まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

ううむむ・・・研究会と一組昇格、両方いけそーな気もしたんですけど。
やはり研究会一本になってしまった~
塔矢明が研究会に参加するかどうか、どっちのパターンにするか悩んだんですけど。
やはりまあはじめのころはいないほうがいいかな?とかおもってこちらのパターンにv
ともあれ、ゆくのですv

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星の道しるべ   ~研究会~

『ヒカル~何してるんです?早く研究会にいきましょうよ。
  そんなどうしても本物しかみえない偽物の魚なんかほっといて』
日本棋院にくるたびにどうしても目につくロビーのモニターの魚。
「そうはいうけどさ。どこでやるのかもわかんないのに。和谷がくるまでまっとくのが一番だとおもうぞ?」
誰の研究会すらかもよく覚えていない。
それゆえに一番目立つ場所。
すなわち、モニターの水槽の前にてたっているヒカル。
水槽に映し出されている映像をみつつそんなことを話していると、エレベーターの扉が開く。
そこからでてくる白いスーツを着こんだ一人の男性。
「うん?どうした?何をひとりごといってるんだ。進藤じゃないか。今日は院生の研修日でもないだろう?」
ふとエレベーターから降りて目にはいったのは、何やら見慣れた少年が一人。
しかも何やら水槽の前で独り言をぶつぶついっている様は何とも目立つ。
「あ。えっと。研究会があるといわれて」
いきなり話しかけられて驚いたものの、相手が見慣れている人物のこともあり素直に返事を返す。
「研究会?先生はだれ?」
ヒカルの言葉に一瞬思い当たらずに首をかしげる緒方。
ヒカルに師匠がいないのは先刻承知。
かといって塔矢明以外のつながりも彼は知らない。
「あ、知らない。いやえっと知りません」
普通にタメグチをきいているのにふときづき、相手はいちおう年長者。
それゆえにあわてて口調をかえる。
最も、佐偽に対しては年長…というよりはどうも完全なる友達感覚なので丁寧口調で話す気にはさらさらならないが。
「知らないのに参加するつもりなのか。しかし、研究会、ねぇ。塔矢名人の研究会にこないか?」
ヒカルのそんな返答にあきれつつも、興味を抱いてヒカルを誘う。
幾度かアキラの家に出向いていたときにちょうど研究会まっただ中であったがゆえに来訪しており、
たまたまやってきた彼と碁をうったことがある。
そのときに彼の力量には驚かされたものである。
明君以外にも、こんな子供がいるものか…と。
「え?」
目の前の男性、緒方の台詞の意味が一瞬つかめずに間の抜けた声をだすものの、
『塔矢名人?あのもののことですよね?』
「塔矢のおじさんのこと?」
佐偽の言葉にて『名人=塔矢行洋』というのを思い出し、きょとんとした表情で問いかける。
「…おまえ、いい根性してるよな。塔矢名人をそう呼ぶのはたぶんおまえくらいだぞ?」
「でも、実際に塔矢のお父さんだし」
「…まあ、そうなんだが……」
ふつう、明君を基準にしては誰もかんがえないんだがな……
それゆえに目の前の子どもは何だかおもしろい。
おもしろいからほっとけない。
何よりも楽しいことが好きな緒方だからなおさらに。
「あ。そういやさ。研究会って何するの?対局とかするの?いや、するんですか?」
「……おまえ、知らずに参加するつもりだったのか?」
相変わらずの無恥さに思わず頭痛がしてしまう。
「…明くんはそこまでは詳しくおしえなかったのか?まあいい。
  対局もするが主に検討、かな。一局打ち終わっての検討もあるしタイトル戦などで打たれた棋譜の検討もある。
  塔矢名人の打ち方や考え方なども聞かせてもらえる」
彼がくれば今の彼の実力を図ることもできる。
彼のことをしっていたのは小学生のときの棋力。
中学生になってからの彼とは対局したことはない。
「?それってそれも塔矢もいるの?」
「ああ。お互いに刺激になるだろう?」
先生もいっていたけど、明君もこの子と碁をうつことによって磨きがかかってきているようだ。
そういっていたしな。
そんなことをおもいつつ、提案する緒方に対し、
「でも、それっていつも塔矢とやってるのとかわんないんじゃぁ?」
『ヒカル!いきましょう!あのものがうつ!あのものが検討する!いつもなぜかすれ違いばかりですしっ!』
「…おまえら、そんなことやってたのか……」
まあ、明君らしいというか何というか。
しみじみというヒカルに思わずあきれた声をだす。
彼ららしい、というか何というか。
さすが囲碁仲間、というところか。
しかし、子供なんだからもうちょっと何か別の会話とかもあるような気がものすごくしてしまう。
またそれが本来の子どもの姿なのでは?
