まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

今回は、副題にあるとおり、さまざまな試験をうけてる人たちの合間さんをば。
なのであまり意味になってないかな?
それぞれに視点を移しつつも、日数は経過していっています。
とりあえずは、ラストで試験最終日にまでゆくよていv
何はともあれゆくのですv

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どいつもこいつも、進藤、進藤。
今まで自分より強いものなんかいない、そうおもっていた。
実際に祖父もそういっていた。
お前ほど強い子はおそらく他にはいない、な。
と。
だけども、あの一組にあがって初めて塔矢明がライバル視しているともっぱら噂の進藤光。
彼と対局したときに力の差を思い知らされた。
指導碁によんだのに、やはり塔矢明が気にしているのは進藤のみ。
だから、イライラした。
何だか彼にも自分なんて目にもはいらないどうでもいい存在なんだ、といわれているようで。
「僕をなめてかかるのも今のうちさ!そうさ!僕は上にいく!上にいくんだっ!」
進藤光、塔矢明にまけないほどに。
そのためには…最終日に進藤光にと勝つことが何よりも重要。
彼にかてばおそらく塔矢明も自分に目をむけるはず。
そうすれば塔矢名人の門下にいれてもらえるかもしれない。
部屋にと閉じこもり、アキラを追い返したのち、しばらく叫ぶ越智の姿が見受けられてゆく……

星の道しるべ   ~それぞれの試験~

ほっ。
どうやら越智との対局で伊角さん、元にもどったみたい。
それでともかくほっとする。
勝敗表をつけにいけば、どうやら伊角がかったらしい。
自分との対局で精神面が崩れたままだとはっきりいって気分的によくはない。
『どうやら、彼もまた持ち直したみたいですね』
「うん。よかった。あのままだったら、俺どうしようかとおもったもん」
『おや。…和谷も負けてしまったようですよ?』
「え?あ、ほんとだ……」
和谷がまけたのは足立という人物。
院生仲間でもあるが。
これで今のところ全勝しているのはヒカルのみにとなっている。
だが、そんなことは別にどうでもいい。
「でもよかったぁ。どうしても伊角さんのことがきにかかってさ~」
『そのためにヒカル、なかなか集中できてませんでしたもんねぇ。ヒカルらしくもない。
  …気持ちはわかりますけどね』
佐偽もかつてにたような経験があるからこそわかる。
佐偽の場合はいわれなき言いがかりをつけられたというものであるが。
『ヒカル。今日はこれからどうするんですか?』
「一応、そのまままっすぐかえるよ?時間が時間だし」
一日二局は伊達ではない。
朝から夕方までかかってしまう。
対戦表に勝敗をつけ、そんな会話をかわしつつ、ヒカルは佐偽とともに手合い場をあとにとしてゆく。

「え?和谷がまけた?」
「ああ、相手は足立、だけどな。伊角さんは調子もどったみたいだな」
ほっとしていて周囲のことを気にかけていなかった。
げた箱のところで本田と出会い、そしてそのときに聞かされた。
「これで全勝は進藤のみ。でもまだ、負けたといっても和谷もまだ一敗。俺だってたったのまだ二敗、だ。
  伊角さんだってまだ三敗、だろ?」
「そう、だな」
あのときの一局がどうしても頭から離れずに気がついたら連続してひどい碁をうっていた。
それでも持ち直すことができたのは、越智の挑発的な言葉ゆえ。
「あ、本田君。伊角君。おわったの?もう全員おわった?」
「あ、篠田先生、いえ、まだあとひと組のこってます」
二階から上がってきた篠田に声をかけられて返事を返す。
「そう。まだのこってるのかな?」
午前の部の対局で伊角が持ち直したのは篠田とてしっている。
だからあまりそのことには触れずに対局場にとはいってゆく篠田。
受験生全員が帰らないとどうにもならない。
全員を無事に帰路につかすまでが彼らの役目。
「「失礼します」」
そんな会話をかわしつつも、靴を履いてエレベーターにとむかってゆく。
「何とかかって二敗をキープしてるけど。上位陣…どうなってくのかな?」
「さあな。俺も気づいたらちょっとつまづいて三敗もしちゃったし。
  ふんばらないといけないのに。院生、今年で卒業しないといけない年だからな」
「でも伊角さんはもう進藤とあたったんだし。俺はまだ。つまりこれから前勝をつづけていかないと、
  三敗はおそらく間違いないし。だけど、伊角さん。俺だって伊角さんより一つ下だけだからあまりかわらないよ。
  うちの親は二十歳まで挑戦してダメならあきらめたら、とかいうし」
溜息つきつつもつぶやくようにいう本田。
「うん…プロ試験は三十までうけられるけど。今年だめならもうずっとダメのような気がする」
「でもさ。進藤のやつ、今までずっと負けなし、だろ?こけないかな~」
「無理だろ。あいつに勝てるのは塔矢明くらいだろうし」
「違いない。実質二名枠…か、去年と同じく」
「…そう、だな。だけど負けてはいられない」
「ああ、まだプロ試験は長いんだ」
そう、まだ長い。
まだおわったわけではない。
それぞれ心の中にさまざまな思いを抱きつつも、そのまま棋院を二人はあとにしてゆく。

