まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。
ちなみに、前回、ヒカルが韓国のプロのことを知らなかった。
というのは、以前にネットの話の関連で聞かされたことがあったけど、きれいさっぱり失念してわすれてた(笑
という理由から、だったりしますv
ま、ヒカル、ですしねぇ(まてこら
佐偽からしても、外国さんにもプロというものがあったんですねぇ。
というような感覚できいていたので国名をいわれてもピン、とこなかったのですよ(笑
まあ、今だにこの時代の国名とか佐偽はよくわかってないですから(知る機会もまずないし
江戸時代の呼び方とかでいけば佐偽も多少は理解…したんでしょうけどねぇ(苦笑
まあ、そんな裏設定はおいとくとして、何はともあれゆくのですv
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季節はめぐる。
だがしかし、常にいつも同じ季節であれども人々を取り巻く環境は変化する。
その日々の積み重ねが、人を強くし、また未来へと道をつむいでゆく。
それは新たなる道を歩いてゆくために。
星の道しるべ ~新年~
「なぁ。佐偽?」
『はい?』
「これってもともとは虎次郎より前はお前がつかってたんだろ?」
『そう…ですよ?』
倉の中にとある一つの碁盤。
その碁盤には今でもくっきりと血の染みが視えている。
よくよくみれば血の染みと同時に涙のような染みも垣間見えているが。
「つまり、この碁盤、平安時代からあるんだ…かなりのお宝なんじゃあ?」
おもわずぽそりとつぶやくヒカルの気持ちはわからなくもないであろう。
『それはわかりませんけど。私にとってはこの碁盤は何よりも代えがたいものです。
この碁盤があったからこそ、虎次郎、そしてヒカル、あなたに出会えたのですから』
新年恒例の里帰り。
といっても何やら騒いでいる大人たちをほっといて一人、倉の中にとはいっているヒカル。
正確にいえば佐偽もいるので一人…というわけではないような気もするが。
「前からきになってたんだけど。この血のシミとかが消えたらどうなるわけ?」
『それは…おそらく、私のこの世にとどまれる時間がなくなる…ということだと私はおもっています……』
「?千年もずっといたのにそんなことありえるの?」
それは本音。
ヒカルからすれば自分が死んでも虎次郎のように佐偽はまた長い時を誰かをまちながら過ごすのかとおもっていた。
彼の望み。
神の一手を究めるまでは。
『さあ?わかりません。私にはわからないのですよ。ヒカル。
どうして千年も私がこの世にとどまれているのか。それすらも……
神の御意思が。よもや神が気まぐれで私に神の一手をきわめさそう、としているわけでもありますまいし』
佐偽の言葉は本音。
自分が傷つくことを恐れずにたちむかってゆかずに入水してしまったがゆえに、
神がそのような戯れを起こすなどとはおもっていない。
以前、陰陽師から生前、きいたことはあった。
自ら命をたった存在はなかなか成仏することができぬ…と。
もしかしたら自分はその分野なのかもしれない。
だけども碁を打ちたい、とおもう気持ちは生前とかわりがない。
ときどき自分をあさましくかんじてしまう。
虎次郎といたときにもときどき感じていた自分自身の愚かさ。
「ま、考えてもしかたない。か。佐偽は今、ここにいるんだしな。
でもさ~、お前が望んでる、塔矢のおじさんとの対局、ほんと~~~に分が悪いよなぁ~…」
そもそも、ヒカルは院生になったがゆえに日曜日などの時間はあいていない。
しかも、何やら塔矢行洋、という人物は世界すらをもかけめぐっているらしい。
彼がニューヨークに対戦にいっているときにアキラの家に呼ばれて、
こってりと囲碁界の基本的な知識をたたきこまれたのは記憶に新しい。
「塔矢のおじさんがネット碁やってたら一番話しははやいんだけどな~」
それだと時間を気にせずに、どこにいても対局することは可能のはず。
『そういえば、塔矢の母君がきになることをいってましたね』
「え?ああ、あの、時じゃないから何かが邪魔してるんじゃない?とかいうあれ?そんなことありえるかなぁ?」