という感も否めない。
「ん~。でもいい。今日は先約があるし」
『ええ!?ヒカル!そんなぁぁぁぁぁ!!』
ヒカルの横で騒いでいた佐偽の意見をさくっと下し、さらっといいきるヒカルに対し、
何やら盛大に文句をいっている佐偽の姿。
「まあ、先生はいつでも歓迎するとおもうぞ?それにお前、いく度か顔をだしたことあるじゃないか?」
「へ?」
「自覚なし。か。まあいい。気がむいたら明君にでもいってみるんだな。きっと喜んで誘ってくるぞ?」
どうやら塔矢邸にて幾度か明君のところにきてて顔をだしたのがあれが研究会だ、
とはわかってなかったようだな。
この様子からは間違いない。
そう判断し、おもわずくすり、とわらってしまう。
ヒカルからすれば、アキラのところに遊びにいっていてたまたま何か誰かがきていたから。
みたいな感じでとらえているのだからそれはそれで仕方ない、といえばそれまでなのだが。
何しろ検討するにしても、ヒカルたちが打った碁に対しての検討しかヒカルはやったことがない。
塔矢行洋の考えはそのとき、ヒカルはきいたことがないのだから。
そんな会話をしている最中。
ガァッ…
再びエレベーターの扉が開き、降りてくる一人の少年の姿。
「あれ?おい。進藤!」
ふとエレベーターからおりてみれば何やら白いスーツの人物と話しているヒカルの姿が目にとまる。
はっきりいってかなり目立つ。
それゆえに声をかける和谷であるが、
「あ、和谷!」
声をかけられて、和谷の姿にきづいてそちらのほうに片手をあげてかるく挨拶するヒカル。
「うん?彼は。なるほど。森下さんの研究会、か。
  しかし、君とアキラくんの公の場での戦いを楽しみにしているよ。公の大会と普通とではやはり違うからね」
ヒカルが声をかけた人物には緒方は心当たりがある。
たしか森下九段の弟子だとかいう少年のはず。
ならばおのずと誰の研究会に誘われたのかはみえてくる。
「って、お、緒方先生!?こ、こんにちわっ!」
おもわずその人物がだれかがわかり硬直してしまう。
「ふっ。若獅子戦が楽しみだ」
「そういえば塔矢から聞いたことがある。院生と若手プロが戦う大会とかって」
一応、この間のお泊りのときに基本的なことは叩き込まれた。
完全にはヒカルは覚えていないにしろ、佐偽はきちんと完全に覚えている。
碁に関すること以外はなかなか覚えられないが、佐偽もまた碁に関することならばその知識の吸収力は並みではない。
ヒカルはまだ別に必要がない、とどこかでおもっているので本気で覚える気がないだけなのだが。
「君は当然でられるんだろ?」
「もちろんっ!」
「ならたのしみにしているよ、君と塔矢君の戦いを」
きっぱりいいきるヒカルの言葉に満足し、ひらひらと手を振りながらその場をあとにして外にと出てゆく緒方の姿。
そんな緒方の姿を見送りつつ、
「おまえ、緒方先生と何はなしてたんだよ?」
しかも進藤が若獅子戦にでて当然、というような言い回し。
口調から知り合いのようにもみてとれる。
たしか、進藤って緒方先生の推薦で院生試験うけたとかきいたことはあるけど……
そんなことをおもいながらも疑問におもってヒカルにと問いかける。
「名人の研究会に誘われた」
がくっ。
「何でお前なんかをさそうんだ!?」
おもわずその言葉に脱力してしまう。
普通、あの塔矢名人の研究会など、めったというか誘われるのはかなりまれだ、というのに。
「さあ?塔矢と友達だからじゃない?」
それだけじゃないような気がするけど……
にこやかにいうヒカルのセリフに思わず頭をかかえたくなってしまうのは仕方ないであろう。
絶対に。
そんな和谷の様子に気づくことなく、
「若獅子戦かぁ。そういえば和谷も塔矢と同じくプロとしてでてくるようになるのかな?」
たしか、和谷も試験をうけていたはずである。
それゆえにしみじみいうヒカルに対し、
「おまえなぁ!塔矢が合格するのは決定事項かよっ!」
「でも和谷も合格するんだろ?」
「お…おうっ!」
さらっといわれて無理かも、とはいえない。
それは先輩としての意地。
「でも楽しみだなぁ。若獅子戦、かぁ。あいつ公式試合には中学の部活ではもうでないとかいってたし」
「おまえ、塔矢が中学の部活にでたことが奇異ってわかってないだろ……」
とっとと今日の対局を中押しで勝って退出していた塔矢明だが今日ほどよかったとおもったことはない。
この様子だとヒカルが塔矢をみつけたら一緒にいかないか?
とか誘いかねない。
そうなったときの師匠の反応が何よりも怖い。
「何で?」
「……も、いい。それより、お前、若獅子戦にでられる人数、わかってるのか?」
何とやく嫌な予感がして問いかける。
「え?院生と若手プロ、でしょ?全員でしょ?」
やはりどうやらわかってないらしい。
それゆえにおもいっきり再び溜息をひとつ。
「若獅子戦にでられるのは一組十六位まで。お前はまだ二組の上位。まあたぶん来週くらいには一組昇格だろうけど。
  五月のはじめに発表される順位が十六位までの院生と若手プロの大局だからな。若獅子戦は」
「十六位!?いつあるの!?若獅子戦って!」
『ヒカルぅ。たしか前、塔矢が五月、といっていたではないですか。でも、うう、あのものの研究会~……』
はぁ。
どうやらそこまでは記憶していないらしいヒカルにため息をつきつつも説明する佐偽であるが。
それでもやはり先ほどの緒方の提案をうけたかったらしく未だに泣き顔。
『くすん。でもあのものの研究会…いきたかったのにぃ……くすん、くすん……』
そのままその場に座り込み何やらさらに泣き始めている佐偽の姿。
こいつ、ほんっとぉぉぉに喜怒哀楽激しいよな…そこいらの子供より。
そんなことをふと思ってしまうのは仕方ない。
「おまえなぁ。もうすこし勉強しろ。とりあえずいこうぜ。六階であるんだ」
「あ。うん…ってお前、いつまでないてるんだ!?」
「?進藤?」
「あ、こっちの話」

何か何もない場所をみて進藤のやつ独り言いってるけど。
大丈夫か?
ふとそんなことを思う和谷。
それも仕方がない。
彼には佐偽の姿は視えていないのだから。
「いつまでも泣くなって。こっちも棋士の研究会なんだからさ」
『そうですね。こっちもこっちで楽しいかもしれませんね』
ヒカルの説得に今までないていたカラスが何とやら。
その言葉通りにいきなり元気を取り戻し、ぴょこっと立ちあがる佐偽。
「お。おまえって……」
それゆえにおもわずつぶやきをもらすヒカル。
ものすっごくほんとうにこいつわかりやすいよなぁ。
しみじみそんなことを思ってしまう。

進藤のやつ、何独り言いってるんだ?
