まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

さってと。
原作ではヒカル以外には佐偽の存在しりませんでしたけど。
今回のソレからもう一人、姿が視える人がくわわりますv
何しろ彼女が佐偽が消えたときのキーパーソンになりますし(かなりまて
何はともあれ、ゆくのですv

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「明。お前最近強くなったな」
「え?」
いきなり父親にいわれて思わず顔をあげる。
「以前とくらべて勝負強さがついている。何よりも前よりも伸びがある」
「そう…でしょうか?」
そういわれても自分では自覚はない。
ふっ。
「あの子の影響か。明。この冬休み、あの子を家に呼んでみたらどうだ?
  私もあの子とはまともに対局してみてみたいのもあるしな」
あの子供と碁をうったのはたったの一度。
そのときはほとんど実際に打った、とはいえない。
だが、あの子供と出会ってたしかにこの息子は格段にその力を伸ばしていっているのも事実。
「今度きいてみます」
最近の日課として土曜日、もしくは日曜日にいつもヒカルと碁をうつことになっているアキラ。
以前は何か物足りなさを感じていた日々ではあったが最近は何だか満ち足りているように感じているのも事実。
「あら?あの子がくるの?お母さんもたのしみだわv」
「?お母さん、進藤のことかなりきにいってますよね」
「あら。そりゃ、あの子はお仲間ですもの♡できたら何日でもあの子なら泊まってもらっても大歓迎よ♡」
「「??」」
明子のいうことの意味がわからずに父子して互いに顔を見合わせる。
「仲間?」
「ふふ♡あなたたちにはおそらくわからないでしょうねぇ」
たしかにわからない。
その意味すら。
「明。今日はここまでにしよう」
「はい。お父さん。ありがとうございました」
ジャラジャラと碁石を片づけて互いにお辞儀をする。
母親のいう意味はわからないものの、たしかに彼を家によんでお泊り会のようなものができたとすれば、
朝から晩まで碁がうてる、というのも。
たしかにかなり興味深い意見、ではある……

星の道しるべ   ~お泊りと同士~

「やりぃ!」
おもわず手渡された通知表を見て声をあげる。
「進藤君。二学期の後半から頑張ったものねぇ。三学期も期待してるわよ?」
まあ、ずっと5であった体育が4になっているのは多少痛いがそれでも社会科の評価があがっているのはとてもうれしい。
「ヒカル。成績あがったの?ヒカル九月の終わりころから社会が不思議と伸びてきてるものね」
「わるかったなっ!」
『そういえば。もう年があけるんですねぇ……』
旧暦だの新暦だのいわれても、ピンとこないが、すくなくとも今ある暦でいけば今は正月前らしい。
あと10日もたたないうちに年はあけ、あらたな新年をむかえる。
「でも、たしかに。もうあれから三か月たつのかぁ~」
何か毎日、ずっと一緒にいたら昔から一緒にいたような気になってるけど。
まだ三か月しかたってないんだよなぁ。
こいつと一緒にいるようになってから。
そんなことをおもいつつも、空をみている佐偽にと視線を移すヒカル。
佐偽と出会ったのは九月の十二日。
そして、今は十二月の二十三日。
何だかこの三か月、いろいろなことがあったようなきもしなくもないが。
「そういえば、ヒカルは冬休み、どうするの?」
「うん?俺?塔矢のやつがさ。泊まりにこないか?とかいってきたし。
  クリスマスおわったらちょっとばかりお邪魔する予定」
冬休みの期間は二週間程度。
たかが二週間、されど二週間…である。
十一月の連休では塔矢がヒカルの家に泊まりにきたこともあったのだが。
そのときはほとんど一日中、碁ばかりをうって時間がつぶれてしまった、というのもある。
「そっかぁ。最近ヒカル、塔矢君と仲いいもんね」
学校は違うし家もはなれている、というのに。
どちらかといえば相手のほうから率先して近寄ってきている、という感が否めないが。
「三谷は碁会所に顔をだすようになってるらしいし」
ヒカルといく度か付き合い、どうにか心の整理がついたのか、かつての碁会所に再び顔をだすようになっているユウキ。
「それよりさ。アカリ。お前のほうはどうなったんだ?例のやつ?」
「ああ。あれ?友達がやってみたい、とかいってたから。冬休みに囲碁教室に一緒にいってみようとおもって」
何でも葉瀬中にはいまだに囲碁部は完全に認められていないらしい。
未だに部員も集まっていない、そう筒井はいっていた。
それゆえに中学に入る前に何とか部員確保を内定させておきたいヒカル。
「三谷はこの前約束してくれたしな~」
というより、碁にかったら部活にはいって大会に一緒にでよう!
