まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。
さてさて。今回は若獅子戦~
ようやく塔矢明と進藤光との対局ですv
面倒なので二人の対局の様子は割愛ですv(まて
いあ、棋譜をきちんと明記してゆくのはかなりつかれますしね…
やるからにはおかしな棋譜並びにするわけにはいかないし……
何はともあれ、ゆくのですv
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「しかし。残念、だな」
ふぅ。
外を眺めておもわず本音がもれてしまう。
「そういえば、塔矢名人の息子さんの塔矢明君。今日は若獅子戦、でしたっけね?」
手合いの合間の時間にインタビューをしていた記者がそんなことをいってくる。
「ええ。今日、息子は若手棋士として参加してますからね。時間があるなら私ものぞいてみたいところなんですが」
「あはは。塔矢先生の息子さん自慢は有名、ですからねぇ」
「ですけど、塔矢名人が顔をだしたらそれこそ若手達は対局どころじゃないでしょうに」
「あはははは」
「たしかに」
どっ。
一人の意見にその場にいた誰もがどっと笑いだしてしまう。
彼らのいいたいことはわかる。
わかるが……
私はまだ、明と進藤君のまともな対局を直接みたことがないからな……
あの子には何かがある。
明子とおなじ力をもつあの少年。
それだけではない、何かが。
だからこそきにかかる。
棋譜だけではなく彼らが対局しているところをみてみたい、とおもうのは棋士であり碁を愛するがゆえのこと――
星の道しるべ ~若獅子戦~
進藤光。
そんな名前は今まで聞いたことすらない。
今までのプロ試験をうけたことすらも一度もないはず。
どこかの大会でそんな名前をきいたことすらも皆無。
だが…だがしかし……
「……ありません……」
徐番から本気にならざるを得なかった。
それでも、相手の力の差が歴然として愕然としてしまった。
これが院生?
院生なのか!?本当に!?
そうおもってしまうのは仕方ないであろう。
「ありがとうございました」
いいつつもガチャガチャと碁石をかたづける。
何かこの人、あまり手ごたえまったくなかったなぁ。なあ、佐偽?
相手はプロだ、というので全力で打ち込んだ、というのに。
結果はいともあっさりとヒカルの中押し勝ち。
『ですねぇ。まあ、プロといえども力量の差は幅広いでしょうしね』
たしかに。
佐偽のような打ちてもいるんだし、いいたいことはわかる、わかるが…
それでも自分がどこまで力をつけてきているのかこれではヒカルにもわからない。
「ありません」
「何だ?もうおわり?」
「うん。力半分でかった、ってかんじ」
ガチャガチャと石をかたづけて席を立ちあがると同時、後ろの席でもそんな声がきこえてくる。
「あ、塔矢も本田さんもおわったの?」
今日の一局目の塔矢明の相手はヒカルとおなじ院生の本田である。
それゆえに後ろの席にと足をむけて何やら異様に多いいギャラリーをおしのけつつも問いかける。
「進藤。君のほうもおわったの?」
「うん。ちょうどほぼ同じくらいにおわったみたいだね」
そんな会話をしつつも、がしゃがしゃと盤面を片づけているアキラたち。
「あ~あ。進藤に塔矢との対局にあたって気をつけるところはきいてたけど、ここまでとはな~」
負けは負け。
しかもかなりの力の差をかんじてしまった。
「…それでか。びっくりするような一手を君がうってきたのは。進藤~、君、彼になにいったわけ?」
おもわずじと目で本田の言葉をうけてヒカルをみて問いかける。
「何って。本田さんの対局相手が塔矢だ、ってきいたから。
塔矢の打ち込みのクセとか。相手をしればおのずと手もかんがえられるし」
幾度も手合せしているがゆえに互いのクセなどは把握済み。
そのクセを克服してあらたな手を考えてゆくのが最近の二人の楽しみにもなっているのだが……
「あ、進藤君もおわったんだ。いつものように半目?」
「ううん。今日は普通にうったけど。何でかなぁ?相手のひと、間合いにくることなく自滅してった感じ?」
アキラの対局をみていたのはほとんど院生、もしくは見物にきている人々。
ほとんどの対局者はいまだに対局中。
「じゃ、やっぱり二回戦は君と、かぁ。いっとくけど手加減なんてしないよ?」
「おう!望むところだ!そういや、お前、これからどうするの?本田さんも」
「オレはまだ伊角さんの対局おわってないみたいだから、そっちにいってみるつもり」
たしかに、いわれてみてみれば、ほとんどの人々が対局中。
「伊角さんの、かぁ。俺もいってみよ。塔矢はどうする?」
「そうだね。暇だし。僕もいこっかな」
そんな会話をしつつも、ガタリ、と席を立ちあがる。
一応、かったものが申告することになっているので二人して進行係りの人がいる方向に進んでゆくヒカルとアキラ。
そんな二人の姿を見送りつつ、
「しかし、二回戦、どうなるんだろ?」
「なあなあ、かけないか?」
「おもしろそう!」
