まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

どうにか50話を前にしてプロ試験完了しましたけど。
…プロ試験完了まで50話っていったい(汗
原作でいえばまだ12巻なんですけど!?ねえ(滝汗
などと一人、いろいろと頭の中でつっこみをいれつつ、ともあれゆくのですv

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「先生、プレーオフ、ですけど」
「ああ。三敗の伊角君に四敗の本田君。二敗の越智君と和谷君、ですね。
  他にも三敗は吉田君もいますしね」
「これらの対局の結果次第ではありますけど、可能性は高い、ですね」
いいつつも、対戦表を指し示す。
「う~ん。どちらにしても、三敗、もしくは四敗が三つ巴以上になりかねませんねぇ。
  今日の対局の結果次第では」
「そのときは、くじ引きで対局順をきめて、一回戦が明日、二回戦が明後日…と決めてくしかないでしょう」
「ヤレヤレ。大変なことになってますね。ここまでもつれる最終日もめずらしい。
  去年もかなりもつれにもつれましたけどねぇ」
どちらにしても今日、残り二局で今後が決まる。
プレーオフになるのか、それとも今日で三名…否、実質二名の枠がふさがるのか、が。
しばし、棋院の事務所において篠田達によってそんな会話が繰り広げられてゆく。

星の道しるべ   ~プロ試験終了~

「そういえばさ。昨日、saiの偽物がでたんだぜ?」
ぶっ!!
和谷の言葉に思わず吹き出してしまうのは仕方がない。
「偽物!?どういうこと!?」
というか、昨日、俺、ネット入ってないし。
saiでも、laito、でも。
だからこそ聞かずにはいられない。
もう少しで俺、はいってないよ!?
といいそうになるのをかろうじておさえつつも和谷にと問いかける。
「みたらさ。名前はsaiだけどよその国でさ。あれってsaiのこと知って、なのかなぁ?」
和谷は知らないが、その人物は観戦者たちからかなりクレームがきて、
saiのことをまったく知らないままに初心者でネットに入ってきてしまい、
動物のサイが好きなのでsai、にした、という事実を和谷もヒカルも知る由もない。
最も、名前に引き寄せられて国名を確認せずに対局申込した人物はといえば、
すぐさま偽物と気づき、相手に注意を促した。
結果、ハンドルネームをその人物は変えることに同意したのだが。
よもやネットの上でその名前がかなり有名すぎるものになっている、などとその人物は知らなかったのだから仕方がない。
同じハンドルネームでも国が違えば登録が可能。
ちなみに同じ国内でも同じハンドルネームでもどこかが違えば登録は可能。
それがワールド囲碁ネットの強み、でもある。
「そ…そうなんだ……」
偽物がでるほどそんなに有名になってるのかなぁ?佐偽?
『さあ?』
ヒカルたちが互いに首をかしげているそんな中。
「それはそうと、和谷。今どんな気持ち?二局目、フクと、でしょ?
  もし今日一局でも負ければ伊角さんたちとのプレーオフ。しかも最終戦では和谷の苦手なフクとの対局」
「奈瀬~、このやろ、お前、おもしろがってるな!?」
対局場にと移動しながら和谷にとそんなことをいってくる奈瀬。
「伊角さんが負けたりすると自動的に二敗のお前らの合格はきまるけどさ。一勝さえすれば。
  あとは外来の三敗、吉田とかいう人の結果にもよるか」
上位はヒカルをのぞき、ニ敗を守っているのが和谷と越智。
三敗が伊角に吉田。
そして四敗が本田に続き他数名。
「どちらにしても、俺と越智との結果ですべてがきまる、さ」
「今日の伊角さんの相手…って、二人とも外来、かぁ」
どちらにしても対局、というのもはやってみなくてはわからない。
このまま、伊角達が勝ち進めば、それは越智とのプレーオフとなるのだから。

師匠。
「和谷が俺の通い弟子になってもう五年か。いいか、和谷!今年はこれだけ順調なんだ!」
「今年で三回目だっけ?プロ試験。よくやるよ」
「一雄!棋士の息子が何てことをいうんだっ!とにかく和谷!これだけ今年は好調なんだ!
  これでうかんないようなもんならもう破門だからな!破門!」
「もう、あなたったら、そんなにプレッシャーかけてどうするのよ」
「二敗しかしてないんでしょう?もううかったも同然だよね~」
「もう!茂子まで和谷君にプレッシャーかけないのっ!」
昨夜の会話が脳裏をよぎる。
「和谷君、プロになったらおごってね」
「ば~か。普通逆だろ?」
「でも、冴木さんがプロになったときはおごってくれたもん」
「うるさい!おまえたちはあっちにいけ!ったく棋士の息子のくせにそろってへぼ碁しかうてねえでっ!
  せっかくオレがおしえてやったのに」
「向き、不向きがあるんだよ」
「お父さんの教え方がわるかったのよ。いこいこ」
最終日を前にして師匠の家にと立ち寄っていた。
「お前もいつまでこんな弟子をやってるつもりだ?」
ふといわれたあの言葉が胸に痛い。
だからこそ、勝たなければ。
師匠に幻滅をあたえないためにも。
そんなことをおもいつつも、
ぱしっ。
新たに一手を打ちこんでゆく。
さまざまな思いが対局中にとかけめぐる。
が。
く。
勝ちにいきすぎた。
焦りが局面にとでてしまった。
ふときづけば盤面にそのあせりがでてしまったらしく、気づいたら相手の有利になってしまっていた。
いらないことを考えなければ普通にうてたであろうに。
昨日の会話が脳裏をよぎってしかたがなかった。
自分はまだまだなのだ、と自覚せざるを得ない。
「……ありません……」
手堅くいっていたつもりだったのに手堅くいきすぎて、しかも焦りが局面にとでてしまった。
三敗。
福井との対局の前のこの負けは痛い。
それでも対局はまだおわったわけではない。
しばらく局面の前にじっと座り、ふと気付けば休憩時間にとはいっていたらしい。
そのまま、結果を確認しに対局表のほうにと和谷は向かってゆく。

