まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

対局などの次期が異なっている、という点はまあごかんべんv(自覚はあり
まあ、二次もどきだし、そのあたりはご了解をばv
ではでは、いきなり三谷と知り合いになってたりしますけど、そこから物語は開始ですv
では、いきますv

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星の道しるべ   ~新たな出会い~

「あれ?こんなところに碁会所があったんだ」
大会の翌日、水曜日。
社会保険センターへと学校がおわり一度家にもどり行きかけたその矢先。
小さな、【碁】とかかれている看板がふと目にとまる。
ヒカルが碁を覚えようとするのに多少の難色を示していたヒカルの母親であるが。
どうやら昨日、家にやってきた塔矢をみてその考え多少かわったみたいだし。
それゆえか、別に社会保険センターへといく自分を今日はひきとめることはしなかった。
昨日は外が暗くなってしまったがゆえに、光の母親、美津子が塔矢明を自宅までおくっていったのだが。
そのときに、彼の父親が囲碁の世界の棋士だとか、何かいろいろなことをきいたらしい。
そしてまた、囲碁、というものは子供もたしなむものであり、脳の活性化にもいい云々…というような話をしたらしいが。
詳しくはヒカルも聞いていない。
美津子いわく、
ああいう行儀のいい子と知り合いになれるんだったらどんどんやってみなさい!
とのこと。
多少何か論点が違うような気もしなくもないが、まあ一応お墨付きをもらったのも事実。
『ヒカル!はいってみましょうよ!ね、ねっ!』
「まあ、喫茶店と兼用になってるみたいだから。覗くだけだぞ?佐偽?」
ちょうどのどもかわいてきたところ。
こくこくこく。
ヒカルの言葉に嬉しそうにうなづく佐偽の様子に笑みがもれてしまう。
ほんっとこいつ、わかりやすい性格してるよな。
まだ出会ってそんなに経過していないが、何かずっと一緒にいたようなそんな感覚をうけてしまう。
まあ、手のかかる弟、もしくはペットを飼い始めたような、そんな感覚に近いものもある。
しかし、いざ囲碁のことになると佐偽は表情から何から何まで一変する。
そのギャップが何ともいえないのも事実。
カラッン。
「いらっしゃい」
喫茶店、とかかれている建物の中にはいるとそこは多少薄暗い空間。
普通の喫茶店と同じようにカウンターがあり、いくつかの席がカウンターの横にと並んでいるのが見て取れる。
『…ヒカル!?あの子……今、整地をごまかしていますっ!』
ふと、何やら対局していたらしい子供のほうに視線をむけて驚きの声をあげている佐偽。
「あ~。またまけた。最近祐輝くん、強くなったねぇ」
どうやら子供の名前はユウキ、というらしい。
茶髪が強くでているぱっとみためおそらく自分と同い年くらいの子ども。
「おじさんがよわいんだよ。それより約束」
「ああ。そうだったね。はい。五百円」
負けたというのに相手をしていた男性はにこにこしながらも祐輝にとお金を手渡す。
「祐輝くん。今度は私の相手をおねがいするよ?」
そんな少年にと別の人物が声をかけている。
「いや、今日はもうかえらないと。また明日ね」
いいつつも、がしゃがしゃと碁石を片づけて立ち尽くしているヒカルの横を素通りしそのまま外にとでてゆくその子供。
『なぜあのような子供がごまかしなど……』
佐偽からすれば信じられない行動。
「…ねえ。おじさん。あの子、誰?」
今出て行った少年について、店のマスターらしき人物にとといかける。
「ああ。三谷祐輝君。だよ。ここの常連なんだ。あの子がどうかしたの?」
「あいつ、さっき……ううん。何でもない」
佐偽がいった整地云々をきいてみようとおもったがやめておく。
いきなりいってもいいような内容だ、ともおもえない。
「君、あの子の知り合い?」
「え?いえ、そうじゃないですけど……」
いきなり先ほど子供と対戦していた相手に話しかけられとまどってしまう。
「君が何をいいたかったのかはわかってるよ。あの子がズルしたことだろう?
  だけどいいんだよ。あの子も必至なんだよ。あの子のお父さんがこの間リストラされちゃってねぇ。
  しかも酒浸りになってしまって働こうとしなくて…
  …あの子のお姉さんがアルバイトをしてどうにか家計を支えてるんだけど。
  あの子もあの子なりに自分でできることを考えた結果なんだよ。きっと」
しかも、家庭内暴力をふるう、ときたものだ。
ここにくるとき、痣をつくっていることもしばしば。
それなりの施設に報告したいのは山々なれど、彼が懇願してくるので何ともいえないのも事実。
彼にとっては父親は今ではたった一人の父親。
母親は彼が小さいころに亡くなっている。
だからこそそんな親でも子供はかばう。
「え?…だけど!いけないことはいけないんだしっ!」
リストラ云々、というのはものすごく同情できるが、だがしかし違法行為をしていい、という保証にはならない。
整地のごまかし、というものがどのような意味をもつのかヒカルにはよくわからない。
だけども、何となくだけどもそれはよくないことだ、と理解はできる。
「しかし。祐輝君、だんだん金額があがってきてるのが気になるけどねぇ……
  いつかいわなきゃ、とはおもうんだけど、なかなかねぇ……」
相手の事情をしっているだけになおさらいえない。
前までは百円とかかわいいものであったのでお客も知っていながら何もいわなかった。
だが、ここ最近はその金額が上がってきている。
「まあまあ。マスター。あの子も悪いことをしてる、というのはわかってるんだし。
  今しばらく様子をみてあげようよ」
「そうはいうけどねぇ~…やはり、一度、強く注意したほうがいいのかねぇ~……」
注意しないままだと、ばれていない、とおもってどんどん悪い方向に進んでしまうかもしれない。
それが何よりも危惧される。
『ヒカル?リストラ、とは何ですか?』
佐偽にはその言葉の意味はわからない。
「君、今、何年?」
「あ。葉瀬小学校の六年です」
問われて素直に答えるヒカルに対し、
「なら、あの子と同い年だね。
  君のような子が友達になってやってくれたらあの子もたちなおるとおもうんだけど、どうかな?
  君、碁はやるかい?あの子、碁が強いからねぇ。知りあうきっかけにはなるよ?」
まったく見知らずの人にずいっと迫られて思わず後ずさる。
「う~ん。かんがえとく。あ、おじさん。オレンジジュースちょうだい?」
「はいよ」
『ヒカル!あのこを更生させられるのは私とあなたしかいませんっ!
  まだ小さいのに整地でズルをしなければいけない環境下に置かれるなど……』
リストラ云々の言葉はわからないが、父親が働かなくなった。
という言葉から察するに、おそらくズルをしてでもそれで資金を稼いでいるのであろう。
どんな理由があろうとも、悪事は絶対にいずれ自分に戻ってくる。
小さな悪事がきっかけで、ひとの道をふみはずしてしまう存在がいることを佐偽は知っている。
「とりあえず、明日、学校でさがしてみるよ。あの子も同じ学校なのかな?
  ねえ、おじさん。あの子の家ってどこ?」
「この裏にある市営住宅だよ?」
「なら、このあたりもまだ葉瀬小の通学範囲、だね。明日、さがしてみよっと」
ヒカルも囲碁を始めているのだから碁をやるという話をきいたから、という理由で話しはできそうである。
三谷祐輝…かぁ。
結構、おれと同い年の子でも碁をやってる子って身近にいたんだな。
今まで俺が知らなかっただけで。
そんなことをおもいつつも、出されたジュースを一気にのみほす。
「ごちそうさまでした!」
ふと時間をみればけっこう時間がたっている。
それゆえにあわてて席を立ちあがり、料金を払って外にとでる。
「さって。今日も囲碁教室、がんばるぞ~!!」
『といっても、まだヒカルはほとんど一人で棋譜ならべ、ですけどね~』
「家とおなじようなものだよなぁ。棋譜ならべ、というより俺、お前とうってるんだし」
そもそも、手渡された棋譜が本因坊秀作の棋譜集、となっていたのだからあるいみ笑える。
それならば、棋譜をみずともに佐偽はすべて自分がうった棋譜の並びは覚えている。
それゆえに、家でも教室でも同じようなことをしているこの二人。
だが、それは第三者には知る由もない。