何やらそんな会話が院生仲間からもちあがっていることを…ヒカルは知らない……
「あれ?あれは……」
ふと、入口からはいってきた人物の姿をめにして思わずつぶやく。
ここにはまず縁がないようにみえて、まず顔をみせないであろうに、というかなり場違いな人物。
「あれ?緒方さん?」
「あ、緒方さん。おはようございます」
ふと、横の受付申請から立ち去ろうとした二人の目にはいったのは見知った相手。
「何だ。もう明君も進藤も対局、おわったのか?」
二人の申請をうけて、対局表には一回戦の結果が書き込まれていっている。
そちらにちらり、と視線をむけてといかけてくるのは…ここにはまず縁がないとおもわれる緒方棋士。
「まあ、二回戦はまだ、のようだし。二回戦はたしか君たちが、だったよね?」
「ええ」
「前の大会みたいにポカはやんないから!覚悟しとけよなっ!塔矢!」
「僕だって全力でいかせてもらうよ」
緒方の言葉に同意しながらも何やらいつものじゃれあいのような言い合いをはじめているヒカルとアキラ。
「おまえら、仲がいいのはいいけど、まだ周囲は対局中、というのをわすれるなよ?」
いわれておもわず二人同時に口をおさえる。
『や~い、いわれた、いわれた~』
佐偽…てめぇ~……
横のほうでおもいっきりからかうようにいっている佐偽をおもいっきりにらみ返しながら心で叫ぶヒカルであるが。
「緒方さんは何か用があったんですか?」
「君たちの対局がみたくてね。君たちの対局はきちんとみたことがなかったしね」
事実、ヒカルと碁をうつときは対外アキラのほうがヒカルの家にといっている。
ときどきヒカルがアキラの自宅にいったときも緒方はいない。
それゆえに彼はまともに二人の対局を直接みたことはない。
最も、棋譜ならべで対局の様子を知ることはできてはいるのだが……
『ヒカル、それより。他の人の対局をみましょうよ~。こんな機会はまずないんですからっ!』
「それもそうだ。あ、塔矢、緒方さん。俺、みんなの対局みてきます。こんな機会まずめったにないですし」
「あ、僕もいくよ」
いいつつも、二人してかるく頭をさげてその場をあとにして今だに対局している人々のほうにとあるいてゆくヒカルとアキラ。
そんな二人を見送りつつ、
「せっかくだし。まともな棋譜作成でもしてみる…か」
時間はまだまだだいぶある。
それゆえに、足を進行役の人々がいるほうこうにむけてゆく緒方の姿――
「ありがとうございました。和谷、お前つよくなったなぁ」
おもわず感心した声をだす。
二年前とは比べ物にならないほどに。
「よっし!中山さんにかてた!」
二目半の勝ち。
それでも勝ちには違いない。
「二年前の院生のときのお前と確実に力つけてるよ。なのに何で前の試験おちたんだ?」
「うっ…」
そういれれればもともこもない。
「まあ、しかたないか。去年の試験は塔矢明がうけてたもんなぁ。実質二名の枠…か。
あ、その塔矢戦、もうおわってるんだ」
ふと対局表のほうをみてみればどうやらさくっと勝ちをきめているらしい。
「え?あ、ほんとだ」
ちらりとそちらをつられてみてみれば、どうやら進藤もかってるし…予測はしてたけど。
塔矢明同様に、進藤光もまたかっている。
次の二回戦ではかなり恐ろしい局面が繰り広げられそうな気がするのは何も和谷の気のせいではないであろう。
「あ、伊角さんの対局、まだやってるんだ。いってみよ。中山さんはどうする?」
「そうだな。伊角さんと真柴、かぁ。真柴のやつ最近嫌味に拍車かかってるしなぁ。
できたら伊角さんにこてんぱにやられてほしいけど」
「中山さんもそ~おもうんだ……」
そんな会話をしつつもがしゃがしゃと盤上を片づける。
以前ともに院生として生活していたがゆえに相手のことはよく知っている。
中山が試験にうかったのは前々回。
それゆえに気心もしれている、というもの。
「まあ、和谷。そこまでうてるなら今年こそはうかるさ。がんばれよ?」
「え、あ、うん」
きついのは去年も今年もかわらないけど。
その言葉はどうにかのみこみ、相手の言葉に素直にうなづきその場を片づけて席を立ちあがる。
そのまま二人して伊角と真柴の対局をみにその場を立ち去る和谷と中山。
若獅子戦、一回戦。
基本、十時開催にて、一局につき三時間。
普通の対局時間と持ち時間はかわらない。
とはいえ対局するのは若手プロ棋士と院生の子どもたち。
それゆえに対局時間すべてをつかいきる、ということは初戦のあたりではほとんどない。
それでも、二回戦、三回戦…と進むにつれてレベルもあがり、対局時間も有効に使われる。
「二回戦は昼から、か。がんばれよ。和谷」
「あ、うん」
勝てる自身はあったが実際にかってみれば何だか実感があまりわかない。
とりあえず二回戦は昼から行われる。
時間をみれば時刻はまだ十一過ぎ。
時間的にはだいぶある。
そんな会話をしつつも、伊角と真柴の対局が行われているほうにとあるいてゆく和谷達の姿。
「というか、進藤、やっぱりかったの?」
「うん」
アキラとともに伊角の対局をみに移動しているヒカル。
