まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

さてさて、今回、ちらっと大会さんをだしてたりv
ヒカルの知らないところで憶測が憶測を呼んでゆく布石みたいなものですv
まあ、そのあたりの裏設定はこちらの表にだす予定はたぶんほとんどない、とおもわれますけど。
しかし、佐偽がいまだに活躍してないなぁ…(自覚あり
佐偽が転生するまでに何話にいくことか・・・・・・
何はともあれいくのです。

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sai。
正体不明なネット上での打ちて。
その正体は誰もしらず、チャットで交わす会話も完結なものばかり。
それでは相手の正体をつかもうにもつかめない。
だが…今回の大会でもしかしたらかかわりがあるのかも、という人物には出会えた。
まるで赤子のようにかるくたしなめられるような、よくよくみないとわからない指導碁。
それはsaiの碁に通じるものがある。
しかし…目の前の子どもがあのsai、とは到底信じられない。
saiの打ち方は…まるで悠久なるときの流れすらかんじさせるものなのだから……

星の道しるべ   ~院生生活開始~

「うん?進藤。進藤じゃないか」
「あれ?緒方のおじ…いや、緒方さん」
おじさん、といいかけて、おもいっきりすごまれてあわてていいなおす。
「君がここにくるなんて珍しいな」
「そういう緒方さんこそ」
誘われてやってきた日本棋院。
その付属の会館において開始されている、という世界アマチュア囲碁大会。
さすがに夏休み、ということもあり平日もみにこれる、というのが結構うれしい。
おそらく土日ならば他の人々でごったがえしていたであろうが、平日ならばそうはいかない。
自由がきく人々しかこれないのだから。
「オレは今回の大会の進行役だ。そういえば院生試験、うかったんだってな?」
「あ。うん。来月から」
「明君も、ブロ試験予選、うかったぞ?」
「そうなの?本戦っていつ?一般人もみれるの?」
「試験会場は日本棋院であるが、観戦は難しい、かな?」
「そう、なんだ」
「まあ、いいさ。君が院生になるのならば、明君と戦うことも公の場でできるだろう」
「?緒方先生。その子は?」
何やら子供と話している緒方に気づいて別の進行係りのものらしき人物が声をかけてくる。
「ああ。知りあいですよ。そうだ。進藤。せっかくきたんだ。
  時間があるなら参加している人たちの相手してやれ」
「って、ええ!?」
『ヒカル!うちたい、うちたい、うちたいっ!いろんな人がいますしっ!』
佐偽がみたこともない肌の色の人もいる。
江戸時代、ましてや平安時代では絶対に見られなかった光景。
世界各国の人々がこの場には集っている。
「ん~…でも俺なんかでもいいの?俺、子供だよ?」
子供が大人の相手をするなどあまりヒカル的には考えられない。
「…お前なぁ。プロにはほとんど子供はいないぞ?」
「そなの?でもさ。院生では子供ばかりだよ?」
「…はぁ。それは、院生は十八まで、ときまってるからだ」
「へぇ。そうなんだ」
このあまりの無知ぐあいにため息つかさざるを得ない。
「お前、外国語、できるのか?」
「え?できない。だけどたぶん問題ない、かな?」
言葉は通じなくても、相手が見えている状態ではいくらでもやり用はある。
直接、相手に霊力をこめて言葉をたたきこめばいい。
それくらいの知識というか方法ならばヒカルでも可能。
最も、その方法はある程度の霊能力をもつ一部のものにしか通用しない手ではあるが。
「まあ、碁をうつのに言葉は必要はない、な。ま、とにかくゆっくりしてけ。
  あ、すいません。この子、院生なもので、手があいた人にあてがってやってもらえますか?」
「ほぉ。この子供が院生、ねぇ。わかりました。君、こっちへ。こちらの人の相手してもらえるかな?」
たしかに、せっかく日本にきてくれた所各国の人々。
楽しんでもらいたい、というのは本音である。
「え…あの…」
『ヒカルっ!!』
「は~い。えっと、お願いします」
「This child is an egg that aims at the professional in Japan。 This child does your other party」
(この子は日本のプロを目指す卵です。あなたの相手をこの子がします。)
「Oh。 It is happiness。You suitably」
(おお!それはたのしみです。よろしく君)
何やらヒカルをそっちのけで英語で会話している進行係りの一人と参加者の一人。
ヒカルには英語の意味はよくわからない。
せいぜいわかるのは、ハピネスなどの聞きなれた単語のみ。
だけど、佐偽?
相手は外国人なんだから、多少は手加減してやれよ?
『まずは相手の力をみるのに指導碁にしてみますよ』
ほ、ほどほどにしてやれよ?
にっこりと笑みを浮かべるときの佐偽はあまり手加減、というものをしないのがわかっている。
だからこそひきつりながらも佐偽にとひとまず無駄とはおもうが注意をしておく。
「えっと。じゃぁ、おねがいします」
ぺこっ。
いきなり言葉をたたきこむ、ようなことをして相手に警戒されても問題がある。
それゆえに、まずは様子をみるために、軽く頭を下げて対面の椅子にと座る。
『外国の者とうつのは初めてです』
お前は、ネット碁でさんざんうってただろ!?
にこにことしている佐偽に思わず突っ込みをいれてしまう。
だがしかし、佐偽からすれば相手がみえない状況で碁をうつのと、相手がみえるのとではかなり違う。
まあ、それはヒカルとて同じことがいえるのだが……
そんな会話が交わされているとは露知らず、ヒカルと対局することになった人物はにこやかに子供が相手をしてくれる。
というのもあり笑みを浮かべているまま。
どうであれ、若い世代が碁をたしなんでいるのをみるのはとてもうれしいものなのだから……

