まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

さてさて、今回は、ほとんど塔矢明のサイド側(笑
ヒカル視点のみにしようか、ともおもったけど、やっぱりここはおさえとかないとv(まて
あ、ちなみに、あとがきのほうに別の二次もどきさんの小話がありますので、あしからず~
(でもそちらもヒカ碁の二次さん、でも連載中のこれともあれとも異なるやつの)
そ~いえば、原作では大会…六月だったなぁ。
ま、五月にしたけど、ドンマイv(笑
どうせ五月のラストにする予定だし、あまり変わり映えはなしv
ということで何はともあれ、ゆくのですv

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星の道しるべ   ~海王中囲碁部~

ざわざわざわ。
いくら校長がいったとはいえ動揺は隠しきれない。
そもそも、プロに匹敵するという実力の持ち主にはいってこられたら自分たちの立つ瀬がない。
だがしかし、院生でもない彼を引き留める手段は持ち合わせてはいないのも事実。
「なるほど。君の実力はよくわかった。…君が囲碁部にはいったのは彼のためか?
  葉瀬中の進藤光。去年、中学の大会に小学生なのにでてきたあの子が囲碁部に入った、と噂できいたが」
一応、なぜ彼が囲碁部に入ることにしたのか自分なりに調べてみた。
行き着いた先は、去年のあの子供に関係がある、ということが判明した。
それゆえに問いかける。
「すいません。尹先生。たしかに、その通りです。彼は無自覚なんです。だからこそ僕は許せない。
  あのままでは彼はそのまま才能を埋もれさせてしまう」
しかも、彼には師事しているプロ棋士もいない。
せっかくの才能をあのまま埋もれさせてしまうのは絶対にもったいない。
「これはかけです。この春先の大会。一度でいい。
  僕は海王の囲碁部員として大会に参加して彼と対局したいんです。
  プロ試験を受けるにあたって自分自身にもケジメをつけるために」
調べてみれば、彼はあののち、よくあの進藤光と碁を打ちあう仲になっているらしい。
しかもあの子供には師匠といえる存在も皆無。
それを知ったときにはかなり驚きもしたが。
「つまり、君は彼をひきあげる起爆剤になろう、というわけか。…確かに。あの子に勝てるのは君くらいだろうな」
あの局面をすらすらとなしえることができる子供である。
あれから半年ばかり。
どれだけ成長しているかすらわからない。
師匠がいないことによって成長していないのか、それとも自力のみで成長を遂げているのか……
「彼はこのたびの大会に三将としてでてくる、と聞きました。先生、僕は三将になれるでしょうか?」
「…まあ、考えてはおくよ。だけど、本当に一度っきりでいいのかい?」
「はい。彼にはずるずるとひっぱるよりも、いきなりいいきったほうがはるかに効率的ですから」
そのセリフで何となく彼が描いている構成がつかめる、というもの。
「まあ、あの子には師匠がいない、というのはきいたことはあるが……
  まさかとはおもうが、大人になってからでないとあの子はプロになれない、とおもっている口なのかい?」
「たぶん……一緒にいるときもそんな話題にならないので僕の口からもまだいってませんし」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
パチパチと打ちあいつつもすでに局面は中押しであっさりと負けの局面。
少し困ったように、どこか呆らめきったような表情をうかべるアキラに戸惑いを隠しきれない尹。
海王中学、囲碁部の顧問教師である尹。
去年の秋口に行われた中学大会において、ヒカルが…この場合は佐偽が、なのだが。
