まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。
結局、さまざまな場所を検索しまくったあげくに、明治神宮におちつきましたー。
本当は、佐偽に新幹線のらせて騒ぎまくる彼をやりたかったんですけどねぇ。
手頃な、しかも日帰りで東京からいける距離にある有名所の神社仏閣がみつからなかったのですよ(涙
年末年始なので車は大渋滞なのはわかりきってますからね。
なので公共の移動手段で~…とおもったのですけど……
なかなか、江戸時代、もしくは平安時代からある場所…というところで手頃な場所はみつからず…
なので東京在住のヒカルなので手頃な神社さんにおちつけました(かなりまて
今回は、やはり普通に神職についている人々でも佐偽の姿は確認できませんよ~?
といういわば第三者からみての佐偽象、というものを焦点に、
そしてまた、佐偽の過去との出会い、みたいなものをとりこんでおりますv
何はともあれゆくのですv
#####################################
「佐偽。佐偽にはお墓とかはないの?」
『私は入水自殺しましたからねぇ。そんなものはおそらく……』
「家族は?」
『いい交わした相手はいましたが、今ではどうなったのかは……』
「そう。あ、じゃぁ、私が佐偽の墓をつくるよ!あ、でも佐偽はここにいるんだからおかしいかな?」
『虎次郎……』
その気づかいが、優しさがとてもうれしい。
彼自身、ひとと対局することなくすべて自分に打たせてくれている、というのに。
虎次郎。
私はあなたと出会えたことを誇りにおもいます。
本来ならば出会うことすらなかったはずなのに、長き時を超えてめぐりあったこの奇跡。
いずれは、虎次郎も私をおいて逝ってしまうのでしょう。
だからこそ、この一瞬を大切にしたい。
そう……二度と大切なものを失いたくないから……
星の道しるべ ~憶測、そして新たな年へ……~
「よっし!また勝った!しかし、ほんっとお前、強いよなぁ……」
自分もまだ一度も勝てない。
塔矢の家に宿泊したのはつい先日。
有意義といえば有意義な二泊三日ではあった。
しかし正月早々、何をやっているのか?
という思いも第三者からみればあるにはあるであろう。
今日は大みそか。
あと数時間で年があける。
記念に年明けネット碁三昧!とヒカルが提案したのは夕方のこと。
佐偽からしてもそれは嬉しい申し出ではある。
何しろ今日ばかりはいくら夜更かししても怒られない日でもあるらしい。
それゆえのヒカルの提案。
「って、うわっ!間髪いれずに対局申込だ。佐偽、うける?」
『はい!そりゃあもう!でもヒカルはうたなくてもいいんですか?』
「いいのいいの。俺からの佐偽へのお年玉みたいなもんだから」
しかも、すべて中押しで勝っているから気持ちがいい、というものではない。
幾度もチャット画面が示されるが、対応することなくぽちっと画面は閉じているヒカル。
以前は丁寧に翻訳サイトをつかって文章を確認してたりもしたが、最近はそれも面倒になりはっきりいってしていない。
『でも、ヒカル。年越し蕎麦、ありがとうございますv』
「どうでもいいけど。そばたべつつも対戦であっさりかてるお前のほ~がすごいよ……」
まあ、味のぬけたそばの本体をヒカルがたべなければいけない、という難点はあるにしろ。
やはり佐偽が喜ぶ顔は見ていてとても心が晴れる。
「とりあえず、明日は初詣にいこうな。ってお前神社とかでも平気なのかな?そういや?」
『虎次郎とはよく神社仏閣にも立ち寄ってましたが?』
事実、虎次郎とは佐偽はよくさまざまなところに立ち寄った。
そんな中でも彼に気づいた人々は皆無であったことも事実。
「なら問題ないな。よっし!次にいくぞ!」
『はいっ!』
「お前、食べ終わったら器の中身は元にもどしとけよ?」
何しろ器の『中身』ごと佐偽はいまもっていっている状態。
それゆえに物質的な器のほうは多少くすんだようになっているのも事実。
まあ、ここには第三者はいないのでそんな違和感に気づくものなどはいるはずもないが。
「明日は母さんたちと初詣、だしな」
父は大みそかだというのにやはり仕事らしい。
戻ってくるのは今日の深夜近い時刻らしい。
それゆえに、明日は家族で少し遠くの神社まで初詣にいくことが決まっている。
そ~いえば。
こいつの墓とかあるのかな?