と無理やりに三谷を誘って、勝った、という事実があるのだが。
この三か月、ヒカルは自分でも気づかないままに棋力をかなり伸ばしている。
常に塔矢、そして世界中の人々、さらには佐偽とうっているがゆえの成長なのだが。
いかんせん、当人にはまったくその自覚はさらさらない。
佐偽もまた、自身が強くなっているのを実感してはいるがそれを別にひとにいうこともないので普通に過ごしているのも事実。
「そういえば、以前、ヒカルが大会にでて勝った、とかいうやつ?」
「うん。今度こそきちんと大会にでてみたいし!」
一番近い春先の大会が五月にある、ということを聞いた。
目標はその大会で優勝すること。
個人戦では意味がない。
団体戦だからこそ意味がある。
そうヒカルは思っているのも事実。
まあ、個人でいえば毎日のように世界各国の人々とうっているのだからそう思ってしまうのもしかたないのかもしれないが。
「はいはい。進藤君。藤崎さん。おしゃべりしてないで。はい。じゃあ、みなさん。
  明日から冬休みです。ですけどくれぐれもハメをはずさないように」
「「は~い」」
担任の教師が教壇の上より生徒全員を見渡しいってくる。
この冬休みはけっこう気がぬけない。
何しろ正月を挟んでいる休みでもある。
夏休み同様に教師が気に掛ける休みの一つ。
注意事項をいくつかうけ、ホームルームもおわり帰路にとつく。
とりあえず今日は寄り道などをせずにまっすぐと。
何しろすることは山ほどある。
どうにか作成ソフトの作り方を本にて覚え、それなりにパソコンに詳しい人に家にきて教えてもらい。
ある程度のことにできるようになったのはついこの間。
だからこそ、今まで自身が、そして佐偽がうった棋譜をとにかくパソコン上に記録として残していっているヒカル。
その作業がけっこう複雑で、しかも量が量だけにかなり面倒。
最も、それすら最近では楽しみのひとつになっているヒカルではあるのだが。
「佐偽。今日から時間あるからお前に碁をうたせてやれる時間、だいぶとれそうだぜ?」
『本当ですか!?じゃあ、ヒカルの検討するのも時間をのばします?』
がく。
「お前なぁ。最近、容赦なくなってきてるだろ?いや、まじで」
すでに囲碁に関する大まかの専門用語は頭にはいっているヒカル。
『そうはいいますけど。ヒカル。あなたは塔矢においつきたいのでしょう?』
それと私にも。
その最後の言葉はのみこみつつも微笑み返す。
「まあな。つうかあいつほんとうにすごいし。でみもてろよっ!俺だってあいつをおいこして、
  佐偽にもぜったいにおいついてやるんだからっ!」
終わりがないがゆえに楽しいものがある。
まるで、そう終わりのない円周率の比率のように。
たしかにこの三か月のヒカルの成長ぶりはすざましい。
まるで佐偽がもてる知識のすべてを吸収するかのごとくに成長をとげている。
だが、佐偽からみればまだまだ、あぶなっかしすぎるのも事実。
『ヒカルならできますよ』
ただ、問題というか気になることが一つだけ。
ヒカルは自分と塔矢以外と向き合って対局したことがほとんどない。
というかまるで皆無。
むきあってこそ得られるものがある。
そう。
かつて自身が向きあいながらも、相手のわなにはまり死を選んでしまうしかなかった一局のように。
とはいえヒカルはまだ十二になったばかりの子ども。
昔と今とではその考え方も、ましてや精神的な年齢の差もまた誤差がある。
せめて他にお金がかからなくて誰とでも碁をうてる場所があればいいんですけどねぇ。
そう佐偽は思うが、そんな心配を佐偽がしているなどとは夢にも思わず、
「よしゃ!佐偽!この調子で三学期の歴史の手伝いもよろしくなっ!」
『え?あ。はい。というかヒカル。ヒカル自身も覚えたほうが。そもそもあなたは……』
どうも授業内容とかも最近ヒカルはあまりきいてないことが多い。
佐偽のほうが興味津津で聞いているのでたしかに説明しようとおもえばできるはできるが。
そんなたわいのないやり取りをしながらも、傍目からすればヒカルが独り言をいっているようにしかみえない。
