まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

さてさて。今回は倉田厚さんの登場ですv
まあ、彼の存在感は後ろのほうの展開でほぼ薄くなってたりしますけど、それはそれv
今回のネックは、知らない、ということは恐ろしいv
というのが主となっておりますv
何はともあれ、ゆくのですv

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星の道しるべ   ~さざ波の布石~

わいわいわい。
「何か質問ありますか?なければキリがいいので今日はこのあたりで」
大盤パネルを使い、集まっている人々に対して説明をしている恰幅のいい青年。
パチパチパチ。
青年の講義を聞いていた人たちから拍手が巻き起こる。
「倉田先生。サインをお願いできますか?」
「いいですよ?」
「今年はぜひともタイトルをとってくださいね!応援してますからっ!」
「タイトルですか。ほしいですねぇ。そうだ、かいちゃおうか。名人もいいなぁ。
  もうじき名人、倉田厚…っと」
「あはは。こりゃ塔矢名人にはみせられませんなぁ」
サインをせがまれて扇に何やらそんなことをかいているその青年であるが。
それをうけとった人物が笑いながらもいってくる。
「先生。私にもサインをおねがいします」
「いいですよ~?よ~し。こっちは棋聖だ」
いいつつも、【そのうち棋聖。倉田厚】とサインペンで記載する。
字はきれいだ、とはかなり言い難いがそれでも茶目っ気があるサインであることには変わりがない。
「じゃあ、私は本因坊でおねがいしますよ!」
周囲にむらがったファンの人々が調子にのってそんなことをいってくる。
まあこういった場でのサインはあるいみおふざけにちかいものがある。
そもそも、サインそのものが個人の自由でどのようにかいてもかまない分野に入る。
「いいですよ?そのうち本因坊、倉田厚っ!」
しゅっ。
差し出された色紙に書き込みするそんな青年の様子をみつつ、
「いいですなぁ。いつ実現してもおかしくないですよ!」
「先生。私このあとの指導碁を予約しているのでよろしくおねがいしますよ」
「はいはい」
棋士の中では年若いほうの分野に入るので人々からの人気も高い。
「いいですねぇ。私も倉田先生にお願いすればよかったなぁ。
  さっきやってきたんですけどさんざんでして……」
そんな会話をききつつも溜息まじりにつぶやいている男性が一人。
「?何かあったんですか?」
その様子を不思議に思い、別の女性が問いかける。
「いや。さきほど御器曽先生の指導碁をやってきたんですが。
  五子おいてうちはじめたんですが、はめてみたいなので一方的にやられるばかりで……」
「それはひどい」
普通、指導碁、というものは相手を正しく導いてゆくもののはず。
それなのにはめテをつかうなど指導碁というよりはむしろ……
「何か不機嫌なことでもあったのかな?」
ざわざわとざわめく人々のそんな会話を耳にし、
「な~んかね。御器曽プロ。株に失敗してひ~ひ~いってるらしいですよ。噂では」
「そんなことであたりちらされたんじゃ、われわれ客はたまりませんな~」
というかおもいっきりいい迷惑である。
「さっさと投了して席をはなれちゃいましたよ。後ろでみていた子どもはまだ逆転できる、とかいってましたけど」
「あはは。いったん劣性になったのをプロ相手に逆転は不可能ですよ!」
子供のたわごとともとれるその発言におもいっきり笑ってしまう倉田であるが、
「ああ!いたいた!あんた!あんたさっき御器曽プロに指導碁をうってもらってた人でしょ!?
  あれからあなたのあとをあの子供がひきついで、とうとうひっくりかえしましたよっ!」
ざわっ。
「嘘!?」
ヒカルの対局をみていた一人の客が知らせようとしてやってきたのだが。
そのセリフにその場にいた人々からどよめきがおこる。
何よりも一番驚いたのは倉田自身。
まさか…噂の塔矢明がきてるのか?
そんなことが頭をよぎる。
噂できく限りは彼ならば可能かもしれない。
「ええ!?本当ですか!?」
「本当。ほんとう。いつのまにか。というかありゃ、ほぼ中押しでまけるんじゃないか?御器曽ブロ」
力量の差が素人目からしてもはっきりとわかるほどに一目瞭然すぎる一局。
それゆえに知らせにきたのであるが。
だっ!!
