まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。
さてさてv今回は例の全世界の囲碁大会v
やってみたかったことの一つ、ヒカルとアキラとのチャットの会話にもうすぐいけるv
しかし、佐偽が一度消えるまでいくのにいったい何話になることやら(汗
何はともあれ、ゆくのですv
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「佐偽。お前手加減なくいつもうってきてるよな」
『そういう虎次郎も。強くなりましたよね。でもあなたが表でうたなくても本当にいいんですか?』
「私は佐偽の碁をうつのがみたいだけ。佐偽はどんどん強くなる。それをみるのが楽しみなんだ」
『虎次郎……』
「さ。もう一局だ!」
『はいっ!』
それはもう遠い記憶。
あれから百年以上経過している。
だけども、よみがえった現代においても、自身がいきていたはるかな過去においても変わらないものがある。
それは、碁、という碁盤の上で繰り広げられる何とも神秘的な行為……
星の道しるべ ~奇跡と布石と必然~
「……ありません」
予測していたとはいえやはり目の前につきつけられればショックも大きい。
だが、それ以上に……
「進藤。お前、前よりつよくなってないか?」
「え?そうなの?」
『確かに。現代の定石もだいぶわかってきましたからそれをとりいれてはいますけど』
そんなものなのか?
「最近、よくネットで碁をうってるからかな?あ、ほら、俺って経験ないし」
「なるほど。経験はひとをつよくするからね。しかし、相変わらず進藤って無自覚だよね……」
一局手合せしてみればわかる。
相手がどれくらい強くなったのか、ということくらいは。
前以上に高い壁を感じるのも事実。
「わるかったなぁ!あ、でも最近はだいぶ囲碁用語もおぼえてきたんだぜ?」
「そもそも、知らないままでうてる、というほうがおかしいんだよ」
「そんなものなの?」
「そんなものなのっ!というか、君とはなしてたらこっちが脱力しちゃうよ……」
ヒカルとアキラのやり取りを横目でみつつも、たしかに驚愕せざるを得ない。
横からみていてもわかる。
ものすごく高い壁を。
しかも、どうやら目の前の子どもは囲碁のことをほとんど理解していないらしい。
それでこの強さ…って……先が怖い、怖すぎる。
こんな子がプロにはいってきたら間違いなく負けるのは必然。
「でも、最近は直感にたよらず、自分で打てるようにだいぶなってきたとおもうんだけどなぁ?」
『ヒカルはまだまだ、ですけどね』
わるかったな。
「そのギャップが何ともいえないよね。君の場合は。だけど君がたぶん考えてうったら僕はあっさりかてるよ?」
「何を!?ならやってみるか!?」
「いいともっ!」
何やら売り言葉に買い言葉。
そんな会話をしつつも、改めて対戦を始めているヒカルとアキラ。
「…ああっ!まけたぁぁっ!」
「え~と?明くん?この子のこのギャップは何?」
おもわず唖然としてしまう。
先ほどの一手とはまったくもって比べ物にならないのは明白。
「これが進藤なんですよ。芦原さん。何も考えずにうったほうが強い、という。…何とも馬鹿にしてるでしょ?」
「…たしかに」
たしかに今の一手も考えては打ち込みをしていた。
先ほどの対局はほとんどすぐにうっていた、というのに。
つまりは、理性、もしくは経験の不足が邪魔をして考えれば考えるほどどつぼにはまってゆくタイプなのかもしれない。
だが、それらを克服したら?
ぞくっ。
思わず背筋に冷や汗が伝う。
「でも、進藤はたくさん対局をこなしたほうがたしかにいいとおもうよ?実際に」
「ん~。まあ、今のところうまくしたらノートパソコンゆずってもらえそうだし。
そうしたら時間あるときにネット碁ができるし」
「碁会所とかにいけばいいのに」
「無理!お金ないっ!」
そもそも、碁会所はお金がかかる。
しかも、今では毎日のように佐偽と対局している、という事実もある。
「それなら僕の家にくれば?父の研究会もあるし」
「それもむりだって。お前んち、俺ん家からどんだけ離れてるとおもうわけ?
