まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

さてさて、長くならないうちにさくっと季節をすっとぱします!(かなりまて
やはり塔矢の新初段シリーズはかかせないでしょうvええv
その次には洪君との対局ですvふふふv
何はともあれゆくのですv

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「たしかに。明も少しは運動が必要、かもな」
「でしょ?進藤君って気がきいてるわ~」
先ほど電話があり土曜日の日程について一応明子に意見をもとめてきたヒカル。
それゆえに、明がねたのちに夫に話している明子。
「しかし。考えたな。進藤君も」
「あの子にも子供らしい遊びをさせないとねv」
「明子、おまえたのしんでるだろ?」
「あらvあたりまえじゃないのv」
「ふっ。おまえらしいな」
夫だからこそしっている。
妻の本来の性格というか地。
それゆえに話をきかされただただ苦笑するしかない塔矢行洋。
どちらにしても反対する理由などまったくもってないのだから……

 

星の道しるべ   ~きっかけ~

プロ試験。
大体平均して二十五局程度があり、その勝敗の上位より三名ほど抜粋される。
「しかし、伊角さんも和谷もおしかった、よね」
それぞれ最後まで食い込んだ、というのに。
「私的にはあの真柴がうかったのがはらたつっ!」
最後の最後のプレーオフで相手をこきおろす発言をして勝ちを勝ち取りプロ試験をきめた。
それゆえに腹がたってしかたがない。
しかもその相手は同じ院生仲間に…である。
昨日、プロ試験のすべては完了した。
院生からうかったのは十敗であったにもかかわらず、真柴のみ。
それほどまでに接戦していたらしい、というのはわかる。
わかるが、いわばきつねとタヌキのばかしあい、といっても過言ではない。
「あ~あ。やっぱりダメだったかぁ。でもさ。これで手合い日も普通にもどるね」
日曜日と第二土曜日。
それが本来の院生の手合い日であり、祭日などがあればそれも手合い日にときどき含まれる。
平日は一応、金曜日、ということになってはいるが。
つまりは週三回の手合い日は基本的にはかわりはない。
「その間に進藤君はとっとと上位にあがってきてるしね~」
「というかいつの間にかこのオレを抜いて一位、だもんな。進藤は」
たしかに。
十月の最後の週の発表によれば、ヒカルはいつのまにか院生一組の一位という結果となっている。
まあ、今まで全勝しているので当然の結果、ともいえなくはないが。
プロ試験が終わったのは昨日。
十月の二十四日。
試験が開始されたのが八月の三十日から、というのをかんがえればほぼきっちり二か月ほど試験はあったことになる。
事実、基本的にプロ試験は二か月かけておこなわれるのだが。
「ネット碁かぁ。進藤君みたいにつよくなれるならやってみようかなぁ~……」
ヒカルには師事している師匠はいない。
彼らはそう聞いている。
真実は四六時中そばにいる佐偽にいつでもうってもらえる状態なのであるが、視えないかれらは知る由もない。
「ねえねえ。そういえばさ。塔矢のやつが、電話で新初段シリーズとかいってたけど、それって何?」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
はぁ~……
どうしてさらっと勝てるような実力をもっているのにそんなことをしらないのだろう?
思わずその場にいた誰もが頭をかかえて溜息をついてしまう。
「電話でさ。新初段シリーズの手合せがきまったら連絡するよ、っていってきたんだけどさ。
  それって何?ってきくまえに電話きれちゃってさ~」
そりゃ、聞かなくて正解なんじゃあ……
その場にいる誰もがそんなことをおもってしまうのは仕方のないこと。
事実、ヒカルがあの塔矢明と友達なのはすでにもう院生の中では有名となっている。
幾度かわざわざ塔矢明が手合いのある日にヒカルを迎えにきたこともしばしば。
何でもせっかく時間があって打てる貴重な時間を重宝したいとか何とかという理由でときどきやってきているらしい。
ヒカルいわく、ネットだといつでもいいのにな~?
となぜくるのかわかっていないようではあるが。
「…お前、頼むから、来年のプロ試験になるまえまでにある程度囲碁界の知識おぼえてくれ、いやまじで」
「進藤君にはまず、碁のことよりも知識のほうが先…かもねぇ。本気で私もそうおもうわ」
すでに彼にかなう相手は院生の中ではいないのは明白。
何だかこの間やってきた二組の越智とかいう子供が進藤光をライバル視しているとか何とかきかなくもないが。
それでも全勝しているわけではなく、
まあ他の子よりは勝ち数がおおいのでしばらくすれば一組にあがってくるであろうが……
きょとん、として首をかしげながらといかけるヒカルのセリフにため息をつかさざるを得ない和谷達五人。
最近では彼に指導碁をやってもらいたい、という院生仲間までできている現状だというのに、
この知識のなさはあるいみ呆れる以外の何ものでもない。
まあ、勉強もできて、なおかつ知識も豊富でしかも囲碁が強い。
そこまで完璧であれば人間はどうしても嫌悪してしまうであろうが、ヒカルはその必要なはずの知識が皆無。
それゆえに院生仲間からしてみても、ヒカルの囲碁界における知識の乏しさはあるいみ有名となってきている。
何しろ、タイトル戦のことはどうにか教えてもらっているがゆえに何となくだが理解しているが、そのほか。
つまりタイトルなどに関係ない大会のことなどまるっきり無知なのである。
バックナンバーの週刊碁の雑誌などを化したとしてもヒカルが覚えるのはほとんど棋譜のみ。
まあ、それ以外の情報は佐偽が頭にいれていたりするのでいつも佐偽に怒られる…という形になっているのだが。
最近ではもっぱら対局表の付け方すら知らなかったという事実が判明し、交互に付け方を教えているこの現状。
どこかが抜けている。
それゆえにどこかほっとけない。
だからこそにくまれない。
『何かではみましたけど、私もこの時代の文字はそれほど詳しくありませんしねぇ』
それに佐偽の知らない文字などがつかわれていたらまったくもって佐偽とてわからない。
「ねえねえ、だから何なの?」
「はぁ~…私たち、こんな無知な人にまけてるのよねぇ……」
「それをいうな、奈瀬」
溜息がでてしまうのは仕方ないであろう。
碁においては負け知らず、だというのに基礎的な知識をもっていないこの進藤光。
それゆえに未だに手合いの間に残っていた院生たちは溜息をつかさざるを得ない。
「おまえ、本気で覚える気ないだろ?」
その気になればおそらくすぐさまに暗記するであろうに。
必要があまりない、と判断したものはヒカルは基本的に興味を示さない。
だから覚えがわるくなる。
逆に少しでも興味をおぼえればとことんつきつめる。
「でもさ。最近は学校でおぼえることもおおいいし」
事実、今だに成績がおちればおこずかい停止、ということを母親からいわれている以上、
勉強をおろそかにすることはできない。
さすがに日本の歴史や地理は佐偽の協力でどうにかなるが、世界の歴史や地理はどうにもならないものがある。
ほとんど言葉巧みに誘導し、佐偽に覚えさせている…というのはまあおいておくとしても。
とりあえず、今のところおこずかいをとめられてはたまったものではないのも事実。
「そういえば来年はもう俺、高校三年生なんだよなぁ~……」
「そういえば、飯島のやつも悩んでたな。どうするか」
ヒカルの言葉にしばしそれぞれの事情に思い当たり何やらしみじみしだす彼ら達。
院生でいられるのは十八まで。
伊角や飯島はその年齢制限の歳に来年達する。
「とにかく!来年こそは試験にうかってやる!それで卒業とともにプロ棋士としてスタートするんだ!」
「そういえば、試験うかっても次の年の春から、だったっけ?」
一応電話でアキラからそのようにきいたのでそれくらいはヒカルでもしっている。
何でも試験が合格しても、それからしばらくは猶予があり、次の年の四月から本格的に棋士として認められるらしい。
「とりあえず。お前、篠田先生にたのんで基本知識、おそわっほうがいいぞ?絶対に」
「う~ん……」
ヒカルからすればそんな勉強をしている暇があるのなら一局でも多く佐偽と打ちたいところ。
最近はあまり手加減しなくてもついてこれはじめましたね、といわれればなおさらに。
『ヒカル。たしかに、彼らのいうことももっともですよ。私もこの時代の囲碁界のことをよく知りたいですし』
どうやらヒカルよりも佐偽のほうがかなり乗り気らしい。
「う~ん。ま、話してみるよ」
「あ、それよりさ。相談があるんだけど。塔矢のやつ、合格きまっただろ?それでさ。
  何かお祝いしたいんだけど何かいい意見ないかなぁ?」
一人で考えてもいいアイデアはでない。
それゆえにその場にいる全員の顔を見渡し問いかける。
そんな会話をしている最中。
「こらこら。君たち。もう対局はおわって他のみんなはかえってるよ?あまりおそくならないうちにかえりなさい」
「は~い。あ、先生、ちょっと相談があるんですけど~」
「はい?何ですか?」
思い立ったが吉日。
有言実行がヒカルのモット~。
それゆえに声をかけてきた篠田にと話しかけてゆくヒカルの姿が、手合いの間の一角においてしばし見受けられてゆく。

