まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。
さてさて。対局はいつものごとくにさらっと流し(こらこら)ようやく若獅子戦、準決決勝v
これがおわれば決勝戦v
その前に天野記者たちにヒカルの事情(?)を知らせてみたりv(まて
何はともあれゆくのですv
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星の道しるべ ~若獅子戦のさざ波~
「おめ~。絶対に常識はずれ!」
「?」
いわれてきょとん、と首をかしげる。
二日目の対局がおわり、いきなりいわれたその言葉。
首をかしげざるを得ないヒカルとは対照的に、
「というか。進藤。三回戦までかってるし……」
「さすがに三回戦突破はきつかったなぁ」
「そういや、越智は?」
「たぶん、あいつのことだからトイレじゃないのか?」
今だに何やら会場内はざわめいている。
それはそうであろう。
院生が三回戦を突破したなど今まで数えるほどしかなくここ数年来なかったこと。
「でもさ。相手もさ、何かにたような一手ばかりうってくるし」
『ですねぇ。自分で定石をつくる、くらいは必要ですよねぇ~……』
そんな和谷の言葉に戸惑いながらも答えるヒカルと佐偽。
「だからって!普通おぼえてるか!?」
「というか、まじで進藤。秀作の棋譜とか全部おぼえたわけ!?」
何でも聞けば相手がどうも秀作などの棋譜と同じような手をうってばかりくるから楽だった、とのこと。
よくよく聞いてみれば、秀作の棋譜はすべて覚えているのでものすごく相手の手筋がよみやすかった、とのことらしい。
実際に本因坊秀作として活動していた佐偽がそばにいることもあり、直接棋譜ならべをかねて石をもうっている。
それゆえにヒカルは呑み込みが早い。
「お前、本当にあのsaiじゃないのか?」
おもわず勘繰りたくなるのは仕方ない、というもの。
「違うってば。いまだに俺、佐偽にはかてないんだぜ!?手加減されまくっててさらに負けるなんてくやしいけどさ~
今はとにかく、ギャフンといわせようと新しい定石を考えてはいるけど、あっさりと殺されてるし」
嘘ではない、嘘では。
ヒカルが佐偽、と表現していても第三者からしてみれば、それはネットのsaiのことをいっているとしかとらえられない。
最近では佐偽とともに新しい定石を考えるのも一つの楽しみとなっているがそれはいわないでおく。
「進藤。そもそも新しい定石云々、とおもいつくお前のその発想が怖いよ」
おもわずぽんっとそんなヒカルの肩に手をおいてしみじみとつぶやく伊角。
「あ。そういえば篠田先生。俺、次の土曜日、中間テストなんですけど、どうしましょう?」
一応、担任には囲碁の大会があるので勝敗の結果からしてテストがあやしい、ということは伝えてはいる。
「君の中学は確か、葉瀬、だったよね?」
「はい」
葉瀬中は囲碁に関してあまり積極的ではない。
これが将棋ならばかなり積極性をもっているであろうが。
「おやごさんは何て?」
「大会なんかより学校試験のほうがだいじ!のいってんばり。それで試験うけられないんだったら院生やめろって」
がくっ。
つまりそれはヒカルの両親はまったく囲碁に関して興味をもっていない、というのを指し示している。
ヒカルの言葉にその会話をきいていた誰もがおもわずこけそうになってしまう。
「というか。お前の親って囲碁にまったく興味ないよな……」
「普通は親も興味をもっているのが常なんだけどね」
溜息まじりにつぶやく院生仲間のそんな会話をききつつも、
「試験で大会に参加できない、というのも不本意だろうから。まあ悪いようにはしないよ」
篠田からしてもそんな理由でヒカルを不戦勝にはさせたくない。
子供のそんな周囲の事情は大人がかってに設けたもの。
それをどうにかするのもまた大人の役目。
「進藤!ここまでくれば目指すは優勝だ!並みいるプロたちをびっくりさせてやれ!」
「あはは。和谷。それむりだって~。ここまでが運がいいだけだってば」
和谷の言葉ににこやかにきっぱりいいきるヒカル。
運だけで囲碁はかてるものではない。
実力をともなわなければそれは無理。
それをこいつわかってるのか?
そうはおもうものの、それを口にはださず。
「しかし。試験か~。俺もそろそろ中間、なんだよな~」
「俺も。俺の場合はもう高校三年、というのもあるしな……」
中学にしろ高校にしろ試験があることにはかわりはない。
テストの日付は学校よりさまざまとはいえ、それはどうしても避けられない行事。
「私なんか今年は高校になって初めての試験だよ。あ~、絶対にわけわかんない~!
