まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。
さてさて。原作ではネット碁は中学にはいってからですけど(笑
とりあえず小学校のしかも碁を覚えてまもないころからはじめてる、ということで♪(笑
次回は、塔矢の家にいくのですv
ではでは~♪
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星の道しるべ ~ネット伝説の始まり~
「ほんと!?父さん!?」
珍しく定時にともどってきた父親。
「あなた。ヒカルをあまりあまやかさないでくださいな」
おもわず呆れた口調で父親にと語りかける。
「しかしなぁ。美津子。これから出張とかが増えていくのでこのノートパソコンだと大きすぎるんだよ。
かといって処分するのにも今はお金をとられるぞ?」
たしかに、父親のいうことも最も。
だがしかし…いくら何でもまだ小学生のヒカルに今まで使っていたノートパソコンをあげる、などといいだすとは。
「やりぃ!!」
「しかし、まだ当分先だぞ?母さん、来春、昇進の内示があったから、これから出張が増えるとおもう」
「また?あなた、あまり無理をして過労死とかしないでくださいよ?」
「まあ、ノートパソコンをお前に渡すのはおそらく冬休みくらいになるだろうが。だが、成績にもよるぞ?」
「…うっ!」
暗に成績がわるければ譲ってもらえない、ということを指し示している。
「そうね~。まあ、成績次第ではお母さんも考えてあげなくもないわね」
そんな会話をしつつ、ふと。
「あ。ヒカル。そういえば今日、あの塔矢ってこがたずねてきたわよ?
約束はしてないけど近くにたちよったからよってみたとかいってたけど」
ふと思い出したようにいってくる。
「え?塔矢が?何だったんだろう?」
そういや、俺あいつの連絡先しらないからなぁ。
だけどももしかしたら何か用事があって訪ねてきたのかもしれない。
「あとで連絡してみるよ」
とりあえず、父親の名前はわかっているのだからうまくすれば電話帳で調べることは可能のはずである。
まあ、中には個人情報云々で載せていないものもいるかもしれないが。
たわいのない家族のやり取り。
だがしかし、父親が定時にもどり、一緒に夕食をとることなどほとんどまれ。
「さて。と。私は資料の作成があるから。書斎にこもるぞ?」
「あなた、無理をしないでね?」
「わかってる」
どうやら今日はパソコンはつかえなさそうである。
父親がパソコンを使うときには使えない、というのは暗黙の了解。
「さて。と。ごちそうさま~。さてと、電話、電話…と」
電話の下にとある電話帳を取り出して、ぱらばらとめくりだす。
『?ヒカル?それ何ですか?何か文字がいろいろとかかれてますけど?』
文字だけでなく横に何やら漢字の羅列もみえているが。
「電話帳だよ。えっと…と…と…塔矢…っと、あ、これかな?」
というか、同じ漢字のものは一つしかない。
父親のことを調べるまでもなく、何やら新聞に名前がのっていたので漢字はわかる。
「えと…」
ピ、ポ、パ……
とりあえず、何か話しが長くなってもいけないので子機を手にとり二階にとあがる。
そのまま、子機のプッシュボタンを押して、それらしき電話にかけてみる。
プル…ブルルル…ブルルル……
何やらしばらく呼び出し音がすることしばし。
と。
【はい。塔矢です。】
女性の声が電話の向こうから聞こえてくる。
『??誰も周りにいないのに声が???』
とりあえず、うろうろと驚いている佐偽のことはこのさいおいておく。
「あ。えっと。塔矢さんちのお宅でしょうか。あの、俺、進藤ヒカルっていいますけど、アキラいますか?
電話番号ちがってたらすいません。電話番号がわからないので電話帳で調べたもので」
同姓同名、ということもありえる。
【アキラさん、ですか?少々おまちください】
女性の言葉とどうじに、何やら保留音のようなものが聞こえてくる。
しばしの間をおき、
【はい。お電話かわりました。ってよくこの電話番号がわかったね。進藤くん】
【アキラさん。お友達?】
【え?あ。うん】
どうやら電話口の向こうで会話している声がこちらにまで聞こえてくる。
【ビンゴ!いや、わかんなかったから電話帳でしらべた。塔矢のおやじさんの名前が新聞にのってたから漢字はわかったし】
かわった名前であるがゆえか、同じ漢字は一つしかなかったのも事実。
【なるほど。まあ父は電話帳にもどうどうと乗せたままにしてるからね。電話番号。それより、どうしたの?】
いや、きょとんとした声できかれても。
「どうしたの、じゃねえよ。さっき母さんからきいたけど、お前今日、うちによったんだって?
