まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

今回は、SP版の慶長の花器シリーズの小話をとりいれましたv
佐偽の昔がでてくるのってめったにないですしねぇ(笑
まあ、原作においては18巻の番外編ですよv
何はともあれ、ゆくのですv

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「佐偽の君!」
「葵の君、またそんなに走って」
「だって、だって!」
ぷうっ。
くるくるとした大きな瞳に漆黒の黒髪。
「だって!父様から今日は佐偽の君がくるってきいたんだものっ!」
確かに今日は師とともに宮廷にくる日ではあったが。
「ねえねえ!佐偽の君!あそぼ!」
「葵の君、しかし……」
「かまいませんよ?というかうちの葵は君がくるのをしって昨日からうるさくてねぇ」
「ほんに。葵は佐偽の君が好きだからねぇ」
「だって!佐偽の君、おもしろいんだもん!ガマガエルにおどろくんだよ!?」
「…あ、葵の君?…まさかまた、ガマガエルけしかけるとかいうのでは?」
おもわずびくびくしてしまうのは仕方ないであろう。
何しろ彼女にはよくいたずらに佐偽の苦手なガマガエルをけしかけられることがある。
「…葵。おまえも佐偽の君のようにおとなしくならないものかね?うちのお姫様は……」
はう。
そんなため息が彼女の両親から洩れるのは仕方ないのかもしれない。
女の子ながらにオテンバともいえるわが娘。
そんな娘を心配しない親などは…まずいない。

それは、ある日の平安の都においてのとある日々。
二度と戻ることもできない、なつかしい幼き日の思いで……

星の道しるべ   ~慶長の花器~

「おまえ、弱すぎ」
「何だとぉ!」
「あ、私もあがり~」
昨日の大会はとても盛り上がった。
今日の部活はその反省会のようなものをかねて、碁をうつのではなくなぜかカードゲームにとなっていたりする。
『ねえねえ、ヒカル?ヒカル?何ですか?それ?いろいろな絵とか文字がかかれてますけど?ねえ?』
この数か月、ヒカルがトランプなどをしたことは皆無。
それゆえに興味津津で問いかけている佐偽。
「息抜きにトランプやろう、っていったの進藤君なのに」
「ふふ。ヒカル、よわすぎ~」
ヒカルはすぐに表情にでる。
それゆえに、かなり不利ともいえるのであろうが。
三連敗しているヒカルをみておもわず突っ込みをいれざるをえない。
「くそ~!もう一度だ!」
『ヒカル。ヒカル。おもしろそう!私もやりたいっ!』
いいから!お前はひっこんでろ!
というかお前はできないだろうがっ!
ルールもわかんないだろ!?
確かに、ヒカルのいうとおり、佐偽にはまったくルールはわからない。
だけども何だかとても面白そうである。
『私だって、私だっておもしろそうだからやりたいのにぃ!ヒカルのいじわるぅっ!』
佐偽からすれば珍しくてしかたがない。
紙キレに文字のようなものと、絵がかかれており、それらを取り合ってのどうやら遊びらしい。
というのはわかる。
どうやらとある絵が最後まで残った人物が負けらしい。
「あ~もう!やめだやめだ~!くそ~。なら碁で勝負だっ!」
「お前、にけだな?」
「何だと!?」
「はいはい。二人とも、おちついて。まあ、今日のところはもうおひらきにする?
  昨日の大会でみんなつかれてるだろうしさ」
どうやらこのままでは険悪な雰囲気になりかねない。
それゆえに、たしなめつつもいってくる筒井であるが。
「いいな、いいな~。私たちも次こそは大会に参加したいよね」
「そうだね。藤崎さん。あ、でも、そういえば進藤君、インセイとかいうのはどうなったの?」
たしかにそれも気にかかる。
アカリがつれてきた同級生の女の子。
「そういや、クミコ、私たちきいてないよね?」
「津田さんもアカリも。そういや話してないっけ?」
「「「きいてない」」」
きょとん、というヒカルのセリフにその場にいたヒカルと佐偽以外の全員の声が一致する。
「とりあえず、院生試験は七月にあるんだってさ。そこから、かな?
