まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。
さてさて、ようやく塔矢明の新初段シリーズですv
ここにくるまで34話…う~ん、先がこわい。
何しろこれ、原作終了後までつづきますからねぇ(あはははは…
ま、どうでもいいエピソードはさくっととばしていくかな?
何はともあれゆくのですv
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「う~ん……」
先日とった写真の一つ。
何かの光の反射なのであろうか。
綺麗な金色とも紫色ともとれる光が写真の半分。
すなわち、塔矢明ともう一人の子供、確かシンドウヒカル、となのった少年の横。
その横を埋め尽くしているのがみてとれる。
商売がら、こういうような意味不明な写真をとることがある。
それゆえにその筋の人にみてもらったのはつい昨日。
「どうかしたのか?」
「いえね。天野さん。これ、あの子についてる指導霊では、といわれたんですよ。
しかも、神格化してるかなり位の高い霊とか。はじめてみた、とかいわれちゃいましたよ」
普通、それほど位の高い霊などは写真にうつるどころか姿を確認することすらできない。
だからこそこの写真をみた霊能者はかなり驚いたのだが。
あの霊能者の力は信頼に値する。
それゆえにどうしても首をかしげざるを得ない。
ここまではっきりと写真に写るのも珍しい…といわれればなおさらに。
いつもは写真などに佐偽はうつりこむことはない。
だがしかし、この写真をとったとき、佐偽は対局がみれなかったこともあり多少不満を残していた。
その後の目隠し碁の話題で多少気分はきりかわったものの、やはり残念がる気持ちは消えたわけではない。
その気持ちがヒカリの形として写真にあらわれている、というのを彼らは知らない。
といっても、佐偽の姿が移っているわけではなく、ヒカリの柱がヒカルの横にたちのぼっているようにもみてとれる。
「彼女いわく、この子にもかなりの霊能力があるらしいですし。そのせい、ですかねぇ?」
「ほぉう。この子が…ねぇ」
こういう職業についていればその手の能力を否定するには理不尽すぎることが多いゆえに理解はしているつもりである。
「しかし、この写真…できたらあげる、といいましたけどあげてもいいもの、ですかねぇ?」
「う~ん……加工してわたすか?」
「そうですね。明君にはそのほうがいいかもしれません」
おそらくこっちの子は理解してるはずですよ?
そういわれたのでこのままでも問題はないであろうが、問題は塔矢明のほう。
それゆえに、しばし写真をみつつにらめっこする彼らの姿が、出版部の一角において見受けられてゆく。
星の道しるべ ~アキラVS座間王座~
「先生!今日だけは絶対に検討は免除おねがいしますっ!」
前回のこともある。
それゆえに先にといっておく。
つまり検討されるような碁にしなければいいのだが、念のためにといっておくことにこしたことはない。
「進藤君?ああ、そういえば今日は塔矢君の新初段シリーズ、だったね。たしか、座間王座と、だったかな?」
「らしい、ですね。初手からみたいんですっ!」
「まあ、気持ちはわかるけどね。でもそれはたぶんみんなも、だからねぇ。
あ、だからってさくっと相手を切り捨ててはだめだよ?進藤くん?」
それができるであろうからとりあえず釘をさしておく。
『ヒカル、ヒカル、今日だけは私がやりましょうか?検討はいらないような局面にもっていきますからっ!半目で!』
「まあ、検討が必要ない局面だとその心配もないけどね」
佐偽の言葉をまるで肯定するかのごとくににこやかにいってくる篠田師範。
「う~……」
たしかにまだ完ぺきではないのは自分でも自覚している。
佐偽がきれいにお手本を幾度か毎日みせてくれていればなおさらに。
「佐偽。今日だけ、今日だけだけどお願いしてもいいかな?」
対局と、観戦と、図りにかければやはり観戦のほうがかたむいてしまう。
『まかせてください!私だってあの塔矢の対局はみたいのですからっ!』
しかも、相手は王座、とよばれているタイトルの所持者、らしい。
つまりは一応は実力がある、ということ。
それゆえに佐偽からしてみれば相手の力をぜひともみてみたい。
すでに季節は十二月。
何やら二組から新たに新しく越智、という子供があがってきているが。
確か今日の午後の部の一局はその越智との対戦、のはずである。
『十分でおわらせますっ!』
お、お手柔らかにね……
目をきらきらとさせていいきる佐偽におもわずたじろいでしまう。
そういえば、佐偽のやつがネット以外で打つ機会ってあまりないしなぁ。
いつか佐偽にもおもいっきり打たせてやれる場ができればいいけど。
そんなことをふとおもう。
最も、最近はそのこともありもっぱらネット碁はsaiにばかりヒカルはうたせているのだが。
院生の手合いでいつもうつのはヒカルばかりだから佐偽にわるいから、という理由で……
「あ、そろそろ時間だ」
ふとみれば、対局の場となる場所にすでにちょこん、とすわっている子供の姿が目にとまる。
おかっぱあたまにメガネをかけている少年。
どこか挑戦的にこちらをみているがヒカルからすればそれはどうでもいいこと。
「お願いします」
「おねがいします」
越智からしてみれば対戦表の結果をみて今まで目の前の人物がずっと半目で勝っている。