パチ。
パチっ。
「明君、何かいいことあった?」
「え?」
「そりゃ、芦原さん、プロ試験合格したからにきまってるじゃないですか」
「ほんと、明くんが中学になっていきなり囲碁部にはいる、とかいいだいたときにはおどろきましたよ」
この場にいる数名のものはヒカルの存在を知らない。
ヒカルのことを知っているのは塔矢行洋、芦原、そして緒方の三人のみ。
別に話すな、といわれているわけでもなく絶対に信じられないであろう。
その思いのほうが強いので話していないだけ。
よもやまさか塔矢明とタメをはる子供がいるなど普通信じられるはずもない。
そう、自分の目で確かめでもしなければ。
集まっている門下生の間からそんな声がなげかけられる。
「何か明くん、嬉しそうな顔してるから」
「え。ええ。ちょっと」
まさか彼のほうから合格祝いやってやる!といわれるとは夢にもおもわなかった。
だからそれが少しばかりうれしいのも事実。
だけども君がいないのに合格してもつまらないよ。
と言い返したのも本音。
「あ、そういえば、来週、天野さんたちが明君の取材にきたい、とかいってましたけど」
「…え?本当ですか?お父さん?まさか土曜日じゃぁ……」
土曜日たのしみにしてろよ!
といって内容はきかされなかった。
どうやら何やらびっくり企画をたくらんでいるらしい。
そういう遊びのようなものに今までつきあったことがないゆえに多少心がうきうきしているのも事実。
「明子から聞いている。土曜日、といってきたが日曜日にかえてもらった」
「そう、ですか」
ほっとその言葉におもいっきり安堵する。
「何?明君?土曜日だと都合わるいわけ?」
「まあまあ、明君にも付き合いがあるんだろうし。しかし、明君、ほんっと君、最近つよくなってるよねぇ……」
先生が碁は一人ではうてない。
といっていた意味が最近ではものすごく身にしみる。
あの彼とあってから確実に明君…実力つけてるし。
「碁は技術だけじゃない。何よりも精神力がいざというときにモノをいうからな」
今の明君には負けられない相手がいる。
それだけでも気構えが違う。
負けては勝って、さらには負けて、だからこそ互いに伸びてゆく。
「しかし、あ~あ、来年から明君までライバルかぁ。その次の年もまた怖いし……」
そもそも、普通にうっていてアキラにも勝てなくなってきているのである。
しかも次のプロ試験では確実にあの子供もまた棋界にはいってくるであろう。
「芦原くん。泣きごとをいっていないで。君はいつまでも一次予選と二次予選の間をうろうろしているつもりだ?」
「あうっ!やぶへびっ!」
「あはは。芦原さん、いわれちゃいましたね~」
どっ。
淡々としながらもずばっといってくる行洋の台詞をきき、その場にいた誰もがどっと笑いだす。
塔矢邸の一室。
今日は塔矢名人の研究会が自宅にて行われている。
塔矢門下は結構人数がおり、また出入りも自由。
それゆえに根性…もといその気があり、度胸があるものは顔をだすことも自由。
とはいえ棋界における最高レベルともいえる彼の研究会にいきなり足をはこぼう、というような度胸のある人間はまずいない。
「気力…か。たしかにそうですね。緒方さん」
今ならばわかる。
彼と出会う前の自分は何かがたりなくてもがいていた。
だけども今はかなり充実している。
「アキラ、いい友達をもったな」
そんな息子の変化は親である塔矢行洋がよくわかっている。
ましてや妻、明子が気に入っている相手。
間違いなく悪い子ではないのは明白。
もっとも、まさか明子と同じ能力の持ち主が身近に現れる…とは夢にもおもってはいなかったが。
「・・・はいっ!」
「何だ、明君。珍しい。次の土曜日、友達とでかけるの?」
「へぇ。明君でも普通に子供らしく遊びにいくんだ~」
「って、どういう意味ですか!?水野さん!?」
「あはは、わるいわるい!」
以前の彼ならば誘われても碁の勉強をするからとかいって普通の誘いは断った。
だけども、彼と一緒にいるとどこか楽しい。
まあ、囲碁の談義にはいると互いにゆずらずにケンカ腰になってしまうが。
それすらも楽しく感じている今日この頃。
本音を言い合える相手をどこかで欲していた。
回りにいるのは大人ばかり。
それゆえにどこか一線をひくしかなかった。
だけども彼にはその必要がない。
何よりも彼は自分を一人の塔矢明、としてみてくれているのがわかるから心地よい。
「明君!も、もう一局!」
「芦原さん、次もまけませんよ?」
「何の!先輩としての意地!!覚悟!」
たわいのないやり取り。
おそらく彼と研究会のたびに手合いを重ねる人々にも気づいているだろう。
彼は確実に…成長している、というその事実に。


