まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

ちなみに、碁盤の関係は、本カヤにしたかったんですけど…ですけど!
検索してみたら六十万近いんですよね…本カヤ基盤セット……
さすがに値引くにしてもきついかなぁ?
という理由からあきらめて新カヤのほうで(こらこら
ちなみに、本来はセットで二十万そこそこの品にしてみましたv
参考は「囲碁道楽」さんのサイトで値段などは調べましたvあしからずv
参考にしたのは、新カヤ基盤デラックスセットの二十万一千の品です(笑
ですけど、ヒカルの指摘で難を逃れた人々や、また大会推進委員会の人々。
ついでにいえば塔矢名人の手紙のこともあり、か~なり値引いた、という裏事情v
値引いた、というよりはあくまでもお礼の感覚、です。
祖父はそのことを聞かされてはいますけど、ヒカルにはそんなことは知らされてません。
まあ、そりゃ、二十万もする品だ~…と小学生にいったりしたら下手したら気絶もの~(笑
だけどただでもらうのはわるいから、という祖父の意見もあり、金額をならば五万ほど。
というところで折り合いがついた、という裏設定ですv
まあ、これをいう機会はないのでひとまずここでネタバレをばvv

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星の道しるべ   ~~

「こんにちわ~」
がらっ。
「あら?いらっしゃい。今日はアキラくん、まだきてないわよ?」
月曜日の授業もおわり、ひとまず一度家にと戻り、荷物をもって出かけているヒカル。
ヒカルがやってきたのは、駅前にとある碁会所。
二十日の誕生日には父親がヒカルが碁に興味をもった、というので碁に関する本をいくつか買ってきてくれていた。
母親からはヒカルが以前からほしがっていた大学生向けの数式の専門書ととある専門集。
興味があることはとことんつきつめる。
それがヒカル、という子供の性格。
ゆえに、知識がものすごく偏っていたりするのはお約束。
まあ、一部の知識は大学生並みにまで届きそうだ、というのにかたやまったく小学生レベルすら理解できない。
という子供らしいあやふやさを兼ね備えているのも現状。
「ああ。そうじゃなくて。お姉さん。これ、ありがとうございました」
いいつつも、借りていた碁盤一式をカウンターの前にとおく。
「あら?もういいの?まだいいわよ?」
彼がこの碁盤を借りていったのは先週。
つまりたしかに彼は一週間だけ、とはいってはいたが。
返却はいつでもいい、といっていたのに律儀に戻しにくるなどおもってもいなかった。
「うん。本当にありがとう。じゃなかった。ありがとうございました。やっぱり碁盤前にするのとそうでないのは違うね」
くすっ。
それはそうであろう。
紙にかいてそのまま空想で行うものよりも、やはり実際にやってみたほうがそのコツもつかめるというもの。
「急がないから、本当にまだ借りててもいいわよ?」
「大丈夫。今日、碁盤が届くことになったんだ~。この前、爺ちゃんにつれられて囲碁フェスティバルにいってさ。
  ちょうど誕生日だったから、って爺ちゃんがお祝いにかってくれたんだ」
まあ、その裏には係り員たちのすすめがあった、ということをヒカルは知らない。
そもそも、あのとき、平八が対局している最中。
ヒカルはあまった碁盤で佐偽と延々と打っていたのだから知る由もない。
「あら?君。誕生日だったの?」
「うん!これで十二歳!」
にっこりと笑みを浮かべる様子は子供そのもの。
こんな子供があのアキラくんに二度もかったなんて信じられないけど…だけども事実は事実である。
「なら何かお祝いしなくちゃね~」
「別にいいよ。今日はとりあえず先に碁盤をかえしにきただけだもん。
  それより早くもどらないと、いつ碁盤とどくかわからないし。
