まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

一刀両断&決勝戦いの大局~
それらがはぶかれているこの話v
それらはすべては後々につづく布石なのですよvええv
原作やアニメとことなり、塔矢明がヒカルの家を訪ねますv
さてさて、どうなることか?
ふふふふふv(笑

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星の道しるべ   ~決勝戦、そして……~

前のたびは、とにかくむっときてひたすらにうってみたし。
今度は少しばかりあそんでみよう。
佐偽との対戦では遊べないし。
そもそも、へんな手をうてばするどく佐偽は切り込んできてしまい続きにもならない。
『ヒカル。おもしろい手で今度はうってますね~。あそんでます?』
「石をおいて遊ぶのって楽しいよね。何か碁盤の上に新しい世界を創造するみたいで」
にこにことしながらも、石を打っているヒカルの様子に多少何か違和感を感じていたものの、
さらっとにこやかに同意をもとめられ思わず声に詰まってしまう。
大会の前に初手から並べた人物が相手。
それゆえに警戒していたというのに、相手の棋力はさほどではない。
そう判断したのも事実。
だがしかし、にこやかに目の前の少年にいわれて思わず言葉につまってしまう。
『でもヒカル?真剣にやらないと相手にも失礼になりますよ?まあ確かに遊びの一手はたのしいですけど』
佐偽のいうことはわかる。
わかるが別に絶対にかたなければいけない、というわけではない。
ならばいろいろな手をつかって遊んでみたい、とおもうのは碁を覚え始めた直後のヒカルには仕方のないこと。
「う~ん。石の筋はおもしろいんだが、あまりにも稚拙というか、冒険心が強いというか…
  おまえ、あそんでないか?お前の実力はこんなもんじゃないだろ?」
ひょいっと後ろからのぞきこんだ加賀がそんなヒカルにと問いかけてくる。
「?あそんでるよ?だっていろいろな手がためせる対局なんて俺、始めてだし」
佐偽にそんなことをすればあっさりと一発でまけてしまう。
だが、目の前の相手にはそれがない。
「ほら。だってさ。碁盤って何か宇宙空間みたいじゃない?だから俺、宇宙の創造やってみようとおもってさ」
『?ヒカル?それは前にいってた星空のことですか?』
ヒカルと対局したときに同じようなことをいわれたがゆえに佐偽もまたきょとん、としてといかける。
そのときに、宇宙の写真をみせてもらい、ものすごく感嘆したのは記憶にあたらしい。
ガタン!
そんな会話をしていると、横の筒井が立ち上がり、無言で部屋からでてゆくのが目にとまる。
「これで一勝一敗、だね」
筒井と対局していた人物が何やら嫌味っぽくいってくる。
ふぅ。
そんな筒井の様子をみて溜息ひとつつき、
「おい。実はお前には筒井のやつはいってなかったとおもうけど。
  この大会に優勝できなかったら葉瀬中の囲碁部は認めてもらえないんだ」
横に手をおきながらヒカルにといってくる加賀。
「…ええ!?だって筒井さん、そんなこと一言もいってなかったよ!?参加するだけでいいって!」
そもそも、ただの人数あわせのはずである。
「お前には負担をかけまいとしてあいつがだまってたんだよ」
その言葉に思わず絶句してしまう。
「それだけじゃねえ。将棋部のやつらは、オレが囲碁部のためにひと肌ぬぐのが気に入らないらしくて。
  優勝できないようなら筒井のやろう、ただじゃおかねえとかいってるんだ。
  将棋部の連中は気があらいから何をするか……」
「つ、筒井さんは囲碁部つくりに熱心なだけだろ!?」
どうやら話をきいていると、このメンバーは寄せ集めらしい。
ちっ。
この人、いらないことを。
まあ、ここから挽回なんてできるとはおもえないけど。
そんなことをおもいつつも、パチリと新たに一手をうちこむ対戦相手。
「だったらお前!真剣にうて!本当の実力をみせてくれっ!」