そんなヒカルに話しかけている院生仲間たち。
さすがにまだ十一時前というだけあって、この場にいるのは試合に参加していない院生たちのみ。
ぐるりと見渡せば他の残りの十四組の対局は今もまだ行われている最中らしい。
「進藤?彼らは?」
「って、進藤、塔矢明までつれてきたの!?」
ひょっこりとヒカルの後ろにいる子供がだれなのか気づき驚きの声をあげる院生の一人。
「次の対戦相手、俺、塔矢だし」
「そういえば、塔矢君。今まで全戦全勝だってね。おめでとう!すごいよね!君!」
「こほん。今は伊角さんが対局してるんだから。そういう雑談はあとにしようよ。ね?」
塔矢明と話しをしてみたいのは山々なれど。
今は伊角と真柴の対局中。
しかも彼らがいるのはその対局の周囲である。
対局中の二人に気をつかわせるようなことは絶対にあってはならない。
「それより、局面は…まだ始まってまがないね」
「だね。たしか、彼が君の前の一位の人だったっけ?」
「うん」
そんな会話をしつつも、二人して局面をのぞきこむヒカルとアキラ。
何やら聞き覚えのある声がしたがゆえにちらりと横をみてみれば、なぜかそこにヒカルとアキラの姿が。
それゆえに、一瞬顔をしかめる真柴。
ヒカルにしろ、アキラにしろ真柴からすればいい感情はもっていない。
何しろこの二人に真柴は一度たりとてかてたことはないのだから。
「横の盤面があいたら、検討やってみる?」
「それいいかも」
そんな真柴の思いをしるよしもなく、何やらそんな会話をしているヒカルたち。
しばし、ヒカルたちの前にて真柴と伊角の一局は繰り広げられてゆく。
チッチッチッ……
時間が静かにすぎていき、対局場に碁石をうちつける音が響き渡る。
どうやら対局もだいぶおわってきたらしく、それぞれが今だに対局している人のところにと見学にと移動している。
「あ、フクに和谷」
しばらく局面をみつつも、あいた横の席でひとまず一手目からならべているヒカルとアキラ。
ふとこちらに近づいてくる人影に気づいて思わず声をかけるヒカル。
和谷の隣にはヒカルがしらない男性の姿もみてとれるが。
誰?
そうヒカルがおもっていると。
「あ、中山さん。中山さんの対局ももうおわったんですか?」
アキラの知り合いらしく、そんなもう一人の男性のほうにとはなしかけているアキラの姿。
「まあね。塔矢君のほうもさくっとおわってたようだね。うん?これは?」
「あ、伊角さんと真柴さんの局面を一手目からならべていって検討やってるんです」
「塔矢、知り合い?」
「プロ棋士の中山さん。二年前にプロになってる人だよ。僕からしたら先輩にあたるけど」
「へ~」
「たしか、中山さんも院生出身、でしたよね?」
きょとん、と首をかしげてといかけるヒカルに丁寧に説明しているアキラであるが。
「そういや、進藤はしらないよな。当たり前だけど」
「そうなんだ。んで、どっちがかったの?和谷?」
「へへ。俺のかち!」
「すごいじゃん!じゃぁ、和谷も二回戦、かぁ」
「今年はどうやら院生の人達、がんばってるみたいだね」
まあ、進藤が指導碁みたいなのをやってるらしいから、そのあたりもあるだろうけど。
そうはおもうがそれは口にばたさずににこやかにいっているアキラ。
「それより、伊角さんの対局、対局…と」
いいつつも、和谷達がひょっこりと対局をのぞきにいったそのほぼ直後。
ひょこっ。
「どう?」
「まけた~」
どうやらこちらも対局がおわったらしく、奈瀬がひょっこりと顔をのぞかせつつもいってくる。
そんな奈瀬ににこやかにいっている福井であるが。
「あんたじゃないわよ。伊角君のほうよ!」
おもわずそんな福井に突っ込みをいれている奈瀬。
「そういう奈瀬は?」
「私はかったわよ?」
勝てるなんておもわなかったけど。
あるいみ、自分でもすごくびっくりしているのも事実。
「とりあえず、これからどうなったかのぞいてみるよ」
「そうだね」
見ればどんどんと観戦者の数は増している。
はじめのころはヒカルたちをいれても十名足らずだったのに、今では二十名をかるく超えている。
それゆえにそんな会話をしつつも、とりあえず席をたつ。
「伊角さん、どうなってる?」
ひょっこりと人の垣根をくぐりぬけてとりあえず一番近くにいた院生仲間にとといかける和谷。
「みてのとおり」
「これは…」
局面は圧倒的に黒、有利。
すなわち、伊角が断然的に有利にコトをすすめている。
「ね。伊角君の優勢はみてのとおりよ。さっき真柴がしかけてきたけど、伊角君がうまくしのいでそこまでね」
はじめからみていた院生の仲間がそんな和谷にと丁寧にと説明する。
「伊角さん、やるぅっ」
「ざまぁみろ。真柴、だぜ」
どうやらその場にいる院生の誰もが真柴に対していい印象をもっていないらしい。
それゆえに、真柴に勝っている伊角を全員がおもっきり応援しているのがみてとれる。
ちらりと局面をみては横にて検討をしているヒカルとアキラ。
だがしかし、二人の検討というか予測の一手はことごとく覆されている。
