まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。
さてさて。今回は囲碁教室&塔矢の自宅の回なのですv
日々、佐偽とうっているがためにじわじわと覚醒しかけているヒカルの布石でもありますv(まて
何はともあれ、いっきますv
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「しかし。三谷のお姉さん、ふとっぱらだよな~」
学校帰りにいつでもおいで、といわれて言葉に甘えている。
「姉貴はひとの世話をするのは好きだからな」
というかあの家にいたくないのもあってのアルバイト、というのもあるだろうけど。
三谷としても、あんな家にいたくない。
かといって、どんなにろくでもない父親でも父親は父親。
たった一人の肉親である。
すでに祖父などといった親戚はいない。
たしかにちょうどここちよく、クーラーもかかっており、なおかつ飲み物も自由自在。
宿題などをする環境にはうってつけ。
「しかし。お前もいつも宿題おわったらパソコンで碁をうってるみたいだけど、マンガとかよめばいいのに」
「いいんだよ。俺んち、いつパソコンもらえるかわかんないし」
「ま、おれは一人でいくより二人のほうが気がらくだからいいけどな」
月曜日からほぼ毎日のように放課後、ネットカフェにと通っている。
とはいえ時間はかぎられてはいるが。
「そういや、お前、明日はどうするんだ?」
「あ~。明日は約束があってさ。囲碁教室がおわったら友達の家にいく予定」
「へ~。そうなんだ。俺は…どうするかなぁ」
あの碁会所にいってみたいのは山々。
だけども何だかいきそびれているのも事実。
「しかし、もう十月なんだよな。はやいよな~」
何だか九月の後半からあっというまに時間が過ぎているような気がする。
季節はもう十月。
あと二か月と少しもすれば年があける。
そうして小学時代は終わりをつげて、ヒカルは中学にと進学する。
それは、時の流れ、という逃れようのない現実。
星の道しるべ ~秘められた才能~
『ヒカル、ヒカル。もう塔矢は外にきてますよ?』
窓から外をのぞいてヒカルを促す。
「だぁっ!というかお前が一局とせがむから!おまえも片づけてつだえっ!」
まだ時間があるからと、せがまれて一局をうったものの、納得できずに二局、三局…と増えていった。
「というか。お前何だか強くなってないか?」
何となくそんなような気がするのはおそらく気のせいではないような気がする。
『それはヒカルが碁がわかりはじめた証拠ですよ。自分が力をつけてきたので相手の実力がわかりだしたんですよ』
まあ、確かに、以前は何もわからなかったにしろ、今では基本のほとんどは理解した。
まあ、佐偽の教え方が実践、ということもあり身に付いた、というのもあるのだが。
現代と昔とでは碁の基本用語は多少かわっているらしいが、そこはそれ。
父親が誕生日プレゼントでかってくれた本にそれらの基本用語はのっているので応用は可能。
しかし、いくら佐偽とうつにしても、佐偽自身は自分では碁石をもてない。
ヒカルに触れることはできても、それ以外のものに触れることはできない。
それゆえに、どうしても用意や片づけはヒカル一人でするようになってしまう。
ピンポ~ン。
そんな会話をしている最中、二階の部屋にとチャイムの音が聞こえてくる。
「は~い。あら。いらっしゃい。塔矢君。ヒカル~!塔矢くんがきたわよ~!!」
チャイムがなり玄関先に出向いた母親が塔矢の姿を認めて二階にいるであろうヒカルを呼ぶ。
「は~い!今いくっ!」
文句をいいつつも、どうにもならないこともある。
「よし。と。これで終わり」
毎日、丁寧にきちんと桐箱にいれて片付ける。
それが日課となっているとはいえ、最近何だか力がついてきているような気がするのは気のせいか。
すでに用意してあったリュックを背負い、トントンと階段を下りてゆく。
「わるい!塔矢!おそくなった!」
「ううん。僕も早くきすぎたし」
一度、彼の家にきたことがあるがゆえに塔矢明はヒカルの家を知っている。
「ヒカル!いいわね!?迷惑かけないようにするのよ!?