かよってたらすぐに俺のおこずかいなんてつきちゃうよ」
「…ま、まあそれぞれの家庭に事情はあるだろうけど……」
どこかほっとしてしまった自分を情けなくおもってしまう。
そういいつつも、
「あ。進藤君。僕とも相手おねがいできる?」
「え。あ。はい。おねがいします」
『わ~い、わ~い。対局、対局~♪』
こいつ、ほんっとうに楽しそうだよな。
って、だから!
のこってる寿司を手にもったままはしゃぐなっ!
こいつ、子供か!?
いい大人が片手に寿司を手にしたままはしゃぐ様は何ともいえないものがある。
まあ、見ていて微笑ましい、といえば微笑ましいが。
そんな会話をしながも、しばし時は過ぎてゆく。
ガラガラ。
「今もどった」
「あら。おかえりなさい。あなた」
「あ。塔矢先生。お邪魔してます!」
声がきこえて顔をだし、玄関先にとでむいて挨拶をする芦原。
「うん?きてたのか?君は」
「はい。好奇心から」
ふっ。
その気持ちはわからなくもないが。
「それで?明はどうした?」
「今、まだあの子とうってるわよ?…って、あら?」
「だから!どうしてそうなるわけ!?」
「そういうお前こそ、ここをこうしたほうがっ!」
何やら騒がしい声が聞こえてくる。
「あれは?」
おもわず首をかしげる塔矢行洋。
「あはは。進藤君の手に明君が指摘してるんですよ。進藤君も負けずといいかえしてましてねぇ」
はっきりいって子供の喧嘩。
みていて微笑ましい、とえば微笑ましいが。
「あの子も不思議な子ですね。先生。何も考えずにうてば最強で、考えてうてばまだまだ、とは」
いいつつも苦笑し、
「とりあえず、今は明くんがあの子が考えてうった手に指導のようなものをしてるんですけど。
まけずとあの子のほうもいいかえしてましてね。
見ていて微笑ましいのですけど、何というか、明君もやっぱり子供だったんだなぁ。
とつくづくおもったりして」
今まで彼は喧嘩、という喧嘩を一度もしたことがない。
相手が同い年、ということもありアキラもまたムキになる。
「しらないんだからしかたないだろ!?」
「なら今おぼえろ!今!」
何やら奥のほうからそんな言い合いが聞こえてくる。
「しかし、そろそろあの子も家にかえさなければいけなくないか?」
たしかにもう時刻は六時を過ぎている。
「ああ。そういえばそうですね。でも声をかけられる雰囲気じゃないんですよね~」
いくら早くもどった、とはいえそれは彼にとって速いだけで子供の時間からいけば結構遅い。
「それなら私がおくっていきますわ。あなた。あなたはお疲れでしょう?まずお風呂になさいます?」
「そうだな。ならすまないが明子、そうしてくれるか?」
「はい。芦原さんは今日はとまるの?」
「あ。いえ。僕もそろそろおいとまします。明日は手合いがありますし」
一応は帰る挨拶をしたにはしたが、あの二人に届いていたかどうかははなはだ疑問。
「とりあえず、先生にご挨拶するまでは。とおもってこの時間帯までいたんですけど。
それじゃあ、僕は今日はこれで。先生。明子さん、失礼いたします」
「芦原さん、気をつけてもどってくださいね」
「あはは。失礼しま~す」
塔矢の父親と入れ違いに玄関から外にとでてゆく芦原の姿。
そんな彼の姿を見送りつつ、
「さて。じゃあ、私はあの子をおくっていきますね」
「ああ。たのむ。風呂はもういいのか?」
「ええ。いつでもはいれますよ?」
言葉はすくないにしろ、それだけで心がつうじるものがあるこの夫婦。
「なら、私も明と進藤君に挨拶してから風呂にいくとするか」
そんな会話をしつつも、何やら未だに騒がしいアキラの部屋のほうにとむかってゆく二人の姿。
ブロロロ……
すでに十月、ということもあり、外はすでに暗闇。
「今日はありがとうね。進藤君。それと、後ろの人はあれ、たべれたの?」
おそらく食べられたのではあろうが。
姿が光に包まれて視えない以上、確認することができない。
「え。あ。はい。あ、そういえばおばさん。あれのやり方って何かあるんですか?