ということは確認している。
それは偶然なのかはたまたわざとそうしているのか。
どちらにしても、自分は上をめざす。
一組の一位である目の前の少年をたたきのめさなければ自分のプライドが許されない。
だが…越智は知らない。
今から打つのが進藤光、ではなくて藤原佐偽だ、ということを。
この一局は越智の心にしっかりと刻みつけられることになる事実を、いまだにヒカルも佐偽も理解していない……
「よっし!まにあった!…って、あれ?芦原のお兄さん?」
ふと検討の間にとびこんでみれば見慣れた人物の姿が目にはいる。
それゆえにきょとん、とした声をだす。
「あれ?進藤君。もう手合いの対局はおわったのかい?」
とびこんできたその子供の姿に見覚えがあるがゆえに戸惑い気味にとといかける。
確か今日は院生の手合い日だったはず。
アキラより彼が院生の、今では一組になったことを彼もまた聞かされている。
「はい。塔矢の対局がきになったので十分もかけませんでした」
佐偽が。
というのは心の中にしまいこむ。
「あはは。そりゃ、今日の君の対局相手は気の毒だったねぇ」
ヒカルの実力を多少は知っているがゆえに対局相手だったであろう院生に思わず同情せざるを得ない。
「まだはじまってないから大丈夫だよ。進藤君。しかし、君にしろ明君にしろ末恐ろしいよ。僕は」
いいつつも、自分の隣の席があいているのでその席を進めてくる芦原の姿。
「…げ。進藤」
「あれ?たしか真柴さん?」
ふときづけば何やら見慣れた顔がそこにある。
おもいっきりヒカルの顔をみて顔をしかめているが。
真柴からすればヒカルはあまりいい思い出はない。
何しろ試験中に一組にあがってきてしかも負けなし。
さらにいえば噂ではあの塔矢明のライバル。
それを裏付けるようにヒカル目当てにアキラが幾度か手合いの間にくればなおさらに意識せざるを得ない。
それでも一度も勝てたことがなかったのも事実。
「あ、はじまった!」
ふとみれば、どうやら第一手が示されたらしい。
それゆえにテレビ画面をみて声をだすヒカル。
みればどうやら、第一手が示されたらしい。
『ヒカル。どんな一局がみれるのかたのしみですよね』
「ああ。楽しみだ」
佐偽もまたわくわくしながら佐偽いわく、箱の中身を凝視する。
対局が始まったのをうけて、ひとまず会話は中断され、しばし全員が映し出されるモニターに視線をうつしてゆく。
かちゃ。
「あれ?芦原先生」
扉が開く音とともにはいってくる男性が二人。
あれ?あの人。
たしか先日、この場所で出会った大人ともうひとりはみたことがない大人。
カメラをもっていることからおそらくカメラマンか何か、なのであろうことは推測はつくが。
「どうも」
「そうか。芦原先生は塔矢先生門下か」
いいつつも、反対側の席にと腰をおろす。
そんな彼にとひとまずぺこりと頭を下げつつ、
「あ、どうも」
「うん?たしか君はシンドウくん…だったっけね?」
「あ、はい」
『こんにちわ。たしか天野殿、でしたよね?ごぶさたしております』
こちらもまた丁寧にお辞儀をしている佐偽の姿。
佐偽。
おまえ挨拶しても相手には視えないんだから意味ないんじゃぁ?
思わず心でつっこみをいれるものの、
『でも、挨拶は大事、ですよ?』
まあ、確かにそうだけどさ~
ヒカルと佐偽が心の中でそんな会話をしていると、
「しかし、君、今日は院生の手合い日じゃあ?」
たしか、シンドウクンとかいったとおもうけど。
たしか彼はあのとき院生、ときいた。
ならば今日は院生の手合い日のはずである。
時刻は手合いが始まってさほど経過していないのにどうしてここにいるのだろう?
そんな疑問を天野が抱きつつもといかけると、
「とっとと対局かたづけてきたらしいですよ?まあ、明君の門出ですから、気持ちはわからなくもないですけど。
今日の進藤君の対局の子に同情しますよ。僕は」
ヒカルの代わりに答えている芦原。
「あ~。なるほど。確か君も塔矢君の友達だったんだよね。しかし相手の子も気の毒に。
それにしても、塔矢君、おちついてるね~」
先日のヒカルとアキラの一局をみているがゆえにどこか納得せざるを得ない。
もうひとりのカメラマンらしき人物は意味がわからずに首をかしげているのがみてとれる。
「まあ、進藤君と出会うまで、明君の友達はみんな大人、でしたからね。そういう僕も一番年が近い友達ですけど」
事実、それまでアキラの周りには大人しかいなかった。
ヒカルがはじめて、といっても過言でない。
もっとも、ヒカルつながりで他の子どもとも多少交流がはじまりつつあるアキラではあるが。
「なるほど。そのせいか。おちついてるのは。
今までみた新初段はみんな委縮してるか気負ってるかのどっちかなんだよね。
だけど塔矢君はどっちでもない。そういえば真柴君はこちこちだったよね」
進藤って天野さんと知り合いなんだ。
そう心の中でおもいつつ、いきなり話題をふられ、
「桑原先生はまじこわいです。桑原先生の第一手、おもいっきりバチっと音をたてて」
今日、塔矢明が対局しているあの部屋において自分がやられたことを思い出していっている真柴。
塔矢明と同期のプロ試験合格者でありながら一応、ヒカルとも二か月ばかり手合せをした院生仲間でもある人物。
「?集中してたらそんなのきになんないじゃん?周囲の音なんかきこえないし」
真柴さん、何いってんだろ?
