まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

さてさて、今回はアニメの33話の一部をばv
塔矢明が院生試験をうけてるときに碁会所に~、という設定にしてみたりv
何はともあれ、ゆくのですよv

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星の道しるべ   ~碁会所・石心~

「え?今から碁会所に?」
とりあえず言われた場所にいったところ、今から彼らは碁会所にいくらしい。
「もう少しで俺達、プロ試験本線、だからな。しっかりと力磨かないと」
和谷、と名乗った少年が腕をぱしっと叩きながらそんなことをいってくる。
「え?二人とも、プロ試験、うけてるの?」
「おれも伊角さんも本線まですすんでるぜ?」
そういわれて改めて本当に子供でも試験ってうけられるんだ。
と改めて納得しつつ、
「そういえば、プロ試験って何人とおるの?」
塔矢もたしか予選を通ったって聞いたし。
そんなことを思いつつも二人にと問いかけるヒカル。
「おまえ、そんなこともしらないのか?」
そんな素朴な疑問を投げかけるヒカルのセリフにおもわず呆れた口調でこたえてしまう。
「まあまあ。和谷。プロ試験は年に一度。合格するのは三人のみ。
  院生だけじゃなく当然、全国から外来もくるから、その倍率はものすごく高い」
「しかも、今年はあの塔矢明がうけてるしなぁ~」
丁寧に説明してくる伊角、といっていた人物とは対象的にそんなことをつぶやく和谷。
「でもさ。塔矢はどうも守りの手に徹するところがあるからなぁ。勝負をあまりかけない、というか」
そんな和谷のセリフにしみじみと塔矢の手を思い出してそんなことをいっているヒカル。
『でも、ヒカルと打つようになってから塔矢の打ち方もだいぶかわってますしねぇ』
そりゃ、お前にあれだけコテンパにやられまくったらいやでもうち方かわるとおもうぞ?
しみじみといっている佐偽の言葉に思わずじと目で佐偽のほうをみつつも心の中で突っ込みをいれつつ、
「最も、最近のあいつの打ち方俺、知らないからどう打ち方がかわってるかはわかんないけど」
ネットでも塔矢の名前をみつけることは最近はほとんどない。
あったとしてもほとんどsaiの対局中であるがゆえにどうにもならない。
そんなヒカルのセリフに思わず顔を見合わせ、
「そういえば。お前、塔矢といく度か対局したことあるのか?囲碁部の大会以外でも?」
気になっていたがゆえに問いかける。
「え?うん。塔矢とあったのが九月の終わりごろなんだけど、それからよくうちあってたよ?
  もっとも、俺と塔矢が中学にはいってから家の行き来とかもほとんどないけど。
  あいつも忙しそうだし、まともな対局は最近では五月の終わりにあった中学の大会、くらいかなぁ?」
あの塔矢明がそんなに頻繁に手合せするものだろうか?
そんな疑問も頭をよぎるが。
まあ、確かに彼の周囲には同い年くらいの打ちてが存在していない、というのは何となくだがわかる。
「もしかして、お前も塔矢も似た環境のようなものなのかな?」
塔矢明のほうは父親が父親であるがゆえに、周囲にはプロ棋士がごろごろしていた。
それゆえに子供ながらにかなりの実力をつけていき、普通の子どもの中では浮いた存在になってしまったという話。
対して、こちらの進藤光のほうは周囲に碁をたしなむものが皆無に近く、親ですらまったく無知。
そんな中で自力で独学でありながらも棋力を養っていたであろうこの子供。
自力、ということは昔の棋譜などから学ぶしかないわけで……
周囲に同い年くらいの打ちてがまったくいなかった、という点ではよくにている。
だからこそどこか通じるものがあったのかもしれない。
それは憶測にしかすぎないが。
「まったく似てないよ?あいつ、ものすっごいあるいみおぼっちゃん育ちみたいだしさ~。
  あいつの家にとまりにいったときにお寿司が夕飯にでたんだけど、それがまたおいしいのって!
  特上寿司だっていってたけど。うちなんかいつも食べてもオール百円の回転すしですら御馳走なのに。
  あいつ、しかも回転すしいったことがない!とかいうしさぁ」
さすがにそれは、というのでヒカルが連れて行ったこともあったのだが……
当然、ヒカルのみの資金では無理なので母に無理いっていつもの御礼を兼ねて、という名目で。
「特上寿司…んなのオレでもたべたことないぞ?」
「オレも」
どうやらヒカルの言葉に二人しておもいっきり同じ思いを抱いたらしい和谷と伊角。
「まあ、ともかく。お前も暇ならつきあえよ」
「あ、うん」
どうやらこの話題は何か続けていたら互いにむなしくなるだけのような気がする。
それゆえに会話を切り上げて話を元にと戻す和谷。
「じゃ、いこっか」
そんな会話をかわしながら、三人で日本棋院をあとにしてゆく。