和谷には佐偽の姿は当然視えない。
それゆえに首をかしげるしかない。
「お~い。進藤。いくぞ~」
「あ、は~い」
そんな会話をかわしつつも、とりあえず二人してエレベーターにと乗り込んでゆく。

カチャ。
「失礼しま~す」
「ほら、はいって」
研究会があるのは六階にとあるとある部屋の一つ。
六階にはいくつかの小部屋と、そして手合いの間がある。
そしてまた、幽玄の間、と呼ばれている場所も。
和谷に促され、そのまま部屋の中に入りかけると何やら見慣れた人物が。
『あれ?ヒカル、あの人』
「あれ?ああ!先生!?」
佐偽にいわれてそちらをみれば、なぜか以前通っていた囲碁教室の先生の姿が目にとまる。
それゆえに驚きながらもおもわず叫ぶ。
「進藤君!?き、君、何でここに?」
いきなり聞き覚えのある声をきき、そちらをみれば最近、教室にこなくなった進藤光の姿が目にとまる。
中学にはいったのだから忙しいのだろう。
そうおもっていたのだが……
その彼がどうしてここに、しかも森下先生の研究会のこの部屋にいるのだろう?
そう彼…白川が疑問を抱くのとほぼ同時。
「白川君?」
きょとん、とした声をだしてくるこの部屋の中では一番年配とおもわれる男性の姿。
「ああ、この冬、私の囲碁教室にかよってた子なんです」
しかもあの塔矢明すら連れてきたことがある、という何とも不思議な子供。
「和谷。お前がつれてくるっていってた院生ってその子か」
「はい」
先ほどの男性の言葉に素直にうなづく和谷の姿に、
「院生!?君が院生!?」
おもわずがたっと姿勢を崩して思わず叫ぶ。
「?意外なの?」
そんな彼に横にいたもう一人の年配の男性が心外そうにと声をかける。
「ああ…いや、意外…おもいっきり意外、ですね。納得するところもありますけど……
  というか進藤君、君、碁覚えてまだ約一年じゃぁ……」
たしか、初めて自分の囲碁教室にきたときは石すらもったことがなかったまるっきり初心者。
その初心者が一年たらずで院生にまで普通なれるであろうか?
いや、おそらく無理のような気がする。
ひしひしと。
それゆえに自問自答をしながらもそんなことをつぶやく白川であるが、
「お前、そ~なの?」
その言葉をきき、横にいるヒカルにと多少驚きながらも問いかける和谷。
「うん。この九月からはじめたばっかり。基礎しらなかったから白川先生の教室にかよってたの」
事実、佐偽と出会うまではヒカルは囲碁のことにはまったくもって興味を抱いていなかった。
佐偽との出会いは去年の九月の十二日。
もうすぐ今年もその日がやってくる。
「ってまていっ!?何それ!?去年の九月!?って一年たってるかたってないかじゃないかっ!」
「来週で一年たつよ?興味もったの十二日からだし」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
『そういえば、もう一年たつんですねぇ。はやいですねぇ……』
ヒカルにいわれてそろそろあの日とおなじ日付がくることに気づいてしみじみと横でいっている佐偽。
だがしかし、この場にいる誰もが驚きをかくせずにおもわず無言になってしまう。
「…石ももったことなかったのに…その君が院生?!」
そんなヒカルたちの会話に驚愕を隠しきれない白川。
「というか倉田君なみだね」
そんな会話をききつつも、感心したようにいっているもう一人の人物の姿が目にはいる。
「でも二組、なんだろ?あんまりへたっぴでもな」
たしかに、その事実には驚愕するものがある。
あるが二組…というのがどうも彼からすればまだまだ、という感がある。
「先生、こいつ八月からはいってきたんだから二組なのは仕方ないですよ」
たしかにこいつは二組だけど。
まだはいって一ヶ月目だし。
しかももう上位に食い込んでるし。
そんなことをおもいつつ、そんな年配の男性にと声をかける和谷。
どうやら、先生、とよんだことからその人物が和谷の師匠らしい、というのが何となくだがわかる。
「お前、そんなこといってなかったじゃないか」
「でしたっけ?」
それだとたしかに二組なのもうなづける。
誰しも院生生活は二組の一番下から初めてゆくのだから。
「おれ、すぐに一組になります!一組の十六位以内!でないと塔矢と若獅子戦の大会でたたかえないし!
  今度こそ大会であいつをぎゃふんといわせてやるためにもっ!あいつにみせつけてやるっ!」
そんな彼の言葉に、きっぱりとおもいっきりいいきっているヒカル。
そもそも、あの大会で勝ち逃げされたあの一局のことをまだねにもっている、というのが何ともヒカルらしい。
それ以後もアキラとは対局して勝ちを収めている…というのにも関わらず…である。
「えらいっ!妥当塔矢よくいった!ここでじっくり力をつけてその目標に万進しなさい」
ぱしっ。
そんなヒカルの言葉におもいっきりうなづき、
手にした扇を座っている足にと叩きつけそんなことをいってくる和谷の師匠らしき人物。
「は、はいっ!」
その言葉に反射的に答えるヒカル。
「確か、進藤君、君には師匠とかいなかった…よね?」
二人の会話もきになるが、それ以上にきになることがある。
それゆえに戸惑いながらもといかける白川。
それに塔矢君と仲がよかったはずだけど?