「あれ?進藤君?」
ふと社会保険センターの入口の前で呼び止められる。
「って、筒井さん?」
そこにはなぜか筒井の姿が。
「筒井さんも囲碁教室に用事があるの?それとも別な用事?」
そんな筒井にと首をかしげてといかけるヒカルに対し、
「ああ。進藤君はしらないんだ。ここの指導をしている白川プロね。
  頼んだらいろいろなチケットを手にいれてくれるんだよ。ちょうどよかった。進藤君。今度の日曜日、時間ある?」
「え?」
いきなり言われてきょとん、とする。
「まあ、時間はあるにはあるけど」
もしかしたら塔矢がくるかもしれないけど、こないかもしれないし。
時間があるときいつでも立ち寄ってもいいかな?
といわれてOKをだしたのは昨日のこと。
「昨日の御礼、とはいかないかもしれないけど。この日曜日、プロ棋士の公開対戦があるんだよ。いってみない?
  当然、昨日の御礼に交通費は僕がもつからさ」
失格になったとはいえ、あの海王中に勝てたのは事実である。
それなのに彼自身は何もヒカルに対してお礼はできていない、と感じている。
「う~ん…あ、筒井さん。もう一人さそってもいい?そいつも囲碁やるみたいでさ。
  ちょっと家のほうがごたごたしてて気分転換になるかもしれないし」
明日、探すにしてもきっかけはほしい。
「うん。かまわないよ。じゃあ、次の日曜日。駅前に九時ね」
「は~い」
ヒカルの返事をうけて、ひらひらと手を振りながらもその場をあとにしてゆく筒井の姿。
そんな筒井の姿を見送りつつ、
『公開対戦ですか!?何だかわくわくしますねぇ。それにヒカル。あの子をさそうつもりですか?
  たしかに、いいきっかけにはなるでしょうね』
「だろ?さってと。とにかく教室にいくぞ!佐偽!」
『はいっ!』
そのまま社会保険センターの中へとヒカルたちははいってゆく――


NCC杯、トーナメント。
「ほんっとお前、素直じゃないなぁ」
「ふん。このおせっかい」
いきなり教室に自分を探しにきたかとおもえば、何のことはない。
昨日、たしかにあの碁会所ですれ違ったような気もしなくもないが。
日曜日に一緒に囲碁のイベントがあるからいかないか、といきなりいってきた。
断ろうとすれば、昨日のこと、みんな気づいてたよ?
といわれ、おもわず目を見開いたのも事実。
しかも家までおしかけてこられてはたまったものではない。
「まあまあ。えっと席は…あ、ここだ。白川プロがもう一枚都合してくれてたすかったよ」
トーナメント杯のチケットは結構競争率が高い。
とはいえプロ棋士にはある程度枚数が割り当てられており、棋士たちが素人などに渡すこともしばしば。
筒井につられてやってきたのは、とある大きな建物。
でかでかと【NCC杯トーナメント】と書かれている看板が目にとまる。
「でも、すごい人だねぇ。このイベントってそんなにすごいものなの?」
「「・・・・・・・・・・・」」
さらっというヒカルのセリフに思わず顔を見合わせ、
「お、おまえなぁ!?まさか知らないわけ!?」
「…進藤君。あそこまで打てるのに囲碁に関する知識ものすっごくないよね……」
あそこまで打てる云々は、一度ヒカルと同い年の少年、三谷祐輝もまたうったのでそれはわかる。
結局のところ、自分にまけたら二度とかかわってくるな、とタンカをきったというのにあっさり負けたのも事実。
何やら部屋の外ではさまざまなイベントが催されており、かなりの数のテレビクルーの姿もめにはいる。
「わるかったな!」
打てるのは俺じゃなくて佐偽!
そう心の中で叫ぶものの、
『ヒカル!ヒカル!みてください!大きな碁盤がありますよ!?』
何やらきゃいきゃいとはしゃいでいる佐偽が何とも場違いともいえなくもない。
「でもさ。こんな後ろのほうの遠くから対局みておもしろいの?」
「え~と。プロの人が大盤をつかって一手一手、対局を解説してくれるんだよ」
「ふ~ん。横でそんなことされて、対局する人、うるさくないのかなぁ?」
筒井のセリフに思わず素朴な疑問がもれる。
「まったく…とにかく、そろそろはじまるぜ?」
なし崩し的に連れてこられたような気もするが。
まあ、たしかに実際にみるのと、碁会所でみるのとではわけがちがう。
しかも、碁会所の人がズルというかインチキを見破っていた、というのならばなおさらに。
顔を出しにくい、というのもある。
姉もまた気分転換になるだろうからいってらっしゃい。
そういってきたのも事実。
『一手、一手解説、ですか。楽しそうですね』
何だかとてもわくわくする。
そんなわくわくした高揚した佐偽の気持ちはヒカルにも伝わってくる。