この手筋は……
まさか、いやでも、まさかそんな……
saiがいるかもしれない。
そうおもい、去年も探したが、今年もまたその姿を探している。
ふと目にとまったのは子供が対局している様子。
たしか日本のプロの卵、院生だ、ときいたが。
だがしかし、大人相手に隙がない。
いや、よくよくみればしかも子供はどうみても指導碁をうっている。
まるで、そう赤子をあやすかのごとくに相手は翻弄されている。
『十七の四』
パチッ。
扇で盤面を指し示しつつも打ちこむ場所を指し示す。
その通りに打ちこみしているヒカルは周囲に気づくことはない。
それほどまでにヒカルが碁をうつときには盤面、そして佐偽の言葉に集中している。
自身のみがうつときには佐偽のことすら気にとめずに没頭しかなりの集中力を指し示すのだが。
「オウッ!…トウリョゥデス~」
カタコトの日本語ながらもヒカルに負けを宣言する。
さすが日本のプロを目指している子供だけのことはある。
手も足もでない、とはまさにこのこと。
「…ありがとうございました」
佐偽。
お前、少しは手加減してやれよ~
『だって、だってだって!』
気持ちはわかるような気もするが。
それでもまだ指導碁にしているだけまし、といえるのかもしれない。
「君、次は私と手合せおねがいできるかな?」
決勝戦までまだだいぶ時間というか間がある。
そもそもこの大会は一週間ほどある大会。
それゆえに勝ち進んだものは他の対局がおわるまでしずかに待つしか方法がない。
「え?あ。はい」
わ~。
この人、きちんとした日本語、話せるんだ。
「よかった~。おじさんは日本語できるんだ。こちらこそよろしくおねがいします」
見た目はおそらくアジア系の人物だろう。
彼がだれなのかはヒカルは知らない。
幾度か彼はネットで佐偽が対戦したことがある相手だ、ということを。
「こちらこそ。互戦、でいいかな?」
「あ。はい」
やはり言葉がすんなりと通じる相手はやりやすい。
何やら相手が叫んでいてもヒカルにはまったく理解不能なのだから。