とにかく彼が作り上げた局面を唯一、記憶にとどめている人物でもある。
それゆえに、アキラがいいたいことを察して思わずため息をついてしまう。
「よくわかった。君の決意のほども、ね。…三年生には私のほうから話しておこう」
「・・・すいません。わがままをいいまして」
「いや。いいよ。それにわが囲碁部出身者からプロ棋士がでた、と一応なるわけだし、拍がつくしね」
おそらく彼は今年のプロ試験をうければ間違いなくトップ合格するであろう。
それがわかっているがゆえの尹のセリフ。
だが、他の部員たちはそんな事情をしるはずもない。
また、あまりいい印象は受けないであろう。
囲碁部にはいったのが、たった一人の少年のため…という事実がそこにあればなおさらに。
「さて。君の実力はよくわかった。ここはレベルに合わせたリーグ戦が中心だが。
  棋譜並べや詰め碁をするものもいる。火曜、木曜に私の講座がある。
  金曜日には皆で話し合う、次の一手。参加する、しないは君の自由にしてもいい。
  リーグ戦に入るのならAクラスだが、それとて君の好きにしてもいい」
「すいません」
「そのかわり、申し出があったらぜひとも生徒たちに指導碁をおねがいしたいものだね」
「え?ええ。それくらいは」
いいつつも、がちゃがちゃと石を片づけ始める。
と。
「あ、あの。先生」
ふとみれば、横のように女子生徒が三名ほど、何やら目をきらきらさせて立っている。
「何だ?お前たち?」
たしか二年生の子たちのはず。
何やらもじもじと何やらいいにくそうに立っているのが気にかかる。
尹が問いかけるとほぼ同時、
「実は、私たち、塔矢君に指導碁をうってほしいんですけど……」
遠慮勝ちにといってくる三人の女子部員。
こういうことはあるいみ早いもの勝ち。
しかも噂の塔矢名人の息子である塔矢明とうてる機会などはっきりいって奇跡にも等しい。
「お前たち、塔矢は今日……」
今日、部に入ったばかりの一応は新人。
一応、他の新入部員の手前もある。
だからこそ注意を促そうとする顧問教師たる尹であるが、
「あ、僕はかまいませんけど?」
「やっぁ!きゃぁっ!」
アキラの肯定にぴょんぴょんと互いに手をとり飛び上りながらも喜ぶ女子生徒。
と。
「ちょっと!だったら三年生の私が先じゃない!?」
そんな彼女たちの横から別の生徒の声が聞こえてくる。
「あ、日高先輩!」
そこにたっているのはショートカットの何やら勝ち気そうな一人の女子生徒。
「日高君まで……はぁっ……」
そんな様子に思わずため息をつかずにはいられない尹。
彼女とてこの部の副部長を務めており、さらには女子の部長でもある。
そんな彼女までもが初日にそんなことをいってくるなど、溜息をついてしまうのも仕方がない。
「ようこそ。海王囲碁部へ。まず最初は私とお相手願おうかしら……」
くすっ。
そんな彼女のセリフに、
「かまいませんよ。あ、でも今日は彼女たちが先でしたし。一緒でもよろしいですか?」
一緒って……
「あ、あの?塔矢君?一緒ってまさか四人同時に…指導碁を?」
「え?はい。断るのも失礼ですし」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
二面打ちでも普通にうつのは難しい。
それを四人同時にいともあっさりと成し遂げられる、ときっぱりいいきっているようなもの。
それゆえにおもわず部室の中に静かな空気が埋め尽くす。
「ん~…ま、いっか。お手並み、拝見させてもらうわ。噂の塔矢明くん」
「あはは。お手柔らかにおねがいします。あ、あなたたちの棋力はどれくらいですか?おき石の数を決めないと……」
多面打ちで、しかも指導碁。
相手の力量を測るのはある意味うってつけ。
噂が真実なのか、はたまたただの脚色されているものなのか。
見極めるよい機会。