ふとそんなことを疑問におもうが入水自殺をし、
さらには汚名を着せられたままかもしれない佐偽にはそんなものは存在していない可能性もある。
佐偽に詳しく聞く、というのは酷、というものだろう。
そう判断し。
「とりあえず、次は佐偽。どいつとうちたいんだ?」
『そうですねぇ。できるだけ強い人がいいですけど。これではわかりませんしねぇ』
そもそも、名前だけでは相手が強いかどうか、というのはまったくもってわからない。
「たしか。前プロ棋士だとかいうichiryuとかいう人もいつもいないしね」
ゼルダ、となのっていた人物はよくみるが、いつも観戦中、となっている。
「とりあえずは。お前が強い、とおもったやつは必ずいえよ?メモにのこしとくから。
それだと後々またみつけたら対戦できるだろ?」
『はいっ!』
すでに毎日の対戦の棋譜はパソコン上に作成して保存し、いつでも見れるようにはしていたりする。
最も、誰にみせるでもない、たんなる自己満足にすぎないのだが。
そもそも外付けのHDに記録しているのでまずそんなものがあるなどと誰にも気付かれていないのも事実。
実際に、塔矢が家にきたときもほとんどパソコンなどは使いもしないのだから当然、といえば当然のこと。
『ヒカル、では次は、こちらの人をおねがいします』
何やらすでに数十人以上もsaiとの対局申込の待ち、となっている。
「よっしゃ!今日はとことんつきあうぜ!」
『わ~い。ヒカル、ありがとうございますぅっ!』
相手の顔がみえないのが多少の難点ではあるが、だがしかし好きなだけ碁がうてる。
というのは何ともとても喜ばしい。
佐偽にとっては何よりも碁がすべて、なのだから。
「…やっぱりだ。やっぱり強くなってる……」
ごくり。
まさかとはおもったが、パソコンをつけてみた。
大みそかだというのにsaiはネット碁をやっている。
いや、大みそかだからこそ、といえるのかもしれないが。
気になるのはこの二十四日から昼間でも姿を表した、ということ。
まるで…そう、子供の冬休み期間にあわせたかのごとくに。
本因坊秀作をにおわせながらも、現代の定石を学びそれを吸収してあらたな力をつけていっているのは一目瞭然。
「sai…何ものなんだ?いったい?」
aai…佐偽。か。
そういえば、塔矢明がチャットしたやつがそんな名前で呼んでたな?
ふとそんなことを思い出す。
「シ…し?何だっけ?わすれた」
たしか塔矢明が相手の名前のようなものをつぶやいていたような気もしなくもないが、所詮は他人ごと。
「とにかく!来年こそプロ試験にうかってやる!」
今年、始めてプロ試験をうけたがおしくも負けてしまった。
夏がくれば再び試験が開始される。
そのために院生になって日々訓練しているのだから……
「指導碁…かぁ。まあ、佐偽らしいけど」
まずは初めてと思われる人物に対しては大体佐偽は指導碁をうち様子をみている。
それで大体の相手の力量がわかるらしい。
それでも中にははじめから指導碁をお願いします。
とチャットで話しかけてくる人物もちらほらといる。
さすがに指導碁。
【Guidance
go】
という文字はもはや見慣れたもの。
中には英語以外の文字。
たとえば。
【La
guía va】
という文字も垣間見られるのも事実だが。
幾度もそんな文字をみていて翻訳サイトをつかい意味を調べていればおのずと見ただけで理解できてくる。
というもの。
「それで?佐偽?どうする?この人の申し出、うける?」
『そうですねぇ。ヒカル。時間は平気なんですか?』
「それは大丈夫だけど?今日は夜更かししても問題ないし」
『では、うけるとしましょうか?』
「なら、了解。といれて…と」
とりあえず、短くチャットにok、といれて対局を始める。
佐偽による指導碁は見ていてよどみがなく、それでいて隙がない。
ヒカルとうつときも指導碁をうってきてはいるが、それでもするどく切り込んでくる。
チッチッチッ……
幾度対局をこなしたであろうか。
ふと気付けばすでに時刻は十二時を回りかけている。
それゆえにパソコンの対局をひとまず終了させて碁盤にと向き直る。
横には時計をおきつつ、
「さってと。カウントダウンだ。三…二…」
『何か新年をむかえる日ってわくわくしますよねぇ』
それは今においても古の時代においても共通事項。
ちっ。
「よっしゃ!年があけた!あけましておめでとう!佐偽。これからも今年もよろしくな!」
『ヒカル。こちらこそ』
それぞれ互いに深々と頭を下げて、顔を上げるとどうじに互いに顔を見合わせて思わず吹き出してしまう。
とりあえず、パソコンをつかって友達関係には今年は年賀状をだしている。
今まではほとんど手書きだったのだが、やはりパソコンで印刷したほうがはるかに効率はよい。
「ヒカル~!年があけたからってあまり遅くまでおきてないのよー!
