まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。
最近、副題をどうしようかな?となやんでたり。
まあ、思いつかないときは副題なしのまま…というのもありますけどね。
ともあれ、のんびりと、それでもさくさくと時間をすすめるのですv
ではでは~♪
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「明くん。今日はこれからどうするんだ?」
「かえりに進藤の家にいこうかと」
どうしても確かめたいことがある。
「なるほど。ならそこまでは送っていこう」
「すいません」
すでに本日の対局はおわり、それぞれあとは自由時間。
塔矢としてもずっとこの会場にいるわけではない。
「しかし。あの子がここにきたらおもしろいとおもうのだがな」
「ええ。それは僕もそうおもいます」
もしも彼がsaiならば、彼と対局したものが一局うてば確実にわかる。
そんな会話をしつつも、ともあれ棋院をあとにしてゆく明と緒方の姿が、一角において見受けられてゆく。
星の道しるべ ~広がる伝説~
「ほんとう!?父さん!?やりぃっ!!」
話からしておそらく十二月にはいってからだ、とおもっていたのに。
「あなた。じゃあ、これから出張ばっかりなの?体は大丈夫?」
何でも春先の人事にむけて長期出張が増えるらしい。
それゆえに、早めに持ち運びも便利な小さなノートパソコンが必要となったらしい。
「まあ、無理はしないさ。ヒカルもまだ小さいしな」
これから中学、高校と、下手をしたら大学まで。
子育てにはかなりの金額がかかるがゆえに倒れてなどはいられない。
「とりあえず、今のウィルスセキュリティは自動的に更新されるから、お金は必要ないし。
サーバーもそのままで問題ないだろう。しかし、ヒカル?ネットができるから、って勉強をおろそかにするんじゃないぞ?」
「わかってる!わ~い!これで調べものとかするのに便利になるっ!わざわざ本とかかわなくてもすむしっ!」
だいたい、ネットでこの時代は情報を引き出せる。
常にみたいものは印刷しておいておけば自分専用の資料もできる。
「まあ、たしかに本代は節約できるかもしれないわね。ヒカルがほしがる参考書はいつも高いものばかりだし」
しかもレベルのたかいものほどほしがるのだから親としては多少困る。
だからといって子供の成長を伸ばそうとしない親はあまりいない。
とりあえず、大会がおわりやってきた塔矢をいつものように送って行った美津子。
家にもどり、父親がもどり家族団らんによる夕食。
「とりあえず、明日デンキ屋にいって新しいパソコンをみることになるだろうけど。それからだぞ?ヒカル?
ついでにお前用のプリンタとかもそろえとくか?お前のことだからさまざまな資料をブリントアウトする気だろう?」
「あはは。バレタか」
確かに今までもそのようなことをしているので父親からしても何となくだが理解はできる。
さらにいえば、この息子はやるからにはとことんつきつめるタイプである。
書斎にプリンタはあるにはあるが、それは昔の型。
今ではだいぶ機能も付属されて進んでいるのも事実。
「じゃあ、次から年賀状とかの作成はヒカルの係りね」
「…げ。まあ、いいけど……」
そもそも、ノートパソコンにはさまざまなモノがすでにインストールされている。
もっとも、ヒカルの父親としても仕事に関係するようなものはきれいに削除して息子にわたすつもりではあるが。
「あ。母さん。母さん、どこかでパソコン講座してるとこしらない?やるからにはきちんとしときたいし」
「残念だけど。お母さんは詳しくないからねぇ」
「そうなの。…白川先生とか塔矢とかならしってるかな?」
たしか、塔矢もパソコンをもっていたはずである。
パソコンが常に自分専用になるのならば、日々うつことになるであろう、碁の棋譜をも記録してみたい。
ワードなどで作成するのは面倒のような気もするが、慣れればそれはそれで楽しいような気もする。