「進藤。お前、まじで碁会所でおっさん達とうったことないのか?」
とりあえず碁会所があるであろう場所に向かって進んでいる和谷、伊角、ヒカルの三人。
「え。あ。うん。おじさんと打つのはみたことはあるけど」
あのとき打ったのは佐偽だし。
そんな和谷の台詞に言葉を濁して返事を返す。
事実、ヒカル自身としてはうってはいない。
佐偽に指示されるままに碁をうったがゆえに、ヒカルがうった、とは言い難い。
「何だ?それ?」
そんなヒカルの台詞に思わず怪訝そうな顔をする。
二人がそんな会話をしている最中。
「石心…か。ここでいいな。ひろそうだし」
建物を見上げてそんなことをつぶやく伊角。
確かにみれば、看板に【石心】と明記されているのが見て取れる。
「じゃ、いくか」
たしかにどうやら碁会所、らしい。
でも、碁会所って大体二階にあるのかな?
ふとヒカルはそんなことを思ってしまう。
塔矢の父親が経営している碁会所もあるビルの二階に位置している。
中には地下にあったりした場所もあったにはあったが。
何となくそんなことを思ってしまうのは仕方ないのかもしれない。
そんな会話をしつつも、二階の碁会所にいくためにとエレベーターに乗り込む三人と一人。
どうやらやはり、佐偽の姿は残りの二人には視えていないらしく、まったく気に留める様子もない。
「たばこの煙は覚悟しとけよ?」
「それは問題ない。うちの父さんもものすごく吸うから」
「なら問題ないな。でもせっかく三人でいくんだからただ打つだけなら面白くないな」
「?おもしろくない?」
和谷の言葉に伊角が一瞬首をかしげる。
チッン。
ガァ。
そんな会話をかわしていると静かにエレベーターの扉が開きエレベーターから降りるヒカルたち。

がちゃ。
石心、とかかれている碁会所。
そのままビルの二階にあるその部屋にとガチャリとはいる。
「三人、かい?」
みれば大人たちばかりがたむろしている。
雰囲気も塔矢名人が経営している碁会所とはまったく異なっている。
はいってきたヒカルたち三人に声をかけてくるカウンターのむこうにいる女性。
「おばさん。俺たち、ここにいる中で一番強い人とうちたいんですけど」
そんな彼女にむかって何やらとんでもないことをいっている和谷の姿が目にとまる。
「え?!」
おもわずそのセリフをきいて短く叫んでいるヒカルとは対照的に、
「けっ。生意気な口をたたくガキは私は嫌いなんだよ」
よくいるんだよね。
勘違いしてる子供が。
そんなことをおもいつつ、相手もまた吐き捨てるようにいってくる。
が。
「口ばっかりかどうか。うってみればわかるさ。俺がうとう。不足はないとおもうぜ?」
何やら店の中から一人の男性が出てきてそんなことをいってくる。
歳のころはある程度年配者らしいがおそらく腕に自信があるのだろう。
「いいけど。三人そろうまでちょっとまってもらえますか?」
そんな彼にと何やらいっている和谷の姿が印象深い。
「?」
「?三人そろうって何だよ?」
和谷のセリフの意味はヒカルにもそして伊角にもわからずに互いに首をかしげつつも、
伊角がそんな和谷にとといかける。
「だからさ。団体戦だと考えるんだよ。そのほうがただ打つよりおもしろいじゃん。
  伊角さんが大将、俺が副将。んで進藤が三将、な」
伊角の問いかけににっと笑みをうかべていってくる和谷の言葉に目を大きく見開き、
「うわ~!何かめっちゃたのしくなってきた!」
素直な感想を述べるヒカル。
『なるほど。ヒカルが部活の大会でやったあれ、ですか』
たしかあれは、三人が同時にうち、二人かったほうのグループが勝ち、となる仕組みだったはず。
それゆえに感心しつつも佐偽もまた口元に扇をあててぽそりとつぶやく。
「だろ?まけんなよ?進藤?」
「うんっ!」
何だか中学の団体戦をおもわせる。
ついこの間のことのようなのに何だかとても遠い記憶。
「ふんっ。何勝手なことをいってるんだか」
そんな彼らに明らかに怪訝そうな声をだしている受付の女性。
と。
「団体戦か、面白そうじゃないか。私もはいろう」
「マスター」
そんな彼に続いて温和そうな男性が名乗りをあげてくる。
先ほど名乗りを上げてきた人物がマスター、と呼んだことからどうやらこの店の主らしい。
「よっし。二人そろった」
「君たちがかったら席料はサービスしてあげよう」
「「やったぁっ!」」
にこやかな笑みをうかべつつもいってくるそのセリフに思わず喜ぶヒカルと和谷。
「ちょっと!あんた!…そのかわり、あんたたちがまけたらこの店にある碁石、全部あらうんだよ!?
  もちろん!お代もきちんといただくよっ!」
何だか話しが違う方向にむかっているような気がする。
そんな伊角の杞憂は何のその。
「はい」
すごまれて素直にうなづいている和谷の姿が目にはいる。
「わしもまぜろよ。こいつらに碁石を洗わせてやる」
そんな会話をしていると、別の一人がそんなことをいって名乗り出てくる。
男性からすればちょこっと腕に覚えがある子供たちをこらしめて碁石洗いをさせてみたい。
という気持ちのほうが強いようであるが。
「やりぃ!これで三人そろった!」
最後の一人が名乗りをあげたことにより、三人そろい、和谷がガッツポーズをしているが。
「何か面白そう、な。佐偽」
『そうですねぇ。いいなぁ。私も打ちたい……』
最近はヒカル以外の相手と対面してまずうつことがない。
今日はヒカルに指導碁のソレをみせるために一局、打つにはうったが……
ヒカルのそんなつぶやきは何やら話しこんでいる和谷達の耳には届いていない。
ふとみれば、どうやら席にマスターらしき人物が案内しているようである。
そのまま、そちらのほうにあわててかけてゆくヒカルたち。