ふつう局面に集中したら音とか何も関係ないだろうにさ。
そうおもいつつ、おもいっきり首をかしげて真柴に逆にといかえしているヒカル。
「進藤く~ん、それは絶対に明君や君くらいのものだよ。しかし、やりそうですよね。桑原先生」
「あはは。真柴君。あんなみえみえの脅しにのまれてちゃだめだよ。
しかし、君、周囲の音なんかきこえないって……」
「?集中してたらきこえないでしょ?」
芦原と天野の言葉にきょとん、とした声をだすヒカルの様子に思わず絶句してしまう真柴の姿。
「ほんっと、君も明君も似た者同士、だよねぇ」
事実、アキラもまた集中していたらご飯もたべずに碁ばかりをやっている。
それゆえにあきれつつも溜息つかざるをえない芦原。
似た者どうし。
性格はまったく逆ともいえるのに、どこかにかよっているヒカルとアキラ。
だからこその芦原の台詞。
コンコン。
そんな会話をしつつも、ゆっくりと局面はすすんでゆく。
と、扉がノックされる音とどうじに扉が開く音。
ガチャ。
「あれ?伊角さん、それに和谷も」
「あ、和谷と伊角さんだ」
扉からはいってきたのは和谷と伊角。
そういえば、今日は二人が対局だったっけ?
そんなことをヒカルがおもっていると、
「進藤。っておまえもうきてたのか?そういえばおまえとっととおわってたな。対局」
始まってすぐにたしか進藤は席をたってたな。
何か残された越智のやつがしばし呆然としてそのままどこかにいってたけど。
そんなことをおもいつつ、ヒカルにと問いかける。
「大丈夫!きちんと早碁でも指導碁にしてさらには半目勝ちしたから!」
やったのは佐偽だけど。
終わりの一言は心の中でのみつぶやいておく。
「「そういう問題か?」」
きっぱりいいきるヒカルの言葉に思わず同時に突っ込みをいれる和谷と伊角。
何やら相手の越智が気の毒に感じるのは気のせいではないだろう。
「え~と…今の台詞にかなり突っ込みいれたいのは気のせい、かなぁ?進藤君?」
指導碁はかなりの精神力をつかう。
さらにいえば早碁ならばなおさらに。
しかもそれでも半目で勝ちをおさめるなど…今後が怖い、怖すぎる。
「伊角くんか。元気でやってる?」
「あ、はぁ」
伊角は幾度かあったことがあるのですでに顔見知りになっているがゆえにといかけている天野。
「こっちにきなさい。初手からならべてあげるよ」
「あ、白は僕がやります。しかしさすが塔矢明は注目度、高いですもんね」
いいつつも、天野と芦原が碁盤に一手目からアキラたちの対局をならべてゆく。
「伊角君も来年こそはプロ試験、合格したいな」
「あ、はぁ」
それはわかってはいるが、来年は進藤がくるしな。
気力でまけていてはかてない。
というのはわかるが、相手の力がわかるがゆえに畏れずにはいられない。
「伊角さんは僕より強いですもんね。僕はラッキーでうかったんですから」
ちっ。
真柴さん、自分がうかったからって……
「そういう真柴さんは進藤には一度もかてることなく院生生活おわったけどね~」
「そ、それはっ…!?」
よっし。
おもいっきり嫌味をいってくる真柴にたいし、さらっとさらにやりこめる和谷。
「まあ、ラッキーも実力のうちさ。妥当塔矢の一番ののりは真柴君、というわけにはでもいかないみたいだねぇ」
いくらプロになれたとしても、目の前の子どもにかてなければおそらくそれは無理。
「可能性としてこいつっしょ。どうかんがえても」
「でも、和谷。進藤は来年の試験でうかったとしても再来年からのプロ生活になるわけだし」
次の試験をうければ確実に受かる、と確信しているがゆえにそんな会話をしている和谷と伊角の会話に対し、
「?俺がまだ受かる、とはきまってないよ?」
きょとん、としながらもきっぱりはっきりいいきるヒカル。
ヒカルからすれば自分の腕はまだまだで、ブロに通用するもの、だとは夢にもおもっていない。
それは教わっている佐偽が桁はずれに強いがゆえの感覚なのだが……
「お~ま~え~は~!!自分の実力をすこしはみとめろっ!」
がしっ。
きょとん、といいきるヒカルにたいし、おもいっきりヘッドロックをかます和谷。
「だって、俺なんかまだまだだもん!」
事実、本気で相手をしてもらった佐偽にはこてんぱにあっさりとやられている。
だからこそ人からいわれてもピンとこない。
「…進藤君、たのむからそれ以上プロになるまえに力つけないでくれよ~…
それでなくても君とであってから明君までめきめきと実力つけてってるのにさ~」
そもそもどうして師匠もいないのにそこまで実力がつけれるのか。
芦原からすれば不思議でたまらない。
自分とて塔矢名人のもとで日々鍛練している、というのに。
目の前の子どもにはその師匠がいない、のである。
そんな和谷達の会話にその場にいる他の人たちはおもわず背中に冷や水をかぶせられたように凍りつく。
「あ、王座ってひと、二段バネした。相手の人勝つ気まんまんだな~」
和谷にヘッドロックをかまされつつも、その顔はテレビにとむけられている。
それゆえに相手の一手に気づいておもわず声をだすヒカル。
「ふむ。たしかに。王座の打ち方じゃないね。何が何でも勝つきの打ち方だ」
「だけど、その手だと5-5にきたらさ、塔矢の圧倒的有利だとおもうけどなぁ」
「「あ」」
ヒカルのさらっとした言葉におもわず全員が局面にくぎづけになってしまう。
たしかに、そこさえおさえれば、後々塔矢明の優位となる。
「おまえ、何でさらっときづくんだよ……」
