、よ。でも大丈夫?」
「…何とか……」
とりあえず、いろいろと院生などについても説明をうけた。
それで帰ろうとしたやさき、いつものごとくあまりの痛さに思わずうずくまってしまったヒカル。
毎度のことながら、この生理痛には悩まされる。
アキラは何でも市川というたしか碁会所の受付をやっている女性と一緒にきていたらしい。
あまりに痛いのでひとまず無理をいって保健室で少しばかり休んでいたヒカルである。
ここ、海王中からヒカルがすんでいる地区まではかなりの距離がある。
歩いて帰る、というのはこんなに痛い状況ではかなり無謀。
かといってタクシーを呼ぶほどの余裕はヒカルにはない。
そもそも、小学生がそこまでの大金をもっているはずもない。
助かるのは海王の近くにはコンビニがあり、気をきかせた人物が生理用のショーツを買ってきてくれたことであろう。
『ヒカル、本当に大丈夫なんですか?』
おろおろ、おろおろ……
男性である佐偽からすればこのようなときにはおろおろするしかできない。
「あ、あの、市川さん、ほんとうに彼女…平気…なんですか?」
説明をうけている最中、だんだんと顔色を真っ青にして脂汗まで流し始めたヒカル。
ヒカルが女の子、というのに驚愕をうけていたアキラもそれではっと我にともどった。
気を利かせた生徒がその意味を悟り、あわててヒカルを保健室にと連れて行ったのだが。
これはおそらく同じ女性同士にしかわからない痛み、ではあろう。
「まあ、仕方ないわよね。これも人によるけど。ほんっと、女の子ってそんよねぇ~」
しかも、一度なってしまえばある程度の年齢にるまで、毎月、である。
中にはホルモンバランスの影響で不順に陥る周期のものもいるにはいるが。
基本的には毎月一度。
しかもまだ相手は子供、小学生。
そうなれば未だに不規則でいきなりきてもおかしくはない。
「…予定では来週のはずだったんですけどね……」
とりあえず、若いうちから痛み止めをのむのはあまりよくない。
と母親にいわれているので基本、ヒカルはかなりいたくてもどうにかこうにかこらえている。
「まあ、まだ子供なんだし。仕方ないわよ。あ、家、こっちのほうでいいの?運転手さん、そこを右におねがいします」
「はいはい」
一人で中学にいかせるのも心配だ、というアキラの母親に依頼され、一緒についてきていた市川。
最も、彼女は駐車場にてタクシーの中でまっていたのだが。
助手席に塔矢明、そして後の席にと市川晴美と進藤光。
そしてヒカルの横にはおろおろとした表情をうかべている佐偽。
最も、佐偽の姿はヒカル以外に視えていない。
彼女は何でも今は高校生らしく碁会所にはアルバイトではいっているらしい。
そんなたわいのない会話をかわしながらもヒカルの気をまぎらわそうとしてくる晴美。
それは同じ女性だからこそわかる痛みであるがゆえの配慮。
「あ、ここです。ほんとうにありがとうございました」
そんな中、どうにかタクシーが家の前にとたどり着く。
「おこずかいがでたら必ずタクシー代、かえしますから」
「いいのよ。どうせ通り道なんだから。じゃあ、気をつけてね。
  気がむいたらまたあの碁会所にいらっしゃい。っていっても女の子が入りにくいかな?」
たしかに、回りがおじさん、さらにはお年寄りばかりの中に女の子が一人で入る。
というのはかなり勇気がいることくらいはわかる。
そもそも、親がそんな場所に出入りすることを普通は許さないであろう。
このご時世、何があるかわからない世の中ならばなおさらに。
とりあえずお礼をいってタクシーを降りる。
まだ初日なのにこの痛さ。
今回はどうやらかなり厳しい痛さのようである。
佐偽にもまたそのヒカルの痛さというかつらさがおもいっきりダイレクトにつたわったらしく、
それゆえに心配でたまらないらしい。
「あ、その点は大丈夫です。空手も柔道も段位手前までもってますから」
このご時世なので女性も強くなければ身をまもれない。
という祖母の意見でヒカルはみっちりと幼いころからそういうことも仕込まれている。
「「……そ、そうなんだ……」」
おもわずヒカルのセリフに同時につぶやく晴美とアキラ。
「じゃあ、どうもありがとうございました」
さらに車をおりて再度ぺこりと頭を下げる。
『ありがとうございました』
佐偽もまたぺこりと相手に対してあたまをさげるが、佐偽のそんな様子はヒカル以外には視えてはいない。
そのまま、佐偽とともに家の中にとカギを取り出しはいってゆくヒカル。
今日は母は出かけているらしく、ヒカルは一人で本来ならばお留守番の日であるがゆえに、カギはもっていた。
そのまま家の中にはいってゆくヒカルの姿を見送りつつ、
「みためはわからない、とはこのことよね~、明君?」
「あ、いえ。何でもないです。しかし…段位手前…何か男としてこう……」
ぶつぶつつぶやく明の気持ちは晴美とてわからなくもない。
まあ、たしかに囲碁でもまけて、さらには強い、とくれば男の子の立場としては立つ瀬がないかな?
明君って囲碁ばっかりで体力もないしねぇ。
くすっ。
ふと出会ってまもなくのころの明のことを思いだしおもわず苦笑せずにはいられない。
「あ、運転手さん、次はそこをまわってください」
「はいはい。まいど~」
そんな会話をしつつも、残された晴美とアキラはひとまず碁会所、囲碁サロンにむかってタクシーにて移動してゆく。