「場所はここでいいだろ?」
「曽我さん、大将やるかい?」
「そんなもん。マスターにゆずるよ」
ガタッ。
それぞれが向かい合っての対局。
三人づつ並んでの対局。
「どうした?」
「何がはじまるんだい?」
何やら面白そうなことが始まりそうである。
それゆえに他の客たちがその騒ぎをききつけて続々と周囲に集まってくる。
「じゃぁ、にぎるよ?」
「はい」
ジャラ。
石心のマスターが石を握り、先番を決める。
団体戦は大将が石をにぎり、それによって他の二人の石も決まる。
「私が先番だね」
「はい」
マスターの台詞に伊角がうなづき、横に視線をむけ、
「曽我さんが白、堂本さんが黒」
とりあえず、別の二人にと指示を出す。
「へぇ。大将のにぎりで全員の手番がきまるんだ。しらなかったなぁ。大会では個人戦しかでたことがないからな」
まあ、普通の大会は主に個人戦が主体で団体戦などがあるのはごく限られた分野。
それゆえに知らなくてもまあ不思議ではない。
曽我、と呼ばれた和谷の相手がしみじみとそんなことを呟いているそんな中。
「「「おねがいします!」」」
それぞれに碁盤を間に向き合いながらも挨拶をかわす。
そんな光景をながめつつ、
「ふん。どこかの中学校の囲碁部か。それとも一人歳がはなれているからどこかの囲碁教室の子供達だね。
  せいぜい痛い目にあうがいいわ」
呆れたように、それでいて怪訝そうにつぶやいているマスターの妻らしき女性。
パチパチパチ。
しばし、部屋の中に、彼らが碁を打ちあう音が響いてゆく。

