まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

さてさて、一気に話しをとばして、ようやくようやくヒカルのプロ試験v
ちなみに、最後の恒例の小話は裏設定の暴露などをばv(こらまて
とりあえず、あまり意味になってないけど、原作&アニメ見てる人のみにはわかるはず。
というわけでプロ試験開始をゆくのですv

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三泊四日の本因坊秀策ゆかりの地を巡る旅行。
ヒカルにとっても佐偽にとっても思いで深いものとなったのはいうまでもない。
そしてまた。
「よっし。これでよし…と」
とりまくった写真をつかい、自由研究をこなしてゆく。
佐偽からきいた虎次郎の軌跡。
それらを踏まえての時代背景を兼ねての史跡めぐり。
自由研究としてはかなりこっている内容ではあるが、囲碁の、
しかも本因坊秀策のことに詳しくなければはっきりいって意味はわからない……

星の道しるべ   ~プロ試験開始!~

プロ試験、初日。
「お、進藤」
「あ、和谷」
八月一日、日曜日。
プロ試験本戦開始の初日。
日本棋院、囲碁研修センター。
いつも通いなれている場所のはずなのに今日は何だか多少緊張してしまう。
「大丈夫か?おまえらしくもない、何か緊張してないか?」
「だってさ~。大人相手に碁、うつんだろ?まあ、対局はじまったら気にならないからいいけど」
どうやら試験に受かる云々、というよりも相手が大人、というのに戸惑いを感じているらしい。
「おまえなぁ。あれだけ碁会所で大人とうってただろうが」
「でもさ、やっぱり緊張しないの?和谷は?」
「おれ?俺はまあいく度もうけてるしな」
緊張していない、といえばウソになる。
おそらく実質的に今年の合格枠もたったの二名。
ヒカルが雰囲気にのまれてポカをしないかぎり、まちがいなく二名なのだ。
「まあ、緊張してるのはお前だけじゃないしな」
おそらく院生仲間は全員おもっているはずである。
今年の枠も実質二名である、ということを。
しかも今だにヒカルの実力は院生の誰もが測りかねているのだから。
「あ、おはよう。進藤君」
「おはよう。フク」
院生仲間の顔をみればほっとする。
「なあ、勝ってきたドリンク、この冷蔵庫の中にいれてもいいんだろ?」
「パンいれたらまずいかな?」
「別にいいんじゃない?」
何やらそんな会話が繰り広げられている。
「進藤。おはよう」
「あ、伊角さん、おはよう」
ふと部屋にはいればそこに見慣れた顔をみつけて返事を返す。
と。
「おうっ!ボウズじゃないか!ひさしぶりだなっ!」
「って、うわ!?クマおやじ!?」
「って誰がくまだ!?ああん!?」
いきなり背後から声をかけられ思わずその顔をみて思いっきり素直な感想を叫んでいるヒカル。
ク…マ?
プククククッ。
ヒカルの的を得ているその言葉に、一瞬そのけむくじゃらの男性をかいまみて、
その場にいる誰もがおもわず含み笑いをこらえだす。
それほどまでに的確な表現、といえるのである。
この場には全国から勝ち抜いた予選を通過した人々が集まってきている。
緊張した中でのヒカルのひとことはガチガチに緊張していた受験生たちの緊張をほぐすのは十分すぎるほど。
彼も週刊碁など囲碁関係の雑誌を少しでも当時みていればヒカルのことを知っていそうだが。
その時期、彼はそんなものは目にしていなかった。
それゆえにヒカルが若獅子戦で優勝した子供、などとは夢にもおもっていない。
「またあったな!ボウズ!しかし、クマとは何だ!?クマとは!?」
「だって、俺、おじさんの名前しらないもん」
何だか篠田にいっていたような気もしなくもないが、そこまで詳しくヒカルも覚えていない。
「椿だ!つ、ば・き!そういうお前の名前は何なんだ?」
「俺?俺は進藤光」
「シンドウ?」
はて?
どこかできいたような?
きのせいかな?
椿、と名乗った人物が首をかしげると同時、一瞬ざわりと会場内がざわめき立つ。
容姿はしらなくともその名前くらいは一応ほとんどのものが聞いたことくらいはある。
院生ながらに若手プロをけちらして優勝をとげた子供の名前。
それこそがシンドウヒカル、である。
「あ、でも、前のときにはおもわなかったけど、おじさん、結構かわいい顔してるよね。
  河合さんのほうがあるいみ濃いかな?」
「あ~、あの人はたしかに濃いいな」
以前、一緒に旅行したことがあるがゆえにおもわずヒカルの言葉に少し離れた場所に座りながらも同意する和谷。
「あん?河合だぁ?」
「えっとね。いつも俺にこういうことするひと!」
いいつつも、いきなりぐしゃぐしゃと椿、となのったあいての頭をなでるヒカル。
「って何するんだ!やるならその河合ってやつにやってやれ!」
「え~!?河合さんには怖くてできないよ!」
何しろ相手が子供、というのにビールを進めてくるような人物である。
旅行中も必至に芦原がそんな彼を止めていたのは記憶に新しい。
「まあ、いいさ。予選免除ってことはお前もそこそこつよいんだろ?
  だが、勝つのは俺だけどな。がっはははは!」
何やらそんなことをいっている。
そんな彼から離れた場所では、
「あの彼にそんなこといってるあの人ってつよいの?」
「どうだか。気づいてないだけなんじゃないの?」
ぽそぽそとそんな会話をしている受験生たちの姿が目にはいるが。
どうやら椿からしてみればそんな彼らの姿はまったく目にはいっていないらしい。
せめて緊張とかしてくれていたら少しは勝算はあるのに。
そんなヒカルの様子をみながらそんなことを思う飯島。
ヒカルが緊張してまともな碁をうてなければ合格枠は一つあくことになるのだから。
だが、どうやらそんな願いは打ち砕かれているようである。
「ま、対局時にはよろしくたのむわなっ!がはははは!」
ものすごく響く大声をだす椿であるがゆえにかなりその声は会場いっぱいに響き渡る。
中にはそんな彼に同情めいた視線をおくっている受験生もいたりするのだが、やはり椿は気がつかない。
そもそも、プロ相手に勝つほどの実力をもつ院生の子ども。
そんな彼においそれと勝てる…などとは、到底おもえない。
そんな棋力があるのならばとっくにいい年をこいている男性は試験に合格していなければ嘘である。
「はい。お弁当を注文する人はここにかいてください」
「お、弁当か。お前は?」
「あ、おれはいい。お母さんがお弁当つくってくれてるから」
まさか息子がプロ試験をうける、などとはおもってもいないが。
いつもの日曜日の手合い、そうおもい、暑いので外に食べにいくのも何だから、とお弁当をヒカルに持たせた美津子。
ヒカルは試験をうけることを両親にまだ話していない……
「注文は十時までにしてくださいね」
係りのものがそんなことをいってくる。
「佐偽。ひとあし先に対局場にいってようぜ」
『ですね』
この場はどうやら先ほどのヒカルの自己紹介に全員がこちらに注目してるようですし。
ヒカルはまだ気付いていないようですけど。
和谷達はお昼を頼むのに移動しており、ヒカルの独り言はきいていない。
「あ、和谷。伊角さん、フク、おれ、先に手合い場にいっとくね」
「あ、僕もいく~。そういえばさ、進藤君、先月本因坊秀策めぐりしたんだって?」
何だか緊張感がかけている。
そんな会話をしつつも部屋をでてゆくヒカルたちをみつつ他の受験生はそんなことをふとおもう。
「うん。いろいろとまわったぜ?」
つまりは、旅行をする余裕すらもある、ということなのかもしれない。
それゆえに何ともいえない緊張感がその場に広がる。
中には実力がないから神頼みにいったのか。
そう彼の名前を知らないものは思いもするが、そうでないのは明白。
若獅子戦にすら優勝する子が、お参りすれば半目強くなる、ともいわれている場所にいったらどうなるのか。
その怖さは計り知れない。
そんな受験生たちの思いを知る由もなく、ヒカルは福井とともに対局場にと向かってゆく。