本日の一戦は本田と伊角。
本田が勝ち、四敗を守り切った。
「しかし、本田が割って入ったあの一手がすべてだったな」
対局がおわり、伊角達の対局をみていたがゆえに何がおこったのか知っている。
「一見深入りしすぎのようだったけど、いいとがめ方がない、うまい手よね」
奈瀬もまた気になったので対局をみていた。
そんな彼らの目の前で執り行われた本田と伊角の本日最終日の一回戦。
「あれで八目はそんしたよな」
パチパチパチ。
いいつつも、今の二人の対局を休憩場にて並べている奈瀬と飯島。
「あ~あ、私も人のこといってないで明日につづく碁をうたないとね」
「明日に続く碁…か、どんな明日だよ、おれたちの明日って」
「「・・・・・・・・・・・・・・・」」
こうして検討していてもむなしいだけ、というのはわかっている。
自分たちはそう、今年の試験には確実にもう合格することはできないのだから。

「では、時間になりました。はじめてください」
泣いても笑っても、これが最後の一局。
プロ試験、最終日。
パチッ。
何ともいえない緊張感が手合いの間、全体にと広がってゆく。
ゴロゴロゴロ……
「少し雲行きがあやしくなってきましたねぇ」
コチコチと時計だけが静かに過ぎてゆく。
昼過ぎまではいい天気だったというのに。
さすが九月の空は変わり用が早い。
あっというまに雲がでてきてしかも雷までもが発生しはじめているこの現状。
「ですね。帰りまでもてばいいですけど」
「傘をもってきてない人達もたくさんいるでしょうしね」
朝はきれいに晴れていたがゆえに、傘をもってきていないものは多いであろう。
最も、天気予報をきちんとチェックしていれば夕方からときどき雨、となていた場所もあるので、
そのあたりのチェックがぬかりない人物は問題ないであろうが。
だがしかし、今はプロ試験中。
普段はきにかけていても、そこまで気がむいているのかどうかは…かなり怪しい。

キィ。
「日本棋院の出版社のものです。どうも。合格者の取材と写真をとりにきました」
棋院研修センターの扉をくぐりはいってくる男性二名。
「合格者、ですか。一人はもう決まっていますけど。あとの二人は今日きまるかどうかは」
「そうみたいですね。下手をすれば三つ巴か四つ巴のプレーオフ、でしょ?」
「まあ、まだしばらくかかるでしょうから。こちらでお茶でもどうぞ」
「どうも」
そんな彼らにと事務室から声をかけている一人の男性。
そんな彼にと促され、彼らもまた事務室の中にと足を踏み入れてゆく。