「よっし!気合いれていくぞ~!」
『ですね!』
八月にはいり、今日からヒカルの院生生活がスタートする。
ここしばらく、佐偽にはみっちりと指導碁を仕込まれた。
ネットでも幾度も対局してコツはどうにかつかめている。
確かに、佐偽のいうことも一理ある。
指導碁は自身を磨く方法でもある、というのがやってみて嫌でもわかった。
そしてまた、佐偽がどれほど力を押さえて自分と対局しているのか、ということも。
相手の力量をすべてはかり、なおかつ相手の手筋をよんで自分のものとして最善の方法で相手に気づかれないように導く。
それが指導碁の極意。
「おはよ~」
??
何だか六階のろうかにたむろしている院生達の姿が目にとまる。
「?あの?俺の顔に何かついてる?」
まさか佐偽がみえてるのかな?
『そんなふうにはみえませんけど?』
横にいる佐偽に心でといかけてみるものの、佐偽もよくわからないらしく首を横に振っている。
「あ、いや。何でもない」
??
何だか空気が多少おかしい。
「なあ、おまえ?塔矢明、しってたよな?」
「え?あ、うん」
確か前きたときに和谷とかいわれていたヒカルよりおそらくひとつか二つくらい上であろう。
その子供がヒカルに戸惑いつつも何やら問いかけてくる。
「お前、塔矢明の何なんだ?」
「何って友達。塔矢がどうかしたの?」
何かあいつのほうは一方的に佐偽をライバル視してるようだけど。
そうはおもうがそれを口にはださずに問いかける。
「少しきくけど、どういう友達なの?」
「どういう、っていわれても。あっちがうちにきたり、こっちもときどき家にいくときあるけど。同い年だし。
  あいつの家にいくのに遠いいから電車代やらバカにならないからあまりいかれないしさ~。
  あ、でも塔矢のほうは前はよく碁会所にいくついでとかいってときどききてたけど。
  最近はないよ?っていってもあいつと知り合ってまだ一年たってないけど」
そういえば、塔矢と知り合ったのが佐偽と出会ったのとほぼ同時期くらいなんだよな。
そんなことを思いながらもとりあえず聞かれたことにと答えるヒカル。
確かにヒカルは嘘をいってはいない。
まあ、塔矢明のほうは実は碁会所のほうはただ言葉のはずみでそういっているだけにすぎないのだが。
「おない歳。って。でも君、塔矢君とは学校ちがうんだよね?」
別の少年がヒカルに何やらそんなことをきいてくるが。
「え。あ。うん。前、塔矢のお父さんが経営してるとかいう碁会所であってさ。それからかな?友達付き合いはじまったの」
嘘ではない。
嘘では。
「俺、そのとき初めて碁会所とかいうのにはいってさ~。対局したことがなかったからしてみようかな?とおもって」
事実は佐偽にせっつかれて、ではあったが。
「そのときに塔矢がその碁会所にいたんだ。知らない?ほら。あそこの駅前にとある碁会所。
  子どもいないかな?とおもってみたら塔矢がいてさ。それで一局うったんだけど。
  もう、時間かかりまくってつかれてへとへとになったなぁ。あのときは」
知識もほとんどないままに、佐偽にいわれるままに打っていったあのときはかなり疲れたのは事実。
「ああ。あの碁会所、か」
「そういえば、あそこの碁会所は塔矢名人が経営している碁会所とかいう話だったな」
何やらそんな会話をしている院生らしき子供たち。
「?それがどうかしたの?あ、そういば。挨拶してなかったっけ?えっと。
  今日からお世話になる進藤光です。よろしくおねがいしますっ!えっと、そっちは…?」
とりあえず、はじかれたように挨拶していないのに気づいてあわてて頭を下げる。
こういったときの挨拶をきちんとしなければあとで佐偽にネチネチと説教をうけてしまう。
そのことだけはヒカルは身にしみてよくよく理解している。
「え?あ。ああ。よろしく。オレは和谷。和谷義高。こっちが伊角さん。で、こっちがフクこと福井雄太」
「それで、私が奈瀬明日美よ。よろしくね」
ひょっこりとそんな三人の横から顔をのぞかせていってくる少女が一人。
「あ。えっと。よろしくお願いします。えっと…あの?それで、すいません。俺、どこにいけばいいんです?」
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」
確かに日本棋院にやってきたはいいものの、六階にいく、というのもわかってはいるものの。
どこにいけばいいのかがよく未だに理解できていないヒカル。
「…院生案内、よんでないの?」
「読んでもよく意味がわかんなくて……」
事実、一組だの二組だの書かれていても、内容をしらないヒカルはまったく意味がわからない。
そのセリフに思わず顔を見合わせるその場にいた四人。
確か、篠田先生がこの子には師となる碁の世界に詳しい人が周囲に存在しない、とかいっていた。
普通、院生になるには周囲の大人のだれかが詳しくて、大人のほうが率先して躍起になる。
「何か二組の二十五番、とかかかれてたけど。あと今日の対局相手の紙がはいってたけど。
  どこにいってうつようになるの?」
「……おまえ、そんなんでよく院生になろう、とおもったなぁ~……」
本気でいっているのに気づいておもわず呆れた声をだす。
「あ。私が案内してあげるわ。えっと。進藤君、だったわよね?」
「あ、はい。えっと……」
「奈瀬よ。奈瀬明日美。進藤君は確か今中学一年だっけ?」
「あ、はい」
「私は三年よ。そこの和谷が中学二年。福井は小学五年。それで、そこの伊角君が一番年長の高校二年生の十七歳」
『えっと?つまり??』
佐偽には高校とかいわれてもいまいちピンとこない。
「へぇ。いろんな年齢の人がいるんだ~」
「君、そんなことも知らないで院生試験、うけたの?」
「うん。ある人からプロ試験うけるには院生試験うけたほうがいいとかいわれてさ。
  …ぜったいっ!!に!塔矢のやつをみかえしてやるぅぅっ!!」
え~と……
いったい全体、この子とあの塔矢明の関係って?
何やら意気込みは認める。
認めるが…それが囲碁に関してのことなのかはわからない。
「…もしかして、たんなる喧嘩の延長だったりして……」
「…かもな…」
そんなヒカルの様子にぼそぽそとそんな会話をしている和谷と伊角。
「と、とにかく。こっちよ。二組の対戦場となる部屋はこっち。
  私たちは一組だから、こっちのフスマを挟んでの部屋になるけどね。
  普通の対局日はこのフスマでそれぞれ仕切られてるのよ」
「へ~。それで、一組とか二組って?」
「……あとから篠田先生にしっかりとおしえてもらったほうがいいわよ。君……」
どうやらほとんど何も知らない状態らしい。
それゆえにため息つかざるを得ない明日美。
『ヒカルの学年とかというのと同じように組み分けされてるのですかね?』
さあ?
人数多いいからそうなのかな?
そんなことを佐偽もヒカルも思うが事実はそうではない。
一組、二組、というのはあくまでも実力準。
だがしかし、今のヒカルたちはそんなことを知る由もない……
「とりあえず。はい。君の対局場は今日からここね。勝ちあがってきたら私たち一組にくるようになるとおもうけど。
  ちなみに、対局してかったほうがここにインカンを押すようになるんだけど。ほら、みて」
言われてのぞいてみれば何やら黒い●と赤い○の印が押されている紙が机の上にと置かれている。
「ここに君の名前があるでしょう?」
確かに、いわれてみればそこに新しくヒカルの名前が書き込まれている。
「ここに対局結果を示していくの。まあ初日だし、詳しくは篠田先生が教えてくれるとおもうわよ?
  君の院生試験をやった先生。おぼえてる?」
「え、あ、はい」
「あの人が篠田先生。院生の指導員をしている先生なのよ」
「へ~…あ、詳しくありがとうございました」
「いいのよ。じゃ、がんばってね」
この子供がどんな碁をうつのかは大変に興味がある。
あるが自分たちの対局もあるがゆえにあまりかまってはいられない。
ヒカルに簡単に説明しおえて、フスマの向こうに立ち去るそんな明日美の姿を見送りつつ、
「えっと…あの~?とりあえず、今日からよろしくおねがいします!
  それで、ここにかかれてる、今日の俺の対局相手ってだれですか~?」
対局相手が書かれている紙には苗字しか書かれていない。
それゆえに誰が相手なのかヒカルにはまったくもって皆目不明。
今日から新しい院生仲間が入ることは一組の生徒も二組の生徒も知っている。
しかも、その試験というのがあの緒方プロの推薦だった、ということも。
誰がいったのか、その子供はあの塔矢明がライバルと認めている子供らしい。
という噂までもが一人歩きしているこの現状。
実際にそれは噂でなくて真実を指し示しているのだが。
だが、ヒカルはそんな噂がたっていることなどまったく知らない。
ただわかるのは、部屋の空気が何やら重い、ということ。
……あとで空気の浄化…してみよっかなぁ?
気休めだけど。
何だか空気がどんよりと思い。
何かあまりよくない気がたまっているかのごとくに。
もっとも、いきなりそんなことをすれば奇異の目で見られることは明らか。
それゆえに人目のないところでやるからにはやらなければならないであろう。