「う~ん。直接みる?終盤にちかいし」
「だな」
検討しつつ、うっていてもどうも二人からすれば彼らの手が読みにくい。
というか白が変なところにばかりうつような気がするのは何も気のせいではないであろう。
とりあえず、そろそろ終盤、ということもあり二人して石を片づけて観戦にと回るヒカルとアキラ。
しばし、さまざまな人々が二人の対局を見守りつつも、時間はコチコチと過ぎ去ってゆく…
「……まけ…ました……」
表情におもいっきり悔しさがにじみでている。
負けをいいたくないが、いいざるを得ない、というところなのであろう。
「ありがとうございました」
淡々といいつつも碁石を片づけ始める伊角。
そんな対局の後ろというか周囲においては、
「やったぁ!」
何やら本気でよろこんでいる院生仲間たちの姿が目にはいる。
彼らからすれば伊角にどうしてもかってほしかったのも事実。
あの真柴がかてばどんな嫌味をいってくるかわかったものではない。
だからこそ心から喜んでいる彼ら達。ゅ
「始終、伊角ペース、だったみたいね」
「ほんと、そうだったよ」
「もうちょっと真柴さんやるかとおもったけど」
「どっちがプロかわかんないよな」
実際に実力的には伊角のほうが格段に上。
真柴はどちらかといえばその嫌味攻撃で相手を翻弄し、勝ちをおさめたにすぎない。
それは院生のときから変わらない。
ぎりっと歯をくいしばる。
だがしかし、こんな負けをしたままで終わりたくない。
それゆえに、
「へ、へん。こんなところで俺にかったって意味ないぜ。
二年も三年も院生一位やってても意味ないのとおんなじでさ。プロ試験に受かんないとしょうがないんだよ」
碁石を片づけるわけでもなく、厭味ったらしく吐き捨てるように言い放つ。
ぴくりとそんな真柴の言葉に伊角も反応するが、負け犬の遠吠え。
もしくは下手に言い返せばさらに相手は嫌味を連発してくる。
というのは長い付き合いだったからこそわかっている。
それゆえにだまってもくもくと碁石を片づける伊角。
そんな伊角とは対照的に碁石をかだつけるどころか、椅子にすわったままのけぞりかえり、
「伊角さん、去年のプロ試験だって俺にかったけどうかんなかったでしょう。だめだったっしょっ!
ここ一番って勝負のがすようじゃ、どうせ今年もうかんないにきまってるっ!
伊角さんには俺とちがって勝負強さがまったくないんだしねっ!へんっ!伊角さんなんて…」
むかむかむか。
相手が言い返さないのをいいことに、言いたい放題言い放つ真柴。
相手に不快な思いをさせるのはひととしてあるまじき行為である、ということを彼はわかっていない。
こいつ…っ!
そんな真柴の姿をみて思わず身構えるヒカル。
と。
ガシャッァァッン!!
いきおいよく碁石が散らばる音。
みれば、我慢の限界にたっしたらしく、そんな真柴をおもいっきり殴っている和谷の姿が目にはいる。
殴られた真柴はといえばおもいっきり碁石とともに椅子からひっくり返る。
「和谷!?」
まさか和谷が殴るとはおもわなかった。
それゆえに驚きの声をあげている伊角。
「何ごとだ!?」
そのあまりの音に驚いて会場にいたほかの人々もその騒ぎに気づいて視線をむけて走り寄ってくる大人たち。
「てめぇ!この、真柴っ!さっきからきいてりゃいいたいほうだいいいやがって!むかつくんだよっ!」
何やらそのまま真柴にのしかかるように襟首をひっつかんで叫んでいる和谷ではあるが。
「やっちゃぇ!」
そんな和谷をあおっている院生の姿も垣間見える。
手を襟首にかけて、我慢も限界だったらしくとっくみあいを始めている和谷ではあるが。
だがしかし、今は大会のさなか。
それゆえに、はっと我にともどった数名があわてて和谷と真柴をひきはがす。
「和谷、やるならわかんないようにやんないと」
ぽそっとヒカルがそういうのに対し、
「でも、今のは和谷にわたしは同感だわ。真柴がわるいっ!」
うんうん。
その場にいた誰もが奈瀬の言葉にうなづいているそんなさなか。
パタパタパタ。
「まったく。何があったのかしらんが、大会最中に何てことを。まだ対局中の子たちもいるんだぞ!?
とにかく、石を片づけて一切さわぐんじゃないっ!」
騒ぎをききつけてかけよってきた院生の篠田師範がその場にいる全員を見渡しいってくる。
何しろまだ対局している人たちはいるのである。
それゆえの忠告。
「けっ!」
がしゃっ!
「真柴くんっ!」
注意をうけたにもかかわらず、反省の色もなく横にあった椅子をそのまま蹴り飛ばす真柴。
そんな彼にと注意をしている篠田に対し、
「先生、し~」
何よりも大きな声をだした篠田におもわずつっこみをいれているほかの院生たち。
そのまま片づけることもなく立ち去ろうとしている真柴の姿を視界にとらえ、
しばし目をつむり精神統一。
『ヒカル?』
ヒカルが何をしようとしているのかわからない。
それゆえに佐偽が首をかしげてといかけるとほぼ同時。
何やら力がヒカルの手に集まっているような感覚をうける佐偽。
それと同時。
「うわっ!?」
がらがらがっしゃぁっん!!