そんな会話をきけばだまってはいられない。
とにかく指導碁のコーナーにおもいっきり全力でかけだしてゆく倉田の姿。

何なんだ!?
何なんだ!?
ありえない。
ありえない、こんな…こんな馬鹿な…っ!?
相手はどうみても小学生くらい。
なのに…こんなことがありえるはずがない。
カタカタと体が震えるのがいやでもわかる。
傍目からもカタカタと震えている様が丸わかり。
しばし基盤上をみつつも震えるしかすべがない御器曽とよばれている人物。
すげぇ。
終わりだ。
もうここまでだ。
相手に挽回の予知はない。
局面をひっくりかえしたのちに、有無をいわさない一手を加える。
佐偽…ってすげえんだ。
思わず感心してしまうヒカル。
何しろ相手はまがい物かもしれないが一応はプロ、と名乗っているらしき人物。
その人物を相手にいともあっさりと逆転勝ち。
まあ、手加減する必要もないのも事実だけど。
相手に同情する余地はさらさらない。
「こんな…こんなことが…オレがなめてかかったからだ…そうでなけりゃ……」
「おい!どこにうってももうダメなのはわかるだろ!?約束!あの碁盤をひっこめろっ!」
きっと相手をにらみつつも叫ぶヒカル。
と。
「え?どれどれ?」
ひょいっと横に何やら大柄の人影が発生したかとおもえば局面上をのぞかれる。
ふと視線を横にむければ年のころは二十歳そこそこのかっぷくのいい青年の姿が目にはいる。
ぽってりした体格に小さな瞳。
愛嬌がある顔立ち、といえば顔立ちである。
「く…倉田くん!?」
その人物の姿をみて何やらあわてて、いきなりジャラジャラと盤面をひっくりかえす。
「あ、あ~!局面をみたかったのにぃ」
そんな彼のつぶやきは何のその。
「い、いやちょっと。みっともない碁をうってしまって。君にみられたら笑われてしまうよ」
いいいつつも、わからないように石をひっかきまわす。
そのまま、自分の石をつぼにと仕舞、ガタンと席をたちあがる。
「あ!おい!まてよっ!約束!碁盤をひっこめるっていったじゃないかっ!」
そうして席をたちあがる彼に対して思わず叫ぶヒカルであるが。
「笑えるの?みたかったのに。…って約束?それより、ねえねえ。君。ほんとうにあの御器曽さんにかったの?
  何かさぁ。劣性の碁をひっくりかえしたんだって?まさかぁ。ねえ、本当?」
何?
この人?
だけどもかまってなんかはいられない。
とにかくここを片づけてはやくあいつをおいかけないと。
『ヒカル!』
わかってるよ!とっととかたづけてあの碁盤をひっこめさせないとっ!
佐偽がすごい顔で逃げて行った男性のほうをにらんでいるのが見て取れる。
「だって相手はプロだよ?そんなことができたら……」
塔矢明ではないのにそんなことができる子どもなどいるのだろうか。
それが彼がまずはじめに抱いた疑問。
「ごめん!お兄さん!俺、あいつをおいかけないと!絶対に死者を冒涜しまくってる碁盤をひっこめさせないとっ!」
いいつつもガタン、と片づけおわり席を立ちあがる。
「?冒涜?何何?何かやったの?あの人?」
「やったも何も!あいつは偽物の碁盤を本ものと業者のひとと結託してうりつけようとするわ。
  あげくは本因坊秀作の偽物の署名を本もの、といいはって売ろうとするは!大人の風上にもおけないやつなんだっ!」
いって、御器曽を追いかけようとするヒカルの手をがしっとつかみ、
「…君。それ詳しくきかせてくれる?」
同じブロとしてもしそれが本当ならばほうっておくことなどできはしない。
「はなしてよっ!それとも何!?お兄さんがあれらを撤去してくれるっていうの!?」
「まさか、とはおもうけど。その碁盤がある場所に案内してくれる?」
「お兄さん、詳しいの?碁盤とかに?」
「ええ!?このオレを知らないの!?倉田厚!本当に!?プロ棋士の倉田っ!」
「ブロ棋士?さっきのあのやつとおなじ?」
伊達にプロを名乗っているのならばどうにかなるかもしれない。
「まさかお兄さんも偽物を本ものと偽る口?」