『わかりません。わかりませんがここまで都合がつかない、というのも何かの意思をかんじなくもありません』
なぜかアキラの家にいったときには、彼は留守、もしくは用事があったりで対局する時間はとれないのも事実。
それがここ一年以上つづいていればなおさらにそうおもっても仕方がない。
「新年、かぁ。何だかお前とであってでもまだ二回目の正月、なんだよな~」
毎日そばにいるのが当たり前になってそんなことは普段はおもわないが。
『そう。ですね。ヒカル、今年もまたよろしくおねがいしますね。
今年はヒカル、プロ試験、うけるのでしょう?がんばりましょうね』
「受かるかどうかわかんないけどな」
『ヒカル!今からそんな弱気でどうするんですか!?』
「だってさ。今だに俺、お前を本気にさせることすらできないんだぜ!?」
とはいえ、碁を覚えて一年と少ししか経過していないのにすでにプロと互角に渡り合えるだけの棋力はついている。
ヒカルはそのことにまったく無自覚、なのだが。
『大丈夫ですよ。ヒカルは呑み込みいいですもの。虎次郎よりもヒカルのほうが筋はいいですよ?』
「なぐさめなのか本気なのかわかんないけど、ひとまずありがとう、といっとくよ。…よし。これくらいでいいかな?」
そんな会話をかわしつつも、とりあえず誇りまみれになっていた碁盤を綺麗にと拭き終る。
以前、この碁盤を拭いたときには今のこの現状をまったく知る由もなかった。
それでも以前より、今のほうがはるかに日々が充実しているのが感じられるので後悔したことは一度もない。
今年でヒカルは中学二年にと進学する。
そろそろ高校受験も考えなくてはいけない年ではある。
まだ一年以上先、とはいえ最近は先に希望高校を決めて、それから…という風潮が強い。
「まあ、中学は義務教育だからいいけどさ~。問題は高校、だよな~」
それでなくても院生仲間で高校に通っている子が悩んでいるのを目の当たりにしているがゆえにとまどってしまう。
『和谷はこ~こ~とかいうのにはいかないですむように、試験に合格するとかいってましたよね?』
「和谷は勉強、きらいなんだってさ。俺も一部以外の勉学は好きじゃないけど…」
それでもおこずかいがかかっているのでおろそかにはできない。
「そうだ!なあ、佐偽。もしプロ試験に俺がうかったら、これでうたないか?虎次郎とこれでうってたんだろ?」
ふといいことおもいついた!
といわんばかりににっこりほほ笑みながら横にいる佐偽をみて話しかけるヒカルの提案に、
『ええ。それはすばらしいですね。やりましょう、ヒカル』
虎次郎にヒカルのことをみせてあげたい、というのもある。
あのとき、虎次郎はわかれのまぎわに自分にわびの言葉をいれてこの世をさった。
済まない、佐偽…と。
私は大丈夫ですよ。虎次郎。
今、ヒカル、という子とめぐりあえましたから。
そう、佐偽は常にそのことをおもいだすたびに空を仰いでは心の中で虎次郎にと語りかけている。
幼いころから大人になるまで、そして死ぬその瞬間までそばにいた虎次郎。
虎次郎は佐偽にとって、あるいみ子供のような存在ではあった。
虎次郎からしてみれば、佐偽はあくまでも碁の神であり、神聖視していたのだが。
そして、ヒカル。
ヒカルは佐偽を一人の人間、としてとらえているので遠慮がない。
虎次郎のときとは異なり、どちらかといえば師弟や子弟、といった関係に近いであろう。
どちらが子供でどちらが親か。
はたまたどちらが師でどちらが弟子か。
あいまいながらもどこか均等がとれているようなこの二人。
一人の人間、としてとらえているがゆえにヒカルも遠慮がない。
そしてまた、佐偽もまたそれがわかっているからなおさら甘えがでてしまう。
そんな二人の不思議な関係を知っているのは今のところ塔矢明子のみ。
「え?進路?」
律儀なアキラらしく新年の挨拶にとわざわざヒカルの家までやってきている塔矢明。
「うん。先生がさ、二年になったら進路希望を紙にかいてもらうようになるから、今のうちにかんがえときなさいって」
何でも塔矢名人は正月対局があるらしく、またまた出張、らしい。
対局多忙でたおれないのかな?