  それじゃ、お姉さん、ほんと~にありがと!それじゃ、またねっ!」
言いたいことだけいって、そのままま外にとでてゆくヒカルであるが。
そんなヒカルの後姿を見送りつつも、
「あの子が碁盤を…ねぇ。楽しみ、というか怖い、というか……」
碁盤がないままにあの塔矢明にかったという実力。
偶然なのか、はたまた実力なのか…それは誰にもわからない。
いえるのは、ただ一つ。
これであの子はこれから空想じゃなくて現実の碁盤で碁をうてるわけか。
あれからアキラくん、元気がないのも気にかかるけど。
まあ、そりゃそうよねぇ。
どうみても素人としかみえないあの子にまけちゃったんだもん。
だけども、アキラくんにはいい相手だと私的にはおもうのよねぇ。
そんなことをふと市川、と呼ばれている受付の女性はふとおもう。
今まで、彼には同い年のライバル、とよべる人物などいなかった。
常に大人たちに囲まれて育ってきた彼にはそんな対等な相手などいなかった。
さらには父親のこともあり、友達、という友達もはっきりいって皆無。
そんな中、あらわれた同い年の、しかも偶然かもしれないが実力をもっているかもしれない子供。
人間、成長してゆくためにはどうしても互いを磨きあうライバルというものが必要不可欠。
それが必要だ、ということを市川は知っている。
「とりあえず、塔矢名人には連絡しておきますか」
そんなことをおもいつつ、電話にと手をむける市川の姿が、駅前の碁会所の受付場にてしばし見受けられてゆく。

わくわく。
そわそわ。
まだかな、まだかな?
「…だあっ!佐偽!少しはおちつけ!宿題やってるのに気がちるだろう!?」
とりあえず真っ先に碁盤を返しにいったがゆえに今日の宿題をまだ終えていない。
それゆえに、落ち付きもなく、何やら部屋の中をいったりきたり。
…しかも浮かんだりして部屋の中をぐるぐるしている佐偽に思わず叫ぶ。
『だって、ヒカル。碁盤が届くんですよね!?今日!?』
「あのなぁ。…先に宿題すませないと、届いても何もできないぞ?」
宿題さえおわらせれば、佐偽の気がすむまで付き合うことも可能であろうが、何よりも宿題が優先。
「それに!成績おとせないし!母さん、成績にあわせておこずかい云々…本気っぽいし」
小学生のヒカルにとっておこずかいがない生活はかなりこまる。
まあ、ヒカルは他の子どもと異なり、あまりゲームなどには関心がないがゆえにさほど必要性がないようにもおもえるが、
彼がほしい本などははっきりいってかなり値がはるものばかり。
それゆえにどうしてもおこずかいがないとかなり痛い。
何よりもおもいっきり遊ぶことも不可能となってしまう。
「とにかく!佐偽!おまえもてつだえ!社会の宿題っ!」
すでに算数の宿題などは出された直後に学校で済ませている。
理科の宿題にしてもしかり。
そもそも、授業中に暇だとおもえば先に、先にと教科書の問題をといておけば問題はさほどない。
最も、そのせいで友達からはかなり教科書を無心されることもしばしばなのだが。
理数系ならば得意なのにどうしても社会に関しては頭がこんがらがってしまう。
しかもローマ字なんてまったくもって意味不明。
とりあえずローマ字のことはきれいさっぱりと諦めてひとまず社会の科目をどうにかするのが優先事項。
「そういえば。お前。虎次郎といろいろな場所、めぐった。とかいってたけど…ここにいったことはあるか?」
『え?ええ。そこはかつては……』
佐偽の知識はヒカルの勉強にとても役にたつ。
産地の名産品など、昔からあまり変わり映えはほとんどしていない。
昔の名産品をかいたとしても、まずテストなどでもどってくる返答は三角であり、いくらかの点はかせげるのも事実。
【江戸時代にはたしかにここの名産品は~でしたけど、今では~です。
  ヒカルくん、もっとよく歴史をみなおしてみましょう。】
という言葉がついての戻しになってしまってしまうが。
とにかく何よりもまずは宿題を片づけてしまうことが先決。