「…くっ。まけました」

佐偽。
この人、あまり強くない?
『みたい、ですねぇ。ヒカル。今普通にうちましたよね?』
うん。
先ほどの院生生活における手合いとは違い、普通にうったヒカル。
何やら相手のほうはあまりつよくないのか中番にいく前に相手が負けを宣言してきていたりする。
さっきみたいに半目を目指してうったほうがいいのかなぁ?
『それか、このものが相手が子供、とおもってなめている、ともとらえられますけどね』
佐偽がみたかぎり、相手はどうも本気でうっているようにはあまりみえなかった。
それゆえの台詞。
ヒカルが心の中で佐偽とそんな会話をしているそんな中。
「…まけました」
「…まけました」
どうやら残りの二人の対局も終わったらしい。
どよっ。
「おお」
「マスターまで」
「プロにニ子おいて勝ったことがあるマスターまで」
何やら周囲にいた客たちからどよめきが巻き起こる。
「君たちはいったい?」
腕には自信があった。
しかもアマの段位すらをも会得している。
なのにいともあっさりと負けてしまった。
それゆえに戸惑いを隠しきれずに問いかける。
が。
「今のはかたならし。本番はこれから」
がしゃがしゃと碁石を片づけつつも、あらためてそんなことをいっている和谷。
「こ、これから?」
その言葉に一瞬、その場にいた誰もが戸惑いを隠しきれない。
「こいつがさ。碁会所で大人とうつのは初めてだっていうから。ちょっと互戦で慣れさせたんです。
  さあ、おじさんたちが二子おいて本番っ!」
にっと笑みを浮かべてさらっと言い放つ和谷の言葉に、
「に、ニ子だって!?」
さすがに動揺を隠しきれない大人たち。
「オレたちがかったら席料サービス。負けたら碁石あらいね」
にっこりと笑みを浮かべて確認のために言い切る和谷に対し、
「はじめから二子おかせて勝負するつもりだったんだ」
たしかに普通の互戦ならば大人たちが不利のはず。
それゆえに和谷に確認をこめて問いかける大将役の伊角であるが、
「あたりまえさ。オレたち、院生だぜ?」
院生にうかるもの、ましてやプロ試験をうけている自分たちにアマチュアが勝つようではブロには程遠い。
それゆえにきっぱりいいきっている和谷。
ざわっ。
「「院生!?」」
そんな彼のセリフに店の中がざわめきを増す。
彼らとて碁をたしなむもの。
ヒカルと違って院生とは何なのか、十分に承知している。
「あん!?院生だって!?」
そのセリフを離れた場所からとらえ、驚きの表情を隠しきれないカウンターの向こうに座っていた女性。
ただのどこかの少しばかり腕のたつ子供、とばかりおもっていたのに。
つまりはプロを目指している子供たち、ということ。
ならば素人、ともいえるアマチュアたちでは到底かなわない。
「ち、ちょっとまった!河合さん、きてないか!?俺には荷がかちすぎている!」
ヒカルの対局相手の堂本、と呼ばれた人物がガタンと席を立ちあがり、周囲をみわたしそんなことをいってくる。
「いやぁ、きてないな」
その言葉をうけて見回すものの、目的の人物の姿は見当たらない。
かといって、今うっている彼達よりも強い人がいる、ともおもえない。
「「「おねがいします」」」
そんな戸惑いの中、かろやかな子供三人、伊角、和谷、ヒカルの言葉が部屋の中に響き渡ってゆく……

「お前がかって、オレがかって…」
「負けました」
パチパチと打ちあいをしているそんな中。
はじめに勝ったのはヒカル。
その次に和谷。
しばらくすると伊角の相手のほうからも負けを宣言した声がきこえてくる。
「よっしゃ!伊角さんもかった!これで三勝ちだ!席料サービス!」
勝ったのをうけておもわずガタン、と席を立ちあがり、たからかにいう和谷。
と。
「あん?席料サービスだって!?何やってんだ!?こいつら!?」
何やら先ほどまではいなかったどこかの制服らしきものをきている人物が驚きの声をあげているのが目にとまる。

