まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。
とりあえず、基本、ヒカル視点を基本にいきたいとおもいますv
なのでアニメや原作であった周囲のことはあまり触れずにおいとくとして(こらまてまて
本来ならばブロ試験合格してからあるはずのイベントが先にくるというこの話(笑
何はともあれゆくのですv
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星の道しるべ ~囲碁フェスティバル~
「…だぁっ!おまえ、手加減なくうってるだろ!?」
結局のところ、塔矢の父親の口利きもあり、晴れてとりあえず碁盤を借りることに成功したヒカル。
何でも碁盤を買うまでは好きなだけ借りていていい、というお墨付きまでもらっていたりする。
何だかわるいような気がしなくもないが、まあここは好意にあまえることにする。
折りたたみ式の碁盤なので場所はそんなにとらないものの、とりあえずペットの上にとおいてある程度の高さを確保する。
一応対局、ということもあり佐偽には対面側にと座ってもらい、打ち込みする場所を扇で示してもらう方法に落ち着いた。
といっても結局石をうつのはヒカル一人なのだが。
ヒカルに触れることはできても、ヒカル以外の物に佐偽は触れることはできない。
『あ…あはは…つい、ひさしぶりでたのしくて……』
いくら素人だとはいえ、相手が手加減なくしてきているのはいやでもわかる。
何しろわんさかと相手の石が増えていけばなおさらに。
「もう!とにかく!次の祭日までにどうにかある程度の知識と力をつけないといけないんだから。
佐偽も協力しろよっ!そもそもお前があのとき半目ほどおいつけなかったのにも責任あるんだぞ!?」
まあ、自分が打ち間違いをしたのもあるにしろ。
『でもあれはヒカルにも責任が……』
「わかってるよっ!だけど冬のプールよりましだろ!?」
思わずぼやいてくる佐偽に思わず叫び返す。
「ひかる~!?何さわいでるの!?」
一階のほうから母親が何やら騒いでいるのをききとりおもわず叫んでいたりするが。
また何かへんなものでもついてきちゃってるのかしら?
さすがにそのあたりのことは慣れっこといえば慣れっことはいえ注意せずにはいられないヒカルの母親。
「何でもない~!」
とりあえず一階にむけて叫び返すヒカルとは対照的に、
『そういえば。ヒカル。ぷーるとは何ですか?』
昼間ききそびれたがゆえに改めて問いかける。
がくっ。
そのセリフに思わず力が抜けてしまう。
そ~いや、こいつ…江戸時代とまりだっけ?
「…しいていえば行水の真冬版?しかも水で」
とりあえず時代劇などでよくみる台詞から引用して説明する。
『それは…いやですねぇ……』
たしかに真冬の真水はかなり冷たい。
あのときの水もつめたかった。
そう、入水したあのときも……
「だろ?とにかく!オレはあの加賀ってやつにひと泡ふかせたいんだからっ!