あ。そうだ。これ、相手の御家族の人にわたしてね」
ヒカルが今日、アキラの家にいくことは一応昨日、聞いて知ってはいる。
それゆえに、用意してあった手土産をヒカルに手渡し厳重に注意をうながしているヒカルの母親である美津子。
「あの。そんなお気遣いは……」
「ああ。塔矢君はきにしなくていいのよ。この子、礼儀作法とかまるでなってないからねぇ。
あ、それと、ヒカル。これ。交通費。はい」
何でも電車をつかい、相手の家にいくらしい。
それゆえに一応、軍資金を手渡しておく。
「さんきゅ~!じゃ、いこっか。塔矢」
「それじゃあ、叔母様。失礼いたします」
ほんっと。
どうしてこんなガサツなうちの子にこんな礼儀のいい子が知り合いになる機会なんてあったのかしら?
何でも相手の塔矢明も碁をたしなむらしい。
その関係らしいが……
「ヒカルもあの子をみならって礼儀作法、身につけてほしいものだわ」
ふぅ。
二人の姿を見送りつつもぽそっとつぶやく美津子。
まあ、親、というものはどうしても子供に対して期待をしてしまうのは仕方ないのかもしれない。
「ここで白川さんが教室やってるの?」
「白川?そういや先生の名前そんなんだっけ?」
「進藤~。君、習ってる先生の名前もうろおぼえなの?」
おもわず呆れて問いかけるのは仕方ないであろう。
「いや、だって。先生は先生、じゃん?」
「君ってほんっとかわってるよね」
だけどもなぜかかかわらずにはいられない。
彼のその不思議な強さと危うさにひかれずにはいられない。
「あら。ヒカル君。今日はお友達つれなの?」
ふと、近所の知り合いがヒカルの姿に気づいて声をかけてくる。
「あ。おばさん。うん。こいつアキラっていうんだ。俺と同い年」
「まあ。そうなの。君も碁をやるの?」
「二歳のころからやってます」
「そういや、お前そんなこといってたっけ?」
何しろ父が父である。
彼にとって物心ついたころにはすでにそばに碁盤はあった。
「あれ?進藤君?今日は参加、なんだね?…って、アキラくん!?」
ヒカルの姿をみつけ、おもわずヒカルに声をかけるものの、その横に信じられない人物の姿を見つけて思わず叫ぶ。
「こんにちわ。白川さん。お久しぶりです」
ぺこっと頭をさげるアキラに対し、
「というか、なぜ君がこんなところに?」
「?先生、こいつと知り合いなの?」
逆にきょとん、として問いかけているヒカル。
「そういう進藤君こそ。…君たち、知り合いだったの?」
知り合いならばヒカルが難しい手といわれていた盤面を即答したのもわかるにはわかるが。
だがしかし、たしか彼はまだ碁を初めてまがなかったはず。
それなのに、どうしてあの塔矢明が?
そんな疑問がどうしても頭をよぎる。
「前、こいつとは碁会所であったんだ。今日は教室がおわったらこいつの家にいくことになってて…いや、なってまして」
「今日は僕の家で昔の棋譜がかかれている本とかを彼にみせる予定なんです」
「そ…そう……」
何といっていいのかわからない。
というか、相手はあの塔矢名人の息子、である。
しかもここは初心者向けの教室。
はっきりいって場違いとしか言いようがない。
「進藤くん。君…囲碁を始めてたしかまがなかったよね?」
「うん。はじめようとおもったのはこの九月の十二日からだし」
「…それで僕にかてるんだから怖いよね……」
ぽそっといったアキラの言葉に思わず目を丸くする。
「?アキラ君?今、君、何て……」
白川が問いかけようとすると、
「あれ?もしかして君、塔矢明君、じゃないのか!?塔矢名人の息子さんの!?」
ざわっ。
どうやらアキラのことを知っている人がいたらしく、アキラの姿を見つけていきなり大声をあげてくる。
そのセリフに集まっていた人々からどよめきが巻き起こる。
「え?ええ。そうですけど……」
「やっぱりだ!前に週刊囲碁でみたことがあるんだ!いやぁ、私は君のお父さん、塔矢名人の大ファンでね!
しかし、こんなところにどうして君が?君はたしかプロにも匹敵する実力をもっているとかいう話だけど?」
「おまえ、そ~なの?」
「それは周りがいっているだけですよ。僕は強くありません」
事実、直感で打っている、というこの進藤光には一度もかてないし。
その言葉はどうにかのみこみにこやかに相手に返事をかえすアキラであるが。
「でも、大人相手に指導碁ができるともきいてるよ?今日は白川先生がつれてきてくれたんですか?」
「え?いや、私は……」
何やらあっというまに周囲に人だかりができていたりする。
「お前って結構有名人?」
「僕が、じゃなくて父が、だよ」
そんなものなのかな?