「まあ、だがしかし。熱中するのはいいが、基本の勉強をおろそかにするんじゃないぞ?」
「は~い」
久しぶりに父親とすごく話したような気がひしひしとする。
最近、父親はほとんど真夜中にかえってくることが多く、めったとこうして話すことはなかった。
それでもあまり強くヒカルにこうしろ、ああしろ、といわないのはおそらく自分の子どもを信じているがゆえであろう。
「え?明日。わるい。塔矢、明日はだめだわ」
夕食がおわり、部屋にともどっていると、電話、とのこと。
トントンと一階におりて電話を受け継ぐ。
電話の主は塔矢から。
確かに塔矢はヒカルの家に寄ったにはよったが、そのときはヒカルは留守。
しかたなく、夜に電話をかけなおしている、という現状。
何でも明日、この土曜日から始まった世界アマチュア囲碁大会に顔をみせてみないか、という誘い。
明日は何でも手合いとかいうのがあるせいで、ブロなどの人数があまりとれないらしい。
【白川さんの教室も明日はお休みだとおもうよ?】
事実、白川もまた駆り出されて明日の教室はお休み、という連絡が社会保険センターの掲示板に張り出されていた。
電話の向こうから聞こえてくるアキラの声。
「それはみた。明日は父さんと一緒にちょっと電気やにいく予定でさ~」
【電気屋さんに?何かかうものがあるの?】
「それがさ。父さんの都合でノートパソコンがおもったより早く譲ってもらえることになったから。
それらの付属品とかかいにいく予定。新しいプリンタとかほしいしさ。
あ。そ~だ。塔矢。どこかでパソコン詳しくおしえてくれるところしらない?」
【?どうして?】
「せっかくだし。これからうつことになると思う棋譜とか、パソコンで保存管理したいしさ。
できたらすぐに閲覧できるようにしときたいじゃん?まずはそうするにしても知識必要だろうし。
まあ、学校の先生にもきいてみるつもりではあるけど」
そもそも、わざわざ学校の行事にしてもときどきではあるがパソコンに詳しい指導員がくることもある。
そんなヒカルの言葉に電話の向こうで納得する。
たしかに、バソコンで碁の棋譜を管理していればかなり楽。
必要なときにプリントアウトがいつでもでき、またかさばらない。
しかも、手書きと異なり、間違えてもすぐに訂正が可能。
実際にアキラもまたパソコンをそのように利用しているので気持ちはわかる。
【僕の場合は皆がおしえてくれたから……】
塔矢の家にはプロ棋士があまたと出入りする。
そんな彼らに塔矢はパソコンを教えてもらい、使いこなしているのも事実。
「みんな?お前、教えてくれるひとがいるんだ。…まあ、そういうことで。とりあえず、申し出は興味深いけど。
今回はパス、な。それにいっても俺、言葉わかんないし」
そもそも、いったとしても言葉がわからない以上、おそらく場違いになることは明白。
そして、万が一にでもいったとしたら、佐偽が打ちたいと騒ぎまくることは必然。
【まあ、時間ができるようなら日本棋院に電話してきてよ。電話番号は……】
「ま、気がむいたらな」
とりあえず、塔矢明が示す電話番号を書きとめておく。
アキラは携帯電話をもっていないので、日本棋院に電話をして事務所からつないでもらうしか連絡のとりようがない。
『?ヒカル?塔矢は何の用事だったんですか?』
そうといかけてきつつも、片手にしっかりとなぜかパンをもっているのが何ともいえない。
「…お前なぁ。いくらうれしいからって食べ歩きはどうかとおもうぞ?」
ヒカルが部屋に簡単に作った神棚に供えていた品物。
つまりはそれらを片手にもって食べつつもついてきている佐偽の姿が見て取れる。
「というか。あるきながらものをたべたらいけない。とかいう礼儀とかならわなかったのか?」
『そういいますけど、ヒカル!私ものがたべられるなんて、ものすっごぉぉぉぉぉぉぉくうれしいんですよ!?』
気持ちはわからなくもないが……
「…だぁっ。わかった、わかったから!なくなっ!というかたべるならきちんとすわってたべろっ!」
「?ヒカル?何騒いでるの?」