まあ、子供が独り言をいうのはよくあること。
それゆえに周囲にいる大人たちもさして気には留めていない。
そんな会話をしつつも、ヒカルは帰路にとついてゆく――


『?ヒカル?さんた・・・とは何ですか?ねえ?ねえ?』
「だからぁ。クリスマスっていうのはキリストの誕生日で……」
『キリスト?バテレン、ですか?しかしそれがどうしてお祝いになるのですか?』
そもそも江戸時代はキリスト教はご法度とされていた。
さらにさかのぼれば平安時代にはそんなものなどはなかった。
「俺に聞くな!俺にっ!」
朝方おきたらペットの下にとおいてあるプレゼント。
だがしかし、ヒカルはこれが父親、もしくは母親が買ってきてくれているのだ、と知ってはいる。
事実、霊体において、『サンタクロース』、と呼ばれる近い存在がいることも知ってはいる。
かつて人には普通は視えないものに苦しんでいたときに助けてくれたのがまさにその存在だったのだから。
クリスマス、というのに父親は出張で家にはいない。
かといって、クリスマスを盛大に祝う、というような家柄でもない。
一種の毎年恒例の行事の一つ。
ケーキを食べて御馳走をたべる。
何やらケーキを佐偽にも食べられるようにしたところ、かなりつぼにはまったらしくて涙を流して喜んでいたが。
「しかし……何でプレゼントが世界の歴史?ねえ?」
今回のプレゼントはヒカルが社会のテストの成績がよいがためか、なぜか世界史における本の数々。
塔矢の母親からも手紙でプレゼントが届いてはいたが。
その中には佐偽に、といってはいっていたひとつの首飾りがあったのも事実。
銀と水晶であしらわれているそれは、一応はヒカルが身につけ、そしてまた佐偽もまた身につけている。
品物における霊体を取り出して佐偽が身につけているので、ヒカルがつけているものにはそういった類の力が抜けたもの。
だがしかし、それぞれがそれぞれに身につけていることによって互いの力を高めることもできる。
それを知っているがゆえの明子のクリスマスプレゼント。
まあ、ヒカルもまた塔矢に対し、ストラップのお守りを渡したのでどっこいどっこい、といったところか。
『これはまた分厚い本ですねぇ。ヒカル、私もみてみたいです』
「…気がむいたらな。それより、明日の準備しないと」
とりあえず、明日から二泊三日で塔矢の家に泊まりがけで遊びにいくことになっている。
タイトル戦とかいうよくわからないものの棋譜などをもみせてもらえるらしい。
未だにヒカルは囲碁界のことをほとんど知らない。
知らないままに棋力が養われ、培われているこの実情。
だが、そんなことはヒカルも、そして佐偽も気にするはずもなく…結果として器が先にできていっているこの現状。
だが、外の世界をしらないがゆえに、ヒカルはそんなことを夢にもおもっていない。
いまだに、塔矢の父親である塔矢行洋がどれだけすごい囲碁界の大物なのか、
というのも理解していないのが現状なのだから……


「いらっしゃぃv進藤君。まってたのよ?」
にこにこにこ。
何やらにこにこと出迎えられれば思わず戸惑ってしまう。
『こんにちわ。塔矢の母上殿』
そんな彼女に対してふかぶかとお辞儀をして挨拶をしている佐偽。
ふとそんなヒカルの背後をみて一瞬驚きの表情をうかべるものの、どこか納得し、
「さ。あがってちょうだいな。荷物はそれだけ?」
「え?あ。はい」
促されるままに
「お邪魔します」
塔矢の家にくるのは二度めだけど相変わらず大きな家だよなぁ。
などと思わず感心してしまうのは仕方ないであろう。
「あ。そうだわ。明さん。お母さん、ちょっと買い忘れたものがあったので悪いけどいってきてもらえないかしら?」
「?いいですけど、珍しいですね。お母さんが買い忘れするなんて」
ヒカルが玄関をあがるとすぐに、思い出したかのようにといってくる。
「お母さんにも失敗はあるわわよ。そこのスーパーでいいから、夕食後にだすデザートをかってきてくれない?