そうはおもうが。
「だけど、お前はお前、だろ?」
「そうだね。とりあえず皆さん、白川さんが困ってますよ?そろそろ始まる時間なのじゃないですか?」
確かにみてみれば、指導係りの白川はどうしたものか、という表情をしているのが見て取れる。
「おまえ、こ~いうのになれてるなぁ」
「物心ついたころから人の群れにもまれてきたからね」
…こいつ、どんな生活してきたんだろうか?
そうはおもうが、まあ、霊によってこられたりしてたときの俺とにたようなものかな?
第三者を霊にと置き換えどこか納得するヒカル。
「たしかに。彼のいうとおりですね。さあ。みなさん。時間ですよ。
それぞれ対局を始めてください。それから検討会と説明にはいります。
そうだ。せっかくだし、アキラ君。私と一局おねがいしてもいいかな?」
「え?」
「ああ!おまえようやくきたな!」
「あ、阿古多さん。…って、カツラやめたの?」
ふとみれば、阿古多はすでにカツラをしていない。
「二度も笑い物にされたからなっ!というか今日はお前をギャフン!といわせてやるっ!恥かかされたお礼もまだだしなっ!」
何やらそんなことをいってくるが。
「って、それはそっちがひどいことしてたからだろう!?」
「何を?!」
白川の申し出に戸惑っている最中、何やら横のほうではヒカルと年配の男性らしき人物がいきなり喧嘩を始めていたりする。
『ヒカル。たしか彼ってあの……』
「無慈悲なことしてたのはあんたのほうだろっ!」
「何だと!?」
何だかアキラにはその喧嘩の内容の意味はわからない。
「いったな!このオレ様の強さをみせてやるっ!碁で勝負だ!」
「望むところだっ!」
佐偽!
こいつなんかおもいっきり手加減なしにして自身の鼻をへしおってやれっ!
『確かに。どうやら彼にはまだお灸がたりないようですね。…わかりました。この勝負、うけましょう』
このままほうっておけば、またあのときのような理不尽な弱い者いじめをするとも限らない。
こういう輩はおもいっきり力の差を見せつけてやるのが効果的。
「あ。先生。俺、こいつとうちます!」
「な!?こいつとは何だ!?目上の人にたいする言葉づかいがなってないぞ!このがき!」
「あんたがその態度あらためたら名前できちんとよんでやるよっ!」
「…え~と…あの?白川さん?進藤…あの人と何かあったんですか?何か陰険な雰囲気ですけど……」
おもわず目を点にしつつも横にいる白川にとといかける。
「ああ。ちょっとねぇ。…しかし、進藤君も負けん気だけはつよいけど、阿古多さん、強いからねぇ」
「?進藤は勝ちますよ?」
「?でも彼はまだ囲碁を始めてまがないんだよ?」
「…白川さんは知らないんですね。進藤の謎めいた強さを……」
??
そんなことをいわれてもピンとこない。
「とりあえず。僕は彼にくっついてきただけですし。時間ももてあましてますし。
なら、白川さん、一局おねがいできますか?」
「こちらこそお願いするよ。森下先生の手前、塔矢名人の家にいくわけにもいかないしね」
くすっ。
たしかこの人は森下さんの門下生だったっけ?