ちらっ。
時計をみれば四時前。
おそらく最終戦がすでに始まっている時刻。
「いやぁ、私もまだまだ勉強不足だ」
「いえ、とても筋のよい碁でした」
「ありがとうございました」
アキラが担当していたのは二名。
今日は棋院主催の指導碁の大会。
やってきた一般のお客に指導碁をうってゆく、という単純な仕事。
アキラがいま指導碁をうっていたのは二人のみ。
そのうちのひとりが席を立ちあがり、アキラに挨拶してその場を立ち去り、残りの一人もすでに終局。
「そうそう。お父様の名人防衛、おめでとうございます。お父様に負けずがんばってください。応援していますよ」
どうしても、塔矢行洋の息子、という世間の目はどうしようもない。
それでもその気持ちを表にだすことなく、笑みをうかべ、
「はい、がんばります」
相手にたいしてにこやかにと話しかけるアキラの姿。
どうしても、一人の棋士、としてでなく父の息子、というしがらみがずっとプロになってもアキラの元にとついてまわっている。
そうみないのはおそらくヒカルくらいであることもアキラは十分に自覚している。
「今日はどうもありがとうございました」
挨拶しつつ、男性もまたその場をたちさってゆく。
次のお客がくるまではとりあえず休憩時間。
と。
「あ、塔矢くん」
「あ、天野さん」
ふとみればアキラに近づいてくる週刊碁の記者でもある天野の姿。
「ちょっといい?取材したいんだけど?まだ連勝続いているよね?今15くらい?
  一度倉田さんにはじめのころに負けたけどそれ以後連勝続きだし。
  連勝記録といえば倉田君の二十五連勝や桑原先生の二十七連勝が思い出されるけど。
  新人棋士がこれを上回ることになったら大変なことだよ?記録を意識したことは?」
「え、いえ、別に」
「野望とかはないの?お父さんを超えたいとか、世界のトップにたつとか」
そういわれても、そんなことには興味がない。
アキラからしてみれば、今日の対局の棋譜が気になってしかたがない。
自分が教えたヒカルの手。
それをうけてヒカルがどのような盤面を繰り出すのかが気になってしかたがない。
アキラからしてみれば、ヒカルはまちがいなくその上をいくであろう。
それがわかっているからこそ、今、ここで今日のこの仕事がなければ直接にいってみていたかった。
は~。
それゆえにため息をつかさざるを得ない。
プロ試験のさなかの棋譜が残らないのはかなり口惜しい。
「塔矢君?」
「え?あ、すいません」
「いや、実はね。月刊誌で君を取り上げようか、という話があがっててね。
  はじめは塔矢名人と息子の君の親子で、ということだったんだけど、君一人でも十分にいけるんじゃないのか。
  とおもってね。しかも進藤君の合格もきもったこともあるし。でもまだ、次期早々だ、という人もいるけどね~」
何しろ院生ながらも大会で優勝した進藤光と、そして名実ともに世界のトップにたっている。
ともいってもいい塔矢名人の息子の塔矢明。
この二人が友達で、しかも同じ棋士の道にとたてば大衆うけすることは必須。
「二十一世紀の棋手。みたいな見出しでさ。時代をひっぱっていくような力強い話がききたいんだ。
  今晩、指導碁がおわったら食事、だめかい?」
「すいません。今晩も約束があるものですから」
この指導碁の仕事が終わるのが七時半。
それから越智の家にいくにしても着くのは遅くなる。
対局場がちかければこっそりとのぞくことができるのに。
みたい。
どんな一局が繰り広げられているのか、が。
「う~ん、進藤君のことがきになってそれどころじゃない、かな?
  まあ、たしかに。進藤君、今日二局かったら今度はプロ試験全勝合格、だしねぇ」
それだけでも紙面はわく、というものだが。
「ま、じゃぁ、またの機会にたのむよ。休憩中に邪魔してわるかったね」
「あ、いえ」
「おっと。もうこんな時間か。研修センターに電話してみるか。そろそろ結果がでているかもしれん」
がたっ。
その言葉におもわず席を立ちあがる。
「あ、あの!天野さん!まってください!僕にも結果を!」
「ああ。そうだね。じゃ、一緒にいこうか」
「はいっ!」
おそらく少しくらい席をたっても問題はないであろう。
それゆえに退席中、という札をその場においてアキラもまた天野について移動してゆく。

「あと残るは二局、か」
また大変な二局がのこったものだ。
一局は三敗の子の対局。
そしてもう一局は二敗の子と全勝の子。
一人は試験全勝合格、という一局でもあり、そしてまた、残りにしても合格できるかどうかの一局。
三敗の子がまければ、四敗の子とプレーオフ。
もし勝てばそのまま三敗が二人、ということもありそのまま合格決定。
四敗しているのは今のところ三人。
それゆえに負ければ四人のプレーオフとなる。
「あの子たちはどんな思いで結果をまっているのやら」
一人は休憩室でせわしなく、頭を抱えてつっぷしている。
一人は外で空気をすいながらぼんやりと座っている。
ポッ…ポッポッ…
「おや?とうとう降りだしてきましたねぇ」
ふとみれば、とうとう雷が鳴り響いてはいたがどうにか持ちこたえていた空模様があやしくなり、
雨がぽつぽつと降りだしてゆく。

ざわっ。
一気に会場の中がざわめきたつ。
「「お~!!」」
おもわず誰ともなく感嘆の声をもらす。
「いやぁ、白熱した一局でしたなぁ」
「負けはしましたけど、越智君もよく検討しましたよ」
対局がおわったものの大多数はヒカルたちの一局を観戦している。
合格はできなくても、せめて記憶にのこる対局くらいはみておこう。
その判断から。
『ヒカル、ヒカル、かちましたねっ!』
お前と日々、模索してたのが役にたったよな~。
横で佐偽がはしゃいでいるのをみつつも、心の中でにっこりと佐偽にとかたりかけるヒカル。
伊達にアキラに師事を仰いでいたわけではなかったようで、ヒカルの一手にもすかさず反撃してきた越智。
先を先をみて打ちこみしても、それを殺す手を越智は考えてきた。
だけども、日々佐偽とそれぞれ検討を重ねてきていたヒカルはそのさらに上にいく定石を打ちだした。
「しかし、こんな定石というか手はみたことがないよ」
「越智君も進藤君用にだいぶ秀策の棋譜を勉強したようではありますけどね」
ざわざわと何やらそんな会話が手合いの場の会場内部においてみうけられてゆく。