とおもうのはヒカルだけではおそらくないであろう。
せっかくだから、というので二人で近くの神社に出向いているこの二人。
「僕はそのまま、かな?海王高校。海王は囲碁に関して融通きくからね」
プロともなれば対局日や出張、さらには海外出張などが多々とある。
普通の高校でそこまでちょくちょくやすみをとれるか、といえば答えは否。
「おまえのさおやじさんをみてたら、プロっていそがしそうだろ?もしうかったとしたら、学校いく時間とかもないし。
どうしようかな?とおもってるんだ。和谷は高校にはいかない!とかいってるけど。
うちの両親は高校くらいはでてないとだめ!の一点ぱりでさ~」
まあ、たしかに。
普通の就職をするならば、よくみる紙面などにある従業員募集広告にも高卒以上、というのが絶対条件となっている。
それゆえに両親の言い分もわかる、わかるが。
「君んとこ、あいかわらず囲碁界に関しておぼえる気、ゼロだもんね……」
そもそも、アキラがプロ試験に合格した、というのを聞かされたときのヒカルの両親の反応。
「「え?子供なのになれるわけないじゃないの。塔矢君も冗談をいうのね」」
ときた。
さすがに唖然としてしまったアキラなのだが。
ヒカルがそんな両親に囲碁新聞をみせてはじめて納得し、かなり驚いていたのが記憶にあたらしい。
「君の囲碁の腕だと推薦ではいれるけどね。海王だと」
海王の中学、高校はかなり囲碁に関しては寛容。
さらにいえば、自身の学校からプロ棋士が出身した、ともなれば囲碁界においてもハクがつく。
それゆえにふつうの野球などとおなじように囲碁に関しても推薦入学をうけつけてはいる。
「あ~。それは絶対ニダメだとおもう。うちの親、私立なんて高い場所は絶対にだめ!の一点ばりだもん」
しかも海王、といえば有名な進学校。
まあ、けっこう有名どころにいってみたい、といえば案外あっさりと許可するような気もしなくもないが。
「プロ試験にうかって来年から活動はじめたら、君の所得で通える、けどね。
僕としては君と一緒のほうがたのしいけど。いつでも学校での休み時間中にうてるし」
「たしかに。それも魅力、だよな~
どちらにしても今年中学二年なのにはかわりはない。
来年になれば本格的に進路をきめなければならないであろう。
所得で通える、という点で多少疑問がうかばなくもないヒカルであるが、
まあ、塔矢がいうんだし、そうなのかな?
その程度の認識しかないヒカル。
「それよりさ。若獅子戦、たのしみにしてるよ?」
「おまえ、今から五月、五か月も先のこといってどうすんだよ。
だけど!塔矢!次はかつかんな!俺、まだ前の大会のときの屈辱わすれてないからなっ!」
「たしかに。あのときの君の読み間違いのポカはいたかったよね~」
「今度はあんなミスしないかんな!覚悟しとけよっ!」
「たのしみにしてるよ♡」
アキラからすれば、あのとき、勝ててほんとうによかった、とおもう。
すくなくとも、プロ試験の概要のガの字もしらなかったヒカルをどうにか院生にまでひっぱりあげることができたのだから。
あの大会はアキラにとってもカケ、でもあった。
ヒカルの才能を一般にうもれさせたままにさせないための。
だからこそ、何としてでも勝たなければならなかった。
まあ、結果はヒカルの読み間違いのポカミスにより勝てたようなものではあるが……
「あ~!おまえ、今、無理!とかおもっただろ!?」
「さあ?どうかな~?」
「って!こら!塔矢!」
何ともほのぼのとしているたわいのない会話。
そんな会話をしている彼らをみて、仲がいいのね、あの子たち。
と周囲にいる第三者たちはそうおもっていたりするのだが。
『五月…ですか。季節はめぐるんですね~』
ヒカルは一組の一位になってからもずっと院生の中では一位をキープしている。
二位はそれまで一位であった伊角。
三位はときどき変動があるものの、だいたい、二、三人が入れ替わり立ち替わりしている現状。
五位以下はかわりばえなく、順位をたもっていたりする。
「そういえば、進藤。これからどうする?時間、あるんだろ?」
「え。あ。うん、とりあえずお世話になってる碁会所に顔をのぞけようかな~、っておもってさ」
あれからもときどき顔はのぞかせている。
「そういや、君、僕のところは遠慮するのに何でそこでは遠慮がないわけ?」
「だってさ。お前に借りをつくるの、何かいやだしっ!」
きっぱり。
事実、ヒカルは塔矢行洋が経営している、という碁会所にはあまり出向かない。
アキラは席料はいらない、といってはくれるが何か借りをつくるようでヒカル的には納得がいかない。
しかもおこずかいが限られている以上、毎回、千円も払うのはけっこう痛い。
子供料金だとしても五百円、というのはヒカルにとっては今だに大金。
その点でいえば、あちらの碁会所のほうは気がねがない。
何でもヒカルがいることによって人の集まりがよくなり、逆に席料より多く収入があるとか何とか。
ヒカルからしても、佐偽にしてみても、気がるに打てる、というのはかなり助かる。
彼らはおそらくヒカルがうっても、佐偽がうってもさほど気づかないのである。
だからこそ、佐偽もときどき指導碁ではあるが打たせてやることができる。
ネット碁ばかりだとたしかに、相手の顔や対局どきの独特な感覚、などといったものが存在しない。
それゆえのヒカルの優しさ。
「進藤って変なところで頑固、だよね」
「お前にいわれたくないよ」
そのあたりの頑固さはあるいみヒカルもアキラも似たり寄ったり。
「でもさ。正月からあいてるの?その碁会所?」
「この前いったとき、三日からあいてるとかいってたよ?」
「なら、今日からあいてるんだ」
「お前もいってみる?みんな気さくでいいひとばかりだよ?