  とりあえず親はうけてもいい、っていってくれたし」
「けっ。お前なんかおちればいいんだよ」
「なんだと!?」
「まあまあまあまあ。進藤君も三谷君も」
結局のところ、アカリが誘った同級生の津田クミコを含めて今のところ葉瀬中の囲碁部のメンバーは五名。
とりあえず人数が増えてきたこともあり、学校側もしぶしぶながらも認めたものの、
やはりまだきちんとした部室は与えられてはいない。
五月の最後の月曜日。
うららかな日差しが窓から差し込むそんな中。
いつものごとくにユウキとヒカルの言い争いがしばしの間、みうけられてゆく……

『ほぉ。ババぬき、というんですか?でも何でババ?』
「俺にきくなよ!ともかく、ジョーカー、っていうのがあってさ。それを最後までもってたやつが負けなの。
  さっきのゲームは。江戸時代にとかはトランプに近いものなかったのか?」
『メンコくらいですかねぇ?』
「そりゃ、まったく違うし。う~ん。百人一首カルタに近い、とおもえばいいよ。
  さっきのは上にかかれている文字が同じカードを揃えればそのカードを場に出して。
  そして最後に残ったカード、つまりジョーカーのカードをもってるやつが負け」
『ほぉ。何だかおもしろそうですねぇ。私もやりたい……』
結局のところ、囲碁部は早めに切り上げ、時間があるから、というので図書室にといき戻っているヒカルと佐偽。
ついでだからというので図書室でちょっとした調べものをしてゲタバコに向かっているのだが。
一階の渡り廊下を進んだ先にげた箱はあり、横のほうでは野球部の生徒たちが練習しているのが見て取れる。
葉瀬中はあまり広くないので校舎と校庭がけっこう接近している、という難点があるのも事実。
渡り廊下をあるきながらひとまず周囲に人がいないので佐偽にと説明しているヒカルであるが。
ぼこっ。
「…ってぇっ!」
歩いているといきなり頭に何かがとんでくる。
ふとみれば、当たったのはどうみても野球の球。
『?ヒカル?この毬のような小さな球は何ですか?』
ころころと足元に転がる小さな白い球をみて首をかしげまくっている佐偽の姿が目にとまる。
「わりぃわりぃ」
「そんなとこぼ~と歩いてるから悪いんだよ」
むかっ。
「何だと!?」
ふとみれば、どうやら野球部の人達が打った球がヒカルに当たったらしい。
しかも悪びれもなく打った当人たちとおもわれる生徒たちはそんなことをいってくる。
「何だと~!?お前らがヘタクソなんじゃないか!どこにうってるんだよ!?
  囲碁部の俺のほうがもっとうまく打てるぜ!?そんなんじゃっ!」
謝ることすらせずにそんなことをいってくる彼らに思わず叫び返すヒカルの姿。
まあ、普通はきちんとひとにボールを当ててしまったのだから謝るのが筋、というものであろう。
「むっ。何だと!?打てるものならうってみろっ!」
「よぉし!みてろよっ!」
『え?え?わ~い。何がはじまるんですか?ネエネエ、ひかる!?』
売り言葉に買い言葉。
野球部員としてもそんなことをいわれてだまってはいられない。
ヒカルとて自分にボールを当てられた、ということもあり引き下がることをまずしない。
そのまますたすたとそちらに歩いて行き…どうでもいいが上履きのまま、というのはいかがなものか。
ホームにたっているバッターの部員からバットをほぼ奪うようにと手にもち位置にとつくヒカル。
『ヒカル?そんな棒のようなものをもって何をするんですか?ねえねえ?』
そういえば、こいつ、今まで野球中継とか一度もみたことなかったっけ?
佐偽のそんな問いかけにふとそんなことを思うが、今は説明している場合ではない。
「いったなぁ。よぉし!これが野球部の球だ!うけてみろっ!」
「よぉっし!」
相手がボールを投げるのを見てとり、おもいっきりバットを構えるヒカル。
が。
『あ。球を投げた』
「って、うわっ!?佐偽!?」
いきなりヒカルの目の前。
しかも相手がボールを投げたその目の前。
つまりはピッチャーとキャッチャーの間にすとん、と座りこんでボールの行く末を眺めている佐偽。
そのまま佐偽の体を素通りし、おもいっきりグローブの中にとボールは吸い込まれてゆく。
はっきりいって心臓にわるいというよりほかにはない。
何しろバットをふれば確実に佐偽に思いっきりあたってしまう。
佐偽には物理的なモノは通用しない、とわかっていても視えている限りやはり心臓にわるいことは悪い。
それゆえに佐偽におもいっきりボールが直撃する。
とおもってしまいおもいっきりその場から反射的に飛び退くヒカル。
だがしかし、ヒカル以外の人物には佐偽の姿は視えてはいない。
それゆえに、球の速さに驚いて飛びのいた、としか映らない。
『わ~!!すごいすごい!球がすっぽりとこの中にはいってますよ!』
佐偽からすれば、投げた球がどうして綺麗にすっぽりと、
手のような形をしている何かの中におさまっているのか不思議でたまらない。
「おどろいたか!囲碁部はすっこんでろっ!」
自分の球の速さに驚いた、とばかりに思いこんでいるがゆえに高飛車的にといってくる。
むっ。
「何だと!まだたったのワンストライクだ!佐偽!どけっ!」
『え?あ、はい』
ヒカルにいわれてとりあえず素直にその場から離れてヒカルの背後にと位置を変える。
野球部員たちはヒカルが『サイ』とか言っているのに気づいているものの、あまり気にしてはいない。
というのもこの場にいるのは自分たちのみ。
それゆえにこいつ、何をいってるんだ?
という程度の反応を示している。
「こいっ!」
「ほえずらかくなよっ!」
カッキィィッン!!
ピッチャーがボールを振りかぶり、投げると同時、おもいっきり振りおろしたヒカルのバットが球をとらえる。
そのまま、ボールは高く空を舞ってゆく。
が。
『わ~。棒で球をたかくあげました~』
「って、どこにうってんだよ?おもいっきりファールじゃん?」
ヒカルが打った球はおもいっきり外れて、何やら教室がある校舎のほうにと飛んでゆく。
そんな球をみつつも、額に手をかざしてボールが飛んでいった方向をみている佐偽。
と。
ガラガラ…ガシャァッン!