この場にいる誰も、ヒカルと佐偽以外にはわからなかった、というのに。
「しかし。ほんと、座間先生らしくないね。タイトルホルダーとしてならそこはツイでいればいいのに。
あの人、こういった記念対局みたいなのには手をぬくのに」
「そうなの?」
「だから!俺にきくなっ!」
とりあえず近くにいる和谷にとといかけると逆におこられているヒカルの姿。
たしかにそんなことを聞かれても和谷にはこたえようがない。
「座間先生にきらわれたかな?明君」
まあ、座間先生だし。
明君もあの性格だしねぇ。
明君、大人にもまれているからか甘えるとかそういうのがないしね。
そんなことをおもいつつもテレビに視線を残したままでつぶやく芦原。
「そういえば、これって互戦、なんだよね?」
「進藤君。新初段シリーズは逆コミ五目半、なんだよ?」
どうやら普通の互戦、とおもっているらしいヒカルにととりあえず説明する芦原の言葉に、
「そうなの!?それっておもいっきり有利じゃん!?」
その言葉におもいっきり叫ぶヒカル。
「…普通はそれでもプロにかてないってば」
『黒がさらにコミをもらえるなんて、たしかに有利以外のなにものでもないですよねぇ』
「でもさ。先手の黒がもともと有利なのに、そのうえにコミがもらえるんでしょ?」
はぁ~……
確かにそのとおりではあるが。
普通、プロになりたてのヒヨッコ棋士がいきなりプロ相手にそこまで立ちまわれるものではない。
「しかし、塔矢君、さすがだね。よくここまでうってるよ」
「確かに。白が何が何でも勝とうとおもったらとても手をゆるめられませんね」
「今ごろ座間先生、扇の先をかじってるころかな?」
「ああ!真剣になったときにでる座間先生のくせ!」
へ~
この対局者、そんな癖があるんだ。
佐偽にも何か癖ってあるの?
『私はある程度集中したら扇をしたにおきますねぇ。それくらいですか?』
ま、佐偽だしな……
「よし!ちょっとみてこよう!」
何やら席をたち、となりの部屋にむかってゆく天野姿を見送りつつ、
「いいな~。ねえ、和谷。俺達ははいれないの?」
「はいれるのは関係者!俺達はただの院生!むりにきまってるだろ!検討のときならともかくっ!」
「ちぇっ。まじかでみたいのにさ」
『ですよねぇ……』
実際に対局の様子をみるのと局面だけをみるのとではわけがちがう。
それゆえに同じようにため息つきつつ同時にこたえているヒカルと佐偽。
「あ、塔矢、ほうりこんだ!」
なあ、佐偽?お前俺から少しははなれられるんだろ?
隣の部屋にまでいけないのか?
『たぶんおそらく無理です』
ちぇっ。
お前が実際に視てたら多少俺にもつながりで感じるものがあるのにさ~
たしかに、心がつながっているがゆえにそういう応用も利くことはきく。
それをすぐにおもいつくヒカルもヒカルであるが。
「あ~あ、精神飛ばす方法くらいおぼえときゃよかったかな~…」
「?何だ?それ?」
「あ、こっちの話」
幽体離脱が自在にできれば肉体をほっぽってみにいくことは可能だったのに。
やればできるのかもしれないが、今ここでやったことのない危険な方法をためしてみたいともおもわない。
「ふむ。黒の放り込みは白に楽をさせない強い一手だな」
「たしかに。白の応手でこの先がきまる」
ぽそっとつぶやく伊角に対し、答えるようにつぶやく和谷。
「でも、ほうりこみって…だけど、白がきっていけば戦いは複雑になる。逆に黒のほうも危険になるのに……」
局面でこんな運びになるとはおもわずにしみじみと何やらいっている芦原。
「あ。相手の人、きらずにとった。…もったいない。うければよかったのに。
そうしたら相手の人の棋力とか図るのに便利なのに~」
「おまえな~。そういう問題か!?問題なのは、王座が戦いをさけたことだろ!?」
「座間先生は余裕から戦いをさけたんですよ。何しろ相手は新初段、ですしね」
がちゃ。
真柴が何やら余裕ぶいた台詞でそういうと同時、がちゃりと扉が開くおと。
みれば、先ほど席をたった天野が隣の部屋からもどってきたらしい。
その後ろからもう一人、見慣れない男性が一人はいってきているのが目にとまるが。
誰?
ヒカルはそうおもうが、だがしかし今はテレビにうつしだされている画面のほうがきにかかる。
「いやいや。おどろいたね。王座が戦いをさけたね」
いいつつも、再びイスにとすわる天野。
「白が今の一手、切ったとしたら、今の一手はどうなるなかな?」
「和谷、そっちのほうで検討してみようか?」
「そうだな」
いまだにヒカルにヘッドロックをしかけたままであった和谷であるが伊角にいわれてようやく放す。
そのまま部屋の隅に碁盤をだしてこんかいの一局を一手目から並べてゆく二人の姿。
「この新初段相手に危ない橋はわたれない、と判断したみたいだね。座間先生。
もう扇をかじまりくりだよ。塔矢明の力にうろたえてるところさ」
「しかし。座間先生、くやしいものだからたんに下がらずいろいろうごいてきてますね」
「今のところ塔矢君の優勢か~」
「でもあいつのことだから絶対にリードしてても守りにはいったままですまないからな~」
幾度も対局しているからこそわかる。
とりあえず和谷から解放されて芦原の横にと座る。
気付けばいつのまにか他にも観戦者はふえてきているようであるが。
それよりも塔矢だからこそこのままではおわらせないはず。
それはほぼ確信。
それゆえにしみじみといっているヒカル。
「おや。辻岡くん、いつのまに?