「会場の皆様。テレビの前の皆様。こんにちわ。これより第〇期、NCC杯トーナメント一回戦。第五局。
  藤沢紀行九段と高田幸一七段との対局をお送りいたします。
  大盤解説は村瀬九段。聞き手は吉永二段、です。さて、それではさっそく解説にはいっていただきまししょう。
  さて、村瀬さん。今日の対局の見どころはどういったところでしょう?」
マイクをもった人物が会場と、そしてテレビカメラにむかって解説を始めてくる。

『ヒカル。あの人がもってるあれは何ですか?あの人、声がおおきいですね~』
くすっ。
アレはマイク。
『?マイク?』
佐偽からすれば広い部屋に響き渡る声をうけて声が大きいと驚愕の表情を浮かべてしまう。
あ~、つまり声を大きくして周囲に聞こえるようにする道具。
『へ~。そんなものがあるんですか。この時代って何やらいろいろとおもしろいものがありますねぇ』
…お前、俺に碁を教える前にこの時代のことを覚えたほうがよくないか?
前々から思ってはいたが、説明するのにかなりの気力を使うのでそのあたりのことはおざなりになっている。
『ヒカルヒカル!同じモノがこの真上にあるのはなぜですか!?』
……あ~……
たしかに会場がひろいがためにいくつかモニターが設置されているのが目にはいる。
「えっと。ほら、そこにテレビクルーがカメラかまえてるだろ?あれを通じてテレビに画像をながしてるんだよ?」
小さくつぶやきつつも、ちらりと一点を指し示して佐偽に教えるものの、
『ヒカル。私をたぶらかそうとしてもだめです。あんな小さな箱のようなものでどうしてそんなことができるんですか!?』
・・・・・・・・・・・だ~か~ら~!!
佐偽のそんな質問に頭を抱える以外にどうしようもない。
なぜ、といわれてもヒカルに丁寧に説明をもとめる、というのがそもそも疑問。
おそらく、きちんと説明しても佐偽は理解できないであろう。
そう、いく度いっても乗り物が空を飛ぶ、ということが理解できないように。
『あ。対局がはじまりました!』
頭を抱えるヒカルとは対照的にふと対局がはじまったのをうけてそちらにいきなり集中しはじめている佐偽の姿。
こいつ、ほんと~~に頭の中、碁のことばっかりなんだよなぁ。
目をきらきらさせつつも、何対局をみている佐偽の姿をみて思わず苦笑してしまう。
しかし、いつも佐偽とばかりうってるけど、もっと佐偽がうったのみてみたいんだけどなぁ。
でもそれやるとまぐれ勝ちする子供として有名になりかねないし。
何かいい方法ないかなぁ~……

「う~ん。なかなかいい手ですね。次にはこのあたりにいくんでしょうか?」
「あ、先生。あたりですよ?」
「僕も伊達に解説の仕事をしているわけじゃないんだよ?」
あはははは。
何やら冗談まじりの解説者のセリフに会場内から笑い声が巻き起こる。