まあ、しばらくは碁をやすんで徹底的に試験勉強するしかないけどさ~。手合い日はともかくとして」
高校は中学とは違い、留年…という言葉がある。
成績がたりなれけば問答無用で留年が決定してしまう。
それだけは何としてもさけなければ。
子供たちにとっては、まさに学校行事における試験は一大行事…といえるであろう……
しばし、若獅子戦の会場だ、というのに試験話しに花がさくヒカルたち院生の姿。
彼らからすれば確かに、試合も大事だが学校も大事、というのは仕方ないであろう。
プロの世界にはいったとしてもそれはどうしてもついてまわる事柄。
中にはプロでありながら大学を卒業するつわものもいるにはいるが、それはごくわずか。
そんな会話をしつつも、若獅子戦二日目の対局は終局をむかえてゆく。
「で、結局こうなる…と。すいません。先生」
「いいのよ。それより、時間、ないわよ?」
「はい」
かきかきかき。
五月二十二日、土曜日。
棋院のほうから学校の校長に連絡がいったらしく、どうにか融通をきかせてもらえることになったらしい。
といっても、前日に試験をうけたりしたら試験問題が流出する可能性もなきにあらず。
ということもあり、当日の朝早くから試験をうける、ということで話しはまとまった。
ヒカルが今、いるのは葉瀬中の保健室。
そこにて担任とそして保険医に見守られつつ試験をうけているヒカルであるが。
本日ある試験科目は二科目ほど。
本来ならば九時過ぎからの一時間目から試験開始なのだが、ヒカルは七時からすでに試験をうけている。
一科目につき一時間。
休憩なしの連続試験。
とにかくひたすらに試験問題に書き込みしてゆくヒカル。
わからないところは佐偽に心でといかけしては空欄をうめてゆく。
「石塚先生。そろそろ教室にいかれたほうがいいのでは?」
がらっ。
保健室の扉をあけてはいってゆく白い服を着ている一人の女性がそんなことをいってくる。
「あら。もうこんなじかん?すいません。では進藤君のことはよろしくおねがいしますね」
「はい。まかせてください」
「でも、タマコ先生も優しいですよね」
「まあ、進藤君は他人のような気がしませんしね」
「ああ。そういえばこの子、たしかに理数系は得意、ですものね」
何やらそんな会話をしている入ってきた女性教員と保健医でもある教員たち。
事実、ヒカルは彼女とは話が弾む。
弾む、といっても第三者がきいていても、
よくわからない化学式のことなどで話しがもりあがるのだから聞いているものからすればたまったものではない。
「はい!そこまで!」
チッチッチッ…ジリリリリッ!
ストップウォッチで時間をはかりつつの試験。
それとともに見直していたテスト用紙をその場におき、
「おわった~!!」
おもいっきり伸びをするヒカル。
本日の科目は社会と英語。
英語のほうはひたすらに暗記した文章においてどうにか点稼ぎくらいはできたはずである。
社会のほうも地理に関する出題だったので佐偽の協力もありまあまあの出来。
「はい。お疲れさま。進藤君。じゃ、タマコ先生、進藤君のことよろしくおねがいしますね。
私はこれ、職員室にもっていきますから」
ヒカルが書き終えたテスト用紙を一つにまとめ、そんなことをいってくる保険医の教師。
「さ。じゃ、進藤君、いこっか」
「は、はい。すいません。よろしくおねがいします」
けっきょくのところ、ヒカルを日本棋院に送り届ける役をかってでたのは理科のタマコ教師。
ヒカルたち、囲碁部に場所などを提供してくれた囲碁部の味方ともいえる人物。
さらにいえば、この葉瀬中において唯一、囲碁に関する知識が他の教師よりも多少ある人物でもある。
時刻は九時過ぎ。
今から車でいってぎりぎり十時前か少し過ぎるくらいにたどりつける距離に日本棋院はある。
曜日が曜日なのでそれほど込んではいないとはおもうが、それでも電車でいくよりはかなり早い。
とりあえず無事にテストの二科目を受け終わり、そのままあわてて学校帰りのまま、
ヒカルはタマコ教師の車にのり、日本棋院にとむかってゆく。
パタパタパタ……
「ま、まにあったぁぁ!!」
「お。進藤やっときたか!」
時刻は刻々とせまるというのに肝心のメインともいえるヒカルがなかなかこない。
それゆえにやきもきしていたが、ヒカルの姿をみてほっとする院生たち。
そうはいうがやはり平日の土曜日。
都合がついた院生たちしかその場にはいないのだが。
「どうやらまにあったみたいね」
「すいません。先生。お手数をおかけしまして」
「いえいえ。すいませんね。うちの学校なかなか融通きかなくて。進藤君、がんばってね」
渋る学校側をどうにか早い時間でテストをうけさせれば問題はない。
そう提案したのはほかならぬタマコ。
若獅子戦でしかも三位決勝戦まで勝ち進んでいる、ということは葉瀬中の名前を囲碁界、
さらいえば囲碁が浸透している中国や韓国などにも名前を知らしめることにもなる。
そう説得した結果、ヒカルの数時間ほどはやいテスト開始が決定された、ということをヒカルは知らない。
タマコからしても、ヒカルが三回戦も勝ち進んだ、というのに驚いたものである。
何しろ彼は碁を覚えてたしかまだ間がなかったはず。
それなのにその快挙は学校からしても誇りとなりえる快挙。
それが囲碁のことにはとことん無知な学校であるがゆえになかなか理解されなかった、という実情。
これが将棋ならば学校側は喜んで融通をきかせたであろう。
それほどまでに、葉瀬中の囲碁に対する思い入れは小さい。
一応、説明を彼女からうけているがゆえに、ヒカルを送り届けてきた女教師に深く頭をさげている篠田。
「はい。これで四回戦のメンバーがそろいましたね。
ではそろそろ若獅子戦四日目。四回戦目を開始したいとおもいます!