「しかし、本戦って二か月もあるんだよな」
「そうだね。八月はまあ夏休みだからいいけど、九月からは学校はお休みもらうようになるかな?」
「うわ~、テスト期間とぱっちりまた重なるし!…先生にまたお願しなきゃなぁ~それか次期がずれてたら助かるけど」
プロ試験本戦は日曜、火曜日、土曜日の週三日。
それを二か月かけての総がかり戦。
今年の出場者は三十六名。
すなわち、一人当たり三十五回ほど対局することになる。
日にち的には十八日ほど試験はある。
九月の十一日まで試験がある計算となる。
九月の中ほどにテストがあれば問題はないが、はじめのころにテストがあればおもいっきり重なってしまう。
「帰ったら先生に九月のテストきいてみよ」
たしか全国模擬テストがあったはずである。
中間テストはたしか十月のはずだからどうにかかわせる。
『今日の対局相手はどうきめるんですか?』
「確か、塔矢がいってたけど、クジとかいってたっけ?」
何だか口をすっぱくして試験の概要を旅行中にと聞かされた。
「合格者は上位三人…か、今の俺でどこまでやれるかわかんないけど、とにかく全力をつくすまで、だ!」
「…進藤君ってほんっと自分の力に自信もってないよね……」
おそろしいほどの力をもっているのにヒカルは無自覚。
それゆえに福井とすればあきれざるを得ない。
どうしてそこまで自分を信じられないのか福井はわからないが、
まあいつも常に佐偽をみているがゆえにヒカルの感覚も仕方ないのかもしれない。
【時間になりました、全員対局場のほうへきてください】
棋院の中に院内放送が流れだす。
受験者がどこにいるかわからないのでどこにいてもわかるように放送で流すようにしてあるらしい。
「はい、それでは抽選をはじめます。名前を呼ばれた人は前にでてきてください」
『たしかクジをひくのは初日の今日だけ、でしたっけ?』
「たしか、すでに対戦の組み合わせ表はできていて、番号がきまれば自然とわかる、だったとおもうけど」
「あのヒゲオヤジ、またもしかしたら予選のときみたいにするのかしら?」
「?何かあったの?」
小声でそんな会話をしているヒカルたち。
ヒカルを挟んで福井と奈瀬が座っているのでそういう会話もこの場ではなりたつ。
「椿君」
「はいっ!!!!」
何やらものすごく大きな声をだして抽選の場にとむかってゆく先ほどの男性。
「あ~、やっぱり。またみんなを動揺させるきよ、あれは」
「あの人、予選のときもあんなだったよね」
「そうそう。しかも、対局開始でいきなり三十分以上も席はずしてさ!
  進藤君がおしえてくれたけど、そのときバイクで遠乗りにでかけたんだって」
「うわ~、たしかに知らなきゃ動揺するね。それは」
奈瀬と福井のそんな会話をききつつも、苦笑するしかないヒカル。
そのことはヒカルは一応奈瀬からさんざんぐちをきかされたので知っている。
「進藤君」
「あ、はい」
ざわ。
「あいつだよ。進藤光って」
「ああ、あの?」
「本当に子供なんだ……」
何やらぼそぼそとしたそんな会話が受験生の間から聞こえてくる。