こいつがモノをたべられる、なんて思いつきもしなかったし」
車の中にはヒカルと明子の二人と、そして佐偽のみ。
それゆえに気兼ねなく問いかけられる。
『私もおもってもみませんでした。千年ぷりの食事はとてもおいしかったですぅ。感謝いたします』
「おばさん、佐偽が感謝します、だってさ」
「それはよかったわ。そうね。あなたならできるかもね。えっと、あなたの家に神棚はある?」
ふるふるふる。
そんなものは一切ない。
「仏壇とかならあるけど」
「う~ん。まあ、それでも代用できるけど。いい?まずは……」
仏壇に供えたものは、おそらくその仏壇に入っている人たちのものになってしまうかもしれない。
それよりは、自室で簡単に神棚のようなものをつくり簡易的にやったほうが家族の誰も不思議にはおもわないはず。
それゆえに、簡易的な神棚の作り方と、供え物の作り方を車の中でおしえる明子。
「それなら俺にもできそう。佐偽。これだとおまえにもいろいろ何かたべさせたりのませたりできそうだぜ?」
『ほんとうですか!?わ~い!わ~い!』
「でも!高いものはむりだかんなっ!」
くすくすくす。
何やら言い合いをしているらしき彼らの様子におもわずくすくすと笑ってしまう。
一緒にいるだけで何かこう神気のようなものをひしひしと感じる。
それだというのに当の当人の霊体は無自覚だというとてもまれなケース。
おそらく、何かこの世の中にするべきことがあり、彼は進藤君に憑いたんでしょうけど。
それが何なのかは明子はわからない。
ただ、言えるのは、サイ、とよばれている霊は進藤光、という人物にとってとてもよい存在である、ということのみ。
「まあ。わざわざすいません。奥さん」
「いえ。こちらこそ。こんな遅くまで息子さんをひきとめてしまって」
何やらにこやかに玄関先で話している二人の母親。
「これからもうちの息子となかよくしてやってくださいね。うちの子、父親が父親のせいか、同い年の友達がいなくて。
周りは大人ばかりの環境でそだっているもので子供らしさがなくて少し心配してたんですよ」
「ほほほ。うちの子のガサツさがそちらの息子さんにうつらなきゃいいんですけど」
「むっ。母さん。ガサツって何だよっ!がさつ、って!」
「言葉のままよ。ヒカル。まあ、こんな子でよければいつでもおかししますわ」
「こちらもお願いしますね。じゃあね。進藤君。また。何かあればすぐに電話してきなさいね」
「は~い。おばさん、ありがとう」
「どういたしまして」
明子に家まで送ってもらい、遅くなったこともありヒカルの母親に挨拶している明子であるが。
そんな明子ににこやかに対応しているヒカルの母親、美津子。
大人たちの思惑はヒカルにはよくわからない。
社交辞令のようなものなのかもしれないが、子供の彼にとってはどうでもいいこと。
「ヒカル。相手に失礼がなかったでしょうね?」
「たぶんないとおもうよ?それより、お風呂もうはいれるの?」
「はいれるわよ?先にはいるの?」
「うん。先にいってくる」
何となくだがゆっくりとしたい。
大きな屋敷で多少精神的に気疲れしたのも事実。
そんな会話をかわしつつ、ひとまずヒカルは一度先に風呂へとむかってゆくヒカルの姿。
「よっし。今日のおさらい!佐偽、説明よろしく」
『はいっ!というかヒカル、せっかくだから本、どうしてかりてこなかったんですか!?』
相手のほうは好きなだけ持って帰ってもいい、といってくれたというのに。
それが佐偽には残念でならない。
「返しにいくにしても、お金いるし。というか下手に取扱まちがったら高いものとかだったらどうするき?」