みなさん、静かにしてください!まず本日の開催のお言葉を…」
毎回、大会が始まる前になが~~い話があり、そのあとようやく対局が始まるのはお約束。
「せっかくですし。先生。みていかれてはどうですか?」
「そうしたいですけど。まだ勤務中ですので。じゃあ、あとのことはよろしくおねがいしますね」
時間があるのならばたしかに対局をみてみたい、というのが本音。
だがしかし、一応はまだ勤務時間中。
それゆえに後ろ髪をひかれつつも、タマコはヒカルを送り届けた後で、そのまま葉瀬中にともどってゆく。
四回戦は基本打っている組はたったの二組。
この一局に勝った者が決勝をかけての一局にと望む。
それでも、ヒカルの相手はやはりプロであり、また残りのひと組もプロ同士の組み合わせ。
普通、ここまで院生が勝ち残る…などということははっきりいって皆無。
いつのまにかヒカルの知らないところで関係者たちのアキラとヒカルの対局の棋譜が出回り、
それゆえに興味をひかれてわざわざ手があいているものは見に来ているものも多数みうけられていたりする。
若獅子戦はいわばお祭りのような大会。
それでも注目される大会には変わりはない。
「進藤、どうにかまにあったみたいだね」
「って、塔矢?お前、今日学校は?」
たしか彼の学校の試験はすでに平日におわっており、今日は普通の授業のはずである。
それなのにどうして時刻は十時過ぎだというのに彼がここにいるのか不思議に思いとりあえず問いかける。
長すぎる演説をきき、それぞれ指定された席にとつく。
席にむかっている最中に聞きなれた声がきこえ、
ふとふりむけばそこに見慣れた顔があり思わず驚いたのはいうまでもない。
「うちの学校は囲碁に関しては寛容、でね。若獅子戦の対局をみたいからやすませてください。
といったらあっさり休みくれたよ?」
「…おまえんとこずるすぎ」
にこやかにいうアキラのセリフにおもわずじと目でにらみながらも本音をもらすヒカルであるが。
「とにかく。ぶざまな一局はみせないでよ?」
「ま、やるだけやるって。ここまで偶然に勝ち進んできてるだけだろうけどさ。俺は」
「しんど~う。君、相変わらず自分の実力に自信もってないよね……」
どうやら実力でここまできている、とはおもわずに偶然、しかも運で勝ち進んでいる。
とヒカルは思っているらしい。
事実、ヒカルはその通りだとおもっているのだが。
アキラのうなるようなつぶやきに思わず周囲にいた院生全員がうんうんとうなづいているのが見て取れる。
「?変な塔矢。しかし、何かすごい人だよな~」
『何か前回より観戦者の数、増えてますよね~。ヒカル、緊張してませんか?』
「緊張…かぁ。ま、対局はじまったら集中するから周囲きになんないし」
『それはそう、かもしれませんけど。ですけど気分転換は大事、ですよ?』
「そういや…君ってここまでの観客がいる中での対局って初めてなんじゃぁ…大丈夫?」
アキラは幼いころからギャラリーをしょって打つのが当たり前だったので気にならないが。
「気にはなるけど、対局はじまったら局面のみに集中するし」
事実、集中すれば周囲の雑音も何も聞こえない。
佐偽のいうことも、アキラのいうこともヒカル的には何となくわかる。
わかるが、いるものはしょうがない。
わりきるしか方法はないのだから。
「あ~あ……」
テスト用紙を目の前にして思わずため息。
今ごろヒカル、何とかいう大会であそんでるんだろうなぁ~。
そうおもうとさらに憂鬱になってくる。
とはいえ一応は両親の意向もあり、朝早くからテストをうけて大会にでているらしいが。
「はい。では後ろからあつめてください」
先生の声が教室内にと響き渡る。
それをうけて後ろの席の子どもが列ごとに用紙をあつめて教壇にと運んでゆく。
「つ…つかれた~…おのれ、金子のやつぅ~……」
ぱたっ。
何やら後ろのほうではそんな文句をいいつつもぱたっと崩れるように机につっぷしている少年の姿が見て取れる。