そもそもあいつ、あれから結局本をやぶったこととか、ガムをおしつけたこととかあやまってないんだぜ!?」
それに何より塔矢や佐偽が真剣なまなざしで行う囲碁というものに多少の興味がでてきているのも事実。
ほとんど知らないままでも見ていて多少楽しい、と感じるのだからきちんと知ればさらに楽しくなるのかもしれない。
真剣なまなざしでとりくんでいた自分より小さな子供たちの囲碁大会。
そのことも頭の隅にと残っている。
『なるほど。たしかに悪いことをして彼はまだあやまってませんでしたね。わかりました。
それじゃ、遠慮なくどんどんといきますよ?ヒカル?』
「おうっ!みてろよぉ!…あ、その前に、佐偽。石のもちかたからおしえて?」
石の持ち方でもさんざん馬鹿にされた。
大会にでるまでにそれは何としても直したい。
くすっ。
『わかりました』
この向上心はとても心地よい。
それに何よりこの彼がどこまで伸びてゆくのか先がみたい、というのもある。
そんな会話をしつつも、しずかに夜は更けてゆく――
「まあ!ヒカル!やればできるじゃないっ!」
土曜日にあったテストが戻ってきた。
今までは社会のテストは半分の点もなかなかとれなかったのが現状だ、というのに。
さらに詳しくいえばいつもひとけたとまり。
だがしかし、今日もどってきたテストはいままでとは格段にと異なり点はかなりいい。
「おこずかいをとめたのがきいたのかしらねぇ。じゃあこれからはテストの点でおこずかいをきめましょうかね」
・・・・・・・・・
「ええ!?母さん!それはあまりに横暴っ!!」
最も、テストの半分以上は佐偽にきいたものであり、ヒカルの知識ではない、という点が否めないのだが……
「たのしみだわ~。ヒカル。二学期の通知表、楽しみにしてるわねv」
がくっ。
どうやらいっても却下されるらしい。
「でも、ヒカル。無理はしたらだめよ?あなたさいきん、得意の体育の調子わるいっていうじゃない?」
理数系と、そして体育だけはこの息子は得意としているらしく他に引けをとらなかった。
さらにいうならば理数系に関しては先を見るのが楽しいとかなにとかいってさらなる高学年の数式なども覚えている始末。
まあ、そういった勉強に関しての本などはせがまれればおしみなくあたえていた彼女の教育のたまもの。
といえばそれまでだが。
「あ~。まあ、ちょっと……」
体育の時間中にこれは何!?あれは何!?
と騒ぐ佐偽に気をとられて集中できていない、などといえるはずもない。
何しろこの母親には幽霊などまったくもって感じることもできず、また視ることもない。
ゆえにヒカルが小さいころからいっていた言葉は子供のたわごと、嘘ととらえていた節もあるのも事実。
最も、あるときとある僧侶からそのように説明されてようやく半信半疑ながらも納得しているのがいまの現状。
「それに。いきなり囲碁を覚えたいだなんて。しかもわざわざ碁の一式を碁会所からかりてきたんですって?」
祖父にそれとなくきいてみれば碁の一式はけっこうねが張るらしい。
さらにいえばきちんとした足つきの碁盤などは数万円から数百万、とその値段の差は幅広い。
「あれは期間限定!だってやっぱり碁盤があったほうが覚えるのもやりやすいもん」
「まあ、ほどほどにね。どうがんばってもお爺ちゃんには勝てないわよ」
むっ。
「やってみないとわかんないだろっ!」
決めつけてくる母親のセリフにもおもわずむっとしてしまう。
それでもここ数日で迷うことなく佐偽が指示した場所に打ちこみができるようにとなっている。
佐偽は扇で場所をさしながらもその一手の読み方をいってくる。
ゆえにここ数日で盤面上の読みかたはすでに完璧とはいえないまでもほぼ理解できるようになったのも事実。
「あ。そうそう。そういえばお爺ちゃんが、ヒカルに用があるとかいってたわよ?電話してみたら?」
ふと、昼間連絡があったのを思い出し、ヒカルにと話しをふる。
「?何だろ?」
すでに夕飯もおわり、お風呂にもはいり、あとは宿題をして明日の準備をして寝るばかり。
もっとも、その寝る前と朝方に佐偽による碁の訓練は続いている現状ではあるが。
それゆえに、いわれるままにと祖父の家にと電話をいれてみることに。
「え?アマチュア囲碁フェスティバル!?」
そういえば、この前もらった住所のにそんなことがかかれていたような気もしなくもない。
「おう!お前も囲碁に興味をもったみたいだし。どうだ?いってみないか!?」
電話のむこうで聞こえてくる祖父の声。
『ヒカル?ふぇす…って何ですか?』
きょとんとする佐偽の台詞に苦笑してしまう。
「うん。いくいく!あ、でも次の祭日だとむりだけど。ちょっと用事があってさ~」
「な~に。この土日にあるやつだから、お前、用事あるのか?」
というかこの土曜日が誕生日である。
「よっし!きまりだなっ!ついでにお前の誕生日でもあるし。何かかってやるよ」
「ほんと!?爺ちゃん!ラッキー!!」
たわいのない会話をしつつも、電話をきる。
『しかし、面白い道具ですよねぇ。離れた場所にいる人と話せる道具だなんて』
しばらくそこにいるはずのない平八の声がしていたがゆえに、電話の周囲をうろうろと調べていた佐偽ではあるが、
ヒカルが電話をきると同時に驚いたようにしみじみいってくる。
「ヒカル。お爺ちゃん、何だって?」
台所の奥のほうからヒカルの母親である美津子が問いかけてくる声がきこえてくる。
「うん。次の土曜日一緒にでかけないかってさ」
「次の?そういえばヒカルの誕生日よね。お爺ちゃん、何かプレゼントでもしてくれるのかしら?