「う~ん、ここをそうきたか。そういえば明日はお前、院生の子と手合いだったな」
「和谷ってこだけどね。だけど順位は僕より下だし。楽勝だよ」
「そうか。しかし、ここの具合を勘違いしてたなぁ。こりゃ、置き石をまたふやさなきゃならんな。
  さすがわが孫。お前はどんどん強くなるな。しかしプロ試験の最中にわしと打ったりして調子がくるわないか?」
「ううん。いい気分転換になるよ」
そう。
負けたのは相手の気迫にのまれたから。
実力がまけていたわけではない。
そうさ。
実力は僕のほうが伊角さんより上なんだ。
そう自分自身にと言い聞かす。
祖父との対局はその考えが事実である、と越智自身を納得させてくれるから気分転換にはちょうどいい。
「週刊碁、みたか?塔矢二段が富士通杯の二回戦も突破したらしいじゃないか。
  何といっても、デビューしてから彼が土を踏んだのは倉田棋士との対局のみ。
  それ以外は全勝。すばらしいじゃないか。たいしたものだな。彼は」
「それがどうしたのさ」
「そんな彼が時間が許す限りお前の相手をしてもいい、といったんだろ?来てもらえばいいじゃないか」
彼が知りたいのは自分のことではない。
試験中の進藤光のこと。
それがわかっているからぎゅっと下くちびるをかみしめる。
「いいよ。塔矢なんか。伊角さんとの一局は伊角さんの迫力負けしただけだから。
  実力は僕のほうが上なんだから。全勝は逃したけど、今のまま一敗で合格してみせるよ」
そう、進藤光にも絶対にまけない。
「ははは。そのいきだ。本来ならばお前が院生初の快挙を成し遂げるはずだったんだ。
  と周囲にしらしめてやれ」
祖父からすれば手合いの組み合わせの関係で孫が負けた、そう固く信じている。
孫も絶対にあそこまでの棋譜を成し遂げることができるから、と。
「例の進藤光君とは最終日、か」
「まあね」
彼がライバル視していたのはずっと院生一位をキープしていたという伊角と、そして今一位である進藤。
この二人。
人、というものは自分の弱さをみとめてそれを乗り越えなければ強くならない。
それでも、意地が邪魔をしてそこまで達観できていないこの越智。
それこそがすべての成長の度合をきめる、といっても過言でないのに。
周囲、特に祖父があまやかすがゆえに彼はまだ、その事実に気づいてはいない。
「ま、明日の一局もこりゃ、楽勝だな。ははは」
「あたりまえだろ」
明日は越智は和谷と対局する。
もうひとりは知らない外来。
そんなことは越智にとってはどうでもいい。
とにかく残りの対局をすべて勝てばいいのだから……

八月二十二日。
日曜日。
すでに八月も終わりに近い。
プロ試験が始まって試験日的にはちょうど十日目。
今日で全三十五戦のうち、二十局が終了する。
「対戦表、いいか?ハンコおすから」
ヒカルが対局表をつけていると横から声をかけられる。
「あ。和谷。ってことは越智は……」
対局結果を記すのは勝者の役目。
すなわち、それは今日、和谷とあたった越智がまけたことを意味している。
「対局おわっていなくなったぜ?またトイレじゃないのか?」
「和谷は一敗かぁ」
「だけど、最終日手前で俺、お前と、だしなぁ。確実にまけるし」
「そうかな?でも和谷つよくなってるじゃん」
「お前にはいわれたくないよ。そうだ、まだ時間あるし、一般の手合い場でうってくか?」
みればまだまだ日はたかい。
何よりもまだ夏休みである。
「そだね。そうしよっか」
『ヒカル、やりたい、やりたい、や~り~た~いっ!』
はいはい。
確かに自分ばかりうっているので佐偽もストレスたまるよなぁ。
そんなことをおもいつつも、和谷とヒカル、二人して棋院の中にとある一般人ようの手合い場にむかってゆく。

「悪くなかったのに。あそこで御手をひいて、トビにまわられて…認めない!二目半負けなんて!」
トン、トン、トン。
自分が二敗。
ありえない、ありえてはならない。
だが、勝負は一度きり。
トイレに閉じこもり、ひたすらに今日のおさらい。
「越智君?いるのかい?そろそろかえらないと」
すでに全員対局場をあとにしたとおもえば、今だにトイレから、トントン、と音がする。
彼がませたときのクセは篠田も把握している。
それゆえにため息をつきながらも、越智を促す。
ふと時間をみればいつのまにか時刻は六時をまわっている。
それゆえにうつむきながらもトイレからようやくでてきて帰路にとついてゆく越智の姿。
そんな彼の後姿を見送りつつ、
「やれやれ。ほんと、プロ試験、というものは……」
溜息をつかざるをえない篠田。
だが、これでわからなくなったのも事実。
おそらく、一名は確実にすでにきまったも同然。
そもそも彼は院生になる必要性は院生試験のときからまったくもって感じていなかった人物である。
残りの枠はたったの二名。
一敗、二敗、三敗のものが多数存在している中でどうなってゆくのかわからない。
試験はようやく今日で十日目を迎えたばかり。
残り八日。
たったの八日、されど八日…
それですべての勝敗が…決まる。
泣いても笑っても、プロ試験は年に一度きり、なのだから。