佐偽……
『ヒカル?』
佐偽。打って。俺じゃ、かてない。
絶対にかたなきゃだめなんだ……
ここまでだいぶ勝ち負けにこだわらずに打ち込んでいたがゆえにこれから挽回する手はすぐにはうかばない。
加賀の言葉がおおきくヒカルにとのしかかる。
『しかし、いいのですか?…ヒカル?』
ふとみれば、ヒカルは悔し涙を流している。
自分の力で勝てない、と判断出来るあたり、実力がついてきている証しでもあるが、ヒカルはそれでは納得しないのだろう。
実力で勝てないがゆえに悔し涙を流しているのがいやでもわかる。
『くやしいんですね。ヒカル。…大丈夫。涙を拭いて。二人で力を合わせれば逆転できます。
  絶対に。涙をふいて打ち間違えをしないで。いきますよ?』
「うん」
きっと涙をこらえて正面にと向き直る。
どきっ。
先ほどまでのにこやかな笑みを浮かべた対局の表情とは異なる。
何かとても真剣なまなざしにおもわずびくつく。
…ふ、ふん。
ここからどうやっても挽回なんてできるものか。
そうはおもうが、さきほどのヒカルの棋譜並べが頭から離れない。
…油断はできない。
おそらく、目の前の対局相手にとってはこれからが本気なのであろうから……
『いきます!八の三。ツケ!』
パチッ!!
盤面にヒカルの一手がひびきわたってゆく――

ざわざわ。
どうやら二回戦もおわったらしい。
気持ちを落ち着けるためにとトイレにと立っていた。
「ごめん。トイレにいってた」
もどってくれば、いまだに席にとすわったままのヒカルの姿が目にとまる。
「筒井。あいつがかったぜ?」
「嘘!?ほんとう!?」
おもわずばっと対局表をみてみれば、たしかに二対一で葉瀬中の勝ち、と表記されている。
あの盤面からいともあっさりと勝ちをもぎとった。
相手のほうは何やら打ちのめされていたような気がしなくもないが、それはまあ仕方のないこと。
「ああ。やっぱりあいつはただものじゃないぜ。決勝戦が楽しみだ。
  これはひょっとして優勝できるかも、な」
「信じられない。ここまでこれるなんて」
そもそも一回戦突破だけでも夢のようだというのに。
決勝までのこれるとは。
そんな筒井の夢心地な台詞に、
「筒井。お前は本をすてろっ!」
「ええ!?」
「お前に本はいらんっ!捨てろ!忘れろ!お前はまずそこからだっ!」
何やら背後のほうで言い合いをしている加賀と筒井の姿が目にはいる。
『ヒカル?大丈夫ですか?』
なるべく相手を傷つけないように、中押しまでいかずにそれとなく挽回したようにとみせた一局をうった。
ヒカルにもおそらくそのことは伝わっているはずである。
そんな二人の姿を横目にみつつも、いまだに席にすわったままのヒカルにとといかける佐偽。
「あ。うん。平気。…佐偽。ありがとう。俺じゃ絶対に無理だった。次もお願い」
『ヒカルはまだ碁を始めたばかりなのですから仕方ありませんよ。
  ヒカル。次の対局はあなたに見せるための一局をうちますよ?』
「?この前みたいなの?」
『この間は星空をイメージして対局を打ちましたが。今度は川の流れにしてみましょう』
よどみなく、それでいて力強い川の流れ。
まるで悠久なる時の流れのごとくに。
佐偽のように自在にそのような一局をうてたら楽しいだろうな。
そんな思いがヒカルの脳裏をよぎるが、それはヒカルにとってはまだまだ先ともいえること。
「しかし。初出場で葉瀬中は健闘してますねぇ」
「まったくです。これからの決勝戦が楽しみですよ」
審判員たちのそんな会話がなされているそんな最中。
「では、男子の決勝戦をはじめます!葉瀬中対、海王中!それぞれ席について開始してください!」
凛とした声が会議室全体にと響き渡ってゆく。

「これは校長。今ちょうど、決勝戦が始まったところですよ」
部屋にはいってきた人物に気づき、審判員たちがおじぎをして挨拶する。
「ああ。こっちは塔矢名人の……」
海王中の校長が塔矢明の紹介をしようとしたその直後。
……え!?
目の前にいるはずのない子供の姿をみつけて思わず目をまるくするアキラの姿。
し…進藤光!?
どうして彼がこんなところに!?
彼はたしか自分と同い年のはず。
中学の大会に、しかも制服をきて参加しているはずがない。