この子。
でもそれはいわないでおこう。
そんなことが森下先生の耳にはいったら機嫌をそこねかねないし。
そうおもい、それ以上の言葉はどうにか心の中にとしまいこむ。
「え、はぁ、まあ」
白川の問いかけにアイマイにうなづくヒカル。
いるにはいるが、実態のない存在を師匠、と紹介できるはずもない。
「先生こそ、妥当塔矢名人を果たしてくださいよ」
この場にいる中でけっこう若いとおもわれる男性がそんな和谷の師匠、すなわち森下九段にと声をかける。
この若い人もプロなのかな?
ヒカルはそうはおもうが、名前も何もしらないので首をかしげるのみ。
「お前なんかにいわれなくてもわかっとる」
「森下先生は塔矢名人と同期でライバル意識をもっていてね。仲がいいのか、悪いのか。
  …だから進藤君、明君のことは言わないほうが一応いいよ?」
こそっと立ち上がりつつもヒカルに聞こえるようにと耳打ちしてくる白川。
二人が家をいききするような友達になっているのは以前、塔矢明が囲碁教室にきたときに知っている。
それゆえの忠告。
『ヒカル、ヒカル。何か基面上をみてください。おもしろい布石になってます』
そんな会話をしているヒカルたちとは対照的に、
そこにひろげられている碁盤をのぞきこむようにして手まねきしていっている佐偽。
「今、検討してたんですか?」
ふとみればたしかに一つだけだされている碁盤の上には石が並んでいるのが見て取れる。
それをみてふと声をだしている和谷。
「おお。まあ、二人ともすわれ。白川君も」
「あ、はい」
とりあえず座布団をだされ碁盤の周囲にと座って盤面をみつめる。
「じゃあ、続きをやろうか」
いいつつも、
「実践だとこううたれてるんだが。うまくねえやな。どうみても悪手だよ」
何やら一手の場所を指し示し、そんなことをいっているが。
「じゃあ、どこに打つか・・・といっても、うまいてがない」
盤面をみつつもうなっている白川。
「いきなり動いても逃げるだけで相手の地を固めてしまうしな」
何やら盤面の石をみてそんな会話が繰り広げられている大人たちの会話が目にはいる。
「?」
ねえ。
佐偽、これって様子みたほうがよくない?手として。
この人達、何いってるのかな?
彼らの会話をききつつも、そんなことをふとおもう。
『ええ。ヒカルのいうとおり。私でもその局面は様子をみます。
  うちからのぞくと逆に相手のほうが追手が難しくなるのです。ヒカル、意見してみてはどうです?』
どうやらこの場にいる誰もがそのことに気づいてないようですね。
そのことに多少不満を感じつつも、気づいたヒカルを誇りにすらおもう。
だからこその佐偽の提案。
まあ、お前がいうんだったら、いってみようかな?
『ええ』
「あ、あのぉ……」
佐偽に促され、おずおずと手をあげる。
「進藤?何いう気だ?トイレか?」
そんなヒカルに気づいて和谷がそんなことをいってくるが。
「いや、そうじゃないよ。ちょっときになって」
「何だ。意見でもあるのか?いってみろ」
どうやら何かこの一局に対して意見があるらしい。
意見交換の場でもあるこの研究会。
それゆえに相手がいくら院生だろうと二組だろうと意見は意見。
「えっと。ここに。ここにうって様子をみるというのが最善かと……」
許可がでたので局面の一点。
すなわち盤面の一か所を指で指し示して戸惑いながらも意見する。
「おお。こういうねらいか」
その手にはおもいつかずにおもわずうなるしかない森下、とよばれた人物。
「なるほど。きがつかなかったな。やるなぁ、君」
たしかに。
言われればそれ以外の手はない。
いや、この局面だとそれいがいの最善の方法はないであろう。
それゆえに驚きながらも横にいる子供に目をやる。
「お前、ぱっとみただけでよくわかったなぁ」
思わず呆れるというか何というかヒカルの底力には心底驚愕してしまう。
そんなヒカルの意見に驚きつつもヒカルに対して話しかけている和谷。
「え?何となく」
これははっきりいって勘、としかいいようがない。
そもそも、どうして?
とかいう説明のしようがない分野ともいえる。
「何となく、でもわかるのがすごいよ。でもどうしてここ、とおもったんだい?」
そんなヒカルに対して、ヒカルたちよりは少し上なのであろう、はじめにいた中では一番若い人物がヒカルに問いかけてくる。
「え、え~と。うちからのぞくと逆に相手の追手が難しくなるし……」
とりあえず説明しようにもいい言葉がないので佐偽の言葉をそっくり引用させてもらう。
ヒカルの言葉にその場にいる誰も…佐偽以外の誰もが思わず目を丸くする。
いわれてみればそのとおり。
だがしかし、それに気づいていたものは誰もいなかったのもまた事実。
「ほぉう。君、二組の今、何位だね?」
おもわずうなるしかない院生のしかも初見の子どもの意見。
それゆえに気になって問いかける。
たしかこの子はさきほどもいっていたが八月から院生になったばかり、だという。
そんな子供がこの一局の最善な方法をすぐに見いだせることができるのだろうか?