何かようだったのか?」
『??塔矢明の声がしますけど、どこにいるんでしょうか??ヒカル?声はするけど姿がみえませんけど?』
きょろきょろと部屋の中をぐるぐるしながらもアキラの姿をさがしている佐偽の姿が何とも滑稽にうつる。
【え?あ、いや。別に用ってわけじゃなかったんだけど…もしいたら一局相手してもらおうかと……】
「おまえな~。俺だっていつも暇してるわけじゃないんだし。くるときには連絡しろよな。
って、あ、おれもお前に連絡先教えてないか。でも俺も携帯なんてもってないしな~。お前は?」
いまどき子供でもたしかに携帯くらいは持たせている親が大多数。
だがしかし、ヒカルの両親は子供にそんなものは必要ない、といって買い与えることはしない。
【僕もそんなのはもってないよ?
あ、でも、このナンバーデスプレイにのってるのが君の家の電話だよね。登録しておくよ】
確かに、最近の電話機は相手の番号が表示されるようになっている。
非通知ならばかからないようにすることもできる。
【君の家にいったら、君はでかけてる。ってきいたから。今日はどこにいってたの?】
「え~と。ほら、お前も知ってるとおもうけど。葉瀬中の筒井さん。あの人と一緒に囲碁のトーナメントみにいってたんだ」
まあ、ほとんど対局はみずにネットの講義ばかりうけていたがそれはひとまずいわないでおく。
【そういえば、今日はNCC杯の五局目があったんだったね。家でみたよ】
どうやら家にもどって今日の大会は塔矢はみていたらしい。
「でもまあ。せっかく訪ねてきてくれたのに何かわるかったな。今度からはきちんと連絡してこいよ?
お前んち、母さんもいってたけど結構距離があるんだろう?」
何しろ車で三十分ばかりかかる距離にあるらしい。
つまりは、ヒカルの家から十キロは離れている、ということを暗に示している。
ヒカルとしても同い年の友達が増えるのは好ましいこと。
相手が友達とおもっているかはともかくとして。
【え?あ、うん。そうだね。それじゃあ、せっかくだからついでに。進藤君。次の日曜日あいてる?】
何だか電話口では口調が丁寧になってるのは気のせいだろうか?
「君とかはつけなくてもいいっていったろ?」
【…家でそういうわけにはいかないよ】
どうやらかなりそのあたりのしつけにうるさい家なのかな?
ぽそっという塔矢のことばに何となく納得し、
「ま、事情があるみたいだから気にしないことにするけど。日曜かぁ。
とりあえず、日曜日は社会保険センターの囲碁教室にいくことになってるからなぁ。
あ、そうだ。おまえもいくか?」
相手の実力と知名度を知らない、というのはあるいみ恐ろしい。
だが、ヒカルは事実知らないのだから仕方がない。
「教室がおわったら一応、おれ、暇だし。宿題は土曜にかたずける予定だしさ」
【そうだね。…なら一緒しようかな?あ、そうだ。それおわったら僕の家にこないか?】
?
「お前んち?何で?」
【僕の家、昔の棋譜がかかれてる書物とかたくさんあるから、君が興味もつかな。とおもったんだけど……】
『ヒカル!いきます!絶対にいきますっ!うけてください!みたいです!!』
「って、うるさい!佐偽っ!」
とりあえず電話口を押さえてひとまず耳元で騒ぐ佐偽にひとまず注意。
?
何だか叫んでいるような声が聞こえたような気がするが、何をいっているのかは聞き取れなかった。
それゆえに電話口の向こうにいる塔矢もまた一瞬首をかしげ、
【?どうかしたの?】
とりあえず確認をこめて問い返す。
「え?あ。いや、こっちの話。そうだな~。でも、おまえんち、迷惑じゃないのか?」
いきなり押しかければ迷惑のような気がしなくもない。
【そのあたりは平気だよ。僕の家はいきなりの来客なんて日上茶判事だから】
「…そ~なんだ……」
いや、いきなりの来客が当たり前の家っていったい?