「さて。と、アキラ君はどんな反応をみせることか。…私も一局をみてみたいのは山々だが……」
ふぅっ。
車の前でたばこをふかす。
この日、彼をここ、海王中につれてきたのは何も彼だけのためではない。
何よりも自分のためでもある。
彼を通してあの少年の器を知ることも可能なはず。
まだ小学生だというのに塔矢名人ともひけをとらない打ち込み。
しかも囲碁の世界のことは無知というそのあやふやさ。
もし、彼が知識を吸収していけばどこまで伸びるのか怖くもあり、そしてまた楽しみでもある。
「ライバルは強ければ強いほどたたきがいがある、からな」
今までのアキラ君には気迫、というものが欠けていたが、彼の存在がでてきてからは碁をうつその一手に気迫が満ちている。
そのことを何よりも彼の父親であり、自身の師でもある塔矢行洋が喜んでいるのは一目瞭然。
「ここにもモニターがあれば別の部屋で検討できたのにな」
さて。
どうなることか。
そんな思いをいだきつつも、しばし車の前でたばこをふかす緒方と呼ばれた男性の姿が見受けられてゆく。

僕は校長先生がいうほど強くはない。
誰もがすぐにでもブロになれる。
そういってはばからなかった。
だがそれは、父のこともあってのおべっかだったんではないだろうか?
最近、そんなことをものすごく思ってしまう。
少なくとも、自分はあの同い年の進藤光に勝てなかった。
その彼が…今、中学生を相手に碁を打っている。
「すいません。ちょっと通してください」
何やらさすがに決勝戦ということはありギャラリーの数がものすごい。
人々を押し分け一番前にとでてゆく塔矢明。
食い入るように盤面をみればまだどうやら本当に始まったばかりらしい。
一手目からの石の並びは見ればわかる。
しかし、海王中の囲碁部はけっこうなレベルに達している、ともきく。
院生にも劣らないほどの実力をもっている、とも噂ではきいた。
そんな彼ら相手に…いったいどんな一局をみせてくれるんだ?
君は?
畏れもたしかにある。
だが、それ以上に彼の実力が知りたい。
『おや?』
ふと横に塔矢明の姿があるのに気づいておもわず笑みを浮かべる。
あなたもこの石の流れをみて感じてください。
あなたはこの私に畏れを抱いていたはず。
この一局はそんなあなたの恐れをも流してくれることでしょう。
そんなとを佐偽は思いつつ、
『五の十。ハネ』
ヒカルには彼がきていることをつげることなく、次なる一手を指し示す。

石の持ち方はぎこちないものの、決勝に勝ち残ってきただけのことはある。
自分の打ち込みにどうじることもなく、それでいて何だか翻弄されているような感覚すら覚える。
まるで…そう、指導碁のごとくに何か導かれるようなそんな打ち方にいやでもなってしまう。
「「これは……」」
さすがにその一局に気づいた人々が思わずその一局を食い入るように見つめ、静かに観戦者の数が増えてゆく。
だが、ヒカルはただもくもくと盤面上に集中し、佐偽の言葉をききもらすまいと必至。
何よりも石の流れを見極めつつも、体で感じること。
それが佐偽にいわれた言葉でもあるのだから。

「…ありません」
「ありがとうございました」
じゃらじゃらじゃら。
目算と先がよめるがゆえの投了。
噂には聞いてはいたが、囲碁は海王だ、と。
塔矢明もどきがごろごろいるわけだ。
これじゃ、筒井はどうやってもかなわないだろうな。
あのガキは……
碁石を片づけながらも筒井とヒカルのほうにと視線をむける。
…な!?
そこにいるはずのない人物の姿を見つけておもわず驚きを隠しきれない。
ヒカルの対局を食い入るように見詰めている塔矢明の姿が目にとまる。
いったい、あの塔矢が何を真剣に見て……
きになり、とにかく片づけおわり、ヒカルの対局のそばにと向かう。
こ…これは…!?
おもわず盤面上の棋譜をみて言葉につまる。
素人目にすらもわかるきれいな盤面。
ゆるやかな川の流れのような、それでいて力強いイメージを見ただけで感じ取れるほどの。
パチ。
対して打っているヒカルには迷いなく打ちてをとめることなくスムーズに打ち込んでいる。
相手のほうは多少考え込みつつも打ちこみしている、というのに。
ヒカルから感じる雰囲気も静かな落ち付いた感覚。
相手のほうにはあせりの色がみえるものの、それでも何とか必至でまけずに打ち込んできているのが見て取れる。
互いの打ち込みに吸い込まれるようにのみこまれずにはいられない。
それほどまでにみごとな一局。
ごくっ。
こ、こいつは……
海王相手にこんな碁をうてるのか!?
こいつはまだ…まだ小学生なのに!?
だがしかし、ここまで打てるのならばあの怒涛の追撃も納得できる。
まあ、あのときのポカミスは知りあいに気をとられてのもの、というのもわかっているが。
筒井のことも気にはなるが、何よりもこの一局の行く末を見極めたい。
碁を多少でもたしなむものならばそんな思いにかられる美しい一局。
しばし、加賀もまたヒカルの対局にのめりこんでゆく。