それゆえにひたすらに机にむかい、しばし格闘してゆくヒカルの姿。
と。
ぴんぽ~ん。
ヒカルが宿題を終えたその直後。
一階の玄関のほうからチャイムがきこえてくる。
『?今の音はどこから??』
いまだにどうも佐偽は校内放送やテレビ、あげくはチャイムやインターホン、といったものに慣れないらしく、
毎度のことながら大騒ぎ。
音がなるものなどないはずなのに聞こえてきた音に対してきょろきょろと周囲を見渡す様が何とも滑稽で見ていてあきない。
「ヒカル~!!お爺ちゃんから荷物がとどいたわよ~!!」
階段のしたから母親の声が響いてくる。
土曜日に、祖父に碁盤セットを買ってもらった。
というのを聞いているがゆえに一応母親である美津子も届くことを知ってはいる。
値段を聞いたときには驚いたが。
何でも五万円もしたらしい。
「は~い!」
『わ~い!わ~い!!』
ヒカルよりも佐偽のはしゃぎようが何ともいえない。
どっちが子供なんだか。
そんなことをおもって思わず苦笑してしまうヒカルの気持ちはわからなくもない。
届いた品物は、何やらダンボールに包まれ、ダンボールをあければその中に箱らしきものが見て取れる。
たしか友達のお父さんがかったとかいう【るろ剣のDVDセット】』の箱みたいだなぁ。
そんなことをヒカルがおもってしまうのは仕方ないであろう。
「ヒカル。ほんと~にお爺ちゃんにお礼をよくいったの?」
「うん。いったよ?じゃ、これもっとあがるね~…けっこうおもいんだ……」
子供の力では多少の重みがずしりと感じられる。
とはいえもてない重さでもない。
それゆえに、よたよたしながらも二階にと桐箱につつまれているそれを二階にともってゆく。
そんな息子の姿をみつつも、
「あの子ったら、…宝のもちぐされにならなきゃいいけど」
子供というものは興味をもつもの早いが飽きるのもはやい。
そもそも、一時ヒカルもゲームにはまったがすぐにあきた。
まあ、それがわかっていたので買い与えなかった…というのもあるのだが。
金額が金額である。
それゆえに親の心配も道理、といえば道理。
「あ、いけない。今日の夕飯の買い物にでなきゃ」
そんな心配を抱くものの、ふと時間が迫っているのに気づき、
「ヒカル~!お母さん、夕飯の買い物にいってくるからね~!」
「は~いっ!」
自室にもどった息子にとひとまず叫ぶ。
そのまま、多少の不安を抱きつつも、ヒカルの母親、進藤美津子は夕飯の買い物のためにとひとまずお出かけすることに。

新カヤ。六寸の基盤セット。
きちんと桐箱が碁石をいれるつぼ用なものと、碁盤をいれる用のものとついている。
本来の金額は実は二十万と少しするのだが、ヒカルはそれを知らない。
ちなみに、碁の石をいれるつぼのようなものは「碁笥」というらしい。
「?説明書がついてる。でも、ま、とりあえず…よしっと」
説明書をよまなくても使い方くらいは何となくわかる。
そこには石の手入れの方法や基盤の手入れの方法などが示されているのだが、今は何よりも……
『ヒカル!はやくはやくっ!!』
まるで子供のようにはしゃぐ佐偽にせかされてそれどころではない。
ことん、と子供部屋の中央におかれる足付きの碁盤。
金額が五万とかよくわからないことをあの人たちはいっていましたけど。
そもそも、江戸時代には新カヤ、とよばれていた品物などはなかった。
それゆえにその価値がさほど佐偽にはよくわからない。
まあ、本カヤに似ている、ということから品がいい、というのはわかるにはわかるが。
そもそも、市場を知らない佐偽、そしてまたまったく無知なヒカル。
それぞれがその値段にあまり違和感を感じないのは仕方がないこと。
「よっし!佐偽!対戦だ!」
『わ~い、対戦、対戦~♪』
新しい碁盤で打てるのは何よりも気持ちが高揚してくる。
わが身において石をもてない、というのがくやしくもおもうがそれよりもあし付きの碁盤がとてもなつかしい。