「塔矢~!!」
「あ、は~い」
すでに出かける用意は済んでいる。
インターホンがならされて外にとでる。
「…って、あれ?…誰?その人たち?」
玄関からでてみればいるのはヒカル一人ではない。
何か女の子と見覚えがあるような男の子の姿も目にはいる。
「へへ~ん。院生の仲間!相談したらみんな協力してくれるってことでさ~!」
「塔矢君。こんにちわ~。まともに話すのは初めてになるのかな?おぼえてるかな?試験で手合いしたことあるけど」
「僕は予選初日でもあたったことがあるよ~」
「え?え?シンド…ウ?」
いったい何がおこっているのかアキラには理解不能。
「あらあら。まあまあ。みなさん、明さんをおねがいしますね~」
「は~い!さ、塔矢!いくぞ!」
「って、ちょ、ちょっとぉぉ!?」
がしっ。
まるで示し合わせたようにいきなり両手をヒカルともう一人の自分より少しばかり上であろう人物にとつかまれる。
明子はヒカルから今回の計画を事前にきいているので別に驚いてはいない。
半ば悪乗り、そしてまた興味本位もあっての参加。
ヒカルが塔矢明がおそらくカードゲームすらしたこともなかったようだから、ボーリングとかもしたことないはず!
といったのがきっかけ。
それならばつれだしてみよう!という話になったのはついこの間。
それに悪乗りした奈瀬がその次はカラオケ!といったので盛り上がり、今日の計画が実行されているのだが。
そんな裏の事情は当然、アキラは知る由もない。
「って、ちょっと!?進藤!?どこにいくの!?というかどういうこと!?」
「だから、いったろ?おもしろい場所つれてってやる!な、和谷!」
「おう!囲碁ではまけないが、アレなら勝てる自信あるしな!」
「塔矢君、合格おめでとう!でも、私も来年こそ!は合格してみせるんだから!」
「僕だって!」
この場にいるのは、ヒカルと奈瀬明日美、そして和谷義高、そして福井雄太。
「塔矢君。えっと、試験ではどうも。たぶん君、いつも進藤のことしか目にはいってないだろうから、
  自己紹介しておくよ。僕は伊角慎一郎。こいつらが暴走しないようにお目付け役、さ」
「あ、ひどい!伊角さん!暴走って何だよっ!」
「まあまあ、和谷!とにかく!ボーリング場にむけてしゅっぱ~つ!」
「え?え?えええええ!?」
なぜそういうことになっているのだろう。
言葉くらいはきいたことはたしかにあるが。
アキラはそんな場所には一度たりとていったことがない。
「ほんと、進藤君は行動力あるわよねぇ。明も子供らしい遊びをしないとねv」
にこやかにそんな彼らを見送る明子の言葉は…どこか絶対にずれている。
そう第三者がきけば間違いなくおもったであろう……

「ボーリング?」
呆然としている間にタクシーにのせられ、ふと我にともどったときにはどこかの建物の中。
何やら黒い球を転がしている人達がみてとれる。
「そ。お前、こ~いうところきたこともないだろ?」
「そりゃ、そ~だけど……」
『うわぁ。おもしろそう!何かいろんなひとが大きな毬をなげてます~!』
何やら約一名、ものすごく興奮して目をきらきせさせている存在がいるのはひとまずヒカルは無視することにする。
佐偽にしてもこのような場にくるのは初めて。
それゆえに興奮せざるを得ない。
ヒカルから説明をうけていても、話をきくのと実際に視るのとでは格段に違う。
「お前も少しは他のことをやったほうがいい、とおもってな。ちなみに、負けたやつがお昼をおごる、な」
「って何だよ!?それ!?」
「お、塔矢。お前まけるつもり満々?」
「というか!どうしてそうなるわけ!?」
「だって、何かかけたほうがおもしろいじゃん?」
いわんとすることはわかる。
わかるが…
「六人だから三人づつメンバーを組もうか。じゃんけんできめる?」
何やら話しが勝手に絶対にすすんでいっている。
「進藤?」
「ま、やってみろって。汗をかくのもたまにはいいぜ?おまえひよわだしさぁ。
  何でもきけばさ、地方対局って運動もあるんだって?だから体力もつかうんだろ?お前きたえないと」
誰がそんなウソおしえたの!?
思わずヒカルの言葉に心の中で叫んでしまうのは仕方ないであろう。
確かに体力はつかうかもしれない。
だがしかし、それに運動が付属する、などきいたことがない。
おもわずばっとみてみれば、そっぽをむいている確か和谷、とかいっていた人物の姿が目にとまる。
まさか、本気で信じるとはおもわなかったんだよなぁ。
進藤のやつ。
そんなことを和谷はおもっているのだが、おもしろいので嘘だ、ということはいっていない。
「あ、塔矢君、くつのサイズは何?靴を履き替えるようになるからね」
どうやら抵抗しても無駄なようである。
サプライズの企画って…これ?
思わず呆れると同時に唖然としてしまう。
そもそも、やったことすらないのでよく意味がわからない。
「簡単だって。あの鉄の球をあのレーンに投げて、あの先のポールを多く倒したほうが勝ち」
いわれてみれば、たしかに他に投げている人たちは鉄の球らしきものを投げてその先のポールを倒している。
「ま、やってみろってば。はまるぜ?それに球がおもいから体力もつくしな!」
どこかヒカルの感覚はずれているような気もしなくもない。
だがしかし、それを突っ込む奈瀬達ではない。
何しろあの塔矢明を唖然とさせることも一つの目的なのだから。