「…げ」
「あちゃ~」
ヒカルのうった球はちょうど窓があいていたとある教室にと飛び込んで、何かが壊れる音が聞こえてくる。
それゆえに一瞬その場に立ち尽くすヒカルたち。
「げ!?おい、あそこ将棋部の部室じゃあ!?」
「げっ!?」
何やらボールが入り込んだ教室がどこなのかに思い当たり、さっと顔色を変えている部員たち。
そんな彼らの考えを肯定するかのごとく、
ゆっくりと窓際にちかづいてくる一人の人物の姿が目にはいる。
「か…加賀だ!」
「泣く子も黙る加賀だっ!」
「お、お前のせいだからなっ!」
「こ、こいつが犯人ですっ!!」
ずざぁっ。
窓際に出てきた人物の姿を目にした野球部員たちが一斉にと顔色をかえる。
窓際にはヒカルがよく見知っている一人の人物が何やら立っているのが目にとまる。
「…あ…あはは…加賀……」
ヒカルが打った球は一階のとある部屋の中に飛び込んでおり、どうやらそこは将棋部が部室として使っている部屋らしい。
彼とはヒカルは多少のかかわりがありヒカルが小学生のときからの顔見知り。
どうやら周囲の反応から、彼の怖さは結構有名ではあるらしい。
ヒカルからすればどこがどう怖い、とかいうのはまったくもってわからないのだが……
「てめぇが犯人か。何をやったかわかってんのか?あん?」
とんとんと手にしている扇にて肩をたたきながら近づくヒカルにそんなことをいってくる加賀であるが。
「?…あ!トロフィーや盾が!ご、ごめんっ!…ってよくみたら加賀の名前ばっかり……」
部屋の中にころがっているトロフィーや盾にはすべてといっていいほどに加賀の名前が刻まれているのがみてとれる。
ヒカルがうった球はもののみごとに棚にあたったのか床にはトロフィーなどが散乱し、
窓から覗けばそこには何ならかなりの人数の生徒たちの姿が目にはいる。
「別にい~んだよ。こんなもんは」
こ、こんなもんって……
床に転がっているトロフィーをがしっと足踏みしつつも、ずいっとヒカルの前に付きだしてくる何か。
「それより、これだ!これっ!」
「?その湯呑がどうかしたの?」
ずいっと加賀が突出してきたのは何やら割れた湯呑コップが一つ。
「オレの愛用の湯呑だ!ばかやろうっ!!」
き~ん!
キンとした加賀の怒声が耳にと響く。
周囲にいる部員たちも何やらかなりびくびくしているようであるが。
それは背後にいる野球部員も同じこと。
「あ、愛用の湯呑ぃ!?」
そういえば、何やら魂、という文字が割れたコップにみえてはいる。
「どうしてくれるんだ!?この湯呑は昔からの愛用品だったんだぞ!?」
「わ、わかった!わかった!明日、変わりの品をもってくるからっ!」
どうやらそうでもいわなければおさまりそうにない。
「ああん?つまんねえもんもってきたら承知しないぞ!?進藤!!」
「だあっ!わかったってばぁ!!」
うららかな日差しの元。
加賀とヒカルの声が教室、そして校庭内部にと響き渡ってゆく。

「あ~あ。加賀が満足する湯呑ってどんなのだよ?」
『それはわかりませんけど。やはりそれなりの場所にあるのではないのですか?このあたりに窯とかないのですか?』
「カマ?」
家にもどることなく、とりあえず加賀の代わりの湯呑を探しに町にと繰り出しているヒカル。
『陶芸をたしなんで作成する場所ですよ』
「んなもん東京にあるのか?」
あるのかもしれないが、ヒカルはまったく知らない。
「う~ん。陶芸屋とかかなぁ。やっぱり」
手持ちのお金は五千円と少し。
今年のお年玉はあまり使うことがなかったので一応ある程度は余裕はある。
あるが相場、というのもをヒカルは知らない。
「そういえばさ。佐偽。お前平安時代とか江戸時代とかで陶芸とかに詳しくないの?」
『そうですね。今まですばらしい。とおもったのは慶長の花器、ですね』
「?慶長?」
『ええ。虎次郎が弥衛門の花器には一家言をもつほどに詳しかったのですよ』
「…佐偽。専門用語だされても俺にはわかんないってば」
歩きながらそんな会話をしていようとも、周囲の人々はさほど気にとめてはいない。
何しろ独り言をいっているようなひとは結構いる。
最近ではイヤホン式の携帯電話が主流となっていることもあり、歩きながら会話をしている人も多数。
それゆえにふつうに話していてもあまり怪訝な表情をされることはない。
『しかし…ここは何やら合戦場のようなけたたましさですね。
  平安、江戸と二つの時代をしっていますがここまで様変わりしたりはしていませんでしたよ』
周囲をきょろきょろと見渡しながらそんなことをつぶやく佐偽。
まあ、平安の都の京。
そしてまた、江戸時代における風景。
それらと比べれば今、現代のこの様子は何とけたたましいことか。
自然の情緒がまったくない、といっても過言でない。
申し訳程度に道の隅に小さな木々がある程度。
大地は何やらかたいもので蓋をされ、土独特のにおいすらしない。
『あ!ヒカル!湯呑がありましたよっ!』
「え?どこどこ?…あ、ほんとだ。ってげぇ!?五千円!?…古美術…かぁ」
古いものを扱う店。
つまりは骨董店らしい。
「はいってみるか」
古いものの中には安くてもいいものがある。
祖父が昔からそういう骨董に多少興味があったせいでヒカルも少しくらいならば知識はある。