以前もよく虎次郎とむかいあっては碁をたしなんでいた。
そのことが脳裏をよぎる。
明日は大会。
そのこともあり、まずは碁盤になれとかないとなぁ。
そんなことをおもいつつも、しばし佐偽と碁をうつヒカルの姿がヒカルの部屋の中においてみうけられてゆくのであった。

九月二十三日。
秋分の日。
「うわ~。ここが噂の海王中学かぁ」
ちまたでも噂の有数の進学中学。
そもそも中学までは義務教育なのでわざわざお金を払ってまでそんな面倒なところにいきたくないだろうに。
『噂?』
「全国でも有数の進学校、なんだよ。つまりここにかよってる子たちはけっこういいところにいけるってわけ」
『なるほど。官位要請施設みたいなものですか?』
かなり違うような気もしなくもないが、説明の仕様がないのも事実。
「ん~。まあそんなものかな?でもさ、こういう機会でもないとこんなところにはこれないからもっとよくみとこ」
中学の囲碁大会が行われるのがここ、海王中学らしい。
それゆえに近所の知り合いから制服を借りたのだから。
まあ、子供らしい、中学の制服を中学に上がる前にきてみたい。
という理由で母親も納得し、また、ヒカルが中学生のふりをしてとある大会にもぐりこむ。
と知ったその人物がおもしろがって貸してくれたのだが。
「え~と…あ、看板がでてる」
正面の門からはいってすぐのところに、中学の大会の案内の看板が掲げられており、
そこに参加者がどのようにすればいいのかも書かれている。
「北区中学冬季、囲碁大会参加者の方へ…か」
北区、ということは別の区域でもやってるのかな?
そんな疑問が頭をよぎるが。
「げた箱で上履きに履き替えて、本館四階の第二会議室、か。だって。いこ、佐偽」
『ヒカル。今日はどういった大会ですか?』
「中学の大会だってさ。団体戦で、三人ひと組で二勝したほうが勝ち、らしいよ」
『ほ~』
何やら大人の姿もちらほらと見える。
会話をしつつもげた箱で上履きにはきかえ、二階にと進む。
二階の窓から祭日だ、というのに練習している野球部の姿が垣間見えていたりするが。
「休みの日にも練習なんだ。大変だなぁ」
おもわずそんなつぶやきがヒカルの口から洩れる。
『まあ、何ごとにおいても練習などというものはお休み、というものはあまりありえないですし』
「…佐偽。至極もっともな意見、サンキュ……」
ある意味正論をいわれてがくりとしてしまうが、
『ヒカル。今日はどうしますか?私がうってもいいのですか!?それともヒカルがやってみますか?』
「?俺がやってもいいの?お前うちたいんじゃないの?」
『ものすご~~く打ちたいですけど。ヒカルがどこまでここ数日で伸びたかみてみたいですし』
佐偽からすれば指導碁を毎日のように打ってきたのもあり、ヒカルがどこまで伸びているか確認してみたい。
というのもある。
『まあ、ヒカルがやったらあっというまにまけちゃうでしょうけど』
ぐさっ。
その言葉におもわずぐさっときてしまう。
「わるかったなぁ!どうせ俺はまだまだお前の足元にもおよばないよっ!
  まあ、人数あわせみたいだから別に負けても問題ないだろうしさ。あ、ここだここだ。第二会議室…と」
傍目からは独り言を延々といっているようにしかみえないが、そんなことはどうでもいい。
「えっと…ちょっとはやかったのかな?筒井さんたち、まだいないや」
きょろきょろと第二会議室の中を見渡せども筒井達の姿はみあたらない。
目につくのはさまざまな中学生と、そして教師らしき人物。
そしてまた、進行係りらしき人物の姿。
『ヒカル。あそこに何かかかれてますよ?』
佐偽に指摘されてそちらをみてみれば、どうやら対戦表が大きく貼り出されているのが見て取れる。
「あ。対戦表だ。えっと……男子八校に女子六校。か。以外にすくないんだな」
まあ、北区、と限定されてるからなのかな?
これがおわったら全国とかになるのかな?