明日ははやいんですからね~!」
「は~い!」
階下のほうからそんな声が聞こえてくる。
「じゃ、佐偽。一局うってから検討してもう今日はねるか。明日はおそらく朝早いだろうしな」
『そういえば。初詣はどこにいくんですか?』
そんなヒカルの言葉にふと疑問に思い、きょとん、としつつも問いかける佐偽。
「明治神宮に電車つかっていく予定らしいよ?」
『?メイジ…?どのような神社ですか?』
「え~と。たしか明治天皇を祭った神社…だったっけ?」
ヒカルもさほど詳しくはない。
ただ、確かそうだったような気…がする、という程度。
『テンノウ?ああ、御上のことですか。そういえば今ではそのように呼ばれているらしいですねぇ』
「そ~いや、お前、以前は天皇直属の指南役、だったっけ?」
『え?ええ。そうです。…昔の話、ですけどね…』
もし、佐偽があのとき、心の動揺を克服して碁をうっていたら佐偽の人生はどうなっていたんだろうか?
そもそも、ごまかしをおこなったあいてはそれからどうなったのだろう。
そんな疑問がふとヒカルの脳裏をよぎる。
だがそれは今やだれも知ることはおそらくまずできないであろう。
今ある事実結果がすべてなのだから……
ざわざわざわ。
「うわ~。すげえ人」
「ヒカル?はぐれないようにね?はぐれたら門のところにもどるのよ?」
『うわ~。すごい人だかりですねぇ』
軒並み露店がならび、さながらお祭り。
とこかしこで縁起ものが売られ、さまざまな屋台も道すがらに出店されている。
「わかってますって。しかし、こりゃ、お参りするのにもなかり時間かかりそうだな~」
よくよくみれば参拝客はかなり時間待ちというかかなり並んでいるのが見て取れる。
『でも今も昔もかわらないのですね。お正月を祝う人々は。そういえば、ヒカルは着物をきないのですか?』
確かに、中にはきちんと着物をきている人達の姿も垣間見えるが。
「いいよ。あんな面倒なもん」
『そうですかねぇ?ものすごく楽ですよ?昔のほどややこしくないですし』
「そりゃ、お前はそうかもしれないけどさ」
十二単が当たり前であった時代のものにそういわれても苦笑するしかない。
「佐偽。お前必ず俺のそばにいろよ?というか少しでも離れてたら精神上あまりよくないしさ~」
そもそも、佐偽は実体をもっていない。
つまりは佐偽がうろうろしても周囲にいる人たちをすり抜けてしまう。
わかっていても、やはり実際にそれを目の当たりにすれば複雑な気持ちになってしまうのは仕方がない。
「ヒカル~!何してるの!はぐれるわよっ!」
「あ、は~い!」
そんな会話をしていればいつのまにか両親はさくさくと先にといっている。
確かにこの人ゴミではぐれればみつけるのは普通ならば困難であろう。
最も、ヒカルからすれば人独自がもつオーラを利用して見つけ出すことは可能、なのだが。
「とにかく!まずは初詣だ!」
『はいっ!』
今も昔も正月に神社仏閣にお参りする習慣はかわっていない。
何でもこの場所は今では天皇陛下、と呼ばれている帝を祭ったものらしい。
だからであろうか。
何か感覚がとても懐かしいものとかんじてしまうのは。
彼の職場は宮中であった。
悲しい思いでもあるにしろ、たしかに自分の中ではとても誇らしかったのはいうまでもない。
だが、何よりも帝に自身の潔白を信じてもらえなかったのが何よりも心のしこりとして残っている。
電車を乗り継ぎ、辿りついたものの、時刻はすでに昼近く。
年またぎの参拝者も午前中にはかなり見受けられたが、今ではだいぶこれでも落ち付きをみせている。
「ヒカル。あなたはお守り、どれにする?」
ずらり、と並んでいるお守りの数々。
ときどき気になるのはきちんと祈りをささげないままに売りに出されているお守りなどがある、という点。
並んでいる中にも祈りをささげられているものと、ただ納品されたままの状態と。
つまりは中身がはいっていない状態のものもかなり見受けられる。
何だかなぁ~……
わかるがゆえに毎回思ってしまうが。
まあ、こういうのを買うのは一種の恒例行事、というか日本人ならではの気休めのお守りのようなもの。
「ん~。この中にはこれ、といったのがないや。他のところみてくる」