でもヒカル?あまり無理をいったらだめよ?」
「は~い」
爺ちゃんに誕生日のプレゼントに碁のセットおねだりしてみようかなぁ?
そんなことも頭に浮かぶが、平均的な値段がいくらかかるのかわからない以上、へたにせがめない。
「よっし!次の土曜日はお出かけだっ!」
『ヒカル。誕生日なのですか?何かお祝いがいりますねぇ。
平安の世のときは歳があければひとつ歳をとっていましたが、そういえば、今は元服の儀式はいつなんですか?』
佐偽がいきていた時代、江戸時代ともに元服…つまりは大人と認められる歳は異なっている。
「元服?」
『つまり、大人と認められる歳ですよ』
どうもヒカルは歴史に疎いですねぇ。
よくわかっていないヒカルの様子にため息まじりに丁寧にと説明する。
「今の時代は二十歳かな。成人式があるし」
お酒もタバコも解禁されるのは二十歳から。
しかし車の免許をとれるのは十八からだが。
『へぇ。今の世はずいぶんと遅いのですねぇ。昔はヒカルの歳でもすでに結婚して子供いた人もいましたけど』
「は?!」
佐偽の言葉に思わず目をまるくしてしまう。
というかヒカルはようやく十二になるところ。
それなのに…?
む、昔の人っていったい……
おもわずそんなことをヒカルが思ってしまうのは仕方がないであろう。
「ん~。まあ細かく気にしないことにして。そうだ!佐偽!おまえがいままでうっておもしろい、
とおもった碁の並びをおしえてくれない?それが誕生日プレゼント、ってことで」
佐偽に何かを期待するのははっきりいって不可能、というもの。
それゆえに佐偽にできる範囲のことを提案する。
『ええ!ヒカルが知りたいのならもう全部の棋譜をおしえてさしあげてもいいですよ?』
「・・・おまえ、石を並べるの俺だ、ってこと失念してないか?」
たわいのないやり取りだが何かとても心地よい。
兄弟とかがいたらこんなやりとりになるのかなぁ。
そんなことをふと思う。
そういえば、虎次郎も昔、私がうった棋譜をみたがりましたねぇ。
虎次郎の面影と今のヒカルの姿がだぶる。
「ま、とにかく!あと少しほどやってから今日はねるぞ!」
『はいっ!』
日々成長してゆくのがわかるがゆえに教えがいがある。
今まで教えた中でここまでの見込みがよく成長が著しい人物はいなかった。
あの虎次郎ですらゆっくりとした早さで成長していったというのに。
それゆえに教えがいがある、というもの。
いずれ彼が完全に碁をおぼえていけば本気にならないまでも碁を打ちかわすことも不可能ではない。
それぞれの思いを抱きつつヒカルの部屋がある二階にと再びもどってゆくヒカルと佐偽の姿がしばし見受けられてゆく。
九月二十日。
おそらく明日の大安の日はさらなる人でが望まれるはず。
もっとも、彼岸であるがゆえに余計にひとが集まっている、というのもあるのかもしれないが。
「うわ~!!すごい人だね~。爺ちゃん。佐偽」
「ほほほ。じゃろ?地方のイベントとはいえ充実してるからの。
対局だけじゃなくて指導碁とかブロによる講座とかいろいろあるイベントなんじゃよ。
わしは今日は対局目当てじゃがの。今度こそ優勝してやる!!」
何やら一人はりきっている祖父の姿が目にとまる。
祖父とともに電車を乗り継ぎやってきたのは、とある建物。
今日と明日、この場所でアマチュア囲碁フェスティバルが開かれる。
進藤平八の目的は、この場でおこなわれる対局。
何でもライバルとおもっている遠くにすんでいる人物も参加する、ときいてやってきたらしい。
『うわ~。すごいすごい。ひとがいっぱい~。まるでおまつりですね』
…フェスティバルはお祭りだってば。
まあ、佐偽に横文字を理解しろ、というほうがむりか。
目を輝かせ、きょろきょろと落ち付きのない佐偽のセリフにおもわず内心苦笑してしまう。