何だ。
噂に戸惑っていたけど、この子、そんなにたいしたことない?
何やらかなり打ちやすく打ってきているようなきもしなくもないが、うまくすれば勝てるかも。
そんなことすら思ってしまう。
相手に対してかまえているせいで、相手がわざとそのようにしていることに対局者である少女は気づいていない。
相手のほうは盤面に一局集中しており周囲のざわめきはまったく耳にはいっていないらしい。
「ありがとうございました」
「ありがとうございました」
終局してみれば相手の半目勝ち。
もっとこう大差を開かれて終局するかとおもったというのに。
「おや。対局おわったのかい?」
「あ。はい。先生」
『ヒカル。ここの場合はここをこうしたほうが相手がこうきましたので、この手をこう、でしたね』
「…う~ん……」
対局がおわり、しばし佐偽に今の一局の検討をかねて注意をされる。
確かに佐偽のいうとおり、ああしたほうがよかったかな?
「ここをこうして、こう、ならダメかな?」
『それだと相手がこちらにうってきますので、導くことには問題ありますね。こちらが有利になりまくりですし』
ふとみれば、相手は一人でどうやら今の一局の検討をしているらしい。
「進藤君。だったよね」
「あ、はい」
……この局面は……
実力があるからこそわかる。
相手が何を目指してこの一局をうったのか。
「君は今日がはじめて、だったよね?」
「はい」
「じゃあ、対局がおわったときの動作をおしえるから、ついておいで」
「あ、はい。どうもりあがとうございました」
とりあえず対戦していた相手にぺこりと頭を下げて一組、二組の合同の対戦表がある場所にと一緒に移動してゆくヒカルたち。
とりあえず他の子たちの迷惑にならないように一度部屋の外からでて回りこむ形となる。
「進藤君、だったよね?あの子はきづかなかったようだけど。
  やるならもう少し上手にやらないと、相手の機嫌をそこねるよ?」
「……え?」
ぎくっ。
『おや。このものは気づいたようですねぇ。まあ、今のヒカルの一局はたしかにあからさま、でしたし』
一瞬固まるヒカルとは対照的ににこやかにそんなことをいっている佐偽。
確かにみるものがみれば、完全にヒカルが指導碁をうっている、というのは一目瞭然。
「まあ、たしかに。指導碁は自分を鍛えるためにも結構有効、ではあるけどねぇ。
  でも相手が気づいたとき、相手はかなりショックをうけるよ?相手の実力にあわせて打つ、というのは知らないの?」
「実力にあわせて?そんなことができるの?」
『確かに。相手の棋力を判断し、打ち方を変えることは可能ですよ?』
「…そういえば、君はほとんどネット碁しかやったことがないんだったっけね?それだと知らないのも無理ない、か。
  まあ、まだ始まったばかりだし。でも、先に一組に上がって試してみたほうが自分の力にはなるよ?」
「そういえば。一組とか二組とか、おれ、よくわかんないんですけど?」
「…う~ん、まあ、しばらくゆっくりと練習がてらにやってみたらいいかもね。
  君が本気になったら他の子が気力低下、にもなりかねないし」
『確かに。対局相手の顔がみえてるのですし。ヒカル、練習がてらにやってみますか?』
「できるかなぁ?…でもこう、何というか。普通にうってたら何か手ごたえ感じなかったのなんででしょう?」
「…君、無自覚すぎ」
はあ。
思わずため息をついてしまう。
プロである自分にすら勝てる実力をもっている彼が院生、しかもまだ二組の子を手ごたえなく感じてしまうのは仕方がない。
「ま、この話はここまで。今の話はオフレコ、ね。他の子にはいわないように。
  ここの対戦表に、このように勝ったひとが、しるしをつけていって…結果をこう、いい?」
赤い○をつけて、そこに半、とかきこむ。
「その横に△のしるしをつけるのを忘れないで。こっちのように」
「は、はい」
「このまま続けて対戦があるから。ま、あまり難しく考えないようにね」
「は~い」
「平均、一日数局ほどうつようになるから。それから検討にはいったりもするけどね」
検討~?
いやっていうほど佐偽にされてるけど?俺?
『これからもみっちりと検討は必要ですねvヒカル、ヒカル。次からやってみましょうか?
  まずは私が手本をみせましょうか?』
あ、たのむわ。
相手の力量にあわせて打つなど今までやったことがない。
見本をみてれば何となく理解することも可能。
「対局で勝ち進んでいけば一組に昇格。でも負けたりしたらまた二組に。ここはそういう形をとっているからね。
  ちなみに、一組の上位数名がプロ試験をうけるとき無料でうけられるよ。
  君はプロ試験の概要もまったくしらないのかい?」
「まったくしりません」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
即答するようなことかなぁ?
きっぱりいいきるヒカルにおもいっきり溜息をついてしまうのは仕方がない。
「…おいおい、教えてあげるよ。さ、次の対局相手が待ってるからね。さ、いこうか」
とりあえず簡単に説明をうけて初戦の結果を対戦表にと書き込み、再び部屋にと戻ってゆく。