でも、何だかなぁ。
対局をみていても何だか物足りなさを感じてしまう。
対局にありそうな独特の緊張感がないせいなのかはわからない。
「筒井さん。俺、ちょっとロビーうろついてくるわ。…ずっとみてたら何かねむくなってきた……」
何か緊張感が欠けている。
『ヒカル!?』
「え?でも対局はまだつづくよ?」
「…お前、さてはあまりねてないな?」
ここにくる電車の中でも、さらには昨夜もたしかに佐偽が騒ぎまくってあまり寝ていないのも事実。
きょとん、とする筒井とは対照てきに、あきれた口調でいってくる三谷の姿。
「あ~。うん。まあね。ちょっと外の空気をすってくる」
『そんなぁ!ヒカル!だってこれから面白くなりそうなのにっ!』
ただじっと座ってるだけなんてもう限界。
というかあの場で居眠りなどしてしまいそうな気がする。
そんなことをすれば、後々ネチネチと何やら三谷に言われそうなきがひしひしとする。
『ヒカル!そんな~!!今日を楽しみにしてたのにぃぃ!!』
「そうはいうけど。お前が騒いだせ~で俺は寝不足っ!」
『しくしく…ヒカル。ひどい。今日を楽しみにしてたのに…楽しみにしてたのにぃ~……』
この時代の実力あるものの対局をみれる機会などそうはない。
しくしくしく。
会場の外にとでると、さすがに対局中のことはあり、ひとけはまったくほとんどない。
横で座り込んで思いっきり泣いている佐偽のことも気にはかかるが、
「あ、ほら。佐偽。あっちで碁の本とかうってるぜ。それにあっちはパソコンで碁をうってるみたいだぜ。
  なあ、佐偽。ちょっとのぞいてみようぜ」
『…え?』
パソ…ってあのいたのような箱のようなものですか?
ヒカルの家にあるのは板のようなもの。
ヒカルが学校でつかっているのは箱のようなもの。
互いに同じらしいが、どうして形が異なるのに同じなのかいまだに佐偽は理解できていない。
未だに半ば泣き顔の佐偽をひきつれて、何やらパソコンの前に一人だけいる子供の前にと歩いてゆく。