「ねえねえ。三谷君。できた?」
「きくなっ!」
アカリの問いかけにおもわず即答。
二学年に進学し、アカリと三谷は同じクラス。
毎日のように金子に勉強の特訓をうけていたがゆえに何やら恨み事のようなことをいっている三谷祐輝。
彼も負けん気の強さから意地になっている、というのもあるにしろ。
「でもこれでようやくテストおわったぁ!」
筒井達はただいま中学三年生。
それゆえに最近は囲碁部に顔をだす機会がどんどんと減ってはいる。
中学一年生の新入部員が一人ほどはいってきている、とはいうものの囲碁部はなかなか人数が集まらない。
「ねえねえ。三谷君。今日、時間あるようなら一緒に日本棋院とかいうところにいってみない?
ヒカルがさ。今日何とかという大会にでてるらしいし」
聞けば午前と午後にわかれて対局があるらしい。
今からいっても最後くらいはみれるかもしれない。
「それって若獅子戦、だろ?オレはパス」
それでも気になるので姉がアルバイトしているネットカフェにおいて状況を日本棋院のサイトから見てはいる。
その結果、院生の中から一人だけ、三回戦も突破している子どもがいる、ということも。
つまり、進藤光の実力はすでにプロに匹敵する実力をもっている、ということを指し示しているに他ならない。
何だかおいてけぼりにされてしまったような感覚。
そもそも、自分を囲碁部にひっぱりこんだのは彼だというのに彼はとっとと院生になってしまい、
二度と大会に参加することはできない。
それでも顔をだしているのは金子に挑発されて、バカにされたくない、というあるいみ意地から。
心の奥底では快挙を遂げているヒカルを応援はしているが、それを口にださないのが三谷、という人物。
「そっかぁ。ん~。久美子でもさそってみるかな?」
同じ囲碁部の同級生を誘うためにとそちらにと向きをかえ、
「ねえねえ。久美子。帰りにさ。日本棋院の何とかいう大会のぞいてみない~?」
本日でテストはおわり、とはいえ今日は部活はない。
一応、学校の規定にてテスト期間中は部活動をしてはならない、という規定がある。
それは部活にかまけて勉強をおろそかにしないための規定。
「日本棋院?ああ、進藤君が何か大会にでてるとかいってたっけ?面白そう。いくいく~」
ある程度、碁のことが理解できるようになっている以上、たしかにそれはおもしろそうである。
一年のときにアカリに誘われて何もしらない初心者であったが、今では基本的なことは理解できるようになっている。
今日は、あと掃除がおわれば帰宅するのみ。
スピーカーから掃除の開始時間が告げられてゆく……
「?君たち、見学かい?」
何だか場違いのような気がひしひしとする。
きょろきょろと周囲を見渡せども周囲は大人ばかり。
ヒカルがどこにいるのかすらもわからない。
おそらく、ものすごく人だかりができている場所があるのでその二か所のどちらか、ではあろう。
だが、その人だかりの中をわってはいってゆく度胸はアカリたちにはまったくない。
それゆえに学校がおわり、好奇心と応援をかねてやってきたはいいものの、出入り口付近で立ち往生。
そんな二人の女の子に気付いて声をかける一人の男性。
「え。あ。はい。学校がおわったので友達の応援にきたんですけど……」
「友達?ああ、進藤君のね。進藤君はあそこで今対局中だよ。君たち、学校のともだち?」
何やらものすごく人だかりが多いほうでどうやらうっているらしい。
ヒカルの姿はまったくもってみえないが。
「え。あ、はい。あの?あなたは?」
「ああ。もうしおくれたね。私は天野。週刊碁の記者をやってるんだ」
「「記者?」」
「あれ?天野さん?その女の子たち、だれですか?院生です?」
それにしては制服である。
しかもセーラー服。
はっきりいってかなり目立つ。
そんな会話をしていると、カメラを片手にした別の人物が声をかけてくる。
「いや。進藤君の学校の友達、らしい。そういえば葉瀬中は今日までテスト、だったっけ?