「どうじゃ?ヒカル?お前も対局申込せんか?」
「あ~。俺はいい。いろいろとみてまわってみる。何かたのしそ~だし」
何よりも佐偽にいろいろとみせてやれるいい機会。
「そうか?ならわしはあそこの対局の場にいるから。何かあればあそこにこいよ?」
「うん。わかった」
そんな会話をかわしながらひとまず祖父と一度別れる。
『ヒカルヒカル!何かいろいろありますよ!?』
何やらものすごくはしゃいでいるらしく、おちつきのない佐偽の姿がいやでも目にはいるが。
「でも、こんなにひとがいるのに誰も佐偽に気づかないのかな?」
中には佐偽の姿が視える人もいそうだけど。
だがしかし、誰も騒ぎたてする気配はまったくない。
そもそも、おもいっきり時代錯誤な服をきている人物がいれば目立つことこの上ない、というのに。
『ヒカル!?どこからいきます!?ねえねえ!?とりあえず対局みませんか!?対局!!』
きらきらきら。
おもいっきり子供がはしゃぐように目をきらきらさせて浮かれ気味にと話しかけてくる佐偽の姿。
「…どっちが保護者かわかんないぞ。佐偽……」
おもわずそんな佐偽の様子にあきれてしまう。
あきらかに自分よりも格段に年上…しかも長き年月を魂としてこの世にとどまっているはずだ、というのに。
この佐偽にはまったくそれが感じられない。
「まあ、ゆっくりとみてこうぜ」
何やらパソコンの周りにひとがあつまっていたりするのもみてとれる。
あそこはひとが多いから…とりあえずパス。
佐偽の体を人を通り抜けるのは佐偽が幽霊だ、とわかっていても視えている限りあまり見たくはない光景。
まずは、爺ちゃんがいった対局の場にいってみよっと。
『…ヒカル。そこの盤面……』
「…あれ?佐偽、これって……」
まだ碁を覚えたてのヒカルでもわかる。
何やら変なところに黒がうちこみ、次の一手でどうみてもごっそりと黒石は相手にとられてしまう。
「こりゃ、次で石がとられて終わり、かな?」
ぽそっとヒカルがつぶやくものの、
ぱちっ。
・・・・・・・・・・・・・
えええええ!?
おもわずヒカルと佐偽、同時に驚いてしまう。
対戦している二人の大人たちは互いにその場所に気づいていないのかまったく別のところに打ちこみをしていたりする。
まだ囲碁初心者のヒカルでもその一手はわかるというのにもかかわらず…である。
『…素人の対局のほうが昔も今も、何だか心臓にわるいですね』
「というかお前はもう心臓うごいてねぇじゃん」
あるいみナイスともいえるヒカルの突っ込み。
だがしかし、たしかに互いに両方がその一手の場所に気づいていない、というのは驚愕に値する。
『何もしらなかったヒカルですら、盤面に宇宙をつくるんだ、とかいっても形にはなってましたしねぇ』
今借りている碁盤でヒカルに自由に打たせた一局がまさにそれ。
盤面上にある九つの星を中心に宇宙をつくってゆく打ち方とかいっていた。
「あのなぁ。…あ、佐偽。あっちに碁盤とかうってるところがある。いってみようぜ」
買うにしても、またおねだりするにしても金額を把握していないことにはどうにもならない。
周囲が騒がしいので佐偽と話すのに普通に声にだしていても誰も気にとめるものなどはまずいない。
もっとも、独り言のように聞こえていても、最近はインカム式の携帯電話もあるので携帯で話している。
そう捉える人のほうが多いのもまた事実なのだが。
会場の一角にとある販売コーナー。
扇やさまざまな囲碁に関する品物が売り出されているらしく、ところせましといろいろと並んでいるのが見て取れる。
「碁盤かぁ。いいなぁ。いずれは贅沢したいなぁ」
ふと、何やら一人の大人が碁盤の前で立ち止まりそんなことをいっているのが目にとまる。
「いらっしゃいませ。いずれといわずに今贅沢したらどうですか?