  はい、これお財布ね」
「わかりました。進藤君。悪いけど、僕ちょっといってくるね」
「あ、ああ」
こいつ、親の前だと俺の呼び方かえるんだよなぁ。
まあ、こんな家柄じゃあしかたないのかもしれないけど。
そんなことをおもいつつも、玄関からあがることなく再び外にでてゆくアキラを見送るヒカルの姿。
ガラガラ。
ぴしゃ。
やがてアキラの姿が完全に視えなくなったのを確認し、
「ごめんなさいね。こうでもしないとお話できないとおもったもので。
  でも、おもったとおりね。水晶のネックレス、つけてくれたのね。ようやく私にも佐偽さん、という人の姿がみえるわ」
「『・・・・・・えええ!?』」
さらっといわれたその言葉に思わずヒカルと佐偽が一瞬顔をみあわせおもわず叫ぶ。
「あら。声まできこえるようになったみたいvやってみるものねぇ♡」
『あ、あの!?塔矢の母上殿!?私の姿がみえて声も聞こえるのですか!?』
佐偽からすれば驚愕せざるを得ない。
「ええ。あなたたちがつけているそれね。私の力をもいれてみたのよ。できるかな?とはおもったけど。
  正確には、進藤君が身につけていることで、私にも視えている、というだけなんだけど。
  進藤君のつけてる水晶と、あなたがおそらく霊体のみをひきだしてつけているそれね。
  それは一心同体のようなものだから、そういう手段がつかえるのよ」
いいつつも、ヒカルが服の下に隠している水晶のネックレスと、佐偽が服の上にかけているネックレスを指し示す明子。
「そんなことができるの?」
「まあ、能力の応用、だけどね。でも成功するとはおもわなかったけどね。
  私も気になってたし。あなたについた指導霊の佐偽さんってどんな人なのか。きれいな女の人よねぇ」
『あの?私、男ですけど?』
「ええ!?あら、そうなの。ごめんなさい」
「でも、何かこううれしいな。へへ。今まで佐偽の姿も声も誰にもみえなかったんだしな。な、佐偽」
『え。ええ。驚きです』
「まあ、この方法はある子供に指摘されたんだけどねぇ」
子供?
そういわれておもわず顔を見合わせるしかない佐偽とヒカル。
「?あなたたちの知り合いじゃないの?ものすごくかわいい子だったけど?
  ま、それはともかくとして。たしかに服装からして平安時代の貴族って感じの人ね。本当に男性?」
『私は男ですっ!』
くすっ。
「進藤君が言い合う気持ちもわかったわ。たしかにものすっごく人間臭い人ね。この人」
「でしょ!?こいつ、本当に大人!?とおもうのしばしばだし」
『それはどういう意味ですか!?ヒカル!?』
「言葉どおり」
『言葉どおりとは何ですか!?聞き捨てなりませんよっ!』
「…あ~……はいはい。喧嘩は別のところでやってね。あと、回りには気をつけたほうがいいわよ?」
たしかに、ヤリトリを視るかぎり、おもわず言い合いになってしまうほどに人間くさい指導霊らしい。
だがしかし、普通の人間には彼の姿は視えない。
だからこそ、ヒカルのことを怪訝におもってしまうだろう。
それらのこともあって息子の明をまずは遠ざけたのだから。
「それはわかってるんだけど、だけどこいつがいきなり騒ぐし!」
『ヒカルがきちんとおしえてくれないからじゃないですかっ!』
「だからっていきなり抱きついてがくがくゆすったりすることないだろう!?」
確かにそれは第三者からみればいきなり彼が震えだした、としか見られかねない。
「え~と…まずは、言い合いたいのはわかるけど。心の中だけにする訓練したほうがいいわよ?進藤君?」
つややかな長い黒髪をしたのほうで一つにまとめている鳥帽子をかぶった白い服の美屏風な青年。
「まあ、とりあえず。そちらからは常にこちらはみえていたでしょうけど。
  改めてごあいさつさせていただきますわ。塔矢明の母親で、塔矢明子ともうします。以後お見知りおきを」
二人のやり取りを視ながらもくすくすわらい、とりあえず改めて挨拶をする。
『あ、これはどうも。ご丁寧に。私は藤原佐偽、と申します』
え~と?