そんなことをもおもうが、とりあえず約束はこの大会のみ。
『ほう。対戦表。ですか。ヒカルが参加するのはどれですか?』
「これだよ。葉瀬中、…ってやべっ!あれ、高田さんちの兄ちゃんじゃないかっ!」
ふと見知った顔を目にして思わず顔を隠す。
そういえば、高田さんちの兄ちゃん、海王中にかよってたんだった。
ばれたらもともこもない。
「とにかく。佐偽。こりゃ、今日はあまり目立たないほうがいいみたい。
  今日は俺がうつよ。…このあたりで大人しくしとこ」
あまりうろうろして他に自分のことを知っている人物がいるとも限らない。
しかも佐偽がうてば目立ちまくることは請負。
それゆえに近くで何やら対戦している生徒たちの机の前にとたち、
目の前で対局を始めようとしている一局をしばしながめるヒカルの姿。
「しかし。海王の囲碁部はすごいなぁ。このホールだって部室としてつかってるらしいぜ?」
「何たって規模がちがうよ。部員の数だって五十人以上いるらしいぞ?」
何やらそんなことをいいつつも、ばちぱちと互いに碁をうちあうどこかの中学生の二人組。
「なあ。対戦表、みたか?」
「ああ。海王中とはあたらない。うまくすれば準優勝くらいできるかもな」
『この人達、何かものすごく後ろ向きな会話をしてますねぇ』
同感。
佐偽のつぶやきに思わずヒカルも同意する。
と。
「あっ!」
「もう、何やってるんだよっ!」
碁を打ちこんでいる最中、制服の袖口がひっかかり、端にうちこんでいた石がばらりと崩れる。
「わるいわるい。えっと…たしか、ここがこうで……」
「何いってるんだよ。ここはこう、だよっ!」
「いや、それはそこじゃないって」
何やら目の前でそんな言い合いが始まっていたりするが。
はぁ。
何だかみていてほうっておけない。
「あ、俺、やろうか?」
じゃらっ。
いいつつも、碁盤の上にあるすべての石をひとまとめにする。
「あ、おい!何をするんだ!?」
何やら抗議の声があがってくるが。
「だって俺、一手目から全部おぼえてるもん。えっと、こうなってこうで……」
ぱちぱちぱち。
流れるように、一手目から間違いなく碁盤の上にとならべてゆくヒカルの姿。
『ヒカルって棋譜は一発で覚えますよね』
一局うてば一度で完璧にその順番を覚えているのがあるいみすごい。
しかも覚えるだけでなくその身の糧とし成長してゆく様がここしばらくにおいて目にみえてあらわれている。
だからこそ、佐偽からすれば教えがいがある、というもの。
「お兄さんたちも、いいあらそってなくてはじめから並べれば間違いないのに」
いいつつも、
「はい。ここまで」
目の前で少しちらりとみていただけの人物にいわれておもわず目を丸くする。
「そ、それがどうした!一手目から並べるなんてちょっと碁をうてるものならば誰でもできる!
  くそっ!石がずれていたら形成逆転もありえたのに」
『ヒカル。あちらに』
「あ。筒井さんたちきた。お兄さん、ずるはだめだよ~」
ふと入口から筒井達がはいってきたのに佐偽が気づき、そんなことをいいながらもそちらのほうにとあるいてゆくヒカルであるが。
「…なあ、お前ほんとうにこれ、できるか?」
しかも横で見ていただけだ、というのに。
「くそ。あいつどこの中学だ?」
背の高さと制服のだぶだぶさからどうみても中学一年生にしかみえない子供。
そんな子供に指摘され、戸惑いを隠しきれない。
そんな会話がなされていることなど知る由もなく、
「ええ!?知ってる人がいる!?あちゃ~」
筒井達のところにむかって、知り合いがいることを伝えるヒカル。
そんなヒカルの言葉をきいて、おもわずうなる筒井であるが、
「ま、バレたらばれたときだな」
もう来てしまった以上、じたばたしても仕方がない。
腹をくくるしかないのも事実。
「だから目立たないでね」
とりあえず二人にと注意をうながす。
そんな会話をしていると、
「よし。時間だ。それでは一回戦を始めます」
進行係りの教師が対戦表の前にとたち、時計をみつつ部屋の中を見渡しいってくる。
「え~。女子、一階戦、海王中対、岩名中はA席。……」
それぞれの一回戦の席準がのべられてゆく。

「って、小さくなっときゃなきゃ」
どうやら高田さんちの兄ちゃん…見学するつもりみたいだしなぁ。
とりあえず指定された席にとつく。
?これ何だろ?