テストがおわって応援にきたの?」
そんな天野、となのった男性の台詞に思わず顔をみあわせつつもこくりとうなづくアカリたち。
「そうだ。ちょうどいい。インタビューさせてよ。君たちからみて進藤くんってどんな子?」
「あ、それいいですね。この調子だとまちがいなくあの子、勝ちますし」
必至にどうにか挽回しようとしているらしいが、このままではヒカルの勝ちは明白。
相手は五段、だというのにヒカルはまったく動じてもおらず、さらにはその上をいっている。
とはいえ、さすがに低段者のように中押しで…とまではいかないようではあるが。
それでもそれに近いほどに差はすでにつけている。
「え?ヒカル、かってるんですか?」
おもわずそんな彼らの言葉にきょとんとした声をだしながらといかけるそんなアカリに対し、
「うん。このままだと彼、院生初の決勝進出になりそうだしね。名前でよぶってことは君、中いいの?」
「ヒカルは幼馴染なんです」
「なるほど。じゃ、彼のことをよくしってるわけだ。少しいいかな?インタビューさせてもらっても」
「どうする?久美子?」
「名前とかでないんだったらいいんじゃない?写真付きとかだとはずかしいからいやだけど」
「じゃ、きまり、だね。近くに喫茶店あるからそこでどう、かな?」
天野の言葉に顔をみあわせ、それでも多少興味があるがゆえに天野についてゆくことにし、
こくり、とうなづくアカリたち。
「……え?…えっと。進藤君って…碁に興味もったのが小学六年の九月の終わりごろ?」
しかもそれまで、まったく囲碁に興味をもっていなかったらしい。
「いきなりだったからよく覚えてますけど。
いきなりヒカルが囲碁を覚えるとかいって囲碁教室にいきだしたのが、
たしか一昨年の九月の十三日の土曜日。でしたし」
「たしかオコズカイの関係とかだったっけ?進藤君が興味をもった理由」
「うん。ヒカルそのとき社会の成績がものすごくわるくてね。おこずかいとめられちゃったから。
ヒカルのお爺さんが囲碁をたしなんではいたものの、私同様、ヒカルまったく興味しめしたことなかったし」
聞けば、ヒカルの祖父はその道ではある程度の実力者、らしい。
しかし、それで初心者囲碁教室にかよい、その後、ほぼ素人だ、というのに中学の大会に参加し。
さらに中学に進学して囲碁部の大会に一度参加したのちに、院生となり、そして今のヒカルがある。
しかもさらにいえば、ヒカルは誰にも師事していない。
それでも囲碁に唯一詳しいとおもわれる身内は囲碁の世界のことには詳しくはないらしい。
あくまでもアマチュアの内。
段位を持っているのか?
ときけどもアカリたちにはよくわからない。
これは一度、記事にするためにも出向いていったほうがいいのかもしれない。
天野達がふとそんなことをおもったのは仕方ないであろう。
それほどまでにヒカルの成長ぶりは信じられないものがあるのだから。
囲碁部の顧問の先生も碁に詳しいわけでなく、あくまでも名義、のみ。
しかも、院生ながらもこの調子でいけば院生初、若獅子戦優勝を飾りそうな勢い。
そんな彼が…誰にも師事することなく、そこまでの実力をつけたなど。
一体誰が想像できるであろうか。
今、若手プロで天才、と一時さわがれていたあの倉田棋士ですらきちんとした師について碁をならった。
最も、ヒカルの場合は誰の目にも視えない、だけで、とんでもない師匠がいるのだが……
当然、視えない以上、それに気づくものはまずいない。
塔矢明子のみは理解しているがそれを別に口にだして第三者にいうことでもないし、
また、能力の有無を人に知られるのは明子にとってもどんな結果を招く、というのがわかってる以上。
誰にいうこともない。
「天野さん…これは…」
「う~ん……」
記事にしてよいものか。
というかそんなことをかけば間違いなく進藤光に注目はいやでもあつまる。
いや、もうその布石はまかれている。
「まあ、貴重な意見、ありがとう。そろそろ対局もおわってるころだね。一緒にいくかい?」
「あ。はい」
アカリたちからすればそれが珍しいことだ、とはおもっていない。
何しろ目の前というか近くでそんなはたからみれば奇跡ともいえることがおこっていたのだ。
つまり、近くにいるものはそれを奇跡とはおもわずに、そんなものなんだ。
と納得していた節もある。