小さいころにはよく祖父につれられて骨董店にでむいていた。
もしかしたら掘り出し物があるかもしれない。
そんなことをおもいつつ、扉をくぐる。
と。
「ほぉ。慶長の花器、ですか」
『え?』
「ん?」
どうやらそこに立てかけられている何かの皿のようなものを目の前にして会話している二人の男性。
何か聞いたことがあるような言葉なので思わずそちらのほうを振り向くヒカルと、
おもわずその言葉にひかれてそちらに視線をむける佐偽。
「江戸初期。慶長時代に弥衛門、という天才陶芸家がいましてな」
「ああ。彼ならばしっています!」
「ほぉ。ご存じですか」
「花器が彼の真骨頂なんでしょう?それで彼の花器を俗に慶長の花器とよぶんですよね」
「なかなかお詳しい。で、どうです?この品は?」
「確かに。いやぁやはりどことなく違いますね。品があるというか。趣がある、というか」
「さすが、お目がたかい!」
そんな会話をしているところから、どうやら一人はこの店の主人、そしてもう一人は客、らしい。
『慶長の花器?これが!?何を馬鹿な!』
「?佐偽?」
たしかに棚には何か花器らしきものがおいてある。
それをみて佐偽が憤慨しつつもいっているのが気にかかる。
『これが慶長の花器なものですか!!ヒカル、これは偽物ですっ!』
って…えええ!?
きっぱりはっきり断言する佐偽の言葉に思わず声にだすことすら忘れて驚くヒカル。
『先ほどもいいましたが、私は虎次郎が一家言を持つほどに詳しくしっていたのでよく見知っています!
  ですが、これには藍色のさえがない!うわぐすりの塗があまい!何よりも形に品がないっ!』
いわれてもヒカルにはよくわからない。
わからないが、佐偽のこの怒り用からして事実をいっているのだと理解はできる。
『ヒカル。ちょっとその花器を指ではじいてみてください』
「あ。うん」
コッン。
佐偽にいわれるまま小さく花器を指ではじく。
『やはり!音もまったく違う!彼の花器はもっとこうガラスをはじいたような音のはずですっ!
  これは真赤な偽物ですっ!』
偽物!?
「どうです?慶長の花器が百五十万。お買い得ですよ?」
驚愕するヒカルの横では何やら商談をはじめている男の姿が目にとまる。
「そうですねぇ。いい品のようですし……」
むっ。
どうやら相手にはこれが本物か偽物かはわからないらしい。
「おじさん!偽物にそんな大金払う必要ないよっ!それにそっちのおじさんも!
  何で偽物を本物といつわってうりつけようとするんだよ!?」
こういう理に反した行動をしている大人は許せない。
以前、偽物の碁盤を売りつけようとしていた人物と同じ穴の狢の人種なのであろう。
「何だと?ガキが。ガキ。ひとの売り物にケチをつける気か?」
「何だと!?そっちがわるいんじゃないか!これまったく慶長の花器じゃないじゃんかっ!」
『そうです!慶長の花器というには雲泥の差がありすぎますっ!』
きっと目の前の人物にむかって言い放つヒカルと佐偽。
ほぉ。
きっと自分を見据えてくる子供の瞳には迷いがない。
それゆえに多少感心しつつも、
「ガキ。いってくれるな。じゃぁ本物の慶長の花器とはどんなものだ?あん?」
「どんなものって、みればわかるじゃんか!これには特徴まったくないもん!
  藍色のさえがない!うわぐすりの塗があまい!何よりも形に品がないっ!それに、ほら…」
コッン。
いいつつも軽く指ではじくと、何かかたいものをはじいたような音がする。
「この音!慶長の花器ならばもっとガラスをはじいたような音がするはず!偽物以外の何ものでもないよっ!」
『そうです!なぜにこのような偽物を売りつけようとするのですか!?慶長の花器の名を汚すつもりですか!?』
佐偽に言われたとおりの説明だとはいえ、佐偽がいうのだから間違いはないはずだろう。
それゆえに、負けずと言い返すヒカルであるが。
にやっ。
「ほぉ。対した目利きだな。坊主。ガキのくせに。ぐふっ」
そんなヒカルの言葉ににやりと笑みを浮かべてそんなことをいってくる。
ぞわわっ。
『いやぁぁ!この男、笑うと私の大っきらいなガマガエルにそっくりぃぃ!!』
…佐偽にも苦手なものってあったんだ。
ヒカルの背後にて顔を隠してしかも体まで低くして隠れるようにして叫んでいる佐偽をみて新鮮さを感じてしまう。
ガマガエルかぁ。
田舎ならともかく、都会で佐偽から優位にたとうとして捕まえようにも無理だなぁ。
ふとそんなことをヒカルが思うと、
『ヒカル!何というおそろしいことを考えているのですか!?葵の君のようなまねをしないでくださいっ!』
「葵の…?」
名前をいわれてるヒカルにわかるはずもない。
「ど、どういうことだ!?まさか、これは偽物!?」
「おっと。いかんいかん。カモの前でつい口がすべっちまった」
「カ…カモ!?私のことか!?」
花器を進められていた客の男性が店主らしき人物にくってかかるが。
「わしは目がきくやつが大好きでな。坊主。この世に人間は二種類しかいねぇ。
  ひとつは目の利くやつ。もうひとつは目の効かないまぬけだ。…おっと」
プルル、プルルル…
店主がそんなことをいっている最中、鳴り響く電話の音。
「はい。もしもし?…あん?うちでかったつぼがよそでみてもらったら千円の価値もない、といわれた?