そういえば、君は塔矢君につづいてプロ試験二位で合格したんだって?対塔矢戦はどうだった?」
ヒカルの前に別の人物の声がしたのに今さらきづき、
ふとみればどうやらもう一人、この場にやってきていたらしいことに気づいて声をかける。
天野の後ろからはいってきたのは塔矢明とともに同期でうかったプロの一人。
それゆえの天野の問いかけ。
「僕が力んでしまって、中押しまけです。それより、きになってるんですけど、この子は?」
何だか塔矢君のことをよくしってるような口ぶりなんですけど…
外来で試験をうけているので辻岡、とよばれた男性はヒカルのことをまったくしらない。
「進藤君は唯一、アキラがライバルと認めてる子だよ。問題は囲碁界のことをしらなさすぎる、という点、かな?」
そんな彼の疑問に苦笑しながらもかわりにこたえる芦原のセリフに、
「あはは…」
ただから笑をあげるしかないヒカル。
『ヒカル、いわれてますね~』
佐偽もまたしみじみうなづきながらも同意しているのが気に障る。
さわるが事実なので仕方がない。
「まあ、そいつはインセイのイの字もしらなかったらしいしな~。あそこまでうてるくせに」
「まったくだよ。今だに誰も進藤にはかてないしね。院生仲間は」
「ときどきつれてく森下先生の研究会でも先生たちまけてるんだけど……」
「「「・・・・・・・・・・・・・・・」」」
和谷や伊角の会話に思わずその場にいた誰もが無言になってしまう。
「へ、へん。でもプロにならなきゃ意味がないし。
ちなみに僕は塔矢君とは四目半でまけちゃったけどね。プロ試験」
半ばまけずとその静けさを立ちきるようにやせがまんにもにたそんなことをいってくる真柴に対し、
「いっとくげと。真柴。もし今年、進藤のやつがもう少しはやく、試験のこととかしってたりしたら。
お前ぜったいにうかってないぞ?絶対にこれだけは確実にいえる」
さらっときっぱりと嫌味をふりまく真柴にたいして釘をさしている和谷。
「そういえば。進藤君が子供でも試験がうけられるってしったのが、
もったいないことにプロ試験の受付終了後、だったんだよね~。明君も残念がってたけど。
せめて試験受付が五月の終盤までくらいあれば君も今年うけられたのにね。残念だよ」
何やらしみじみとしたそんな彼らの会話をききつつも唖然とし、
「あの~?芦原先生?そのこ、あそこまでうてるのにそんなこともしらなかったんですか?」
信じられない、というほうがはるかにつよい。
それゆえに芦原にとといかける天野。
「ん?天野さんは進藤君の対局みたことあるの?」
「え、ええ。この間、そこの真柴くんの対局のあと、ここで塔矢君とうってたんですよ。二人して」
「え~!?それはみたかったなぁ!で、結果は?」
「へへ~。一目半で俺の勝ち!」
ぶっ!
にっこり笑ってブイサインをするヒカルのセリフになぜか口に含んだお茶をむせこんでいる辻岡、とよばれた男性の姿。
『ヒカル。塔矢がケイマにうってきました!』
「あ、塔矢のやつ、うごいた!下辺を守らないのか。あいつらしいな~」
「…塔矢のやつも戦う気、まんまん、ということだな」
「だけど、それだとここの陣に隙をのこすわけだし。よくこんな怖い碁うてるよなぁ」
「たしかに。明君の負けん気の強さは僕も彼が子供のころからしってるからわかるけど。
だけど、この隙を見逃す座間先生じゃない」
「ふむ。座間先生、長考か。しかし…これは……」
「あ、ボク、何か飲み物でもかってきます」
何だかさきほどの会話に動揺してしまい、気分を少しでも落ち着かせたい。
それゆえにガタン、と席をたちあがる。
「あ、わるいな。辻岡くん。じゃあ、私のたのむよ」
「ええ。全員のをかってきますよ。じゃ、あとで」
ざわざわざわ。
『おそらく、みたかぎり白はまちがいなくここにうちこんできますね』
「え?ここ?たしかに。戦うならこれいがいないかな?」
「あ、ほんとだ。進藤君が示した場所に座間先生がうちこみしてきた!」
「ふむ。黒の守りの薄いところに白が打ちこんでくるのは百も承知。
どうたたかう!?塔矢明!どう戦う!?座間王座!」
おもわず独り言をいいつつも力がはいる天野の姿がみてとれる。
まあ、この場にいる誰もが気持ちはわからなくもない。
と。
「あ、雪だ」
ふとみれば窓の外には雪が降りだしている。
十二月にはいっての初めての雪。
すなわち今日が初雪、ともいえる。
「しかし、守っていれば勝てるのに。明くんらしいといえばそれまでだけど。
たぶん進藤君にみせたいんだろうねぇ。自分は守るだけじゃないぞ!とさ」
「大丈夫。塔矢だもん。…って、あ!?塔矢!そこは読み間違いっ!」
「え!?」
「あ」
『ふむ。たしかに。相手の今までの一手を考えればまちがいなく受けてはきませんね』
全員がヒカルがさけんだことの意味がよくわからない。
この場で理解しているのは佐偽のみ。
「これは…僕らなら手拍子で打ってるところだ。さすが座間先生……」
「これは…わからなくなってきたな。今の一手で先がよめなくなってきた」
ざわざわ。
「もう寄せだ。これは細かい!」
「形成不明のまま、このままいくか?」
何やら周りがそんなことをいってるが。
「それは絶対にない!塔矢ならきづく!!」
『たしかに。まだ黒の挽回の手はあります。ヒカル、あなたもきづいてますね。その口調だと』
「進藤君、きづくって?」
「ここ」
「え?」
「あ!?」
「そ、そうか!?」
とっん。
ヒカルが示したその一手にその場にいる誰もがうならざるを得ない。
確かにこれ以上なはい、という場所である。
そこにうつことで確実に黒の活路は見いだせる。
く。
考えろ。
考えるんだ。
心を落ち着けて……
もし、もし、彼がここにいたら、何という?