あの服、タクシーの運転手じゃないのかなぁ?
お仕事おわったのかな?
そんなことをヒカルは思うが、そんな彼を気に留めることもなく、
「さってと。それじゃ。今のは前章戦。三子おいて今度は本番ですから」
「え?」
さらっと何やら当たり前のようにいっている和谷の言葉をきき思わずきょとん、とした声をだすヒカル。
「和谷、まて。三子おかせるのはちょっときびしい。この人たちをなめてないか?
  この人たちの腕はしっかりしてる」
そんな彼にと伊角がたしなめるようにいっているのが見て取れる。
が。
「なめてなんかないよ。もうすぐ俺達はブロ試験本番だ。
  これをかわしていくくらいの勢いがなきゃ、合格までとどかないぜ?」
何しろ今年はあの塔矢明がいるのである。
予選結果からしてみてもすべて中押し勝ちしている塔矢明。
つまりなめてはかかれない。
おそらく彼はそのまま試験に合格するであろう。
ならば残りの合格枠はたったの二名。
だからこそ、これくらいこなせないと合格には手がとどかない。
試験が開始されるのは八月の終わり。
八月最後の日曜日から。
和谷のいいたいことはわかる。
わかるがゆえに、それ以上はいえなくなってしまう伊角。
「そんなものなんだ。よぉし!碁会所のおじさんくらいやっつけられなきゃな!」
そんな二人の思いはしるよしもなく、素直に言葉どおりに受け取り、そんなことをいっているヒカルであるが。
んなにぃ!?
「てめえ!このやろっ!なめきった口をききやがって!」
ヒカルの言葉をきき、後ろのほうでみていた一人の男性がおもいっきり前にと出てきて、
いきなりヒカルの鼻をぐいっとつまみおもいっきり引っ張ってくる。
「うにゅ!?にゅにゅっ!?」
いきなりのことでどう反応していいのかもわからないし、かといって相手は大人。
子供の力で振りほどけるようなものでもない。
声にならない声をだしているヒカルの姿が印象深い。
『こら!そこのもの!ヒカルからはなれなさいっ!』
いいつつも、佐偽が手をかけようとするが、やはりというか佐偽が触れられるのはヒカルのみ。
それゆえにおもいっきり体は相手を素透りしてしまう。
「河合さん、かわってくれ。俺よりあんたのほうがいい」
ヒカルに何やら折檻もどきのようなことをしている人物にむかい、ヒカルの対局相手が席を立ちあがる。
「へへへ。よっしゃぁ!三子でかてるようならかってみろっ!」
その言葉をうけてヒカルから手をはなし、かわりに席にと座る、河合、とよばれた男性。
「む~!!」
未だに鼻がずきずきする。
それゆえに声にならない声をあげて相手に指をつきつけ抗議の声をあげているヒカル。
「よっし!三子で本番!」
「負けたら席料だけじゃないんだぞ?碁石あらいもあるんだ。わかってるのか!?みんなっ!」
何やら自分そっちのけで勝手に話しがすすんでいっている。
忘れているかもしれないゆえに叫んでいる伊角であるが、そんな彼の言葉をまったく無視し、
「三将!まけんなよっ!」
「おうっ!」
何やらいきごんでいる和谷とヒカルの姿。
いきなりあんなことをしてきた相手に負けたくはない。
それゆえにヒカルの闘志に熱意がこもる。
絶対にまけてなるものかっ!
そんなことをおもいつつも、それぞれがそれぞれに思うところがありながら、三戦目が開始されてゆく。

「ふんっ。河合さんに三子おかせるなんてむちゃもいいとこよ」
河合はあれでもアマ七段の免状をもっている。
それゆえに吐き捨てるようにとつぶやく女性。
いくら院生とはいえアマの有段者に勝てるものはそうそういるとはおもえない。
しかも置き碁、で、である。
パチ。
パチ。
普通にうってちゃ、ダメなんだ。
三子のハンデをしょってんだ。俺は。
勝負のきっかけをつかまなきゃ!
相手に置き石を与える。
というのは相手にあらかじめかなりの量の地を与えるようなもの。
それゆえにふつうの打ち方ではまず勝てない。
だからこそ慎重に一手、一手をきちんと明確に読んでいかなくてはあとが続かない。
そんなことをおもいつつ、ひたすら盤面に集中するヒカル。
一方。
ふん。
このオレが石をおくなんてよ。何年ぶりのことだか。
相手のほうもそんなことをおもいつつも、ヒカルと対局しているのだが、ヒカルはそんなことを知る由もない。
相手の石を殺してゆくだけでは意味がない。
おそらくプロになるには圧勝するほどの力が必要となる。
それはヒカルにしろ、和谷にしろ伊角にしろ思うことはみな同じ。
『なるほど。これはよい学び場だ。上手の私ばかり打っているヒカルはここで新たな力をつけよう』
もともと、相手にたったの半目でも勝っていれば勝ちとなる。
互戦となればはじめは互角。
わずかなリードをただ守りきればいい。
だが、置き碁は相手に二十目でも三十目でも相手に地を与えているようなもの。
ならば尋常ならざる手で地を奪い取らなければ勝てない。
『つまり…荒らしがうまくなる。それは互戦で生きてくる。劣性をはねのける力となって』
それぞれの局面をながめつつも一人つぶやくようにいっている佐偽。
この緊張感がなにとも心地よい。
碁を打ちあっているときの人たちの緊張感は今も昔もかわりはない。
だからこそ余計に心地よく感じるのかもしれない。
すでにわが身がない身だからこそ…望んでしまうのかもしれない。
かつて生きていたときとおなじような感覚を……