「え~?そうなの?」
【ええ。あの子ったら進藤君に大会で勝つんだ~!といってるわよ?
  あ、今お風呂はいってるけど、あとからかけなおさせましょうか?】
「あ。ううん。いいや。塔矢も忙しいだろうし。それよりさ~。おばさん。
  佐偽の姿、他の人に未だに他の人に視えたとしても、やっぱり光としか視えない、らしいんだけどさ」
こんな会話ができるは彼女しかないがゆえに素朴な疑問を投げかける。
この間の初詣で言われたことを完結にと説明する。
【あら?じゃぁ、その佐偽さんゆかりの品が手にはいったの?】
「うん。まあ。でも明治神宮の宮司さんとか巫女さんもやっぱり光しか視えなかったらしくてさ~」
とりあえず、本当にアキラが部活に入ったのか確認のためにと電話をしてみた。
戻ってきた答えは肯定。
つまりは、やはりアキラもまた囲碁部にはいったらしい。
その話の流れというか、電話口にでたのがアキラの母親、明子であったことから相談を持ちかけているヒカル。
【それは仕方ないわよ。進藤君にはわからないかもしれないけどね。
  ほんっと、その佐偽さん、かなり位の高い霊の部類にはいるはずよ?…ものすごく人間臭いようだけどね】
『ヒカル!ヒカルってば!長話してないで!ね!うちましょ!ね、ねっ!』
がくがくがく。
幾度も電話をしているのにようやく慣れたのか、最近では騒ぐことなく逆の意味で騒いでヒカルをがくがくとゆする佐偽。
「ああもう!佐偽!ひとが電話中くらい静かにしろぉ!というかがくがくと体ゆすってくるなっ!」
相手が明子だからこそおもいっきり叫ぶことも可能。
【くすっ。相変わらずのようねぇ。あなたたち。まあ、気がむいたらまた遊びにきなさいな。
  佐偽さんともまたお話したいし。電話ではお話できないしねぇ】
佐偽の姿を目視し、さらには話ができるのはひとえにヒカルがとある品物を身につけているがゆえ。
それを媒介にしているがゆえに、ヒカルが近くにいないと話すことも、姿を目視することも不可能。
「ん~。まあ、そのうちに。あ、それじゃ、叔母さん。佐偽がうるさいからきるね。塔矢によろしく。じゃっ」
ぷっ。
つ~つ~つ~……
最近では子機をヒカルの部屋にと置いているがゆえに一階にまでおりてゆく必要はない。
電話をきり、とりあえず大きく伸びをひとつ。
「まったく。お前は。まあ、確かに。時間も限られてるしなぁ。じゃ、いくか」
『わ~い!対局、対局~!ヒカル!ヒカル!早く本をひらいてください!』
「お前、ノートパソコン、という言葉くらいおぼえろよな」
佐偽が騒ぐのにはわけがある。
パソコンをするにしても夜更かしなどをしないために母親から時間が制限されている。
それゆえに佐偽がネットで打つ時間、ヒカルが打つ時間は限られているのが現状。
最近では曜日ごとに今日は佐偽がうつ番。
今日はヒカルが打つ日。
と区切って代わるがわるそれぞれに入っているのだが。
まあ、第三者からみればそんなことは知る由もない。
「よっし。とまずは立ち上げて…入室…っと、うわっ!?…あいかわらずはや……」
入った直後に連続する対戦申込。
「この人たちのまさか佐偽が入るのまちかまえてるんじゃないの?」
そんな勘ぐりを思わずヒカルがしてしまうのも当然といえば当然。
事実、佐偽が…つまりヒカルがネットを始める時間帯は大体いつも決まっている。
それゆえにその時間帯に合わせて世界中で囲碁ネットをしている存在はかなりいる。
ネットの中では佐偽の噂は噂をよびかなり有名になっているのだが、
ヒカルはその筋の場所には顔をだすことも、またたどってゆくこともないのでまったく知らない。
「って、対局待ち中…うわっ!?」
ふと対局申込待ちの人数に目をむけて思わず叫ぶ。
『?何かまた数ふえてませんか?ヒカル?』
「…増えてるんだよ。実際に」
とうとう百の大台超えてるし……
『おもしろそう!ヒカル!私、全員と対局してみたいです!』
「お、おまえなぁ。時間がないの!時間が!」
『あ、なら早打ちでやっつけますっ!』
「…そ~いや、お前の早打ちってみたことなかったっけ?よっし。じゃ、今日はそれでいくか?」
『はいっ!では、ヒカル、いきますよ!?打ち間違えしないでくださいね?!』
「よっしゃぁ!いくぜ!今日は百人切りだっ!」
『はいっ!』
自分と打っているときにはかなり力を押さえつつも指導碁にしている、というのはわかっている。
だからこそ、圧倒的な強さをみせる佐偽が打つのをみるのはとても楽しい。
何しろヒカルが予測しえない手をさまざまに佐偽は打ってくるのだから。