「そう?なら。はい。これ。お守り代」
「サンキュ~。お母さん」
両親にはヒカルが何をいいたいのか今だによく理解できない。
そもそも中身が入っていない云々、と息子にいわれてもさっぱりきっぱりわからない。
はぐれ人用のために門のところにはいくつかの長いすが設けられており、ちょっとした出店の茶屋のようなものが出店されている。
こういった場所では迷子案内を放送する、というのはあまり見受けられない。
もっとも、迷子案内所、という場所は必ずどこにでもあるが。
「さってと。佐偽。お前もお守りいる?」
『できればほしいですけど、私、もてますかねぇ?』
「…それがあるか。う~ん……」
食べ物などはどうにか佐偽にも与えることができるのは判明した。
したが…こういった部類のものはよくわからない。
と。
「おや?そこの君、ずいぶんと位の高いお人をつれておられるんだねぇ」
何やら宮司らしき人物がふと建物の上、つまりは廊下を歩きながら声をかけてくる。
「?おじさん?もしかしてこいつが視える、の?」
服装からしてどうやらこの神社の宮司の一人らしい。
「いや。私にはものすごくまばゆい光、しかみえないけど。そこまで位の高い霊がついている子をみるのは久しぶりでねぇ」
そういえば、塔矢のお母さんも光がどうの、とかいってたっけ?
そんなことを思うが、
『?ヒカル?この人にも私が視えている、のですか?』
「ヒカリだけだってさ。前にも人にいわれたけど、こいつそんなに位高い霊かなぁ?」
『??よく私はわからないのですけど?』
何よりも当の当人が無自覚極まりないのである。
それゆえにいくらそういわれてもピン、とこないのは当たり前。
「ずいぶんと位は高いとおもうよ?それはそうと、君は何か探し物かい?」
「え?あ、えっと。お守りのいいのさがしてたんですけど。そういえば宮司さん?
あの表でうられてるやつ、きちんと祈祷ささげてないのはいってませんか?」
ぐっ。
さらっと子供にいわれて思わず言葉につまりつつも苦笑してしまう。
「わかる人にはわかるからねぇ。何しろこの正月の三が日はかきいれどきだろう?
祈祷と納入が間に合わなくてときどきまじってしまうんだよ。
まあ、きちんと数を始めから注文せずに追加追加でやる事務所のほうにも問題があるとおもうけどねぇ。
私たち宮司とすれば」
何でも経費削減云々といって変なところを削るからそういうことがおこりえてしまう。
「お守りか。時間あるかい?よかったらいいモノを紹介するよ?」
このような位の、しかもどうみても徳が高い、
しかも神気を感じるような指導霊がついている子供にそこいらの普通のお守りは似合わない。
「ほんとう!?どうする?佐偽?」
『いってみましょう。ヒカル』
その様子をみていてどうやらこの子供は光しかみえないその霊の姿を自覚し、さらには会話すら可能らしい。
それほどまでに強い能力をもっている霊である、ということはわかる人にはわかる。
「そっちの裏手からまわっておいで」
「は~い」
このあたりはあまり人どおりがいないがゆえに周囲には他の参拝客は見受けられない。
こういった場所の本物の宮司や巫女はヒカルにとっても昔から心休まる存在ではある。
何しろ周囲のものが誰も視えない状況の中、唯一わかってくれる存在、といっても過言ではないのだから。
「おや。これは。珍しい子だねぇ」
「ほんとう。最近これほどよき指導霊がついている子はなかなかいないからねぇ」
通された部屋はどうやら控え室なのかほかにもいく人かの宮司や巫女の姿が垣間見える。
全員が全員、ヒカルのそばにまばゆい光を感じてそれぞれ感想を口にする。
「…なあ。佐偽?塔矢のお母さんもいってたけど、お前ほんと~に指導霊なわけ?」
『?私はただ神の一手をきわめてないがゆえに現世にとどまっているだけですよ?』
「…あの~?とうのこいつが無自覚みたいなんですけど?ほんとうにこいつ、指導霊なんですか?」
とりあえず、宮司や巫女たちに対して確認をとるヒカル。
「?ああ。君はその神聖なる人の姿が視えて、いるんだね。話もできるんだ。
われわれには姿すら視えないかなり高貴な霊、というのは間違いないよ」
「…は、はぁ?」
こいつが?