「…くっ。ま、負けました……」
え!?
か、勝った!?嘘!?
相手のミスだとはいえあの海王相手に勝てた、ということが誇らしい。
加賀!僕、僕!!
加賀にいわれて序盤から本を捨てたおかげで大きくはなされることなく打てた。
それゆえに言葉にならない思いをこめて、横にいるはずの加賀のほうに視線をむける。
が。
「…あれ?」
横にいるはずの加賀の姿がなく、ふと横をみてみれば何やらヒカルのほうの盤面に全員が釘付けになっているのが見て取れる。
「進藤…くん?…こ、これは……」
視線をヒカルの対局盤にとおとしおもわず言葉につまる筒井。
ごくっ。
「…か、かった……」
つばを飲み込む音と、加賀のつぶやきにもにた声が静かな会場にと響き渡る。
『これで終局です。ヒカル』
目の前で並べられてゆくゆるぎない強さの川の流れを指し示す石の流れ。
『このものもよくぞここまでついてきました。そなたの力があって初めてこの棋譜は成り立ったのです。誇りに思いなさい』
指導碁と似通った打ち方ではあるにしろ、それでも相手に実力がなければきれいな盤面は成り立たない。
川の流れの中に身をゆだねたような感覚に陥っていたヒカルは、佐偽の言葉にはっと現実にと引き戻される。
ぽん。
「よく打ちましたね」
負けたが悔しくはない。
むしろ、どこか誇らしいが、それでも悔しさは否めない。
それゆえに言葉を失い震える生徒の肩にと手をおきなぐさめる海王中の囲碁部の顧問教師らしき人物。
「はい…ユン先生……」
その言葉に思わず涙がこみあげる。
実力の差は歴然としているものの、だがしかしこのような一局をうてたことも誇りに思える。
「…って、あれ?塔矢?」
ふと顔をあげたヒカルの視線の先になぜか塔矢明の姿が飛び込んでくるがゆえにきょとん、とした声をだす。
「進藤君。美しい一局だった」
そう、おそらくあのとき打ち続けていればこのような一局になっていたのかもしれない。
だけどもあのとき、自分は逃げた。
だから……
「進藤君。君をこえなきゃ、神の一手に届かないことがよくわかった。だから…だから僕はもう君から逃げたりはしない」
ヒカルをまっすぐに見据えつつも、それでも絶対においついてみせる。
そんな決意を胸に秘めて、ヒカルにむかって語りかけるアキラであるが。
だけど、塔矢。
お前がみているのは俺じゃなくて佐偽。
今うったのは佐偽。
だけども、俺だって…!
今の一局にしろ自分もまた佐偽のように美しい一局をうってみたい。
「?何でお前が俺からにげるなんて言葉をつかわなきゃいけないの?お前だってすごいじゃん」
ふっ。
この無邪気さは素なのかそれとも天然なのか。
「あ。そういえば、塔矢。塔矢からも塔矢のお父さんと、あの碁会所のお姉さんにお礼いっといてくれる?
  碁盤借りれたおかげで多少は石のもちかたもさまになっただろ?な!?」
え~と。
どう返答していいのかおもいっきり困ってしまう。
「そういや。お前、以前うったときより打ち方様になってたな」
そんなヒカルにちゃちゃをいれるようにと加賀がいってくるが。
「へへ~。無理いって碁会所のお姉さんから碁盤かりて家で練習したんだ。
  だってさ、やっぱりやるからにはきれいにうちたいじゃん。塔矢のお父さんの打ち方ものすごくきれいだったしさぁ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
しぃん。
さらっというヒカルのセリフに一瞬会場内が静まり返る。
がしっ。
「っておまえ!?まさかこの塔矢の父親とうったのか!?あの塔矢名人と!?」
「え?うん」
「進藤君!?まさか嘘!?」
ざわざわ。
何やらヒカルの爆弾発言に会場がざわめきたつが。
「塔矢?もしかして噂の塔矢名人の息子の塔矢明!?」
「というかあの子、何もの!?」
ざわざわ。
何やら会場内部が騒がしくなってくる。
「はいはい。だまって。とにかく、決勝戦は二勝一杯で葉瀬中の勝ち、ですね。あ、マジックかしてもらえますか?」
このままでは収集がつきそうにない。
それゆえにさきに対局表に結果を書き込む審判長。
と。
「…あれ?君…ヒカルくんじゃないか!?」
え?
いきなり名前を呼ばれておもわず振り向く。
「君、進藤さんとこのヒカルくんだろ!?どうして君がこんなところに?だって君、まだ小学六年だろ!?」
…げっ。
どうやらギャラリーの中に知り合いの高田さん家の息子がいたらしく、おもいっきり指摘してくる。
「あぁ~」
「あはは…ばれちゃった……」
ざわざわざわ。
「小学生!?」
「嘘だろ!?」
そんな彼の指摘にざわざわと会場内がざわめくが。
「君、どういうことかね?君は葉瀬中の生徒じゃないのかね?」
おもわずこめかみをぴくつかせながらもといかけてくる審判長。
「あ、す、すいませんっ!僕が無理にたのんだんですっ!」
「筒井さん!」
ふぅ。
相手の実力はたしかにすごいものがあるが、だがしかし規則は規則。
「では、葉瀬中は失格。優勝は海王中ですな」
「仕方ありませんな。この大会は中学の大会ですし……」
審判員たちがざわざわと何やら話し合い、とりあえず失格ということで話しをまとめるものの、
「君、小学六年だってね?」
「え?あ、はい」
「来年度の葉瀬中の参加をたのしみにしているよ?」
「は…はいっ!」
審判長をつとめていた人物がヒカルのもとにとやってきてにこやかにいってくる。