おまえんとこみたいに静かで落ち着いた雰囲気とかじゃくて、どちらかといえば大部屋に近い感覚だけど」
塔矢名人が経営している碁会所はけっこう落ち付きがあり、しかも個々のスペースなどが完全に確保されている。
「じゃあ、そこによってから僕の家、だね」
「そういや、最近の大会の棋譜とかみせてくれるとかいってたっけ?」
しかも海外であった大会の棋譜などもみせてくれる、という話に一番先に飛びついたのは佐偽。
ヒカルからすれば別にあまり気乗りしなかったがあまりに佐偽が騒ぐのでいくことにした。
という実情をアキラは知らない。
そんな会話をしつつも、とりあえず恒例ともいえるオミクジをそれぞれにひき、たわいのない会話をしつつも、
二人、ヒカルがときどきたちよる碁会所にむけて足をむけてゆく。
「お。きたね。…って、塔矢ジュニア!?」
「こんにちわ~!おじさん!」
いつものように入口をはいるとにこやかに微笑みかけてくる碁会所のマスター。
そんなヒカルの後ろに何やらよく紙面でみなれた子供の姿をみつけて思わず叫んでいたりする。
「こんにちわ。はじめまして。彼がいつもお世話になってます」
ぺこっ。
そんな相手にたいして丁寧にお辞儀をしているアキラをみつつ、
「何でお前がお礼をいうわけ?」
「だって、君がお世話になってるわけだし?」
「お前、変なところで律儀だなよ~」
おもわず呆れた声をだす。
「え、ああ。そうか。そういえば君たちは友達だっていってたね。いつも進藤君からきいてるよ。
それはそうと、塔矢明君。プロ試験合格おめでとう。今年からプロ生活のスタートだね。期待してるよ?」
「ありがとうございます」
その筋では有名すぎる彼の来訪に驚いたものの、だがしかしヒカルからよくアキラの話をきいていたこともあり、
どこか納得しつつも、手を差し出す碁会所のマスター。
「何?あんた?そっちの子はもうプロなのかい?」
「おまえなぁ。お前だってしってるだろう!?塔矢君だよ!塔矢行洋名人の息子の!」
「え?この子が?!」
さすがに塔矢名人の名前はその筋で知らないものはまずいない。
知らなかったヒカルが特殊、としかいいようがないほどに有名人なのだから。
正月なのでひとの入りはまばらくらいであろう。
そうおもっていたのだが、どうしてこうして、けっこう人は店の中にとはいっている。
正月だからこそ、ともいえるのだが。
家にいても居場所のない人々が憩いをもとめてこの場にやってきている、という実情もある。
ざわざわ。
ガタガタッ。
「塔矢ジュニア、だって!?」
「本当だ!?」
「あ、進藤君。あけましておめでとう!まさか君が塔矢ジュニアをつれてきてくれるなんて!」
「おい!誰か色紙もってない!?」
何やらいきなり騒がしくなっている碁会所石心。
「なあ、塔矢。おまえってけっこう有名だよなぁ。こういう反応みて毎回おもうけど」
「まあ、こういう反応は昔からだから僕はもう慣れっこ、だけどね」
だから、君はわかってないんだろうね。
君が僕を父の子供、としてでなく僕を僕としてだけみてくれている、というそのことが。
どれだけ僕を助けているのか、ということを。
心でそんなことをおもいつつも、それは口にはださずにかるく微笑みながら横にいるヒカルにといっているアキラ。
「あれ?今日は河合さんはいないの?」
「タクシー運転手は正月どきはかせぎどき、だからねぇ。たぶんこれないとおもうよ?」
「ふ~ん」
きょろきょろと店の中をみわたせど、あの独特な雰囲気をもっている男性の姿がみあたらない。
「ま、河合さんもいつもさぼってばかりじゃ、クビになっちゃうもんね~」
「あはは。進藤君。それ、河合さんにいっとこうか?」
「げっ。え、遠慮しとく」
まあ、仕事中に仕事をさぼってよくここにくるような人物である。
よくもまあ首にならないものだ、とヒカルは常々おもっているのだが。
それでも彼の成績はわるくないので首にはならない、という事実をヒカルはしらない。
「まあまあ、せっかくきたんだ。うってくかい?二人とも席料はいらないよ?