結局のところ流されるままにボーリングに参加し、そのまましばらくすると負けん気の強さから熱中するアキラの姿が、
しばし見受けられてゆくのは、それはヒカルの思惑通りともいえること。

「う~ん、おもしろかった~!!」
おもいっきりのびをする。
すでに気付けば日がくれかけている。
ボーリングの結果は、互いの組とも引き分け。
何だか確かに汗をかき、すっきりしたのも事実。
そのあと、またまた連れられていったさきはこれまた見たことのない場所。
いきなり大声で何かを歌う場所、といわれたときにはよくわからなかったが。
ストレス解消に大声だすのにうってつけだぜ?
そういわれていきなりマイクを握らされた。
そういえば、父がいっていたけども日本棋院の忘年会などでも余興を求められることがあるらしい。
たしかに耐性をつけなければならないであろうが、始めてこういう場に足を踏み入れるアキラからすれば戸惑うばかり。
それでも時間とともに打ちとけた…というかきちんとこなせるのはアキラ故、なのかもしれない。
「まったく、君はほんと~に意外性の塊、だよね」
「でもさ。明子おばさんに相談したら、ぜひともつれまわしてやってくれっていってたし」
「…お母さ~ん……」
日もくれかけたのでそれぞれ駅のところで別れた他の四人達。
一応、ヒカルから誘ったこともあり、アキラとともに一度アキラの自宅にむかいつつも電車にのっている今現在。
ヒカルのさらっとした言葉に思わず遠くをみずにはいられないアキラ。
さもあらん。
すべては母も今日の一件を知っていた、ということに他ならないのだから。
「でも、たのしかった、だろ?」
「…まあね」
あんなに動いて汗をかいたこともなかったような気がする。
さらにいえば大きな声をだすことも。
たしかにどこかすっきりしたような気もしなくもないが、普段はそんなことできるはずもない。
そもそもあの家にそだってそんなことを考える余裕など今まで一度たりとてなかったのも事実。
「よし!次はゲームセンターにお前つれてってやるっ!」
「…進藤。君、僕をどこにむけてくき?」
「あはは。だってさ~。やっぱりさ。確かに碁も面白いけど。碁は終わりのない楽しみ、じゃん?
  他の楽しみをしってさらに精進することも大切だとおもうんだよ。俺は。うん」
そのすべては佐偽のうけうりだが。
「あ、それよりさ。何か再来週、新初段シリーズの初の対局があるんだってさ。お前しってる?」
「たしか桑原先生と受かったこの一人の対局だったっけ?」
相手の名前までは覚えていないが。
この話の切り替えの早さにも苦笑してしまうが、それがヒカル、という人物でもある。
一年足らずの付き合いの中、アキラもまたヒカルの性格はある程度把握している。
だからこそ何だか話していてもあきない。
どちらも譲れないものがあるがゆえに喧嘩してしまうこともまれではあるが……
彼らは目立っていることに気づいていない。
ヒカルの容姿は頭の半分というか前髪部分が金髪のこともあり、瞳の色も淡い茶色であることから、
ぱっと見た目、一瞬ハーフかも、という感想が人々の脳裏に浮かぶ。
対してもう一人は、漆黒のさらさらのストレートのおかっぱ頭の端正な顔立ちの少年。
この二人が一緒にいてまず目立たない…というほうが普通どうかしている。
「おれさ。桑原のじ~ちゃんの対局ってみたことないからたのしみなんだ~。
  前に一度すれ違ったことがあるんだけどさ。あのじ~ちゃんがいまの本因坊とはおどろいたなぁ」
「…桑原先生をおじいちゃんよばわりって…進藤らしいよね……」
そんなヒカルのセリフに思わずあきれつつも苦笑してしまうのはそういっているのがヒカルだから、であろう。
しかも、自分の父親、塔矢名人ですら塔矢のおじさん、である。
回りはかなり驚いているようではあるが、とうのヒカルはけろっとしてアキラのだって父親でしょ?
こうである。
普通ならば塔矢名人の息子がアキラ、と順番が違う、というのに。
「まあ、たしかに桑原先生は囲碁界の大御所ではあるけどね~」
あの年でよくもまあ、とおもうところはたしかにある。
あるがそれでもその気合と迫力はおそらく対局してみなければわからない。
「君はみにいくの?」
「どうだろ?都合がついたらみれるならみたいな~。でも棋譜はみれる、だろ?」
何でもそういった試合の棋譜はきちんと日本棋院でいえばもらえるらしい。
ヒカルはどこで対局するとかいまだに詳しいことはきいていない。
最も、それは次に日本棋院にいったときに聞いてみよう、とはおもってはいるが。
観戦できるのならばしてみたい、というのは相手が本因坊の名前をもつものであるがゆえ。
佐偽も気にしてるだろうしな。
そう思うヒカルの心をアキラは知る由もない。
たわいのない会話をしている最中、電車は目的の駅にとつき、とりあえずタクシーを拾って塔矢邸にと向かう二人の姿。
そんな二人とは対照的に、
『いいなぁ、私もうたいたかったし、鉄のたまをなげたかったですぅ……』
一人、いじけている佐偽の姿が見て取れる。
だがそれは、ヒカルにのみ視えているので他の第三者に知られることは…絶対にない。