「あ、何でもない」
電話の前で何やら騒ぐヒカルに気づき、台所の片づけをしていた母親がそんなヒカルにと声をかけてくる。
母に説明してもおそらく怪訝そうな顔をされるだけ、というのは今までの経験上、ヒカルはよく知っている。
人間、視えないものに対しては、どうしても信じようとしない節があるのも事実。
それゆえに、面倒ごとになるのがいやなのでヒカルもまた率先して説明しようと今までもしていない。
ともあれ、そんなたわいのない会話をしつつも、再び電話を終えて部屋にと戻るヒカルと佐偽。
部屋の中には碁盤が出されており、盤面から一局の途中であることがうかがえる。
「さってと。とりあえず、佐偽。つづきやろうぜ?」
『はいっ!』
こくこくこく。
片手にパン、片手に扇をもちながらも、にこやかに返事をしている佐偽の姿。
まあ、相手は幽体。
それゆえにどのような格好をしていてもおかしくはない。
おかしくはないが…時代を感じさせるその容姿にパン…ははっきりいって似合わないのも事実……
「え~と、棋譜の書き方…あ、あった」
カチャカチャ。
パソコン、というかネットというものはものすごく便利。
検索ひとつでさまざまなことが調べられる。
結局のところ、父親とともに買い物にでかけ、必要最低限とおもわれるものはすべて買いそろえてもらった。
パソコンを正式に譲り受けたのはそれから一週間後。
金曜日の夜のこと。
『しかし、かわってますよねぇ。どうしてこんな薄い本のようなもので調べものができるのですか?』
さらにはさまざまな人と碁がうてる。
部屋の机の横にパソコン用の台座をおいて、そこにプリンターなどを設置した。
パソコンを使わないときには、その台座の中にしまえる形になるので場所を取らないのも事実。
「まあね。だけど、佐偽。これで毎日のようにネットで碁がうてるぞ?
あ、でも俺もうちたいしなぁ。そうだ。時間とかきめて交互にやってみるか?
おわってから佐偽のそれぞれの対局を記録にものこしときたいし」
あるサイトに棋譜のパソコンでの書き方、というのもが乗っている。
それをつかえば、記録を残すことも可能のはずである。
『そうですね。私もヒカルがうったのをみたいですし。ヒカルがうった碁はあとでしっかりと検討しましょうね♡』
「…うっ」
にこやかにいってくる佐偽の台詞に思わず声をつまらせる。
たしかに、日々、佐偽とうっている盤面だけでもかなりいろいろと注意をうける、というのに。
第三者とうった盤面はいったいどんなことをいわれることか。
それゆえにヒカルはおもわず声をつまらせたのだが。
そんなヒカルの心情を知ってか知らずか、
『しかし。コレで棋譜がかける、とはほんと、どうなってるんでしょうねぇ?』
平安の世においても、江戸の世においても、棋譜を残すのは一苦労だったというのに。
今の時代はそれすらも苦労せずにできるらしい、というのにも驚愕してしまう。
まあ、かつては紙ですら貴重品だったというのに今では紙があふれている。
それすらも佐偽には驚愕せざるを得ない事柄。
「まあまあ。まずは今日の対戦にいくぞ!」
『わ~い!対局ですか!?ヒカル、これから毎日いろんな人とうてるのですね!?』
「夜更かしは禁物だからな?」
『はいっ!』
たしかにヒカルはまだ子供。
それゆえにあまり遅くまで…というわけにはいかないであろう。
何よりも佐偽自身が時間がたてば眠くなる。
それほど人間よりも人間らしいとしかいいようのない幽霊。
パソコン上の画面は一種の画像としてとらえられる。
それゆえに画像を保存する、で局面保存は可能。
局面と、それに伴う棋譜と、組み合わせて、しかも日にちや相手をきちんと明記しておく。
やるからにはやはり、対戦記録表、のようなものをつくりたい。
ヒカルの分と、佐偽の分。
つまりは二人分。
そんなことをおもいつつも、まずは早くにノートパソコンになれるためにとネットカフェで打っていたときのように、
囲碁のサイトにとロングインしてゆくヒカルであるが。
さてと。
どんな形にして保存するかなぁ?