「あ~あ。ばれちまった」
「で、でも、そうしたら囲碁部はどうなるの!?」
「?何のこと?また来年がんばるよ」
ヒカルの叫びにきょとん、とする筒井のセリフに、
「え?何のこと、って……」
「ああ。わりぃ。お前にいったあれ、全部ウソだから」
「・・・・・・えええ!?」
加賀のさらっとした言葉に思わず叫んでしまうヒカル。
「え~と?進藤くん?」
何やらおいてけぼりにされているような気がするのは気のせいか。
「それより、どうして君がこんな大会なんかに?」
彼の関心はまさにそこ。
そもそも今まで彼は大会という大会には一度もでたことがないはずである。
それなのに…もかかわらず、である。
「え?あ~うん。詳しくはいえないけど。ちょっとした事情があってさ」
ここでいうような内容ではない。
「それより、お前こそどうしてこんなところに?」
何やら話題を変えられたような気もしなくもない。
「来年僕はここを受験するつもりだから、挨拶にきたんだよ」
「・・・ええ!?おまえわざわざ試験うけて中学にいくの!?…ここって私立だぜ?!
  …おまえんちって実はかねもち?」
いや、金持ちもなにも。
普通、囲碁のプロの年収を知っていればわかるだろうに。
しかも、相手はあの塔矢行洋なのである。
「え?そんなことはないとおもうよ?」
というかお手伝いさんがいる、という時点でかなりのお金持ちだ、と認識するであろうが。
物心ついたころからその状況が当たり前のアキラにとってはあまり違和感を感じてはいない。
「でもすごいな~。俺なんかわざわざ試験うけてまで中学にいこうとはおもわないし。
  というかいきたくても、うちの親、絶対に私立なんてお金かかるところにいきたいとかいうな!とかいうしなぁ~」
え~と。
何と反応していいものか。
そんなたわいのないヒカルのセリフに周囲の大人や第三者たちから戸惑いの声が漏れる。
「はいはい。さわがないで。授賞式を始めますよ!」
優勝を逃したとはいえ準優勝の扱いをどうするか。
そのことで多少もめたものの、今回は準優勝はなし、ということで話しはまとまった。
何よりもおそらく、負けたというのにいきなり準優勝、とかいわれても、馬鹿にされたような気になるであろう。
海王中の生徒たちにとっても、相手が年齢を偽って参加していたとはいえ、実質的には負けは負け。
それゆえに今回の受賞はかなり複雑な胸中極まりない。
「とりあえず、何か騒がしくなりそ~だし。塔矢。別のところではなさね~か?
  あ、筒井さん、おれの用はもうおわりだよね?」
「え?あ。うん。ありがとう。進藤君」
「やれやれ。オレはじゃあ、とっとと将棋部にもどるとするか~」
筒井としては最後まで見届けたいらしく、その場に残ることを希望しているものの、
加賀はとっとと用事は済んだ、とばかりに部屋からでていっていたりする。
「え?あ、うん。そうだね」
たしかに自分たちがこの場にいれば騒ぎを助長させるのは明白。
そんなことを思いつつも、ヒカルの言葉に従い、ひとまず二人して教室をあとにするヒカルとアキラ。
「進藤君。君はこれから何か用事あるの?」
「ん~と。塔矢。別に敬称つけなくてもいいぜ?俺だって塔矢、って呼び捨てにしてるんだしさ。
  それに同い年なんだし別にかしこまる必要もないじゃん?」
そんなことをいわれておもわず目をまるくしてしまう。
今まで、格式と礼儀は徹底して叩き込まれてきた。
回りもそのようにかかわってきた。
「え?で、でも……」
「おまえ、まじめなんだな~。まあ、お前の気がすむような呼び方でいいよ。
  とりあえず、おれは今から家にもどって、この制服きちんと洗ってかえさないとな~」
そもそも、この制服は借り物である。
「そういえば、どうして改めてきくけど、君が中学の大会なんかに参加してたの?」
どうしても疑問が頭からはなれない。
「ん~。まあ、回りに今人いないからいっか。俺と一緒に参加してた大将やってた加賀って人と、
  ちょっとしたいざこざがあって、碁で勝負、ってことになってさぁ。そのとき知り合いに気を取られて打ち間違えしちゃって。
  それで結果、反目負けしちゃって。それで負けた俺に何か一つだけいうこときけ、といわれて」
「…君が半目まけ?」
信じられないというのが本音。
まったく。
大丈夫っていったくせにさ~。
そうおもいつつ、横にいる佐偽をちらりとみやるヒカルであるが。
『わ、私は精一杯やりましたよ!』
まあ、一刀両断するつもりならば別の手もあったが。
あの局面からそれをすればヒカルが目立ちまくることは請け負い。
そんなヒカルにあわてて抗議の声をあげている佐偽の姿。
「その時の対局、みせてみれる?棋譜とかのこってる?」
どうしても興味がそそられる。
「そんなのないけど、みたいの?お前、ほんっとかわってるなぁ。
  なら今から俺んちこないか?昨日、新しい碁盤がようやくとどいたんだ~。
  それでそのときの対局並べて見せてやるよ」
そういえば、彼は家に碁盤も何もなかったとたしか市川さんから聞いたような気がする。
だからこそ驚きを隠せない。
そんな子供がどうやってあそこまでの棋力を培ったのか…ということに。
「君の家?…そうだね。君の家族に迷惑じゃなければ」
「よっし!きまり~!あ、お前ここまで歩いてきたの?それとも自転車?」
「え?あ、僕は……」