いい碁盤でうてばそれだけ勉強したとしても腕が上がるのははやいですよ?」
何やら販売員らしき人物がそんなことをいっているのが気にかかる。
「?佐偽。そんなものなの?」
『いえ。それはまったく関係ありませんよ。ようはやるきですから』
ぽそっと佐偽にと問いかけると、即座にもどってくる返答。
まあ、打ちやすい、という点では一概に間違っている、ともいえなくもないが。
「…本カヤ…特価一、十…二十万!?」
おもわずそこに書かれている値札をみて驚きの声をだす。
『カヤ!?これがカヤ!?これはカヤではありませんっ!!』
ヒカルが値段に驚くのと同時、佐偽もまたその碁盤を目にして驚愕の声をだす。
「佐偽?カヤって何?」
『碁盤に使われる木ですよ。いい碁盤はカヤなんです。
虎次郎の碁盤もカヤ!ヒカルのお爺さんの碁盤もカヤ!いい碁盤はカヤなんですっ!
でもこれはにてはいますけど、カヤではありませんっ!』
「…って、これってカヤっていうのは嘘!?詐欺じゃんっ!!」
おもわず佐偽のセリフに大きな声をだしてしまう。
ざわっ。
横で客に販売しようとしていた男性がおもいっきりあせる。
あせるがふとみれば叫んだのはまだどうみても小学生くらいの子ども。
「ちょっと!君!でたらめいわんといてやっ!いくら子供だからってゆるせないよっ!」
「だってこれ、カヤじゃないじゃんっ!」
そんなやり取りをききながら、横で碁盤を検討していた男性がそそくさとその場をあとにする。
「あ~!…だいじなかも…いや、お客さんがぁ…」
「何で嘘ついてうってるの!?」
そもそも、はっきりいって嘘の表記などは詐欺罪にあたるはず。
「誰だ?いちゃもんつけてるやつは?商売の邪魔をするんじゃないよ」
ふと背後のほうから第三者の声が聞こえてくる。
「邪魔なんかしてないよっ!嘘の表記してるからそれをいってるだけだしっ!」
何やらちょっぴり見た目がわるい大人が何かいってきているが。
胸につけている花の何かが気にはなるが。
『ヒカル。石を碁盤にうってみてください。音で証明できますから』
「子供が何を。これは正真正銘の本カヤだよ」
他のプロの目につかないようにこんな端っこのほうに場を構えたというのに。
だがしかし、相手は所詮は子供。
それゆえに馬鹿にしたようにといってくる。
「みててよっ!」
そんな男性の表情にむっとしつつも近くにある石をつかんで、ぱちりと碁盤にうちつけるヒカル。
ちっ。
小さく間に入ってきた大人が舌打ちする音がきこえてくるが。
『やはり!カヤの音とは違う!音が鈍いですっ!これは別の木ですっ!』
「音が全然鈍いじゃんっ!これ、カヤじゃないよっ!」
佐偽にいわれて、そのままのとおりに相手にいいかえす。
ヒカルにはその違いはわからないが、佐偽は伊達に長年碁ばかりをやっていたわけではないのもわかっている。
「どうかしましたか?何かトラブルでも?」
どうやら会場の進行係りの一人らしい一人の大人が騒ぎをききつけて近づいてくる。
「ああ。いえ。子供が商品の碁盤に石をうっただけですわ」
「だってそれは!嘘いってるからじゃないかっ!」
「…嘘?」
どうやらただ事ではないらしい。
それゆえに進行係りの人物は子供と、相手の顔を交互に見渡す。
「おい。ガキ。いくらガキだといってもそれ以上、言いがかりつけたらお前が傷ものにした碁盤。弁償させるぞ?!」
「やれるもんならやってみろっ!きちんと鑑定してもらったらこれが偽物の表記の売り方だ。ってすぐにわかるしっ!!」
ぐっ。
子供のいうことは筋がとおっている。
たしかにきちんと鑑定されでもすればすぐに判明する悪事。
「…けっ。ガキのいうことにとりあっちゃおられん」
これ以上、騒ぎをおおきくしてもラチがあかない。
それゆえに吐き捨てるように言ってヒカルの前から立ち去るその男性。
そんな男性の姿を見送りつつも、何やら複雑そうな表情をし、
「君。碁盤は木でできているから石でうてばへこみもする。値が張るものだから二度としてはいけないよ?