「え?えっと、二組の一位です」
事実、八月の終わりにはヒカルはすでに二組の一位にまであがっている。
「先生、たぶんこいつ、来週の予定表では一組にあがってきますよ。
  今まで全局、院生になってから半目勝ちで負けなし、ですから」
ぽんっとヒカルの肩をたたきながら周りにいる人たちにと説明している和谷。
事実そのとおりなのだから仕方がない。
別に隠すことでも、どちらかといえば公にしてしまったほうが後々便利。
「ほぉう。めずらしいな。全局、半目勝ち、とは」
普通、ありえない。
いくら院生の手合い、とはいえすべてがすべてにおいて半目勝ち、だとは。
それゆえに感心した声をだす二番目に歳をとっているであろう見た目温和な感じをうける人物。
和谷の師匠だという人物は、イメージ的に豪快、という言葉がぴったりくるような人物像ではあるが。
「…進藤くん?自分にそのように枷かけてないかい?半目で勝つ、みたいな?」
あの塔矢明にすら勝ったことがあるらしい目の前の子ども。
それゆえにそうおもわずにはいられない。
「え。あ。はい。そ~してますけど。相手にあわせてうつことで勉強にもなりますし」
って佐偽がものすっごくいってたし。
とりあえず最後の言葉は呑み込んで白川の質問に答えるヒカル。
「おまえ、やっぱしかっ!」
そうじゃないか。
という憶測はながれていたが、さすがに自身に肯定されれば思わず叫ばずにはいられない。
「え、えっとさ。ほら。院生師範の篠田先生。彼がいってたんだよ。
  相手に合わせてうつのも勉強のうち、だとか何とか。
  初回、指導碁とかいうのをためしてみたら、篠田先生にたしなめられちゃってさ。
  相手に対してバレタラ失礼になりかねないから、相手の棋力にあわせてやってみれば?みたいに」
すべてが嘘ではないが事実でもない。
「なるほど。藤崎さんがいってたけど、たしか君、ネット碁をはじめていたんだったっけね?」
「あ、はい。白川先生」
「師匠がいないのに実力をつけていったのは君自身がそういった制約つけて勉学したから、だろうね。
  それにしても……」
初心者だとおもっていたのにあの局面をどこにうてばいいのか、というあのときの即答。
それにもかかわらずに初めてやってきたとはには基本のキの字すらしらなかった彼。
しかし、院生相手にそこまでできる彼の実力をあるいみすごいともおもうし、また畏怖すら感じてしまう。
「…ど~りで。篠田先生が先にプロになってもおかしくないとかいってたわけだ……
  お前、何で今年の試験、うけなかったわけ?塔矢明はうけてるのに?」
まあ、うけられれば間違いなく自分は落ちる可能性はたかくなっていたであろうが。
そんなヒカルに対し、おもわずじと目でといかえす。
「俺、しらくなてさ~。アキラのやつがプロになる、とかいってたのはきいてたけど。
  だけどふつう、考えたら就職するのって十八以上じゃん?だからまだまだ先のこと。
  大人になってからのことだ、とおもってたし。それに何より院生とか試験のこととかまったくしらなかったし」
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」
さらっというそのセリフにその場にいた誰もが思わず頭を抱えずにはいられない。
「で、中学の大会で塔矢明にまけて、院生になった、ってわけか」
そのあたりのことは何となくだがヒカルから話をきいている。
それゆえにあきれたようにとヒカルに問いかける。
「だってさ!あいつってば!インセイとかいうのにもなれないにきまってる!とか大会でいってきたんだぜ!?
  もう、はらがたつったら!だから今度こそ!公式の試合であいつをぎゃふんといわせるのが目標なんだっ!」
『あのときの読み間違いはいたかったですよねぇ…』
「普通の対局なら五分五分くらいなのにさ。ああもう、今おもいだしてもあのときの読み間違えはらがたつうっ!」
あのときの一局を思い出して何やらエキサイトしはじめているヒカルをみつつ、
「…?大会?そういえば前、あの塔矢明が中学の囲碁部の大会にでた、という話はきいたが……」
「あ、オレもききました。何でも誰かをおいかけてとかいう……」
呆然とつぶやく森下と、若い男性…冴木の言葉に、
「あ~…明君ならありえそ~ですね…しかし、君たち、似た者同士、だよね……」
明君にしろ、目の前のこの進藤君にしろ。
負けず嫌い。
というのは共通するところがあるよね。
絶対に。
そんなことをおもいながらもしみじみとつぶやく白川。
「いや、ちょっとまて。…五分五分?」
一人、ヒカルの言葉に対して別なところに重要な意味をもつのに気づき呆然といっている和谷の姿が印象深い。
普通は塔矢明が中学の大会にでた。
という話の部分のほうが衝撃が強すぎて他の言葉は見逃されがち。
だがしかし、和谷は以前、ヒカルからそのことを聞いているので別のところにも気づいたのだが。
「そういえば。塔矢明、といえば今年のプロ試験。初日休んだそうだな。
  和谷!塔矢明になんかまけるんじゃないぞ!このまま連勝でつっぱしれ!」
今日の試合にて三局目のプロ試験本線の対局がおわった。
今日の日付は九月の五日。
来週の土曜日でヒカルが碁を覚えて…というか佐偽とであってまるまる一年が経過する。
「先生。まだ三局目がおわったばかりですよ。そのプレッシャーは……」
そんな師匠の言葉に思わず呆れてつぶやく冴木。
それでなくても試験中、だというので緊張しているであろうに。
「…三局?…えっと、たしか日曜、土曜…そして…」
たしかプロ試験の手合いの日取りを思い出して思わず唸るしかないヒカル。
やはりどうかんがえてもヒカルがアキラの家に泊まりに行ったあの日。
あの日がやはり試験の初日にだったような気がしてならない。
「まあいい。せっかくきたんだ。お手並み拝見、としてみるか。おい。和谷。こいつとうったことあるのか?」
「いえ、まだないです」
「まあ、まだ二組、というのならないのもあたりまえでしょう。先生」
たしかに、同じクラスならば手合いもあるであろうが別のクラスともなれば何かきっかけがなければ打つ機会はない。
「ふむ。じゃあ手始めにこのワシとうってみるか?」
「え?」
『ヒカル!やります、やります!やりたい、やりたい、やりたぁぁぁぁぁぁぃっ!!!』
だああっ!
わかった!
わかったから!