「…進藤のやつ、やっぱり勝ったみたいだな」
「…本田」
雨が降りだして、棋院の中にとはいっていった。
休憩場にいく途中で対局場のほうから聞こえてきたざわめき。
「…これで、越智が二人目の合格者…か」
「…ああ」
三敗しているのは越智のみ。
それゆえに越智の合格は決定事項。
「あと、残りは和谷…か」
負ければプレーオフである。
勝つ者が上にいく。
それはこの世界にいるものならば誰でも覚悟していること。
約一名、それがわかっているのかわかっていないのかという人物はいるにしても。
その覚悟があってこそ、今までともに皆で笑い、語り合っていた。
と。
ざわざわざわ。
にわかに再び手合い場がざわめきだす。
ざわめきからしてもう一局のほうもおわったらしい。
しばらくその場にかたまる伊角。
「…いかないのか?伊角さん?」
いくのがこわい。
「…っ!」
じっとしているのは称にあわない。
それゆえに、だっと対局場にと駈け出す本田。
「お、おわったか?」
記者らしき人物が対局場のほうにとむかってゆくのが目にはいる。
どっちだ?
もし、和谷がまけていれば、誰かがいいにくるはずである。
プレーオフになった、と。
だがしかし、対局場からは誰もでてくる気配はない。
カタ。
ふと気付けば、もう一人のこっていた同じ四敗の吉田、という男性の姿が目にとまる。
顔色もわるく、ただ無言で首をふり、そのまま荷物をもって部屋をあとにしてゆくその男性。
彼ももしかしたらプレーオフになるかも、という期待を抱いていた。
なので和谷の対局を見守っていた。
ザァァァ……
ゴロゴロ…ビシャァッン!!
それとほぼ同時。
彼らの心情を指し示すかのように、窓の外では稲光とともにさらに雨は激しくなってゆく。

「康介、いつまで仏頂面をしているつもりだ?それはまあ、進藤君に負けたのが悔しいのはわかるが。
  お前が合格したのには変わりがない。進藤君にはプロの世界で雪辱すればよかろう?」
家にもどっても終始無言でずっと棋譜を並べている孫の姿。
それゆえにあきれつつも声をかけ、
「それより合格祝賀会のことだがな」
どうにか気持ちをそらそうと話しをふる。
ピンポーン。
そんな中、夜だというのに鳴り響くインターホンのチャイムの音。
「……でなくていいよ。どうせ塔矢だ」
「ああ、いい。私がでよう」
雨の中、傘もささずに立ち尽くす。
インターホンを鳴らしているのは他ならないアキラの姿。
「「はい」」
「塔矢です」
「「ああ、どうも。お稽古は昨日で終わりだとおもいましたが。今日の康介の結果をききにきたのですかな?」」
「あ、いえ。結果は棋院で知りました」
「「では、御用件は何ですか?」」
「時間が遅くなってすいませんが、その一局を並べてみせていただきまきました」
「「…少々おまちください」」
「「…すいません。負けた碁はみせたくない、といっています」」
「…そう、ですか。わかりました。失礼します」
これ以上、彼にいってもおそらく無駄であろう。
彼がどこまで伸びたのか知るために越智を鍛えたのもある、というのに。
「…進藤の家にいってみるか」
時間は遅いけど、おそらく彼のこと、起きているはず。
どうしても今日の対局の内容が知りたい。
それゆえに、待たせていたタクシーに乗り込み、今度はヒカルの家を指定してアキラは移動してゆく。

「…ったく、こまったやつだな。お前も」
パチ、パチ。
今日の一局をとにかく並べる。
ここだ、ここで攻めすぎた。
ここのこの一手は考えもつかなかった。
塔矢がいっていた、彼は一を考えつけば十くらい考えつくとおもわなければ勝てはしない、と。
その意味がものすごく身にしみてわかった一局でもあった。
あのときから、たかが十分程度でものすごく濃い内容の碁を打たれたあのときから。
越智はヒカルを追い越すことを目標にしてきた。
しかもきけばヒカルには師匠もおらず、家族も囲碁には無関心らしい。
祖父により、毎日のように指導碁が頼める状況ではヒカルはない。
それなのに…それなのに、棋力のすごさは認めざるを得ない。
【六目半、か。大きな六目半、だな。進藤君のこれでもか、という強さがあらわれた】
【というか、この定石、誰もがおもいつかないとおもいますよ。篠田先生】
あのとき、横で会話されていた内容が頭の中をリフレインする。
【自ら生み出す定石…か、ほんと。進藤君には驚かされてばかりだがな。
  あ、でも越智君もよくうったよ。君がよくうったから進藤君もこのようにうてたんだろうしね】
篠田達からしてもヒカルの実力は知っておきたいところではあった。
この一局でヒカルは新しい定石すらをも生み出す力が根底にある、と証明されたようなもの。
もっとも、新しい、といっても日々佐偽と対局し二人で生み出した新たな定石だ、
というのを彼らは知らない。