いつもの対局がおわって検討していたとして、そしたら、彼は…進藤は…
【ここはどうかんがえてもここだろ!?でないと黒がしぬしっ!】
ありありとその光景が脳裏に浮かぶ。
…そこだ!
ぱちっ。
「ほら!やっぱり塔矢だ!」
『塔矢もまた、気づいたようですね』
長考の上の結論ではあったが。
それでも気づいたことにはかわりない。
「あと寄せがおわれば小寄せのみ!塔矢のこのままだと優勢勝ちだ!」
な、佐偽!
『ええ。そうですね』
「というか、君にしろ塔矢くんにしろよくまあ、ここの死活ともいえる場所をいいあてられるよね……」
「これは、もう座間先生には……」
たったの一手。
だがその一手が大きな意味をもつ。
「あ、終局した」
ふとみれば、それでも相手のミスを期待したのか最後まで打ちきっている様子が見て取れる。
「いやぁ、白熱した戦いでしたなぁ」
「あはは。座間先生、くやしがってるでしょうねぇ。本気でいってまけましたから」
「でも座間先生のことだから手をぬいた、とかいうんでしょうねぇ」
「ありえますねぇ」
いいつつも、それぞれにガタガタと席をたつ。
「あ、進藤君。今から検討はじまるけど、一緒にくる?」
「え?いってもいいの?」
「検討はかまわないよ?」
「いくっ!」
佐偽もいくよな!?
『もちろんです!』
即答。
「あ、和谷達はどうする?」
「う~ん、おれたちはいいや」
「そうだな。来年いくさ」
「そう?じゃ、また今度!雪ふってきてるし遅いから気をつけてね!」
「お前こそ、あまりおそくなるなよ~?雪つもるかもだぞ?」
「あはは、きにかけておくよ。じゃあね!」
何やら大人たちにとまじり、となりの部屋に移動するヒカルの姿を見送りつつ、
「しかし。白熱した戦いだったなぁ」
「伊角さん、来年は俺たちもいこうな。幽玄の間」
「ああ」
来年もまた試験の枠は二名のみであろう。
だけどもあきらめたくはない。
このようなすばらしい一局がみれるのならばなおさらに。
そんなことをおもいつつ、片づけおわり、部屋をあとにしてゆく二人の姿。
「塔矢!!」
「進藤!」
「おつかれ!すごい一局だったね」
?
何だ?このガキは。
しかし、このワシがまけるとは…このガキ、あなどれないっ!
検討のためかぞろぞろとひとが部屋の中にとはいってくる。
その中に場違いな子供が一人。
いきなり対戦相手の塔矢明に話しかけているのがみてとれる。
「きみのおかげだよ」
「?俺の?」
にっこりいわれてきょとん、とした声をだすヒカルであるが。
そんなヒカルにくすりとおもわず笑みをうかべるアキラの姿。
「うん。あのとき、君だとどう指摘してくるかな?とかんがえたらあのときの終盤の一手がうかんだ」
そう。
君のおかげだ。
自分一人ならばきっとあのまま僕の負けは確実だった。
君がいたから……
そうおもう心の心情は声にはださず、短い言葉のみで目の前のヒカルをにこやかにみつめるアキラ。
「それって……」
いつも俺が佐偽ならどううつかな?
と考えるのと同じようなもの?
アキラの言葉に思い当たることがあるがゆえに、自分と重ね合わせて考えるヒカル。
ヒカルもまたいい手がおもいつかないときやこまったときにはよく佐偽ならどうするか、とよく考える。
『なるほど。塔矢もまたヒカルと対局をかさねていることにより、ヒカルの手筋がわかっているからこそ、ですね』
対局中に、対局以外に意識がむかうかどうかがおそらく先ほどの一局の勝敗の分かれ目、だったのだろう。
あのままだと自分ではあせりにのまれてあの手はおもいつかなったと確実にいえる。
だからこそいわずにはいられない。
「だけどさぁ。おまえ、その前のあの手を相手にきりこまれてたらどううけるつもりだったんだ?」
「それはそのときにかんがえてたよ」
何やら会話が長くなりそうな気配である。
それゆえに、こほん、と咳ばらいを一つし、
「あ~。塔矢君。進藤君。話はあとにしてもらえるかな?まあ君たちの会話はかなり興味深いけど。
とりあえず検討会をはじめるけど、いいかな?」
「あ、はい。すいません」
「なあなあ。俺もいてもいい?」
「いいよ。いいですよね?」
「まあ、別に、対局中ではないわけですし」
この場にいる子供はアキラとヒカルのみ。
だがしかし別いても邪魔になるようなものでもない。
むしろ天野の個人的意見とすればカレの意見もきいてみたいところではある。
あるが、所詮は院生の子ども。
それゆえにこの場で問うことは座間王座に失礼にあたる、というのも承知している。
「?塔矢君のともだち、ですか?」
「みたいですね」
記録係りの人々がそんなヒカルをみながら首をかしげて何やらはなしているのが見て取れる。
「しかし。座間先生もおつかれさまでした」
「まあ、新初段シリーズはお祭りみたいなものだからね。これで紙面がにぎわうでしょ?