ピチュ。
ピチュ。
バソコンの画面に表れているのは小さな盤面。
互いに画面に白と黒の碁石がせめぎあっているのがみてとれる。
そんな対局を横からみているヒカルに近づき、
「お父さんか誰かときたの?」
にこやかに話しかけるどうやらこのコーナーを担当しているまだ若い男性。
「ううん。友達」
そんな男性にと素直に答えるヒカル。
「へぇ。珍しいな。家にパソコンある?」
普通は親に連れられて、というのが多いというのに。
背の高さからしてまだおそらく小学生かそこら。
そんな子供が友達とくるなどほとんど珍しい。
興味がありそうなヒカルにとにこやかに問いかける。
「うん。お父さんのが。だけど仕事にもってくから使えるときは少ないけど」
「へぇ。インターネットとかに興味ないかな?」
「調べものするのにときどきつかうけど?」
「今、この子はインターネットで対局してるんだよ。この子が黒で、…ほら、今相手が白石をうっただろ?
  次にこの子が黒石をうつ」
確かにいわれてみれば、どうやらパソコンをさわっている子供の石は黒らしい。
ぱち。
「……あ゛」
『あ~…そんなところにうったら……』
ヒカルと佐偽の声はほぼ同時。
おもいっきり素人目にもとってください、といわんばかりの一手。
案の定、というか次の一手でごっそりと黒石は相手にともっていかれてしまう。
「う~…ふんっ!」
ばんっ!
自分が悪いであろうにいきなりキーをたたきつけ、ガタン、と席を立ちあがる対局していた子どもの姿。
「って、ああ!何をするんだ!これはテレビゲームじゃないんだぞ!?
  す、すぐにあやまらないと…」
カチャカチャカチャ。
「ええと。すいません、勝手に中断してしまっ…ああ!?」
席をたった子供にかわり、あわててワビの文面を打ちこみするものの、
【Zalda>テメー!オオイシトラレタカラッテカッテにキルナ!バカヤロウ!】
いきなり画面新たに出現し、チャットらしき画面が現れる。
「あ~…先にかかれた…あちゃ~……」
相手に先をこされてしまい、思わず頭をかかえてしまう青年の姿が目にとまる。
「うわ~。おもしろぇ」
相手とも話せるんだ。
これって面白い。
そんなことをおもいつつも、おもったとおりに思わず口にするヒカルの姿。
「向こうの人も子供かなぁ?」
「え?子供?こいつ子供なの?」
ぽそっとつぶやいた青年の言葉に思わず問いかけなおす。
「この言い方といい、登録名といい、子供じゃないかな。とおもったんだよ」
「登録名?」
「インターネットで使う仮の名前さ」
「ふぅん。ゼルダ、かぁ。子供もいるんだ」
たしかに、名前からして子供っぽい。
事実、ヒカルも翻訳サイトをつかいときどき理数系のチャットに参加することもある。
「インターネットは顔も名前も歳も表にでないからわからないんだよ」
「子供だけじゃなくて、ほら」
かちっ。
マウスをクリックすると、画面がかわり、何やら名前と、英文字が示された画面が表示される。
「外国の人だっているんだ。JPNが日本。CANがカナダ。CHNが中国。USAにGER」
「NLDは?」
「オランダだよ。このリストの人たちがお互いに対局したり、申し込まれたりしてるわけだ。
  手順と操作は簡単でたとえば……対局したいときにはここをこうやって…こう。やってみる?」
カチカチと手順を説明しつつも後ろにいるヒカルに問いかけてみるものの、
「え~と。まだいいや。それよりもっと使い方おしえて?まず登録しなきゃいけないんでしょ?」
「じゃぁ、このページにくるところからやろうか?」
「うん」
どうやら興味をもったらしい。
ここまで熱心に聞く子供も珍しい。
それゆえに指導するのにも力がはいる。
「まず、こうしてワールド、囲碁ネットといれて検索するんだ。検索の仕方はわかる?」
「あ。うん」
「文字の使い方とかは?」
「それも大丈夫。お父さんにきいてローマ字苦手だから日本語表記のやりかたはおしえてもらった」
夏休みの課題研究にパソコンをかりるのはいつものこと。
「なら、平気だね。まずはなれてくのがいいから……画面がここになったら、ここをクリックして…それで登録。
  あ、ここからは教えていくから君、やってみて?」
「あ、は~い」
促され、席にと座る。
「ほら、そこに登録場面がでただろう?そこに名前と連絡先とを打ちこみして。
  …利用規約は…君にはまだ難しいかな?でもここはきちんとセキュリティはしっかりしてるから平気だよ。
  そうして、ここに君のハンドルネームと…あ、ハンドルネームとはわかる?」
「うん。俺もつかってるからわかる」
最近の子どもはけっこう進んでいる。
まあ、小学の授業でもパソコンを教えている時代なのでそれも当然ではあるが。
「あ。ねえねえ。お兄さん。ハンドルネームって、一人でいくつももてるの?」
「え?それは可能だけど。まあ、たしかに。名前を使い分けてる人もいるみたいだよ?
  たとえば、プロの人が名前を偽って参加していたりもするしね」
「へ~」
そんな説明に思わず感心した声をだす。
『?ヒカル。よく意味がわからないんですけど?』