「え!?みれるんですか!?」
まさか実際にみれる、とはおもわなかった。
昨日は和谷達とともに塔矢明をつれまわしてボーリングやカラオケにいったのだが。
けっこうそれはそれで楽しかったのも事実。
翌日の手合い日。
やってきた篠田師範にきいたところ、何でも新初段シリーズの対局はリアルタイムでみれるらしい。
「そういえば、進藤君はまだ、幽玄の間とかしらなかったっけ?」
「幽玄?」
そういわれてもまったくもってわからない。
「ふむ。まあ、時間はあるしね。え~と、あ、和谷君。
  君、ごめんだけど、進藤君に幽玄の間に案内してくれる?彼、まだ知らないらしいからさ」
ふとちょうどやってきた和谷にと目をとめ声をかける篠田の姿。
「え?あ、はい。っておまえ、幽玄の間もしらなかったわけ!?」
「ってどならないでよ~。耳元で」
佐偽じゃあるまいし。
佐偽がどなるときもいつも耳元でさけぶがゆえに、慣れているとはいえ、やはり耳がき~んとなってしまう。
「桑原本因坊との新初段シリーズは今日の午後から、だぜ?
  ま、こいよ。相手があの真柴、というのはみたくないけど、本因坊だからな。みなきゃそんでもあるし」
そんなことをいいつつも、ヒカルを手合いの間より外にと連れ出す。
『いったいどんな場所なんでしょうか?』
「さあ?」
「おい。進藤、こっちだぜ。幽玄の間はこの下にあるんだ」
手合いの間は六階にあるが、幽玄の間は五階に存在している。
階段のほうに進んでいく和谷をあわてておいかける。
カツカツと階段をおりてゆく。
一階くらいならばエレベーターをまつよりもはるかに階段のほうが能率的。
「対局場の幽玄の間だけはカメラがついていてモニターでみれるんだ」
「へぇ~」
どうやらつくり的には六階とあまり変わり映えがしないようなきもしなくもないが。
何やら関係者以外立ち入り禁止、とかかれている紙の扉に手をかける。
「はいれよ」
「あ、うん」
促されるままに部屋の中にはいってみるといくつかの机とそしてテレビ。
何とも簡易的な部屋ではある。
「あのテレビにさ、対局の様子が映し出されるんだ。
  まあ、おれたち院生は手合いがあるから全部はむりかもしれないけど。
  院生の手合いがおわってからここにきても終盤くらいはみられる」
「へぇ~。その幽玄の間ってどこにあるの?」
数か月ほどこの日本棋院にかよっているがそんな場所はみたこともない。
それゆえに問いかけるヒカルに対し、
「う~ん。みれるかな?ま、いっか。あいてるかな~?こっちこっち」
いいつつも、反対方向にと進んでゆく和谷。
「お、らっき~、カギあいてる。こいよ」
「いいの?」
何やら引き戸らしき扉をがらりとあける。
和室どくとくのにおいがぷ~んとしてくる。
がらりと扉をあけたその先に靴を脱いであがりこむ。
『…ヒカル……』
かちっ。
ざわっ。
部屋の中に入ると同時に感じる特殊な空気。
それと同時に和谷が電気をつけて部屋の中が明るくなる。
小さな四角い部屋。
だがしかし、すべての和の調合がなされてぴりぴりした空気が伝わってくる。
中心にそれぞれ碁盤と、それをとり囲むように座イスがおかれており、その先にはシシオトシまでもが備え付けられている。
そこは白い石が敷き詰められた小さな庭のようなものが作られており、周囲はすべて障子で四方がおおわれている。
入口の近くに長机が二つほどあるものの、まるで…そう神聖なる空間。
すなわち神社などにおける神域によくにた雰囲気。
ふとみれば横の壁には一つの掛け軸と小さないけばながほどこされており、
文句のつけようのない部屋であるのが見て取れる。
「すっげぇ…すごい厳格な神聖な空間……」
『ええ。ヒカルも感じるのですね。ここの空気はピリピリと痛い。…そう、つい武者震いで笑みがこぼれて震えるほど』
横にいる佐偽をみれば何やらものすごく真剣な表情にとなっている。
この空気でそういう反応ってやっぱりこいつそこいらの幽霊とは違うんだよなぁ。
普通ならばこのような神聖、ともいえる空間に触れればそこいらの巷の霊はひるむ、というのに。
「どうだ?何かこうすげえだろ?」
「ねえ。プロってこんなところでうつの?」
「ちがうよ。こういった部屋はタイトル戦のときだけつかうんだよ。
  普通は俺達がうっている大部屋でプロもうってるんだよ。
  新初段シリーズでこの部屋をつかうのは、早くこの部屋でうてるように頑張りなさい。ということさ。
  来年こそは、おれだって!」
「でも、ここの空気って厳格だよね。神格かなり高い空間なんじゃぁ?」
「何だ?それ?」
「あ、何でもない」
その筋の能力がないものにその手の説明をしてもおそらく意味はわからないであろう。
聖域。
まさにここはそうと表現していい場所。
「そろそろもどろうぜ。手合い時間がはじまっちまう」
「あ、うん」
確かに手合いの前に見にきているので時間に余裕はない。
「今日の午後からここで桑原先生が一局、うつんだ。真柴のやつはいやだけどみにくるつもりだぜ」
「へ~。午後からの一局、さくっとおわらせたらみれるかなぁ?」
「…おまえ、本気でできそうだからそれ、洒落になんないぞ?」
なあ。
佐偽。
今日くらい半目勝ち、やめちゃだめ?
あのじ~ちゃんの打ち方みてみたいしさ~
『たしかに。ですけど相手に失礼ではないでしょうか?せめて早打ち碁で』
つまり、やっぱりお前もみたいんだ。
『そりゃ、虎次郎の名前を継いでいる人は私もきになりますし』
「というか、本因坊はお前がとったようなものだろうが……」
そもそも、公の試合はすべて佐偽が打っていた、そう聞いた。
それゆえに佐偽の言葉におもわずぽそっとつぶやきをもらす。
「お~い?進藤!何してんだよ!」
その場に立ち尽くし、佐偽と会話をしているヒカルに対し、外から和谷が声をかけてくる。
「あ、うん。すぐにいく!」
『本因坊のなをつぐもの…楽しみですね』
「たしかに」
そんな会話をしつつも幽玄の間をあとにするヒカルと佐偽。
あとには静かに残された部屋が暗闇にと染まってゆく……