塔矢ジュニア、堂々の門出、ってね」
ぷ。
予想していたとはいえ、やはりわざとまけたようにいってくるその言葉に思わず吹き出しそうになってしまう天野達。
しばし、ヒカルを含め、今の一局。
新初段シリーズ、塔矢明対座間王座の対局の検討が、ここ幽玄の間においてくりひろげられてゆく……
「塔矢!」
「え?」
ぽすっ。
「やりぃ!」
よばれてふりむけば何やら冷たい感触が。
「って、いきなり何するんだよっ!」
「へへ~ん。油断してたおまえがわるい!勝ったおいわい!」
「っていきなりお祝いとかいって雪玉をなげつけてくるな!」
「だってハツユキ、だぜ?」
「む~。おかえしだ~!」
何やら大人たちが唖然としている最中。
いきなり雪合戦をはじめているヒカルとアキラ。
とりあえず検討がおわり、外にでると雪はかなり降り積もっている。
近くの茂みの雪をこそっとつかんで雪玉をつくりいきなり塔矢になげているヒカル。
「やったなぁ!」
「・・・え~と。こうみてたら二人とも、本当に子供、なんだけどな~」
「というか、明君が子供らしい遊びしてるのが僕からすれば驚愕ですよ……」
何やら寒さで震えている大人たちとは対照てきに、いきなり雪遊びをはじめている二人の子ども。
それゆえにその場にいる大人たちはあきれざるを得ない。
それほどまでに先ほどとのギャップが激しければなおさらに。
進藤君の存在って明君には精神的にも支えになってるようだよな。
さきほどの一局で気がかなり張り詰めていたであろうに。
だが、進藤ヒカル、という少年の手によってその緊張はほぐされているのは一目瞭然。
そんなことをおもいつつ、何やらさわぎながら雪合戦をいまだにくりひろげている二人をみている芦原に対し、
「しかし、よくつもりましたね~」
「電車、とまってなければいいですけどねぇ」
それでなくても東京、という場所はすこしばかり雪がつもっただけで電車はとまってしまう。
「あ、それならタクシーよんでますから。芦原先生、子供たちをおねがいしますね」
「あ、はい、わかりました。ほら!ふたりとも!いつまでもあそんでないで!かぜひくよっ!」
いわれて二人のもとにとかけよる芦原。
そんな彼にときづき、互いに顔をみあわせて、何やらいたずらをおもいついた子どものようにこくりとうなづき、
「芦原さん、覚悟!!」
息もぴったりに、二人して雪タマを芦原になげるヒカルとアキラ。
「って、やったな!きみたち!」
「あた~。芦原先生まで一緒になってあそんでどうするんですか~!?」
何やら挑発されてまじっている芦原をみておもいっきり額に手をあてて呆れた声をだしている棋院の一人。
しばし、にぎやかなヒカルたちの声が、日本棋院の玄関前にと響き渡ってゆく……
-第35話へー
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あとがきもどき:
薫:さてさて、何だか最近、長くなってるので小話のほうはご無沙汰中…
なので今回は先に小話をうちこみしてみたりv(かなりまて
というわけで、例のごとくにヒカル、女の子、佐偽、そのまま(はじめは)幽霊さん、いくのですv
↓
佐偽の気持ちはいたいほどにわかる。
できれば佐偽の気持ちを尊重したいのも事実。
『いいのですよ。ヒカル。あなたを翻弄するような目にあわすわけにはいきませんから』
少し悲しそうにいってくる佐偽の姿に胸が苦しくなる。
だけど…だけど、だけど。
たしかにこんなチャンスは絶対にない。
『ヒカル、気にしないでください。あなたがプロになった今、きっとこれからも機会はあるでしょうから』
まって。
まってまって!
でも、それっていつ!?
佐偽はずっと塔矢名人とうちたかったんでしょう!?
新初段シリーズ。
ヒカルの相手は塔矢行洋。
初めて塔矢明とあったときにはヒカルはズボンをはいていたので相手はどうも男の子、とおもっていたようだが。
緒方はといえばヒカルの手をにぎったことがあるのでそのときに女の子、とわかっていたらしい。
女の子、としったときの塔矢明の顔は今でもはっきりと覚えている。
それでもヒカルからしてみれば、佐偽とおなじ囲碁が好きな子なんだ。
という印象であったことも否めない。
何よりもヒカルが碁をうつのは佐偽のため、でもあるのだから。
佐偽からすればヒカルを悲しませたくはない。
自分が無理をいっている、というのもよくわかっている。
ただ、いってみただけ。
心の中では打ってみたい、という思いもあるが、
まだ幼い…しかもまだ十三にすらなっていない彼女を、世間の大人たちの風評にさらしたくはない。
後宮に出入りしているときにそれらのどろどろとした大人たちの思惑、
そしてまた江戸城に出入りしていたときもそのことを痛感している。
誰よりもやさしく、それでいて誰にでもやさしいヒカルだからこそ、そんな目にはあわせたくはない。
佐偽……
そうだ。
佐偽。あのね、あのね。
今回のこれって、逆込、五目半、らしいから。いつもの互戦とはちがってるし。
佐偽…普通にうてないかもしれないけど、相手が置き碁をしてきてる、とおもってハンデをつければ…
「十五…ううん、十三…?」
ぽそっと思わず声にだしてしまう。
佐偽だから、十三のハンデ、どう?佐偽?まともな碁にはできないかもしれないけど。
だけども、最善の一手くらいはためせるんじゃぁ…?