おもいっきり疑念が頭をよぎる。
『?コウキ?ヒカルがですか?』
「…いわれてるのはおまえだってば」
まったくもって無自覚な佐偽におもわず突っ込みをいれるヒカル。
「ええと。たしかあの数珠があったとおもうけど。この子、お守りをさがしてるらしいからこの子にどうかな?
とおもったんだけどいかがなものでしょうかね?」
ヒカルをこの場に案内してきた人物が他の人物にと話しかける。
「え?ああ。なるほど。たしかに。この子ならばいいかもしれませんね」
「まあ、あれは使い手というか持ちてにもよるでしょうけど」
何かそんな会話をしているが、ヒカルにはよく意味がわからない。
「あ、私。もってきます」
いいつつ、すくっと奥にとひっこんでゆく巫女の一人。
「さて。と。君の名前をきかせてくれるかい?あと後ろの人の名前もできたらぜひ」
「あ。えっと。俺は進藤光。といいます。んでこいつは佐偽。藤原佐偽、です」
「シンドウ?ああ、なるほど。たぶん君の先祖には神気道に通じたひとがいたんだろうね。
君の能力は生まれつきかい?周囲にそんな人いるのかい?」
「まったくいません。なのでこういうところは気がやすまりますけど」
視えない、ということはそれだけで他人は排除する傾向がある。
そのことを彼らはよく知っている。
「しかし。君も、きちんとそれなりの修行したらかなりのものになるよ?どう?やってみない?」
「遠慮します」
きっぱり即答。
こういう場所はたしかに心休まるものがあるが、それでもこういった勧誘だけはものすごくお断りである。
「下手にそんなことしたら、余計に大変ですし。俺、ひとの命あずかるようなまねは絶対にむり!」
中にはあまり力がないのに無理をしてそんなことをしようとして他人にも自分にも迷惑をかける人物がいる、というのに。
自身の能力と、そしてまた限界を知っているものは無理はしない。
「まあまあ。こんな高貴な指導霊がついてる子なんだ。他に何かこの世でやらなければならないことがあるんじゃないのかな?」
高貴だの、指導霊だのいわれても、ヒカルにはいまだにピンとこない。
宮司達までがいうのだからたしかに間違いなくかなり力があることは事実なのだろうが……
『まあ、ヒカルの能力ならば。たしかに。陰陽道とかもできるかもしれませんけどねぇ。
でも私は陰陽道のことは詳しくないですよ?
それに何よりヒカルの性格上。陰陽道の過酷な特訓に耐えられるとは私には……』
「わるかったなぁ!根性なくて!いいの!オレは俺で!」
しみじみという佐偽に思わず声にだして突っ込みをいれてしまう。
「あはは。君は君の指導霊と仲がいいんだね。どんなやりとりしてるのかわれわれにはわからないが…
あ、ともどってきたようだね」
そんな会話をしている最中、何やら奥にひっこんでいた女性が戻ってくる。
その手には小さな桐の箱のようなものが握られている。
「それは?」
「なかなか、これは普通の人たちの手にはおえなくてねぇ。
なので明治天皇が崩御され、この宮が作られたときに一緒に奉納されたものなんだよ」
何でも話をきけば昔から天皇家に伝わっていた品物の一つらしい。
いわれなどはまったくもってわからないが、それでも代々の天皇はこれを大切にするように。
と祖父たちから言われて今日までいたっていたらしい。
「そんな大切なものを、何でおれに?」
「何というのかな?君の後ろの人がこれに含まれてる気とよく似てるから。
きっとこれは君がもつべきものなんじゃないか、とおもってね」
ゆっくりと開けられた桐箱の中には一つの数珠がおさめられている。
特徴的なのは何やら見覚えがあるような紅い石が二つ、それに使われている、ということ。
「…あれ?…え?」
おもわず、そこにはめ込まれている石と、佐偽を見比べる。
どうみても石の質的に佐偽がしている耳のピアスというか耳飾りと同一のもののような気がしてならない。
「これには文字が刻まれていてね。われわれにも意味がわからないんだけど……」
たしかに、水晶でできているその石には細かく何かの文字が刻まれている。
『これは……』