まずは、保存してきちんと形をのこしてゆく、ときめた以上はとことんやりたいのがヒカルの性格。
やっぱり先生に相談してみるか。
ヒカルはいくらパソコンが授業などにより使える、とはいえほとんど知らない、といっても過言でない。
父が使っていた何でもHP作成ソフトをつかえば本のような形式のようにして記録してゆくことは可能であろう。
このノートパソコンにはその作成ソフトもそのままダウンロードされているまま。
ちなみに、その取扱説明書も一応、ヒカルはもらったことはもらっだか、まだ目を通してはいない。
そもそも、専門用語が並びすぎてよくよく理解できない、というのもある。
つまりは、基礎から覚えないとな。
そんなことをおもいつつ、ノートの画面上にとむかってゆく。
日本時間でいえば、今は夜。
夜に彼がいる、というのはかなり珍しい。
とはいえ、世界各国からすれば、時差、というものは存在する。
日本がいくら夜でも、朝のところもあれば、昼のところもある。
「これは……」
この時間帯にこの名前のものがはいってくることなど珍しい。
今、ゆっくりとではあるが、確実に噂になっていっているネットの中に潜んでいる最強の打ちて。
彼が何ものなのか、という話はだんだんと根強くネット上の囲碁仲間のうちではささやかれ始めている。
「ふむ。…やってみるか」
噂にはきくが、どれだけの強さをもっているのかは対局してみないとわからないのも事実。
それゆえに、見つけた名前に対し、対局を申し込んでゆく一人の人物。
一人、また一人とsaiの強さにひかれ、そして興味をもちその噂はさらなる広がりをみせてゆく――
「ふわぁ~……」
「ヒカル。パソコンもらったからって夜更かし?」
「違うよ。パソコンは十時できりあげたよ。そのあとが……」
一時間ばかりヒカルもパソコンにて対局したのだが、その検討にかなり時間を要したのも事実。
この場合はこうしたほうがいい、などとざくざくと佐偽は突っ込んでくる。
確かに佐偽にいわれるままにしてみれば、おのずと局面も形になってくるのもわかる。
だが、所詮はまだヒカルは囲碁を覚えてもうすぐ一か月がたとうか、という程度。
そこまで高度な内容を求められても…と思うのも事実。
「あ。そうだ。三谷。お前のお姉さん、どこかでパソコンに詳しい人とかしらない?
お金あまりないから無料、もしくはやすく講座をうけられるところがあったらおしえてほしいんだけどさ」
「?姉貴はそれなりに詳しいけど。何がしりたいんだ?」
「え~と。いろいろ?」
土曜日の放課後。
あとはもう家にと戻るだけ。
大体小学の土曜の授業は基本的には午前中のみ。
「姉貴もアルバイトでいそがしいからなぁ。まあ、きいといてやるよ」
「サンキュ~」
そんな会話をしながらむかっているのは、葉瀬中学校。
何でも今回の運動会は、中学、小学の合同で行われるらしい。
これもまた最近の少子化の影響のうちの一つなのかもしれないが。
なぜか押しつけられたも同然で進行係りに任命されているヒカルとアカリ。
そして別のクラスの三谷祐輝。
六年生が代表となり、各クラスから二名づつの代表がえらばれての今日の集会。
運動場の広さからいって中学のほうが広い、ということもあり、開催場所は中学の運動場。
「母さんがいってたけど、昔はよく十月十日に運動会があったらしいけどなぁ」
今ではすでに体育の日、というのはその日ではなくなっている。
昔は十月十日が体育の日、というのは結構有名ではあったのだが。
何でもそれだと休みがとびとびになるとか云々という理由で政府が祭日の日をずらすことに決定したらしい。
そんな上の思惑や考えは子供であるヒカルたちにはわからない。
「でも、運動会は今年は十月の十九日、だよね」
事実、今年の運動会はその日にきまっている。
何だか季節はあっという間にめぐってゆく。
「しかも、何でもその次の次の週には中学で文化祭、だろ?イベントずくめ、だよなぁ」
そもそも、十一月三日は文化の日であり祭日。
「あ~あ。ま、いいけどさぁ。よその小学なんかさ。この十二日に運動会があってさ。