がこっん。
「ほぉら。サービスだ」
いいつつ手渡される三本の缶ジュース。
「どうも」
代表して伊角がうけとり、それを和谷にと手渡し、和谷からヒカルへと手渡してゆく。
「ほら」
「さんきゅ」
ひんやりとした冷たさがここちよい。
「このオレが三子おいて負けるとはな。てえしたもんだ」
がははと笑いながらもヒカルの頭をぐしゃぐしゃなでる河合、と呼ばれていた男性。
「いやいや、完敗だ。君たちがブロになるのを楽しみにしてるよ。今年うけてるんだろう?」
まだ子供だというのに先がたのしみ、というもの。
それゆえに見送りがてらにそんなことをいっている石心のマスター。
「今年の試験うけるのは俺とこっちの伊角さん。こいつは試験のことしらなかったらしくて来年挑戦、ですけどね」
そんな彼の言葉に指をつきさしながらもひとまず説明している和谷であるが。
「わるかったなぁ!回りにそんなこと知ってる人一人もいなかったからしょうがないじゃんっ!」
そんな彼の言葉におもわず突っ込みをいれるヒカル。
事実、ヒカルは子供でも試験をうけれる、ということをまったくしらなかった。
そもそもはじめは院生のイの字もしらなかったのだから。
「何だ。おまえ、しらなかったのか?」
「うん。ひとからきいて、院生のことも初めてしったから」
え~と。
思わず絶句してしまう。
「ま、おめえもかわってるが、がんばれよ!そっちの二人も。今年はあの塔矢名人の息子がうけるんだろ?」
一瞬、ヒカルの即答に目をぱちくりし、互いに顔を見合わせるものの、
再びぐしゃりとヒカルたちの頭をなでて、そんなことをいってくる。
「「はいっ!!」」
励まされているのはわかる。
それゆえに二人同時に返事を返す伊角と和谷。
相手が何をいいたいのかよく理解できないが、ジュースの御礼と対局の御礼。
ついでに見送りの御礼をかねて、
「ありがとうございました」
その場にいる二人にととりあえずふかぶかと頭を下げてお礼をいっているヒカルであるが。
ヒカルは今だに【塔矢明】という存在が囲碁界にもたらしている影響をまったく知らない……

「進藤、以外と肝すわってるじゃんか」
「へへへへ」
すでに気付けば日は暮れかけている。
さすがに夏、しかも七月、ということもあり日はかなり長くなっているものの。
時刻はすでに六時を回っている状態。
それでも外はまだ明るい。
「和谷。俺と進藤が何とか勝てたからよかったけど。お前はまけてたじゃんか」
「いやぁ、あの爺ちゃん、なかなかのもんだったよ」
「負けたら碁石洗いをするハメになってたらどうすんだ!?たいへんなことになってたんだぞ!?」
そんな伊角の声は何のその、
「でもおもしろかった。ねえねえ、明日もやろうよ!」
目をきらきらさせつついっているヒカル。
「あ。俺は明日は先生の研究会があるから」
「俺も九星会だしな」
「??何それ?けんきゅうかい?きゅうせ~かい??」
「「・・・・・・・・・・・・・・」」
はぁ……
和谷と伊角の言葉にきょとん、とした声をだすヒカルに対しそれぞれ顔を見渡し互いにため息をつく。
「おまえ、研究会もしらないの?」
「だから、何?それ?」
確認をこめてといかける和谷のセリフに首をかしげつつといかける。
「そういえば、進藤って周りに碁のことを教える人がいない、とか篠田先生がいってたな……」
それにしてもまさか研究会までしらない、とはおもわなかった。
それゆえにため息つかずにはいられない。
「それにきゅ~せ~かい、って何?」
「簡単にいえば碁の塾みたいなものかな?」
「ええ!?碁の塾って院生以外にもあったの!?」
「「・・・・・・・・・・・・・」」
どうやら本当に何もしらないらしい。
「…お前、先に絶対に囲碁界の常識おぼえたほうがいいぞ……」
何やら頭がいたくなってくるような気がするのは気のせいではないような気がする。
ひしひしと。
それゆえにため息まじりにつぶやくようにいっている和谷。
「そんなこといったって。知らないんだし」
『へぇ。今の世の中にはそんないろいろ習うところがあるんですかぁ』
佐偽も知らないがゆえに彼らの言葉にしみじみと感心してしまう。
時とともにどうやら碁を習う様も風変わりしてきているらしい。
「まあ、とにかく。やるとしても明後日、かな?」
「そうなんだ。でも一人でいくのもな~…ネット碁でもしてるかな?」
「う~ん。まあ、明日誰か別な人にきいてみるのも手かもしれないぜ?
  俺のほうからもいってみるから。あれってけっこういい特訓になったしな」
あの一局で勝てるようでなければおそらくブロ試験を合格などはできはしないだろう。
そんなことをおもいつつ、ヒカルにいってくる和谷であるが、
「たぶん、奈瀬とかフクとかならいくんじゃないか?あいつらああいうのすきそうだし」
「だな。ま、とりあえずあまり遅くなってもいけないから、今日はもうかえろうぜ」
「あ、うん。今日はどうもありがと、それじゃ、またね!」
たしかに夏場はたしかに日は永いが暮れ始めればとことん早い。
それゆえにそんな会話をかわしながらも、それぞれに駅にとむかってゆく三人の姿がしばし通りにおいてみうけられてゆく。