ふと横になぜかとけいがあるのに気づいておもわず押してみる。
「って、何するんだ!?まだはじまってないのに!?」
ヒカルの目の前にいた人物が驚いてそんなことをいってくるが。
「って!ああ!ダメだって!対局とけいは押すと動きはじめるから」
「?対局時計?」
そういわれても意味がわからない。
「持ち時間、一人四十五分。一手うつごとにこれを押すんだよ。わかった?」
へ~
そんなものがあるんだ。
筒井の説明に関心するヒカルに対し、
「おいおい。騒がず、目立たず、じゃなかったのか?」
おもわず突っ込みをいれてきている加賀の姿。
「って、佐偽。何で時計のことおしえてくれなかったんだよ?」
ぽそりと小声で横にといる佐偽にと問いかけるヒカルであるが、
『そうはいいましても。虎次郎の時代にはそんなものはありませんでしたし』
江戸時代にそんなものなどはなかったのも事実。
そもそも、時間は立会人がきちんとはかっていた。
「…まあ、江戸時代だからそんなものか」
「?君?何ぶつぶついってるの?」
何やら独り言をいっているヒカルにたいし怪訝そうな顔をしてくる対戦者。
と。
「もしかして、将棋部の人?何で将棋部の人がきてるの?メンバーがたりなかったの?」
くすくすくす。
何やら扇を広げた加賀に対戦相手の人物がそんなことを言ってきているのが目にはいる。
「いいから早くにぎれよ」
「にぎる?駒のほうがいいんじゃないの?」
相手を挑発するようなことをいってあの人、どうするきなんだろう?
おもわずそちらのほうをみてそんな心配をしてしまうヒカルであるが、
『まあ、弱いものほどよくほえる、というのは今も昔もかわりませんし』
…佐偽、おまえさらっと何やらすごいこといってないか?
さらっといいきる佐偽のセリフにおもわず苦笑がもれてしまう。
未だに何か言い合っているようではあるが、やがて。
「じゃあ、進藤君が白ね」
どうやら大将がにぎった石でそれぞれの石の色がきまるらしい。
『へぇ。おもしろいきめかたなんですねぇ』
へぇ、って…佐偽、おまえしらなかったの?
『団体戦、というもの自体ありませんでしたから…いいなぁ。何だかたのしそう……』
佐偽の気持ちもわからなくもないが、相手は子供であり中学生。
プロにあっさりかてるほどの実力をもっている佐偽にはおそらくものたりないであろう。
『それより。ヒカル。どんな碁をみせてくれるかひとまず楽しみにしてますよ?』
「おまえ、それ、夕べもいったよな……」
いいつつも、いつのまにか対戦がはじまり、まず一手目をぱちりと打ち込む。
「君。独り言いってないで。時計を押すのをわすれてるよ?」
「え?あ」
くすくすくす。
「僕って親切でしょう?」
くすくすと忍び笑いをしつつも、完全にこちらを見下したようにといってくる。
まあ、知らないんだからしょうがないじゃん。
だけども…見下されたまま、というのは何だか釈然としない。
「しらなきゃ、これからおぼえてけばいいだけだもんっ!勝負はこれからだしっ!」
むっ。
対局とけいもしらない輩に負けるなどとは到底おもえない。
知らない、ということはすなわち、素人同然なのだろうから。
横のほうでは何やら加賀が筒井にむかって本がどうの、といって騒いでいるのが目にはいる。
「そこ!はやくはじめて!」
何やら騒いでいるそんな彼らに進行係りより声が投げかけられる。
「ふ。やるだけ無駄とおもうけどねぇ」
むかっ。
みてろよぉ!