すっとヒカルが手を前に突き出したとほぼ同時、そのまま立ち去ろうとしていた真柴がおもいっきり何もない場所で躓きこける。
そのまま横にあった机ごとひっくりかえし、碁石もおもいっきり周囲にぶちまける。
「真柴くんっ!まったく…何をやってるんですかっ!」
「確か彼は溝口九段の門下、でしたよね」
「これはしっかりと溝口先生に注意してもらわなければなりませんね」
騒ぎの概要をきき、そんな会話をしている大人たち。
何やら言い訳がましいことをいっている真柴であるが、彼が机にぶつかり机上の碁盤などをひっくりかえしたのは否めない。
それゆえに、しぶしぶながら片づけはじめている真柴の姿が目にはいる。
「ざまぁ、だわよ。真柴のやつ」
「いい具合にこけたな。あいつ」
そんな真柴を横目でみつつも、和谷が殴ったことによってちらばった石を片づけている奈瀬達がそんな会話をしているが。
「まったく。和谷。あいつはいわせとけばいいんだよ。どうせ負け犬の遠吠えなんだから」
「いいのよ!和谷!あいつなんかなぐっちゃっても!みんな納得するしっ!」
溜息まじりに和谷にいっている伊角とは対照的に、きっぱりと言い切る奈瀬。
「とにかく。和谷君も真柴君も、そこを片づけたらあとでわたしのところにきなさい!いいですね!
おさわがせしました。すいません。対局をつづけてください」
騒ぎをききつけてどうやら他の対局者たちも一時手がとまっていたようである。
それゆえに和谷と真柴に注意を促し、会場の人々にといっている篠田の姿。
「進藤?君、今、何かした?」
ヒカルがすっと手を伸ばした直後に真柴はこけた。
何となくだがヒカルが何かをしたようにおもえてしまう。
それゆえのアキラのといかけ。
「ん?別に」
ただ、霊力ぶっつけただけだし。
『ヒカル。それ、普通の人にはかなりきついのじゃあ?』
かつていきていたときに、陰陽師にかかわることも多かったがゆえにそのあたりのことは一応把握はしている。
それゆえにじと目でヒカルをみつつ、ヒカルの心のづふやきにおもわずつっこみをいれている佐偽。
いいんだよ。あんな真柴さんなんて。
いっていいことと悪いことの区別もつかないようなひとなんだし。
『たしかにそうかもしれませんけど……』
ヒカルたちがそんな会話をしているとは知る由もなく。
「そういえば、進藤達ももう対局おわったの?塔矢君もきてたんだ」
「あ、はい。僕も進藤も一回戦は突破です。次は僕と進藤、ですけどね」
ぶつぶつと文句をいいつつ片づけている真柴のほうには手伝いにいこうとするひとはいない。
こちらのほうは大人数で石をひろったのですでに全部拾い終わり、それゆえにきちんと元の形にともどしておく。
碁笥をきちんと置くと同時にヒカルとアキラに話しかけてくる伊角。
「私はかったわよ」
「僕は田島さんにまけた~」
「俺は中山さんにかったぜ」
「おれは塔矢君相手にあっけなく負けた」
「ボクはかったよ」
みれば対局がおわった院生仲間はどうやら全員この場にあつまってきていたらしい。
「じゃぁ、勝ったのは。進藤はともかく。伊角さん、奈瀬。それに越智。今回の若獅子戦、院生調子いい?」
「あ、飯島の対局、まだおわってないみたい。私ちょっとみてくるね」
たしかにみれば、まだ院生の中でも対局がおわってないものもいるらしい。
ふときょろきょろと周囲を見渡して、まだ対局中の院生仲間のほうにとむかってゆく奈瀬。
「進藤、君はどうする?」
「どうするかな~。お昼までまだ時間あるし。お前はどうすんだ?」
たしかに時刻は十一時半を少し過ぎたあたり。
「とりあえず、緒方さんもきてることだし。ちょっといってくるよ」
「そっか。じゃ、またあとで」
「うん。またね」
簡単な会話をかわしてそれぞれに別れるヒカルたち。
そんな立ち去るアキラの姿を見送りつつ、
「しかし。塔矢明ってはじめはとっつきにくい、とおもったけどけっこうそうじゃないよな~」
「こらこら。和谷。それ、絶対に森下先生のまえでいうなよ?」
「げっ!?って冴木さん!?」
いつのまにやってきていたのか、和谷の背後からいきなり話しかけてくる一人の男性。
「たしかに。森下先生って塔矢門下に対してはものすごくライバル意識もってるの有名だもんね~」
「フク!てめえいらないことをいうなよ!?」
「あはは。どうしよぅかなぁ?」
「まて!てめぇっ!」
何やら追いかけごっこもどきを始めている和谷達ではあるが。
「とりあえず。進藤君。次は君と塔矢君、だね。がんばってね」
「は、はい!」
冴木にいわれておもわず姿勢をただして返事を返す。
「次は進藤と塔矢か。すごい一局になりそうだよな」
「でも、今年は倉田さんたちがいないから強豪があまりいないから、あるいみ決勝戦に近いかも」
「たしかに。若獅子戦は二十歳まで、だしね。参加できるのは」
「へ~。倉田のお兄さん、二十歳より上なんだ」
「しんど~う。お前、もうすこししろうよ。倉田さんは今年で二十一。去年の若獅子戦の優勝者だよ?」