ヒカルはどうして名前を知られているのかわかっていない。
何でみんな名前しってるのかな?
程度で首をかしげながらもクジをひく。
「七番です」
「はい、紙はもっていてくださいね」
七番の場所にヒカルの名前が書き込まれる。
今回の試験をうける人数は三十六人。
やがて全員の名前が呼び終わり、それぞれ対局場が示される。
そのまま、促されるままにそれぞれに席にとついてゆくヒカルたち。

「お!ボウズじゃないか!まさか初戦にあたるとはな!こりゃ、さいさきいいぜ!」
相手をみればさきほどのクマおやじこと椿、となのった男性である。
「うわ~。進藤も私と一緒で運がわるいわね。そいつと初日からあたるなんて」
「いらんこというなってば」
ちょうどま後ろで対局となっていた奈瀬がそんなことをいってくる。
「では時間となりました。持ち時間は一人三時間。
  秒読みは一手一分、コミは五目半。では、はじめてください」
係りのものの声に従い、手合い場に対局はじめの挨拶が響きわたる。
先番はヒカル。
よっし。
ぱし。
それゆえに、すっと意識を集中して、ぱしっと一手目を打ちこむヒカル。
と。
「…ちょっと失礼」
え~と。
まさか本当に一手目を打ちこんだ直後に席を離れるとはおもってもいなかった。
奈瀬がいうには三十分以上、もどってこなかったらしい。
その間、延々とまっているだけ、というのはかなり暇すぎる。
『おやおや。まさかすぐにいなくなるとは……』
「どうしよ?」
佐偽?
『このままひたすらただまっているだけでも暇ですよねぇ~』
だよな~、あ、そうだ。いいこと思いついた。っと。
そもそも、持ち時間は今だに相手の中である。
席をたってもヒカルの持ち時間にまったくもって影響はない。
たしか、進行委員に篠田師範がいたはずである。
きょろきょろとみてみるが、机の前にすわっていたはずの篠田の姿が見当たらない。
それゆえに、篠田に少しばかりきいてみようと、ヒカルもまた席をたってゆく。

カチャ。
こぽこぽ。
ふぅ。
「ああ、弁当の注文をしないとなぁ。え~と……」
結構さまざまな種類が揃えられている。
ん?
ふとみれば、休憩場にはいってくる一人の受験生。
対局が始まってものの五分もたっていないのに……
篠田がそうおもっている中、お茶を飲んで一息ついている受験生の姿が目にはいる。
「そう。まずおちつきなさい。ん?あのこも?…ん?」
みれば次々と対局場から受験生たちが外にとでている。
さらには外からはバイクの音すらも。
「普通の対局でこんなことはない。プロ試験というものは、いやはや……」
溜息とどうじに首をふる。
「どうかしたんですか?篠田先生?」
そんな篠田にかかりの一人が声をかけてくる。
「いえね。初日のみんなの緊張が伝わってきてとてもここにはいられません。
  昼まで二階の師範室にいます」
「はい」
いいつつ、篠田がそこから立ち去ろうとすると同時。
「あ、篠田先生!」
「うん?進藤君?どうかしたのかい?」
ふとみれば、手合い場からでてきたヒカルが篠田の姿を見つめて何やら話しかけてきている。
「君も緊張…とかじゃないようだね。何かよう?」
ヒカルもまた緊張してでてきたのかとおもえばそうではないらしい。
何か多少こまったような顔をしているのでヒカルに優しく問いかける。
「あのですね。俺の対局相手がバイクでどっかにいっちゃったみたいなんですよ。
  それで時間が暇で暇で、かえってくるまで手合い場でマグネット碁で棋譜並べとかしてちゃだめですか?
  いつもどってくるかわかんないから他でそんなことできないだろうし」
「あ~…そういえば、さっき一人、バイクででていきましたね。少しまってなさい。
  他の先生方にもきいてみるから。たしかにぼ~とまってても精神もたないよね」
「精神、というか下手したらねちゃいそうで……」
ヒカルは一度ねたらなかなかおきない自覚がある。
がくっ。
そんなヒカルの言葉におもわずがくりとなりつつも、
「ま、少しここでまってなさい」
「は~い」
どうやらこの子はさすがというかプロ試験だというのに気負いがないのはいいことだけど。
それでもこの緊張感のなさはちょこっとどうにかしてほしい。
ヒカルをその場にのこし、多少話しをするためにと篠田は再び会場の中にと戻ってゆく。

「ああ、それは別にかまわないのでは?なるほど、あの子ですか。例の子は」
廊下で何やらぼ~としているように見えるヒカルをちらりとみて篠田にはなしかける別の係り員。
さすがに院生ながらに若獅子戦にて優勝したヒカルの名前はその筋では知れ渡っている。
別に棋譜ならべをしていたからといって周囲に迷惑をかけるわけではない。
碁盤をつかわないのは相手がいつもどってきてもいいような配慮であろう。
「では、あの子にそのように伝えますね」
そんな会話をしつつも、ヒカルの元にともどり、
「進藤君、いいそうだよ?」
「ほんと!?やりっ、これで眠気とぶっ!」
「…進藤君、私がいうのも何だけど、緊張しすぎるのも何だけど、ほどよい緊張は必要だよ?」
「いや、昨日、詰め碁やってて気付いたらねちゃってて……」
それで多少寝不足ではある。
「詰め碁?一人で?」
「え、いや、えっと、ネットで」
「なるほど。まあ、ほどほどにね」
彼の周りには碁をたしなむものがいないのは篠田とて知っている。
何しろ若獅子戦に優勝したときですら彼の両親は無反応。
それはつまり、いまだに囲碁界に関して無関心であることを指し示している。
そういえば、彼はご両親に伝えてるのかな?
ともおもうがあの両親のこと、聞き流している可能性もあるかもしれない。
そんな会話をかわしつつも、ぽんっとヒカルの肩にと手をおき、篠田は二階にとむかってゆく。