ヒカルたちの会話は佐偽にはよくわからない。
くすっ。
まあ、佐偽には仕方ないかな。
きょとん、としている佐偽をみておもわず笑みが漏れてしまう。
「とりあえず、慣れるためにやってみようか?ここに、いれてみて。次に入るときには……」
何でもハンドルネームとパスワード。
それさえあれば一度登録すればいくらでもはいれるらしい。
「パスワードは絶対に忘れないものにしてね」
「は~い」
一番簡単なのは文字の羅列。
「ちなみに、二つ以上使うばあい、それぞれのハンドルネームに対して、違うパスワードが必要になるからね」
ふむ。
それをとにかく頭にと叩き込む。
「そう。それで…ほら、登録完了。とでただろ?そしたら、ここに君の名前がでたのがわかる?」
たしかに言われてみてみれば、登録した【laito】という名前が一覧に示されている。
「あとは…あ、ちょうどいい人がいる。もしかしたら教えてくれるかもしれないよ?
  えっと、ちょっとかわってくれる?」
「え?あ、はい」
よくわからないものの、何か画面表示をみて何か思いついたようにいってくるそんな彼の言葉に素直に席を譲る。
カチャカチャカチャ。
どうやら対戦を申し込んで許可がでたらしい。
対戦表が示されたその直後、何やら書き込みしている男性の姿。
「えっと…?何何?」
【NCC杯トーナメントでネット碁を教えている月城といいます。一柳先生にぜひともこの子供の指導をしていただく……】
そんな文字がチャット画面に指示されている。
【Ichiryu>ほほほ。かまわんよ。子供が碁に興味をもつのはよいことだしの】
何やら相手からそのような返事が指示され、
【こちらは休憩時間の合間にやっているからそれほど時間はないが平気かの?】
何やらどうもこの人物とパソコンの向こうにいる人物は知りあいなのかもしれない。
「よし。許可がでたみたいだし。やってみて?まずは…このチャットの使い方だけど……」
「あ。はい」
何やら会話がおわったのか再びヒカルに席をゆずってくる。
「チャットをうちこみするときは、ここをこうして…それで、チャットをやめるときにはここをクリックして。
  あ、一度チャットを切ります、と相手につたえてね?」
「あ、はい」
言われるままに、文字をうちこみする。
言語バーをクリックして日本語表記にして打ちこみしないとヒカルには使えないというかよくわからない。
それゆえにさくっとそのように変更し、言われたままにと文字をうちこみする。
「相手の了解をえたら、クリックして…そうそう」
たしかに言われるままにしてみれば、チャット画面が画面上から消えて盤面が表示された画面に切り替わる。
ピッ。
閉じた直後にまた示され、
【碁をうったことはあるのかの?】
「え?ええと。あ、はい。一応」
相手がわからないにしろ、問われたことには返事をするのが礼儀。
『ヒカル?これはいったい誰とはなしてるんですか?回りにだれまいませんよねぇ?』
画面上に文字がしめされ、不思議そうにパソコンの周囲をぐるぐるとまわって確認している佐偽であるが。
【ならば、まずは打ち方、からはじめようかの?まずは慣れ、じゃからの。
  打ちたい盤面上の番号をこれで伝えつつ、それで打ち込みしてみなさい】
なるほど。
たしかに、打ち間違えなどしてもそれだとよくわかる。
「さすが一柳先生。指導の仕方をこころえていらっしゃる。僕たちでは碁のことはあまり詳しくないからねぇ」
その文章をみて関心したようにといってきている係り員。
「?先生?お兄さん、このチャットの向こうの人と知り合いなの?」
「ああ。君はしらないんだ。まあやったことがなければ当然、かな?
  この世界ではけっこう有名なんだよ?この先にいるのはプロ棋士の一柳先生。
  先生はよくこうしてアマにまぎれてネット碁であそばれるんだよ。
  他にもいろいろなプロの棋士がときどきまぎれこんでいることがあるよ?」
「へぇ。そうなんだ~」
名前も顔も年齢もわからない、というので興味をもったが。
これなら佐偽も満足できるかも!
『ヒカル?』
ヒカルのその言葉にただただ首をかしげるしかない佐偽。
佐偽。
今からこれでうつけど、お前、どこにうつか示してみて。
『え?あ、はい。…えっと、これで示せばいいですか?』
「どっちでもいいよ。…えっと、…あ、俺が黒だ」
どうやら相手のほうから黒をもつようにと指示があった。
『では、まずは……』
パチッ。
『へぇ。これは…おもしろいですね。この箱の中に碁盤がありますし。石がないのにどうしてうてるんでしょう?』
あ~……
とにかくいいから!とにかくお前もなれてくれよな。
これ覚えたらお前に好きなだけ碁をうたせてやれるんだし。
『ヒカル!?今、今何といいました!?』
「ねえ。お兄さん、この中には世界中の人たちがいるんだよね?なら世界中のひとと碁をうてるんだよね?」
「あはは。まあ確かに、理屈ではそうだけど。君、そんな実力あるの?」
「そこそこ、かなぁ?…あ、次うちこまれてきた…えっと…次は…」
『ヒカル!そこじゃありませんっ!』
「ああ!?マウス操作をまちがえたっ!!」