「ってもうおわりなの!?」
いつものように半目勝ち。
とはいえ今日は早碁にて相手を圧倒した。
そのあとに篠田による検討がはいらなければヒカルももっと早くに解放されたというのに。
「進藤。おそかったね」
「って、塔矢もきてたんだ」
「?あれ?塔矢君の知り合いかい?」
「え。あ、はい」
部屋にと入ると見慣れない男性の姿が目にとまる。
「お~い、進藤。こっちこっち。初手から並べてやるよ」
ふとみれば隅のほうでどうやら今日の一局を並べているらしい。
「しかし、塔矢君に院生の友達がいた、とは驚きだねぇ」
「進藤とはいいライバルですから」
さらっといいきるその言葉に、おもいっきり手にしたコップを落としそうになってしまう。
「ライバル?」
あの塔矢君がそう言い切るこのこって?
そう怪訝に思うまもなく、
「天野さん。そろそろ検討がはじまります。いそがないと」
「あ、ああ」
もう一人の大人の男性に促され、その場を立ちあがる男性二人。
「?塔矢?あの人たち、だれ?」
「ああ、君はしらないんだったっけね?週刊碁の記者の天野さん」
「へ~。記者さん、なんだ。そんなひともみにくるの?」
「あたりまえだろ?今だに進藤、その手の知識薄いよね…やっぱり今度みっちりと教えたほうが……」
「お。塔矢。それは俺も大賛成!」
「たしかに。進藤にはそれくらいしたほうがいいかもな」
「って、和谷も伊角さんもっ!」
どうやら対局をみにきていたのは和谷と伊角の二人だけらしい。
他の院生の仲間たちは今だに対局中、ということなのであろう。
早打ち碁にしたがゆえに対局時間は極端に十分も満たなかった。
検討をいれても二十分そこそこ。
一時間の対局時間を考えればまだおわってない生徒がいるのはしごく当然。
きょとん、としてアキラにといかけるヒカルのセリフに、溜息まじりにしみじみというアキラにたいし、
すかさず同意をしめしている和谷と伊角。
「そ、それよりさ。どうなったの?対局結果は?」
『塔矢達のいうことももっともですけど、たしかにきになりますねぇ』
お前まで同意すなっ!
心の中でおもいっきりつっこみをいれつつも、とあえず話題をかえる。
「やれやれ。われわれは幽玄の間にいくけど、君たちはどうする?」
「あ、俺達はいいです」
というかあの真柴と顔をあわせたくないし。
そのほうが本音だが。
「じゃ、塔矢君。またね」
「あ、はい。天野さんたちも」
どうやらかなりの顔見知りなのかそんな会話をしている彼らの姿が見て取れる。
「塔矢、お前記者たちと知り合いなの?」
「進藤。僕の父が名人だって失念してない?」
「あ、そ~いえば。いつも塔矢のおやじさん、とおもってるからときどきわすれるけど、そ~いえばそうだったね」
「…わすれるお前は大物だよ」
「たしかに」
ヒカルの今気づいたような言い方におもわずあきれたようにつぶやくアキラ、和谷、伊角の三人。
すでに記者だという大人たちは部屋の外にでており彼らの会話はきいていない。
「それで?どういう棋譜になったの?」
「それがさ~。おもいっきり真柴のやつの自滅」
「あはは。あれは真柴もこたえたんじゃないのか?桑原先生らしい、というか」

いったい全体何があったんだろう?
何やら二人してそんな会話をしている和谷達をみつつ、首をかしげ、
「なあ、塔矢?何かあったの?」
「え?あ、うん。桑原先生ったらね。対局がおわったとき、『あ、もうおわったの?』って。
  まるで今まで寝ながらうってたような言い方してね。まあ桑原先生らしいとおもうけど」
同じような経験があるがゆえに何となく対戦相手の気持ちがわかってしまう。
ヒカルも以前、勝てない、とおもったときに負けを宣言したときに、
【え~!?ひかる、ひかる、うそでしょう!?まだつづきうちましょうよぉぉ!
  だいじょうぶ!この局面はまだ撤回できますから!がんばって!ね、ねっ!】
などといってきた佐偽のことがふと思い出されておもわず横にいる佐偽にと視線をむける。
というかどうかんがえても自分では挽回する手などおもいつかないのに、
あっさりとまだ手があるから、といわれたときにはかなりショックをうけたものである。
ある意味、似たような感覚あじわったかもしれないな。
でもまあ、あの嫌味をいいまくるあの人ならいい薬になったかな?
そんなことをふと思う。
事実、ヒカルと対局したときにもやはりヒカルが半目で幾度かかったのだが、
試験中なので手加減してやったんだ、だから自分はまけたんだ。
と何やらそんなことをいっていた。
じゃあ、もう一局やってみる?
といったがそんな暇はない、といって逃げていったこともあった。
「で、これが局面?…うわっ、まったく碁になってないしっ!」
ぱっとみただけでもわかる。
自滅すぎるほどの局面。
「だろ?これだとたしかに桑原先生も寝ながらうてるよ」
「こらこら。和谷。いくら真実でもそんなこといったら……」
『うわ~。これはたしかに、ひどいですねぇ。ヒカルが初心者のときよりもはるかに』
どうやら佐偽とて同じ感想を抱いたらしい。
「というか、これじゃあ、じ~ちゃんの棋力はわからずじまい、かぁ。少しはたのしみにしてたのになぁ…」
なあ、佐偽?
だからさくっと早打ち碁で対局を終わらせた、というのに。
「そういえば、進藤。おそかったね」
「うん。対局事態は早打ちして十分もかかんなかったんだけど、篠田先生につかまっちゃってさ~
  なんでか検討はじまっちゃって、で、おそくなっちゃった」
主にヒカルではなく相手にたいする検討、ではあるが対局相手であるがゆえに逃げることもできない。
「そうなんだ。でももう今日の手合いはおわり?」
「うん」
「じゃ、せっかくだし、今からうつ?」
「そ~だな~。何か楽しみにしてたのに消化されきれない、というのはもやもやするしな、よっし!やろう!」
いいつつも、その場にあった別の碁盤を取り出して、それぞれ碁笥をつかんでいるヒカルとアキラ。
「今から打つ…って、お前ら……」
「どうする?和谷?俺たちはもどるか?」
「だけど、こいつらが打つのみたいしなぁ」
「じゃ、みてようか」
「だな」
たしかにかなり興味がある。
ヒカルとアキラの対局は。
彼らはまだ二人がまともに対局している場面を目の当たりにしたことは…ない。