カタン。
「ただいま~」
「ヒカル!おまえ、中学の制服きてどこいってたの!?…って、あら、お友達?」
とりあえず、裏でまっていてもらった緒方には断りをいれて戻ってもらい、ヒカルとともにヒカルの家にやってきている塔矢明。
ヒカルの声をきき、玄関に出てきたヒカルの母、美津子がみたのはヒカルの後ろに見慣れないきれいな子供の姿。
「ヒカルがアカリちゃん以外の女の子をつれてくるなんて、めずらしいわねぇ」
何やらそんなことをいってからかってくるが。
「母さん、何いってるの?塔矢は男だよ?」
「ええ!?そうなの!?君!?」
「あ。え、えっと。はじめまして。塔矢明といいます。小学六年生です」
何だか自分の母親とはまったく異なったタイプ。
どちらかといえば市川さんにタイプが近いかな?
そんなことをおもいつつも、とりあえずふかぶかと頭を下げて挨拶をする。
その様子に目をぱちくりし、
「ヒカル。お前、こ~~んな礼儀正しい子とどこでしりあったの?お前も礼儀の一つも身につけてほしいものだわねぇ」
関心しながらも、さりげなくヒカルに対して注意を促す美津子であるが。
『たしかに。ヒカルは礼儀作法がまだまだ、ですよねぇ』
むっ。
「とにかく!塔矢!俺の部屋は二階だから!いこっ!」
何も佐偽にしろ母さんにしろ同じようなことをいわなくてもいいじゃないか!
そうおもいつつも、玄関で靴を脱ぎ、塔矢を促す。
「あ、ヒカル!制服、もういいんだったらぬぎなさいよ?きちんとクリーニングしてかえさないといけないんだから!」
「え~?洗濯じゃだめなの?」
「あたりまえですっ!」
そんなやり取りをみておもわず目を点にしてしまう。
くすっ。
くすくすくす。
何だかとてもほのぼのとしてる家族であるらしい。
それゆえに目をぱちくりしながらもおもわずくすくすと笑がもれるアキラ。
彼の家でこのようなやり取りはまず見られない。
静粛な母親に厳格な父親。
そして父親を尊敬しあつまる、さまざまな大人たち。
そんな中で彼は成長してきているがゆえに、周囲にこのような対応をする子供も大人もまったくもっていなかった。
唯一、近いといえば倉田厚プロくらいである。
「ほら。何わらってんだよ。塔矢。あがれよ」
「あ。うん。お邪魔します」
いいつつも、玄関をあがりきちんと靴を揃えて再びヒカルの母親に深く頭をさげて挨拶をする。
「ヒカルにあんな礼儀正しいお友達がいたなんて。…あの子の礼儀を少しでもみならってほしいものだわ」
二階にあがってゆく息子とその友達の姿を見送りつつも思わずため息とともに本音がもれる。
「でも、あの子ったら、お友達つれてくるなんて何もいわないから何もないし……
  ホットケーキでもやきますかね」
あるのは夏の残りの麦茶がまだたしかあったはず。
それゆえに、そんなことをおもいつつも、台所にと向かう美津子の姿が進藤家の玄関先において見受けられてゆく。