「冗談!誰がそんなことをっ!というか本当に偽物がうられてるわけ?」
「絶対に偽物っ!疑うんだったらみてみてよっ!」
どうやら目の前の子どもは嘘をいっている目ではない。
あの御器曽にかったというのはよくわからないが、だがしかし腕があるのは確かなのだろう。
ならば見分けるコツをしっていても不思議ではない。
「それが本当ならゆゆしき事態だ。よし、案内してよ。君」
少しかんがえつつも、だがしかし、あの御器曽のよくない噂は彼の耳にも届いている。
だからこそありえない、ともいえなくもない。
ここは素人ともいえるアマチュアが集まる場所。
だまそうとすれば造作もないかもしれない。
「…俺の…子供の言葉だときいてもらえなかったけど…うん。わかった。こっちだよ」
大人をつれて、しかもどうやらきちんとした人らしい。
そういう人にきてもらい抗議してもらったほうが格段に効率性は高い。
それゆえに、そんな倉田と名乗った青年をひきつれて、先ほどの販売コーナーにと再びヒカルは足をむけてゆく。

「あれ?君はさっきの…それに倉田先生まで!」
ふと販売コーナーの周囲を注意してみていた先ほどの進行係りの男性がヒカルに気づいて声をかけてくる。
「あ。さっきのおじさん。この人にみてもらおうとおもってさ。まだ偽物販売してるの?」
「まあ、こっちがいっても本物、と言い張るばかりだからねぇ。
  しかしちょうどいい。倉田先生。みてくださいよ。われわれがいってもどうにもならなくて……」
あれからやってきた客には注意を促してとにかく被害を最小限に食い止めることくらいしか彼らにはできない。
「…どれどれ?……これは……」
ぱっとみただけでわかる。
それなのに確かに出されている値札には、【本カヤ】と明記されている。
「へい。いらっしゃ…く、倉田先生!?」
こんなところにくるはずのない人物の姿をみとめて驚愕の声をだす売り手の業者。
「先生!今日は先生のおめがねにかなうような高級な品はおいてませんぜっ!
  覗くかちなどおまへんっ!」
必至に彼をこの場から遠ざけようとするものの、
「……何?これ?この値札は何?これ、本カヤじゃないよね?」
うっ。
ふとみれば、彼の横には先ほどの子どもが。
こ、このガキ!
こんなたいそうなお人をつれてきよって!
そう歯がゆい思いを抱くものの、だがしかし実際に目の前に倉田がいるのだからどうしようもない。
倉田の台詞におもいっきり言葉につまる。
「そ、それはその……」
「それは?何?」
下手なことを答えれば、まちがいなくブロの世界に悪名が響いてしまう。
「お…置き間違いでんがなっ!ほらほら!こっちがほんまものの値札がほんまもんっ!
  まあ、御親切に教えてもらっておおきにっ!」
ゆえに何とかこの場をとりつくろうために本来の値札をごそごそとしたのほうから取り出して、
さも間違えていたかのようにと取り繕う。
「ふ~ん。置き間違い…ねぇ。でももううっちゃったものもあるんじゃない?」
うっ。
たしかにすでに四個ほど売り払っている。
「そ…それは…!」
それゆえに思わず言葉に詰まってしまう。
この子供、倉田先生をつれてくるとは。
たしかに一番効果的ではあるな。
思わずヒカルの行動に関心しつつも、
「買われたかたのお名前の控えをみせてください!私が探して事情をお話しますっ!」
高々に業者に対して言い放つ。
「え…ええ!?ひ、ひかえですか!?あ、ありましたっけ?」
あるにはあるが、みせれば自分の儲けがはっきりいってなくなる。
それゆえにしどろもどろになってしまう。
「あるよね?」
「さ、さがしてみないことには何とも……」
「さて。と、それと…ああ、これか」
たしかに一角にものすごく高値のついた値札のついている碁盤があるのが目にとまる。
碁盤の裏に署名がしてあり捺印らしきものもしてあるのが見て取れるが。
「これが?」
「そう!偽物っ!」
『偽物ですっ!!』
背後にいるヒカルにと問いかける倉田の言葉におもいっきりうなづくヒカルと佐偽。
「おれたちがいうんだから絶対に偽物っ!!」
達?