「やれやれ。真柴君もかわいそうに」
「あれは完全にのまれてましたねぇ」
それが桑原本因坊にのまれたのか、はたまた幽玄の間の雰囲気にのまれたのか。
どちらにしてもまだまだ、というのは確か。
これといったコメントもとれなかったのも何か物足りない。
「そういえば、明君がきてたよな」
「ああ。塔矢名人の息子さん、でしたよね。まだいますかね?彼の意見もきいてみますか」
「だな。ダメもとでいってみようか」
すでに対局がおわっているのであの部屋にいる、とは限らない。
それでも一応のぞいてみるだけのぞいていなければ帰る。
それくらいの時間の余裕はある。
それゆえに、二人して検討の間にと向かって足を進めてゆく二人の姿。

俺達が勝てない…はずだよな。
おもわず局面をみてうなってしまう。
そもそも和谷はヒカルが倉田と一色碁をうったのも目の当たりにしている。
その実力の差ははっきりと今、目の前で示されている。
互戦での対局。
まさかここで二人の対局がみれる…とは到底おもえなかったが。
対局時計がないがゆえに普通に打っている二人は完全にその碁盤に意識を集中しているらしい。
ガチャ。
そんなさなか、扉が再び開く音。
ちらりとそちらをみれば何やらはいってくる大人が二人。
「あ、まだいた」
「うん?…あれ、君たちもまだいたの?」
みればテーブルを囲んですわっている子供二人の姿と、その後ろに立ってじっとテーブルの上をみている院生二人。
座っている一人はまちがいなく塔矢明であることは明白であるが、もう一人は名前もしらない。
「伊角君。何がはじまってるんだい?」
何か部屋にはいった直後、何やらぴりっとしたような空気を感じたのは気のせいか。
たっている一人に声をかけるそんな彼にと対し、
「あ、天野さん。し~。って、そこにきたか!?」
「うわっ!?進藤のやつ、ここにいったか!?」
パチッ。
何やら碁をうつ音がする。
ふとテーブルの上をみてみればどうやら二人して碁をうっているらしい。
しかも碁をうっている二人とも自分たちには気づいてもいないらしい。
それほどまでに視線は碁盤上にのみ集中しているのがみてとれる。
「って、何が……うっ」
「天野さん?いったい何が…うっ…」
何となく疑問を抱き、何の心構えもなく近づいた二人が目にしたものは。
あきらかに細かすぎるほどの局面を描いている盤上。
「って、ええ!?こっちがうすいのにこっちにしかけた!?」
「うわっ!?進藤のやつ、それでもまけずところした!?」
一手、一手が目をみはるものばかり。
自分たちでは絶対に思いつかなかった手を二人してそれぞれに打ちだしてきているので目が離せない。
強くなってる。
確実に。
互戦で戦えばいやでもわかる。
日々、進藤はつよくなっていっている。
だけども、僕だって…っ!
ふとおもうのは、今の彼が彼曰くの直感打ちをしてきたときの実力を知りたくもある。
彼の実力がそれにおいついているのか、はたまた当人の自覚ができているのでさらに感覚的には高見にのぼっているのか。
それはもう一人の進藤、とアキラがおもっているほうの彼と最近はうっていないのでアキラにはわからない。
事実は、ものすごく佐偽は強くなっていておいつくどころではないのだが……
ごくっ。
「すげぇ。真柴なんかの対局よりよっぽどすごいぜ」
「ということは。進藤。院生の手合いではかなり手加減してる、というのがこれで証明されたようなものだな」
何やらそんな会話が天野達の耳にとはいってくる。
いや、ちょっとまて。
院生?
この子が?
あの塔矢明とここまでうてるのに?
さきほど、明君がこの子のことをライバル、ときっぱりいいきっていたのはただの戯言、とおもっていたのに。
この局面を見る限りそうはいえない。
ちらり、と視線をむければ、無意識なのか、はたまた記録にのこしたいのかパシャリ、と写真をとっているつれの姿。
「よっしゃぁぁ!一目半勝ち!!」
「くっ!!し、進藤!もう一局!!」
「・・・って、勝ってるし……」
小寄せまですべておえてみれば一目半でヒカルの勝ち。
それゆえに集中力をときがっつポーズをするヒカル。
「え~?でもお前、勝つまでいくどでもしてくるじゃん?」
「君だってそうだろ!?負けたときいつも君もせがんでくるじゃないかっ!」
「「「「・・・・・・・・・・・・・」」」
何やらにたもの同士。
その言葉がその場にいる和谷、伊角、天野達四人の脳裏にうと浮かぶ。
『ヒカル。それよりどうやらもうあちらの検討会もおわったようですよ?さきほどの大人がもどってきてます』
「え?あれ?」
「あ、天野さん。もしかしてもう検討会、おわったんですか?」
佐偽の言葉にようやく第三者の姿にきづいてそちらを振り向ききょとん、と首をかしげるヒカルに続き、
そんなヒカルの様子にようやく天野達にと気づいて声をだしているアキラの姿。
「あ、ああ。いやあの、塔矢君、これって……」
「せっかくだからうってたんですけど。何か?」
いや、何かじゃない。
おもいっきりに。
そんなことを天野達はおもうものの、
「進藤。それよりもう一局!」
「え~?というかそうだ!塔矢!一色碁やろうぜ!」
「え?一色?」
「ああ!前、倉田のお兄さんとうったときに読み間違えしてまけちゃってさぁ。
  それから一色碁も自分なりに練習したんだ!」
「って、進藤、お前、倉田さんとうったのか!?」
「そういや、和谷がいってたな……」
何やらそんな会話をしている二人の会話をきいて横にいる和谷にと視線をむける伊角。
彼も和谷よりあのときの一局は普通の碁として並べてもらってみせてもらった。
「うん。偶然がかさなってさ。お前、一色碁やったことは?」
「ときどきあるよ?」
「じゃ、やろうぜ!」