あいつってさ、あんな大声だすの、不安からなのかな?
『それもあるかもしれませんね。まあ自声というのもあるでしょうけど』
だけどさ、ひとにちょっかいかけて落ち着こうとするのは周りに迷惑きわまりないんだけど……
パチパチ。
対局場においてある碁盤の上に小さなマグネット碁盤をおいて佐偽との対局。
奈瀬からさんざんぐちをきかされたヒカルの身にもなってほしい。
奈瀬と飯島が彼に初日翻弄されたことをヒカルはいやというほど聞かされた。
『ヒカル、そこはこうきたら、ここに私がうてば死にますよ?』
「あ」
その手はおもいつかなかったな。
『この場合は、ヒカル、ここにうって様子をみるのですよ。いいですか?この局面だと……』
マグネット碁盤の上にて佐偽とヒカルの対局が繰り広げられているなど、この場にいる誰も知る由もない。
「またせたな」
「あ、もどってきた」
佐偽、続きはまたあとでな。
とりあえず、マグネット碁盤をそのまま横にと置いて碁盤をあける。
「あん?何だ?お前、待ってる間、マグネットで碁をならべてたのか?」
「うん。おじさんが三十分以上退出していたの、院生仲間からきいてたしね」
「けっ、かわいげのないやつだぜ」
何だか子供にしては落ち付き過ぎている。
それが何かいらいらする。
だからといってすでに対局時間を三十分以上も使ったのも事実。
気付けば一時間くらい気持ちを落ち着けていたらしい。
彼もまた実はこれがはじめてのプロ試験。
そんなことをヒカルは知らないが、彼の緊張は並大抵のものではない。
そんな会話をしつつも、椿は自信の一手を打ちこんでゆく。

「食事の時間ですので、うちかけにしてください」
ぎりっ。
何なんだ?このがき?
相手の手筋からは子供にありがちな隙がみあたらない。
さすが予選免除の院生上位だけのことはある、ということなのであろうか。
そんなことをおもいつつも、とにかく必死にひたすらに打ち込みしていた。
そんな中で聞こえてきた係り員の言葉。
「あ、お昼なんだ」
『ですねぇ。時間のたつのは早いですね』
未だにあれから数手しかうってはいない。
それでもあいての力量は何となくだが把握できる。
「おい。お前、お弁当だってな。一緒にくおうぜ?」
「え?別にいいけど」
河合さんよりはこの人強いような気もしなくもないけど、何かでも物足りないんだよなぁ。
そんなことを思いつつもあいまいに返事をするヒカル。
「よっしゃ!じゃ、休憩室にいこうぜ!」
そんな会話をしつつも、ヒカルをつれて椿は手合い場をあとにしてゆく。
「進藤のやつも休憩か、どれどれ?…あまり手がすすんでないな。対局時間は。
  うわ~、相手のひと、ほとんど時間のこってないし」
ヒカルはほぼまるまる時間はのこっている、というのに相手の対局時間は半分をきっている。
「まあ、あいつは開始早々、また予選のときみたいにバイクでどっかにいったみたいだしさ」
ヒカルの対局していた碁盤をのぞきこんでそうつぶやく和谷にそんなことをいっている奈瀬。
ふと、碁盤の下に置かれているマグネット碁盤にと気づいておもわずそれを取り出してみる。
「あいつらしいというか、待ってる間、マグネットでうってたんだ…というかこの棋譜、何の対局の棋譜だろ?」
そこには黒、圧倒的有利ともいえる棋譜が並んでいる。
実際は佐偽と対局していた局面なのだが。
まさか一人で対局ができる…などと誰もおもうはずもない。
「まあ、これ、忘れてるのかもしんないから、もってってやろっと」
「そうね」
マグネット碁盤の石ごと碁盤の下にと置いてある。
ということは、対局者がもどってくる直前までうっており、そのまましたにおいて対局を始めたのてあろう。
それくらいは容易に想像がつく。
とりあえず、マグネット碁盤の上におかれている磁石の石を片づけて、休憩室にと和谷達もまた向かってゆく。