そんな疑問も頭をよぎるものの、
「それじゃ、お言葉にあまえてお邪魔するよ」
【囲碁教室は何時から?】
「十時」
【ならその前に僕が君の家にいくよ】
「わかった」
【それじゃ、また日曜日に】
そんな会話をしつつも電話をきる。
「しっかし…塔矢のやつ。あの日、佐偽にこてんぱにやられたのに、こたえなかったのかな?」
ヒカルの家で一局うったときに本気で相手をしてほしい。
そういわれて佐偽がたしかに本気でさくっと一刀両断にしたのも事実。
まあ、ヒカルいわく、何も考えずに勘でうったらなんでか勝てるんだよなぁ。
と言葉を濁して塔矢には説明したのだが。
『彼は彼なりに自分で答えをだしたのだとおもいますよ?』
最も。
ヒカルがうったときと私がうったときのその落差。
その差はかなり歴然としている。
それゆえにヒカルに興味をそそられているのもあるのでしょうけどね。
そうは思うが、その言葉はのみこみながら微笑みつつも答える佐偽。
『しかし、本当に塔矢明はどこにいたんですか?声はしていましたけど??』
「…お前、だから絶対にこの時代のこと、おしえてやってるんだからおぼえろよな~。
これは電話!!遠くの相手と話をするための機械の道具っ!」
『?陰陽道のようなものですか?』
「…だあっ!どうしてそっちほうめんにいくんだ!?」
科学の説明をするにしてもまるでちんぷんかんぷん。
話が通じない、というか理解されない。
「…まあ、お前に理解しろ。というほうが無理か。とりあえず、佐偽。
ネット碁はしばらくおあずけだ。アレだとおまえに好きなだけうたせてやれるんだけどな~」
『ヒカル?そういえば昼間もそんなことをいっていましたけど、いったい?!』
そんな会話をしつつも、ぽすん、とベットに横になる。
佐偽はそんなヒカルの横できょとん、とした顔でつったっているが。
「まあ、お楽しみはあとから。…今日はもうつかれた~。もうねるわ。俺」
『えぇ~!?ヒカル!今日の対局はもうしないんですか!?ねえ!?』
そもそも、ご飯の前に幾度もすでに打っている。
「とにかく。明日は学校なんだから、昨日みたいに夜更かしは禁物。おやすみ~」
『ヒカル!そんなぁ~……』
何やら文句をいまだにっている佐偽を無視して、電気を消す。
明日からは月曜日。
いつものように学校がある。
子供の仕事は学校にいくこと、といっても過言でない。
だが、佐偽はそのようなことも今だによく理解していない……
「明さん。お友達との電話はおわったの?」
「え。あ。はい。お母さん」
電話がおわり、母親にと呼びとめられてきちんと姿勢を正す。
「明さんにお友達からの電話、なんて初めてじゃない?」
いわれてみれば確かに。
自分に電話、というのは初めてのような気もしなくもない。
「明さんはまだ小学生なんだから、もっと子供らしい遊びをしてもいいのよ?
あなたもお父さんもいつも碁のことばかりで、あなたも子供らしい遊びも何もしないんですから……」
たしかに、小さなころから友達と遊ぶ、ということは塔矢はあまりしてこなかった。
「でも、明さんにも電話をくれるようなお友達がいるのがわかってお母さん、嬉しいわ」
「え?あ、はい」
友達、といわれても相手がどうおもっているのかわからない。
ただ、彼は自分を塔矢行洋の息子、というのではなく、一人の塔矢明、としてみてくれている、それだけはわかる。
だからだろうか。
何だか彼と話していても何だか多少地がでてしまいそうになるのは。
何よりも、勘でうてば何だかかてる、といった彼の言葉の信憑性はかなり怪しい。
そもそも、囲碁はそんなもので簡単に勝てるようなものでもない。
おそらくは、彼自身も気づいていない内面の才能がゆえなのかもしれない。
多少自分で考えたり、いらない知識をもとに構成して打ちこめば下手な手になってしまうようであるが。
そのあやふやさと最強ともいえる一手を兼ね備えた人物。
そのような相手に今だに彼はめぐりあったことがない。
だからこそ気にかかる。
彼が…自分が求めていた生涯のライバル、というに値する人物になるかどうか、ということが。
今まで彼と対等に打ちあえる子供などはいなかった。
いるのはすべて大人ばかり。
しかも、子供も彼をやはり塔矢行洋の息子、としてでしか見てこなかった。
常にその視線をうけていたアキラにはそれがわかる。
「しかし、夜だ、というのに誰かそばにいたのかな?進藤?」
たわいのない母との会話をおえて部屋にともどる。
電話口で確かに誰かに何かを叫んでいたヒカルの声がきこえてきていた。
どうやら受話器に手をあてて叫んだようであるが、よく聞き取れなかったのも事実。