いつか本当の互い戦ができるように、私がんばるからっ!
『ヒカル?でもいいのですか?あなたは?』
いったでしょ。
私は佐偽がうつのが好きなの。
だから、佐偽、ハンデがあってもどんな碁をみせてくれるのかたのしみにしてる。
『…ヒカル。ありがとう……』
「進藤さん?」
「あ、すいません。おねがいします!」
佐偽!
『ヒカル…感謝します!』
ヒカルのその思いは佐偽には痛いほどに優しく…それでいて痛い。
この一局はヒカルにとってもとても大切な一局だ、というのに。
だからこそぶざまな碁はみせられない。
十三目のハンデ。
普通の相手ならばいざしらず、相手はおそらく自分と同じ道を究めよう、としているもの。
すうっ。
精神を集中し、局面に集中する。
『ヒカル、いきますよ!』
うんっ!
『右上隅、小目!』
ぱち。
「うわ~。ヒカルってば、一手目に二十分もかけてる」
「普通つかわないよなぁ?」
「ほほほ、あの娘は何かたくらんでるとみた」
「桑原先生?」
なぜかこの場にいるのはいるはずのない桑原本因坊や緒方九段。
さらにいえば今対局している塔矢名人の息子までもがいる始末。
「でも、ヒカルって不思議、よね?」
「たしかに。いきなり院生にきたかとおもったらあっという間にのぼっていってさ」
それらはすべて、佐偽に褒めてもらいたいがゆえにヒカルが努力し精進した結果ということを彼らは知らない。
「あ、塔矢名人がうちますよ!」
ぴっ。
検討の間においてモニターをながめつつもそんな会話をしている彼ら達。
彼らは知らない。
今、打っているのはヒカルではなくて、佐偽だ、ということを……
うん。
さすが佐偽!!
ハンデをかしたとはいえ打ちこみによどみがない。
より高く、より最善の一手を。
佐偽とてこのような場を自分のために譲ってれたヒカルにブザマな碁をみせたくない。
ならば、相手を誘い、上図に局面をなしとげるのみ。
しばし、佐偽対塔矢行洋の一局が幽玄の間においてみうけられてゆく。
「…十三…か、なるほど」
「『え?』」
投了を伝えると同時に相手から洩れた言葉。
おもわず互いに声をだし思わず顔を見合せてしまう。
「君がどうしてこのようなことをしたのかは私にはわからない。だが…何のハンデもなしにうちたかったよ」
ぎくっ。
「塔矢先生?」
ぎくりとするものの、意味がわからないようにきょとん、とした顔をする。
たしかに局面はまだこちらが有利とも不利ともいえる中盤。
たがしかし、佐偽に課したハンデを考えるとこちらがどう考えても半目ほど不利の展開になるであろう。
そう判断しての佐偽の投了。
「次にうつときにはぜひとも互戦でやりたいもの、だな」
「こっちこそ二人の対局はみたいですから願ってもないことです」
「二人?」
あ。
思わず口をすべらせてさらっといってしまいあわてて口をおさえるヒカル。
「え~と、塔矢先生。それに進藤さん、検討をはじめるけど、いいかな?」
「あ、はい」
佐偽。
すごかったねぇ。
だけど、おしかったね。
まっててね。
今度こそまともな互戦でいつか打たせてあげるから!
『ヒカル、わがままをきいてくださってありがとうございます。ですけど、あなたは大丈夫ですか?』
普通にみれば局面上はヒカルが勝っているのである。
それゆえに戸惑いつつもといかけずにはいられない。
勝てない、と判断したから投了した、というから大丈夫よ。
恋する乙女はここ一番、というときに強いもの。
好きな人のためならば平気でどうにか嘘すらつける。
佐偽とともに生活するようになり、ヒカルにとっては佐偽がすべてのようになっているのだからなおさらに……
↑
みたいな感じでv
ヒカルの新初段シリーズの小話、でしたv
ちなみに、ヒカルがぽそっとついついハンデの目数をいってしまったので塔矢名人にはばれてたり(笑
でも、その真実にきづいてるのは名人だけで記録係のものは意味がわかっておりませんv
あと、補足ですけど、中学の大会、小学五年生ででむいて、女の子でしかも小学生。
というのがばれて失格になってたりします(笑
その後、囲まれて院生のイの字をしらされて。佐偽にそれならもっとうたせてあげられるかも!
という理由から院生になろう!と決意してたり(笑
あくまでもこの話のヒカルの初期は塔矢明は目にはいってないのです(笑
話が進むにつれて、佐偽が注目してるから~、みたいな感じで注目はしはじめますけどね(苦笑
アキラのほうはヒカルが女の子と知ってからいろんな意味で意識するようになってがむしゃらに(まて
というような設定話なのですよv
ではまた次回にて~♪
2008年8月18日(月)某日
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