そんなことをおもいつつおもわずくすりと笑みがもれる。
「互戦でいいですか?」
「もちろん」
何やらそれぞれに席について碁盤をかこんでいるトウヤと白川。
そしてまた、ヒカルと阿古多。
集まっていた人々はといえば、自分たちの対局よりもその二局に興味が集中し、
人だかりは二分化される。
ひと組は、ヒカルの対局の観戦。
そうしてもうひと組は、塔矢名人の息子だ、というアキラと白川ブロの対戦。
どちらかといえばブロの対戦をみることなどめったとない機会、というのもあり塔矢達の対局の方が人はおおい。
そんな観戦者がいる最中、それぞれ碁を始めてゆく彼らの姿がしばし、その場においてみうけられてゆく。
ひょこ。
「あら?君?もう対戦はおわったの?」
「うん。こっちはどうなってる?」
何やらあちらのほうでは呆然としている阿古多の姿が目にはいるがそんなことはどうでもいい。
とっとと片づけて塔矢と白川の対局をのぞきに来ているヒカル。
何やらヒカルの対戦をみていた人たちはしばしその場に呆然とたたずんでいるのが目にとまるが。
こちらの対局をみている人たちはそのことには気づいていない。
「えっと……今、中盤、か。ねえ。誰か一手目からおしえてくれる?」
ヒカルの問いかけに困ったような表情をうかべ、
「君。普通、ちらっとみてるだけでは一手目から、なんてなかなかできないよ?」
「え?何で?」
自分はさらっとできるのでだれでもできる、とおもっていたがゆえに思わずといかえす。
『ヒカル。あとから塔矢本人にきけばいいですよ。それより対局をみましょう。
どうやら今のところ互角、ですねぇ』
どうやら塔矢のほうが先手の黒。
教室の指導をしている白川のほうが白らしい。
ということは、互角だとして白有利、かぁ。
だけど、塔矢がこのままでおわる、とはおもえないな。
ヒカルがそうおもっているその矢先。
『ふむ。そうきますか。しかし、二人とも何やらまだまだですねぇ~……』
そりゃ、お前からみればそうだろうけど。
二人の対局をのぞきこみながらもそんなことをいう佐偽におもわず心の中で突っ込みをいれる。
どうやら佐偽からすれば二人の手筋はまだまだ、といえるものらしい。
ああきて、こうきて、それからこう、かな?
「…あれ?」
何となく指導碁から真剣な碁に移っているような気がするのは気のせいだろうか?
佐偽、これって白川先生、本気になってない?
『そのようですねぇ。しかし、ある程度実力のあるものの対局をみるのは楽しいですね。
ああ、私も対局したい……』
お前は今、中押しでとっとと勝ちをとったばっかりだろうが。
今まさにうったばかりだ、というのにそんなことをいう佐偽におもわず突っ込みをいれる。
『そうはいいますけどね。ヒカル。やはりこう、実力がひっ迫しているもの同士で打ちあうほうが。
こう何といいますか、得られるものも多いい、といいますか、充実感がある、といいますか……』
……お前にタメはる実力の持ち主なんてまずいないような気がするぞ?俺は?
何しろ今だに江戸時代の本因坊秀作はすべての碁うちの基本ともいわれている人物であり、
神のごとくに敬われている存在らしい。
しかも、その秀作の棋譜のすべては佐偽がうったもの。
となれば…同じような実力の持ち主がそうほいほいとそこいらにころがっている、とは到底思えない。
塔矢、そこ……
途中の手で何だか順番が異なるような気もしなくもないが。
「…ありません」
「ありがとうございました」
実力があるがゆえに先がよめる。
このまま打ち続けても間違いなく半目負けは確実。
それゆえに投了の意思を繰り出すアキラの姿。
「塔矢。おわったの?」
「?君のほうも?」
「俺のほうはとっととおわって対局みてたんだけど。ねえ。でも何でお前、ここをこう抑えたの?
ここをこうすれば、先生はこうするしかないんだし、そうしたらお前の勝ちになってない?」
『ヒカル?わかるのですか?』
「…あ」
「…あ」
ヒカルの指摘に盤面上をみながらも小さな声をだしている塔矢と白川。
そして。
「進藤君。よくわかったね」
驚愕の表情をみてヒカルのほうをみる白川であるが。
「ん~。何となく?」
『やはりヒカルには秘められた素質がありますねぇ。…実力はまだまだにしろ』
むっ。
わるかったな。
実力はまだまだで。
普通、対局をみていただけで手順の指摘などはできはしない。
佐偽の指摘におもわずむっとしながら心で言い返すものの、
「たしかに。これだと僕のほうが有利になってるけど…この手にはきづかなかったな……」
盤面をみながらうなる塔矢明とは対照的に、
「進藤君のほうの対局はおわったの?阿古多さんは?」
「何かあそこでいまだに燃え尽き症候群になってるよ?
きっと、小学生の俺にこてんぱにやられたのが堪えたんだぜ?いや、堪えたんだとおもいますよ。
まあ、二度とたぶん人をいたぶる打ちかたはしないとおもいますけどね」
たしかに、みればいまだにイスにすわり呆然としている阿古多の姿が目にはいる。
いや、ちょっとまって?