しかし、確か、うるさいとか何とかいってたけど、彼には第三者の声はまったくもってきこえなかった。
それが何を意味するのか、塔矢にはわからない。
「ま、いっか。…ねよ」
明日も学校。
それゆえに睡眠は何よりも大事。
子供の本分は学校に通うことなのだから――
き~ん、こ~ん、か~ん、こ~ん……
チャイムの音が鳴り響く。
「おわった、おわったぁぁ!!」
おもいっきり伸びをする。
何でも今日は職員会議があるとかで授業は掃除がおわって帰宅するのみ。
「あ。おい。進藤」
「あれ?三谷?どうしたんだ?」
ふと、教室からのぞいた人物の姿に気づき、きょとん、とした声をだす。
「あれ?たしか三谷君、だったわよね。どうかしたの?」
そんな彼にと気づいて、アカリもまたヒカルの服をつかみつつ問いかける。
何しろヒカルは掃除となるとどうも逃げる傾向がある。
しかも苦手なトイレ掃除のときはなおさらに。
「いや、そいつも今週はトイレ係り、ときいたからな」
「え?三谷君もなの?うちのクラスも今週は私たちの班が担当なのよ」
この葉瀬小学校では各階にとあるトイレを生徒たちが分断し、週ごとに掃除をすることが決まっている。
各クラスから数名ずつ。
それでも、階においていくつかのトイレがある以上、人数が多いい、ということにはなりえない。
「そういや三谷君のクラスは隣だったわよね。じゃあ、一緒なんだ。ちょうどいいわ。こいつが逃げないように手伝って!」
「アカリ~!おまえなぁ!」
「だってヒカルはいつもトイレ掃除の当番になったらにげるじゃないっ!」
まあ、逃げて廊下の掃除を始めていたりする、という実情があるがゆえに何ともいえない。
そんな二人のやり取りをみて一瞬目を点にするものの、
「まあ、せっかくだから。掃除しながら進藤に話しがあったから、よってみたんだけど」
「話?俺に?」
三谷のセリフにきょとん、と首をかしげつつ、背後にいる佐偽と思わず顔を見合わせる。
「さ!ヒカル!とにかく掃除よ!掃除!」
「だぁ!わかったから!くびねっこをひっつかむなぁ!オレは猫か犬か!?」
「にたようなものでしょっ!」
くすっ。
「おまえ、将来尻にひかれるぞ。絶対に」
そんな二人のやり取りをみておもわず笑いをこらえつつもぽそっとつぶやく三谷。
「ほらっ!ヒカル!!いくわよっ!」
「だからぁ!えりくびつかむなっ!耳をつかむなぁぁ!」
この光景はいつものことなのでクラスの仲間はすでに慣れっこ。
「ほんっと、仲いいよな。あいつら」
「というか、藤崎さんにとっては進藤君って手のかかる弟みたいよね」
「あ。それ何かものすごく的をえてる」
何やらそんな会話もまた聞こえてくる。
くすくすくす。
そんなクラスの子どもたちの会話を耳にしておもわずくすくすと笑ってしまう佐偽。
何だかみていてとても微笑ましい。
そんなやり取りをしながらも、まずは今日の学校行事の最後ともいえる掃除へとそれぞれむかってゆく。
「え?三谷のお姉さんが?」
「ああ。昨日さ。家にもどって話したら。姉貴がアルバイトしてるネットカフェでならやってみてもいい。
とかいわれてさ。一応お前も誘ってみようとおもってな。というか別に好意とかじゃねえぞ!?
ただ、ああいう場所に一人でいくのが何かこう場違いなような気がするだけで!」
何やら言い訳がましくいっている姿が何とも微笑ましい。
実は、三谷の姉もまた弟がよくないことをしてお金を手にいれているのではないのか?
という疑念はあったらしい。
それがどうやら解消されたのは、新たに友達になったという進藤光、という子供の影響。
そう信じているのも事実。
まあ、事実、家までおしかけてヒカルは三谷の姉にもあったことがあるのだから、一概に間違い、とは言い難い。
「ラッキ~!いくいく!俺んち、父さんのパソコンがしばらくつかえなさそうでさぁ」
「オレんちもそんな高級な品、かう余裕なんかねえよ」
かといって子供がアルバイトができるはずもない。
「じゃあ、今日の放課後、な」
「わかった。宿題もついでにそこですましてやれ」
「…おまえ、まじめだなぁ。宿題なんてどうでもいいじゃん?それよりまた算数の教科書あとでかしてくれな?」
「またぁ?おまえ、おれが書き込んでいる答えをそのままうつしてるだけじゃん!?」
以前は暇だったのですでにヒカルは算数の類の問題が書かれているものには、さっさと答えをかいていたりする。
それゆえに、けっこうクラスの中ではヒカルの教科書は重宝がられているのも事実。
担任の先生から、進藤君からかりて答えを丸映ししないように!