「あ~あ。何かすっきりしないな~。…佐偽、お前百人切り、するか?」
『します、しますっ!』
家にとかえり、ご飯を食べてお風呂にもはいった。
すでに夏休みの宿題はすべて終えているので別にこれ、といって学校の勉強をすることもない。
だからといって何となく碁盤において碁をうつ気分ではなぜかない。
結局、研究会やら九星会やらの詳しいことはわからずじまい。
ネットで検索してみても、よくのどおりがいかない。
それゆえに何かこう胸の奥がもやもやしてしまう。
こういうときは、すかっと佐偽がネット碁にてことごとく中押しでかってゆくのをみるとすっきりする。
「じゃ、今日は夜までつきあうさ」
『わ~いっ!!』
いいつつも、ノートパソコンを机の上で開いて起動させる。
夏休みもあと約一か月。
九月からは二学期が始まり、やがて冬がくる。
いくら夏休み中だとはいえあまり遅くまで起きていればネットまで禁止されてしまいかねない。
それゆえに一応就寝時間はきちんと守っているヒカル。
そのあたりは彼はあるいみきちんと約束を守っているので親も別にさほどうるさくはいってこない。
いつものごとくの日課になりかけている佐偽のネット碁。
パソコンを起動させ、いつものごとくにヒカルはsaiの名前でネットの中にと入ってゆく……


「え~?何それ!?和谷たちってそんなに面白いことやったの?!」
翌日の一組の対局場。
案の定というか予想通りというか、昨日のことを話してみれば、話にくいついてきている奈瀬の姿。
「奈瀬。こいつにむちゃするなっていってやってくれ!下手したら碁石洗いをするハメになってたんだぜ!?」
伊角のいいたいことはわかる。
わかるが、たしかにそれはかなり面白そうである。
「面白そう!私もやってみたい!でも、あの進藤君ってやっぱりけっこうやるんだ。
  和谷も負けたのに勝ったのは進藤君と伊角さんだけなんでしょ?」
昨日、始めて院生として入ってきたあの新人をつれてどこにいったとおもえば何のことはない。
彼をつれて手合いが終わったのちに碁会所にいって碁をうったらしい。
しかも三人なので団体戦、の形をとって打ちあい、相手に三子までおかせて打ちあったらしい。
さらにいえば相手は段位をもっている人もいたとかいないとか。
「どうしてそんなおもしろいこと、さそってくれなかったのよっ!」
「あはは。奈瀬ならそういうとおもった。ならさ、今日はお前いってみないか?
  俺も伊角さんも今日は用事があるしさ~。たぶん、あいつはいきたがるとおもうぜ?」
あいつ、というのがだれを指し示しているのか何となくだが理解できる。
「面白そう。ねえねえ。僕も参加してもいいのかな?それって?
  で、和谷君、伊角さん、その碁会所ってどこ?」
同じようなことをするにしても、同じ場所のほうが話しを通すのも早いはず。
確かに何だかとっても面白そう。
それゆえに会話に参加しているフク、と呼ばれた少年。
「飯島もいく?」
「オレはいいよ。というかそんな子供みたいなことしてたのか?おまえら?
  わかってるのか?もうすぐプロ試験本番なんだぞ?」
それなのにどこぞの大会のようなまねをして、プロ試験に支障がでたらこいつらどうする気なんだ?
「わかってないな~。飯島さん。だから、だよ。けっこう自分を鍛えるのにもやくにたつぜ?」
「ふん。アマとうってどう鍛えるようになるんだか。ま、気休め程度にはなるだろうけどな」
「む~。和谷、飯島はほっといて。その場所、おしえて?私もやってみたいし」
「あ、僕も~」
「ま、好きにするがいいさ」
「はいはい。それでは、そろそろ時間です。それぞれ席にとついてください!」
そんな会話をしていると篠田から手合いの開始が告げられる。
その声をうけそれぞれが与えられた席にとついてゆく。