というか、こいつのような人を小馬鹿にするようなやつ、佐偽にこてんぱにしてもらってもばちあたらないかも……
ちょっとしたそんな思いも頭をよぎるが、何よりも自分の力で相手にぎゃふんといわせたい。
それゆえに、しばし碁盤の盤面上に集中してゆくヒカルの姿がみうけられてゆく。

このヒカルの集中力はすごいものがありますよね。
周囲の雑音を一切消し去り、集中すればそれだけに没頭する。
佐偽との対局のときは佐偽にも注意がむいているものの、他の雑音は聞こえないらしく、
よく母親が部屋まで呼びにくることもしばし。
横のほうでは早くも勝負をきめたらしく、加賀がすでに打ち終わっているのが佐偽には見て取れる。
そのまま、筒井の対局をみがてら、ヒカルの背後にとまわってくる。
「…な、何だ?この並びは……」
手順がみえない。
相手にも何やら焦りの色が垣間見える。
毎日のように佐偽と…つまりは上手ばかりとうっていたがゆえに勘は日々磨かれている。
それゆえに、相手のおもってもいない手を打ちこんでいるヒカルなのであるが。
相手からすれば信じられない、というのが現状。
何しろ目の前の対戦相手は対局時計の存在すら知らなかったような素人である。
なめてかかったのはあるにしろ、自分の一手がすばやく殺されているのが理解できるがゆえにどうにもならない。
『ヒカルの素質は素晴らしいものがありますよね。磨きがいがありますv本当に♪』
何やらそんなヒカルの横で喜々とした声をだしている佐偽ではあるが、
おそらく相手の実力がさほどないがゆえに今のヒカルでもここまでの碁が打てるのだろう。
というのも佐偽だからこそわかる。
負けたくない。
だけどもこのまま打ち続けて、本当に差がなくなるのか。
といえば出てくる答えは…否。
寄せまでもっていけば勝算が少しはあるのかもしれないが、だがしかし、勝てる気がしない。
碁というのもはあるいみ気力にも起因する。
一度、そうおもってしまえば、気力にひこずられてまともな一手など打ち込めない。
「…信じられない。途中までかっていたのに……」
ヒカルの一局におもわず釘つけになっている最中、ふと気付けば隣の筒井の一局も終わりをみせたらしい。
「寄せでひっくりかえった……。俺がかっていたのに……」
そんな声がしてそちらのほうをみてみれば、たしかに筒井が勝っているのが目にとまる。
「おまえ、ほんと~によせだけは間違えないよな」
「あはは。目算と寄せはね」
加賀のセリフに笑いながらもこたえる筒井。
「そういえば、進藤君は?」
「…まけました」
筒井の対局がおわったその直後。
ヒカルの対戦相手の声が筒井達の耳にと聞こえてくる。
「……え?」
『ヒカル!かちましたよ!まあ、相手のミスもあったようですけど』
すべてがすべてヒカルの実力ではない。
相手が自分たちの大将があっさりやられて心に負担がかかったがゆえに一手に隙が生じたのを佐偽は見逃してはいない。
「え?俺。かったの?ほんと!?」
おもわずぱっと目を輝かす。
というか佐偽とここ数日打ってはいるものの、いつも負けてばかり。
正直、対戦で初めて勝った、といっても過言ではない。
だからこそ実感がわかずにおもわず逆に問いかける。
「進藤君もかったの!?すごいっ!三対ゼロ、なんて!」
信じられない結果に思わず声をだしている筒井だが、相手からすればたまったものではない。
ただの寄せ集めの部と侮っていたというのに。
おわってみれば三対ゼロで自分たちの負け。
「…相手をあなどったな。おまえたち」
図星をいわれてうなだれるしかない。
たしかに、楽勝、とおもって侮っていたのも事実。
勝負の世界に気の緩みなど絶対にあってはならないことだ、というのに。
そんな彼らの思いとは対照的に、
「すごい!大将!さ、報告、報告!!」
まさか初出場で一回戦突破がなされるなど夢にもおもっていなかった。
それゆえに喜々として大将にしていた加賀を対戦表のほうへとおしてゆく筒井の姿。
『ヒカル、だいぶ上達はしてますねぇ。まだまだあぶなっかしいですけど。
  そういえば目算、きちんとしてますか?』
「?もくさん?何それ?」
『…これからは日々、目算もおしえていきますね……』
どうりで打ち方があぶなっかしかったはずである。
まあ、囲碁を覚えて約二十日もみたない、というのにここまで打てれば儲けもの、ととらえるものが大多数であろう。