  あのねぇ。お客さん。あんたはうちで納得してかったわけでしょう?
  うちはうちの基準でしかもお客さんに納得してかってもらってるわけだ。
  あんたがよそで鑑定してもらおうがそんなことはうちにはかんけいないね。
  あん?だました?馬鹿をいっちゃいけないよ。目が利かないやつがわるいんだよ。
  モノの価値すらわからないのに手をだすことがわるいんだよ。分不相応。わかるか?
  あん?うったえる?別に好きにすればいいさ。こちらはそちらの証書がある。
  何があっても文句をいいません、という契約書がな」
契約書をいちいちよむ人間はごくわずか。
その中にそのような一文が含まれていようが、普通、そこまで詳しくみるものはまずいない。
だが、裁判、ともなればそれがいきてくる。
つまりはいくら詐欺を働いていようとも、購入者の直筆サインがある書類をもっているほうが有利となる。
「…くっ」
「あ。おじさん」
偽物を売りつけられようとしていた。
この子供がいなければまちがいなく偽物を百五十万もだしてかわされていたであろう。
悔しいが、だがしかしわからなかった自分もわるい。
そんなことをおもいつつも、くるっと向きを変えて店をでようとする。
が。
「おじさん!前まで表にだしてたあの花器、どこにやったの!?うっちゃったの!?」
そんな男性を押しのけるようにして小さな小学低学年くらいの女の子が店の中にと入ってくる。
『あ…葵の君!?』
その女の子の姿をみて驚愕に目を見開く佐偽。
記憶の中にあるかつての幼友達の面影をくっきりと生き写しのようにそなえている少女の姿を目の当たりにして、
驚かずにはいられない。
「あった!これ!かえして!おねがい!あれはお爺ちゃんの花器なの!おねがいっ!」
「またお前か。もううちにくるな、っていっただろ?」
「いや、はなして!かえしてよっ!あれはお爺ちゃんの花器なの!かえしてよっ!
  半年前に盗まれたときすごくがっかりしたんだからっ!お爺ちゃんが大事にしていたものなんだからっ!」
「人聞きのわるい!わしが盗んだわけじゃない!いつだったかどっかの誰かが売りに来て、うちがかっただけだ!」
「去年、お爺ちゃんがしんだの。お爺ちゃんにかえすのっ!」
『…!?あの花器は!?』
佐偽?
「君、盗まれた、ってほんとう?」
「うん。どろぼうに入られて……」
「ふん。そんなことはわしはしらん。売りにきたやつがいたからかったまで。だ」
『あれは…間違いありません!前に一度、京の御所でみたことがあります。慶長の花器!』
え?本物?
「おねがい!かえして!」
「ふんっ。安物だろうがタダでかえす筋合いはないわ。返してほしければ十万もってくるんだな」
「十万!?あんた今、安物っていったじゃないかっ!?」
この人、安ものっていってるよ?
『この花器にはひみつがあるのです。この男、その秘密にどうやら気づいていないらしい』
「かえしてっ!」
「ええい!うるさい!」
「きゃっ!」
「「『あっ!』」」
それでもなおすがりつく少女をおもいっきり振りほどくように押しのける。
大人が力任せに押しのけ、払いのければどうなるか。
いうまでもなく、少女はそのままはじかれたようにと近くの棚にとぶつかり尻もちをついてしまう。
ガシャッ!
それと同時にその棚にあった品物が少女がぶつかったことにより床におちてガチャンとわれる。
「「あ、大丈夫!?君!?」」
「大丈夫じゃねえ!売り物の茶碗をわりやがって!弁償しろっ!」
少女にかけよるヒカルと客の男性とは対照てきに割れた茶碗にとかけよりさらに少女を突き飛ばす店主。
『何と!?つきとばしたのはそちらではないか!この子の心配をするのが先であろう!?』
「今のはおじさんがわるいよ。君、けがはなかった?」
「あ。はい」
未だにこけたままの少女に手を差し伸べて、立ち上がる手助けをしながらも問いかけるヒカルとは対照的に、
「この茶碗は五万もするんだぞ!?五万!」
「どうだか。本当にそんなにするのか怪しいもんだ!」
それでなくても先ほど偽物をもう少しで大金で買わされそうになったのもある。
しかも、子供に十万などという大金をふっかけることから根性がねじくれまがっている、としか思えない。
「お嬢ちゃんじゃ、話にならねえ。家の場所と電話番号をおしえてもらおうか!