「ぼっちゃん、私も碁を覚えはじめましたよ」
「?今まで興味なんてなかったのに?」
二敗してしまった。
それが越智の中にとくすぶっている。
対局がおわれば常に越智邸おかかえの運転手が常に駐車場で控えている。
「いやぁ、ぼっちゃんが四月からプロになる、とおもったらわくわくしてきましてね。期待していますよ?」
今までひとに期待されてもそれをこなすだけの自信があった。
だけども今はその期待が何となく重い。
その正体が何なのか、今の越智にはわからない。
しばらく無言のまま、運転手がいろいろといっていることすらも越智の頭にははいらない。
「おかえりなさいませ。おぼっちゃま」
家にかえるといつものようにお手伝いである女性が出迎えてくれる。
「…お爺ちゃん、かえってる?」
「旦那様ですか?いえ、まだ」
「そう」
二敗。
もし、もしく進藤にまけたりすれば三敗。
そうなれば合格は…厳しい。
おそらく、進藤のことをよくしっているのは…塔矢明二段、のみ。
それゆえに、しばらく考えたのちに電話をとる。
祖父に塔矢明を指導碁の師範によんでもらうために――

『優勢でも勝ちをあせれば手に隙が生じます。心とはそれほど難しいものなのですよ。ヒカル』
「なるほど」
パチパチパチ。
試験がおわり、最近の日課は本日のおさらい。
家にともどり、ご飯をたべてお風呂にはいり、部屋にて佐偽と検討をしているヒカルの姿。
打っているのが手合いの場だからだろうか。
何となく院生仲間とうつときには試験中、というのをついつい忘れていつものようにヒカルは打っている。
それでもいつもの対局と違って感じるのは相手の手筋がいつもの院生手合いとは違うがゆえ。
『対局に必要なのは常に平常心、なのです。そしてまた、絶対に勝つ、という気迫も必要ですが。
  それで自身の気迫にまければ、このように手に隙が生じてきます』
ちょうどヒカルの対局の横でやっていたひとつの対局結果を示しつつもヒカルに説明している佐偽。
たしかに佐偽のいうことはヒカルにもわかる。
ヒカルが絶対に勝つ、という自覚がないままにやっているがゆえに、
あまり気負っていないのが不幸中の幸いなのかもしれない。
佐偽と本気でうってもヒカルは佐偽にはかなわない。
常にそばにいて気心が知れている相手だからこそヒカルもまたムキになる。
佐偽と対局するごとにヒカルは自分で気づかないほどに成長している。
数手打てば相手の棋力はわかってくる。
何だかヒカル的にも物足りなく感じているのも事実である。
かといってあまり早くに終局させるのも気がひける。
それゆえについついいつもの院生手合いのような手をうってしまうことになっているこの試験。
常に実力が拮抗しているアキラ、そしてまたはるかな高みにいるとおもわれる佐偽。
この二人とうつ機会が主たるヒカルからしてみればそれはそれで仕方ないのかもしれない……
「しかし、今日はびっくりしたなぁ。佐偽」
『ですねぇ。世の中って狭いんですね』
ヒカルがいわんとすることはわかる。
佐偽も一瞬誰かあのときわからなかったのだから。

キィ。
「え~と、ああ、きみきみ」
「はい?」
休憩場にていきなり声をかけられる。
何だかみたことない人だな。
そんなことをふと思う。
だけどもどこかでみたことがあるような、それゆえに首をかしげざるを得ないヒカル。
「お弁当の注文ってどこでするの?」
「あ、そこです」
「ありがとう」
やはりどこかでこの声はきいた覚えがある。
佐偽。どっかでこの声きいたようなきがするんだけど?気のせいかなぁ?
『そういえば。どこかでたしかにきいたことがありますね』
はて??
二人して互いに顔を見合せて首をかしげるヒカルと佐偽。
首をかしげているヒカルにと気づき、
「ああ、私かい?今日は院生師範の篠田先生がお休みされるので私が代理できたんだよ。
  …あれ?君、どこかであわなかったっけ?たしか、そう、とんでもないところで……」
それ以外にもどこかでみたことがあるような気がするのだが思い出せない。
「あ!!」
「『え!?』」
いきなり大声をだされ、おもわずびくりとするヒカルと佐偽。
「思い出した!君は確か進藤光くん!あのとき、子供囲碁大会で横から口出しして対局をめちゃくちゃにした子!」
『あ!思い出しました!ヒカル。ヒカルを叱った人ですよ!この人!』
「え?え?ええっ!?」
いわれてみればそうである。
「あ、あのときの!?」
というか、あのとき、ちゃんと俺、あやまったじゃんかっ!
それにあのとき、一の二が急所っていったのは佐偽で俺じゃないしっ!
『でも口にだしたのはヒカルですよ!?』
だけど!
まさかこんなところであのときの関係者にあうなどとは夢にもおもっていなかった。
「いや、あのとき、ただものじゃない。とはおもったんだよ。今年の若獅子戦の結果。
  あのときみてびっくりしてね。そうか、君は今年プロ試験をうけるのか。今までの成績は?」
新聞の写真をみて驚いたものである。
どこかでみたことがあるような気がする。
と首をかしげていれば、あの大会にいた別の人物がこの子、あのときの子ではないですか?
そういってようやく思い出した。
それゆえにこんな場所でこの子供に出会うなどおもってもいなく驚きつつも問いかける。
「え?えっと、全勝です。あ、あの、あのときはすいませんでした!」
『何だかとりあえず叱られる、というわけではなさそうですね』
だけど、とりあえずあやまっとかないと。
互いに心の中でそんな会話をやり取りしつつも、ひとまず頭を下げるヒカル。
「しかし、なるほど。一の二を即答したのもうなづけるよね」
いや、あの一手を即答したの俺でなくて佐偽です。
心の中でおもいっきり突っ込みをいれつつも、ちらりと横にいる佐偽をみる。
『たしかに、あの一手を即答したのは私ですけどね。石の形もまだおぼえてますし。
  でも、ヒカル。今のあなたでもあれは即答できますよ?』
「ほんと、あのときはすいません。つい」
つい、佐偽にいわれて、ものすっごくおしい場所に打ちこみしてしまっていたので口にでてしまった。
「緒方先生や塔矢先生も君に興味を抱いておられたよ。君のことを知らせてあげなくちゃ」
「?塔矢のおじさんや、緒方のおじさんはもう俺のことしってますけど?」
「あはは。確かにそうだろうね。そういえば、君と塔矢明君との棋譜作成、緒方先生がやったんだったっけ?」
新聞をみてヒカルの話題となり、若獅子戦にて塔矢明と進藤光が対局した棋譜をなぜか緒方棋士が作成した。
そう確か噂できいた。
そのときの棋譜は今だに彼は手にいれてはいないが。
「まあ、プロ試験、がんばってね。応援してるよ」
「は、はい、ありがとうございます!」