その言葉に多少疑問に思うものの、
「ねえ。これ」
倉田の言葉をうけてこくりとうなづき、
「秀作の碁盤らしきものをひっこめてください。あとあなたとは奥でお話があります」
その言葉と同時に連絡をうけた別の進行係りのものがやってくる。
「倉田先生。それに君。どうもありがとうね。お礼はまた後ほど。さあ!」
しばらくこの販売コーナーは一時的に閉鎖することにして、販売していた業者を連れておくにと移動する係り員たち。
「しかし。まあ。オレがいうんだから…か。あはは。お前おもしろいな!
  しかし若いのに秀作の字に詳しいなんてかわってるなぁ。子供のくせにへんなやつ」
オレが詳しいんじゃなくて佐偽が詳しいんだけどなぁ。
そんなことを倉田の言葉に思うものの、口にはださず、
「あの~?とりあえずお礼はいいますけど。死者を冒涜する行為を食い止めてくれてありがとうございました」
とりあえず問題の碁盤がひっこめられるのが確定しひとまずお礼をいっておく。
「うん。きちんとお礼をいえる子供はいいよね。でもさ、君。いっとくけど。
  あの御器曽ブロをやっつけたくらいで自慢しないほうがいいよ?
  やられごろのプロさ。あの人は。まあ、このオレに勝てたらすごいことだけど」
そんなヒカルの言葉に何やらそんなことをいってくる。
「?倉田お兄さんってそんなにすごいの?」
「君。ほんと~~~にかわってるね。碁をたしなむのにこのオレを知らないなんて。
  あ、君。ちょっとそれちょうだい」
背後でこの場におかれていた品物を片づけていた女性にと声をかけ、ひとつの扇をいきなり手にする倉田であるが。

相手が何をしようとしているのかわからない。
そのまま、持っていたサインペンらしきものでいきなり扇をひろげて名前をかき、
「ほしいだろ。あげる」
どうみても綺麗、とは言い難い字である。
「え~!?いらないよ!そんなの!それに、この字ならまだ俺のほうがきれいにきまってるっ!かしてっ!」
いうなり倉田のペンをとり、その横にいきなり自分の名前をかくヒカル。
「どうだ!俺のほうが字が絶対にきれい!」
『……虎次郎とは雲泥の差ですね…ヒカル……』
おもわずその字をみて溜息が漏れてしまうのは仕方ないのかもしれない。
虎次郎はヒカルの歳のころにはかなり流暢な文字を描いていた、というのに。
「ああ~~!!オレのサインだいなしっ!バカバカ!こんな汚い字をならべてくれちゃってっ!」
「そういう倉田お兄さんの字もかわりばえしないじゃないかっ!」
何やら言い合いの方向が変わっていっているような気がするのは気のせいではないであろう。
『私からすればどっちもどっちですけど?』
佐偽のいうことは至極もっとも。
大人のはずの倉田の文字も、ヒカルの文字もさほど代わり映えがない。
「って、おっと!そろそろ時間だ。指導碁の時間がはじまっちゃう。えっと。とりあえず、君、これあげる」
「は…はぁ……」
いきなり扇を手渡され、戸惑うしかない片づけていた女性の係り員。
「進藤ヒカル…だっけ?おぼえとくよ。小学性のくせに秀作の署名鑑定師、としてね」
何やらそんなことをいいつつも、指導碁コーナーのほうにとあるいてゆく倉田であるが。
「…へんな人」
『ですね~』
そんな倉田の姿を見送りつつも、しばしきょとん、とするヒカルと佐偽の姿がしばしその場において見受けられてゆく。

「あれ?あそこ…パソコンの指導やってる?佐偽。少しのぞいてもいい?」
『ヒカル?パソコン、とは?ときどきヒカルがヒカルのお父上のを借りて何やらしらべているあれですか?』
佐偽が取り憑いたのちにも幾度かパソコンで調べものはしているがゆえに佐偽もいい加減にその名前は覚えている。
そもそも、授業の一環でパソコンが組み込まれているのだから、佐偽からすれば摩訶不思議。
どうして箱のようなものの中や、はたまた薄い本のほうなものの中に文字が出てくるのかすら理解不能。
「いずれは自分専用のパソコンがほしいんだけどな~。今だと許可とって、それから調べて、それっきり。だし」
どうしても必要、とおもわれるものは父親にいってプリントアウトしてもらっているにはいるが。
いつもパソコンをすぐに開ける環境でない以上、必要なものはとにかく紙におとしておくしかない。
「まずはそのためにもきちんと基本知識は覚えとかないとな」
何もしらないままにウィルス感染やスパイウェアに感染…ということははっきりいって避けたい。
ウィルスの怖さなどは一応、授業で実感のこもった授業で習っている。