おそらく小学生では弁償できるしなでないような気がひしひしとする。
『できたらあの部屋というかあの屋敷の書物を全部見たかったです……』
「お前なぁ。…ま、それよりうとうぜ」
何でも今日もまた父親は遅くなるらしい。
それゆえにすでにお風呂をすませ、ご飯も先にたべた。
昨日のうちに明日の用意はしてあるので時間はたっぷりとある。
『では、まずは今日の検討、からですね。ヒカルはこうきて、こうあのとき打ちましたけど……』
「でも、これはこうでよかったんじゃないの?」
『いえ。ここはこう、ですね。このような打ち方をするのならば。
この手はたしかに守りに徹していますけど、攻めには足りません』
守りと攻め。
それらが合わさって初めて先が読めるという囲碁。
終わりのない数式のようなもの。
それゆえに覚えていてどこか楽しい。
「なるほど。あ、じゃぁ……」
パチパチ。
石を盤面上におくのはヒカルの役目。
並べられた石を目の前にして説明するのが佐偽の役目。
しばし、そんな会話を繰り返しつつ、
『さ。じゃあ、今日の特訓にいきますか?』
「今日こそかってやるっ!」
『それはおそらく無理です』
きっぱりはっきり。
きっぱりと笑みを浮かべていいきる佐偽。
「じゃあ、お前が黒で俺が白、な」
『はい』
反対側にと座り、手にしている扇で打ちたい個所を指ししめし、そこにヒカルが石をうつ。
はたからみれば、ヒカルが一人で棋譜を並べているようにしか見えないが。
ともあれ、今日もまたいつもとかわりなく夜は更けてゆく……
時、というものは長いようでそれでいて早い。
ましてそれが毎日充実している日々ならばなおさらに。
「え?全世界、アマチュア囲碁カップ?いいなぁ。お前そんなのにいくんだ」
【君も何ならいく?】
『ヒカル!いきたい、いきたい、いきたぁぁいっ!!!!』
「ああもう!うるさいっ!…あ、わるいわるい、塔矢。こっちの話。う~ん。でもなぁ。
今、おれこずかいやばいし。まあ、とりあえずこの週末は友達のツテでネット三昧、かな?たぶん」
【そう?残念】
「でも、お前、何でそんなのに?」
【父が忙しいから、その名代】
「お前も大変だなぁ」
ぷらぷらとベットにこしかけながらも会話する。
電話の子機をつかっているので母親にも気兼ねなくはなせる。
【今回の参加国は五十カ国を超えてるらしいよ?土曜日から四日間。火曜日まで。
気がむいたらおいでよ。場所は……】
「あ。ちょっとまって。えっと…メモメモ…っと」
ベットから立ち上がり、机の上にあるノートを取り出し、筆記用具を握る。
「あ。いいよ?うん。うん…それで?…うん。なるほど」
何でも、冬季と夏季、年に二度ほどあるという全世界アマチュア囲碁大会。
【夏場のほうは僕たち子供は夏休みなので気がるにいけるかもしれないけど】
「もうちょっとちかかったら自転車でもいけるけど、ちょっととおいいよなぁ~……」
住所からして多少、自転車でいってもおそらく数時間はかかる距離。
それゆえにぼやかずにはいられない。
日本棋院会館の近くらしいが。
電車でいけばたしかにそれほど距離はないであろうが、小学生からすればかなりの距離である。
『ヒカルぅ。いきたい、いきたい、いきたぁぁぁぁいっ!』
「うん。うん。…じゃあ、また。またな。塔矢」
ぷっ。
横でダダをこねて騒ぐ佐偽をそのままに、とりあえず会話をおえて電話をきる。
アキラから電話があるときは大体何かがあるときくらい。
まあ、そんなものだともおもうし、たわいのない会話で長電話などをすればまず間違いなく母親に怒られる。
「おまえなぁ!人が話している横でさわぐなっ!仕方ないだろ!?お金ないんだしっ!