「この格好だと目がない、でしょ?これでこっちを狙える」
「…あ……」
しかし、相手の実力にあわせて打つ、ってこうなのかぁ。
つくづく佐偽の力に感嘆してしまう。
対局がおわり、検討がはじっている今の状況。
しかし、この子…さっきいったばかりで挑戦してすぐに成し遂げられるとは。
驚異の逸材…だな。
そんなことをおもうが相手の子どもに気づかれてはおおごと。
それゆえに内心の驚愕を押し殺し、二人の一局の検討を始めている篠田。
指導碁にしつつも、相手のレベルにあわせてうってゆく。
これは確かにかなり高度な技というかさらに細かく予測してかないと無理だなぁ。
局面をみつつもつくづくそんなことを思うヒカル。
ふと気付けばなぜか周囲に人だかりができている。
「…なあ、どうおもう?」
「…おそるるに足らず…ともとれるし、そうではない、ともとれるし……」
先ほどヒカルに話しかけてきた二人の少年がこそこそとそんな会話をしているのが聞こえてくる。
「初日で緊張してる、ということもあるかもしれないよ?」
「…もしくは。相手の棋力にあわせて打っている、ともとれる」
事実、その通りなのだが。
一局、二局につづいて半目勝ち。
実力があるのならば中押しで勝ち進むはずである。
それゆえに評価が正確に下せない。
「さて。検討はここまでにして。そろそろお昼、だね」
みればすでに時刻は十二時を過ぎている。
ゆっくりと立ちあがる篠田につられ、
「あ、先生。近くにコンビニ、どこかにあります?」
「あ、先生。オレたちもコンビニにいきますから、案内しますよ」
「そうかい?和谷君、伊角君、じゃあ、おねがいしようかね?」
ふと立ちあがる篠田にと問いかけるヒカルの言葉にこたえるかのように、何やら会話をしていた二人の内の一人。
和谷、となのっていた少年がそんなことをいってくる。
「ほんと!?サンキュー!」
「じゃ、遅くなるから、いこっか」
「うん。あ、どうもありがとうございました」
とりあえず局面を片づけて相手に挨拶し二人についてあわてて外にとでてゆくヒカルの姿。