何でもヒカルの担任の教師が一度ウィルスに感染したことがあり、結局どうにもならなかった経緯が昔あるらしい。
それゆえにそのあたりの指導はものすっごく心がこもっているのも事実。
とはいえ所詮は小学校での授業。
あまり詳しく突っ込んだところまでは授業では教えてくれない。
かといって、パソコン教室にいくだけのお金もない。
ヒカルなどはパソコンを購入したのち、何でもネット仲間からいろいろと教わったらしい。
『ヒカル。それより私、対局場にいってみたいです。強い人とかもいるんでしょう?』
「まあまあ。あとでいくって。今、あそこすいてるし。先にあっち、な」
多少不満げな佐偽を言いくるめ、ひとまずヒカルはパソコンを指導しているらしきコーナーへと向かってゆく。


「お~。ヒカル。こんなところにおったのか」
パソコンの指導をうけている最中、ふといきなり声をかけられる。
振り向けばそこにはにこやかな祖父の笑顔が見て取れる。
「あ。爺ちゃん。もうおわったの?」
「何を?!おまえ、このわしを誰だとおもっちょる!?本番にむけて出場がきまったにきまっとる!」
何でも対戦の成績にあわせて、このアマチュア大会ではそれぞれ腕に覚えのあるものたちの大会も催されるらしい。
「とりあえず、一回戦は昼からじゃから。ヒカル。先にお昼たべにいくぞ」
たしかに気づけばいつのまにか時刻は昼に近い。
『いいなぁ。大会……』
そんな進藤平八の言葉に、ものすごくうらやましそうな声をだしている佐偽ではあるが。
でもなぁ。
ブロにあっさり勝つほどの実力もってる佐偽に打たせたら絶対に騒ぎになるよな。
佐偽が本気でうった局面は今だにヒカルはみたことがない。
だがしかし、さきほどの一局からわかるように並大抵の実力の持ち主でないことは明白。
まあ、何だよなぁ。
父さんにお願いして借りたパソコンで『本因坊秀作』と検索してみたところ、いまだに囲碁の世界では神様てき扱いらしい。
佐偽いわく、対局はすべて虎次郎でなくて佐偽がうっていた…ということからその実力はおしてしるべし。
「う~ん…まあ、何かかんがえてやるよ」
『ヒカル?』
「?ヒカル?何ひとりごといっとるんじゃ?」
平八には佐偽の姿も声もみえない。
それゆえにヒカルのつぶやきにただただ首をかしげるのみ。
「何でもない。それより爺ちゃん、ご飯にいこっ」
「おお。この会場の外においしい海鮮料理の場所があるから、そこにするぞっ!」
「らっき~♪」
たわいのない会話をしながらも、とりあえずお昼をたべるために一度会場内から外にでてゆくことに。

「ああ!君はさっきの!」
ふとお店の中にはいると、座敷にすわっていた人物からいきなり声をかけられる。
何やら数名ほどがその場におり、その中にさきほど販売コーナーでであった係り員の姿が見て取れる。
「あれ?おじさん。おじさん、さっきの」
「ヒカル?知り合いなのか?」
そんなヒカルの様子に首をかしげつつも孫にとといかける。
「え。あ。うん。ちょっとね」
「おや。あなたは確か…アマチュア囲碁大会の本戦参加の方、ですね。
  なるほど。ならばその子供が指摘した、というのもうなづける」
どうやら別の人物は平八のことを知っているらしい。
「?爺ちゃん?知り合い?」
「たしか囲碁大会の主催者じゃよ。それより、指摘、とはお前いったい何やったんじゃ?」
何やら大会の進行係りのものが昼食にきているらしい。
「ああ。その子供ですか。さきほど柊さんからお聞きしておどろいていたところなんですよ。
  いやぁ、まだ小さいのによくまあ、本カヤと新カヤの差を見破りましたねぇ」
「しかし、君のおかげだよ。まだ被害にあったひともすくなかったし。
  もしこれが大会二日目とかで後々判明でもしたりすればアマチュア囲碁フェスティバルの名前に傷がつくからねぇ」
何やらしみじみとそんな会話をしている大人たち。
「…お前、ほんと~に、何やったんだ?」
話の内容がわからずに、となりにいるヒカルにと改めてといかけている平八であるが。
「えっと。何といっていいのか……」
そういわれてもどう説明していいのかがよくわからない。
「どうです?あなたがたも今から昼食のようですし?御一緒なさいませんか?」
促されて思わず顔を見渡す。
『ヒカル!ぜひとも同席しましょう!何かおもしろいことがきけるかもしれませんっ!』
どうやら彼らはあの囲碁の大会を進行している人々らしい。
ならば今の囲碁界のことについていろいろときけるかもしれない。
そんな期待をこめつつも、ヒカルの背後からだきつきせがんでくる佐偽。
だあっ。
だからいきなりだきつくなっ!