それより、嘘、って?」
きになることをヒカルにと問いかける、質問してきた進行係りの一人らしき人物。
「あ。それは……」
ヒカルが説明しかけようとすると、
「ほう。本因坊秀作がうった碁盤?」
背後のほうからそんな声が聞こえてくる。
「これも売り物だって?ほ~!六百万!?」
『え?どれどれ?』
虎次郎がうった碁盤、と聞いて黙っていられる佐偽ではない。
すぐさまにそちらのほうに視線をむける。
「それは先日、古物商から手にいれたばかりのものですわ。
秀作先生が囲碁の指導で高松に赴いた際、そこで使われていたものです」
へ~。
佐偽。
高松にいったの?
『ええ。虎次郎とは碁を指導するためにいろいろな地をまわりました。なつかしいですねぇ~』
伊達に幼いころから虎次郎にとり憑いていたわけではない。
あのときもそういえば、虎次郎は私の様子をみてはわらっていましたっけ。
ふとなつかしく過去のことを思い出す。
ヒカルの問いかけになつかしく感慨にふけていると、
「その時、むこうに所望されて秀作先生が署名されましてね」
「御器曽プロ」
そんな会話が聞こえてくる。
『?高松で署名?そんなことは虎次郎はしてませんけど?』
怪訝におもいつつも、その碁盤に目をやると同時、思わず目をおもいっきり見開く佐偽。
『な!?あれは虎次郎の字ではありませんっ!真赤な偽物ですっ!』
「って、あれも偽物!?」
ざわっ。
佐偽の言葉に大きく叫ぶヒカルのセリフに周囲にいた大人たちが一気にざわめく。
先ほどヒカルに指摘され、問題の碁盤をみていた先ほどの進行係りの大人もまたそちらにと視線をむける。
「ち。またこのガキは!これは正真正銘のほんものやっ!」
むかっ。
「何で大人がそんなウソばっかりいうんだよっ!さっきの偽物のカヤを本カヤといってうってたりっ!
それにそもそもその字、秀作の字じゃないじゃん!何より秀作は高松で署名なんかしてないよっ!!」
相手のすごみに負けずと言い返す。
理不尽なことをしている相手に大人も何も関係ない。
悪いことは悪い。
だからこそヒカルも負けてはいない。
「ガキ。これは正真正銘の本物だぜ」
「ほらみぃ。プロの棋士がこういうておられるんやで!?」
プロ?
だがしかし。
「ブロ?何でプロがそんな嘘つくんだ?!あ!さてはこの字をかいたのはあんただな!?」
「なっ…」
まさかいきなり図星をいわれ、おもいっきり言葉につまる、プロ、といわれた人物であるが。
「このガキ!御器曽先生に何て失礼なことをっ!」
「失礼なもんかっ!ちがうっていうんだったら署名鑑定してもらったらはっきりするよっ!