『ヒカル!ヒカル!この人!』
「…あ、確か前に……」
一柳先生。プロの棋士だよ。
確かネット碁を初めてしったときに見知った名前。
「たしか、プロだっていってたよな?いってみるか?佐偽?」
『はいっ!ぜひにっ!』
ネットの名前はichiryu。
ネット仲間内では、そのハンドルネームの相手が日本の一柳プロであることは周知の事実。
以前、ネットを始めたころ。
そしてまた見知った名前であるがゆえに普通に対戦したことはある。
が、そのときは相手がこちらをなめてかかったらしくあっさりと佐偽の中押し勝ちという経歴をもっている。
「プロ棋士との対局かぁ。何かたのしそう。よ~し!全部ひとまず断って対局申込にいくぞ!」
『はいっ!』
どうもネットの中というかこの箱の中の相手はあまり手ごたえを感じない人ばかりですし。
あ、でも皆さんおもしろい手をうってはきますけど。
何だかこう、物足りない。
わくわくする一手はうてるが、やはり最善の一手を追及したい、という思いはある。
それゆえに、ヒカルの提案に即答している佐偽。

「ほう…sai。か。噂の人物か。以前は甘くみて中押し負けした相手じゃな」
ネット上で最近、というかこの冬より話題に上っている人物。
幾度も観戦していたが、やはりものすごく高いレベルを感じていたのも事実。
それゆえに、申し込みに一瞬心が躍ってしまう。
中にはある程度の実力を備えているものも中にはいたが、それでもやはり物足りない。
だがしかし、気がぬけない。
力量を測るためには…おそらくは……あのときの一局だけでは相手の強さは計り知れない。
だからこそ。
「よっし」
かちゃかちゃ。
決意を新たにチャット画面を開き、思いついた言葉を入れてゆく。

「あ。相手からチャットがきた。持ち時間…三時間で!?…どうする?佐偽?」
『かまいせんよ。ヒカル。うけてください』
「あ~……でも佐偽。あまり兆候はなし、だからな?」
『はい』
すうっ。
ヒカルの言葉に大きく息を吸う。
おそらくなめてかかってはいけない相手。
前回、一度打ったときはおそらく相手は本気でなかったはず。
それを踏まえての一戦。
「先番は…あ、こっちだ。佐偽が黒。な。いくぞ!」
『はい。右うわすみ、小目!』
カチッ。
そういえば、ネットを教えてくれたお兄さんも有名みたいなこといってたし。
佐偽も少しは満足できるかな?
前のときは相手はこちらをなめてたようでもあるし。
そんなことを思いつつも、何だかとてもわくわくしてしまう。
佐偽が指示す、一手一手。
相手から繰り出されてくる一手一手。
何だかリアル棋譜ならべなんて、すごく恵まれてるような気がするのは気のせいではないような気がするけど。
とにかく、佐偽の碁をみるのはとても楽しい。
おいつけど、追いつけど、絶対に追い越せない、ものすごく高い崇高な壁。
なのにその当人はとても人間くさく、下手をすれば幼い子どものようにかなり駄々っ子。
そのギャップが何ともいえない。
だからこそ、佐偽に惹かれずにはいられない。
そう、いろいろな意味で。
いずれは彼のような碁を打ってみたい。
そうヒカルの中で目標ができているほどに。

「これは……」
「あの一柳プロが手も足もでないとは……」
saiの対局の観戦のさなか、たまたま目にした一柳とsaiの観戦。
言葉を詰まらせる以外の何ものでもない。
プロ棋士と互角に渡り合える実力の持ち主、というのに。
名前も経歴も何もわからない。
唯一わかるのは、日本人だ、ということのみ。
「知り合いのネットに詳しい人が調べてみたけど、やはり日本、までしかわからなかったらしい」
メールアドレスでもあればもっと詳しくわかるであろうに。
たどって行けどもそこまで。
最近のパソコンにしろ、ネット上にしろセキュリティは万全。
中には詳しいものがハッキングを試みてみたりもしたが、このサイトのセキュリティは万全そのもの。
運営会社のほうにもsaiの正体は誰か、という問い合わせが殺到しているらしいが、
そのためにトップページに登録者の個人情報を個人的、法人的に伝えることはありません。
とまで追加文が加えられている。
当たり前のことなのに、わざわざ追加文を追記するほどにそこまで問い合わせが殺到している、という現状。
最も、そんなことはヒカルも佐偽も知る由もないが。
大体、saiが入室する時間は限られている。
日本時間でいえば、午後、七時以降。
遅くて夜の十時まで。
土曜日、日曜日に限ってはときどき朝から入っていることもあるらしい。
それゆえに大体の人物像は限られてくるが。
それでも一日数時間、という限られた時間は何か理由があるとしか思えない。
中にはsaiは病室から打っているのではないのか?
というような憶測までネット上に上がっている始末。
それならば顔も名前もわからないのは納得できる、という噂というか憶測にすぎないが。
「しかし…sai。か。今年こそ日本での大会でsaiの正体はわかるといいがな」
「確かに」
去年の冬の大会では結局わからなかった。
だが、まだsaiは消えたわけではない。
だからこそどこかに手がかりがあるはずである。
ネット碁をするものの思いはみな同じ。
誰もが思う。
saiの正体は誰か…と。