そうはおもうが、
「しかし、わるいのでは?」
「なぁに。それにその子供には我々は恩義発生しましたしね。大勢のほうがたのしいですし」
たしかに。
食事は囲んでわきあいあいとたべるほうがたのしい。
「恩義?」
「おや。きみ。君の祖父らしき人には何もいってないのかい?お孫さん、ですよね?」
「ええ。そうです」
「そのお孫さんは、販売コーナーにて、詐欺行為を働いていた業者をギャフンといわせてくれたんですよ。
  あろうことにアマチュアならばだませる、とおもったのか新カヤを本カヤ、といつわって販売してましてね」
「子供がいうことはあてにはならない。と御器曽ブロやその業者ははなにもかけなかったんですけど。
  その子供が倉田先生をつれてきてくれましてねぇ。それでその行為が発覚したわけです」
席をうながしつつも、交互に説明してくる大人たち。
「倉田先生!?おまえ、倉田先生にあったのか!?」
「爺ちゃん、しってるの?何かかわったお兄さんだったよ?」
しかも自信家。
「おまえなぁ。倉田プロをしらないのか!?…まあ、お前は碁に興味を持ち始めてまがないから仕方ないかもしれないけど」
きょとん、としたヒカルのセリフに、ふとヒカルが碁に興味を覚えた時期を思い出す。
はっきりいってまた一週間、である。
ゆえに知らなくても不思議ではない。
ないが……
「ヒカル!こんどあったら絶対に!サインもらっとけ!ものすごい貴重品だぞ!?」
「え~!?いらないよっ!あんなのっ!だってあの人の字、おれと大差ないもんっ!」
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」
つまり、字をしっている、ということはすくなくとも相手が名前を何かにかいた、ということに他ならない。
おもわずその場にいる大人全員がだまりこむものの、
「いきなり名前を扇にかいてきたけど、おれの字のほうがまだあれならよほどましっ!」
『いや。ヒカル。おそらくあれは五分五分です』
そんなヒカルのセリフにぽそっと横から佐偽がつっこみをしてきたりしてもするが。
「だからオレもその横に名前かいてやったら、何か叫んでたけど」
え~と。
どういっていいのかわからない。
さらっというヒカルの台詞におもわず唖然とする大人たち。
そしてまた、
「…君、囲碁歴、何年?」
倉田をしらない、ということはほぼ初心者に近いのかもしれない。
それゆえに多少声をかたくしてといかける。
「え?俺?えっと。石を始めてもったのがこの十三日。それまでは興味なかったけど」
「お前はいくらいってもなかなかわしの相手をしようともせず碁に興味なんてもたなかったからなぁ。
  まあ、美津子さんには感謝かのぉ。お前が碁に興味もったのは少なからずおこずかい目当てだとしても」
ヒカルが成績のことでおこずかいをとめられていたことはしっている。
それゆえにヒカルが碁を覚えてみよう、という気になったのだろう。
というのも何となく平八は理解している。
「「いや、ちょっとまってよ。この十三日から、って……」」
そんなに日があさい子供がアレを指摘できるものなのか。
まあ、前々から多少の興味はもっていたとしても石をもったことなどなかった、ということか。
「きみ。碁盤とかはもってるの?」
「あ。今、碁界所から借りてはいるけど、自分のはまだです。足つきのほしいけど、おこずかいあやしいし。