それほどまでに囲碁界のことは一般的には知れ渡っていないのだから。
そんな会話をしつつも、インタビューをし終えて、アカリたちをともない天野達もまた会場内部にともどってゆく。
わいわい。
何やらものすごい人にかこまれて戸惑ってしまう。
佐偽~~……
思わず横にいる佐偽に助けをもとめるものの、
『すごい人ですねぇ。昔をおもいだします』
などといい、何やら感慨深げにいっている佐偽の様子にがくりと肩をおとすのは仕方ないであろう。
佐偽からしてみれば、このようにひとに囲まれることは昔は日常的であった。
それが平安の世であれ、江戸時代であれ。
結局、ヒカルが六目半で勝ちをおさめ、決勝進出を決めている。
負けた相手は何やら愕然としているようであるが。
第二の塔矢明がいる…などとぶつぶついっているのを別の人物が聞いて思わずうなづいていた。
というのをヒカルは知らない。
それでも、ヒカルがうってのこの騒ぎ、なのだからもし佐偽がうっていて中押し勝ちなどしていれば、
騒ぎはもっと大きくなっていたであろう。
「進藤君、決勝進出、おめでとう」
「あ、天野さん。って、あれ?アカリ?それに久美子も?」
ふとみれば、天野の横に見慣れた姿がありおもわず問いかけるヒカルであるが、
「なに!?進藤、てめぇ、彼女がいたのか!?」
「って、和谷っ!く、くるしいってばっ!!」
じたばたばた。
いきなりはがいじめにされてじたばたするヒカルの姿をみて苦笑しつつ、
「和谷君。彼女は進藤の幼馴染だよ。たしか藤崎朱里さん、だったよね?もうひとりのほうはよくしらないけど」
「塔矢君。しらないって、囲碁部にきたとき久美子もいたじゃない」
「そうだっけ?」
苦笑しつつも説明する塔矢に対し、あきれた声でそんなことをいっているアカリの姿。
実際にアキラが葉瀬中の囲碁部に顔をだしたときに、その場に久美子もいたのだが。
アキラからすればあまりヒカルの関係者以外には気にとめていなかったのも事実。
「幼馴染、だぁ!?てめぇ、やっぱりゆるせねぇ!こんなかわいい子が彼女にいたなんてぇぇ!」
「誰が彼女だ!誰が!」
「…何だか話題がずれてるような気がするのは…気のせい?」
おもわずそんな二人の姿をみつつもぽそっとつぶやく第三者たち。
事実、おもいっきり囲碁から話題はずれている。
しっかりと。
何だかヒカルが決勝進出をきめたことよりも話題はどうもアカリとの関係に興味がむいてしまっているらしい。
人、というのもはそういった類の噂にかなり興味をひかれるもの。
それゆえに格好の餌食になったのは…いうまでもない。
「進藤君。決勝、がんばってね」
「は、はいっ!って和谷!くるしいっていってるだろうぅ!」
「しかし。何だな。進藤…本気で怖いよ。したからくるのが一番怖い。か。倉田さんがいってた意味がよくわかるよ」
何やらじゃれあう二人の姿をみつつもしみじみいっている冴木の姿。
上にいるものの実力は残っている棋譜などで把握することができるが下にいるものはそんなものはない。
それゆえに警戒をいだくのはプロとしての摂理なのかもしれない。
塔矢明とも普通の手合い日で対局したことはある。
進藤光とは森下師匠の研究会で幾度か手合せもした。
だからこそ畏れずにはいられない。
進藤光と塔矢明、この二人に。
いまだに進藤のほうは院生であるがゆえにあまり注目をされていないがまちがいなくプロになれば一気にのぼってゆくであろう。
…つまづかないかぎりは。
わいわいと、ひとにもまれつつも、若獅子戦、三日目は大騒ぎのうちに幕を下ろしてゆく……
「つ…つかれた~」
「ヒカル。おそかったのね」
最近、土曜日になると何とかという囲碁の大会で学校すら休んでいる。
まあ、テストをきちんとうけただけまし、とはいえるが。
それでも、今日は本来、学校の日。
朝早くからでかけていき、もどってきたのが九時近く。
これで遅い、といわない親がどうかしている。
「うん。何かものすごくもみくちゃにされてさ~。そういや、お母さん、俺、優勝したよ!」
「まあ?そうなの?その何とかっていう大会で?」
早く先にお風呂にはいってしまいなさい。
そう会話をかわしつつも、一応母親に報告する。
結局のところ最終日にあたる対局でもヒカルは勝ちをおさめ、
やれ、院生初の快挙だの、第二の塔矢明出現!だの。
さらには倉田棋士につづく若手有望!