「おい。進藤、忘れもの」
「あ、サンキュー。そういや、片づけるのすっかりわすれてたな~」
休憩室にとはいるとヒカルと対局相手が向きあって食事をしているのが目にはいる。
それゆえにヒカルに近づきマグネット碁盤を差し出す和谷。
「しかし、待ってる間にマグネットで打つなんて発想、お前くらいなものだろうな」
「そう?だって、何かしてないとねそうでさ~。夕べちょっぴし寝不足でさ。
  詰め碁やってて意地になってたらいつのまにかねてたけど」
「お前な~、まさか試験前日までネット碁やってたわけ!?」
ヒカルのセリフに思わずあきれる以外ない。
「あ…あはは……」
彼が詰め碁をするとすれば家に対局相手がいない以上、それはネットでしかできないと和谷は思っている。
実際は佐偽、という相手がいるのでそんなことはないのだが。
和谷達は佐偽の存在をまだ知らない。
「そういえばさ。みんなも、椿さんにもききたいけど、昼休み前の手番って意味あるの?」
とりあえず、その場にいる椿、そして和谷達にも問いかける。
「あん?昼休み前の手番?そんなのどっちでもいいにきまってるだろ」
食事をしつつもとりあえず気になっていたので聞いてみる
奈瀬が彼がそんなことを予選のときにいってきた、というのを聞いていたがゆえのセリフ。
今回はギリギリまで相手が考えていってを打ってきたので手番はヒカル持ちになってはいるが。
「予選のときは椿さん、自分の手番でうちかけたほうがいい、っていってたんでしょ?椿さんは」
いいつつも、ぱくりとお弁当の中にとはいっていたウィンナーを口にと運ぶ。
「うん、いってたいってた、この人」
すかさずそんなヒカルのセリフにうなづく奈瀬。
「それとこれとは話が別だ。予選より本戦のほうが持ち時間がながいんだ。
  本戦はしっかりと休んだほうがいいんだよ」
「適当なことばかりいってない?」
とりあえず、和谷達もまたヒカルの横に座るようにしてお弁当を広げてゆく。
「おい!俺は適当なことをいったことは一度もないぞ!?」
奈瀬のそんな台詞に思わずガタン、と席を立ちあがり何やら叫ぶ椿のセリフに、
「うるさいなぁ」
「あ、飯島さん」
みればテーブルのハシのほうにすわっていた飯島がそんなことをいってくる。
どうやら彼はすでに食事をし終えているらしい。
「何だ、ここは休憩室だろ!?一人になりたきゃ、お前がでてけばいいだろ!?」
というか確かにそうかもしれないが、椿の声は異様に大きい。
それゆえに文句をいわれるのはしかたがない。
「のんきそうだな。あんた。プロ試験おちても職場にもどればいいってことか」
本気でそうおもっているわけではないが、いわずにはいられない。
今回落ちたらあとがないだけになおさらに。
それでなくても、院生順位が伸びなやみ、今後をきめかねている精神状態なのだから。
しかし、そんな飯島の心情を椿が知るよしもなく、
ばんっ!
いきなり机の上をたたいて飯島のほうをみる椿。
そんな彼らの前ではもくもくと食事をしているヒカル達の姿が目にはいるが。
「馬鹿野郎!戻れる職場なんかあるものかっ!予選はな、会社に休みをもらったさ!
  だが、本戦にいくとなれば話は別だ!やめざるをえん!
  何たって試験は二か月も続くんだ。毎週休みをくれ、とはいえんだろ!そんなことしたら首になるにきまってる!」
毎週、自在に休みがとれる職場ならばいざ知らず。
それでなくてもこの不景気のご時世。
そんなことをいえばいっぱつで首を切られるのは目にみえている。
「…どうせたいした会社じゃないんだろ?」
彼のいいたいことはわかる。
わかるが自分の苛立ちを隠したいがゆえについつい余計なことをいってしまう。
「何だと!?」
何かさ、飯島さん、いらいらしてない?
『ですね。彼はあんなことをいう子にはみえなかったですけど』
もくもくと食事をしつつも心の中で佐偽と会話をしているヒカル。
そんなヒカルたちとは対照的に、
「たいした会社はともかく。やっぱりこれだけ休むのは普通できないよね。僕はずっとフリーターだ」
休憩室にいた別の人物が話しの中にと加わってくる。
「…ずっと?」
思わずそんな彼にと問いかける和谷。
それはかなりきついものがあるのではないか?
和谷とて今のご時世の状況は多少は理解しているつもりである。
最近ではネットカフェ難民、ということばすらささやかれているご時世である。
格差がひろがり、働けども働けども最低限の生活すらできない人々もいることを和谷達は知っている。
「試験は今年で五回目さ。顔くらい覚えてくれないかな。予選で毎年あってるんだから。
  まあ、予選とおったのは今年はじめてだけどさ」
いわれてみれば、これまでの試験で彼をみたことがあったような気がしなくもない。
和谷とて試験がはじめて、というわけではない。
今までにも幾度かすでに受けているのだから。
逆にヒカルは今年初めてであり、そしてまた飯島は五年以上前から毎年試験はうけている。
「君達は、東京?」
そんな和谷と飯島をみつつも今度は別の人たちが話しかけてくる。
この場にいるのはヒカル達以外はどうやらみんな大人らしい。
「え?ええ」
「僕は長野からきてる。交通費は二万近くかかるよ。
  火曜日は日帰りで、土日は東京の友人宅に泊めてもらってる。ホテル代うくしね」