「何だ、明君。きづいてなかったのか?」
おもわず呆れた口調でいってしまうのは仕方ないであろう。
「って、緒方さん、きづいてたんですか!?あの彼…いやあの子が女の子だって!?」
気付いていたならば先にいってほしかった。
二度目の対局のとき、彼女にかなり失礼なことをしてしまったような気が明的にはひしひししてしまう。
「手をつかんだときにわかったぞ?」
おそらくそんな判断の仕方は緒方くらいであろうが。
伊達に囲碁界の中においても女遊びで有名、というわけではない。
「何だ。明、きづいていなかったのか?私も話しをしていてわかったが?」
ものすごく真剣に、石の持ち方などを丁寧に聞いてきた。
物腰といい言い回しといい、ズボンを履いていたとはいえ女の子なのは疑いようがなかった。
最近では物騒な世の中になってきていることもあり、私服登校の学校においては、
女の子でも極力スカートを履かさない親が増えている。
それでなくても日々どこかで理不尽な通り魔などが起こりえるご時世。
何かがあったときにすぐさまに動ける格好で、とおもうのは親心、であろう。
「…じゃあ、気づいてなかったのは僕だけ……」
がくっ。
何でもあの市川さんもあの子が女の子ってはじめから気付いてたみたいだし。
たしかに、ヒカル自身をよくよくアキラはみていなかったのであろう。
その圧倒的なまでな力をまのあたりにして、人がらなどはきれいさっぱりと失念していたのも事実である。
冷静に考えればその言い回しなどから女の子、と判断は可能であっただろうに。
「進藤光。か。今までそんな名前はきいたこともなかったがな」
「しかし、明君が並べてくれたこの棋譜をみるかぎりすごい力の持ち主ではありますね」
「打ち方が何か古いような気がしなくもないがな」
しばし、そんな会話が愕然としている明の前にて、彼の父親、塔矢行洋達の間で繰り広げられてゆくのであった。


のような感じで。
中学の大会ののち、自宅にもどったとき、たまたま研究会の延長でのこっていた緒方や父親との明の会話です(笑
このとき、明はヒカルが海王中の三将相手にうった一局を並べてみせていたりします。
それほどまでにすばらしい棋譜並びであったのですから当然、といえば当然ですが。
でも、彼らはそれを指示したのが佐偽である、というのは当然知りませんvあしからず♪
ちなみに、小話的には、41話のあとの小話のその後の話になりますね。時間的にはv
この小話、時間軸が前後しまくっているのはま、小話であるがゆえ、とご了解くださいなv
ではではvまた次回にてv

2008年9月2日(火)某日

Home   Top   Back    Next