こてんぱに?
何やら頭の中が一瞬混乱してしまう。
「君いわくの直感の打ち方したんだろ?」
「うん。だってさ!あの人、多少打てるからかどうかしらないけど、
おもいっきり弱者をいたぶるうちかたしまくってたんだぜ!?
そんなやつ、許せるはずもないだろ!?前のときはおもいっきり碁石を頭からかぶせてやったんだけど。
どうもこりてなさそうだったしさ~。いくら何でも小学生の俺に負けたらそんなことする気にならないじゃん?」
アキラとヒカルの会話にさらに頭が混乱する。
直感の打ち方?
その意味がよくわからない。
「え~と…進藤君?阿古多さんにかったの?」
声が多少かすれてしまうのは仕方ないのかもしれない。
そんな白川の問いかけに、
「先生。たしかにその子、阿古多さんにかちましたよ?もう圧勝。阿古多さん、手も足もでませんでしたもの」
「というか、完全にあれは阿古多さん、完全に戦意喪失してるよね」
ヒカルと彼の対局をみていた人物が何やらそんなことをいってくる。
「…君、いったいどういう勝ち方を…」
「中押しってやつ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
さらっといわれておもわず言葉につまる。
「きみって、囲碁は初心者…のはずだったよね?」
というか基礎も何もしらなかったのは事実。
「基礎しらなくても有利になるようにやってけば問題ないでしょ?」
「囲碁はそんな簡単なものじゃないんだけどね。まあ君ならありえそうだから怖いよ。僕は」
ヒカルの言葉に内心苦笑しつつも、石を片づけるアキラであるが。
「え~と……きみ、だれか師匠でもいるの?」
ふるふるふる。
いるにはいるけど、信じてもらえないのはわかってるし。
それゆえにふるふると頭を横にふる。
信じられない。
というか初心者であの阿古多さんにかてるなんて。
「そうだ。進藤君。もし気がむいたらここに連絡してみなさい」
「?」
何やら名刺のようなものを手渡される。
「何これ?」
「ああ。森下さんの名刺、ですか?」
??
意味がわからずに互いに顔を見渡すヒカルと佐偽。
アキラたちの会話についていけない。
何やら気付けば、教室の中が騒がしくなってきているのが見て取れる。
どうやらヒカルが中押しで阿古多に勝った、という話がいっきに広まりざわめきがひろがっているのが見て取れる。
このままではおそらく授業にもならないであろう。
「今日のところは一度、進藤君はかえったほうがよさそうだね。何だかみんなの気持ちがざわついてるし」
『たしかに。何だかみなさん、落ち付きがありませんねぇ』
「こっちは私の名刺。だよ。気がむいたら連絡してみて」
「は、はぁ……」
名刺をわたされても、よく意味がわからない。
「たしかに。このままいても騒ぎを大きくするだけみたいだし。それじゃあ、僕たちは今日のところはこれで失礼しますね。
白川さん、今日はありがとうございました」
「こちらこそ。君とうてる機会がもててうれしいよ」
まだプロにはいっていないとはいえ、プロに匹敵する力をもっている子供。
しかも小学生。
先が楽しみでもありまた怖くもある。
そしてまた…対局をみていただけで、ある個所の手を指摘してきた進藤光という少年。
あのアキラ君が目をつけたのも何となくだけどもわかる。
そんなことをおもいつつ、
挨拶をかわして部屋からでてゆく二人を見送り、
「さて。と。阿古多さん、さきほどの一局、どのようなものだったのかおしえてもらえますか?」
「あ。先生。私がおぼえてます」
ヒカルが中押しでかったとかいうその一局を知るためにとしばし問いかける白川の姿が、
社会保険センターの一角にある教室の中においてしばし見受けられてゆく。
「?でもな~んか、みんなの様子がおかしかったのは何でだろ?」
「君、ほんと~に自覚ないよね。普通子供が大人に中押しでかったりしたらあんな雰囲気にもなるよ」
「そんなもの?」
「…君、対局とかあまりしてないの?」
社会保険センターをあとにして、まずは駅にむかってゆくヒカルとアキラ。
道をあるきつつもそんな会話をしているこの二人。
「対局も何も。ほとんどしてない。家では一人で石を並べる程度だし。
この前からネット碁教えてもらってときどきネットでうってるけど」
「へぇ。君が?ハンドルネームは何?」
「え?さ…いや、えっと。laitoっていうんだ。俺の名前、ヒカルだろ?そこから。
あとは漫画の主人公からとってさ」
あの漫画はたしかに大量殺戮、という面ではよくないが、社会の現状を指し示している、ともいえる。
しかも、行動はともかく世界から戦争や凶悪な犯罪をなくした、という功績も漫画の中にしろある。
「そうなんだ。僕はあまりしないけど。一応登録名は自分の名前にしてるよ?