  親御さんにきっちりと話をつけてやるっ!」
少女の身を心配するどころかそんなことをいってきている店主の姿。
むかっ。
佐偽。
こいつ、どうにかできないの?
佐偽にしろ、ヒカルにしろ目の前の店主らしき人物に怒りはすでに限界に達している。
と。
『ヒカル。あれ!』
…あ。
ふとみれば奥のほうに碁盤の姿が見て取れる。
佐偽!
『ええ。あれならば私もこの少女の力になれるやもしれません』
よおっし!
「おじさん。そこに碁盤みえるけど、おじさん、碁をうつの?」
「うん?それがどうした?」
「少しは腕に覚えがあるの?それならさ、今から俺とうって、もし俺がかったらその子が割った茶碗の代金。
  五万円をチャラにしてよ。そのかわり俺がまけたらその金額俺がもつよ」
にやっ。
「ほぉう。このわしに碁の勝負か?おもしろい。いいだろう。ぐふふっ」
『いやぁぁ~…ガマガエルぅ~……』
お前、そんなんで本当に碁がうてるの?
相手が笑うたびにびくびく震えている佐偽に対して一抹の不安を感じざるをえない。
「って、君!むちゃだ!…って、君!やめたほうがいい!そこの賞状に!
  この人は五段の免状をもっている!」
ふとみれば、奥の部屋の上にかかげられている日本棋院から出されているとおもわしき症状が一つ。
「あの免状は偽物じゃねえ。本物だ。おじけづくならやめてもいいんだぜ?
  わしは目が利くやつは確かに好きだが。正義はぶった生意気なガキは大っきらいなんだよ」
「奇遇だね。おじさん。俺もおじさんみたいな弱者をいたぶる大人は大っきらいさ」
「このガキ…っ!」
佐偽。大丈夫だろうな?
まさかこいつの顔がいやで負ける、なんてことはするなよ!?
『当然です!それに問題ありません。この男にはにやりともさせませんからっ!』
「え?え?おじさん?何がどうなってるの?」
「むちゃだ!君!私がかわりに…いや、へぼの私じゃかないっこない…ああ!警察をよんだほうがいいのか!?」
しかし、警察を呼んだとしてもどうにもならないのも事実。
こういう輩は警察などといった場所からはけっこううまい具合に逃げるものである。
一人、展開がよめずにきょとん、と出している少女の姿がそこにあったりするのだが。
「いったな。ガキ。生意気な口を二度とたたけなくしてやる」
いいつつも、じゃらりと石をつかんで碁盤の上にとおく。
「ふ。わしが先番、だな。黒をもつなんてひさしぶりだ。じゃ、遠慮なくいかせてもらうよ」
パチっ。
佐偽!
『いきますよ!ヒカル!』
おうっ!
パチ。
パチパチ…
「…くっ……」
何なんだ?!
何なんだ!?
このガキ!?
五段の腕をもっているこのわしに!?
打ってもうってもすぐ殺されどうにもならない。
それどころかすでに盤面上では五十目に近いほどに差が開いている。
それゆえにうならずにはいられない。
『ヒカル。あの花器の秘密はですね。実は……』
すでに相手の負けは確定的。
というか決定的に力の差がありすぎる。
「?おじさん?」
「一方的だ。一方的だよ。ヘボの私でもわかる。圧倒的な力の差が」
多少知識があるものならば一目瞭然すぎるほどの圧倒的な力の差。
「……こ、ここまでだ…」
どこをうっても挽回の余地は見当たらない。
「な、何て子だ…!」
五段の免状をもつ大人に勝てる子どもなど。
この子は一体?
以前にみたことがある噂の塔矢明とはまったく違うので塔矢名人の息子でないことだけはわかる。
わかるが…子供ながらに段位をもつ腕の人物に勝てる人がいるなど到底しんじられない。
『しかし、それにしても昔見た花器がこのようなところにあるなんて……
  当時、宮中の財政は苦しかったとききます。誰かがこっそりと処分したのでしょうか……』
あの花器をめにしたとき、自分も虎次郎も対局にむかうことすらわすれておもわず気もそぞろになっていた。
ふと過去に思いをはせてしまう。
『ヒカル。お願いがあります』
…え?
そんなことができるの?
だがしかし、佐偽ならばできるのかもしれない。
ヒカルの目からしても挽回することは不可能とおもわれる局面なのに。
ここからどのようにするのか見てみたい、というのもある。
佐偽がきっぱりと出来る、といいきるからにはできるのであろう。
それゆえ、
「おじさん。碁石を交換して?」
「?何をする気だ?」
「ついでにアゲハマもね。石を交換してこの続きを打つのさ。それでここから俺が逆転したらあの花器をその子にかえしてくれる?」
「…なっ!?わしが投了したこの碁をここから打って逆転だと!?なめたことをっ!