ぴんぽ~ん。
「あ、誰かきた。は~い」
何だかいろいろと質問詰め。
それゆえにこれ幸い、とばかりに台所から立ちあがる。
「あれ?塔矢。どうしたんだ?こんな夜遅くに」
時間はすでに九時ちかい。
がちゃりと玄関をあけてみればそこにたつのはアキラの姿。
「あ、ごめん。こんな夜遅くに」
「ヒカル?誰かきたの?あら、塔矢君」
「こんばんわ。夜遅くにすいません」
ひょっこりと台所から顔をだし、アキラの姿をみとめて多少驚いたように声をだす美津子に対し、
ぺこりと頭をさげて挨拶しているアキラであるが。
「どうしたんだよ。こんな遅くに」
「いや、今日の一局がどうしても知りたくて。越智君の家にいったら門前払いくらっちゃってさ」
「あはは。それで俺んとこか。ま、いいや、あがれよ。ご飯の前にも検討やってたんだ。
  あ、お母さん達、俺、アキラと二階にあがるね~」
「あ、ちょっと!ヒカル!」
「ごちそうそま~!」
いろいろと質問攻めされていて逃げ出す機会をうかがっていたのも事実。
アキラが訪ねてきたのをこれ幸いとしてアキラをつれてヒカルはそのまま二階の自分の部屋にと向かってゆく。
「もう、あのこったら!」
「…しかし、プロ?明日も私は仕事だし…まあ、周囲の人にきいてみるよ」
「ええ、おねがいね。あなた」
しばし、台所にてそんな進藤夫婦の会話がくりひろげられてゆく。
そんな両親のことを気にもとめず、
「たすかったぜ。塔矢。うちの親たち、合格したとかいったら何それ!?とかの質問ぜめでさ~」
「…きみんとこ、ほんっと相変わらずだよね……」
普通は、合格した、といったら喜ぶのが普通であろうに。
ガチャりと部屋にとはいりアキラにそんなことをいうヒカルに対し、苦笑まじりにつぶやくアキラ。
「あ、もしかして、これ?」
「あ、ううん。これは検討してた最中だから、えっと、一手目からでいい?」
「うん。おねがい」
「そういえば、遅くなっても平気なの?俺は明日はお休みなので関係ないけど。
  とりあえず棋院にいくのは昼からでもいいし」
とりあえず、合格したのをうけて院生は卒業となる。
それらの挨拶をしに一応は出向くつもり。
「え?あ、うん。あとから母には連絡しとくよ」
「今からしとけよ。はい」
いいつつも、部屋に備え付けてあった子機をアキラにと手渡すヒカル。
「お前、明日は暇なの?」
「いや、仕事だよ」
「ん~、なら明日の対局にひびかない?」
「でもきになるし」
「何ならとまってくか?」
「いいの!?いいのならぜひっ!」
『わ~いvヒカル、私もじゃあ、塔矢と対局できますか?ねえねえv』
あ~、はいはい。
あとからな。
とりあえず横でわくわくしている佐偽をかるくたしなめ、
「じゃ、お母さんたちにいってくるわ」
すでに夜も遅い。
これから帰るにしても遅くなってしまう。
それよりはヒカルの家にそのまま泊まったほうがよい。
そんな会話をしつつも、夜は静かに更けてゆく――

生徒指導室。
「おめでとうございます。今朝、進藤君からききました」
昼間、ヒカルの母親が担任を訪ねてやってきた。
それゆえに指導室に通して話しをしているヒカルの担任教師。
「どうも」
そういわれても、素直に喜べない、というのが本音である。
「一昨日の土曜日、合格がきまったそうですね。でも、正直びっくりしてます。
  進藤君が囲碁のプロになるなんて。あ、担任の私がこんなことをいっちゃいけないんでしょうけど」
院生になって、しかもあっさりとプロになるんて、想像もしていなかった。
まあ、彼とは理学系の話などがはずむのでそちらのほうが楽しかったのだが。
「夫も私も同じです。びっくりしてます。もう、何が何だか……」
そう、合格した、ときかされたときは驚いたものである。
試験のようなもの?
と問いかけたのが記憶にあたらしい。
そんな会話をしていると、アキラが家を訪ねてきたのだが。
結局話しもそこそこに、ヒカルはアキラをつれて部屋にといってしまった。
「ただ、何だかとにかく急に不安になってしまって」
まさか合格するなど、美津子も夫である正夫もおもっていなかった。
だからこそ戸惑わずにはいられない。
「学校をお休みすることも多くなるんでしょうね」
「どうなるのか…」
そのあたりのことはほんとうにわからない。
だからこそ戸惑わずにはいられない。
「お金もはいるんでしょう?失礼ですがどれくらい?」
若獅子戦で優勝したときには数百万、というお金がはいったらしい、とヒカルからはきいている。
何だかケタちがいで実感がわかないのも仕方がない。
だからこと多少なりともきにかかってしまう。
「まだそういうことはさっぱり。
  とにかく学校生活や友達関係がうまくいかなくなるんじゃないかといろいろ心配になって」
「ええ。その心配はわかります」
その不安や心配は担任である自分もあるのだから、親となればその不安はつきないであろう。
だからこそヒカルの母親、美津子の言葉にうなづくタマコ。
「それに進学のこともありますし…一緒に合格した子で和谷君、という子がいるんですけど。
  その子は一つ年上で中三なんですがその子は高校にはいかないとか」
それをきいたときにはかなり両親とも狼狽したものである。
まさか息子もだから高校なんていかない、といいだすのではないか…と。
「進藤君は進学、しないんですか?」
「まだあの子は何とも。一年先の話だ、とかいって。
  一昨日の夜、ヒカルの友達の塔矢君って子がきたんですけど。
  あの子がいくんだったら一緒の高校にいってみたいな~とかみたいなことはいってましたけど。
  ですけど、それって海王高校、なんですよね。うちの経済的事情では私立高校なんてとてもとても……」
「私立は高いですからね。でも進学してもいいんでしょう?塔矢君ってあの塔矢名人の息子さんの、でしょ?」
「ええ。そうらしいんですけどね」
中学二年の担任は、囲碁部の顧問教師でもあるタマコ。
それゆえに多少の理解はしているつもり。
「あ、でも一応社会に出たってことなのかしら?でも、たしかに。奇怪な社会っぽくはありますよね。
  うちの祖父もそれほど詳しくはないからよくわかりませんけど。」
「そうなんですよね~。それでとにかく不安になってしまって。
  とにかく、その和谷君って人の親ごさんや、塔矢君のおやごさんにあっていろいろと話しを聞こうとおもってます。
  ヒカルにいったら余計なことをするなっ!って怒られましたけど、そういうわけにもいきませんし」
「ええ、ええ。わかります」
「ここにきたのもあの子に内緒なんです」
「まあ、でもプロの生活が始まるのはまだ先。春からなんですよね。また何かありましたらお知らせください」
「よろしくおねがいします」
そんな会話をしていると、昼休みを終えるチャイムの音が鳴り響く。
それゆえに挨拶をかわし、とりあえず会話をとめる二人の姿。
ヒカルはまさか学校内でそんな会話がなされていることなど知る由もない。