というお達しまででている始末。
「姉貴がネットカフェ代はもってくれるらしいから、おあいこさ」
「そうなの?でも何だかわるいな~」
「いいんだよ。姉貴がいい、っていうんだから」
たわいのない会話ではあるが、それでも二人してごしごしとトイレを掃除しているのが何とも微笑ましい。
『しかし。厠も変化しましたよねぇ~』
何やらしみじみとそんなことを佐偽がいっていたりもするが。
まあ、平安時代、ましてや江戸時代などには水洗トイレ、といったものは絶対にありえない。
それゆえに佐偽の言葉も納得できる。
できるが……
「佐偽…おまえ、ずるいぞ…」
おもわずぽそっと本音がもれる。
何しろ佐偽はただ視ているだけで何もしなくていいのである。
まあ、幽霊に何かをしろ!ということ自体が無理、といえば無理なのだが……
こいつ、けっこう霊力とかありそうだからやろうとおもえば何かしらできそうなのになぁ?
ふとそんなことを思うが当人が無自覚なのだからどうにもならない。
はぁ~……
とにかく、まずは掃除だ!
溜息とともに、文句をいうものの、すましてしまわないとどうにもならない。
気分を改めて、しばし掃除に没頭してゆくヒカルの姿が、その場において見受けられてゆく。
「あら?いらっしゃい」
「へぇ。この子が三谷さんの弟さん?」
どうやら従業員同士では話がされていたのか、受付にいくなりいきなり声をかけられた。
「よくきたわねぇ。うちのひねくれ者の弟をつれてこられるなんて、きみ。やっぱりやるわね」
にっとほほ笑みかけられて、おもわず苦笑してしまう。
…やっぱしこの人も三谷の姉ちゃんだ。
そう内心おもってしまうのは仕方のないこと。
「あら?そっちの子は?もしかして祐輝!?あんた私に内緒で彼女できてたの!?」
「なっ!?どうしてそうなるっ!姉貴!こいつはこいつの女房!」
「ってこらまて!三谷!その女房ってなは何だよっ!」
学校がおわり、寄り道しようと家とは別方向にむかうヒカルたちに無理やりついてきたアカリ。
ヒカル、祐輝、アカリがやってきたのは東駅の通りにとあるネットカフェ。
受付の前でそんなやり取りをしている子供が三人。
「はいはい。まあ、喧嘩はしないで。あ、と。席は個室のほうがいいかしら?それとも普通でいい?」
どうやらさすが昼間、ということもあり人数はあまりいないらしい。
「わ~。マンガもたくさんある~」
しかもドリンク飲み放題。
金銭的に多少余裕があればたしかにここは天国、といってもいい場所なのかもしれない。
きょろきょろと周囲をみわたしてそんなことをいっているアカリに対し、
「おまえなぁ。さきに宿題くらいしとけよ?いっつもお前、おれのあてにしてるんだし」
「ひど~い!ヒカルだって社会の宿題は以前は私にたよってたじゃないっ!」
どっちもどっちだ。
そんな二人のやり取りをみておもわず内心突っ込みをいれる祐輝であるが。
「ん~。宿題やるから個室が俺いい」
「あ、オレは普通でいい」
「私も~」
「じゃあ、進藤君が個室で、二人は普通の席、ね。はい、とりあえずここに名前をかいてね」
受付でとりあえず名前を記載する。
一応は会員制なのだが、そこはそれ。
従業員の弟とその友達。
ということで一応の身元はわかっているので身元確認のための保護者の印などは必要ないらしい。
「じゃぁ、これが番号カードと、あとはここのカードになるから。次にくるときはこれもってきてね」
名前と住所が描かれた、何やらポイントカードのようなもの。
そして番号が書かれた紙を手渡される。
「それじゃ、いっちょいくか!」
「え~と。俺の席は…と」
個室にしてもらったのには他にも理由がある。
ある程度の実力をもっている三谷に万が一、佐偽がうっている場面を見られでもしたら、
それこそ問題になるような気がしたがゆえ。
とりあえず、それぞれに示された席にとついてゆく。
個室、といっても仕切りで区切られているので完全防音ではないにしろ、それでもゆったりはできるスペースはある。
「さってと。まずは宿題。と。佐偽。お前も手伝えよな。これがおわったらお前に好きなだけ碁をうたせてやれるからな」
『ヒカル!?本当に本当なんですか!?』
「だぁっ!だから耳元でさわぐなっ!まずは宿題!それからだ!いいなっ!」
『はいっ!!』
好きなだけ碁が打てる。
それは佐偽にとっても何とも魅力的な言葉。
「えっと、今日の宿題は国語の古事記…か。佐偽。お前の出番だぜ?」
平安時代の古事記のプリント。
せっかくいる辞書のような存在をつかわないで何とする。
『こじき?』
「ああもう!とにかくお前は俺の質問にこたえる!いいなっ!」
『は、はいっ』
「え~と。まずは清少納言が書いた有名な……」
とりあえずプリントにかかれている文字を読む。
小学生に面倒なプリントだしてくれなくても、先生……
そうはおもうが、担任からすれば生徒たちに昔の日本をよくしってもらいたい、と思いが強いらしく、
このような時代に関する宿題はときどきだされてくるのも事実。
以前などは、紫式部の源氏物語を呼んだ感想、というものが宿題にでたこともある。
小学生に読ますような内容か!?