森下の提案に間の抜けた声をだすヒカルであるが、すかさず反応した佐偽が耳元でおもいっきり叫んでくる。
「あ、じゃあ、おねがいします」
「まあ、プロと手合いするのも初めてだろ?手加減してやるよ」
「あはは…お手柔らかにおねがいします」
佐偽。
いくら何でもおもいっきりいくなよ!?
せめて相手がミスしたからとかそのような盤面にみせかけるような打ち方でっ!
佐偽の力がわかってるがゆえのヒカルの提案。
『相手の棋力にもよりますv』
「…おまえ、そのままいったら途中からかわるからな……」
『ええ!?そんなぁ!』
おもわずそんな佐偽に対してぽそっとつぶやきをもらすヒカルのセリフにおもいっきり狼狽している佐偽。
「そういえば、俺も進藤のうつところ、始めてみるな」
「私も。進藤君の対局をきちんとみたことはないですけど。
  ですけど、うちの囲碁教室にかよってきてる大人を進藤君はあっさりと中押し手前でかってたりしますからねぇ~…」
しかも碁を覚えてまもないころに。
「じゃ、はじめるか。置き石はどうする?」
「あ、はじめは互戦のほうが……」
「ほう。いうなぁ。きみ。ますますきにいった!よっし!じゃ、にぎるぞ!」
「…森下先生相手に互戦って……」
「まあ、相手の実力をしるには確かに互戦が一番だけど……」
怖いものしらず、というかなにというか。
無知ゆえに怖いもの知らずなんだろうな。
こいつってば。
おもわずそんなことをおもってしまう。
「お、わしが先番だ」
みればどうやら森下のほうが先番の黒、らしい。
「「おねがいします」」
佐偽。
たのむからとばすなよっ!そんなことしたら途中からオレ、かわるからなっ!
『わかりましたよ…』
佐偽からすれば不満であるが、だがしかし打てなくなるよりははるかにまし。
最近、対面して碁をうつのはヒカル以外とはありえなくなっているがゆえになおさらに。
パチッ。
相手は子供。
だがしかしおそらくきっとあまりあなどれないような気がする。
噂はきいたことがある。
あの塔矢名人の息子が同い年の子どもをおいかけて中学の囲碁部の大会にでたのだ、と。
しかもある筋からそのときの一局はとてもすばらしいものだったとかいう話も耳にと届いている。
棋譜が存在しているらしいが、その棋譜をまだ目にしたことはない。
かといって、自分から手にいれる、というのは塔矢門下に対して何となくだが抵抗がある。
しかも、今年あったアマチュア囲碁選手権。
あのとき、院生の子どもが彼らの相手をしたらしい。
そのときの彼らのことごとくは赤子のごとくに指導碁にて玉砕したらしい、という噂も。
聞けば、何でもあの緒方九段の知り合いの子どもだったらしい。
七月の院生試験において緒方の推薦をうけた子供がうけた。
という噂は森下の耳にもはいっている。
そして院生試験でうかったのはその子一人、だという噂も。
話しを統合してみれば、おそらくそれは目の前の子どものはずである。
だからこそ油断はできないが、実力をしってみたい、という思いもある。
上を目指すのはあるいみ確実でしかも簡単のようにみえるが、何よりも怖いのはしたからおいあげてくるもの。
上にいるものはまだ手筋などを研究する術があり対策をほどこせるが、
下からくるものには対策の講じようがない。
そもそも、基本となり棋譜ものこっていないのだから。

ごくっ。
目の前の子供は子供ではない。
対局しているからこそわかる。
しかし相手は院生になったばかりの子ども。
はじめは軽い気持ちだったというのに、ちょっとした甘い手にはすかさず切り込みしてくるこの手筋。
本当に子供か?
しかも師匠がいない?
そんなことをおもっていると、ふと途中の一手で読み間違いをしてしまう。
おわってみれば一目半の負け。
「…えっと。和谷の先生。わざとまけてくれたんですね。だってほら、ここの一手。
  普通ならここにうつだろうけど、先生はこっちにうってきたし。つまりは子供の俺に勝ちをゆずってくれたんでしょ?」
佐偽の実力を相手に知られては後々厄介。
それゆえに、相手が一か所ほどミスをしたのを見逃さずににこやかに邪気のない笑みで相手にと話しかける。
「たしかに。森下先生も優しいところがあるんですね」
「え?いや…その……」
「あはは。冴木君。あいては院生、しかもまだ子供だよ?先生だって手心しれてるよ」
ヒカルのセリフに一瞬、森下がまけたことにより驚愕していた彼らであったが、あるいみ納得し、
ほがらかに会話をしている彼ら達。
いや、先生は絶対にそんなことをするひとじゃないっ!
子供ながら彼の元で師事を仰いでいるからこそわかる。
目の前のこの師匠はそんな優しい性格はしていない。
ましてや先生も進藤の実力をみたかったはず。
ならば手加減なんてするはずがない。
一人、真実を見抜いている和谷の視線は何のその、
「進藤君、だったよね?次はオレとおねがいしてもいいかな?あ、おれは冴木。冴木光二。今は四段だよ」
「あ、はい。よろしくおねがいします」
何だかみていてわくわくする局面だった。
何よりもあの一手よりも前はほぼ互角だったのだから。
まあ先生の性格上、手加減するともおもえないけど初めての相手だしありえるかもしれないし。
そんなことをおもいつつ、ヒカルに対局を申し込んでくるこの中では一番若いとおもわれた男性。
佐偽。
お前、今の対局不満そうだなぁ。
『だって、だって、まさかあんなミスをしてくるなんて……』
どうやら佐偽にとっては相手のミスがかなりショックだったらしい。
それでなくても力を押さえて碁を打っていた…正確にいえば指示をヒカルにだしていたのに。
次もやる?