『ヒカル。そこはこう、です』
「あ。そっか」
何だか多少物足りなさそうな佐偽の様子に少し時間は遅いけど、といって碁を打ち始めたのはつい先刻。
やはり先ほどの対局は佐偽にはあまりというかかなり物足りなかったらしい。
それでもヒカルにとっては結構おもしろい一局ではあったのだが。
「というかさ~。お前とタメはれるうち手っていったらやっぱ塔矢のお父さんくらいなのかなぁ?
  でもさ。塔矢のお父さん、お前の姿視えないしなぁ。打たせてやりたくてもなぁ。
  塔矢のお母さんに協力してもらうにしても、俺、お前達の気迫に何だか飲まれそうだし」
事実、佐偽が対局しているときの気迫はすごいものがある。
その集中力にしろ、指示をうけて打っているヒカルが身震いするほどに。
『では、ヒカルが私においつけば私は望む碁をいつでも打てる、というわけですね?』
「おまえ!簡単にいうなっ!簡単にっ!というか!お前、対局かさせるごとにさらに強くなってるしっ!」
実力がついてきたからこそわかる。
佐偽の強さが。
『でも、ヒカルとの対局では私、だいぶ手加減してますよ?なので指導碁にしてますし?』
「だぁっ!それがむかつくんだよっ!本気でやられたら中押しにいくまでにあっさりとまけるしさぁ」
佐偽のいうことも一理ある。
あるが…やはり年の功、というか伊達に千年あまり碁をうってきた佐偽とは格が違う。
それだけはいやでもはっきりとヒカルにでもわかる。
「…なあ、佐偽?お前もやっぱり大会で打ちたい口?」
『そうですねぇ。子供たちとヒカル以外の子と打つのは楽しそうですし。ヒカル?打たせてくれるのですか?』
「…お前、つよすぎるからなぁ。相手の子がびびるってば。
  そういえば、佐偽。指導碁ってやりかたとかあるの?お前上手に俺導いてるけど?」
事実、佐偽は上手にヒカルを最善の一手の場所に導く碁の打ち方をしている。
それゆえのヒカルの疑問。
『そうですねぇ。ヒカルもそろそろ指導碁を覚えてもいいかもしれませんね?
  目測もある程度できはじめてますし。まだあぶなかっかしいですけどね』
「はいはい。お前からみれば俺なんか赤子同然、というのはよぉぉぉぉくわかってますよ」
近くにいるからこそわかる。
相手の実力が。
しかも指示をうけてヒカル自身がその場所に打ちこみしていればなおさらに。
『とりあえず、ヒカル?大会はいつなのですか?それまでにみっちりとしこみますけど?あなたが望むなら?』
「え…遠慮しておきます。というか中間テストとかも頑張らないと。って英語さっぱりわかんないし。
  佐偽も英語はわかんないしなぁ……」
『私にたよらないでくださいっ!そんなものあの時代に必要なかったからわかりませんって!』
平安時代にしろ、江戸時代にしろ然り。
社会においては地理や歴史は佐偽の助言というか協力もあってある程度の点は稼げてはいるが。
さすがにさっぱりわからなければどうしようもない。
まだ、教科書などを丸暗記にすることは可能なのでそれで点を稼いでいるのが現状。
「あ~……大会は嬉しいけど。それに中間テストが重なるのがなぁ……」
中間テストがあるのが五月半ば。
そしてまた、大会があるのは五月の後半の日曜日。
つまりは五月の二十四日に、春季中学囲碁大会はある。
『さ。ヒカル。それまでにはもう少し碁をうまくうてるようにならなければね』
「わるかったなぁ!よぉし!佐偽!もう一局だ!」
『はいっ!』
たわいのないやり取り。
そんなやり取りをしながらも、互いに向き合い、碁を打ちあう。
といっても石をおいてゆくのはあくまでもヒカルのみ。
佐偽は対局側にとすわり、扇で石を置く位置を指し示すのみ。
と。
「って!ヒカル!いつまでおきてるのっ!!!!いい加減にねなさ~いっ!!」
一階のほうから美津子の叫び声が聞こえてくる。
ふとみれば、いつのまにか時刻は十二時近い。
「まずっ!佐偽!続きは明日な」
『そうですねぇ。もうこんな時間、ですか』
楽しいことをしていれば時間が過ぎるのはとても速い。
それは今も昔もかわらない。
母親に注意され、あわてて碁盤などを片づけるヒカル。
子ども部屋の一角において、そんな光景がしばし見受けられてゆくのもいつもの日常。