「ほんと、びっくりしたよな~」
二人して今日のことを思い返す。
まさか、あの子供囲碁大会の進行役の責任者の人とはおもわなかった。
『ですねぇ。でも、懐かしいですね。子供囲碁大会』
あのとき、ヒカルは本当の本当に初心者だったのに。
今では本当に強くなりましたよね。
「佐偽。その本当の本当に、ってその念の入れようは何?」
『え?あはははは。そういえば心で強くおもったらヒカルにも今は伝わるんでしたっけねぇ』
「って、話ずらすなっ!」
「ヒカル~!!何さわいでるの!いい加減にねなさ~いっ!」
佐偽と言い合いを始めたヒカルに対し、一階のほうから美津子の声が聞こえてくる。
美津子からすればヒカルが一人で何か騒いでいるようにしか聞こえない。
それはもういつものことなので美津子的にはもはや慣れたものであるが。
「あ、は~い」
『おや、もうこんな時間ですか』
いつのまにか時間はすでに十一時を回っている。
それゆえに碁盤をかたづけて、それぞれ布団にとはいるヒカル達の姿が、
ヒカルの家において見受けられてゆく――

八月三十一日。
火曜日。
八月最終日でもあり、学生たちにとっては夏休み最後の日。
プロ試験十四日目。
残りはあと四日。
「上位五人は全員かってたな。…あんたは?」
「今日は勝ちましたけど…六敗。がけっぷちですよ」
「ああん!?じゃぁ、七敗のおれは崖っぷちに片手でぶらさがってるところか!?え!?
  オレはまだしんじゃいねえぞ!」
「あ、椿さん、かったの?」
「おう」
「オレだって、小宮だって、足立だって、まだ上位との対局がのこってるんだ。そこで上をつぶせばまだわからん」
今のところ全勝しているのはヒカルのみ。
それより下はほとんどダンゴ状態。
二敗、三敗のものがひしめきあっている。
本日の一局目がおわっての休憩時間の合間。
ひょっこりと休憩場に顔をだせば何やら大きな声が聞こえていた。
それゆえに少しばかり顔をのぞかせば、何やら話しをしている椿達の姿が目にはいる。
冷蔵庫にいれていた清涼飲料水をのむ。
アクエリアスゼロ。
普通のアクエリアスよりもさっぱりしていて飲みやすい。
「そういうお前は全勝、じゃねえか。初日知らずに馬鹿いった俺がはずかしいぜ」
対局後にヒカルが噂の院生で若獅子戦で初優勝を飾った子供だ、と本格的にしった椿。
「進藤君は全勝で合格まちがいなし、かな?やっぱり」
「片桐さん。どうかな~?最終戦のあたりがわかんないし。
  最終日の越智なんか、今は塔矢に指導碁依頼してるらしいしさ~」
一応、ヒカルにもいっておいたほうがいい、というのでアキラはヒカルにそのことは伝えてある。
つまりそれはヒカルの手筋を相手に教えることにも他ならない。
塔矢、とは塔矢明を指している、というのはきかずともわかる。
どうなることかやってみなくちゃわかんない。
それが対局ってものでしょ?
子供にそうにっこりと悟られたようにいわれては大人からすれば立つ瀬がない。
「あ、おれ、先に対局場にいっとくね。じゃあね。椿さんたち」
一日目の対局ののち、ヒカルと会話をさらにかわし、椿達はヒカルとはかなりうちとけてはいる。
それでもあいてが強いことにはかわりがない。
とにかく一局、一局を全力で。
そうヒカルはいいたいのであるが、それでも全力を出し切れないのは相手がそこまでの棋力においついていないがゆえ。
椿と話しをしていた初日、
ホテルがどうの、と話していた人物、片桐はそんなヒカルの後姿をみおくりつつも椿と顔を見合わせる。
「とにかく。だ、残り、一敗もできねえな」
「…ですね」
残り、あと四日。
対局は今からのを含めてあと九戦。
そんな会話をしつつも、彼らもまた椅子を立ちあがり対局場にとむかってゆく。
今から彼らが行うのはプロ試験、第二十八戦目。