だの。
いろいろとさわがれまくって今まで缶詰め状態になっていた。
それゆえにヒカルからしてもかなり疲れているのも事実。
「若獅子戦、だってば」
「お母さんからすれば、学校をやすんでまで大会するなんてしんじられないけどね」
息子が優勝した、といってもぴんとこない。
一応は、院生と若手プロの対局の大会、とはきかされてはいる。
いるがそれがどれほど大きな意味をもっているか、なんて母親である進藤美津子はまったくもって理解していない。
「もう学校をやすむようなことはないの?」
「今のところ。次の大きなやつは夏休み中、だし」
その大きなやつ、というのが実はプロ試験なのだが、そんなことを美津子は知る由もない。
「ま、とっとと早くお風呂にはいってしまいなさい。ご飯、用意しとくから」
「は~い」
「そういえば、アカリちゃんがヒカルの成績表もってきてくれてたわよ~」
どうやら今日、中間テストの結果が示された成績表が生徒たちに配られたらしい。
本来ならば当人に手渡しが原則なのだが、家が近い、ということもあり別のクラスでありながら、
藤崎朱里にその役目がまわってきたらしい。
ザバァ……
すでにお風呂にはいったヒカルにと叫ぶようにして話しかける。
「え~?アカリが?あとでおれいいっとく~」
「お風呂のお湯はぬかないようにね。お父さんがまだだから」
「は~い」
たわいのないいつもの日常の会話。
ヒカルがものすごい快挙を成し遂げた、などという思いはヒカルの母親からしてみれぱみじんもない。
ただ、大会で優勝した、ときいて、あ、そう。
その程度の感覚。
何しろ一度いった棋院のインセイとかいう囲碁の塾ではヒカルよりも小さな子供もかなりいた。
それゆえにそんな中での小さな大会なのだろう。
プロがでる、というのはおそらく指導か何かで、だろうし。
そんなふうに思っているがゆえに興味はまったくない。
対局とかいわれても、その言葉の意味がよく理解できていない美津子にとってそれは仕方ないのかもしれないが。
少しでも囲碁に詳しい人がいれば大騒ぎすることは間違いのない報告。
それをさらっとうけながすこの母親はあるいみ、はたからみればものすごいのかもしれない……
ざばっ。
「ふぅ。つかれた~。何であそこまで騒ぎになるのかなぁ?ねえ?佐偽?」
『そうですねぇ。しかし、不思議なものですよね。いつもおもいますけど。みてみて、ヒカル、ヒカル!
ほら、湯船の中にはいっても服がまったくぬれないんですよ?!』
いいつつも、風呂の中にはいったり出たりを繰り返して遊んでいる佐偽。
「おまえ、毎日。毎日。同じことやっててあきない?」
つねにヒカルが風呂にはいるとおなじことをやっては佐偽は遊んでいる。
たしかに、佐偽は幽体である以上、物質的な効果はなく服のまま風呂の中にはいっても濡れもしない。
それがどうやら楽しくてしかたないらしい。
『まったく。いつも新鮮ですよ?ですけど、ほんと今の時代って面白いですよねぇ。
このボタンひとつでオンドとかいうのが調節されるんでしょう?』
昔は木をたいてはお湯加減を調節していたというのに、今の時代は何やら小さなハコのようなものに表示されている文字。
それを押すとお湯加減がかってに調整されるらしい。
初めてシャワーをみたときなどは、雨がふってきましたよ!?ヒカル!?