「そういえばさ。お前、囲碁部の大会で塔矢明と打ったんだろ?」
「え?あ、うん」
「何で塔矢明ほどのやつが三将ででてきたんだ?」
「俺がしるかよ。あいつ、変なところで頑固だしさ~。いいだしたらきかないところあるし」
歳が一つしか離れていない。
というのもあり何かとてもこの和谷、という少年には親しみを覚えてしまう。
コンビニにつれられて買い物にいったその帰り道。
そんな会話をしているヒカル、和谷、伊角の三人。
「アカリのやつは塔矢を俺みたいなガサツにするな!とかいってくるし。
  でも、あいつの地もにたりよったり、だとおもうけど。親の前ではかなりいい子にしてるみたいだけど」
何しろ口調そのものが違っている。
「いいこ?」
「うん。あいつ、俺達といるときにはいつも俺のことを呼び捨てだけどさ。
  塔矢のお母さんの明子さんの前ではいつも君、づけなんだぜ?今はなれたけど。
  はじめのうちは目がテンになったし」
「「・・・・・・・・・・」」
そんなヒカルの言葉に思わず顔を見合わせる和谷と伊角。
つまり、それはヒカルにだいぶ気をゆるしている証しではないのだろうか。
「アカリ?って?」
「あ、俺の近所にすんでる幼馴染の子」
「そういえば、塔矢、プロ試験予選受かったとか緒方のおじさん…もとい緒方さんいってたなぁ」
ふと思い出したようにつぶやきながら、
「ねえねえ。よくまだわかんないんだけどさ。プロ試験って年齢制限、上位はあっても下位はないの?
  大会で高ぴしゃてきに塔矢にいわれてさ~。俺的にはそんなプロとかなんて十八以上だとおもってたし」
そもそも、一般的に働きだすのはほとんどその年齢である。
中にはまだ早いうちから働く人もいるにはいるが。
「あいつがいずれプロになる、とかいってたのも、大人になってからのこと。とかおもってたし」
しみじみとつぶやくヒカルの姿に、初日の塔矢明の姿が思い浮かぶ。
彼は追ってくるだろうか。進藤…
そう小さくつぶやいた塔矢明。
「そういえば。君はどうして院生になろうとかおもったの?」
「あいつのせいっ!あいつの!
  勝ち逃げしたままで、しかも自分はプロになるから公の場で打たないとかいいだしてさ!
  しかも、プロになってさらに高みに一気にのぼっていくから俺には追いつけないみたいなこといってきて。
  ああもう!思い出しても腹がたつっ!だから俺、あいつを今度こそギャフン!といわせてやるんだっ!」
「「…え~と……」」
何だか子供の喧嘩のような気がするのは気のせいだろうか?
それゆえに互いに顔を見合わせる。
「それにさ。あいつ、何ていったとおもう?対面しての対局が少ない俺が勝てるはずがない。
  みたいなことまでいってきてさ!そりゃ、俺が対局したことある人って数える人しかいないけど」
「…篠田先生がいってたのってまじ?」
「え~と?ちなみに何人くらいと対面して対局したことあるんだ?」
「え~と、たぶん十人いってない…あ、大会の局面いれたらどうにか十人いくかな?」
たしかにネット碁が基本で師匠もいない。
とは聞いてはいたが。
しかし、たったの十人…というのは驚愕に値する。
「そうしたらさ。海王の人が院生になれば対局とかもできる、っていってさ。それでなろうとおもって。
  母さん説得するのに大変だったんだよ?母さんはそんな大金払ってまでそんな塾にいく必要ない、といってくるし」
「「・・・・・・・・・・・・・・」」
つまり、それは親はまったく熱心でない、ということを指し示している。
「塔矢明、か。そうだ。君、対局がない、っていってたけど。碁会所とかには?」
「いったことはあるけど人のをみてたりとか。あとは塔矢とうったことがあるだけ?」
つまり、それは大人にもまれたことがない、ということ。
「塔矢…ああ!あいつはさっさと予選通過しやがってさ!そうだ。伊角さん。
  今度、碁会所でうちません?こいついれて団体戦にいれて」
「…って、ええ!?」
なぜかいきなり話題を振られて思わず戸惑いの声をあげるヒカル。
「確かに。大人にもまれたことがない、というのは気にはなる、よな」
「石をおかせて圧勝するくらいでないとプロ試験本線に通らないとおもうし」
「??」
「たしかに。今度の試験には塔矢明もでてるからな。…よし。やるか」
「あ、あのぉ?」
どうやらヒカルの意見はまったく無視し、そんな会話が成し遂げられている。
「じゃあ、いつにする?」
「そうだな。手合いがおわってからにしようか?君、何か用事とかあるの?」
ふるふるふる。
用事、というか家にもどってもおそらく勉強がまっているのみ。
それゆえにふるふると頭を横にふる。
「よっし!じゃぁ、今日からやるかっ!」
「あ、あのぉ?もしもし?えっと、和谷?伊角さん?」
歳が近いこともあり、一人は呼び捨て、一人はきちんと敬称をつけて戸惑いながらも問いかける。
「今日の手合いがおわったらまってろな」
「は、はぁ」
よくわからないが、何となく断れる雰囲気ではなさそうである。
会話をしつつもすでに棋院にはもどっており、それぞれにお昼を食べつつ話をしているこの三人。
「あ。そろそろ午後の部がはじまる」
「今日は午後から一局うったら終わりだから、あとからな」
「は、はぁ~……」
『ヒカル?彼らはいったい何をしようとしてるのでしょうか?』
「わかんない…とりあえず、今のうちに……」
二人がこの場をたちのき、周囲には誰もいない。
未だに空気が何だか淀んでいるような気がする。
それゆえに精神を集中し霊力を高めて空気の浄化を試みる。
視える人がみればヒカルの体から淡い光がたちのぼり、ゆっくりと全体に円を描くように広がってゆく様が見て取れる。
『ヒカルって、陰陽師の素質、ありますよねぇ』
「幽霊のお前にいわれたくないよ」
『あはは。たしかにそうかもしれませんね』
ヒカルがこのように【チカラ】を示す場が今までになかったので改めて感心する佐偽であるが。
そのつぶやきにぴしゃり、とつっこみをいれられて思わず納得してしまう佐偽。
「わらってどうするよ…よっし。じゃ、いくかっ!」
『ヒカル。次はどうします?まだ私が手本みせましょうか?』
「う~ん、ダメもとでやってみる。次は佐偽、おれが打とうとする場所をいうから、おかしかったら指摘して?」
『わかりました』
そんな会話をかわしつつ、二人して対局場にと戻ってゆく二人の姿。