日常は、日常…そう、当人たちがおもっているだけであり、いつその日常が崩れるかはわからない。
だが、今のヒカルはそのようなことを思うような心のゆとりは…ない……


「なるほど。話はわかりました。…しかし、塔矢のおかげで少なからず部員が動揺しているのも事実です」
塔矢明がわざわざ部活に入った理由。
とりあえず、囲碁部の部長と副部長。
二人を呼んで説明をしている尹。
確かに噂は聞いてはいる。
去年のあの一局は。
そもそも、その一局を並べてみせてもらったのは記憶に新しい。
先輩が卒業するときにあの一局を教えてくれた。
しかもそのうち手が実は小学六年生の子どもだ、と知らされたときには驚愕したものである。
「だが、私もあの場にいたが、たしかに彼を止められるのは塔矢君だけだと私はおもってる。
  どうも彼はあののち、あの少年と交流があるらしいんだけども、その当人が実力に無自覚らしいしな」
「…そんなことってありえるんですか?」
おもわず尹教師の台詞に唖然とした声をだす実質女子部員の部長でもある日高。
「その問題の子は進藤光、というんだけど。その子の家族の誰も碁のことには無知らしくてね。
  唯一、碁をたしなむのは離れた場所にすんでいるという祖父だけ、らしいんだ。
  それでどうやってあそこまでの棋力を養ったかは皆目不明、だけど。
  とにかく侮れないのは事実だ。塔矢君のように自覚していれば他の子たちにもあまり影響はないだろうけど。
  無自覚極まりない人物は要注意人物に他ならないしな。
  しかし、塔矢はこの大会が最初で最後の部員としての参加となる。
  この夏のプロ試験をうけるために、進藤光ときちんと大会の場で戦いたい。そのため、だそうだ」
「確かに。あの局面を先輩から見せられたときには驚愕しましたが……葉瀬中の進藤光、ですか」
「一度だけ…塔矢君もまたおもいきったことをしたわねぇ。
  でも驚きだわ。あの噂の塔矢明が追いかけてる人物がいる、なんて」
逆にそのことに驚いてしまう。
「おいかけてる、というかひっぱってる、というか…何というのかなぁ?
  塔矢君としては、彼をあのまま普通の一般の打ちてとして埋もれさせたくないらしいけどね。
  だけど、彼はどうも周りが周りのせいか囲碁界の知識は皆無、らしくてねぇ。
  何しろはじめは院生すら知らなかったらしいから。
  塔矢君からきいたけど、以前、彼がネット碁で院生をまかせて、相手がインセイなのにお前はだれだ?
  というような書き込みしてきて、インセイって何?ときいたようなものすっごく天然系な子、らしいからねぇ…」
その話をきいたとはには尹もおもわずあきれて唖然としてしまったが。
「それは……」
「……あるいみ、ものすごく恐怖、だな……」
彼らもまたネット碁はたしなんでいる。
それゆえにそのときの相手の心情をおもえば何といっていいのかわからない。
「しかし…ネット碁。か、まさか今噂のsai…じゃないだろうな?そいつは?」
「あら?でもsaiの打ち方はどうみても熟練した打ちてにしかみえないわよ?子供の打ち方じゃないわ。あれは」
まさか、佐偽に指示をうけて、ヒカルが打っている、などとは夢にも普通は思わない。
「sai…か。確かに私もときどき観戦してるよ。彼の強さは異常だ。しかも進化してる」
現代の棋譜のほとんどを消化吸収し、さらに新しい定石を生み出しているようにも見て取れる。
それほどまでにネット上において驚異の存在なのに誰もその正体を知らない、というネット上の棋士。
「しかし…saiに関係している子供、だとしたらあの局面をさらっとなしえたのもうなつげるところがある」
そんな囲碁部、部長岸本の台詞に、
「塔矢君がいうには、彼の周りにはそんな人物らしき存在は見当たらないそうだ」
「そう…ですか」
「とにかく。塔矢に関しては、このたびの大会だけ、ということもある。
  その後は部員ではあるものの、プロ試験をうければ彼は間違いなく合格するだろう。
  我が囲碁部員からプロ棋士が誕生する、ということに表面上は成り立つ」
いわば、校長が塔矢明を囲碁部に在籍してほしい、と本来の意味で誘ったのがその意味あいもある。
いわば広告塔のようなもの。
「他の部員にも伝えたほうがいいですかね?塔矢がこのたびの大会のみに参加する、というのは?」
「いや、下手にいわないほうがいいだろう。このことは君たちだけの心に留め置いていてくれ。
  それと、次の五月最後の大会では、塔矢を三将に据えて参加させる予定だ。
  …この間、葉瀬中から来月の大会参加申し込み書が送られてきた。…みてみるといい」
そこには、大将:一年、三谷祐輝、副将:二年、筒井公宏、三将:一年、進藤光。
とかかれている文面がみてとれる。
「…あ、例の子?これって?」
「なるほど。塔矢が大会にでるといったのはこのためか」
あるいみ納得してしまう。
確かに、まったく無名な一年生にコテンパンにまけたら悔しいこと仕切りであろう。
塔矢明ならばその知名度からいって仕方がない、という気持ちもはたらくであろうが……
「しかし。先生。塔矢はともかく、この子はこの後も大会にでてくるのではないのですか?」
「ああ。そのことならたぶん問題ないと私はにらんでるよ。
  塔矢君の口調からすればこの子はかなり負けず嫌いなところがあるみたいだから。
  塔矢君が先にプロになるとかきいたら絶対に行動起こすとみたし」
確かにありえそうなきがする。
何しろ院生すらも知らなかった、という子らしい。
ならばプロ試験のことも詳しくしらなくても無理はないであろう。
「「……あ~……」」
そんな顧問教師の説明に、思わず二人して全く同時に同じ意味をこめた溜息にもにた声をだす。
進藤光、塔矢明。
どちらにしても、第三者からみれば、どちらも人騒がせ、としかいいようのない人物、なのであろう……