九月。
「え~!?進藤、しばらく火曜日と土曜日やすみ!?お前何やってるんだよ!?」
九月の一日。
水曜日。
今日は葉瀬中の始業式。
「へへ~、プロ試験」
「試験?何それ?」
「プロって子供でもなれるの?」
ざわざわざわ。
「静かに!静かにしなさいっ!もうっ!」
始業式が終わってのホームルーム。
ヒカルが九月のテストのことを担任に聞いたことから騒ぎは始まっている。
「この九月十一日まで試験があるんだ。だから火曜日と土曜日は休みもらわないといけないから、
  それで、先生、実力テストとかっていつごろあるんですか?」
「火曜日と土曜日…ねぇ。それだと問題ないわね。テストあるのは金曜日だから」
「げっ!?金曜日!?というか先生!それ、いつの!?」
「うわ~!また順位によっては親におこられるぅ!」
何でも九月の十日の金曜日に実力テストはあるらしい。
しかも九月には中学の文化祭もある。
十月にはいれば体育祭、と行事がめじろおし。
「進藤、おまえ、ずるやすみなんじゃねぇのか?」
「囲碁って子供でもプロになれるんだ~、私もやってみようかな?進藤君でもなれるなら」
何やらそんなことをいっているクラスメートたちの姿が目にはいる。
彼らの認識的には、囲碁、というのはお年寄りのもの。
それゆえにだからヒカルですら何とかという大会にかてて、さらには試験までうけられている。
というような認識しかない。
囲碁はそんな簡単なものではないのだが、わからないから簡単にかんがえているのもまた事実。


「奈瀬!本田にかったのか!?」
九月の七日。火曜日。
すでに二学期は始まっているものの、試験があるので、というので奈瀬達は学校を休んでいる。
それはこのプロ試験に参加している子供や大人、すべてにいえること。
「うん。自分でも大満足の一局よ!みてほしかったわ。あんな碁がうてるから……
  ――うてるからプロになるのをいつまでもあきらめきれないのよね」
奈瀬の言葉は飯島や福井達に重くのしかかる。
そうなのだ。
おもいきれないのは、もうすこしがんばれば手がとどくのではないか?
という思いがいつまでもあるがゆえ。
もう合格にはおそらく届かないのはわかっている。
そもそも五敗以上していれば、上位三名の枠にどうしてもはいれない。
「…ありません」
「ありがとうございました」
そんな会話をしているななめ横において、どうやらヒカルたちの対局も終わったらしい。
顔をみればやはりヒカルの相手が負けたことがいやでもわかる。
終わった。
上位五人が崩れてこない、崩せない。
対局がおわり、そんな思いが頭をよぎる。
残り三局。
どうあがいてももう合格は無理。
手合いをしてみれば伊達に若獅子戦で優勝したわけではない、というのがいやでもわかる。
圧倒的なまでの力の差。
盤面の途中から手がかわってくればなおさらに自分に合わせて相手がうってきているのだ、
といやでも自覚させられてしまう。
去年は一人だけ、塔矢明が抜きにでていて実質合格枠は二名、という厳しい戦いだった。
そして、今年もまた、今まで名前すら聞いたことのなかった、若獅子戦で初めて名前を聞いた目の前にいる子供。
進藤光。
彼もまた塔矢明同様に抜きにでており、今年もまた実質枠は二名。
すでに七敗に突入してしまった片桐はどうあがいても今年の合格はない。
来年は…来年はどうする?
いつまでもフリーター、というわけにはいかない。
そもそも毎年、友達などに迷惑をかけるわけにもいかない。
しかも、試験のさなかは仕事もできないのだから、いつでも休ませてくれるバイト先などあるはずもない。
「勝ったのか?」
「あ、椿さん、うん」
対局がおわったので、対戦表の勝敗をつけているヒカルにと声がかけられてくる。
みればそこには椿の姿が。
「けっ。予選のときにお前を始めてみたときには俺にびびってたようにもみえてたのによ」
てっきり予選をうける院生かとおもいきや、エレベーターの中で予選免除、といわれた。
それでもそれほど強くはないのだろう、とタカをくくっていたというのに蓋をひらいてみれば若獅子戦の優勝者。
人は見かけによらない、とはまさにこのこと。
ヒカルはぱっとみため、前髪を染めているちょこっとかわった男の子にしかみえないのだから。
実際は染めているのではないのだが。
そのあたりは、親が配慮して小学、中学とともに医者の診断書を学校にきちんと提出している。
それでも小さいころは金髪に染めている、といじめの対象にもなったヒカルなのだが。
独り言のおおいい、かわった子供。
椿からしてみればヒカルの印象ははじめはそうだった。
自分の姿と声に畏縮している院生の子ども。
「……プロ試験を受験する年齢制限ギリギリになってやっぱり一度は挑戦してみてぇ、とぶつかってみたが……」
それでも普通に仕事をしていた自分と、日々技をみがいている相手との差は歴然としている。
「?椿さん?」
「とうとう、崖から手がはなれちまった」
今日、勝ったはかったが、それでも七敗。
上位は崩れてこない。
二敗と三敗のものがひしめきあっている。
今日、ヒカルは和谷と対局し、そして勝った。
「おい、以前、バイクにのってみたい、っていってたな」
たしかにそんなことを話しはしたが。
「来いよ!駅までのってけ!」
「え?いいの?」
というか、佐偽、バイクにのるの初めてだけど大丈夫かなぁ?
おまえ、しっかりつかまっとけよ?
バイクにのせてもらえるのはかなり嬉しいが、佐偽のことがかなり気にかかる。
それゆえの忠告。
『あの鉄の乗り物にのれるんですか?!わ~い!!』
たのむからさわぐなよ?
何となくだがものすごく嫌な予感がするのは気のせいではないであろう。
そんなヒカルの思いは何のその。
佐偽もときどき走るバイクとよばれている乗り物を幾度かみているので一度はのってみたかった。
それゆえに子供以上にはしゃいでゆく。