『でもそれだとヒカルがうてないでしょ?…そういえばこの中で一番強い人ってだれなんでしょう?』
「…さあ?あ、あの、すいません。皆さんってプロ棋士、なんですよね?」
確かに。
佐偽にいわれるまでこの場にいる誰がどのような実力をもっているのか、というのはヒカルは気にもとめていなかった。
「おまえな~。そういえばいってなかったっけな?こっちが俺の先生の森下先生。今は九段。
  ついでにこっちがオレの兄弟子の冴木さん。今は四段だぜ。白川先生は…えっと…」
「和谷君。私は七段だよ。こっちの王さんは五段、進藤君。しらずにきたの?」
「ええ。和谷にいってみないか?とさそわれて。研究会の概要もしらずにきてみたんです」
「こいつ、ほんと~に囲碁界のことに無知すぎなんですよ!?先生!」
『たしか、ダンとかいうのの数がおおければ強いはず…ですよね?』
そりゃ、普通そうだろ。
俺だって珠算はいちおう五段もってるけど。
たしかにヒカルは小学生にして珠算の段位を所得している。
当時はかなり騒がれたが当のほんにんがあまりすごいことだ、とはおもっていなかったので周りの熱も冷めていった。
『それなのに、あのミス…ですか?くすん。くすん。実力だしきった対局がしてみたいですぅぅ…』
お前にタメはれるやつ…いるのかなぁ?
いや、本気で。
『いないのならヒカルがぜひともきてくださいよっ!ヒカルならできますっ!』
「そのかわり、お前もさらに強くなってるだろうが……」
おもわず佐偽の突っ込みにぽそっと言葉にだして突っ込みをしてしまう。
「?進藤?」
「え?ああ。何でもない。それより、冴木さん、でしたよね?おねがいします!」
「こちらこそ。進藤君、だったよね。じゃ、始めようか。互戦、でいいよね?」
「はい!」
いぶかしる和谷をそのままに、そのまま冴木と対局を始めるヒカルの姿がしばしその場において見受けられてゆく……

「なあ。進藤?お前、どこかの門下とかに入る予定はないのか?」
帰り道。
ふと好奇心をかねて聞いてみる。
「う~ん。面倒だからいいや」
下手にプロ棋士にでもつきでもしたら、佐偽のやつが打ちたがってうるさいだろうしなぁ。
そんなことをしみじみおもう。
「それにさ。家でネット碁でいろんな人とやってるし。今のところそれで十分、かなぁ?」
「ネット碁かぁ。そういやネットでものすごく強いやつがいるの、知ってるか?」
「え?」
「そいつsaiっていうんだけどさ。ものすごくつよいんだぜ!?対局したときはぼろまけでさ~」
『?ヒカル?私、和谷とうったことがあるんですか?』
みたいだな~
まあ、お前が毎日打ってる中のうちの一人なんだろうぜ。
「もう俺が知る限り連戦連勝の敵なし!」
うん。
俺が知る限りでも敵なし。
おもわず和谷のセリフにしみじみ思いながらもうなづくヒカル。
「確かに。佐偽はつよいよなぁ。手加減されてもぼろまけ、というのはけっこうくやしいけどさ……」
思わず横にいる佐偽をじと目でにらみつつもつぶやくヒカルに対し、
『でも手加減しないと対局になりませんし~』
多少こまったようにつぶやくように答えてくる佐偽。
当然そんな佐偽に気づくこともなく、
「?何だ。お前もsaiとうったことがあるのか」
多少、以外、というような顔をしてヒカルに対してといかける和谷。
「あ。うん。いつも指導碁うってもらってるし」
嘘ではない。
嘘では。
いやというほど毎日佐偽とは対局している。
ぽっん。
ヒカルの言葉にかるく手をたたき、
「…その手があったか!ネット碁での指導碁。たしかに。あのsaiの指導碁なら…
  でもさ。あのsaiってチャットとか交わすことがないのによく指導碁なんてやってもらえるな。お前」
たしかに、あの強さならば指導碁をうってもらえれば確実であろう。
それゆえにヒカルの意見に納得せざるを得ない和谷。
あ~。
そういえば。
最近は面倒だからチャットことわりまくってるもんなぁ。
ヒカルがそんなことを思っているなどつゆしらず、
「そういえば。あのsaiが一度、おれに話しかけてきたことがあったなぁ」
ふと思い出したようにつぶやく和谷であるが。
「え?」
「強いだろ。オレって。まるで子供みたいでさぁ」
え~と…それって…
その文章というか文面にはおもいっきり覚えがある。
それゆえに、
「ゼルダ…ああ!zalda、って和谷だったんだ!オレはインセイだぞ!っていってきたやつ!」
おもわず、ぽんっと手をたたいておもわず口にだしていってしまうヒカル。
『ヒカル!?』
…あ゛。
いってしまった言葉はとりけせない。
それゆえにあわてて口を押さえるヒカルに対し、驚愕の表情を浮かべる和谷。
「お前、何で俺とsaiの会話を……まさか、お前がsaiなのか!?」
チャット画面は当人同士でなければわからない。
だからこそ驚愕せざるを得ない。
だとすればさきほどのあの森下先生との対局の手筋も納得できるかもしれない。
動揺を隠しきれずにおもわずヒカルに対してつめよる和谷。
そんな和谷に対し、こほん、と咳ばらいを一つし。
「え。え~と。和谷。勘違いするなよ?いったろ?俺も佐偽に指導碁うってもらってる。って。
  え~と。よくうってもらってるのは話があったから、なんだよ。
  ほら、おれも院生ってしらなくてさ~。何のきなしに、インセイってしってる?とかきいたら、
  相手もしらなかったらしくてさ~。それで話しがはずんでさ。それからネットで付き合いはじまってるの」
『ほ~。ヒカル、そこまでよく嘘がおもいつきますねぇ』
お前のせいだよ!おまえの!