安いところでもビジネスホテルでも数千円は一泊かかってしまう。
それが二か月も、週三回つづけばかなりの額になる。
それでも、毎週のように同じ友達の世話になるわけにもいかないが。
彼を応援してくれている友達がいるからこそできる技。
一人暮らしの友人ならばともかく、家族でもいれば間違いなくしょっちゅうお邪魔することは許されない。
無言の圧力というかそのあたりの常識も一応彼らとて持ち合わせている。
「おれはホテルだけど。よくないぜ?ホテルは。いろいろ考えすぎて眠れなくなるんだ。
  友達のところのほうが気分転換できるし、ホテルよりそっちのほうがいいよ」
そんな会話をしていると、さらに別の一人が会話にと加わってくる。
話しを聞いている限り、学校を卒業してのちの試験参加はなかなか難しいことがよくわかる。
学生時代のうちでは、別にクビとか考えなくてもどうにかなる。
まあ高校に関しては出席日数とか単位とかあるかもしれないが。
それでも、社会人よりははるかに恵まれている、といえるであろう。
「けっ。東京の学生さんはのんびりでいいなぁ。お前さんなんかは大学いけばいいじゃないか。頭いいんだろ?」
自分たちとは違う。
まだ若い彼らには大学、という手段もある。
そう、まだ彼らには未来があるのだ。
はじめに文句をいってきた飯島に対し、椿がいいつるのが、
「三流大学いってどうすんだよ……」
その台詞は高校の成績が下がってきている飯島にはあるいみ禁句。
それでなくても担任の教師からどうするのか、とせめられているのである。
進学するにしても、今の成績ではいい場所はのぞめない。
だからといって短期大学などにはいっても就職先ははっきりいってまずないであろう。
世間では学生の売り手市場、とかいわれているがそれは嘘。
ごく一部の、しかも成績のいい学生のみがそういわれているだけであり、
普通の学生にとってはいまだに就職難は続いている。
「でも、いますよね。一流大学いきながらプロ試験もうかっちゃうひとって」
「高校のときプロになって、プロやりながら一流大学受験して合格した人もいましたよね」
「弁護士の資格もってたプロもいたよ?確か」
「何か人生余裕って感じですよね」
「まあまあ、やめましょ。こんな話」
何やら口ぐちに会話に参加してきた大人たちがそんなことをいってくる。
まあ、資格が大事、というのはヒカルでも理解しているが。
以前、遊びでうけてみたい、といったら受験料がたかいからだめ!といって親に怒られたのは記憶に新しい。
「ああ、とにかく勝てばいいんだ!かちゃあ!頭わるかろうが何だろうがな!」
たしかに椿のいうことは一理ある。
あるが、
「それにしても椿さん?あんたの声は大きすぎます」
「そうそう。大体いってることも勘にさわることが多い」
ぷくくっ。
彼らの言葉をきいておもわず笑いをこらえるヒカル。
みればどうやら和谷や奈瀬も笑いをこらえているらしい。
「何だと!?」
「まあまあ、この話はここまでにしましょう。ここで議論してもしかたないですしね」
才能も境遇も人それぞれなれど、この場に集う人々は碁をたしなみ、
そしてよりおおく勝利をおさめたものがプロになれる、というこのわかりやすさ。
それでも合格するのはどれだけ受験している人がいようとも三人という枠は変わらない。
そういいつつも、よそから通ってきている、といっていた人物がヒカルにと視線をむけ、
「しかし、君。今まで何で試験うけなかったんだい?あれに優勝したんだろ?」
「そういえばそうだよね。君、今まで試験で見たこと一度もないし。予選でもみたことない。
  ということは院生だとしても、今まで一度も参加しなかったの?」
若獅子戦にかてるほどの実力をもっているのにそれが彼らには不思議でならない。
「あ~。こいつ、去年の八月から院生になったぱっかりですから」
「それにしてもさ、それまでに外来でうけよう、とかおもわなかったわけ?」
「あ~。むりむり。それは絶対に無理ですよ。
  こいつは試験の概要もまったく知らなかったから。今だに囲碁界のこと、進藤君詳しくないもんね」
「わるかったなぁ!でも去年よりはだいぶおぼえたぞ!?」
「そりゃ、塔矢や先生、さらには俺達も教えまくってるもんなぁ」
「というか、進藤君って棋力すごくあるのに無知すぎるのが脱力しちゃうのよね~」
そんな彼らの問いかけに代わりに答えている和谷と奈瀬。
「?どういうこった?」
一人わかっていないらしい椿が首をかしげるが。
「何だ、椿さん、あんたもプロ試験うけるんだったら囲碁のことにはくわしいんでしょ?
  その子ですよ。進藤光君。院生初の若獅子戦の優勝者」
「・・・は!?」
一瞬何をいわれたのかわからずに思わず逆に目をまるくしてといかける椿と自己紹介した男性。
そういえば、子供が優勝したとか何とか噂できいたことはあるような気がするが。
「気づいてなかったんですか?というか今日の手合い、椿さんでしょ?その子の相手」
「いや、まあ……」
今だに数手しかうっていないので何といっていいのかわからない。
「でも、あれは絶対ブロの人たち手加減してたからですよ。俺強くないもん」
「お~ま~え~は~!まだいうか!?」
「そういうけどな!和谷!最近なんかどんどん佐偽にこてんぱにやられまくってるんだぞ!?
  もし俺がつよかったら少しはおいつくだろ!?」