という突っ込みがあるにはあるにしろ、まあ有名な物語であるのだから仕方がない。
そのときは図書室の源氏物語の漫画が大人気となり順番待ちの状態になったのは記憶に新しい。
わからないものがあれば、すぐそこにパソコンがあるのだから検索すればすぐに答えはわかる。
それゆえに、パソコンをつかいながらも宿題をこなし終え、
「よっし!おわったぁ!…っと、まずは飲み物をとってこよっと」
これからおそらく長丁場になりそうな予感がする。
それゆえに、まずは飲み物をとりに一度席を立つ。
『…ヒカル?どうしてこれはそのまま飲み物がでてくるんですか?』
ぽちっと何やらおせば下から液体がいきなりでてきて戸惑いを隠しきれない佐偽。
「お前…そ~いや、ドリンクバーもしらなかったっけ?」
『ドリ?』
「いやいい。説明面倒だし。さってと。じゃ、席にもどってまずは登録だ!」
昨日の段階では、佐偽の登録はしていない。
昨日、教えられたままに囲碁が打てるサイトを検索してそこにとぶ。
「さて、と。名前は…『sai』。佐偽!さ!いくぞ!」
『わ~い!対局、大局~!!』
「さ!いくぞ!佐偽。対局したいやつをそれで示せよな。あとそれで示せば間違いの元みたいだし。
番号でいえ、番号で!わかったな!?」
『はいっ!』
昨日、佐偽に場面を扇で示してもらいうったものの、どうも左右前後を間違えるもと、というのが判明した。
それゆえのヒカルの指示。
『じゃぁ、まずはこの人から……』
「よっしゃ!いくぞ!」
かちっ。
対局申込をクリックする。
彼らは知らない。
この行為がこの世界にどれだけの波紋を投げかけるか、ということを……
「だから、来月、一週間ほど日本にいってくるよ。マアム。そう。
国際アマチュア囲碁カップのアメリカ代表に選ばれたんだよ。僕は。ひとつの国で代表は一名。
僕は国内の予選でNO1になったんだよ」
日本から遠くはなれたニューヨーク。
とある高層ビルの一角でそんな会話を電話でしている一人の男性。
「うん。そりゃそうさ。やっぱりアジアは強いよ。え?五十ヶ国くらいかな。参加してくるのは。
日本、中国、それに韓国。アメリカ?アメリカは去年は八位、さ。
だけどインターネットによって世界のレベルはどんどんあがってきてるんだ。
いつでも強い相手と対局できるからね。おっと、いってるそばから僕に対局がはいってる。
それじゃ、マァム。体に気をつけて。じゃ」
つけっぱなしにしていた画面に対局の申込がはいる。
「?sai?初めてみる名前だな。よっし。お手並み拝見とするか」
今までみたことのない名前である。
それゆえに、興味をひかれて対局をOKする。
画面の向こうにいるのが囲碁界においては伝説となっている人物だ、などとは露しらず……
「あ!きたきた!いくぞ!佐偽!」
『はいっ!ヒカル!打ち間違えはしないでくださいね!?』
「おまえこそ!」
たわいのないやり取り。
あまり大声ではないものの、やはり声をだして話せる、というのが個室の特権。
はたからみれば独り言をつぶやいているようによそではきこえるであろうが。
まあ、ネットをしていればそういうこともありえる、というのは大体の人がおもうこと。
それゆえに、姿がみえないがゆえに違和感を感じないはずである。
そんな会話をしつつも、ヒカルと佐偽、二人してパソコンの画面上に集中してゆく。
「マスター!指導碁をうってもらいにっ!」
「し~!マスターは来月の国際アマチュア囲碁カップのためにインターネットで特訓中なのよ」
カララン。
入口からはいってきた青年にその場にいた女性が釘をさす。
「へぇ。残念。それじゃあ仕方ないね。マスター、今年も二年連続、オランダ代表だもんなぁ」
「何がすごいって、去年は六位よ!?六位!今年はアジアの一角を崩せるかもね」