き~ん、こ~ん、か~ん、こ~ん。
「あ」
「お」
授業がおわり、靴箱にとむかっていたところ、ばったりと階段の下で三谷とすれ違う。
「…お前、プロになったんだって?」
「え、あ。うん」
「ふぅん」
「ふうんって、何だよ。三谷」
「ま、せいぜいがんばりな」
ふっ。
すれ違いざまに振り向きヒカルに一言いってくる三谷。
短い言葉ではあるが気持ちがつたわってくる言葉ではある。
それにたいする返事は笑みをうかべるのみ。
「さ、いこっか」
『ええ』
あいつ、ま~た独り言いってるよ。
そんなヒカルの言葉を階段をおりながら聞きとめ、ふとおもう。
これからさき、ヒカルがどれほど高みにのぼってゆくのか…ということを。

てくてくてく。
放課後ということもあり人はまばら。
月曜日だというので他は部活がある人たちはそちらのほうにといっている。
「囲碁部、今日もやってるのかな?」
『やってるんじゃないんですか?あ、アカリちゃんですよ?』
筒井さんの作った囲碁部はまだ続いている。
みればたしかに、理科室の窓をあけているアカリの姿が目にはいる。
「ちょっとのぞいてみようか。佐偽」
『そうですね』
いいつつも、そちらに歩いていこうとすると、
「さ、始めようか」
「進藤君、プロ試験、合格したんだって?」
「うん。ヒカルに聞いたらうかったって」
そんな会話が聞こえてくる。
何だか自分のことを話されているのはてれくさい。
それゆえに思わず理科室の下、つまり窓の下に身を隠す。
「うわ~」
「すご~い」
それと同時に感心したような二人の男の子の声が聞こえてくる。
「進藤先輩ってあの進藤先輩ですよね?ときどき顔をだしてた。院生になってたとかいう」
この声はたしか、一年の子だったっけ?
そんなことをふと思うヒカルであるが。
「ヒカル、顔をだせばいいのにね。みんなでお祝いしてあげるのに」
アカリの声が窓からヒカルのもとにと聞こえてくる。
『ヒカル?』
何か顔だしづらいし……
隠れているヒカルをきょとん、としながらみつめつつも、ヒカルにつられて座る格好になっている佐偽。
「っていってもどれくらいすごいのかよくわからないけどね」
「あはは。私も。何かプレゼントもっていってあげようかな。合格祝いに」
合格した、とかいわれても、アカリたちにはいまいちよくわからない。
そもそも、囲碁のプロの世界のことなど、一応囲碁部にはいってはいるがそちら方面のことはきれいさっぱりとわからない。
がらっ。
ヒカルが出あぐねていると、理科室の扉が開く音。
それと同時。
「こんちわ~、きたよ」
声からしてどうも金子が入ってきたらしい。
実際にそのとおりなのだが。
理科室に入ってきたのはバレー部所属でありながら囲碁部の臨時部員でもある金子の姿。
「あ、金子さん!今日もきてくれたの!?うれしい!」
「バレー部はいいの?」
「うん。当分囲碁部優先。前に三人ででた団体戦、一回戦敗退だったじゃない?
  今度の大会では絶対に二回戦にあがりたい、とおもってさ」
今度の大会。
それはヒカルにとってもとても思いで深い大会ではある。
あのとき、筒井達というか加賀に言いくるめられて参加したあの中学囲碁大会。
すべてはそこから始まったような気がしなくもない。
おそらく、アカリたちがいっているのは、
この二十三日にとある祭日にとりおこなわれる北区中学冬季、囲碁大会のことであろう。
最も、その前に創立祭りがこの十五日にあるのだが。
今は各自部活ともその準備にとおわれている。
「やった!金子さんが本気になってる!」
「うふふ。がんばらなくちゃ」
「三谷君、今日もきてくれるかな?」
「先輩。僕も団体戦、でたいっすよ」
「申し込みするときに三谷君の名前、勝ってにかいちゃえば?」
「そんなむちゃな!でないっていってるのにっ!」
「何とかなるわよ。夏目君、筒井さんから受け継いで部長になったんだからもっと強引に」
「そうですよ。先輩」
「小池君まで!」
何だかおもいっきり出そびれた、とはまさにこのことかもしれない。
何だかかなり出て行きにくい。
と。
ガラッ。
「な~にさわいでるんだよ」
勢いよく扉が開く音とともに聞きなれた声がヒカルの耳にと聞こえてくる。
「み、三谷先輩っ!」
どうやら扉をあけて今度は理科室に三谷がやってきたらしい。
「な、何でもない!」
「お、きたね。大将」
「大将?」
「男子団体戦の大将」
「な、何の話をしてるんだよ!おまえらはっ!!」
わ~わ~、きゃいきゃい。
何だか自分がでるマクはおそらくない。
『ヒカル?のぞかなくていいんですか?』
「あ、うん。いこうぜ。佐偽」
もう、自分は試験に合格した以上、アマチュアの大会に一般人として参加することはできない。
それは口をすっぱくしてアキラからも聞かされた。
わかってはいたが、どこかさみしい気もしなくもない。