                                -第22話へー

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あとがきもどき:
薫:何やら打ち込みしていたら、佐偽、男性のまま。
  ヒカル、女の子バージョンが頭にうかんできている今日この頃。
  ちなみに、こんな感じで~(まてこら


「…ダメっ!」
「「ヒカル?」」
おもわずガタンと席を立ちあがる。
そんなヒカルに戸惑いの声をあげている美津子と佐偽。
「だって…だって、塔矢名人とうったらまた佐偽がきえちゃうっ!」
悲鳴に近いその言葉。
「…ヒカル……」
その言葉をきき、佐偽が悲しそうな表情を浮かべるのが見て取れる。
娘のセリフの意味はわからない。
わからないが、何となくだが理解ができる。
目の前の青年は手術をうけるにあたり、娘には死んだといってほしい。
そう回りに頼んでから後に渡米し手術に臨み、
一年以上も昏睡状態であったのだが、そこからようやく復活し、そして訪ねてきた、とのこと。
幼いころから病院にて生活を送っていた彼は世間のことははっきりいって知らない。
そんな中でヒカルが唯一の友達であったらしい。
そう説明はうけた。
ヒカルに碁を教えたのも彼らしい、ということも。
確かに、ヒカルが碁をやりたい、といいはじめたのは祖父がぎっくり腰で入院した前後だったような気がする。
そういわれれば美津子の中で符号する事実がないこともない。
そして、あの五月、娘が生気が抜けたようになったあの時期。
彼がしんだ、と聞かされたのがあのとき。
五月の五日のあの日、だったらしい。
死んだとおもわれていたおそらく娘にとっては初恋に近かった人物がようやく元気になって今ここにいる。
というのに、また発作が起きたら…と不安にかられるのは仕方がない。
先日、訪ねてきた女の子の家族のものが昔、小さな彼に恩をうけたことがあるとかで、
彼の手術費用はその子の家が全額負担をしたらしい。
そのことをも把握している。
あのときの話の内容から、どうもあの塔矢君のお父さんとネットで碁をうったことに起因して、
彼の持病は悪化した、というのも憶測がとれた。
それゆえに、娘の…ヒカルの心配はものすごく痛いほどにわかる。
ましてやそのときの対局の中だちをしたのがヒカル自身、とくればそのときの心情はいかばかりか。
「ヒカル。おちついて。大丈夫。大丈夫ですから。私はここにいますよ?ね?ヒカル」
「お願い…二度と消えないで……」
かすれるような、それでいてすがりつくようなその言葉にどれだけヒカルが心を痛めていたのか。
というのを改めて思い知らされて胸が苦しくなってしまう。
ヒカルにそんな思いはさせたくなかった。
ヒカルはあのときから必至に、自分の碁の中にいる佐偽を追い求めていた。
ハタからみれば何かを追い求めているのがわかるほどに。
ほとんどのものがそれは神の一手を求めているのだ、そう捉えていたが、事実はそうではない。
心の痛みは年月を得ても消えることはまずない。
だが、今、慈悲なのかはたまた気まぐれなのかこうして佐偽は肉体をえてこの場にいる。
「佐偽さん。娘の気持ちも考えてやってくださいね?」
「え、ええ。それはわかってます」
住むところもなく、世間のこともなにもしらない。
そんな佐偽を同居させることに同意したのは他ならない娘のためでもある。
まあ、身内も保証人もいない彼を住まわせる場所などまずない、というのもあったが。
ヒカルがそれなら、自分の師として雇う!だからここにいて!