「そなの?あのおもしろいお兄さんが?」
しかもかなり扱いやすい人物、とヒカルの中では位置づけられている。
「進藤に何をいっても無駄のような気がするのは気のせいじゃないとおもう……」
「同感」
うんうん。
なぜかその場にいる全員が伊角の言葉にしみじみとうなづき同意する。
「もう、何だっていうんだよ!みんなしてっ!」
わいわいわい。
しばし、なごやかな会話をしつつも、時間はゆっくりと過ぎてゆく……
「天野さん、さすがに塔矢戦は観戦者、おおいですねぇ」
「というか、緒方九段…無理をとおしたみたいだねぇ」
観戦者の数よりも、そちらのほうにあきれざるを得ない。
大会の進行係りにどのように話しをつけたのか、ヒカルたちの大局の間横に椅子を一つおき、
そこで何でも対局表をつける、というらしい。
ちょっとした膝における形のボードがあれば、対局表をつけることくらいは彼にとっては朝飯前。
しかし、若獅子戦の決勝戦以外でそこまで棋譜を残す行動など、今まできいたことがない。
あるいみ前代未聞、ではある。
ほとんどの手のあいている人たちは塔矢明の対局に興味があるのか、
残りの七組の対局にはあまりギャラリーはついていない。
まあ、きちんとした棋譜がのこるのはかなりありがたいけど。
そんなことを内心おもいつつも、人ゴミでみえないヒカルとアキラの対局している席のほうにと視線をうつす。
「ま、私たちは私たちの仕事をしよう。他にも対局してる人たちはいるんだし」
「ですね」
若獅子戦の様子を伝えるのが彼らの役目であり仕事である。
それゆえに塔矢明たちの対局はきになるものの、
とにかく仕事をするためにと他の対局者たちのほうにと歩いてゆく天野達の姿。
パタパタパタ。
「うわ~!?もしかしてもう二回戦、はじまっちゃってる!?」
何やら元気な声が入口のほうから聞こえてくる。
「って、倉田先生!?」
その場にいた誰もが驚きの声をおもわず漏らす。
ぱたぱたと走ってきた人物はここにいるはずのない人物。
去年の若獅子戦の優勝者であり、今年は二十歳を超えたので参加資格を失った人物の姿。
「がんばって午前中に用事をすませて急いできたんだけど…お、塔矢達の対局はあそこか」
きかなくてもあまりのギャラリーの多さにすぐにわかる。
「あ、あの?倉田先生?」
なぜ彼がここにきたのかわからない。
そもそも、唯一、塔矢明に今のところの対局で倉田は勝ちを収めている。
それにしてもわざわざ興味のない対局を地方から戻ってきてまでみようとするほどとはおもえない。
今日、倉田は関西のほうの棋院にて対局があったはずである。
その手合いを綺麗さっぱり午前中でカタをつけてとんぼがえりでもどってきた倉田なのだが。
そんな事情を彼らが知る由もない。
何やらざわめく人々を気に留めることもなく、倉田もまた、ヒカルたちの対局がおこなわれている場所にとむかってゆく。
「倉田君」
「あれ?緒方先生。緒方先生もみにきてたの?あ、面白いことやってる」
ふと、緒方がもっているボードをみておもわずつぶやく倉田。
「せっかくだから、まともな棋譜をつけようとおもってね」
「なるほど。…少しいいですか?ふむ…なるほど…って、げっ!?これ、二人の今までの…ですよね?」
棋譜をみるかぎり唸る以外の何ものでもない。
棋譜をみれば二人の打ちまわしの様子がよくわかる。
局面はいまだに中盤にさしかかるあたりとはいえ、まったくもって手筋がよめない局面。
周囲にいた若手プロや院生たちからすれば緒方につづき、倉田棋士まできたことにより多少動揺するものの、
それでもやはり、目の前で繰り広げられているヒカルとアキラの対局のほうに気をとられてしまう。
ここにいる全員は碁をたしなむものであるがゆえに、この一局がどれほど濃い内容なのかはいわずともわかる。
だからこそ倉田の登場に驚くものの、どうしても局面から目がはなせない。
「倉田君はどうしてここに?」
「進藤と塔矢の対局が二回戦にあたる、と棋院でみてたんですよ。
それで関西のほうの対戦をとっととおわらせてもどってきたんですけどね」
何やら院生たちからすれば雲の上のような会話のような気もしなくもない。
「明君はわかるけど、倉田君、進藤をしってたのか?」
「一色碁をうったことがあるんですよ。進藤の読み間違いでどうにかたすかりましたけどね~」
しかも、そのとき進藤のやつ一色碁は初めてだったようだけど。
その言葉はかろうじてのみこみつつも、緒方と会話をしている倉田であるが。
「読み間違い…ね。この大会の前のときも、明君あいてに進藤のやつは読み間違いで負けたらしいけどね。
明君相手に。だけどその欠点はどうやら克服されてるようだがね」
二人の局面をみればわかる。
うかうかなんてしていられない。
早くタイトルをとらなければまちがいなく、この二人が自分たちがねらっているタイトルをかっさらってゆくであろう。
『しかし。ヒカルも塔矢も力、つけてきてますよね~♪ほんと、子供が成長してゆく様をみるのはたのしいですね♪』