ドドドドド!
うわ~、風がすごい。
車と違い、バイクは直接風があたる。
しかも、背後のマフラーなどからはものすごいエンジン音のようなものが聞こえて耳がいたい。
普通のバイクではここまでおとはでないのをみれば、このバイクは高性能のバイクなのであろう。
ヒカルはそれほどバイクの種類に詳しくはないが、それでも一般免許で乗れるという通常バイク、
とは違うことくらいは何となくだが理解できる。
おそらくこれは俗にいわれている、原付バイク、とはかなりかけ離れているものなのであろう。
『うわ~、うわ~、何もしないのに景色がどんどん遠ざかっていきますよ!?』
だから、危ないからひっばるな、騒ぐなっ!
椿の後ろにのっかり、しっかりと椿の体に手をまわして自分の体を固定する。
さらにそのヒカルの体をヒカルにいわれてつかみつつも、その後ろで騒ぎまくっている佐偽。
それゆえに心の中でおもっきり叫ぶものの、佐偽のはしゃぎようはとまりそうもない。
「ああもう!佐偽!だからひっぱるなってばっ!」
それゆえに思わず声にだして叫んでいるヒカルであるが。
「?」
ものすごいまでのバイクの音にかき消され、何やら後ろでいっているヒカルの独り言らしき声はよく聞き取れない。
何かいっているのはわかるが、それが自分にむけられている言葉でないことくらいは何となくだがわかる。
「おめえはいま全勝か。しかもまだまだのびていってやがるっ!」
そう、伸びている。
試験が始まった初日から今日までヒカルはたしかに成長している。
ヒカル自身は気がついていないが。
バイクを運転しつつも、後ろにいるヒカルに話しかける、というよりは独り言のように叫ぶように言う椿。
「オレはちっともかわらなかった!その差か!」
普通は対局を重ねるごとにのびるものはのびてゆく。
だが、椿にはそれがなかった。
「?椿さん、何かいった?って、だから佐偽!うわ、おちるおちるっ!」
椿に気をとられてそちらに意識を集中すると同時、佐偽が何を考えたのかおもいっきり身を乗り出して横のほうをみていたりする。
はっきりいって視えるがゆえに心臓にわるすぎる。
『うわ~、ヒカル、ヒカル、こうやったら地面スレスレで移動していきますよ~』
たのむから!頼むから危ないからやめてくれっ!
佐偽は幽霊なので危ない、ということは絶対にないのだが。
視えるほうからすれば心臓にはっきりいって悪すぎる。
佐偽からしてみれば、こんな早い、しかも生身で移動できる乗り物など初めてなのではしゃがずにはいられない。
「しっかりつかまってろよっ!」
オチル、ということばのみがかろうじてききとれる。
それゆえに、ヒカルに注意を促し、そのままぐっとアクセルをさらに強く握りしめる。
「…プロになるのはお前にまかせた!嵐をおこしてやれっ!」
ブォッン!
それと同時にさらにエンジンの音が高みを増す。
そう、彼ならば囲碁界に嵐をおこせるであろう。
この五月の若獅子戦のときのように。