我が信愛なる佐偽 そなたを信じきれなかったわが身の不遇をどうか許してほしい
佐偽の御霊がすこやかなるように ここにこれをつくらせん
ヒカルが手にとると同時にヒカルの脳裏、そして佐偽の心にその刻まれた言葉が伝わってくる。
「…佐偽!?これって!?」
『大君……あなたは私の潔白を信じてくださったのですね……』
横をみれば涙をつうっと流している佐偽の姿が目にとまる。
どうやらこれは、佐偽にあてられたものらしい。
それはいくらヒカルでもわかる。
「…かつての佐偽にあてた帝からの謝罪の品?これって……」
ならば、天皇家に伝わっていた云々、というのもあるいみ納得できる。
そもそも、佐偽は天皇家の碁の指南役だったらしいのだから。
そんなヒカルのつぶやきに思わずその場にいた人々は顔を見合わせ、
「どうやら。やはり君の背後のひとにゆかりのある品、のようでしたな。
おそらく君とそちらの方が今日、この場にみえられたのもお導きでしょう」
どういったゆかりの品なのかきいてみたい。
だけども何だか聞くのが畏れ多いいような気がひしひしとする。
そもそも、帝からの謝罪云々…とヒカルがつぶやいていたことから何かがあり、
しかも彼についている指導霊は古の天皇とかかわりのある人物なのであろう。
というのは容易に想像はつく。
「それは君たちのものですよ。どうぞお持ちください」
「え?でもいいんですか?」
そもそもそんな大層なものをかってにしかもこんな子供の自分にゆずっていいものなのか。
そんなヒカルの疑問に対し、それぞれが顔を見合わせ、
「もの、というものはあるべき場所にあるのがいちばんいいのです。
何よりも、そのしなを作られた方はおそらく、あなたの手元にあることを望むでしょう」
ヒカルの、小学生の手にはその数珠はあまりにも大きすぎる。
だがしかし、二つに折り重ね、手首につければ普通のブレスレット、として使えなくもない。
『感謝いたします。このような品を残してくださっていて』
すくなくとも、伝わってきた文字からは自身の疑いは一番信じてほしい人には潔白だ、とわかっていた。
それがわかっただけでもかなり嬉しい。
すっとその場にすわり、宮司達に丁寧に頭を下げてお辞儀をしている佐偽であるが、宮司達にはその姿は視えることはない。
「えっと。宮司さんたち。佐偽が感謝します、って」
伝えたほうがいいのかよくないのか。
それでも佐偽が心から涙を流していることくらいはヒカルでもわかる。
だからこそ佐偽にかわって佐偽の言葉を彼らにと伝えるヒカル。
「おっと。もうこんな時間か。次の祈祷の時間が近い。君もくるかい?」
「え?いえ。両親が心配してたらいけませんから」
正月のあのおごそかともいえる祈祷にまじるような気分ではない。
何よりももらった数珠の作り手の気持ちが何となくだがつたわってくるからなおさらに。
触れてわかった後悔の念。
それゆえに大切なモノをなくしてしまったものの悔恨。
それらがつたわってくればなおさらに。
佐偽にはいえない。
いえばおそらく優しい佐偽のこと、そのことにすら心を痛めてしまうであろう。
だからこそいえないこともある。
丁寧にと宮司達にとお礼をいい、その場をあとにするヒカル。
どうやら佐偽に話しかけられるような雰囲気ではない。
ふと横をみてみれば過去に思いをはせているのか遠くをみている佐偽の姿が目に映る。
「…ま、佐偽にはいい正月になった…のかな?」
ぽそっとそんなことをつぶやきつつも、ヒカルはひとまず門のほうにむかって歩いてゆく。
カチャカチャ。
連戦全勝。
佐偽の棋譜をつくるのは何だかとても楽しい。
正月、とはいえ里帰りするといってもすでに明子の両親はいない。
いるのは父方の祖父母のみ。
「なんじゃ。ヒカル。ここにまできてパソコンか?」
「あ。爺ちゃん」
とりあえず、お参りがすんだのちにと両親とともにやってきた進藤平八の家。
祖父の家にいく前に一度家に戻りそれぞれ着替えて車でやってきた。
そのときにヒカルがもってきたのがノートパソコン。
親族が一同にあつまり、何だかどんちゃんさわぎについていけない。