「あのsaiは絶対に別格!ネットみるかぎり対戦するたびにあいつは強くなってるじゃないかっ!
  そんなやつと普通のやつらを比べるなっ!」
おもわずそんなヒカルにヘッドロックをかます和谷。
「sai?ああ、あのネットの。彼はすごいよね」
「何でも中国のプロや韓国の一流棋士までまけてるらしいね」
「何何?もしかして、君、あのなぞのsaiと知り合いなの!?」
『知り合いというか今ここに私はいますけど』
そんな彼らの質問に思わず突っ込みをいれている佐偽。
実際に佐偽はその場にいるのだが、ヒカル以外にその姿は視えていない。
「あ~。進藤ってそういえば、回りに碁がうてる人がいないからって。
  基準をそのネットのsaiって人にしぼってるみたいなんですよ。
  私もまえ一度対戦したことありますけど、saiは別格ですよね。塔矢名人以上なんじゃないのかな?あれは?」
回りに碁がうてる人がいないって……
その言葉に逆に驚いてしまう大人たち。
普通、子供ながらに碁をたしなむものはすくなからず親のほうが子供よりも必至となっていることが多い。
「世界各国のプロが対戦申し込んでは負けてるらしいよ?ことごとく」
「今ではいつsaiが負けるか、ネット上だけでなく現実でもネット仲間のうちでかけがおこなわれてるしね」
…佐偽、お前なんかとんでもないことに世界中でなってるらしいぞ?
『?私、あの本の中で世界中のプロの人と対局したことあるんですか?ヒカル?』
話しをきくかぎり、そんな感じだなぁ。
和谷にヘッドロックをかまされながらものんびりと佐偽とそんな会話をしているヒカルであるが。
「そういえば、彼と対戦したいがゆえにネットを始めたプロもいるそうだよね」
「saiって日本人、というのしかわかってないからねぇ」
「今だにワールド囲碁ネットの本社には佐偽のプロフィールを教えてくれ、とメールがすごいらしいね」
「秘密主義はわかるけど、ほんと、きになるよね。saiの正体。君、saiと知り合いなの?」
「え、えっと、いつも打ってもらってるんです。…ネットで」
まあ、完全に嘘ではない。
佐偽が指し示すのをヒカルがネットで打っているのでネットで打っている、というのは嘘ではない。
佐偽とうっているのではなく、佐偽の一局をうっている、というのが正解なのだが。
毎日、佐偽に実際に対局してもらっているのでいつも打ってもらっている、という言葉も嘘ではない。
「よくあのものすごい対局者の中でうってもらえるねぇ」
「まあ、彼とうつのはネバリが必要、だけどね。あと運?」
確かに、最近では面倒なので百人切りと称してかたっぱしから対戦申込があれば受けている。
ときどきsaiが強い、といった人をめもっているのでその名前があるときにはそちらを優先するようにはしているが。
「サイ?何だ?それ?」
「椿さん、知らないの?今ものすごく囲碁界では有名なんだよ?
  ネットにあらわれた伝説の棋聖本因坊秀策の再来!とかすらまでもいわれてるのに」
それ、正解。
おもわず一人の言葉に内心突っ込みをいれるヒカル。
「日本人、というのしかわからずに、今まで負けはなし。誰ともチャットを交わすこともなく、
  交わしたとしても短いやり取りのみ。たとえば指導碁を、といったら了解、といったような。
  それ以外のことに関しては相手はチャットを拒否してくるしね。
  たしかどこかの国とかじゃ、佐偽の正体に懸賞金をかけるとかまででてたっけ?」
げっ。
……佐偽、ちょっと普通の対局、これは気をつけたほうがいいかも。
今まで時間があればできるだけ佐偽に打たせていたがそこまで騒ぎになっているなどとはヒカルは知らなかった。
『へ~、私ってそんなに騒ぎになってたんですねぇ。知りませんでした』
「そんなに騒ぎになってたんだ……」
佐偽とヒカルのつぶやきはほぼ同時。
「おまえなぁ。ネットやるんだろ?何でしらないんだよ?!」
「いつも碁をうつだけだし。それ以外では別に棋譜管理に使う程度だし。パソコンって。
  サイトめぐりとかもあまりしないし」
してもいつも決まった場所ばかり。
それでそんな噂をしることなどまずありえない。
さらにいえばヒカルはそのまま入室の場所をお気に入り登録しているのでトップベージすらも最近はまともにみていない。
そんな無駄な時間があれば勉強するか、はたまた佐偽と碁をうっている。
それがヒカルのほぼ日常とかしている。
「まあ、あのsaiを基準に考えてたらそりゃ無理、というものだよ。君」
「ほんと、saiの正体は誰なのかねぇ」
何やらヒカルの若獅子戦の話題よりも話しはsaiの話題に移ったらしい。
椿もまた、若獅子戦優勝、という言葉がきになるものの、そんなに強い人物がいる。
などと今まできいたことがなかったがゆえに驚きを隠しきれない。
「あ、そろしろ時間になる。そろそろ対局場にもどらないと」
いつのまにかそんな会話をしつつお昼をたべていると時刻は一時を過ぎている。
十二時半から一時間食事休憩をはさんでそれから手合いの続きとなる。
次の対局時間は二時半から五時半まで。
一日二局ほどプロ試験の対局は執り行われる。
そんな会話をしつつも、とりあえず時間がせまってきたこともあり、対局場にと戻ってゆくヒカルたちの姿が、
その場においてみうけられてゆく。