【ほほほ。どうやらマウス操作をあやまったらしいの。じゃが、ネット碁も本当の碁と同じく訂正はきかんぞ。
  よく気をつけてうちこまなければ】
対戦の合間をぬって、気休めにはいったネット碁。
そこで何やら珍しく対戦が申し込まれ、遊び心で受けてみれば何でもネット碁を指導している係りのものかららしい。
彼とは多少面識があるがゆえに、快く許可したのも事実。
しかし、相手は子供、といわれていたが、どうしてこうして。
打ち方にまったく隙がなくよどみもない。
相手の力を見極めようとして一手をうっても鋭く相手もまた打ち返してくる。
そんなさなか、示された場所とは異なる場所に石がおかれ、相手がマウスの操作を間違えたことにふと気付く。
ついつい、相手は同じブロのような感覚で真剣になりかけていたのがその一手ではっと我にと戻る。
「しかし…この子供…ネットでここまで打てる、とは……」
ノートパソコンの前にてしばらくそんなことをおもいうなってしまう。
噂の塔矢名人の息子ならばいざしらず。
おそらく彼ではないのは明らか。
たしかあの子もまたネット碁をやっていたはずである。
「あとで月城くんにこの子のことをきいてみるか」
そんなことをおもいつつも、どこかわくわくしつつしばらく画面と向かい合う年配の男性の姿が見受けられてゆく。