「なあ。あいつって噂ほど強くないんじゃないのか?」
「でも。塔矢明のライバルとかいう噂だぜ?」
こそこそとしたそんな会話が聞こえてくる。
結局のところ午後からの一局もヒカルの半目勝ち。
どちらにしても先手にしろ遅手にしろ一目も差はない、ということ。
よもやまさかわざと半目で勝てるように打っている、などと一体誰が想像するであろう。
「え~と。これをこうおして…と」
ポッン。
きゅっきゅっ。
とりあえず対局表に今日の結果を書き込んでゆく。
『ヒカル。これからずっと半目を目安、ですよ?』
「ものすっげぇつかれるんだけど……」
意識して半目のみで勝とうとおもえばかなり精神も気力もつかう。
それゆえに何だかいつもよりどっと疲れが出ているような感じがするのはおそらく気のせいではないだろう。
「何か変な噂が一人歩きしてるみたいだな~」
とりあえず、一応は歴史があるせいか、ところかしこに浮遊霊らしき姿も目に入る。
まあ害はなさそうなので完全に無視を決め込んでいるヒカルなのだが。
どうやら憶測するにあたり、自分に関する噂が一人歩きしているらしい。
まあ、別にそれはそれで下手に口をだせばひどいことになるかもしれないので噂が終息するまでおくとして。
「とりあえず、今日の対局はこれで終わり、か」
その日、その日に対局表は渡されるらしく、掲示板に手合いの日の日程がのっている。
どうやら八月はほぼ毎日のように手合いがあるらしい。
おそらくそれは、年齢からそのように手合いの日を組んでいるのであろう。
基本、院生生活は十八まで。
すなわち、学校に通っている子供の期間のみ。
つまりは七月、八月は夏休みでもあるがゆえに毎日時間を気にすることなく対局が組める。
それにあわせてなのか、プロ試験予選もまた七月に行われ、八月に本戦が行われる。
基本、その試験でうかったものは次の年の四月から本格的にプロとして活動を開始することになる。
最も、ヒカルはそこまで未だに詳しくしらない。
『ヒカル。そういえば何か約束があったんじゃなかったですっけ?』
「あ。そういえば、和谷とかいってた子が何かいってたな。いってみるか」
どうやら帰りはバラバラで帰ってもいいらしい。
すでに片づけおわっているがゆえにそのまま対局場をあとにしてゆく。