まあ、この土日はお前にしっかりとネットで打たせてやるからそれで我慢しろってば!」
『全世界…つまり、ヒカル。海の向こうの人たちがきて打つ、ということですよね?』
「ネットでも全世界につながってるじゃんか」
『実際に人々が打ってるところをみたいんですっ!』
「気持ちはわかるけど、今月のこずかいをかんがえろっ!」
そもそも、ようやく今月こずかいが少ないながらももらえたというのに。
そんな場所にいったりすればあっというまに消えてしまう。
「まあ、どこかの碁会所でもあったら一回くらいはいってやるよ」
『ヒカル!絶対ですよ!?絶対っ!』
「まあ、爺ちゃんにかって五百円もらえたこともあるしなぁ」
祖父の平八はかなり驚いていたが。
それはそうであろう。
ヒカルが碁を始めたのは先月。
それですぐに孫にまけては平八の立つ瀬がない。
「ま、とりあえず。明日は朝一でネットカフェ。な。
お前、自転車にのってるとき。しがみついてくるのはいいけどあまり強くひっぱるなよ?」
ネットカフェのある場所までも多少の距離はある。
ゆえに自転車で行動したほうがかなり楽。
『ジ?ああ、あの何だか足をうごかしたらすすむあれですか?からくり仕掛けの乗り物ですね』
「おまえ。せめて用語、くらいはおぼえてくれよ……」
幾度、あれは自転車という乗りものだ。
と道行く人が乗っているのをみて騒ぐ佐偽に説明したことか。
「明日は三谷のお姉さんは午前中にアルバイト、らしいからな」
三谷の姉がいれば無料でネットをすることも可能。
かといってアカリの家にいってやらせてもらう…などすれば、アカリのことどんな騒ぎにしてくるかわからない。
「ま、とりあえず続きやろうぜ。佐偽」
『くすん…囲碁大会……』
「おまえ、いい加減にあきらめろ。後で塔矢にでも棋譜をおしえてもらえばいいだろ?」
『でも…でもぉ……』
「とにかく、うつぞ!ほら、佐偽!おまえはそっちに!」
何やらいまだにいじける佐偽をそのままに、すでにいつもの日課と化した碁を互いにうつヒカルと佐偽。
ヒカルは気づいていない。
毎日のように佐偽とうつことにより、自身にもまた実力が培われていっている、ということを……
「…俺がsaiを始めてみたのがこの間。…時間限定であいつはいる」
しかも曜日も決まっている。
まるで…そう、その時間帯の曜日にしか打てないかのように。
何でもワールド囲碁ネットにあるチャットによれば、saiと対局した人々はことごとく負けたらしい。
それゆえに、saiは誰か。
という噂がネット上で騒ぎになりかけているのも事実。
「って、手伝い!手伝い!」
ふるふるふる。
とりあえず頭を埋め尽くすその疑問を何とか吹き飛ばす。
目の前にあるのは通いなれている日本棋院。
その横にある建物の内部において本日から行われる世界アマチュア囲碁大会。
対局をみるたびに変化しているsaiのことがどうしても頭から消えないのも事実。
まるで…まるで、本因坊秀作が現代の棋譜を学んでいっているようじゃないのか?あれは?
先生に聞けばわかるかな?
そんなことをおもいつつも、建物の中にとはいってゆく少年が一人。
「近年、世界の囲碁レベルは着実にあがっており、また今回の参加国は五十カ国を超えました。
これは常日頃から皆様がいかに碁にしたしみ、盛り上げていただいていただいているかの証明でもあります。
たえず、新しい可能性を追求してゆく。それもこれからのわれわれの課題の一つだとおもっております。
では、今日から四日間。一日二局。計八局になりますが思う存分戦い、楽しんでください」
全世界、アマチュア囲碁カップ。
そうかかれた字幕と、さまざまな国々の国旗の横に書かれている名前と文字。
今回の大会に参加している国々の国旗がボードに示されている。
檀上の上で何やら体格のいいがっしりとした男性が集まった人々に対して述べているのが見て取れる。
ぐるりと会場を見渡せば、さまざまな全世界の人々が集まってきているのがみてとれる。
大会の進行係りの手伝いとして師匠にと呼ばれた。
係りの席にとつき大会の開幕の合図ともいえる祝辞をきく。
マスター、saiの正体をぜひつきとめて?
かっこいいよね。ネットに潜む最強の棋士、なんて。
生徒たちの会話が頭をよぎる。
saiのことを知りたいのはあわてることはない。
まずは大会でベストをつくさねば!
第一の目的は優勝カップを中国に持ち帰ることだ。
何としても勝たなければならない。
saiのことはそれからだ!