  でかい口をたたきやがって!やれるものならやってみろっ!逆転できなかったらどうするつもりだ!?」
子供にそこまで馬鹿にされて引き下がるわけにはいかない。
「さっきの割れたお椀代だけでなく、おじさんが売りそびれたあの偽物の花器も俺がかうよ」
佐偽の力を信じているからこそいえる言葉。
「む、むちゃだよ。君」
「いいだろう。そこまでなめられてひきさがれるかっ!!
  逆転できたらノシつけてあんな安物の花器くらいかえしてやるっ!」
「おじさん。二言はないよね。そこの人が承認だからね。じゃ、いくよっ!」
『ヒカル!石をもちなさい!いきますよっ!』
パチっ。
黒と白を交換し、それぞれに投了したはずの碁を打ち始めてゆくヒカル…正確にいえば佐偽と男性の姿が、
骨董店の奥の一室においてしばしみうけられてゆく……

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
言葉がでない、とはまさにこのこと。
圧倒的なまでの力の差。
段位をもっているはずの自分が全力をだしてもまったくかなわないほどの高い壁を感じる。
どうあがいても、あがいても越えられない壁というものがまさに今、ここにある。
「右辺の白を…殺してしまった…な…なんて子だ……」
「あの花器、かえしてもらうよ?」
「くそぉ!あんな安物の花器なんかいくらでもくれてやるっ!!」
子供にここまでこてんぱにやられて悔しいことしきり。
それゆえに吐き捨てるように言い放つ。
「本当!?本当にかえしてもらえるの!?」
その言葉をきいて、ぱっと目を輝かす少女の姿。
「あ。おじさん。そこの花瓶の水をこの花器に注いでみてよ」
未だに碁盤の前で座り込んでいる店主をそのままに、店にとおいてある花器をこの場にもってくる。
そして、ことん、と近くのテーブルにその花器をおき、対戦をみていたお客の男性にと声をかけるヒカル。
「?これかい?」
「?お水いれるの?お爺ちゃんは大事にしまってたよ?私がお嫁にいくときにくれるっていってた」
「いいかい。みてごらん?」
「…え?…わあっ!」
「こ…これは…!?」
「・・・な!?」
その場にいる全員が水を注がれた花器に目をやり思わず絶句。
水が張られたその花器にゆっくりと、花模様が浮かび上がり、周囲の光景すらも浮かび上がってくる。
もともと、ただの枯れた木のみが書かれているだけの器だったはずなのに。
水をいれることにより、まるでうかびあがってくるかのごとくにゆっくりと枯れ木に花をさかしてゆくかのように。
そしてまた、木々の下にすら緑がゆっくりと浮かび上がってくる。
やがて、花模様は花器全体、すなわち水をはっている部分に及び、まるで枯れ木に花がさき、
華吹雪がまっているような美しさを醸し出す。
「花器は花をいけてこその花器。弥衛門最後の傑作だってさ」
佐偽からきいてたけど、ほんとうにすげぇっ。
佐偽からきいていたのでこの花器の秘密はしってはいたが、実際に目の当たりにすると感動せざるを得ない。
「特別な釉薬がぬってあるから他の作品とはちがってみえるんだよ。
  水に反応して釉薬が透明になりしたの絵が視えてくる。慶長の花器、といわれる所以さ」
佐偽から説明されたとおりに、周囲にいる人物…おもに少女にと説明するヒカル。
話にきくのと実際にみるのとでは感動が違う。
ヒカルとてこの美しさには思わず目を奪われる。
佐偽達が依然、これを目にして対局も気がそぞろになってしまった、というのもわかるよな。
そんなことをふと思ってしまう。
「そ…そういえば、聞いたことがある。これがあの幻の…本物なのか!?」
「ほぉ。これは……」
「か、かえさん!これはわしのもんだっ!」
「子供相手に見苦しいぞ。二言はないんじゃなかったのかね?