「あ、進藤君、合格おめでとう。この前いおうとおもったら君、いつのまにかとっととかえってていえなかったからね」
九月の十一日の土曜日。
プロ試験最終日。
棋院にやってきたヒカルの姿を廊下で見つけて声をかける篠田の姿。
「先生、でも今日まだ二局のこってますよ?対局はやってみないとわからないですし」
「あはは、君らしいね。だけどあとはニ敗、三敗と四敗の人が多いからね」
今のところ二敗しているのは越智と和谷。
「今日、進藤君は越智君と、だったよね」
「はい。二局目ですけど」
「今日で試験は最終日。あまり気負わないようにね」
「はぁ。とりあえず今の心配は、昨日のテスト結果かなぁ?」
あの実力テストの結果次第でまたおそらくおこずかい停止もありえるかもしれない。
理数系は確実に満点の自信はあるが、何しろ英語がほとんどわからなかった。
教科書丸暗記、という手が実力テストにおいては使えないのだ。
この間、和谷と普通の手合せをしたときにいい方法を彼から聞いた。
何でもオーリング占いとかいうやつで、正解率は八十%以上らしい。
AとBなどという選ぶ形式で迷ったときにはそれでやればほぼ確実にテストの点はとれる、とのこと。
ちなみに和谷はそれを彼の先輩にあたる森下門下の冴木、という人物からきいたらしい。
穴埋め問題の記号の問題でどこまで点がとれたかにテスト結果は左右されるであろう。
「成績わるかったらまたおこずかいとめられるか減らされるし……」
そもそも、通帳も自由にさせてはもらえない。
「若獅子戦の収入があるんじゃないの?」
「カードももたせてもらえてないから無理です」
「…なるほど」
それでも、一応は自分で得た収入だから、というので一応遅めではあるが母の日プレゼント、
という名目でいい加減に買い替えなければやばかったテレビを買い替えたりもしたのだが。
何しろヒカルの家のテレビはいまだに地デジ対応になっておらず、このままではテレビがみられないかも。
という状況になっていた。
それでも、両親いわく、もう少しすれば安くなるかもしれないから、というので買い替えをだいぶ様子をみていたらしいが。
あとは、冷蔵庫もかなり古いのでついでに春の決算セールをやっていたのもあり。
母にもいろいろと多少迷惑かけたから、という理由でその賞金で買い替えた。
あとは先月の旅行で数万使った程度である。
それゆえに通帳にはいまだに百万以上は軽くのこっている。
のこってはいるがヒカルの自由にならないお金であることには違いない。
まあ、たしかに。
プロ試験も重要ではあるが、ヒカルくらいの男の子には何よりもおこずかいが優先されるのは仕方ないであろう。
おもわずヒカルの言葉に苦笑しながらもうなづく篠田。
「そういえば、最後の対戦相手は越智君、だったよね。君」
「はい。何か越智って塔矢に今指導碁習ってるらしくて。塔矢からも連絡はいってますし。
  どんな手をうってくるかだから多少楽しみでもあるんですけどね」
アキラがヒカルの手をどのように越智につたえ、そしてまた打開策を立てているのかが多少興味がある。
「そういえば、今、塔矢君は棋院からの依頼で家にでむいての指導碁をやってるらしいね。
  でも、君はそれでもよかったの?」
「相手の手の打ちを知るのは勝負では当然のことでしょ?
  それに、より高い目標を常にもてばおのずと高みを目ざすことにもなりますし。
  別に合格したくないとかいうわけじゃないけど、そちらを優先してればおのずと勝敗はついてきますし」
佐偽もよくいってるし。
相手を知るにしてもまず己をしり、そして相手をしり、そして第三者を知れ…と。
一人の目では見えないものも、他の視点からみればおのずと見えてくるものがある。
より高い目標をとらえることにより、気づけば常にそこにいつも勝負の勝敗はある。
すべては日々の努力とそのときどきの判断による結果。
そう、佐偽からヒカルはきかされている。
「ま、そうなんだけどね。しかし、より高い目標ねぇ。
  ま、どちらにしても、君の合格はもう決定してるから、あまり無理しないようにね」
「はい」
合格決定、といわれてもピンとこないヒカルである。
そもそも、最後まで打ち切っていないのに合格、とかいわれても確かにピンとこない。
ちなみに、昨日の電話でアキラからも合格おめでとう、という声はうけている。
そのときに、アキラから面白い話を聞くにはきいたが。
「しかし、何で越智って塔矢のおじさんの研究会にはいりたいんだろ?」
ヒカルからすればそれは素朴な疑問。
確かに塔矢行洋名人の研究会はいろいろと学ぶことが多いかもしれない。
しかし、いきたいのならば自由にいけばいいのに?
というのがヒカルとしての感想でもある。
「進藤君?」
「あ、いえ。昨日、塔矢が電話で、越智が俺にかったら塔矢のおじさん…いや、塔矢名人の研究会に通わせてくれ。
  っていってきたっていってたから。いきたいんならそんなのいわずにお願いしていけばいいのに、とおもって」
ヒカルはどうも、アキラを基準に考えるところがある。
それは世界に名だたるといっても過言でないあの塔矢行洋ですら、アキラの父親、という目でみているところがある。
普通は、あの塔矢名人の息子の塔矢明、とみるのが通常だ、というのに。
「君はいったことあるの?」
「何かいつも塔矢のおじさんとは都合があわなくて。家にいってもいつもほとんどいない、かなぁ?
  あ、でも名人の門下生とかいう人たちとは時々会うけど」
それで手合いをして勝っていたりする実情があったりするのだが。
最も、佐偽が打ちたがるのでそういうときはヒカルも佐偽がどのように対局するのかみたくて、
自分がうったのちに佐偽に打たせていたりもする。
「まあ、君と塔矢君は仲、いいものね。おっと、引きとめてわるかったね」
「あ、いえ。じゃ、先生、またあとで」
「がんばってね」
ふと話し込んでいたらいつのまにか対局時間が迫っている。
それゆえにヒカルは休憩室に、篠田は手合いの間にと入ってゆく。

「あ、進藤君、おはよう」
「あ、おはよう。奈瀬。それに飯島さん」
ふとみれば、椅子にすわり、互いに向き合い話しをしている二人の姿が目にとまる。
「あれ?他のみんなは?」
「和谷達は先に手合い場にもういってるぜ?お前は?」
「あ、うん。これ冷蔵庫にいれとこうとおもって」
来る時に見つけた100%ブルーベリージュース。
五百円と高かったが、だけどもブルーベリーは目にいいので買ってきた。
「あ、いいな。それ、ブルーベリー100!?どこにあったの!?
  それいっつも売り切れなのよ~」
それを目ざとくみた奈瀬がヒカルにそんなことをいってくる。
「来る途中の小さな商店」
佐偽が変わったものがある、とダダをこねたので見るだけ、といって入ったところみつけたこの飲み物。
母たちも結構気に入りそうなのでとりあえず飲んだ後に容器くらいは持ちかえろうとおもっているヒカル。
「進藤、帰りにその店、おしえてっ!」
「奈瀬。お前そんなにそれ、好きなのか?」
「何いってんのよ。飯島。ブルーベリーよ!?ブルーベリー!
  100%ってなかなかないんだから!目にいいんだからあんたも飲みなさいよねっ!
  毎日飲んでたら視力がかなり回復するわよ?」
実際に、ブルーベリーを毎日飲んでいて視力が回復した、というデータも実証されている。
「そういえば、何はなしてたのさ?二人で?」
何だかヒカルが部屋に入る前、何か話しをしていたような気がする。
それゆえに気になってといかける。
「いや、和谷には悪いけどフクのほうが有利って話ししてたのよ」
「そういえば今日のニ局目、和谷とフクだったっけ?」
「和谷はフクが苦手な上にプレッシャーもかかってるだろうしな」
そのプレッシャーにおいて今日の二局もどうなるかわからない。
「もしかしたらプレーオフにもちこむかもね」