振替休日が翌日の体育の日でもある十月の第二月曜日とかさなって、祭日一日オジャン、らしいぜ?」
子供にとって休みが一日でも増えたり減ったりする、というのはかなり重要。
それゆえに、祭日と振替休日が重なった子供の不満はおしてしるべし。
「ほらほら。進藤くんたち。無駄口たたいてないで。そろそろ中学につくわよ?」
「「「は~い」」」
引率している教員にいわれて仕方なく返事をするヒカル、アカリ、ユウキの三人。
うららかな秋空の下、すでに夏場の暑さはどこへやら。
空にはトンボがまっている。
『もう、秋…なんですねぇ』
自身が現世によみがえったのはついこの間。
まだ夏の面影がのこっていたというのに。
季節はゆるむことなく過ぎてゆく。
そんなヒカルたちの後ろからそんなことをいいつつも空を見上げている佐偽。
体育の日だの、文化の日だのといわれても、佐偽にはよくわからない。
早いものでヒカルと出会い、そろそろ一か月…ですか。
そんな感傷におもわずふけってしまうのは…佐偽からすれば仕方のないこと。
わいわいと迫りくる体育祭りのことで盛り上がる子供たちとは対照的に、ひとり空を見上げる佐偽の姿が。
葉瀬中学校にむかう道すがら、しばらくの間見受けられてゆくのであった……
「sai…か。結局正体はわからなかったんですよね?マスター?」
日本時間は夜の八時。
だがしかし、今、この場は昼の真っ盛り。
ちょうど昼休み、ということもあり生徒たちがいつものようにとこの場所にとやってきている。
オランダ国内にとある大学の中のとある一室。
「ああ。残念ながらね。しかし、最近は頻繁にはいってきてるな。sai、は」
しかも時間からすれば昼すぎから数時間ほど毎日のようにはいってきているのがみてとれる。
登録からいけば、その時刻は日本は夜の八時ごろ。
これまでは、日本時間でいえば夕方、もしくは土曜日、日曜日においては朝からというパターンが多かった。
「今までの出没パターンからして、もしかしてこのうち手。自分でパソコンを購入したのかもね。
それまでは、ほら、ネットが打てる場所にいってうってたとか」
一人の女性が対局をネット上で観戦しつつも指摘してくる。
とはいえ、日本時間でいう平日においては、佐偽がネットにはいっているのはほんの二時間程度。
ほぼ二時間きっかりといてそのままsaiはネット上消えている。
一応、ヒカルと佐偽の話し合いの結果、二時間ほど佐偽がうち、一時間ほどヒカルが打つ。
そののちはヒカルのうった局面の検討会。
そのような日課がくまれていたりするのだが。
当然、ネットのむこうにいる人々にそんな裏事情がわかるはずもない。
まあ、ひによっては佐偽、ヒカルとも一時間きっかり、ということもあるのだが。
「あ、saitが消えた……その変わりにいつもの人がはいってきてる」
対局メンバーの一覧からsaiの名前が消えるとほぼ同時、いつもはいってくる人物がいる。
それがlaitoと名乗っている人物。
「sai…佐偽、か。まさかな」
その人物の名前には覚えがある。
たしかあの大会において日本の塔矢名人の息子、という人物がチャットをかわしていた相手。
確かその相手はsaiのことを、佐偽、とチャットで打ち込みしていた。
「まさか、この子…saiとかかわりがあるのか?」
二つ画面を開いたまま、というのもかなり面倒。
それゆえに、大体、saiの対局がおわったのちに、新たに入りなおしているヒカル。
常にネット上を確認しているわけではないので何ともいえないが、日々みるごとに強くなっているのは見て取れる。
だからこそ勘ぐらずにはいられない。
もしかしたら、この人物はネット上のsaiとかかわりがあるのではないか、ということを。
「でも、マスター。今回は残念でしたね。でもすごいですよ!今回は五位ですもん!」
前回は六位だったが今回は五位。
確実に腕をあげていっているのは明白。
「でも、sai。かぁ。何だかかっこいいですよね。ネットのみに潜んでいる最強の棋士、なんて」
「すでにsaiに関するスロットとかたちあがってるところもあるしね。