「進藤は二勝…か」
まあ、わかっていたとはいえどうしても結果をみずにはいられない。
夜、彼に電話をするよりも棋院の結果で検索をかけたところ進藤光は初日の二局は勝ったらしい。
これから長い、二か月におよぶ試験が始まる。
その間、彼との手合いはできないであろう。
彼がどこまでこの二か月で成長するのか、それはアキラにもわからない。
わからないが、何よりも。
「僕は僕でまけないからな!進藤!」
プロ試験のさなかとはいえ、プロの対局は他の地方の棋院である。
彼は間違いなく来年、自分たちとおなじ舞台にたつであろう。
そのときに彼に恥ずかしくない自分でありたく、またそうありたい。
それゆえに、改めて決意を新たにする塔矢明の姿が、彼の自室において見受けられていることを、
その時間、佐偽と攻防戦を繰り広げているヒカルは知る由もない……


                                -第46話へー

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あとがきもどき:
薫:さてさて。本来、試験においては初日は飯島と、でしたけど。
  予選がなかったのであえて初日は椿氏にしてみました(笑
  彼はヒカルが優勝者である、ということを気づいていなかった、というオチです(まて
  次回でのんびりもののヒカルの両親、にいけるかな?
  ではでは、例のごとくに小話をばv


どうしてこうなったんだろう?
そうおもうものの、佐偽が心配でたまらないのはどうしようもない。
何やらいつのまにやら佐偽と塔矢元名人の対局が決まってしまい、
どこから嗅ぎつけたのかあっという間にその対局の場は設けられてしまった。
しかも、その対局をききつけたほかの棋士たちから棋譜をつけるものまであらわれる。
というヒカルからすれば戸惑い以外の何ものでもない。
さらに、ネット上で噂のsaiと、塔矢行洋元名人の対局の噂をききつけて、
テレビ局までもが対戦の様子を生放送で流してみたい、といいだしてみたからにはもはや大騒動。
佐偽の容姿はかなり人目をまちがいなく惹く。
一瞬、ほうけてしまうほどの美人なのだからそれは仕方ないのかもしれないが。
それでも、ひっしにテレビ局の人々や、そしてまた集まった人々に佐偽の体調を考慮してほしい、
と懇願したヒカルの願いによりどうにか対局は静かなとあるホテルの一室で執り行われることにとなった。
まさか、あの進藤光がネットのsaiとつながっているとは夢にも思っていなかった人々はかなり驚きもしたが、
事情をきかされて、納得したのも事実。
騒ぎになったら佐偽がまた体を壊すかもしれない、というヒカルの願いもあり、
対局は顔をほとんど移さずにおもに局面のみ、ということにて話しはついた。
テレビ局側とすればなぞのネット上の棋士であるsaiがかなりの美男子であるがゆえに放送したいのは山々なれど、
それをいったときにその場にヒカルが泣き崩れてはどうしようもない。
行洋とて再び彼が生死の境をさまようことになるような変化はのぞまない。
それぞれの顔をださない対局の放送。
それを条件づけて対局のテレビ放送は実現した。
何でも衛星放送をつかい世界各国に放送されるらしい。
それほど興味がある人々がどれだけいるのかはわからないが、それでも、ネットというつながりはかなり根強い。
噂は噂をよび、人々は今から始まるであろう末恐ろしいとおもわれる最強の棋士対局を今か、今かとまっている。
「佐偽、無理しないでよ?佐偽も私とおなじで対局はじまったらそればっかりに集中するんだから」
おろおろと心配しつつも声をかけるヒカルが何ともいじらしい。
「進藤さん、大丈夫だって。お父さんもいるんだから、ね?」
ヒカルが彼のことをかなり心配しているのはアキラも十分に理解している。
その事情をきかされていればなおさらに。
最も、アキラは今だに彼が元幽霊であった、ということはきかされてなどはいないのだが……
それでも、まあ幽体離脱してヒカルに頼んで碁をうってもらったことがある。
みたいなことは佐偽はそれとなくアキラにはヒカルの知らないところで話しはしている。
それをきいて、ヒカルのあのはじめのころのあやふやさもどこかすんなりと納得したのも事実である。
彼女がここまで感情をあらわにして心配するのはまずない、といってもいいであろう。
それほどまでに彼のことが大切なのだ、と見ていて痛いほどにわかってしまう。
失恋…だよなぁ。
完全に。
はぁ~…
そうおもうものの、それでもまだ、ライバル、という関係が壊れたわけではない。
恋愛には敗れたかもしれないが。
告白もしないうちによもや死んだはずの人物があらわれて横からかっさらわれるなど夢にもおもっていなかった。
しかしそれでも、アキラとて佐偽の実力はみとめている。
だからこそ、こうして父との対局のおぜん立てを手伝ったのだから。
「大丈夫ですよ。ヒカル。心配しないで」
「それでは、対局を始めようとおもうが、よいかの?」
いつのまに話しがつたわったのか、恐ろしいことにこの対局の振興係りは囲碁界の大御所、
ともいわれている桑原元本因坊、である。
今の本因坊はヒカルがすでに彼からもぎとっている。
それほどまでにヒカルの本因坊に対する思い入れは強い。
そもそも、その号はもともと佐偽がもっていたものなのだから……
「「おねがいします」」
静まり返ったぴりぴりとした空気が漂う中。
碁盤を挟んだ塔矢行洋と佐偽の姿が、しばし見受けられてゆく……


のような感じでv
行洋との対局はヒカルが本因坊タイトルを奪取したのち、という設定です(笑
当時もヒカルが奪取してかぁぁぁぁぁぁなり騒がれましたけどね(苦笑
棋院がまだ未成年、しかも女性、ということでかなりマスコミなどに対してかなり配慮したがゆえに、
あまり大騒ぎにはいたりませんで、佐偽のこともそのときには世間にはばれなかった、という裏設定v
ちなみに、この対局、やはり佐偽の勝ち、だったりするのです(笑
今度は半目とかでなく、一目半もの差がひらいてたりするのはヒカルがすべての棋譜を佐偽に教えたがゆえ(笑
あるいみいいコンビvなヒカルと佐偽なのですv
ちなみに、このとき、ヒカルは実は妊娠中v服でごまかしているので周りにはあまり気付かれてません(まて
もちろん、佐偽との子どもですよーvふふふふふv
何はともあれ、ではまた次回にて~♪

2008年8月29日(金)某日

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