はじめは佐偽をおいかけてきた塔矢明。
そんな塔矢明にバカにされたくないがゆえに碁を覚え始めたヒカル。
まるで、二人は神が互いに影響し成長してゆくようにもうけた存在同士のようにみえますし。
真剣勝負をみているのはとても楽しい。
自分とて真剣勝負をしたいのは山々なれど、自らが碁石を持てない以上、どうしようもない。
ふと周囲をみてみれば、どうやら他の対局はどんどん終局をむかえており、
残りはヒカルたちの対局とあと数局のみ。
今日の予定は午前中に一回戦。
午後から二回戦。
この二局のみ。
第三局目は十五日にあり、その次の土曜日には三位決定戦。
次の土曜日に他の順位をきめる対局があり、最終、五日目にあたる五月の三十日。
その日に若獅子戦の決勝戦がおこなわれるらしい。
ざわざわざわ。
しばしの間、会場内は騒がしくなってゆく……
「よしゃ!一目半!これで一勝一敗だ!」
おもわず整地をすましたのちにガッツポーズ。
「進藤、前みたいなポカしなくなってきたよね。ほんっと」
負けたというのに別にくやしくはない。
全力をだしきった、という感じがありとても気分的には爽快である。
どよっ。
「塔矢明がまけた!?」
「うそ!?」
何やら背後のほうではざわめきがおおきくなっているが、そんなことはヒカルにとってはどうでもいい。
「すご~い!進藤!」
「というかこんな対局、タイトル戦でもめったにみれないよね」
対局を目の当たりにしていた人々はそんな感想をもらしているが。
「緒方先生。その棋譜、あとでコピーしてください!」
緒方がきちんとした棋譜をつけていたのをしっているがゆえに緒方にそう懇願しているものの姿もめにはいる。
徐番の大盤狂わせ。
とはまさにこのこと。
無名の、しかも院生があの塔矢明を負かすなど。
ヒカルとアキラが仲がよい、としっていた院生仲間たちはさほどこの結果に驚かない。
だがしかし、他の人々はといえば話はべつ。
無名の名前すらきいたことのない院生がかつなど、いったい誰が想像できようか。
「へへ~ん。次もかつからな!」
「どうかな?次はこうはいかないよ?しかし、ここをこうきたほうがよかったかな?」
「いや、ここはこう、で、こうじゃないのか?」
「?だけど、こうきたら、君はこうくるだろ?だったら……」
何やらいきなり検討がはじまっている二人であるが。
「お~い。二人とも。いきなり検討はじめないように」
そんな二人をみつつ思わず苦笑しつつも声をかける。
「あれ?倉田のお兄さん?何でこんなところにいるの?」
「あれ?倉田さん?いつのまに来てたんですか?」
がくっ。
その声にようやく倉田に気づいて、きょとん、とした声をほぼ同時にだしているヒカルとアキラ。
「お、おまえらなぁ。徐番からいただろうがっ!」
おもわずそんな二人に叫び返す倉田であるが、
「きづいてた?塔矢?」
「ううん?まったく」
がくっ。
さらっと言い切られてさらに脱力してしまう。
『まあ、ヒカルも塔矢も二人とも、対局はじまったら局面に一点集中してましたしねぇ』
くすくすくす。
くすくすとわらいながも、
『ヒカル。検討はあとにしたほうがいいでしょう。どうやら他の人たちの対局もおわってるようですし。
のこってたのはあなたたちの対局のみのようですしね』
くすくすと笑いながらいってくる佐偽の言葉にふとみてみれば、たしかに対局をしているのは自分たちのみらしい。
「あ。ほんとだ。他の人の対局、もうおわってたんだ。塔矢。あとから検討しないか?」
「そうだね。って僕たちが最後だったんだ」
気付けば周囲には参加者全員がむらがってかなりの数の観戦者の数ができあがっていたようである。
「ほんと、おまえらの驚異の集中力には脱帽するよ。ま、それより。進藤。報告してこいよな」
「あ、うん、だけど片づけ…」
「ここは俺達がやっとくよ」
いいつも、がしゃがしゃとヒカルたちにとかわり局面を片づけ始める院生たち。
「はいはい!さわがないで!さわがないでください!」
ざわざわと今だにざわめきがおさまらないそんな中。
ともあれ、一日目の若獅子戦は幕を閉じてゆく……
-第39話へー
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あとがきもどき:
薫:はいvさくっと若獅子戦の一回戦をばv
次回で例の通りすがりの一局をv(まてこら
いあ、できれば週刊碁が発売される前にもっていきたいのですよvええv
さてさて、今回はあまり意味になってなかったようなので、例のごとに小話しをばv
ではではv
↓
「ヒカル、泣きたいときにはないてもいいんだよ?」
「アカリ~!!」
ずっと誰にもいえなかったのだろう、というのはわかる。
以前、ヒカルから好きな人ができた、というのはきいている。
その肖像画をかいてもらったときにかなり納得したのも記憶に新しい。
その彼が死んでしまった…という。
連休がおわっても学校にすらこなかった親友のヒカル。
だからこそ心配して家にまでおしかけた。