「半目勝ち…ね」
思わず対戦表をみてつぶやいてしまう。
未だに数名の院生の姿はみえているが、別に自分が対局表の結果をみていても不思議には思われない。
三局ともすべて半目勝ち。
まるで、そう自身に半目で勝つように目標を定めてうっているかのようにしか見えない。
自分自身が中押しでほぼ負けたりしなければそんなことを思わなかったであろう。
はじめから本気であの子と対局してみればどんな結果になるかがつかめない。
しかも、どうやら自分自身に目標をきめて打っていることからおそらく、彼はこの院生生活でさらに力をつけるはず。
たしかに、自力で師匠もいずに力を伸ばしているだけのことはある。
自分で目標や設定をきめてそれにとにかくむかってひたすらに精進する。
言われるままにやるのと、自身で目標を定められるほどの知能があるのと。
その差は成長具合にも影響してくる。
最も、彼はヒカルにとんでもない師匠ともいえる存在が憑いている、ということを知らない。
だからこそそんなことを思ってしまう。
「今年は塔矢君、来年はたぶん、この子がくる…囲碁界も面白くなりそうだな」
問題は、彼が対面しての対局になれていない、ということ。
ここにてある程度の対局はこなせるだろうが、ブロの世界はほとんど大人ばかり。
それがどうしてもネックになってくる。
「…さて、どうなることかな?」
おそらく、彼も今年のプロ試験をうけていればおもしろかっただろうにな。
そんなことをおもいつつも、対戦表の前をあとにしてゆく篠田の姿がしばしその場において見受けられてゆく。


                                -第27話へー

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あとがきもどき:
薫:さてさて、原作では負けまくってましたけど。
  この話ではヒカルは知らないままに棋力かぁぁなり養われてたりしますので(笑
  あしからず♪
  ではでは、また次回にてv

2008年8月11日(月)某日

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