あ、そうだ。進藤くん。はい、これ」
「うわ~!ありがとう!おじさん!」
「はい。塔矢君にも」
正月最中はよく孫などをつれて碁会所にやってくる客も多々といる。
それゆえに余裕をもってお年玉袋は用意してある。
「すいません。でもいいんですか?」
「何の。雀の涙ほどしかはいってないからきにしないで」
大人からみればそうでも、子供からしてみれば大金、ということはしばしば。
最も、アキラに関しては数十万単位以上のお金がうごきまくるのを目の当たりにして育っているのでどこかずれている。
「塔矢君!ぜひとも一局おねがいしてもいいかな?」
「ああ!ずるいぞ!佐賀さん!」
「あ、でも対局料とかいるんじゃあ?」
「くすっ。いいですよ。別に。それに正月、ですしね」
実際、普通プロ棋士と対局するのにはかなりの金額が必要となる。
基本的に指導碁などは棋院がさだめている対局料は八千円弱。
わいわい。
がやがや。
しばし、そんな会話をしながら、にぎやかに時間はすぎてゆく……
「しかし、塔矢ん家の基準っていったい……」
夜。
家にもどり、おもわずぽそっと本音がもれる。
「ヒカル。よく塔矢君のお母さんにお礼いっといた?」
塔矢邸に石心をあとにして出向いていったところ、塔矢行洋がいないのにもかかわらず、
幾人かのプロ棋士とかいう人たちが正月のあいさつにきていた。
しかもそれぞれが何らかの手土産などをもって。
それはどうやら昔からの恒例なのでアキラも別に慣れっこではあったのだが。
初めてそんな光景をみるヒカルからすれば驚き以外の何物でもない。
ヒカルのことを知らない人々が多数の中ではあるが、アキラの友達がきている。
ときいた彼らはヒカルにもご丁寧にもお年玉をくれている。
家に戻り、中身を確かめたヒカルがおもわずその中身の大金に目をまるくしてしまったのは先ほどのこと。
「いったけど…しかし、いいのかなぁ?」
さらにいえば、同じものなどがけっこうかさばるから、つかって、といって正月にいただいた品物のいくつか。
それらを手土産として持たされて帰宅した。
「美津子。相手の家にお礼の電話はしたんだろう?」
「ええ。向こうは気にしないでください。といってきましたけどね。
でも、改めて家の格式の違いがわかりますよねぇ……」
よもや手渡された手土産の中に高級品、ともいわれているキャビアなどがさらっと交じっているなどとはおもわなかった。
「囲碁、というものは格式の高い人たちがやるものなのかもしれないねぇ」
「あら、それだとうちのヒカルがやってるのが不思議じゃあ?あなた?」
「はは。それもそうだな」
「もう!父さんも母さんも!」
ぷう。
そんな二人の会話に思わずむくれてしまうヒカル。
『たしかに。ヒカルはこう品格とかがまだまだ、ですしねぇ。塔矢みたいに礼儀作法がもうすこしなっててほしいですが』
佐偽!おまえまでいうかっ!