ヒカルには互いが互いに何をしているのかよく理解できない。
そもそも、どうしていきなり廊下にすわってそれぞれに頭をさげているのであろうか?
「では、佐偽さん、と呼ばせていただきますね」
『ええ。あなたのことは塔矢の母上殿でよろしいですか?』
「好きによんでくださってかまいませんわ」
「?もしもし?おばさんも佐偽も。何ちょこんと座って頭をさげまくって話してるわけ?」
『ヒカル。そもそもこれが礼儀、というものですよ?今度から囲碁のことだけでなく礼儀作法も教えていきましょうか?』
「え…遠慮しとく。お前、囲碁のことだけでもものすごく容赦ないんだもん」
それに礼儀作法が加わればどんなややこしいことになるかわからない。
そもそも、江戸時代、ひいては平安時代と今とでは礼儀作法の根本から異なる。
「とりあえず。進藤君がそのネックレスつけてる限り、おばさんにもこの佐偽さんの姿は視えるから。
  何か困ったことがあったらいつでも相談にきなさいね」
「あ。はい。ありがとうございます。あ、じゃあこいつおしつけることも可能ですか?こいつものすっごくうるさいし。
  せめて話し相手とかになってくれてたらものすっごぉぉぉぉぉく助かるときもあるんですけど…」
『ヒカル!おしつけるとは何です!ひとをものみたいにっ!』
「それは無理でしょうねぇ。この佐偽さんはあなたに憑いている指導霊なんですもの。
  それに、おそらく、心で会話ができるのもあなたたちだけだとおもうわよ?」
「…そんなもの?」
「ええ。そんなもの」
おそらく、能力がないものには彼らが何をいいたいのかよく理解できないであろう。
この会話はそれぞれが能力をもっているからこそ成り立つ会話。
明子がヒカルを仲間、といったのにはこの能力があるからこそ。
視えない、感じないものには到底わからないものがそこにはある。
「しかし。本当にかわってるわねぇ。囲碁の指導霊…か。ふふ。佐偽さんってけっこうつよいのかしら?」
「ん~。俺が知る限りは今のところ負けなし」
そもそも、今現代においても佐偽の打った棋譜…つまりは秀作の棋譜においつくことはできないであろう。
とまでいわれているようなのである。
「だけど、こいつ、見ての通り幽霊だしさ。だから佐偽が打つ場合は佐偽が指示した場所に俺がうつしかないんだけど」
『仕方ないじゃないですか。私は石ももてないんですから。ヒカルに触れることはできても』
他の品物はもののみごとに素通りしてしまう。
「ああ。やっぱり。だからあの子が進藤君の中にまるで二人いるみたい、とかいうわけね」
「あいつそんなこといってるんだ……」
確かに、直感で打っている、と言い張っているほうの碁は佐偽が指示してうっているもの。
対してヒカルがうっている碁の内容はたしかにものすごくレベルが根本からして異なる。
「まあ、しばらくは佐偽さんのことはだまってたほうがいいわよ。そのほうが面白いし」
霊に対する概念は一応、母親がそういった類の力をもっているがゆえに多少の免疫はある明。
だが、実際にそれを目の当たりにしたことはまず皆無。
「あ。明さんの部屋はここよ。もうお布団はこの部屋に運んできてるから。明とおなじ部屋でいいわよね?」
「あ。はい。すいません」
「どういたしまして♡私もその手のことの会話ができる話し相手がいるのは大歓迎だしね♡」
しかもはっきりいってここまでの美男子ならば目の保養にもなる、というもの。
雅、ということばがこれほどしっくりくる人物もまずいないであろう。
それほどまでに佐偽の容姿は目をひくものがあるのだから。
明子にアキラの部屋にと案内され、とりあえず部屋の中にはいらずに縁側に座り外をながめる。
季節は冬でありしかも十二月も終わりに近い。
しんしんと降りしきる雪が何とも佐偽の容姿と重なってさらに佐偽の存在を引き立てている。
「アキラはすぐにもどってくるはずだから。あ、何か飲み物いるかしら?」
「あ、おかまいなく~。俺、ぼ~と外ながめてますから」
『すばらしい景色ですね。ヒカル……』
どうやら縁側からみえる景色が佐偽的につぼにはまったらしく、うっとりと己の世界に浸っているのが見て取れる。
「ほんと。佐偽さん、絵になるわねぇ。写真にうつればいいのに」
おそらくそれは絶対に無理であろう。
無理とわかっていつつも、やはり記録にとどめ置きたい風景、というものは必ずある。
今、まさにそういうときなのかもしれない……

「今日、塔矢のおやじさんは?」
母親の姿はみえるが、父親の姿がみあたらない。
まあ、平日の昼間である。