それは秀作の字じゃないもんっ!偽りの署名で死者を冒涜するなんてあんたたち、それでも大人かっ!?」
死者を冒涜するような行為は何よりもヒカルは許せない。
相手の狼狽ぶりからも相手にやましいことがあるのは一目瞭然。
「ふん。子供のいうことなんて誰もききはしないよ」
このままここで騒いでいればそれこそ本末転倒。
それだけ言い捨て、その場からはなれてゆく御器曽とよばれた人物。
「きみ。君はひとまずこっちへ」
子供にいわれて確かに確認してみたが、違和感を感じたのもたしか。
それゆえに少し離れた場所にヒカルをつれてゆく係り員の男性。
「君。あの碁盤の字が偽物だ、って君にわかるの?」
わかるも何も。
生涯ともにいた幽霊がそばにいて間違えようがないというもの。
「うん!あれは絶対に偽物!まちがいないっ!それにさっきの碁盤だってカヤじゃないしっ!」
きっぱりはっきり相手の問いかけに断言する。
「…やっぱり。君にいわれてみてみたんだけど、いや、どうもそうじゃないんじゃないか、とはおもってたんだ。
あれは本カヤじゃなくて新カヤだよ」
え?
相手の言葉におもわず相手をみつめかえす。
「いや。私も詳しくはないんだけどね。去年まできていた碁盤屋さんが親切な人でね。
新カヤは木目がきれいで高級なカヤに似てはいるが、正式名称はスプルースといって外国の木なんだそうだ。
カビや割れの心配がなく碁盤の素材としてはいいものらしいよ。
ただ、カヤのほうが高いから新カヤを本カヤと偽って売る不届き者も中にはいる、という話だ」
話をきく限り、去年まできていた売り手はかなり良心的な人物だったらしい。
「何でそんな親切な人からいまのあのうそつき業者にかえたの?
そもそも、詐欺販売を率先したとかなったら共謀罪とか共犯罪にとわれない?」
ヒカルの疑問は至極もっとも。
「……さっきの御器曽先生…あの人、プロの碁の棋士なんだけど。あの人の紹介で断れなかったんだよ」
「?何で?」
「こういう催しはブロの協力なしではできないからねぇ。しかし…あの先生の悪い噂はチラホラきいていたが……
う~ん。まあ碁盤屋さんのほうは私も注意しておくよ。いやぁ、わるかったね」
たしかに知っていて販売を率先していた、となればかなりの大問題である。
かといってすでに会場が開いている以上、騒ぎを大きくして追い出すわけにもいかない。
そんな大人の事情など、ヒカルにはしったことではない。
「せっかく楽しみにきたのに。台無しだよな。なあ、佐偽。…佐偽?」
ふと横をみればおもいっきり怒っている佐偽の姿が目にとまる。
まあ、そりゃそ~だよなぁ。
虎次郎を知らない俺でも死者を冒涜する行動は許せないというのに。
佐偽はそんな虎次郎…本因坊秀作と生涯をともにすごしたのだ。
その怒りは並大抵のものではないはずだ。
「とにかく。どうにかしてあの碁盤をひっこめさせる方法、ないかな……」
偽物の署名だ、と確実に証明できれば問題ないだろうが。
署名鑑定などを依頼したとしてもすぐにでるものでもない。
そもそも、署名鑑定を依頼するにしてもお金は必要となるはず。
そんな大金、小学生のヒカルに用立てられるはずもない。
「たとえば、あのブロとかいうやつと対局して、相手に碁盤をひっこめさせるとか……」
一番確実な方法はそれであろう。
『ヒカル!あそこっ!』
ぶつぶつつぶやくヒカルとは対照てきに、一角にさきほどの人物の姿をみつけて指し示す佐偽。
佐偽が指示した方向にあるのは、【指導碁コーナー】。
そこにさきほどの人物が座って大人相手に何やらやっているのが目にとまる。
「あ。お客の一人はさっきの碁盤をかわずに逃げていった人だ」
みれば、さきほどヒカルの指摘に救われたであろう人物の姿が目にはいる。
「いってみよう」
そもそもどうしてもあの碁盤をひっこめてもらわなければ気がすまない。
それゆえにそちらのほうにとあるいてゆくヒカルであるが。
「…ほらほら、あっちもこっちもすきだらけです」
「ひ、左上も死んでしまった……」
「やっぱりいい碁盤で練習しないと上達しないんですかね?」
おもいっきり嫌みたらしく相手にいっているさきほどの御器曽とかよばれた男性。
背後からのぞきこめば、その碁のひどさは一目瞭然。
「こ、この碁…ひでぇ」
まだ碁をよくしらない俺にもわかる。
『ええ!上手が下手をただいたぶっているだけにすぎませんっ!これが指導碁なものですかっ!』
碁をうつものとしてこの打ち方は許せない。
ヒカルもまたここ数日、佐偽に指導碁をうけているがゆえにひどさがわかる。
「これはもう…どうにもダメですねぇ」
対戦していた男性がしずかに溜息とともにぽつりと漏らす。
『まだダメじゃありませんよっ!!』
「まだダメじゃないってさ。叔父さん。がんばってよ!こんなやつギャフンといわせてやれっ!」
「え?君は、さっきの……」
さっきたしか、碁盤が偽物だとか騒いだ子供。
いつのまに自分の後ろでみていたんだろうか?