  まあ、買うにしてもお年玉で、かなぁ?あ、そういえば、足つきの碁盤っていくらくらいからなんですか?」
どうせやるならとことん本格的に。
それがヒカルのモットーでもある。
『そういえば。ヒカル。碁盤といえば。
  この前塔矢のお父君から碁盤を買うときにどうの、とかいって、ふみをあずかりませんでしたか?』
確かに、何かそんなことをいっていたような気もしなくもない。
中に何がかかれているのかなんてまったくもって知らないが。
「碁盤はピンからキリまであるからねぇ」
「しかし、完全な初心者、ねぇ。これは先がたのしみだ。君、何年生?」
そんなヒカルの台詞に大人たちから笑みが漏れる。
若い世代が碁に興味をもつことは何とも彼らにとっては喜ばしい。
何しろ、碁の世界、というのもはあくまでも何かイメージ的にお年寄りのもの、というところが強い。
いまだに若い世代で並はずれた実力をもつ人物がでてこないがゆえにそのイメージは覆せない。
「小学六年生です」
「六年か。そういえば、塔矢名人のおこさんも小学六年だったっけ?」
「塔矢?もしかして塔矢明のこと?あいつ俺と同い年なのにものすごい碁にたいして真剣だったなぁ」
ざわっ。
さらっというヒカルの台詞に何やら祖父である平八すらもどよめいてしまう。
「ひ、ヒカル!?おまえ、あの塔矢名人の息子にあったのか!?」
「二度うったよ?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
絶句。
としかいいようがない。
というか…まあ、子供相手なのだからありえるのかもしれないが。
「どこでうったんだ!?」
「ほら。前爺ちゃんからきいた、駅前にあるっていう碁会所で。
  この前の敬老の日は塔矢のお父さんともあったけど」
「おまえ~~!!ずるいぞ!なぜわしをよばんっ!!」
え~と。
まさかとはおもうが。
何やら言い合いを始めている祖父と孫の姿を唖然としてみつつも、
「…あっただけ?」
「ううん。何か対局した。そのときに石の持ち方とかおしえてもらったんだ」
かなりまて。
そうとしかいいようがない。
そもそも、あの塔矢名人が素人の…しかも実力のない子供に対してそのような指導をするものだろうか?
大人たちのそんな困惑など露しらず、
まあ、実際に打ったのは佐偽だけど。
石の持ち方を教えてもらったのは事実だし。
ヒカルは自分のいっている言葉がどれだけ重要ないみを含んでいるのかまったくもって気づいていない。
「おまえ!わかってるのか!?塔矢名人だぞ!?名人!今いるプロの中で一番神の一手に近いといわれている!
  あの!塔矢名人に!…でも、何で名人はお前のような素人と?」
「塔矢と同い年だからじゃない?」
いや違う。
絶対に違う。
何やら言い合いをしているヒカルたちの言葉に内心おもいっきりつっこんでいる大人たち。
彼が気に掛ける、ということはすくなくとも息子である塔矢明も彼に何かを感じた…というところだろうか。
たしかに。
まだ囲碁に興味を持ち始めて石を持ち始めてまがないというのに碁盤のよしあしを見極めた。
というのは驚愕にあたいする才能ではある。
「いいか!ヒカル!こんどあったらわしにサインもらってくれっ!」
どこかずれているような祖父のセリフ。
「あの碁会所にいけばあえるんじゃないの?だってあそこ、塔矢のお父さんが経営してるっていってたよ?」
「おまえな~!それはそうかもしれないけど、名人はいそがしくてまずいることなどないんじゃぞ!?