おもしろいのが『saiは実はネット上によみがえった本因坊秀作なのでは!?』
というかきこみがあったりするところだけど。
だけど一概に笑い飛ばせないほどの実力の持ち主、だからねぇ。sai、は」
誰がそのようにいったのかはネットの上は闇の中。
それゆえに誰がそんなことをいいだしたのかは不明ではあるが。
書き込んだ当人もまさかそれが真実を指している、とは夢にも思っていないであろう。
知っているだけでも負けなしの強さ。
しかも打つごとに確実にまるで現代の定石をしらなかったのか、学んだごとくに強くなっていっているのがみてとれる。
だからこそそんな憶測のような書き込みがなされているようなのだが。
事実、佐偽は現代の定石のことをまったくもって知らなかった。
彼が知っている基本は江戸時代まで。
だが、最近ではネットで碁をうつことにより、確実に学び、そしてさらに力を増していっている。
最近では自分たちが碁をうつよりも、いるであろうsaiの対局をみるのが楽しみになっている。
対局を観戦しているだけで何かとてもわくわくしてしまう。
そんな会話をしつつも、昼休み。
しばしパソコンの前でたむろする人々の姿がその一室において見受けられてゆく。
「…まさか、あの一柳先生まで手玉にとられるとは……」
おもわず観戦していてうなってしまう。
画面に映し出されている局面は、ichiryu対sai。
しかしその力量の差は歴然。
何のきなしにはいったネット。
ふとみれば、おもしろい対戦をしているのに気づいてのぞいてみた。
「…こりゃ、明日の対局の一柳先生…あれてるかな?」
明日は一柳との手合いがある。
それゆえにおそらく、てならしを兼ねてかれとしても打ったのだろうが…
ここまで実力の差が歴然としていれば相手の心情はおしてしるべし。
「…リストから名前がきえた…か。…うん?このハンドルネームは……」
対局がおわり、リストから名前が消える。
そのあとにはいってきたのは何やら見覚えのあるハンドルネーム。
「そういえば、彼もパソコンを自分用にもったとか明君がいってたな」
ふとそんなことを思い出し、
「…お手並み、拝見、としてみるか」
あの明君すら畏れるまだ囲碁のことには無知にも等しい子供。
弱くみえるときもあり、また最強にもみえるときがあるという、何ともとらえどころのない子供。
だがしかし、その秘められた才能は目の当たりにして彼…緒方は知っている。
さすがにsaiの対局とはうってかわり、観戦している人はごくわずか。
それでも観戦している人がいる、ということはすくなからず彼に興味を抱いているのか、
はたまた、彼のことを知っているのかはそれは緒方にはわからない。
そんなことをおもいつつ、しばし明日の手合いのための訓練をほったらかしにし、
しばしパソコン画面に没頭してゆく緒方の姿が自宅の一室においてみうけられてゆく。
「……まちがいない。強くなってる…進藤……」
とりあえず電話口で夜のみ少しばかりネットにはいって碁をうてるようになった。
そう彼から話はきいている。
ヒカルが対局している人々は、大体佐偽が指摘した人物のみ。
佐偽が自分でうち、今のヒカルの実力ならば…とおもったあいてを指名しているのだが。
そんなことは塔矢明にはわからない。
対面して碁をうったことは数えるほどしかないという彼。
だが、確実にネットを通じて日々、強くなっていっているのが見て取れる。
それはもう怖いほどに。
それでも、どうやら棋譜を見る限りは、彼曰くの直感打ちはしていないようではあるが。
母親に進藤光の直感打ちの話をしたら、どこか納得したように微笑んでいたのも気にかかる。
アキラは知らない。
おそらく、それは進藤君に憑いてる佐偽、とかいう人が進藤君を通じてうってるんでしょうねぇ。
と塔矢明子が理解している、ということを。
指導霊なのはおそらく感覚的にも間違いない。
ならば何の指導霊なのか?
もしかしたら碁が趣味とかいっていたから碁に関する指導霊なのかもしれない。
そんなものがいるのか?