「佐偽がうったときも、何かそんなことをいってきたやつがいたらしくてさ。知らないからきいたら怒られた、とかで。
  俺も知らなかったからのちに塔矢から聞き出したんだけどさぁ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ヒカルにとっては佐偽は佐偽なので普通にいっているが言葉からではまさか名前をいっている、とはおもわない。
相手からすればハンドルネームのsaiをいっている、としかとらえられない。
何やら唖然とするような、それでいて頭をかかえたくなるような説明がなされるがゆえに思わず無言。
「というか。俺も同じようなことをしてさ。何でかかったら相手が院生なのに!?みたいなこといってきて。
  インセイ、それ何?と相手にきいたらアイテが怒って。それでもうケンカ腰。それで話しがあってさ~」
あるいみ嘘ではないが事実でもない。
佐偽が院生をしらなかったのも事実だし、相手が怒った、というのも事実。
だが、その文章をうちこみしたのはほかならぬヒカル自身。
それがsaiとして対局していたとき、とはいっていないのでヒカルの言葉は嘘ではない。
「つまり、お前はsaiと話しをしてるわけだ?他のやつらは話してないのに?」
「え?まあ、そうなる…のかな?でも佐偽は理由があって自分では動けないらしいしさ」
事実、佐偽には肉体はない。
それゆえに公の場にでることは絶対にできない。
「ネットできる時間とかも限られてるらしいし。自由がきかないらしいし。自分でうごけないらしいし。
  でも話があうしさ~、なるべく時間があったら碁をうつようにしてるんだ。
  文章うちこむのもけっこう疲れるらしくて、もっぱら碁のみ、だけど」
事実、佐偽の言葉を素直に言葉にしてチャットに書き込むとなれば疲れるこは明白。
さらにいえばヒカルがネットができる時間は限られている。
ヒカルが行動しなければ佐偽は自分で他のものに対して干渉することすらもできない。
嘘ではないが事実でもない。
しかし、第三者として聞いている和谷は当然そんな真実をしるはずもない。
何だか話しをきいていれば、何となくsaiの像がつかめてきたようなそうでないような気もしなくもない。
話しがあった、というその内情からしてもある意味にたもの同士であるがゆえに話しがあった、ともいえなくもない。
「saiってどこの人なんだ?」
そ~いえば。
佐偽。
お前、出身としたらどこになるわけ?やっぱり京都?
『私は都のはずれに生まれましたからね。京の都が出身地、でしょうか?』
「え~と。京都?それ以外はしんない」
というか地名をきいても今と昔とではまったくことなる。
それゆえに無難な返事をだしておく。
「そう…か」
今の進藤の言葉で何となくだがsaiの正体がつかめたような気がする。
おそらく相手は入院患者か何かしら身体に不都合がある人なのであろう。
しかも出身は京都。
京都在住なのかそれはわからないが。
文章をうつのも疲れる云々、ということからほんとうにあまり体の自由がきかない人物らしい。
あれほどの碁をうてる、というのに、はっきりいってかなりもったいなさすぎる。
もしかしたら寝たきりの人なのかもしれないな。
そんなことがふと脳裏をよぎる。
ノートパソコンならば手さえうごせればどうにでもなるのだから。
『ほ~。ヒカル、よく嘘でそこまで相手をまるめこめますねぇ』
真実いっても誰も信じないってば。
塔矢のおばさんみたいに佐偽が視えるのならともかくとして。
『たしかに』
感心しまくる佐偽におもわず心の中で突っ込みをいれる。
佐偽とて自分が幽霊になっている、という自覚はもう長年この状態なのでよくわかっている。
そして周囲が自分を認識できない、ということも。
だからこそヒカルのいいたいことはわかる。
わかるが、よくもまあそこまで思いついて嘘で道筋をつけられるものと感心してしまうのは仕方ない。
「しかし。指導碁…か。よし。今度俺もお願いしてみよう」
「でもさ。最近佐偽の対局、ものすごく順番待ち、だよ?」
ネットにはいったとき、日々対局待ちの人数が増えてきている今日この頃。
佐偽もまた面白がって早打ちですべて百人切りをしているのでけっこうすかっとするにはすかっとするが。
その中にもやはり指導碁、という単語らしきものをいってくるものもみてとれる。
そういうときは佐偽に確認して了解がでればそのとおりにうってはいるが。
よもやその当人がいま、この場にいる、とは和谷は夢にもおもっていない。
「あ、そろそろ駅だ。じゃあな。和谷。今日はありがとな」
「おう。こっちこそ。まあ進藤、気がむいたらいつでも仲立ちしてやるぜ?門下生」
「あはは…ま、絶対にないとおもうよ。じゃあな~!」
歩いている最中、いつのまにか駅にとたどりついている。
帰る方向はそれぞれ逆方向。
それゆえに駅でわかれてそれぞれ帰路にとついてゆく……


                                -第31話へー

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あとがきもどき:
薫:さてさて。完全に佐偽のことを隠しとおしてる、とかでなくてネットでの知り合い~。
  という形で一応認識させておきましたのです(笑
  まあ、それだとネット友達、というのである程度納得するところがありますし。
  和谷としてもそのことを吹聴するような子でもないとおもいますしね。切実に。
  それに彼のこと、体が弱い(和谷の想像の中では)saiに負担をあまりかけたくない。
  という思いもあるでしょう。きっと。
  何しろものすごくsaiは強いのですからvかなり尊敬してるとおもうんですよねv
  真実を知った時にはおそらくものすご~~く怒りそうですけどねー。
  何でもっとはやくに?!俺だってうってもらいたかったのにぃぃ!とか(笑
  さてさて、次回から、ヒカルはとうとう一組昇格、ですv
  そ~して塔矢明のプロ試験合格~♪
  ではでは、また次回にてv

2008年8月15日(金)某日

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