そもそも、今日は何となく騒ぐ気分ではない。
まあ、ネットにはつなげないものの、それでも普通に資料などをつくることは可能。
「うん。何かみんなの騒ぎに俺、ついてけないもん」
しかもお酒がはいれば毎度のことながらかけごとまではじまってしまう。
どちらにしても帰りは母親の運転で戻ることになるのはいつものこと。
最も、母までもがお酒を口にした場合は代行運転を頼んで家に戻ることになるのだが。
「しかし、何をつくっとるんじゃ?…うん?棋譜?」
「あ。うん。ネットとかで対局した棋譜を残してファイルにしようとおもってさ」
「ほ~。まあ、無理をせんようにな?どうじゃ?ヒカル?一局うたんか?」
「…爺ちゃん、お酒臭いよ?そんなんじゃまともにうてないでしょ?」
たしかに祖父からはぷんぷんとお酒の匂いが漂ってきている。
「何のっ!まだまだ若いもんにはまけんわいっ!」
いいつつもいつのまにかとっとと碁盤を持ちだしてきているのだからどうにもならない。
そもそも、酔っ払いに何をいっても無駄であることをヒカルはよく知っている。
ん~…どうするかなぁ。
そうだ!
佐偽!
『…はい?』
ふともの思いに更けていたさなか、いきなり名前を呼ばれて目をぱちくりする佐偽。
「おまえ、爺ちゃんとうつ?」
『ヒカル?』
「少しは気分転換になるだろ?…まあ、ものすごく酔っ払ってるけどさ」
まともな碁にはならないであろうが、すくなくとも気分転換にはなるはずである。
ヒカルのいわんとすることを察し、思わず微笑んでしまう。
本当にヒカルは優しい子ですね。
この数か月でヒカルの優しさは佐偽にもよくわかっている。
佐偽自身のことだ、というのに気をつかってくれているのが痛いほどにわかる。
『そう。ですね。ではそうさせてもらいましょうか?』
「お~い。ヒカル。何独り言いっとるんじゃ?よっしゃ!用意できたぞ!
お前がどこまで強くなったかみものじゃのぉ」
「爺ちゃんはよっぱらいなんだから、さくっとかてるよ」
「何を~!!まだまだ若いもんにはまけんわいっ!」
平八がご機嫌にお酒をたしなんでいるのはヒカルにも原因がある。
囲碁に興味をもったとおもえば短期間でめきめきと実力をつけていっている孫。
しかもこともあろうに囲碁界においては名前を知らないものすらいない、という塔矢名人。
その息子と囲碁友達になったというのだからこれまたびっくり。
ゆえに、孫自慢を含めてどうしてもお酒がすすんでいる、というこの現状。
「んじゃ、握るぞ」
「あ、おれが先番だ。じゃ、爺ちゃんが白、ね。佐偽」
『ええ。ではいきますよ?ヒカル』
たしかに気分を落ち着かせるのにはひとと対局するのが一番。
碁をうっているときには無心になれる。
ネット碁では相手の顔がみえない、というのと何か打っている、という実感があまりない。
ぱちっ。
佐偽に示されるままにと碁盤にと打ちこんでゆくヒカルの姿が、しばしの間みうけられてゆくのであった……
-第20話へー
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あとがきもどき:
薫:さてさて。でてきました佐偽に関する品の数珠v
これが後々布石となってきますのですv
ちなみに、数珠の中に組み込まれているのは佐偽がつけてた守り石。
つまりは佐偽の耳にあるピアスのようなあの石ですvあしからずv
え?誰がその石を入水自殺したはずの彼からとってあずけたか?
それは当然菫ちゃんv(まて
ちなみに、佐偽が入水自殺したのち、相手のほうは自滅していった、という裏設定v
まあ、ひとがら的に彼がズルをする、とはほとんどの者が信じなかった、というのがありますけど。
人の口に角はたてられない、といいますからねぇ~……
面白がった人の噂話によって彼は都を追い出されたようなものなのですよ。ええ(汗
何はともあれ、ではまた次回にてvv
2008年8月4日(月)某日
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