でも進藤の部屋にはパソコンなかったよね?」
以前、一度いったときにそんなものはたしかになかった。
「うん。父さんがもってるんだ。なのでいつもはできないんだけど」
「そうなんだ」
危ない、危ない。
おもわず佐偽、と言いそうになっちゃった。
そんなことをおもいつつ、
「だから、対局、といってもネットと、あとはお前とうったくらい?あとはこの前の大会、くらいかなぁ?
えっと、一…二…まだ数えるしかないな。手、ひとつでたりるほど」
「・・・・・・・・・・・」
数えながらも指をおるヒカルの行動に一瞬言葉につまる。
対局もほとんどしていない、というのにあの一手の指摘。
彼がこれから経験をつんでいったらどのようになるのかそれはアキラにもわからない。
だけども、その先をみてみたい。
という思いのほうがつよい。
「そういうお前はいつも何やってるの?」
「僕?僕はいつも勉強か、碁の勉強をしてるよ?そういう君は?」
「最近は時間があれば碁をうってるかなぁ?」
うるさいやつがいるし。
『ヒカル!うるさいやつって何ですか!?うるさいやつって!?』
ヒカルの心の台詞に何やら耳元で騒いでくる佐偽。
「でもまあ、あとはとにかくひたすらに勉強。かなぁ。なあ、勉強にこつとかあるわけ?
社会とかの成績がよくならないと俺、おこずかいが危険信号なんだよな~……」
くすっ。
「でも君は、君のお母さんがいってたけど理数系は得意、なんだろう?」
それこそ大学生の問題もこなせるほどに。
「だってさ。あれらって何かこう、とけたときにすっきりするじゃん!?」
理数系が得意、というところから碁のひらめきがあるのかもしれないが、それは憶測にすぎない。
ヒカルの台詞に内心苦笑しつつ、
「進藤。君ってたぶん難しくかんがえすぎるんだとおもうよ?」
おそらく、碁に関してもしかり。
直感でうつ、というときと普通に打つときとではその一手の重みが違う、というのはおそらくそういうことなのだろう。
「そういや、お前、何か好きなマンガとかあるの?」
「え?僕はそういうのはよく知らなくて……」
子供らしい何ともたわいのない会話。
そんな会話をしつつも、二人は駅にと向かってゆく。
塔矢明。
小学六年生。
囲碁界の中においても一番神の一手に近い、とまでいわれている塔矢行洋名人の一人息子。
父親の影響からか幼いころから碁をたしなみ、子供ながらにプロをもしのぐ、とまでいわれている人物。
それゆえに、他の子どもの芽をつむことにもなりかねない、と普通の大会などには姿をみせない。
ゆえに、あまりその容姿は知られていない。
その強さゆえに、周囲の子どもたちや大人たちからは敬遠され、さらには大人たちはみな、塔矢名人の息子。
というフィルターを通して彼をみている。
そんな中で育った彼は今まで挫折、というのもを味わったことなどはなかった。
唯一、始めてあじわったのが、進藤光、との一局。
だけどもどうやら相手はそれを意にも介していないらしい。
よく理解していない、といったほうが正しいのかもしれないが。
たわいのない会話がどこかここちよい。
たわいのない会話など昔からいままでほとんど大人相手にしかしたことがない。
同い年の子どもとこのようなたわいのない会話をしたことなど、はっきりいって初めてでもある。
子供、というものはどこかで心から許しあえる友達をもとめている。
それは大人でもしかり。
彼に最も足りなかったもの。
それは…心を許せる友達、という名前の互いを磨けるライバル、という存在……
「…ふわ~」
おもわず唖然として目の前にある建物を見上げてしまう。
『なつかしい趣ですねぇ。ヒカルの家はかなり小さいですけど』
わるかったなぁっ!