そんな両親の会話をききつつ、背後で溜息まじりにいっている佐偽の言葉に心の中でおもいっきり突っ込みをいれる。
「しかし。ほんと、塔矢君の周りの人たちってお金もちなのねえ。中学生相手に万札いれてくるなんて」
あまりに大金に驚いてヒカルが両親にいったのはいうまでもない。
何しろ塔矢邸にてもらったお年玉のほとんどは、最低でも三万以上がぽち袋の中にとはいっていた。
中学生のヒカルからすれば大金以外の何ものでもない。
さらにいえば、塔矢の両親から、というお年玉においては何しろ十万もはいっていたのだからこれまたびっくり。
母がそれをきき、電話をしてみればいつも息子がお世話になっているからそのお礼もある、とのこと。
その金銭感覚の違いに唖然としたヒカルの母、美津子。
「まあ、お金はあるところには集まる、というしな。うちみたいなところには逃げるばかりだが」
働いても、働いてもそれでも年収がいくら…という世界。
しかも家のローンもいまだにしっかりと二世代ローンを組んでいるがゆえに残っている。
「ほんと、ヒカルが囲碁に興味をもたなきゃ、縁のない人たち、ではあるわよねぇ」
「まったくだ」
両親とてあのようなお屋敷ともいえる家にすんでいる知り合いはまずいない。
それゆえにヒカルが囲碁をつつげているのを黙認している、というのもある。
「ヒカル。これからもそそうのないように、な」
「は~い」
どうやら何をいっても無駄というか意味がないようにおもえる。
それゆえにとりあえず気のない返事をかえしておく。
「そうそう。美津子。また次から長期出張がはいるぞ」
「またなの?最近多いわよね」
「仕方ないさ。上司についてゆく出張、だしな。引き継ぎをかねて」
「そういえば。あなたの上司が支店の責任者になったからってあなたが引き継ぐとかいってたわね」
どうやら会話は塔矢達のことから仕事の話に移行したらしい。
「ごちそ~さま~。じゃ、俺、部屋にあがるから」
子供が仕事の会話をきいても別に意味はない。
それゆえにさくっと食事をおえた食器をきちんと台所の流し場にともっていき、二階にとヒカルはあがってゆく。
ヒカルが囲碁を始めて一年経過した、というのにいまだに両親は囲碁界のことをまったく覚えるきも、
また興味もない……
「正月なのに相変わらずおおいよな~」
なぜかネットをつけてはいると同時に殺到する対戦申込。
『ヒカル、ヒカル、今日もまた私にうたせてくれるのですか!?』
「だからお前の名前ではいったじゃん。さ、やるか!」
『はい!』
最近は、佐偽の早打ちをみるのが日課となっている。
それでもはっとする手を早打ちで瞬時に見出す佐偽はさすが、としかヒカルからはいいようがない。
佐偽もまた、この本の中の打ちてはおもしろい手をかえしてくるものがいるので楽しい、ともいっている。
それでも、佐偽に匹敵する打ちてなどは一人もいない、というのが実情なのだが……
数分で対局を終わらせ、さらに次なる対局へ。
短時間の間にほとんど百人きり、といってもいいその対局はすでにネットの上では話題になりまくっている。
中には、saiの正体をさぐれ!
というHPまでできている始末なのだが。
当然、ヒカルも佐偽もそんな場所を検索したことすらないので知る由もない。
sai、で検索をかければそれくらいはわかるようなものではあるが。
基本、ヒカルはそのままお気に入りに登録しているアドレスから直接「ワールド囲碁ネット」に接続しているので知る由もない。
しかもそれがロングイン画面に設定していればなおさらに。
最近、ヒカルが佐偽とうつときには、通常、指導碁、さらには置き碁、の三つのパターンでやっている。
通常、とは佐偽が手加減なくうちこみしつつ、ヒカルに指導を加えてゆく、というやりかた。
指導碁はもじどおり、相手にあわせて正しい方向にみちびいてゆくやりかた。
置き碁に関してはヒカルが十子以上おいてもいまだにぐうの根もでないほどに手も足もでない。
まあ、二十子以上おいても勝てないのだから、通常の互戦で勝てない、というのも道理ではあるのだが…
それゆえにヒカルは意地になり、さらに熱中してゆく、という循環がすでにできあがっている今日この頃。
そんな方法で日々練習を重ねえいるがゆえに、ヒカルは知らずにさらに棋力を増しているのだが、
ヒカル自身はまったくもって気づいていない。
気付いているのはヒカルとよく対局する佐偽と、そしてアキラの二人のみ。
院生手合いにおいてはいつもヒカルが指導碁をかねて半目勝ちを目指すように棋力を押さえてうっているがゆえに、
院生の仲間たちも当然そのことには気づかない。
「よ~し、いくぞ!」
『はいっ!』
最近では選ぶのも面倒なので対局申込があった手前、かたっぱしからうけていっている。
以前はまだ結構強いとおもわれた相手を選んでうっていたが、あまりに対局申込が増えてきたので今はそれすらしていない。
それでもいちおう、強い、と佐偽がいった相手の名前は一応記録しておくようにはしてはいるが。
そんな会話をかわしつつも、今日もまた正月の一月三日の夜、だというのに。