という疑問はともかくとして、いるのだから現実に認める以外にしょうがない。
「アキラさん。飲み物もってきたわよ?あら?またネット?」
「あ。お母さん。はい。すいません。遅くならないうちに寝ますから」
「ほどほどにね。アキラさんもたまには友達と遊びにいくことすればいいのに」
同い年の友達がせっかくできた、というのにどうもこの息子にはそれがない。
「でも……」
「お母さんのほうから進藤君にいってみましょうかねぇ?
きっとあの子のことだからよろこんでアキラさんをつれまわしてくれそうだわ♡」
「お母さん!」
たしかに彼ならやりかねない。
まだ知り合ってまがないが、何となくだが彼の性格は理解した。
だからこそおもわずあわてずにはいられない。
彼のあのペースに飲み込まれたらアキラは太刀打ちできないのも事実なのだから……
「ふふ。アキラさんのうろたえる姿、かわいいわ♡」
「…お母さん、息子をからかってたのしいですか?」
「ええ。とっても♡」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
たわいのない親子のやり取り。
お母さんってこんな性格だったっけ?
そうアキラはおもうが、今までアキラの周囲にいたのは大人ばかり。
ゆえに友人関係で明子がアキラに何かいうこともはっきりいって皆無であったのも事実。
しかも、あの進藤光、という子には明子からすれば親近感をもっている。
何しろ明子の周りにも『能力』をもっているものはまずいないのだ。
そんな中で同類、ともいえる人物が現れれば親近感がわく、というもの。
それはヒカルからしても同じことがいえるのだが。
「さっそく電話してみましょうかね~♡」
「お母さん!!ちょっと!」
「さ~て、電話、電話~。って冗談よ」
がくっ。
おもいっきりあわてるアキラに対してにっこりとほほ笑み言い返す。
そんな母親の言葉にがくりと力が抜けてゆくのをかんじざるを得ないアキラ。
「お母さ~ん……」
「アキラさんが戸惑うところってお父さんとそっくりよねぇ。ほんと、親子よね」
まあ、彼があわてふためくところをしっている、というのは妻である彼女しかしらないであろうが。
「まあ、冗談はともかくとして。たまには進藤君とどこかにおでかけでもしてみなさいな?
きっと気分もはれるわよ?」
そもそも、聖なる気をもっているあの霊のそばにいるだけで彼にまとわりつく面倒な悪意は押しのけられる。
日々、常に息子や夫にはお守りをもたせてはいるが、やはりそれにも限界がある。
だが、確実に彼がそばにいればそんな気はよりつくことすらできないはず。
そんな思いがあることなど露知らず、
「まあ、考えてみます」
それだけいいつつも、母親がもってきたお茶にと手を伸ばす。
「ま、あまり夜更かししないようにね。じゃぁ、おやすみなさい。明さん」
「はい。おやすみなさい」
がらっ。
たわいのない会話をしつつも部屋からでてゆく母親を見送りつつも、
「何かお母さん、進藤とあって性格かわったような気がするの…きのせいかなぁ?」
ぽそり、とつぶやく明であるが。
ここに第三者がいて、彼女のことをよくしっているものがいれば、それが彼女の地だ、と即答したであろう。
だが、あいにくとそのような人物はここにはいない……
『ねえねえ!?ヒカル、ヒカル!これは何のお祭りですか!?ねえ!?』
ああもう、うるさい!
パンバンと鳴り響く花火の音。
はたからみればがくがくとヒカルが震えているようにもみえなくもない。
何やら朝早くから、しかもいつももってゆく鞄をもたずに、しかも体操服、とかいうもののみをきて家をでたヒカル。
きいてみれば、今日は体育祭、とのこと。
そういわれても、佐偽にはピンとこない。
しかも出向いた先は中学校。
ヒカルがいつも通う場所とは異なる場所。
さすがに、小学、中学と合同がゆえかかなりの人だかり。
「ヒカル。大丈夫?何か朝から震えてない?」
クラスメーの一人がそんなヒカルにと声をかけてくる。
男女は別のテントに分けられているのでこの場にはアカリたちはいない。
「あ。何でもない」
ほら!お前のせいでおかしくおもわれてるだろうが!