「というか、塔矢も!進藤も!おまえら、時間わかってんのか!?」
「え?」
「あ」
ふとみれば、いつのまにか外は暗くなっている。
たしかに二人の一色碁はかなりみてみたい。
だがしかし、時間が時間…である。
ヒカルたちは正味三時間打っており、それゆえに外はすでに暗くなっていたりする。
和谷とてふと外をみなければそこまで時間が経過していたのに気づかなかったであろう。
「しかたない。今日はやめとくよ」
「だな~。あまりおそくなってもな~」
確かにあまり遅くなっては家族が心配する。
特にヒカルのほうは。
「進藤、次の土曜日、用事は?」
「今のところ宿題おわったらネットとか、かな?」
「なら!次の土曜日に再戦をもうしこむっ!」
「おうっ!のぞろところだっ!」
何やら二人して盛り上がっているヒカルたち。
「え、え~と?塔矢君?伊角君?この子って…何もの?」
そんな二人の様子に唖然としつつもとりあえず疑問におもっていることをといかける天野。
「みてのとおり、ですよ。天野さん」
「ああ!伊角さん!いそがないと電車の時間におくれちゃう!」
「あ、ほんとだ!進藤、それに塔矢君、いいものみせてもらったよ。じゃあ、おさきに」
あまり帰りの電車がおそくなればそれだけ家に帰る時間がおそくなる。
「あ。うん。またね!伊角さんに和谷も!」
「おう。次の手合い日にな!」
そんな会話をかわしつつ、部屋からでてゆく二人であるが。
「そういえば、進藤はどうするの?」
「う~ん。おそくなっちゃったし。素直にかえるよ」
「何なら一緒にかえらない?僕、タクシーでかえるしさ」
「でぇ!?おまえ、リッチすぎ!こずかいいくらもらってんだよ!?」
「さあ?こずかいとかもらってないし。いるだけもらってるし」
「…何かむかつくぞ。おまえ」
それでなくてもヒカルは成績によっておこずかい、という収入源を制限されている、というのに。
「ここからだとどちらにしても少し寄り道すれば通り道だし。それまで目隠し碁でもやってかえらない?」
「あ、それおもしろそう!」
『ヒカル!私もそれやりたいです!やるやる、やるったらやるぅぅ!』
だぁぁっ!
わかったってば!
思わず頭をかかえつつ、
「とりあえず、かたづけようぜ」
「そうだね。…あれ?天野さんたち、どうかしたんですか?」
ふと碁石をかたづけつつも、なぜかつったっている天野達の姿が目にとまり首をかしげてといかける。
どうやら相手の子の名前はシンドウ、というのはわかったが。
よもやあの塔矢明と実力がタメとなるとおもわしき子供がいるなどいったい誰がそうぞうしていようか。
「あ、い、いや。えっと、君の名前は?」
「おれ?進藤光」
「シンドウ…ヒカル?」
まったくその名前は今まできいたことすらない。
ここまでの実力をもっているのならばどこかで話しくらいはきこえてきそうなものなのに。
「あ、とりあえず、改めて挨拶しておくよ。私は週刊囲碁の記者をしている天野というものだ。これ、名刺ね」
「は。はぁ。どうも」
名刺らしきものを手渡され、戸惑うしかないヒカルであるが。
「そうだ。せっかくだし。塔矢君、進藤君…だったよね?ならんで?」
「「?」」
いわれて首をかしげつつも素直にと並ぶ。
パシャ。
『うわっ!?まぶしい!?ヒカル、ヒカル!?今のヒカリは何ですか!?ねえ!?』
どうやら二人ならんだところを写真にとったらしい。
「綺麗にとれてたらプレゼントするよ」
「どうもありがとうございます」
佐偽。
今のは写真をとったんだよ。
『写真?ああ、何かほんものみたいにうつしだす絵のこと、ですか?』
ヒカルの家でアルバムを見ているがゆえに何となくだが理解して首をかしげつつつぶやく佐偽。
きちんと丁寧にお礼をいっているアキラとは対照てきに、ヒカルはといえば佐偽と話しているのではたからみれば、
何やら横のほうをむいているようにしか垣間見えない。
しかも、少し斜め上方向をみてまるで…そう、何もない空間を凝視しているかのごとくに。
『?今のあのまぶしいヒカリでそんなものがつくれるのですか?』
お前に説明するのぜったいに長くなるし理解しないとおもうからパス。
『ヒカルゥ~……ヒカルのいじわるっ!』
ああもう!またなきだした!
「それより、塔矢。そうときまったらとっととかえろうぜ。あまり遅くなったら母さん心配するしさ」
「そうだね。じゃ、天野さんたち、お先に失礼します」
何やらまだ聞きたそうな彼らをあとにして二人して部屋をでてゆくヒカルとアキラ。
そんな二人をしばし呆然と眺めつつ、
「なあ、島木、シンドウヒカル、なんてきいたことあるか?名前?」
「まったくありません…」
まったく名前もきいたこともないのに、あの塔矢明と対局して勝てる子供。
まるで夢にでもみているようにしばしその場にたちつくす二人の姿が、
検討の間とよばれるその部屋においてしばらくの間見受けられてゆくのであった……


                                -第34話へー

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あとがきもどき:
薫:って、うわ!?おわってみれば60Kこえた!?
  …ま、いっか(よくない)
  ここでヒカルのことを天野にもしらせておきたかったので最後にちょこっと彼らとのかかわりをv
  といっても彼らは呆然としているので詳しくききだせないままにおわっていたりしますけど(苦笑
  ではでは、長くなったのでまた小話はまたいずれv
  ではまた次回にてv

2008年8月17日(日)某日

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