ヒカルたちが海王中学の一室において大会に出場しているそんな中。
海王中学の校長室。
「しかし、わざわざ緒方先生までおこしくださるとは」
「いえ。私も今日はオフの日でしたので。それに明君をおくってきただけですよ」
海王中学校の校長を目の前にして会話をしている人物が二人。
「僕はいい、っていったんですけど……」
そもそも、この中学にやってきたのは挨拶をかねてのこと。
来春からお世話になる学校にきちんと挨拶をしておく、というのは彼としては当然の礼儀。
「塔矢君は囲碁界にとっても期待の星、ですからね」
「そんな、僕なんか……」
そう、自分にはそんな期待されるような力は絶対にない。
彼の…進藤ヒカルの存在が彼の心に深くのしかかっている。
先日、父があの進藤ヒカルと一局うったらしい。
そばにいた緒方の言葉からすれば、たしかにアキラくんをおじけずかせるだけのことはある。
そんなことをもいっていた。
だからこそ、きになって仕方がない。
彼の名前は一度もどの大会でも聞いたことがない。
だからこそ気にかかる。
自分のように大会にでない理由があるのか、それとも……
「そうだ。今日はここで中学の大会がとりおこなわれてるんですよ。どうです?みていきませんか?」
「私はいいですよ。騒ぎになってもいけませんしね。明くん、すこしのぞいてみたらどうかな?」

彼がこのように勧めてくることなどめったとないというのに。
それゆえに戸惑ってしまう。
「緒方さん?」
「私は外でまってるよ。じゃあ、またあとで」
たしかに、現役のブロが会場にいけば大会に参加している生徒たちの気もそぞろになってしまうのは明白。
最も、彼がついてきたのは他でもない。
大会に参加する、ということを先日、ヒカルから直接塔矢名人とともに聞いているがゆえに明をつれてきたに他ならない。
彼にふん切りをつけさせ、前にすすめさせるために――


                                -第10話へー

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あとがきもどき:
薫:ちなみに、教科書の問題云々。それは自分の経験だったり(笑
  休み時間とか暇だったので、先に、先にと数学とか算数とかの問題はとっとととといてました(まて
  今の教科書にもやはり途中に問題とかのってるんでしょうかねぇ?なぞです……
  ちなみに、テストの点の落差、というのも自分自身のこともあっておもいついてたりv
  かたや、万点に近し、かたやヒトケタ(まてこら
  英語とかなんて勘とか先生のおなさけで点をもらえてた口でしたからねぇ…いやはや(実話
  ちなみに、中学のときに意味がわからないのでかたっぱしからカタカナでフリガナつけといた英語の教科書。
  母に全部それ消された経験があります…消されたらよめません(こら!
  そんなんで、まったく理解してなかったので
  母が仕事先で知り合ったとかいう大学生に英語の家庭教師たのんでくれましたけどね~
  おかげで中学三年生になってようやく英語の文法が何とな~~くですがつかめましたv
  ってそれまでわからないままにとにかくひたすら文章丸暗記、でしのいでいたのですよvええv
  意味わからなくても数式とおもって、英語の文面をそのまま丸暗記。
  それだと穴埋め問題などでは点数をかせげましたからねぇ。
  暗記だけは、昔から読書が好きだったので得意(?)だったですしねv
  中三でいきはじめた塾でも先生にあきれられましたー
  理科、数学、英語。
  この三つの科目の塾だったんですけど、他はほぼ満点なのに英語だけはいつもひとけた~(笑
  そんなんでよくもまあ高校にうかったものだ(しみじみ…
  ちなみに、高校時代はきちんと提出物などをしていればそれらも換算されるので赤テン、はなかったですv
  でもず~~と常に2~3であったのはお約束(まて
  必至にやっても意味がわからないほと゛つらいのはないですよ…くすん……
  まあ、このヒカルもそんな感じ~とうけとめてくださったら幸いですv
  何はともあれ、ではまた次回にて~♪

2008年7月26日(土)某日

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