「ここが君の部屋?」
ここまでくる最中、一応彼に関してのことは聞き出した。
囲碁に興味をもったのはやはりおこずかいに関係してらしい。
何でも成績がよくなくて、親におこずかいをとめられて、祖父と一局うってしのぐために覚える気になったらしい。
まあ、多少嘘がまじっているものの、完全なる嘘ではない。
しかもその気になったのは先々週の金曜日、とのこと。
ならどうやって一手をうっているか、との問いかけには、何ともどってきた答えは勘、ときた。
事実は、佐偽が示すままに打っているのだが、幽霊が支持するままに打っています。
といってもまずヒカルの頭がうたがわれかねない。
ヒカルのことをよく知る人物ならいざしらず、数回しかであったことのない知り合いにそのことを教えるのは総計というもの。
「うん。てきと~なところにすわって」
本棚が目立つものの、ほぼ何もない殺風景な部屋。
その中に何やら立派な桐の箱が一つほどおかれているのがいやでも目につく。
本棚とタンスとそして机とベット。
本棚をみてみれば、囲碁関連の書籍はあまりない。
秀作の棋譜、という本があるのにもめにとまるが、なら、彼はこれをみて…?
そんなことをふと思う。
実際は、ヒカルはその本をみる必要性はない。
そもそも、その棋譜の元となった人物である佐偽が常に現実で指導しているのだから。
しかし、気になるのは何やら小難しい内容の本が結構並んでいるのが気にかかる。
ぱっと見た目、どう考えても子供向けの内容ではないであろう、問題集などの存在も垣間見える。
「君ってお兄さんか誰かがいるの?」
「え?あ?それ?俺の趣味」
「いや、趣味…って……」
趣味で大学の問題集とかを集めるだろうか?
いやでも、数学もあるいみ計算においては碁に通じるところがあるし……
ぐるぐるといろいろな思いが頭をよぎる。
『ヒカル、ヒカル?また彼とうてるのですか?私、彼の本気をみてみたいですv』
あ~……
碁盤の用意をしているヒカルにと、わくわくしながらそんなことをいってくる佐偽。
まあ、それは確かに俺もみてみたいかなぁ。
俺と同い年だし。
こいつ。
先々週の土曜日、日曜日よりは多少、碁のことが理解できるようになっている。
まだまだ完全ではないにしろ。
だからこそ見てみたい。
自分と同い年の彼がどのような碁をうつのか、ということを。
「まあ、機会があったら…な。って、よいしょ」
「あ、僕も手伝うよ」
碁盤というものは結構重い。
しかもそれが子供の手で取り出す、というのならばなおさらに。
重い碁盤を二人係で持ち上げ、とりあえず部屋の中ほどにとことりと置く。
「え~と、座布団座布団…はい、これ。塔矢」
佐偽には必要ない、とはいえ用は気分。
それゆえに二枚、必ず部屋に座布団は最近はおいてある。
といっても、ヒカルは正座が長続きできないのでいつもあしを崩して…ということになっているが。
「あ。俺。正座苦手だからあぐらでカンベンな」
いいつつも、座布団の上にとすわりあぐらをかく。
碁をたしなむもので正座が苦手…という人物はかなり珍しい。
まあ、普通は苦手なのだろうがほとんどのものがそれを克服していまに至っている。
碁盤を見た限りはかぎりなく本カヤに近いがおそらくこれは新カヤであろう。
しかもけっこう値がはる部類のものだ、というのは塔矢にもわかる。
しかもおもいっきり新品。
どうやら昨日届いた云々は嘘ではないらしい。
「そういや、これ。俺以外でうつのは塔矢がはじめてだな~」
「え?そうなの?」
新品の碁盤で打つときは何だかとてもわくわくする。
かつて幼いころに碁盤を始めてかってもらったときのことを思い出す。
それゆえにおもわずぱっと目を輝かすアキラ。
「だって、うち、だ~れも碁なんてしないし。爺ちゃん家は多少離れてるしさぁ」
「碁の世界のことに誰も詳しくないの?」