さらっと何やらいわれて思わず突っ込みをいれてしまう。
「?進藤?どうかしたの?」
「いや、お前ってほんっとおぼっちゃんだったんだな~」
家の大きさからしてみても、かなりのお金持ちである、ということくらいはわかる。
「別にたいしたことないよ。さ、あがって」
「あ。うん。えっと…お邪魔しま~す」
何だかとても気遅れしてしまう。
こいつの行儀のよさは育ちゆえかな?
『ヒカル。これくらいで驚いていてどうするんですか?昔はこれくらいの家はざらでしたよ?
というか離れくらいの広さですけど?』
・・・・・・・・・・さいですか。
佐偽の言葉に何やらものすごく負けたような気がするのは気のせいだろうか?
おもわずがくりと肩をおとしてしまう。
「ただいまもどりました」
「あら。明さん。おかえりなさい。あら、そちらの子が明さんのいっていたお友達ね。…あら?」
「あ。えっと。こんにちわ。はじめまして。それとお邪魔します」
この人、塔矢のお母さんかなぁ?
そんなことをおもいつつも、ひとまずぺこりと頭を下げて挨拶する。
「明さんからお話はうかがってますわ。ようこそ。ふふ。明さんがお友達をつれてくるなんて初めてのことだから。
お母さん、とてもうれしいわ」
「・・・お前、今までどういう生活してたわけ?」
にこやかにいってくるそんな母親のセリフにおもわずあきれてアキラのほうをみるヒカル。
「とにかく、あがって」
「あ。うん。お邪魔しま~す」
『お邪魔いたします』
アキラに促され、とりあえず玄関を上がる。
「あ。そうだ。これ、うちの母親からです」
ひとまず母親から預かっていた品物を母親らしき人物にと手渡すヒカル。
「あらあら。気をつかっていただかなくても。そうだ。アキラさん。今日はお父さんはなるべく早くもどってくるそうよ?」
「わかりました。いこ。進藤君」
「あ。うん」
品物を手渡し、とりあえず塔矢につられ、家の奥にと入ってゆくことに。
そんな二人を見送りつつ、
「ふふ。明さんのお友達。って、変わったこねぇ。あんな指導霊がついてる子なんてはじめてだわ」
『…え?』
ヒカルには聞こえないにしろ、ヒカルの後ろからついていっていた佐偽はその言葉をとらえておもわず目を見見開く。
まさか、あの人、私が視えるのですか!?
今までヒカル以外に自分の姿が視えたことなどはない、というのに。
「あ、いけない。お茶菓子の用意をしないとね」
佐偽が問いかけようとする間に、パタパタと別方向にとむかってゆく塔矢の母親。
?
佐偽?
しばらくその場に立ち尽くしたままの佐偽に気づいてヒカルが問いかける。
『ヒカル。もしかしたらあの塔矢の母上は私がみえているかもしれません』
「ええ!?」
「?進藤?どうかしたのか?」
「あ、いや。何でもない」
佐偽の言葉におもわず驚き口にだしてしまう。
そんなヒカルを怪訝に思いながらもといかけるアキラ。
「しかし。この家、かなり古いようだけど……」
「まあね。」
それにしては、古い家にありがちなヨドミが一切ない。
確かに、もしかしたら誰かがそういった能力をもっているのかもしれないな。
たしかに何かがいたような形跡はところどころにあるものの、今では悪い感覚は一切ない。
あとで機会があったらきてみるか。
もし、本当に佐偽のことが視えるのならば話のしようがある、というもの。
「あ。僕の部屋はここだよ」
「…おまえの部屋…ってこれむちゃくちゃ広いじゃんっ!!」
案内された部屋はヒカルの部屋の二倍以上はある広さ。
それゆえにしばし、その部屋を目の当たりにして驚愕の声をだすヒカルの姿が、しばし見受けられてゆく。
-第14話へー
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あとがきもどき:
薫:さてさて。次回、佐偽&ヒカルの昔の棋譜の閲覧と。塔矢の母親登場ですv
布石だしてますけど、ええ。塔矢の母親、霊能力の持ち主です(笑
それがきっかけで塔矢の父親と知り合った、という裏設定にしておりますv
まあ、囲碁の世界、といえばいろんなところにそういった場所にもいく可能性があるわけで…(たぶん
何はともあれ、ではまた次回にて♪
2008年7月30日(水)某日
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