「おい!進藤!」
「…って、あれ?三谷?それに筒井さん?」
ふと名前を呼ばれて振り返る。
「進藤君。何やってるの?…ネット碁?」
「お友達?」
「あ、はい」
「って、もうこんな時間か。君、のみこみはやいねぇ」
幾度か打ち間違えをしたものの、何ども対戦しなおし、筋はかなりよい。
まあ、相手があの一柳先生だし、指導碁をうってるのだろうけど。
そんなことを月城、とよばれていた青年はおもうが、何のことはない。
一柳プロ、とよばれている人物のほうも本気になっていたりするのだが。
ふと時間をみてみればいつのまにか時刻は十二時を回っている。
「もう昼だぜ?対局みずになにやってるのかとおもったら」
おもわずそんなヒカルに対して呆れた声をだす三谷であるが。
「あはは。でもさ。三谷。これって面白いよ?全世界の人たちとうてるんだってさ」
「セキュリティとかは大丈夫なの?」
「君たちも興味あるのかい?なら一緒におしえるよ?」
「あ。僕は少しお願いしようかな。でも、その前にお昼にしないと」
「ネットかぁ。たしかに面白そうだよな。姉貴がネットカフェでアルバイトしてるし。オレも覚えてみるかなぁ」
子供が囲碁に興味をもつのはとても好ましい。
「じゃぁ、お昼ごはんがおわったらおいで。あ、でも対局を君たちみにきたんだったよね?」
「ん~。でもこっちのほうが確かに面白そうだしな」
「この対局はきちんとビデオ予約してきてるからあとでもゆっくりとみれるし」
どうやら筒井のほうはちゃっかりと家で録画予約をしてきているらしい。
まあ、たしかに。
生中継でBS放送で全国放送されるのも事実だが。
くすっ。
そんな子供たちの様子に苦笑しながら。
「じゃぁ、もうお昼だし。一応解散しようか。一時から僕はここにまたいるから。まってるよ?
  さて…と、じゃあ、まずは先生にお礼のことばをいっとかないと……」
「お兄さん、どうもありがとうございました~!またあとで!」
ちょうどパソコンは三台ほどある。
たしかに、対局中ならばすいているのは必至。
どうやら友達同士できた、というのは嘘ではないらしい。
お昼にむかう子供たちの姿をみおくりつつも、
【一流先生。どうも本日はありがとうございました。子供たちはお昼にむかわせましたので……】
画面の向こうで彼が唸っていることなど知る由もなく、かちかちとチャットをうちこみする。
【…ヒル?…おお。もうこんな時間だったのか。月城くん。今、君が指導していた子は何という子なのかな?】
【シンドウヒカル、といってましたけど?】
漢字はわからない。
【シンドウ…ヒカル。か。ふむ。おぼえておこう。あの子はまたくるのかの?】
【一時からまたくるようにはいいましたけど?】
【一時からか。ならわしはむりじゃのぉ……まあ、よい。よろしくいっといてくれ】

【は、はぁ。】
普通、相手のほうからよろしくなどというものだろうか?
まあ、一柳先生は礼儀を重んじる人物なのでありえるといえばありえそうである。
そんなやり取りを終えて、ひとまずネットを終える月城。
「さて、私も今のうちにお昼をたべておくとするかな」
おもいっきり伸びをする。
今日、教えた中で一番あの子がのみこみよかったな。
しかも真剣に取り組む様は教えているほうからしても気持ちがよい。
「九月ももう終わり、かぁ」
ときどききこえていたセミの声もすでにはしなくなり、ときどきヒグラシの声が聞こえてくる。
もうすぐ季節は冬になる。
そんなことをおもいつつ、会場の奥にとある控え室にと向かう月城の姿が見受けられてゆくのであった。


                                -第12話へー

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あとがきもどき:
薫:ふふふv佐偽伝説、発動ですv
  アニメや漫画の原作では二か月しかいませんでしたけど(笑
  佐偽にはやはりものすごく強くなってほしい、というのがあるのですよvええ(笑
  あと。ヒカルが基礎や知識をほぼ知らないままに棋力をつけまくっていく、というのもやりたいし(だからまて
  次回から、佐偽のネット伝説、開始ですvではでは~♪

2008年7月28日(月)某日

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