  お前、自分の好運かってないじゃろ!?」
よく理解していない孫におもわず口調もつよくなってしまう。
「よくわかんないや。それよりさ。おじさんたち。それで碁盤っていくらくらいからあるの?」
よくわかんない。
ということはまったくもって囲碁界のことは知らない、ということを指し示している。
「ふむ。どうですかな?お孫さんに碁盤をかってさしあげたら?むろん、オマケしますけど」
「たしかに。あの名人が気にかけているかもしれない、という子ならその価値はあるかもなぁ」
何やらそんな会話を平八にしてくる彼ら達。
「あ、碁盤かう気になったら渡してみなさい。といって手紙もらったけど?」
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」
その言葉に一瞬その場に沈黙がおりる。
「な…なにぃ!?おまえ、まさか塔矢名人から直接に手紙もらったのか!?なぜにいわんっ!」
「だあっ!爺ちゃん!耳元でさわがないでよっ!佐偽じゃあるまいしっ!」
おもわずそんな祖父に改めて叫び返すヒカル。
『この場合、ヒカルのほうに問題があるような気がするんですけどねぇ。私は』
この時代の囲碁界のことは知らないにしろ、基本は同じはず。
そんな中で爆弾発言ともいえる発言をしたヒカルに大人たちが興味をもたないはずがない。
「サイか何かしらんが!おまえ一言もそんなこといわんかったじゃないかっ!」
あの日、敬老の日だからといって確かに家にはやってきたにはきたが。
そのときは何もそんな話はでなかった。
「別にいうことじゃいじゃん!ただちょっと碁盤かりにいった碁会所であっただけなんだし!
  爺ちゃんには碁盤かりにいった、って話したじゃんっ!」
たしかに、碁会所で碁盤を借りた。
という話はきいた。
きいたが…重要性はそこではない。
「それとこれとは話がべつじゃ!なぜそんな重要なことをはやくいわんっ!」
「別に重要とかおもわないしっ!」
「おまえな~!!」
何やら喧嘩を始めているそんな祖父と孫の様子とは対照的に、
「き、君。その手紙とかいうの。今もってるかい?」
思わず声をかすれさせつつも問いかける。
「え?あ。ありますけど?えっとぉ……」
ごそごそごそ。
とりあえず背負っていたリュックサックをおろしてごそごそと中身を物色する。
「あ、あった。はい。これです」
よれっ。
何だか鞄にいれていたせいか、多少しわが目立つのは気のせいではない。
「お・ま・え・なぁ!まがりなりにも塔矢名人のふみをなんつ~あつかいをぉぉ!」
ぐぎっ。
「ギブギブっ!爺ちゃん!ギブっ!」
ぐぎっとヒカルの首をはがいじめ、叫ぶ平八におもわず降参の声をだすヒカルであるが。
ヒカルから手渡されたそれには、たしかに塔矢行洋の文字が描かれている。
後ろにはしっかりと署名がされているのもうなずける。
達筆すぎるじなのでヒカルには何がかかれているのかさっぱりもってわからない。
「中みても…って、話できる状態じゃなさそうだね」
みれば何やらいまだにじゃれあっているようにもみえるが、本気で喧嘩をしている二人の姿が目にとまる。
封筒はきちんと封がされておらず、すぐにでも誰でも取り出せるような形式となっている。
それゆえに、互いに顔を見合せて、ひとまず中身を確認するために中にとある手紙を取り出してみる彼ら達。
たしかに間違えようのない塔矢名人の筆跡。
彼が手紙までもたせた意図がどうしても知りたい。
そこには。
『この手紙を持参した子供になるべくよい碁盤を世話してやってほしい』
といった内容が描かれている。
そしてその中には、その子供には何かを感じるから、というような文面も描かれているのが見て取れる。
その手紙の内容をみて、おもわずいまだに祖父と互いに何やらはがいじめを交互に繰り返しているヒカルをみやる。
どうみても普通の子ども。
だけども、塔矢名人はこの子のもつ『何か』に気がついたらしい。
これからのびてゆくのか、それともはたまた……
しばし、はがいじめを繰り返すヒカルと平八とは対照的に、
係り員たちによる話し合いがぽそぽそと繰り広げられてゆくのであった……


                                -第9話へー

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あとがきもどき:
薫:はいv知らない、とは恐ろしい~(笑)という回でしたv(まてこら
  ヒカル、いまだに囲碁の世界のことはまったくもって無知なのでさらっと爆弾発言ですv
  まあ、のりでいってるのもあるので当人も綺麗さっぱりとその重要性を理解してませんv
  祖父からしても、孫が雲の上に出会った、というのにサインの何ももらっていない。
  という思いから孫にあたっているだけですのでv(あるいみ嫉妬?
  次回で新たな碁盤登場、それでもって大会ですv
  ではでは~♪

2008年7月25日(金)某日

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