それぞれsaiと対局したことがあるものの頭の中にあるのは、日本にくればsaiがだれかわかるかもしれない。
という思い。
佐偽にせがまれるままに全世界の人々と碁をうっているヒカル。
それゆえにアマチュアの中において、また全世界のプロの中においてその名前はじわじわと広がっていっている。
それぞれがそんな思いを抱きつつも、合図と同時に対局を始めてゆく集まった世界の代表のメンバーたち。
「森下先生。四日間。審判長役。おねがいいたします」
運営係りの一人らしき人物が、先ほど挨拶した体格のいい男性にと語りかける。
「いやぁ。この大会は運営が大変でしょう」
「こうやって選手があつまって始まってしまえば楽なんですけどねぇ。選手が全員そろうまでが大変なんです。
それでも私はこの大会が一番好きですよ。世界に囲碁がひろがってゆく手ごたえを感じますからね。
苦労のしがいがあります」
確かに。
囲碁は日本が昔から誇る文化でもある。
それゆえに世界にひろがってゆくのは何とも誇らしい。
何しろ記録にある中で、平安の時代から碁は打たれている、ときちんと判明している歴史ある文化。
「…ん?和谷!」
ふと、うろうろと対局している人々の間を歩いている少年に気づいて体格のいい、森下、
と呼ばれた男性が声をかける。
「……あ。先生」
そんな人物の声に気づき、何とも間の抜けた声をだす少年であるが。
「お弟子さん、ですか?」
「ええ。今日は手伝いに呼んだんですよ」
そんな和谷、と呼ばれた少年とは対照的ににこやかに会話をしている二人の姿。
名前を呼ばれればちかよってゆくしかない。
対局をすべてみてから探し人がいないか見たい、というのに。
溜息とともに、とりあえず自身の師でもある人物のほうにとむかってゆく和谷。
「ん?何て顔してるんだ?おい?お前に今日きてもらったのはな。
対局がおわってしまった外国人選手と空き時間にちょっとうってやってほしいんだ。
国際アマの上位クラスはお前でもまだ歯がたたねぇが、下のほうはまだまだだ。
せっかく日本にきたんだ。時間の許すかぎり鍛えてやりたいじゃないか。がはははは。
こいつ、今年のプロ試験、四敗しちまっておちちまったんですけどね。
いつプロ試験にうかってもおかしくないやつなんですわ」
そんな彼の思いをしるはずもなく、何やらにこやかにそんなことをいっている師匠の話が耳につく。
「……先生」
聞いてもおそらく知らないだろう。
だけどもきかずにはいられない。
「ん?」
「…すごく…すごく強いやつがいる」
「ん?…あれじゃないのか?塔矢ジュニアかもしくはアマのプロ。
塔矢ジュニアは今日塔矢名人の名代でくることになってるぞ?」
まだきてないようではあるが。
今日から手伝いにくる予定になっているのも事実。
「そ、そうじゃなくて!インターネットの中にっ!」
「インターネット?そりゃ、プロの誰かじゃないのか?」
「プロじゃないっすよ。手合いの日でもいるんですし」
自分も手合いがある日はみれないが、後々チャットでしったところやはりいた、ということくらいは把握している。
「じゃあ、アマだろう。アマにだって強いやつもいる。今日うっている日本代表の島野なんかプロと五分にわたりあうぞ?」
「もっとつよいっすっ!」
「ん?もっと?もっと、ってどれくらいだ?」
…先生より強いんだよ?とはいえないし…
「え~と……」
それゆえにどうやって説明していいのか言葉に迷う。
「ああ。もういい」
こつん。
何やらのどおりがいかない弟子の言葉を制しつつも、手にした扇で和谷の頭をかるくたたく。