それゆえに、そっとその場を離れて門のほうへと向かってゆく。
「あ、おい。進藤」
「何?」
門のほうにむかっていると、いきなり呼び止められて振り向けば、
小学のころからの同級生の姿が目にとまる。
「お前の組のやつにきいたぜ。お前、囲碁のプロになるんだって?」
「あ、うん」
「じゃ、うちの囲碁部って最強じゃん?どこの大会にでても全部優勝できるんだろ?」
普通、プロ、といえばそんな感覚。
プロでもピンからキリまである、などと普通はおもわない。
いわく、たとえば試験で合格したものがすぐに別方向においても実践でも活用できる、そんな認識と似通っている。
「出たくてもでられないの!俺は!規約があるんだからっ!」
「そうなの?な~んだ。案外プロってつまんねぇのな」
「そういえば、中学生でプロになったっていうのにあまりテレビで騒がれないよな~。囲碁ってそんなもんなんだ」
そんな声が聞こえてくる。
確かに、他の種目、たとえば有名な種目などならば間違いなくテレビなどの注目はあびるであろう。
そう、たとえば現役ながらゴルフのプロになった少年たちや卓球少女たちのように。
だが、囲碁のプロ試験は毎年あり、わざわざニュースになるようなものでもない。
そもそも、囲碁自体の認識がお年寄りのもの、という一般的な認識のほうが根強い以上、
テレビ局としても大衆受けするニュースを流そうとする。
それでなくても日々、暗いニュースながらニュースネタには困らない。
日本ではそれほど囲碁に感心が大衆の間に広まっていない証拠でもある。
これが韓国や中国といった場所ならばまったくもってかわってくるのであるが……
「でも、やりがいはある」
『これで神の一歩に私も少しでも近づけますかねぇ。ヒカル、これから強い人たちと対局ふえるでしょうし』
う~ん、それが問題なんだよなぁ。
佐偽にうたせたらそれこそ大騒ぎになりそうだしなぁ。
『そんな~!!ヒカルぅぅ!』
「ま、考えてはいるから気長にまってろよ、な?」
ヒカルにはヒカルなりの考えがある。
いつも自分ばかりうっていていつも教えてくれている佐偽に申し訳ない、という気持ちがヒカルにはある。
それでも上手にやらないと、下手をすれば本因坊秀策の過去の偉業というか人がらすら傷つけかねない。
『何か最近、不安なんですよ~。私、いつまで神がわがままをきいてくれているのか…と』
「お前らしくないよ。佐偽。大丈夫だって。千年もいるんだから、これからだってさ。
  おそらく、俺が死んでもお前はそのまま碁盤に宿って次の人をみつけるんだぜ?
  でも、そうしたらまた次に生まれ変わってもお前にあいたいよな~、今度は虎次郎も含めてさ」
虎次郎がいて佐偽がいて、そしてアキラがいて。
それはそれなりに楽しい時間が過ごせそうである。
「あ~あ、お前のように神の一手を究めようとするにはそこまで固執しないとむりなのかな~」
『ヒカル?』
「いや、何でもない。ま、プロ生活はこれからなんだ。…その前に!とにかく今日は図書館にいくぞ!」
『図書館?』
ヒカルが何をいいたいのかが理解できない。
「って、お前、昨日の塔矢の話、きいてないな!?プロ生活がはじまったら学校も休みがちになるっていってたろ!?
  そんなことになって成績おちたりしたらこずかいとめられちゃうだろ!?
  今のうちに先の、先の勉強しとかないとっ!」
え~と。
どこか感覚がずれているのは気のせいでしょうか?
ヒカルの言葉に思わず佐偽がそんなことを思ったのは…いうまでもない……
日曜日などでは少しはなれている大学の図書館にいきたいところであるが。
そもそも、すでに時刻は夕刻。
それゆえに近くの図書館にまずは先にとすすんでゆく。
目当ての参考書などを借りるために。
本来ならば、市営や公営の図書館よりも大学の図書館のほうがはるかにないようは充実している。
それが勉強に関してのことならばなおさらに。
さらにいえば、わからなかった場合、大学の先生にきける、という特典がついている。
しかも無料で。
これをいかさない手は…ない、というのがヒカルの本音。
「ほんと、どうにかしないとな~」
土曜日はまだ、アキラが家にやってきてうやむやにはなったが。
日曜日にさんざん母親にもいわれたのである。
高校くらいはでていないと、今の世間では通用しない、と。
そんなのは大人の勝手。
そもそも、高校にいけなくてもいけない人は多々といる。
それでもやはり、世間の目もあるから高校には絶対にいかなければならない。
そうさんざんいわれたヒカル。
両親からすればいい高校にはいり、いい大学にはいればいいところに就職できる。
今だにそんな幻想を抱いているらしい。
このご時世、そんなことはもはや過去の幻影だ、というのに。
親、というものはどうしても子供に夢を追い求め勝ちなのかもしれない……