「かわりに私が相手してあげる」
「はいはい。どういたしまして」
机に並んでいる囲碁盤。
それぞれが席をはさんで囲碁をうちあっている人々の姿。
「私たちじゃ、マスターの練習相手にならないもの」
「でも。本業のほうは大丈夫かしら?こんな教室をひらいちゃうくらい囲碁に情熱をかたむけちゃって」
「そうねぇ。教授の助手なんて首になるかもね」
オランダの大学の教授。
それが彼の本来の職業。
がたっ。
そんな会話をしている最中、何やら驚愕した表情でガタン、と席を立ちあがる話題の人物。
「?マスター?」
その視線はパソコンの画面上にくぎつけになっている。
「はは…あはは…そうか!わかった!プロだ!ブロなんだ!あはは。そうだ、そうだ。そうに違いない。
インターネットは顔も名前もわからない。アジアのプロがときどきおふざけでアマチュアに交じって打つ、というのを聞いたことがある」
「マスター?」
「マスター?…まけたんですか?」
「大敗、だよ。あまりの強さに僕の心臓は破裂しそうだったよ。sai…か。はじめてみる名前だったな。
ネットの仲間に聞いても誰もしるまい。…あ、次の対局をもうはじめてる」
…のぞいてみるか。
登録しているものならば、今打っているものの観戦をすることも可能。
それゆえに、自分の対局はほったらかし、『sai』の対局をみるために観戦、をクリックする。
「へぇ。そんなに強いひとなの?どれどれ?」
「あ、私もみたい」
あのマスターに勝ったという人物の一局は囲碁をするものならばたしかにみてみたい。
それゆえに、その場にあつまっていた人々は彼の周りにむらがり、パソコンの画面を注視してゆく。
「佐偽。お前さくっとかっちゃうからおもしろいなぁ。次はどれにする?」
『ヒカル!次はこれこれ!』
「了解v」
ぽちっとな。
確かさっきのがアメリカで、今のがオランダ。次は…これは、あ、フランスか。
佐偽がわかっているのかしらないが、とにかく片っ端からリストのメンバーとうってゆく。
すべて中押しでかっているのだからかなり気持ちがいい。
「ってうわっ!?いきなり英語ではなしかけてきた!…えっと、翻訳サイトを別に開いて…と」
英語の意味などまったくわからない。
それゆえに翻訳サイトを別に開いてそのチャットの文字を張り付ける。
「何なに?あなたはつよすぎる。ブロですか?…な~んだ。とりあえず、ぽちっと」
返事をするのも面倒。
そもそも、時間が限られている以上、どうでもいい手間はあまりとりたくない。
「でもさ。佐偽。外国人、めんどうだし。次は日本人にしようぜ?」
すでに一時間もたっていない、というのに佐偽は連戦連勝。
すでに十局以上は打っている。
「日本人、日本人…って、あれ?こいつ……」
『しかし。不思議ですねぇ。何でこんな箱でいろんな人と碁がうてるんでしょうねぇ』
「俺にきくなよ」
『えい。えい。でておいで。おい、おい』
てしてしてし。
「お、おまえなぁ~……」
そんなことをいいながらも、バソコンをてしてしと扇でたたく佐偽の姿におもわず呆れてしまう。
ごくごく。
とりあえずのどを潤すためにとジュースを口にする。
「ああもう!うるさい!佐偽!おまえなぁ!よっし、とりあえず次はこいつにしてみようぜ?」
そこには何やら見覚えのある名前が見て取れる。
『またうてるんですか!?わ~いっ!』
ヒカルの言葉におもいっきり飛び上りながらも喜びを表している佐偽をみつつ、苦笑してしまうのは仕方がない。
こいつ、そこいらの下手な子供より感情表現が豊富だよなぁ。
…昔の人ってこんなに感情表現つよかったのか?
そんな疑問も頭をよぎるが、
「楽しそうだなぁ。佐偽。時間がゆるす限りつきあうよ。ゼルダ…かぁ。よっし。次はこいつにしようぜ?