ノートパソコンを前にして机にむかってゆくヒカルと佐偽。
正月とはいえいつもとかわりなく、夜はしずかに更けてゆく……
-第37話へー
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あとがきもどき:
薫:さてさて。ようやく新年、中学二年になるさわり。
来年度になれば佐偽が消えるシーンにようやくたどりつくぅぅ!(まて
今回は、あまり内容がないのが自覚ある(しかも短い?)ので、恒例(?)の小話をばv
ではでは、いくのですv
↓
ざわっ。
塔矢邸に手の泊まり込みの合宿。
ヒカルが佐偽とともに出向いたときにその場にいた全員がおもわずざわめきをます。
「まあまあ。素敵な人ね。ヒカルさん」
「あ、明子おばさん。はいっ!佐偽はとっても素敵なんですっ!」
一応、男子ばかりのなかに女の子一人で泊まらせる。
というのはかなり安全面上に問題がある。
それゆえに、合宿のときにはいつも明子が家にいるようにしているのも事実。
今回は、ヒカルの母親から佐偽のことを聞かされていたがゆえに快くでむかえている明の母、明子。
こんな素敵な人がヒカルさんの心の中にいたら、そりゃ、うちの子には目もくれないわよねぇ。
明にはかわいそうだけど。
息子がヒカルのことをどうおもっているのか知っているがゆえに内心苦笑してしまう。
「こんにちわ。はじめまして。藤原佐偽、と申します。このたびはお世話になります。
すいません、部外者の私までお邪魔していまいまして」
いいつつも、丁寧にその場にふわっとすわりこみ、律儀に頭をさげて挨拶している佐偽の姿が目にはいる。
「まあまあ。ご丁寧に。塔矢明の母、塔矢明子、ともうします。
佐偽さんのことはヒカルさんのお母さまからきいてますから。
ご安心してくださいね。何か体調とかわるくなったらすぐにおっしゃってくださいな。
うちにはかかりつけのお医者もいますから」
「ありがとうございます」
実際に、塔矢邸にはかかりつけの医者が存在している。
それゆえにわざわざ医者にでむくことなく医者のほうからでむいてきてくれる、という強みがある。
「しかし。ヒカルさんも隅にはおけませんわね。こんな美青年に碁をならっていたのなら他に目もくれないのも納得ですわ」
女性?と見間違うばかりの美貌、とはこういうことをいうのかもしれない。
物腰穏やかでありながら、どこかこう神々しいような雰囲気すらをももっている目の前の人物。
「でもおばさん。佐偽は碁に関しては絶対に妥協してこないもの」
「まあ、私には碁だけがすべて、でしたからね」
にこやかにいう明子の言葉に多少ぷうっとむくれていっているヒカル。
だが、これは怒っている、とかいうのではなくてむしろ佐偽に甘えているがゆえの表情。
いわばダダをこねている状態のようなもの。
「ちょっとまて!進藤!佐偽…って、まさかあの!ネットのsai、なのか!?」
たしかに、フジワラノサイ、と名乗った。
ヒカルがいま同居している人物を連れてくる。
というのは一応きいてはいた。
しかも住み込みで碁をおしえている、というのも一応、さきほど寝耳に水できかされた。
どんな人物がやってくるかとおもいきや、やってきたのはかなりの美人。
それ以上に驚愕するのはその名前。
「そうだけど?」
「そういえば、以前、私、あなたとうったことがありましたね~」
「でも、あのときは佐偽のかわりに私が指示した場所に打ちこみしてたものね」
体が弱い、とは一応さきほど聞かされた。
長く入院してようやく退院の運びとなった、というのも。
その会話の内容から何となく把握する。
すなわち、動くことすらままならなかった彼の代わりにヒカルがネットで指示をうけて碁をうった、ということが。
このあたりの口裏合わせはヒカルと佐偽の間でばっちりとかわされている。
つまり、誰が聞いても違和感がないように。
「ヒカルははじめのころは間違ってへんなところにうちこみしましたしねぇ」
「しょうがないでしょ?なれてなかったんだし」
どうやら、あの不規則ともいえる出現率。
しかも夏休みにかけて出没していたあの時間帯。
それらが二人の会話で和谷の中で疑問が一気に氷解してゆく。
つまりはおそらくそういうことなのであろう。
自由がきかない彼のために、ヒカルがかわりに病院にてネットをかわりにしていた、ということ。
それならば休みに毎日のように朝からsaiが出没していたのも理解できる。
「進藤さん、えっと…この人が、あの父とうったsai、なの?本当に?」
あの一局を最後に姿をまったくみせなかったsai。
自分との対局を最後にネットからきえ、父との対局で再び姿をあらわしまた消えたあのsai。
アキラにとってもその名前というかネットの先にいるのがだれなのかきになっていたのも事実。
「そうだけど。だけど塔矢君。佐偽にむりいわないでよ?佐偽はまだ本調子じゃないんだからっ!」
何よりもヒカルからすれば佐偽をどちらかといえば独り占めしていたいほうが強い。
少しでも離れればまた消えてしまうのではないか?