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あとがきもどき:
薫:さて、ヒカルが多少どこかずれている?というようなエピソードを終わりにもっていきましたv
  何よりも中学生にとってはおこずかいの金額はかなり重要視されるとおもうんですよ、ええ(笑
  ちなみに、私は必要なときにもらってたので月いくら、とかではありませんでした(汗
  ではまた次回につづくのですv
  さてさて、というわけで(何が?)例のごとくに小話をばv


「結局試験はうけられないんですか?」
「そうしたら、今きてる生徒たちもわるい、ですしねぇ」
噂は噂を呼んですでに生徒はかなりの数にとなっている。
しかもその中にはすでにブロとして活躍している棋士の数も数知れず。
さらにいえば、対局の手合いがあいたときなどは高段者までもがやってきている始末である。
ヒカルと佐偽が住んでいる、郊外にと建てられた昔ながらの趣をもつ和風の家。
ヒカルがその所得で佐偽と過ごすために建てた建物ではあるが、一緒にヒカルの両親も住んでいる。
ちなみに、今までヒカルたちが住んでいた家は貸家、として活用している現状である。
自分の子どもをプロ棋士にしたい家族などがヒカルの成績にあやかってそこに住めばあやかれる、
とばかりに、かなりの競争率になってたりするのはヒカルは知らない。
海外からの顧客棋士として契約しませんか?
という話も舞い込んではきているが、佐偽としても前途ある未来ある子供たちに教えていくのはとても楽しい。
かつて、そう、虎次郎が率先して執り行っていたその気持ちがいまの佐偽にはよくわかる。
かといって、神の一手を諦めたわけではない。
時間と都合がつけば海外にもでむいて一局うつこともしばしば。
「さい、さい~」
「はいはい。美希。何ですか?」
車の免許の所得が必要かもしれないが、どうも佐偽は現代の仕組みがいまいち理解できていない。
それよりは、そのつどタクシー利用のほうが公共的にも問題ない。
それゆえにヒカルたちは車を今だに所持していない。
それもかなり珍しいが。
今、佐偽がきているのはとあるホテル。
昨日と今日、このホテルにおいてヒカルの対局が執り行われているのである。
もっぱらヒカルが地方で対局するときには必ず子供と夫である佐偽が同伴しているので、
ここぞとばかりに時間をもてあましているであろう、佐偽のことを聞きつけて、
時間のあいた高段者が対局にきていたりするのもすでにもはや日常的。
どうでもいいが子供をあやしながら、しかもさらっと棋譜を作り上げられて勝たれては、
十段の名前がかなりなく。
「…私もまだまだ…か」
「そんなことはありませんよ。ですけど、ここの手がおしかったですねぇ。緒方どの」
今日、ホテルに押し掛けてきているのは以前から佐偽と打たせろ!
とヒカルに言い寄っていた緒方十段。
「そういえば、先生がまた対局を申し込みたい、とおっしゃってましたよ?」
佐偽が復活したのをうけて、すでに塔矢行洋は中国との契約を打ち切っている。
そしてそのまま棋院に就職しまっている、という実情がある。
いつでも佐偽と打てるときに打つために。
進藤のやつがどんどん実力をつけていくはずだ。
手合せするたびに思い知る。
この目の前のどうみても女性にしかみえない麗しい男性、佐偽。
ネットでの名前はsai。
彼の碁はかつての伝説の棋聖、本因坊秀策のものに通じるものがある。
すでに巷の噂では、彼こそが本因坊秀策の生まれ変わり、などといった噂すら立っている。
実際はまあ生まれ変わり、というよりはその手合いをうっていたのも佐偽、当人なのだが……
それでも、ずっと病院生活でそこまでの棋力を養えるはずもなく。
それゆえに前世がらみだ!
というのが輪廻転生を信じるものからすれば素直な感想でもある。
転生してもその記憶を残している存在がいることを一部の者たちは理解している。
またそのような話も多々と聞く。
佐偽がどこか昔の人のような感覚でいるのもそれに関係しているのかもしれない。
当人がいったわけではないが、それならそうなのかも。
となっとくさせるだけの佐偽には雰囲気がある。
何しろ、昔ながらの服装、特に佐偽はお宮などの宮司などの服装がかなり似合う。
まるで、そう絵にかいたごとくに。
実際、佐偽が普段着ているのも昔来ていた服のほうが慣れている。
というので特注した…と第三者にはいっている、かつて幽霊のときに来ていた服を物質化したものを受け取り、
それを愛用して着こなしている。
そんな姿をみていればそんな噂がたつのも道理、といえば道理である……
「そろそろ、ヒカルの対局もおわるころ、ですかね」
子供がまだ小さく騒ぐので佐偽としても対局を直接みたいのは山々なれど、
ヒカルの気がちってはいけない。
というので美希とともに別の部屋にて待機していた。
「そういえばそうだな」
たしかにそろそろ終局してもおかしくない時間である。
それゆえに、それぞれに碁石を片づけて部屋をあとにしてゆく佐偽と緒方。
一人、佐偽にだかれた美希のみがきゃっきゃと騒ぐ声が響き渡ってゆく。



ヒカル、天元戦防衛戦にて。
すでにこのとき、本因坊どころか天元までもがきづいたら所得してるヒカルだったりするのです(笑
そのときの裏にての会話ですv
緒方、あるいみ佐偽のストーカー(まてv
ではでは、また次回にて~♪

2008年9月1日(月)某日

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