佐偽が…佐偽が…
といって泣き崩れている彼女の姿をみれば、何があったのかは一目瞭然。
自分で自由が利かない人だから。
そういっていた。
それはつまり、入院か何かをしていた、ということなのだろう、というのも理解していた。
詳しいことはわからないが、泣きじゃくるヒカルの説明から、ヒカルが中だちしたとある対局が原因でもあったらしい。
誰にも心配かけたくないということで自分の中にすべてをため込んでしまうこの性格は今も昔もかわらない。
だからこそ、ほうっておけない。
泣けば、どこかふっきれることがあることをアカリはしっている。
どうしてヒカルがその人のことを両親にも内緒にしていたのかはわからない。
だけども、何か理由があったんだ、と理解している。
だから彼女から聞かされるまでは追及しない。
しばし、泣き崩れるヒカルをなだめつつ、ゆっくりと頭をなでるアカリの姿。
「でも、よかったね。ヒカル」
「うんっ!」
何やら五月の五日。
この日は毎年ヒカルは情緒不安定になっていた。
心配なのできてみれば、何やら進藤家はさわがしい。
見慣れない靴が二足ほど見受けられていたので気になってお邪魔した。
そこには、肖像画で見せられたことがある男性と、そしてみたこともないかわいい女の子の姿。
話しをきけば、大手術をするにあたり、自分は死んだといってほしい、と周囲にたのんで彼は海外へ手術に赴いたらしい。
そしてその手術のあとはずっと昏睡状態で生死の境をさまよったとか。
だが、手術もどうにか一年あまりの昏睡状態をのりきり成功したらしく、こうしてヒカルのところに挨拶にきたらしい。
ヒカルが夢中になるはずよね。
目の前にいる男性をみてしみじみとおもってしまう。
絵から抜けでたような美青年、とはこういうのをいうのかもしれない。
その横にすわっている表現の仕様がない、一度みたら絶対にわすれならない美少女と並んでいればそれこそ夢のよう。
「佐偽さん、でしたよね?これからどうするんですか?」
「それなんですけどねぇ。まだきめてないんですよ。身内もいませんし、それゆえに保証人もいませんしねぇ」
「働くにしてもしばらくは様子をみとかないと、いつ佐偽さんは発作がでるかわかりませんし」
ヒカルの母の問いかけに少しこまったようにと答える藤原佐偽、となのった男性。
そんな彼に続いて横にいる美少女が鈴をころがしたかのようなかろやかな声でいってくる。
つまり、それはまだ油断ができない状態である、というのを指し示している。
「なら佐偽!うちにいて!ね!ね!私の師匠として!いいでしょ!?お母さん!ね!?」
「ヒカル。それはですが母君たちが困るのでは……」
「何といってもゆずらない!だめっていうんなら私が佐偽をやとうの!それか佐偽とどこかにすむっ!
今度こそ佐偽とずっと一緒にいるんだもんっ!!」
ぶっ。
ヒカルらしいというか、何というか。
おもわず口に含んでいたお茶を吹き出しそうになってしまう。
ヒカル…その言葉の意味、わかってないんだろうなぁ?
だけど、そんなヒカルをみる佐偽さんの目はとてもやさしい。
年の差はみたところ四歳か五歳…かぁ。
ヒカルがあの塔矢君たちに目もくれなかったのもわかるわよね。
これは。
うん。
「まあまあ、ヒカル。おちついて。ね?佐偽さん。あなたがよければ是非ともうちにすんでくださいな」
「いいのですか?」
「娘がこういってますしねぇ。あなたがよそにすむとなればこの子は家でしてでもおしかけませんし」
「あ~。ヒカルならやりかねないね。だけど、ヒカル、よかったね。佐偽さん、またヒカルをなかせないでくださいね?」
「やったぁぁ!お母さん、ありがとぅぅ!!佐偽!!また一緒にいられるんだね!わ~い!!」
この喜びようからヒカルがどれほど彼を心の中で思っていたかがよくわかる。
だけど、こりゃ、ヒカルに想いを寄せてる他の子たち…絶対に勝ち目ないし。
ま、ヒカルが笑顔でいてくれれば私もうれしいけどね。
↑
以上、ヒカルの親友、藤崎朱里のサイドの小話、でした。
佐偽がヒカルの家に訪ねたとき、その日はヒカルが毎年情緒不安定になるので心配してたちよったわけです。
約、二年間、ヒカルは五月の五日だけはものすっごく情緒不安定になってたのですよ。
たぶん、原作のヒカルもそうなるんじゃいのかなぁ…佐偽が消えた日でもあるし…
ちなみに、このアカリは佐偽の存在をしってはいても(でも幽霊とはしらない)回りの誰にもいってません。
なので、ある意味、ヒカルと佐偽がつながりがある、と知ってた人物、という設定でもあります。
これからのち、ヒカルのものすごい心配症をみつつも苦笑していたりするというv
いうまでもなく、ものすごくかわいい美少女は菫ちゃんです(笑
ではでは、次回、若獅子戦の翌日の手合い日の日曜日~♪
門脇さんがでてきますvではではv
2008年8月22日(金)某日
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