とおもいっきり騒いだものである。
なので毎日、毎日のこととはいえどうしても新鮮におもえてしまう。
自らが水に触れられないがゆえに余計にそうおもってしまうのかもしれない。
川などにはいまだに抵抗はあるものの、お風呂はそうではない。
虎次郎ともよくこうしてお風呂の中で騒いだものである。
それゆえに佐偽からしてみればお風呂、という場所そのものにも思いではつまっている。
「まあ、いいけどさ。明日は棋院の都合で手合い休みらしいし。塔矢とも約束してるし」
明日は何でも若獅子戦の片づけというか何かいろいろとあるらしく、院生手合いはお休み。
試合のあとにアキラと話し、明日はアキラの父親が経営している碁会所で待ち合わせ、ということになっている。
何でも彼なりに優勝したお祝いをしてくれる、らしい。
アキラの母親の明子からもお祝いしてくれるとかで、
明日はまたまたいつものように地方で対局がある塔矢名人をのぞいて、
明子のおごりで昼食をたべにいくことにとなっている。
『ヒカル。私も塔矢とうてますか?ねえねえ、うちたい、うちたい、うちたいぃぃ!』
「だあっ!わかった!わかったから耳元でさわぐなっ!まあ、お前も打ちたいよなぁ。
今回の大会では俺しかうってなかったし」
普通の手合いならば佐偽にも打たせてあげられるかもしれないが、今回はそうはいかなかったのも事実。
そんなことをすればかなり目立ってしかたがなかったであろう。
最も、ヒカルからすれば自分がうっても目だちまくっている、という自覚は皆無、なのだが。
「ヒカル!何いつものように風呂場でさわいでるの!湯ざめしないうちにでなさいよ!」
風呂場の中で騒いでいるので声はよく響く。
といっても佐偽の声はヒカル以外には聞こえないのでヒカルだけが風呂場で騒いでいるようにと他には聞こえる。
それゆえにいつものように美津子から注意の声が台所のほうからなげかけられてくる。
「は~い。じゃ、そろそろでよっか。佐偽」
『はい。ヒカル、あとから今日のおさらいの検討、しましょうね?』
「はいはい」
佐偽からしてみれば今日のヒカルの一局もまだまだ。
それゆえにしっかりとした検討は大事。
そんな会話をしつつも、お風呂からでてゆく二人の姿が、ここ進藤邸においてしばしみうけられてゆく。
-第41話へー
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あとがきもどき:
薫:さてさて。ようやく若獅子戦、しかも決勝までさくっといきましたv(こらこらこら
さて、んでは次回でようやく日常&プロ試験にいけるかな?ではでは~♪
何か意味になってなかったので、例のごとくに連続して小話、ゆくのですv
↓
『しかし、今も昔も女性の涙は強い、ですねぇ』
「でしょ?あの場合はあれが一番効果的だって」
その教えをしたのは祖母であるが。
世界事情というか世の中が物騒なこともあり、ヒカルとて小さいころから柔道などを習わされていた。
空手なども習っており、段位まではとっていないもののそこそこの腕をもっている。
何でも段位をとれば相手にけがをさせた場合、前科者になってしまうから段位はとるな、とは祖母の談。
それゆえに見た目とことなり、ヒカルはかなり強いのだが。
だが、力でかつよりも、知能で勝つのが何よりも平穏無事にすませるこつ。
まさか、いきなり対局している横で女の子が泣き始めれば、何か相手がしたのでは?
と勘ぐるのがひと、というもの。
ましてや、きちんと明言せずに、この人が…などといって指さして泣き崩れればもはやこっちのもの。
あまりいい手段、とはいえないが、それでもあんなひどい碁をうつ相手にはいい薬にはなったであろう。
何しろ素人目からみてもひどい碁をうっていたから女の子が泣き崩れた。
そう理解されても、当人に与えるダメージも、そしまた、素人がみてもわかるほどひどい碁をうっていたんだって。
しかも女の子、小学生の子をなかしたんだって。
という人の噂はあっという間に広がる、というもの。
「でも、佐偽もあれくらいはいい薬になる、とおもわない?あの人には?」
『たしかに。それはそうと、ヒカル?どこにむかってるんですか?』
ガシャガシャと自転車をこぎながらも会話をしつつ進んでいるヒカルたち。
社会保険センターの囲碁教室をあとにして進んでいるのは駅前の方向。
ヒカルの自宅がある方向とは逆方向ではある。
「何かね。教室の人がいってたのをきいたんだけど。駅前のほうに碁をうてる場所みたいなのがあるんだって。
佐偽もいってみたいかな?とおもって」
『ええ!?そんな場所があるんですか!?いきます、いきます、いきますっ!』
「って、佐偽!あぶないから!あぶないってば!」
自転車をこぎながらがくがくと体をゆすられるほどに感情をたかぶらせられてはたまったものではない。
佐偽と出会ってまだ数日も立っていない。
それに彼が真剣になっている顔をみてみたい、とおもうのはヒカルのわがままではないであろう。
そんな会話をしつつも、二人して駅前の方向にむかってゆく――
「あ、ここかな?」
きぃ。
自転車をとめて上をみあげる。
ビルの二階にどうやら碁、という文字が垣間見える。
一階部分の一か所に駐輪場らしきものがありそこに自転車をとめてそのまま二階へ続く階段をのぼってゆくヒカルたち。
それがすべての始まりになる…というのを今のヒカルたちは知る由もない。
↑
みたいな感じで。
この後、塔矢明との対局がまっていますv
ちなみに、阿古多さんのひどい一局をみて間横でヒカルがなきぐれて、精神的ダメージをおわせた。
というような設定にしていたりv(笑
原作ではヒカルが碁石をおもいっきり相手の頭にぶちまけてカツラをはずしてましたけどね(苦笑
ではまた、次回にて~♪
2008年8月24日(日)某日
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