普通は仕事にいっている、ととらえるだろうが、塔矢の父親の職業は囲碁棋士である。
普通のサラリーマンとはおそらく仕事の内容が大きく異なるはず。
「今日は父は地方の対局にいってるよ。もどってくるのは明日」
「?地方?地方なんかで対局あるの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・進藤~……君、あいかわらず囲碁の世界のことしらないよね……」
きょとん、としていわれるその言葉におもいっきり溜息をつくアキラ。
実力はめきめきと普通にうっていてもつけてきているのがわかるというのに。
肝心要な必要なことを何一つしらない。
まあ、周囲が碁にまったく詳しくない状況の中でよくもまあここまで実力をつけていっている。
というほうが驚愕に値しなくもないが。
最近では、ヒカルいわくの直感打ちでなくても、アキラとそこそこの勝負するまでにおいついているのも事実。
当人はまったくもってよくわかっていないようではあるが……
「だって、碁をうつのに必要ないじゃん?それで、地方で対局なんてあるの?
  何かいいな~。それって。つまりさ。対局にかこつけて観光ができるんだろ!?俺旅行とかしたことないしっ!」
え~と……
このあたりの発想は子供だから、ととらえていいのだろうか?
とりあえず、母にいわれて買い物から戻り、まずは互いに碁を打ちあっている今の現状。
目をきらきらさせていうヒカルのセリフに思わずこめかみをアキラが押さえてしまうのは仕方ないであろう。
「でもさぁ。囲碁のプロとかいうのって、そもそもどうして地方対局とかがあるわけ?」
「…全国に日本棋院はあるんだよ?」
「そうなの!?」
ふぅ。
まったくもって知識もしらないままに実力をつけていっている彼にあるいみ畏怖するもののそれでいて先がみてみたい。
というのも事実。
そういえば、彼とは碁を打ちあいつつも、
その検討で喧嘩口調になるがゆえに囲碁の世界のことをあまり詳しくはなしていなかったような気がする。
本当に今更、というような気もしなくもないが。
今日から二泊三日。
つまり時間はたっぷりあるわけで、ちょうどいい機会かもしれない。
「いいか?進藤?以前、君にはプロを目指す集団、院生、のことは話したよね?」
「え?あ。うん。俺がチャットで聞いておこられた、あれ、だろ?」
「そのときの相手の人はものすっごく気の毒だったとおもうよ…今でも……
  とにかく。囲碁のプロになるのは三十歳まで外来の試験受付が許可されてるんだ」
いともあっさりと院生のイの字もしらない彼にまかされて。
そのときの心情は知らない相手とはいえ推して知るべし。
「?外来?」
「つまり。院生でもない、普通の人も試験がうけられる、ということ。碁の棋士を目指す人はけっこういるからね」
「へ~」
『ほ~』
どうやら佐偽も現在のそんな状況をしるはずもなく、興味津津で横にちょこん、と座ってきいている。
「でも、何でそんなにプロ目指す人っているの?そんなにもうかるの?」
「……タイトル戦、とかしってる?」
「最近、ときどき何とか戦の攻防したとか新聞でみるにはみるけど、意味はわかんないけど」
碁に興味をもち、一応新聞のそういった分野にも目がむくようにはなっている。
だが、それだけではっきりいって詳しくはない。
「僕の父が名人、と呼ばれているのはしってるよね?」
「あ。うん」
塔矢名人、というのはどうやら囲碁の世界ではなかなり有名らしい。
アキラをつれて祖父の家にいったときの祖父の舞い上がりようはヒカルの記憶にも新しい。
「その名人戦の戦いで優勝すれば約二千八百万」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
「…は?ちょっとまて。塔矢。円、じゃなくて万!?何!?その桁違いの数値は!?」
おもわず身を乗り出して塔矢につめよるヒカル。
そもそも、そんな金額など母がときどきかうロト6の賞金一欄でくらいしか目にしたことはない。
最も、ヒカルの母も一度もそんな大金をあてたことはないが……
「タイトル戦にはいくつかあって、基本は全部で八つあるんだ。
  基本的に有名なのが棋聖戦や本因坊戦だけど」
「キセイ?…本因坊?それって虎次郎…いや、秀作のこと?」
ついついいつも、佐偽が虎次郎、とよんでいるのでそのようにいってしまうのはヒカルの癖。
「君、変なところで博識だよね。たしかに。本因坊秀作の幼少名は虎次郎、といったらしいけど。
  とにかく、今でもその彼の功績をたたえて、そういうタイトルがあるんだよ」
「へ~」
佐偽、知ってた?