「うん。うちの母親なんかは碁はお年寄りがやるものだ~!といってはばからないし。
  父さんもにたようなものだし」
その言葉におもわずこめかみをおさえてしまう。
まあ、世間一般の偏見…といえなくもないのであろうが……
「君は、プロにならないの?」
「ブロ?あはは。前もいったけどお前、ほんっとおもしろいこというなぁ。
  俺なんかの腕でなれるはずないって。基本も何もしらないんだぜ?」
いや、知らなくてあそこまで打てるのならば、基本を覚えればおそらく驚異の存在になるのは明白。
「進藤って……自分の能力を過小評価してるよね……」
おもわずぽそりと本音がもれる。
アキラは周囲が周囲だったので、才能があるなどと言われて育ってはいるが、進藤光の周辺にはそういった存在がいない。
その差だとしても、あきらかに聞く人がきけば嫌味に捕らえられてしまうほどの発言ではある。
「そういや、お前はプロにいずれなるとかいってたっけ?俺はまだ将来のことは決めてないし」
昔は科学者とかにもあこがれた。
が、しかし、ローマ字や英語すらきれいさっぱりよくわからないのにそれらの基本文字には使われる、
そうしってからはきれいさっぱりあきらめた。
宇宙飛行士になってみたい、という子供らしい夢もあるにはあるが、さまざまな言葉を覚えるなど至難の業。
「君は誰かの子弟に入らないの?」
「?子弟?」
それって誰かに弟子入りするってこと?
まあ、しいていえば、佐偽に弟子入りみたいなものかなぁ?
何かこいつ、犬っころみたいなやつだけど。
『ヒカル!犬とは何ですか!?犬とは!?』
だっておまえ、ものすごく感情わかりやすいもん。
ぽそっと心の中でつぶやくヒカルの言葉にすかさず突っ込みをいれてくる佐偽。
「それって必要なの?」
きょとん、といわれて言葉につまる。
必要、といわれれば必要なのかもしれないが、だがしかし……
彼にはきちんとした指導係りがつけば、一気にのびるであろう。
それこそ囲碁棋士の高段者たちが太刀打ちできないほどに。
しかし、何をするにおいても当人にその気がなければどうしようもない。
だからといってこんな人物をそのままその他大勢の中に埋もれさせておくのはかなりもったいないような気がひしひしとする。
何よりも。
彼が現れてから何となくだが自分の中で張り合いができているのが実感できるからなおさらに。
「とりあえず。碁盤だしたけど。どうする?普通にうつ?それともお前がしりたがってた例の一局ならべようか?」
しばし考え込むアキラにと、首をかしげながら問いかけるヒカルであるが。
『ヒカル!ヒカル!私うちたいっ!』
あ~!!わかった!
わかったからだきつくなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
どうでもいいが、塔矢にはやっぱり佐偽の姿…視えてないんだよなぁ。
後ろからおもいっきり抱きつかれているヒカルをみても彼は何の反応を示さない。
つまり、それは佐偽の姿が視えていない証、でもある……


                                -第話へー

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あとがきもどき:
薫:とりあえず、次回で一気に日にちをとばしますv
  回想みたいにしてこののち、何があったのかちまちまと出す予定v
  さあ!ここからやってくるあるいみ世界の驚愕さんv
  ついに、早いけど、例の説明会にいくのですvふふふふふ♪
  基礎知らないままに実力のみついてゆくヒカルをどうぞ笑ってくださいなv(確信犯
  何はともあれ、ではまた次回にてv

2008年7月27日(日)某日

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