  人間には二種類いるんだろ?値打ちのわかる人間と」
「値打ちのわからない人間。ちょっと視る眼がなかったね。おじさん」
ごねはじめた店主にたたみかけるように言い放つ。
それは少しまえ、自分自身が目の前の男性にむけて言い放った言葉。
それゆえに何もいえない。
因果はめぐる。
その言葉が一瞬頭をよぎる。
「はい。君」
「ありがと!お兄ちゃん!」
「家どこ?ついでだからおくってくよ」
『そうですね。このものが何かするとも限りません』
こういう輩は何をしてくるかわからない。
平安の世にしても、江戸の世にしても理不尽なことをする輩は多々といた。
あの葵の君ですら権力の渦に飲み込まれ、一度誘拐されたことすらあったのだから。
「君。でも君はいったい?」
「俺?俺はただ、悪いことを正当化する大人が許せないだけのただの子供だよ。さ、いこっ」
「うんっ!」
未だに呆然としている大人たちをそのままに。
花器を手にし、骨董店をあとにしてゆく二人とそして佐偽の姿。
あとにはただただ、呆然と残された大人二人が残るのみ。

「え?いいんですか?」
「うん。お礼!」
「すいません。娘がお世話になったみたいで。でもこれで斉三義父もきっとよろこびますわ」
「…サイゾウ?」
とりあえず、お礼がしたいから、というので子どもの家につれていかれた。
仏壇の間に通され、お茶をよばれながらも少女の母親らしき人物と会話を交わす。
「聞けば、あの骨董店にはいったのは割ってしまった湯呑の代わりをさがして、とか」
たしかに、この家にくるまでに少女には理由を話したことは話したが。
「きっと義父もよろこびますわ」
義父が大切にしていた花器がどれほど価値があるものなのか、彼女にはわからない。
わかるのは、娘が花器に水を注いだことにより浮かび上がってきたみごとな文様。
それからかなりながあるしななのかもしれない、という程度のみ。
「あの。この子のお爺さんの名前はサイゾウ、というんですか?」
何か佐偽の名前につけたしたような名前だよな。
ふとそんなことをおもいつつも、ヒカルが問い返すと、
「ええ。何でもうちの昔からの決まり、らしいですわ。男の子が生まれたら、必ず、名前にサイ、をいれる。と。
  言い伝えでは昔、お世話になった人の名前を継承することにより、
  その人の御霊を安らげるためとか何とか。今では真実はわかりませんけどね」
何でも大昔、この家の先祖の一人がサイ、という名前の人にたすけられたことがあり、
その人物が濡れ衣をきせられ、冤罪を課せられ死亡したのをうけて、代々、男性がその名前を受け継いでいるらしい。
真意のほどは、わからない。
それがいつの時代からつづいているのかすらも誰も知らない。
ただ、その言い伝えがまことしやかに、この家の本家に伝わり、その伝統は受け継がれている。
「あのね。私の名前もね。サイ、の呼び方から、彩ってついたんだよ?」
アヤ、という名前はきいていたが、そのことに思わず顔を見合せてしまうヒカルと佐偽。
葵の君のお導きでしょうか?
そんなことをふと思う。
もしかしたらこの少女は葵の君の遠い子孫なのかもしれない。
ここまでそっくりなのだから、その可能性も否めない。
「そうなんだ」
「えっと。進藤君、でしたわよね?それでよかったらもっていってくださいな」
出されたのは何かどこか趣のある湯呑がひとつ。
何でも彩の祖父が大切にしていた骨董の中の一つ、らしい。
『これは……』
「え。何だかすいません。でもたすかります。じゃあ、お言葉あまえて、いただきます」
五千円で加賀の満足いく品が手にはいる、とは思えない。
それゆえに素直に感謝を表すヒカル。
「お兄ちゃん。ほんとうに今日はありがとね!」
「こっちこそ。いいものみせてもらったしね。それじゃ、失礼します」
たわいのない会話をしつつも、遅くなっては何だから、というので少女の家をあとにする。
姿がみえなくなるまで手をふる少女とその母親の姿を確認し振り向きながら、
「なあ。佐偽。人助けって何だかいいな」
『そう。ですね。しかしヒカル、協力ありがとうございました』
「何いってんだよ?俺だって、あんな大人をのさばらしとくのは大っきらい、なんだぜ?
  お前もそれはよくわかってるだろ?」
『そう…でしたね』
この負けん気の強さはヒカルにしろ虎次郎にしろ通じるところがある。
それゆえに、くすっと笑みを浮かべつつも、二人、帰路にとついてゆく……

ごくっ。
「お…おまえ!?これどうしたんだ!?」
「どうした、って加賀が変わりの品もってこいっていったんじゃんか」
確か将棋部は朝も早練をしていたはず。
それゆえに将棋部にと顔をだして昨日の湯呑を加賀にと手渡す。
ヒカルから手渡された湯呑をみて、おもわずのどをならしてしまうのは仕方がない。
「昨日、ちょっといろいろあってさ。それ手にいれたんだ。加賀が満足するかわからないけどさ~」
満足もなにも。
加賀の目利きが確かならば、はっきりいって買えば百万は超える品のはずである。
ぐしゃ。
「って、加賀!何すんだよ!?」
「上出来すぎるしなだな。だけどこれはお前がもっとけ」
「え?でも?」
「お前にはきっとそれがいつか必要になるはずだろうしな」
そう。
彼の実力ならばいずれ囲碁界のトップにたつであろう。
そのときにこれがあるのとないのとでは世間からうける印象はかなり違う。
ヒカルの頭をぐしゃりとなでながらもそんなことをいってくる加賀の言葉に首をかしげ、
「って、加賀がかわりの品をもってこい、っていったんじゃんかっ!」
「それはそれ。これはこれ。進藤、放課後つきあえ。変わりの湯呑、おれが選んでお前が買う。
  それで簡便してやるさ」
「変な加賀……」
『まあまあ。いいじゃないですか。ヒカル。それはあの子たちの感謝の気持ちでもあるんですから』
虎次郎の影響で普通の陶器にも多少は詳しい。
だからこそ何となく加賀のいいたいことを察してにこやかにほほ笑みながらもいってくる佐偽。
この場で理解していないのはヒカルのみ……


                                -第25話へー

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あとがきもどき:
薫:何だかオチが…おちがぁ!
  ちなみに、陶器はリュウセンにしたかったんですけど、あれはさすがにん百、千万なのであきらめました(笑
  次回で話しをとばして七月ですv
  院生試験にうかったら一色碁をばv
  何はともあれ、ではでは、次回、ようやく院生試験&塔矢明たちのプロ試験v
  ではまた♪

2008年8月9日(土)某日

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