日本人だぜ。子供かもしんない。こいつ」
『子供?』
「ほら。昨日、会場で別のやつとうってたやつ。係り員のお兄さんがそんなこといってただろ?」
『そういえば。あの大石をがっぽりとったあいて、ですか?』
「うんそう。まあ、別人かもしれないけど、いってみようぜ?」
『わ~い!』
「よし。対局申込…と」
「…っ」
何だよ?
何だよ、こいつ!?
おもわず画面にくぎつけになってしまう。
今まで以上に高い壁を感じる。
絶対に突破できない強い壁を。
画面をみつめつつも、マウスをもつ手がかたかたと震えてしまう。
初めてみる名前だった。
sai。
相手は日本人。
それだけしかわからない。
「へぇ。どう?佐偽?こいつ?」
『ふむ。今日対局した中では一番強いですよ?一の十』
「へぇ。佐偽がそこまでいうなんてな」
あれ?
ぴっ。
画面上にいきなり投了、の文字が示される。
「あれ?でも何で中押しの表示をしてきたよ?」
『強いから形勢判断が早く、正確なのです。私の力量をしり、これ以上は無理、と判断したんでしょう。
力のないものほど勝てない碁を打ち続けるものです』
「ふぅん。そんなものなんだ」
佐偽の言葉にあるいみ納得するものの、
「そうだ!子供かどうかためしてみよっと」
『ヒカル?』
「えっと。と。ちょっとチャットやってみようかとおもってさ。佐偽もこいつがだれなのかしりたいだろ?」
『わかるんですか?』
「子供かどうかくらいはわかるかも」
「ええと…『強いだろ。オレ?』」
かちゃかちゃとチャット場面を打ちこみしてみる。
『ヒカル。なにとも稚拙な文面ですねぇ』
「わるかったなぁ!…さって、何と返事してくるかな?あ、返事きた!」
【zalda>オマエはダレだ!このオレは”インセイ”ダゾ!】
??
「なあ?佐偽?インセイ、って何?」
『さあ?』
佐偽にきいてもどうやらわかりそうにない。
「きいてみるか?」
『ですね』
【インセイっ?それ何?】
ぷちっ。
「こ、こいつふざけてるのか!?」
おもわずバソコンの前でどなってしまう。
強いだろ。と話しかけてきて、しかもインセイとは何?ときたものだ。
【ふざけるなっ!】
怒りにまかせて返事をうちこみする。
むっ。
【ふざけるな、だって!?しらないんだからおしえてくれてもいいだろっ!ケチ!】
【ケチとは何だ!ケチとはっ!】
『ヒカル~。箱の中で喧嘩しないでくださいよ……』
【も、いい!お前強そうだからだれかな?とおもったけど!このけちんぼ!】
かちっ。
言いたいことだけいってチャットをきり、対局の画面も打ち切る。
「ああ!腹がたつ!佐偽!ハラたつからこの中にいるやつら全部百人切りしてやれっ!」
『わ~い!また対局~♪』
さすがに昼間、ということだけはあり、日本ではいっている人数は少ない。
海外の、おそらく夜であろう場所の人々は入っているようであるが。
「面倒だし、またハラがたってもいけないからチャットは無視しよっと」
何だか胸のムカムカはおさまらない。
それゆえに、佐偽の百人きりでもみてから気分をすっきりさせてやろ。
そんなことを思いつつも、新たな対局者に対局を申し込むヒカルの姿。
「あ!相手のやつ、きりやがった!」
言いたいことだけいって、チャットも、対局画面もうちきった。
「まさか…相手も子供?…そんなバカな!?」
あの言い合いからしてどうみても大人とはおもえない。
しかも、時刻は昼間である。
しかし、院生を知らない碁の打ちてなどいるものか。
「sai…か。ああもう!ハラたつ!…ハラたつけど…たしかにこいつ、ものすごくつよかった……」
感じたのは、本因坊秀作のそれ。
それほどまでに高いレベルを感じた。
「あ、こいつ、別の対局してる……」
少し迷ったのち、観戦、をクリックする。
相手のことがきにかかる。
それ以上に相手の実力が知りたい、とおもうのはブロを目指す院生だからゆえ……
-第13話へー
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あとがきもどき:
薫:さてさて、ネットの佐偽伝説の始まりですv
騒ぎを知らないがゆえに、のんびりまったりとヒカルは打ち込みしていたり~♪
ちなみに、ちらっと出てきたのは、いうまでもなく和谷義高、ですよ~(笑
ではでは、また次回にてv
2008年7月29日(火)某日
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