とすがりついたのは記憶に新しい。
とはいえ、ヒカルも年頃の少女。
かたや二十歳ばかりの美青年。
家族がいるとはいえ周囲の噂はあっというまにひろがりかねない。
それでも、とガンとして聞き入れなかった娘の彼がしんだ、と聞かされたときの心の痛みはおしてしるべし。
母親の立場からすれば、娘が彼に恋心を抱いている、というのは痛いほどにわかる。
彼もヒカルの存在が心の支えになっていた、という。
それゆえに、二人が望むならば結婚も許してもいいかな?とおもっているのも事実。
まあ、多少はこんなに麗しい男性が家族になったらとてもうれしい、という彼女自身の思いもあるにしろ。
「ヒカル。大丈夫ですよ。私は二度とあなたをおいて消えたりはしません。ええ、約束しますから」
半ば半狂乱に近くなっているヒカルの髪をそっとなでてひたすらになぐさめるしか佐偽はできない。
「ほらほら。ヒカル。佐偽さんをこまらせないの。それに食事の手がとまってるわよ?」
「ほら、母君もいわれてますし。ね、ヒカル。きちんと食べないと体に毒ですよ?
  そういえば、ヒカル、これって何ですか?」
「佐偽ってば。それはアスパラ」
「…アス?」
くすっ。
「佐偽さん、さすがに病院生活が長かった、とはいえ世間一般の常識もおぼえていかなくてはねぇ」
「あはは…すいません」
この世間ずれしているところが何ともいえない。
「佐偽。ご飯たべたらまた碁、やろうね、ね!?」
「こらこら。ヒカル。佐偽さんはまだ本調子でないのかもしれないのでしょう?あまり無理をいってはいけませんよ?」
「大丈夫ですよ。母君。ヒカルと打つのは私にとってもとてもうれしいことですしね。
  生きている、と実感できますし。でもヒカル?碁に関しては私は妥協はしませんよ?」
「のぞむところっ!絶対にいつか佐偽にかてるようになるんだもんっ!」
「ふふ~ん。それは千年以上、早い、というものです」
「あ~!いったわね~!」
このやり取りがとてもなつかしく、それでいて大切なものなのだ、と切実に思う。
二度と、取り戻すことができないだろう、と心のどこかであきらめつつも熱望したもの。
それが、今、ここにある。
だからこそ、今度こそ後悔はしたくない。
その思いは、ヒカルも佐偽も同じこと……


とまあ、こんな感じで~
原作通りに佐偽が消えたのは五月のいつか。
んでもって佐偽が肉体を得て(菫ちゃんの気まぐれによって)ヒカルの元にもどってきたのもまた五月の五日。
という設定だったりv
ヒカルが女の子、という設定で他の設定はかわりばえしておりません。あしからず。
ちなみに、文章にもありましたけど、佐偽はかなりの難病で奇跡的に完治した、という設定に母親たち。
さらには戸籍上や周囲の記憶操作もぱっちり解決済み、というお墨付きだったり(まてこら
肉親も誰もいず、ましてやず~~と病院生活で世間のことを知らない佐偽だ、ということを母たちはきかされております。
事実は平安時代の人間なのでヒカルとともにいたときに学んだ現代の常識しか知らないのですけど(苦笑
ちなみに、この会話はまだ周囲(ヒカルのプロ仲間たち)は佐偽の存在を知らないときのことですv
つまりは、佐偽がもどって三日目くらい、の設定だったりv
…小話的に、あとがきにちらほらとこの話の小話、のせてくかな?
ともあれまた本編の次回にいくのですv
ではでは~♪


2008年8月6日(水)某日

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