たのむから人をがくがくとゆするのだけはやめろっ!
朝からがくがくと後ろから体をゆすられてはたまったものではない。
ましてや佐偽とヒカルの間では実際に触れたりすることができるがゆえに、第三者からみればいきなりヒカルが震えている。
としかおもえない。
『でもぉ……』
とにかく!騒ぐのはやめろっ!
明日は休みだから一日中、用事がなかったらお前にずっとうたせてやるからっ!
『本当ですか!?ヒカル!?』
佐偽をおとなしくさせるには碁でつるか、もしくは食べ物でつるかのどちらか。
ようは目の前に餌をぶらさげておけばおのずと彼を導くことは可能。
「だから静かにしてろ」
『はいっ!』
「?進藤君?どうかしたの?」
「あ。いや、何でもない。それより今日の体育祭!がんばろうぜっ!」
今日は晴天。
まさに運動会日よりである。
そんなことをおもいつつも空を仰ぐ。
今日は秋とはいえ暑くなりそうである。
「しかし。今日はさすがに人がいないわねぇ」
がらん、とした空洞にちかい教室。
「仕方ないですよ。市川さん。ここは葉瀬中、小の地区なんですから」
今日は何でも合同の運動会があるらしい。
それゆえに身内に小学、中学の子どもがいるものは顔をだしてこないのはわかりきっていること。
「しかし。だからこそこうして私は明先生と碁をうってもらえるわけで…と」
ぱちっ。
「ああ、後藤さん。そこにうったらこうきますから……」
何だかとても久しぶりの指導碁のような気がする。
「最近、明くんあまりこっちに顔をみせないものねぇ。あの子の家ではうってるんでしょう?つれてくればいいのに」
「そうそう。つれてくればいいんですよ」
そんな会話が横のほうで繰り広げられているのにおもわず苦笑してしまう。
確かにそういえば、最近は自分が彼の家にいって打つばかりでこちらの囲碁サロンにはあまり顔をだしていない。
くす。
「僕もそういうんですけどね。何かただで入るのわるいから、とかいってるんですよ。進藤は」
とりあえず、ネットカフェの代金は確かに子供にはらえるものではないから仕方ないにしろ。
五百円、という金額は無理をすれば何とかひねりだせる金額ではある。
だがしかし、ヒカルからすればその五百円すら大金であるがゆえの判断。
「きにしなくてもいいのにねぇ。たぶんかれがきたらもっとお客の集客ありそうだし。
明くんとあの子の対局を目玉にしてさ」
「…市川さん。僕たちは広告塔ですか?」
「ああ。たしかにそれはお客さんがかなりのぞめそうですねぇ」
「もう!後藤さんまで!」
確かにおそらく常に彼とヒカルがここで打っている、と知れば噂は噂を呼んで人は集まるだろう。
だけども、自分にしろ彼にしろあまり目立つことは好きではない。
冗談なのか本気なのかわからないその言葉におもわず突っ込みをいれているアキラであるが。
ともあれ。
「まあ、ときどきは誘ってみますよ。でもいつも僕と彼、ケンカ腰になっちゃうからなぁ」
検討をはじめていけば何やらいつも言い合いになっていっているのは毎度のこと。
そんなやりとりすらも何だか心地よく感じている自分がいるのはひとまずいわないでおく。
「まあ、本音をいいあえる相手がいる。というのはいいことよ。明君」
「そう、ですね。僕も今ならそうおもいます」
いままでここまで本気でぶつかってもうけとめ、さらには上をいくような存在はいなかった。
ましてや同い年の子ども。
それゆえに大人相手にするときとは違い、気がね、というものはまったくもって必要ない。
「さ。明先生。続きおねがいします」
「あ。そうですね。じゃあ、いきますか」
しばし、そんな光景が囲碁サロンの一角において見受けられてゆく……
-第18話へー
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あとがきもどき:
薫:こんかいは、あまり意味になっていない回をばv
次回で一気に月日を進めて十二月にvではではvまた次回にて~♪
2008年8月3日(日)某日
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