また今日も半目勝ち?
偶然…?
いやでも、まだ二日目。
そんな偶然はありえるさ。
院生としてはいってきて二日目。
今のところ二日とも噂の新人は半目勝ちで連勝している。
だが、本当に実力があるのならばもっとこう中押しなどで勝ち進むはず。
それゆえに対戦結果表に目をやるものの、気持ちを切り替えて帰りの支度を始める一人の男性。
「あ、飯島、もうかえるの?」
「ああ。宿題もあるしな。じゃあな」
伊達に高校に進学していない。
いくら夏休みで部活に所属していないとはいえ大量に宿題はだされている。
いくら高校一年生だとはいえ、彼がいっている場所は一応は進学校。
碁をやるのはいいが、勉強もきちんとしなさい。
それが彼の両親の言い分。
飯島良。
ヒカルとは三つ違いのただいま高校一年生。
今年こそは、とおもうのに、予選でたたかったあの塔矢明の強さが頭からはなれない。
それゆえか最近、普通の手合いでも負けが込んでいる。
だからこそ気持ちに余裕がもてない。
それゆえに奈瀬の誘いをあっさりと断り、そのまま帰路にとついてゆく。
「え?ほんとう!?」
そんな彼の背後のほうでは何やら甲高い子供の声が聞こえている。
声の主はというと、
「いくいく!というかまたやりたいっ!」
結果をつけにきているヒカルが和谷に奈瀬とフクが昨日の対戦をやってみたい。
といってた、というような話題をふり、何やら話しがはずんでいる。
「じゃ、決まりね。今日の対局は午前中で終わりだし」
月曜日のせいなのか今日の対局は半日のみ。
もっとも、彼らからしてみればただいま夏休み中なのでそんなことは関係ないのだが。
それはやはり大人の事情、というものもあるのだろう。
だが、そんな裏事情は子供たちにとってはどうでもいいこと――

「おや、君は昨日の。あれ?新しい子かい?」
「はじめまして。昨日の和谷達からきいてきました!何か面白そうなので」
「ほお。女の子の院生、とはこれまた珍しい。普通女の子はこんな場所にはあまりこないからねぇ」
結局のところヒカルと奈瀬、そして福井のメンバーで昨日の碁会所にむかっている彼ら達。
碁会所にはいれば、昨日の今日、ということもあり相手がヒカルを覚えており、何やら話しかけてくる。
「君も院生なのかい?」
「あ。はい。今年のプロ試験うけてます。予選で塔矢君にあたっちゃって惨敗しちゃいましたけど」
一人がどうみても小学生らしい少年に話しかけて、福井と名乗った少年がほがらかにさらっと言い放つ。
ここにくるまで、奈瀬さん、フク、と呼ぶようになっているヒカル。
どうやら院生に通っている子供たちはけっこう人あたりがいいよな。
そんなことをヒカルは思うが、全員が全員ともそうではない。
そもそも、彼らはヒカルのことを篠田師範からきいているがゆえに興味を抱いているがゆえに積極的。
だが、ヒカルはそんなことを知る由もない。
「ねえねえ。おじさん。昨日みたいにまたやってもいい?」
「いいとも」
「ちよっと!あんたっ!…まったく……」
「君たちみたいな子がよくきてくれたらうちの宣伝にもなるからねぇ」
まず院生と打てる機会などそうはない。
それゆえににこやかに対局の許可をだしてくる石心のマスター。
どうやらかなり話がわかる人物のようである。


                                -第28話へー

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あとがきもどき:
薫:さてさて、団体戦もどきの碁会所対局。
  和谷達だけでなく、奈瀬達までまきこみましたv(笑
  この碁、2メンバーで碁会所めぐりを幾度かする裏話があるのでその布石ですv(かなりまて
  次回、さくっと話をとばして、八月ラスト、にいくかな?
  何はともあれ、ではまた次回にて~♪

2008年8月12日(火)某日

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