『いえ。まったく』
というか、だけど虎次郎の公式手合いってお前が全部うってたんだろ?
『ええ』
ということは名前がちがえど佐偽の功績って現代にまで残ってるんだ~
その名前が知られていないにしろ、佐偽の功績はたしかに歴史に名前を残しているらしい。
「…へ~。って、進藤~。君も覚えたほうがいいよ?以前もいったよね。僕はプロになるつもりだ。って」
「そういやお前そんなこといってたな。しかし囲碁のプロ…って、ああ。だから生活なりたつのか。
  俺、ただ碁をうつだけでどうやって生活してるのかな?とかおもってたんだ~」
趣味の範囲ならともかく、碁一筋で生活するなどヒカルはまったく頭にもいれていなかった。
「ほんっと。進藤。もうすこし囲碁界のことをしったほうがいいよ?君もその気になればプロになれるんだし」
「あ~。絶対に無理。というかなり方すらしらねぇもん。そんなに簡単に誰でもなれるなら、
  今ごろ世界中、プロ棋士がごろごろしてるんじゃねえの?」
自分の実力がそのレベルに達している、とすら思わないがゆえのヒカルのセリフ。
ブロになりたくてもなれない実力しかない人々からすればおもいっきり嫌みにしかきこえない。
「…君の場合はかじ取り役が必要かもね。まずなるなら院生になるのがてっとり早いかも……」
おそらく、外来で受験してもここまで打てれば五分五分以上の確率で進藤光は試験に受かる可能性は高い。
だが、彼は自分以外と向き合って対局したことははっきりいってほとんどない。
それが唯一の弱点、といえば弱点であろう。
最近では目算もきっちりとできるようにもなっているのが見て取れる。
そもそも、囲碁の世界にヒカルの両親が興味をまったくもって抱いていない、というのはここ数か月の付き合いで知っている。
ゆえにいきなりプロ試験をうけたい云々いってもおそらくヒカルの両親は許さないであろう。
まあ、祖父らしき人物はアマチュアながらも段位所得者らしいので応援くらいはしそうであるが……
「でも、いいなぁ。せめて一万でもあったら好きなものたべられるしなぁ……」
桁が違うのでよくよくあまりピンとこないのも事実。
はあ……
どうやら根本的に進藤は意識の改革が必要かもしれない。
自分は確かにプロになる。
その決意に代わりはない。
だからこそ溜息をつかぜざるを得ない。
彼もまたプロになればきっと囲碁界に新しい風がふくであろう。
それがわかっているからなおさらに。
『プロ。ですか。たしかにヒカルならなれるでしょうねぇ』
そんな二人の会話をききながらふとおもう佐偽。
そもそも、ヒカルのさまざまな人との対局をみてみたい、というのもあるにはある。
「ま、大人になってからのことは考えてもしょうがないし。とにかく塔矢!うとうぜ!」
…どうやらプロになるのは大人になってからの話、ととらえているのも溜息つかざるを得ない。
そもそも、プロ棋士になるためには年齢の上限はあっても下限の制限はない、というのに。
それがどうやらわかっていないらしい。
「…どうにかならないのかな……」
おもわずぽそりとアキラがつぶやいてしまうのは仕方がないであろう。
だがしかし、それは結果として進藤光、という個人が決めることであって彼にはどうにもできないのも事実……

ころころころ。
思いっきり笑ってしまう。
「笑いごとじゃないです!お母さん!」
ぐ~
すでに進藤光は横のほうで爆睡しているのが見て取れる。
しばらくは布団で押しあいっこなどをして子供らしく遊んでいたのも事実だが。
ふと気付けばヒカルのみ夢の中に旅立っているのが見て取れる。
無邪気な寝顔にさらに溜息をつかずにはいられない。