そのまま、運営係りの責任者らしき人物とともにその場をたちさってゆく森下の姿。
「しかし。最近はアマのレベルもあがってますからねぇ」
「先生。一度そいつのこと…!」
「また今度きいてやるよ。今日は仕事だ」
まったくもってとりあってもらえない。
おそらく、間の当たりにしなければ興味を抱かないのだろう。
「…よし」
まずは、いるかどうか確かめてみる…か。
そんなことをおもいつつ、日本棋院の事務所にひとまず和谷はむかってゆくことに。
コンコン。
「はい」
「あ。すいません。院生の和谷ですけど。こちらにインターネットができるパソコンがあればお借りしたいんですけど」
「ああ。いいわよ?そのノートパソコンつかって?」
事務の女性は今手が離せない。
それゆえにパソコンの前に座りながらも返事を返す。
「ちょっとおかりします。…え~と…いない、か」
囲碁ネットの中の名簿の一覧をざっとみるものの、目的の名前はみつからない。
「どうも、ありがとうございました」
「あ。そのままにしといていいわ」
「はい」
バタン。
いなかったことに落胆しつつも事務所をあとにする和谷。
和谷がでていってすぐ、一覧にひとつ名前が加わってゆくのを当然和谷は知る由もない。
その名は…『sai』。
「三谷のお姉さん!」
「あら。ヒカル君。今日は一人?うちの馬鹿弟は今日は図書館にいったわよ?」
「三谷のお姉さん…その言い方はちょっと……」
たわいのないやり取りなのだろうが、どこかとてもうらやましい。
一人っ子のヒカルにとっては特に。
「でも、はやいのねぇ。まだ九時よ?」
「だってここ、九時から、でしょ?」
このネットカフェの営業時間は朝の九時から夜の十時まで。
ゆえに開店時間にあわせてくるように家をでた。
「ま、そうだけど。今日はどうする?できたら今日は土曜日だからボックス席は……」
「あ。普通でいいです。あ、だけどなるべくはしっこでなるべく目立たないところで。
俺、独り言いう癖があるからさ」
「はいはい。じゃぁ、あそこの窓際の席がいいかな?はい。席の番号」
「ありがと!」
示された席はたしかに端にとあり、周囲の目はあまり向かないような位置にとある。
「さってと。あ。佐偽。今日は俺もときどきうってもい~い?」
『それはかまいませんけど?二人同時にはいれるのですか?』
「…どうだろ?やってみないと何ともいえないかな?」
『ならヒカルとうちたいですねv』
「おまえなぁ。家で毎日のようにうってるだろ!?」
しかも、いちいち窓をかえては打ちかえるのはかなり面倒すぎる。
席を確保し荷物をおき、飲み物をとりあえず取りにいく。
「まあ、それはともかく。よっし!いくぞ!」
『わ~い!これからお昼まで対局三昧~♪』
どうやらご機嫌、なおったようだな。
横できゃぴきゃぴはしゃぐ佐偽をみつつも苦笑し、パソコンにむかってゆくヒカルの姿が、
ここ、ネットカフェの一角において見受けられてゆく……
ざわざわざわ。
sai。
「sai、とは何ものですか?」
その名前がでたとたんに会場内部がざわめきたつ。
間違えられた人物はといえばよく意味がわからない。
それゆえに対戦していた相手に逆に問いかける。
「正体はわかりません」
ふとその名前に反応し背後にいた別の人物が逆に返答してくる。
「あなたは?」
「saiとは対局を?」
そんな彼にと互いに問いかける二人の男性。
「ええ。とても強くて、何ものかとチャットを試みたのですが拒否されました。この場にこられているのでは?