と不安があるがゆえになおさらに。
「大丈夫ですよ。ヒカル。私はどちらかというと碁をうってたほうが心おちつきますし」
「あ、あの!えっと、あなたがあのsaiさんなら、ぜひとも手合せおねがいしますっ!
お、おおおれ!あなたのファンなんですっ!」
会話からしておそらく間違いないのであろう。
あの本因坊秀作をおもわせるあの一手。
saiをみつけたときからずっとsaiにひかれていたのは何も和谷、だけではない。
「そういえば、佐偽さんは今、いくつなんですか?」
「私ですか?たしか……」
「佐偽は二十一、だよ?」
「あら。ではまだブロ試験、うけられますわね。うけられるのですか?」
「まだきめてないんですよ。ヒカルは心配しまくってますし」
「ちょっとまってよ。この人って塔矢名人並みの腕、なわけでしょ?
そんな人がはいってきたら俺達たちうちできないんじゃぁ……」
というかタイトルホルダー、すべて根こそぎもっていかれかねない。
今回もまたメンバーに選ばれた社がぽそっと本音をもらす。
彼とてsaiのことを噂で聞いたことがないわけではない。
ネットに潜んでいたあの塔矢名人にすらうちかった、伝説のsai。
「でも、私は碁をうつこと以外、何もできませんからねぇ~…」
「でも、佐偽は字とかものすっごく綺麗だし、他になにもできない、ということはないとおもうけど。
それに、佐偽がプロにきてくれたらうれしいけど、だったら佐偽といる時間がすくなくなりそうだし……」
しかも、その間にヒカルが知らない間にまたいつ消えてしまうかもしれない。
という不安があればなおさらおおっぴろげに賛成できないヒカルである。
「まあまあ、こんな玄関先ではなしこんでないで。さあさあ。佐偽さんも、ヒカルさんもあがってくださいな」
「あ、はい。お邪魔いたします」
「おじゃましま~す。佐偽、ほんとうに気分とかわるくなったらすぐにいってね?ね?」
「はいはい。本当にヒカルは心配症、ですねぇ~」
「だって……」
はたからみてもものすごくヒカルが佐偽のことを心配しているのが見て取れる。
まあ、その実情を詳しくきかされている明子はそれも仕方がない、とおもえるのだが。
実情をしらない人々からしてみれば、この子、ものすごく心配症だな。
というくらいにしかとらえない、であろう。
だが、明子たちは知らない。
ヒカルが何よりも心配しているのは、佐偽がこんどこそ完全に消えてしまうかもしれない。
という根底に不安をかかえているがゆえ、ということを……
↑
みたいな感じでv(ちなみに、現実として佐偽とヒカルの歳の差は四歳程度にしております)
佐偽をつれてヒカルが塔矢邸に北斗杯の合宿におもむいたときのそれぞれのみんなの反応です(笑
さて。本当に佐偽はプロになるのでしょうか?それはまだきめかねてたり(笑
でも、彼の腕ならば塾を開く程度でもおもいっきりやってけそ~ですけどね。
ヒカルも率先して手伝いますし(笑
しかも、絶対に高段位のブロ棋士がこぞって参加してくるのはうけおいなわけで(こらこら
ま、そんなわけで小話、でしたv
ではでは、また次回にてv
次回くらいでようやく中学二年の若獅子戦のさわりにいけるかな?
ではまた~♪
2008年8月20日(水)某日
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