「ねえねえ、プレーオフって何?」
がくっ!!
がたたっ。
横でしばらく最終日の対局のことを考えてふさぎこんでいたほかの受験生がその言葉をきき思わず椅子から転がり落ちる。
奈瀬と飯島はといえば、おもいっきりテーブルに顔をつっぷしてキスをしているのが目にはいる。
「ねえねえ、何なの?ねえ?」
「し~ん~ど~う~!!あんたねぇ!プレーオフもしらないわけ!?」
「…頭いたくなってきた……」
おもわず叫ぶ奈瀬に頭を押さえてうなるようにいっている飯島。
進藤光のその手の知識が皆無すぎる、というのは知ってはいたがまさかそれまで知らない、
とは夢にもおもってもいなかったのである。
「篠田先生が説明してたでしょ!?」
ちょうどその説明のときに佐偽がいろいろと質問してきてそちらに気をとられてヒカルはきれいさっぱり聞いていなかった。
「そうだっけ?」
「…プレーオフは、勝ち数の同じ人が並んだときに決戦対局をすることだよ」
はぁ~。
緊張していたのが何だかばからしくなってしまう。
休憩場にはいれば、ちょうどヒカルがプレーオフって何?
と奈瀬達にきいたところ。
おもわず彼もまたずっこけそうになったが、頭をかかえてしまうのは仕方ないであろう。
対局場に先にいっていたが気分がたかまり、どうしても気分をおちつけようと飲料をとりにきた。
「あ、和谷」
「あ、和谷。じゃねえ!進藤!てめぇはっ!今の今までそれも知らずに試験うけてたのか!?てめぇっ!」
「ギブ!和谷!ちょっ、ギブっ!!」
そのまま、おもいっきりヒカルの頭にとヘッドロックをかける和谷。
すでに合格決定だ、というのにこの無恥具合。
ヒカルのことを知らなければ馬鹿にしている、とも思われてもしかたがないが。
だがしかし、院生仲間からすればヒカルの囲碁界に関する知識のなさは有名すぎる事実。
それゆえに呆れる以外の何ものでもない。
「今のところ三敗してるのが伊角さんと、あと外来の人か。本田は四敗、か」
今日の対局で今後の結果、つまりはプレーオフになるかならないかが決まる……


                                -第48話へー

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あとがきもどき:
薫:さてさて、次回でようやく試験結果vよ~~やくヒカルの新初段シリーズにもってけそうです(笑
  何はともあれ、また次回にてv
  というわけで(何が?)例のごとくに小話をばvv


「ありがとうございました」
「ありがとうございました」

何だか気のせいか対局中にものすごく脂汗を流していたような気がするのは気のせいか。
「?進藤さん?」
そのまま対局がおわり、声をかけようとしても何やらうずくまるようにして動かない。
「…たたた…ったぁ……」
対局中はそちらに集中しないといけないのでどうにか痛みをこらえていた。
だがしかし、対局がおわれば気力でどうにか押さえていた痛みがあっという間に押し寄せてくる。
そもそも、臨月だ、というのに手合いも休まずにきちんと対局にでているヒカルの精神はあるいみすごい。
「って、もしかして君、陣痛はじまってるんじゃないの!?」
ざわ。
大手合いの対局のさなかである。
それゆえに迷惑をかけないように打ちきるつもりではあった。
実際に最後の一局まで打ち切ったところで気力もつきた。
「あ…あはは…ヒルごろからちょっと……」
「って、そういうことははやくいいなさいっ!って、車、くるま!!!!」
ざわざわざわ。
「って、ヒカルの馬鹿っ!何むりしてんのよっ!」
「だって、明日美~。手合いあけるわけにはいかないし」
「そういう問題じゃないでしょうがっ!もう、あんたってばっ!
  って、佐偽さんに連絡しなきゃっ!破水は!?」
「さっきトイレでもうでてる。それに佐偽は今は飲み物かいにいってもらってる……」
「ってそれこそむちゃしてぇぇぇぇ!!」
すでに破水がおわっているのにそれでもがんばっているのはさすがとしかいいようがない。
心配をかけまいとして平常心を装っているものの、佐偽からすればヒカルが何か無理をしている。
というのが伝わったのであろう。
とにかく何か必要なものはないか。
といわれてヒカルが頼んだのはポカリスエット。
棋院の中の自動販売機にはないので近くのコンビニに佐偽は買いにいっている。
対局の邪魔にならないようにナプキンを当てて対局に臨んだヒカルはあるいみプロ根性、といえるであろう。
わ~わ~わ~!!
大手合いの未だに対局がおわらない人々がいるそんな中。
にわかに棋院の中は騒がしくなってゆく……
それでも、しっかりと勝ちを守っている、というのはさすが進藤光、なのであろう。
買い物からもどった佐偽がヒカルが産気づいた、ときいてかなりあわてまくったのは…いうまでもない……


かなり短めでv
ヒカルが出産時の光景なのですv
ちなみに、大手合いのさなかに産気づいたけど、手合いの最中だから、といって我慢してたヒカルです。
んで、対局がおわって張り詰めていた気力低下しておもいっきり陣痛におそわれてうごけなくなってるヒカルだったり(まて
気力はけっこうどんな状況でも無理を可能にします、からねぇ。
(熱がいくら高くても気力でどうにかなるのと同じく)
そのまま、棋院の内部は大騒動とかしていきますが(笑
まあ、妊娠出産は女性であるがゆえの原理ですからしょうがない、といえばしょうがない(だからまて
連絡のいった美津子たちとともに病院にかけつけて無事にヒカルは女の子を多少の難産の後にと出産ですv
ではでは、また次回にてvv

2008年8月31日(日)某日

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