と期待したんですが……」
だが、対局のすべてをみたがそれらしき人物はいなかった。
それほど、saiの強さは破格なので見ればわかるはず。
「僕も先月、対局したんですよ。僕程度じゃ歯がたちませんでした」
「私は対局したことはないが、観戦したことはあるよ。佐偽は時間限定でよくいるからね」
「私はsaiと打ったは。数日前に」
「約一か月前からいきなりあらわれてねぇ。あまりに強いので噂はあっという間にひろがっていっているよ。
世界中から対局の申込があるようだねぇ。みんないってるよ。『saiは誰!?』と」
ざわざわざわ。
その名前をききつけて、何やらざわめきがおおきくなってくる。
sai。
やっぱり、やっぱりだ。
saiの話をしてるんだ。
森下師匠にいわれて、一局うっていた和谷がその名前に反応する。
そんな中でも、次々に自分も打った、または観戦したことがある。
という人々が集まり、ざわめきはさらに広がっているのが見て取れる。
と。
「お静かに!まだ対局している人もいるんですよ!?」
そんな騒ぎをききつけて、大会の進行係りがちかよってゆくが。
「いったい彼は何ものなんです!?並みの打ちてじゃないですよ!?」
そんな注意のこえは何のその、どうやら騒ぎはおさまりそうにない。
「みなさん!」
注意を促すものの、どうやら人々の関心は別なところにあるらしい。
「?どうしたんですか?」
「は。はぁ。インターネットがどう、とか」
「インターネット?そういえば和谷もそんなことをいってたな」
たしかに何やらざわめいている。
それゆえに、さきほどの弟子の言葉を思い出す森下。
「?何かあったんですか?」
ふと、背後のほうから第三者の声が聞こえてきてふりむけば、
そこには白いスーツに身をつつんでいる一人の青年の姿がみてとれる。
「緒方先生」
「何だ。緒方くん。君も興味があってきたのか?」
「お久しぶりです。緒方先生」
そんな彼の姿をみて、先ほどsaiと勘違いされて騒ぎのいったんになった日本人が席を立ちあがる。
「何だ。知りあいだったのかね?島野と?」
そんな彼と緒方の顔を交互に見比べ、首をかしげて問いかける森下。
「ええ。以前、名人の研究会にもよく顔をだしていたので。今日は激励にきました。
明くんも一緒にきたのでじきにきますよ。ところで、少々、ざわついているようですが?」
たしかに、会場の中が異様にざわついている。
「え。ええ。何でもインターネットにすごく強い人がいる、とかで。sai、と名乗っているそうですが」
「強い…?」
自身もネット碁をするがそのような名前はきいたことがない。
彼自身、碁のチャットに入るようなことはまずしていないので彼にまで噂は届いていないのも現状。
「はじめまして。中国の李、です。saiと打って中押しでまけました」
たしか彼は前回の大会の優勝者。
それゆえに、
「では、プロの誰か?」
「違うとおもいます。saiは時間限定ではありますがよくあらわれますし、相手を選ばない。
プロがそんな暇なことをするでしょうか?」
「韓国の金、です。私は直接は知らないのですけど、来日する前、友人のプロきしから連絡をうけました。
今、saiとうった。日本にいったら是非ともsaiがだれか聞いてきてくれ。
絶対に日本のトップ棋士だろうから。と」
「いや。プロじゃないはずだ」
「でしたら!彼は一体誰にまけたんです!?我が国で今もっとも伸び盛りの彼が?!」
その言葉に一瞬その場にいる全員が静まり返る。
と。
「あ、あの。すいません。あの~」
いてもたってもいられずに、その騒ぎの中にとひょっこりと顔をだす。
「こら。何だ、和谷」
「だって、saiの話でしょ!?だまってられないですよっ!」
「な!?お前もsaiとうったのか!?」
「さっきいったじゃん!ブロじゃないのに強いやつ。ってそいつっすよ!saiって!」
そういえば、そんなことをいっていたような気もしなくもない。
「ふむ。どんなやつだ?」
それゆえに弟子にとといかける森下とは対照的に、横にいる大会の進行係りにといかけている緒方の姿。
「彼は?」
「森下さんのお弟子さんですよ」
「どんなやつ。って、打ったのは先月なんですけど。手筋とか何というか。
そのときは秀作みたいなやつ、っておもって」
「秀作?本因坊秀作か」
「おれ、よく秀作の棋譜とか並べるから何かにてるな。って。そんくらいつよいって感じで。
そのあと、何どか何局も観戦したんですけど。そう、いやほんと何局も。
あいつ、時間限定、曜日限定でよくいるし。そんで、何かすげえぞ。こいつ。って。
その上、みるたびに強くなっていってるんです。まるで秀作が現代の定石を学んだみたいに」
「秀作が現代の定石を?」
「…それは神か?…化け物か?」
しぃん……
そのセリフにさらに会場内部がしずまりかえってゆく……
-第16話へー
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あとがきもどき:
薫:さてさて。ようやく次回でネットでの佐偽vs塔矢ですvといっても完全なまでの対局ではないですが(笑
まあ、原作&アニメを知ってる人しかみてない、というのを前提にのんびりまったりと打ちこみ中~
表現が枯渇してるのはそれゆえととらえてくださればありがたいですv(こらこらこら
まあ、所詮は趣味ではじめたうちこみさv
何はともあれ、ではまた次回にてvv
2008年8月1日(金)某日
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