それゆえに、そっと部屋からでて縁側に座っていればやってきた母親とばったりと会い、
縁側に座りながら夜空を眺めての相談会。
「まあ、あの子はそういう子なのよ。ねぇ?」
『確かに。ヒカルはああいう性格、ですからねぇ』
思わず同意を迫られて、しみじみとうなづく佐偽であるが。
アキラからすれば自分に同意を求められた、としか映らない。
でも、やっぱりあの子が寝てたら声まではわからないみたいね。
さすがに水晶を媒体にしているとはいえヒカルの能力を媒介して声が聞こえる状況になっていた。
それゆえにどうやら彼が眠っている間は意思の疎通はできないらしい。
「なら、明さんが見本を示せばいいんじゃないのかしら?
  きっと進藤君、負けん気つよいみたいだし。あなたをおいかけてくるわよ?」
『なるほど。たしかにヒカルは負けず嫌い、ですからねぇ。私との一局にも負けん気を示してきてますし』
一時ほど、佐偽の鋭い切っ先が視えてきたがゆえに躊躇したこともあったが。
それでも、生来の負けん気を発揮してその葛藤を乗り越えているのも事実。
「僕が…ですか?」
「ええ。ね?そうおもわない?」
『それはいいかもしれませんね。ヒカルなら間違いなく塔矢を追いかけるでしょうし』
自分の声が通じているのかはわからない。
だがしかし姿は視えているのだけは理解できる。
それゆえに明子の言葉に大きくうなづく佐偽であるが。
「…考えてみます……」
アキラには佐偽が何をいっているのか、そしてまた母親がだれに対して語りかけているのかはわからない。
「まあ、アキラさん。とりあえず今日のところはもうねなさい。夜も遅いからね」
「はい。おやすみなさい。お母さん」
「おやすみなさい」
カタンと自分の部屋にもどってゆく息子の姿を見送りつつも、
「さて。佐偽さん。私もそろそろ失礼しますね。
  でもやっぱりあの子がおきてないとあなたの声までは媒介できないみたいね。
  うちの子のことおねがいしますね?」
にこやかにそこにいる佐偽にとふかぶかとお辞儀をして立ち去る明子。
その言葉からどうやらヒカルが起きていなければ彼女とも意思疎通ができないことに改めて思い知らされる。
それでも、姿が視えている、というだけでどこか救われている思いもあるのも事実。
今まで、彼の姿が視えたのは、ヒカルと…そして虎次郎のみ、だったのだから……
『満月…ですね……』
さまざまな思いを心に抱きつつもふと振り仰ぐ空にかかるは今も昔もかわらない、夜空にと浮かぶ月の姿。
明子は…塔矢の母親は自分のことを指導霊だ、そういっていた。
そんな自覚もさらさらないが、だがもしもそうだとしたら?
自分は何のためにこの世に再びよみがえったのだろう?
そんなことを思いつつ、
『ふわぁ~…私ももうねましょ』
霊体のみの存在だとはいえ、佐偽にもまた生きていたときのように眠気などはある。
それゆえに盛大にアクビをしてそのままフスマをすり抜けて塔矢明の部屋にと戻ってゆく佐偽の姿が、
しばし星空の元、見受けられてゆくのであった……


                                -第19話へー

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あとがきもどき:
薫:さてさて、ちなみに、水晶云々の私的したのはわかる人にはわかるとおもいますけど、菫ちゃんだったり(笑
  当分彼女はでてきませんけどねぇ。ふふふふふv
  出てはきますよ?ほんの少しだけほどv
  

2008年8月3日(日)某日

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