そんな疑問が頭をよぎるが、
「へえ。ここから何ができるって?いいですよ?つづけましょうか?」
「わ、私はそんな…もう……」
これ以上は絶対にむり。
というかこんなひどい碁はうちたくないのが本音。
「後ろの子どもは逆転できる、といってますよ?」
「じゃあ、君がやったら?」
いいつつ、ガタン、と席を立ち上がる。
「え?」
いきなり話をふられてきょとん、とした声をだすヒカルであるが、
「生意気な口をたたいたんだ。やったらどうだ?」
『ヒカル!すわって!』
その言葉をうけて鋭い声で佐偽がヒカルにといってくる。
佐偽。
でも相手はプロだぜ?
『ヒカルには無理でもわたしにはできますっ!逆転できたら秀作を騙る碁盤をひっこめろといってくださいっ!』
そっか。
その手もあるか。
あ、でも佐偽に打たせたらこいつ騒がないかなぁ?
『このものはおそらく、ヒカルをただの子どもとおもってあなどっています。
そんな子供に負けたなど恥ずかしくて誰にもいえないでしょう』
なるほど。
それもそうだな。
ガタッ。
佐偽の言葉は至極もっとも。
それゆえに先ほどの男性の変わりに席にと座る。
「おいおい。本当にやるのかい?」
「そのかわり、俺がかったらあの偽物の秀作を騙る碁盤をひっこめろっ!」
「ふん。やれるものならやってみろ」
生意気なガキが。
そんなことできるはずがないじゃないか。
少しは腕に覚えがあるようだが、実力をおもいしらせてやる。
そんなことをおもいつつも、鼻にかけた言葉でいってくる。
「約束したぜ!おじさんたちもきいたよね!?」
とりあえず周囲にいたギャラリーにも確認を促す。
「え?あ、ああ。だけど、君、相手はプロだよ?」
何があったのかはわからないが、そもそも子供がブロに勝てるはずもない。
しかも一度劣性になった盤面をひっくりかえすことができるとは到底思えない。
それゆえに席にと座ったヒカルに心配そうにと問いかける大人たち。
「でかい口をたたきやがって。ギャフンといわせてやる!」
「お前のような悪いやつにまけるかっ!」
佐偽!
おもいっきりやっちゃえっ!
『いわれなくてもそのつもりですっ!いきますっ!十の四!一間ジマリ!』
バチッ。
佐偽に示されるままに盤面に集中し、対局を始めるヒカルの姿がしばしその場において見受けられてゆく。
-第8話へー
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あとがきもどき:
薫:さてさて。次回で倉田さんの登場vv
佐偽の指導碁がいいがゆえに石の筋というか道はみえはじめているヒカルだったりv
でも、ヒカルクン。まだ碁をおぼえはじめて一週間とちょいですよ(笑)という突っ込みはおいておきますv
ではでは、次回のはじめは倉田さんしょっぱなから登場ですv
ではでは~♪
2008年7月24日(木)某日
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