まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

ちなみに、設定上。
ヒカルは多少の霊能力の持ち主、という形になっておりますv
女性バージョンのほうはほぼ麦子(笑)状態であるいみ無敵、なんですけどねv
こちらのほうはそこまでの力はありません。
ええ、ただ視えるけど対処とかはできないのでほうってる状態?
まあ、一応、多少のことは自分でどうにかできるくらいの力は自分を守るために覚えてる程度です。
あと、佐偽の設定がところどころでだしてきますけど、彼は視える人にも「ひかりの塊」にしかみえませんv
さあ、この意味わかるひとは、あるいみその筋に詳しいか、はたまた興味がある人ですvふふふ♪

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お父さん。
僕は今までお父さんのことばをほこりに、そして今まで頑張ってきました。
だけども、それじゃあ…それだけじゃあ、ダメ、なんです。
今、僕の目の前にとてつもない大きな見えない壁があるんです。
そう、視えない壁が……
僕は…僕は……
何もしらない相手に完ぺきなまでに打ちのめされた。
彼がもしきちんと碁の基本から何から何まで覚えていけばどうなるのか。
それは誰にもわからない。
わからないが…だけどもいえることはただ一つ。
自分は回りのいうとおりいつでもブロになれる実力がある、そう自負していた。
だが、それは間違いだ、ということ。
進藤光。
僕は…僕は、君を……君に絶対においついてみせる。
それこそが僕が神の一手に続く道を極めるために必要なことだ、とおもうから。

星の道しるべ   ~創立祭~

「……ありません……」
実力があるがゆえに気づいてしまった。
目の前の彼は真剣勝負をしているわけではない。
むしろ、どちらかといえば碁を完全に楽しんでいる。
でなければこんな形にしてくるはずがない。
しかも、おもいっきり力の力量がわかってしまうがゆえにくやしさがこみ上げる。
どうしてこんな盤面をさらっと築きあげることができるのか。
自分は全力で打ち込みしている、というのに。
そんな自分が簡単に手玉にとられているのが痛いほどにわかってしまう。
「……え?…え?…えっと……」
いきなりうなだれて、何かいわれたヒカルからすれば意味不明。
相手の番だというのにうってくる気配がまったくない。
『おや。ここで投了、ですか。どうやら気づいたようですね。…しかしできれば最後まで付き合ってほしかったですねぇ』
そもそも、ここまでくらいついてきた彼の実力はたしかに普通の子どもとは格段にかけ離れている。
とはいっても、所詮は子供。
彼にとってはまだまだひよっこ、といっても過言ではない。
「…投了?何で?まだまだこれからなのに?」
佐偽の言葉に納得できずに思わずといかける。
そもそも盤面上はまだ半分以上も面が残っている。
「何で…だって!?君は…君は僕を馬鹿にしているのか!?この局面は…っ!…」
このまま最後まで打ち込みしてもおそらく確実に自分はまける。
それどころか最後のほうには力の差を歴然と思い知らされる棋譜ができあがるのである。
「…アキラくん……」
この場にいるものは素人でないがゆえに、アキラがいいたいことはわかる。
あきらかに相手の子供の力量がはるかにまさっているのは明白。
手玉にとられるかのように、まるで盤面に絵を描くかのごとくにいいように使われてしまっているのだから。
佐偽にいわれ、石をただ言われた場所におくだけでなく流れとしてみつつも石をおいていた。
まるで、宇宙空間に新たに銀河が生まれ出でるような、そんな不思議な感覚がこの盤面上にはある。
そんな不思議な感覚。
この感覚がどこまでひろがってゆくのかわくわくしはじめてきたその矢先の塔矢の投了。
まだまだこれからだとおもうのに、投了、といった塔矢明の気持ちがヒカルにはまったくもってわからない。
「…って、ああっ!そうだ!アカリ!ごめん!塔矢!俺、アカリおいかけないと!
  あいつ、下手したら母さんたちにいいつけかねないしっ!そ~したらそれこそこずかい永遠停止のかのうせいもっ!
  それじゃ、またな!塔矢の気迫、何かすごかったぜ!じゃあなっ!
  あ、お姉さん、ありがとうございました。おじゃましました~!!」
アキラがどうして打ちのめされているのかなんてヒカルにはわからない。
わからないが、ふとアカリのことを思い出し、あわててガタンと席を立ちあがる。
そのまま、唖然とする大人たちをそのままに、一気に外にと駈け出してゆく。


九月十五日。
敬老の日。
『ヒカル。今日は学校とかいうところはおやすみですか?』
佐偽が学校に一緒にいったのは、土曜日の午前中と昨日のみ。
「今日は敬老の日」
『けい…?』
そういや、こいつもいちおう、かぁぁなりの年長者、だよなぁ。
生きてはもういないけど。
葉瀬中学校、創立記念十五周年祭り。
そんな中学の表門の目の前でとりあえずアカリをまっているヒカルの姿。
昨日はさわぎまくる佐偽のせいで体育の成績はさんざんだった。
もっとも、またまたいきなり抜き打ち的に出された社会のテストは佐偽のおかげで何とかなったが。
たまたま新聞に何かの戦いの碁の棋譜がのっており、佐偽に教わり棋譜とは何かをようやく理解したのは一昨日のこと。
家に碁盤も何もないのでひとまず佐偽から習うのは新聞に描かれている絵にて教わっている状況。
なんでかこいつ、俺に教えたがってるのは何でだろ?
そんなことをヒカルはおもうものの、だけども確かに聞いてみれば数式よりもかなり複雑で解かれたときには面白い。
それに先日のあの石のきれいな並びをもう一度みてみたいなぁ。
という思いもある。
あのまま続きざまに打ち続けていればどのような盤面になったのかも気にかかる。
「しかし…あいつこねえじゃないかよっ!」
おもわずぐちをいいたくなってしまうのは仕方がないだろう。
『アカリちゃん、きませんね~』
とっくに約束の二時は過ぎている。
まあ、午前中は社会保険センターにといき講義をうけていたヒカルなのだが。
初日は何をいっているのかきれいさっぱりわからなかったのが、ここ数日の佐偽の講義で理解できるようになっている。
理解ができるようになればそれはそれでまた楽しいのも事実。
「だぁっ!あいつはぁっ!まぁだねにもってんのか!?」
さけべどどうにもなりはしない。
『ヒカルヒカル。それより、今日のこれはお祭りですか?寺小屋のお祭り?』
佐偽にとって学校とは、イコール寺小屋、というイメージが強いらしく不思議でしょうがない。
まあ、たしかに江戸時代などは寺小屋、と呼ばれてはいたにはいたが……
「う~。おれ、今日は五百円しかもってきてねえんだよっ!」
何か買おうとおもえばたしかにかえなくもないが、それだと絶対にあとがこまるのは明白。
しかたなく、そのまま並みいる屋台を横目にとにかく中にすでにはいっているのかもしれない。
そんな思いを抱きながらも学校の敷地内にとはいってゆくヒカルであるが。
「ん~。まあそんなもんだな。それぞれの部活が出し物やってるんだよ」
『・・・ぶかつ?何ですか?それ?』
「おまえ、この時代のこともっとよく知ったほうがいいぞ。絶対に」
何しろ飛行機とかを幾度みても巨大な鳥だ、と騒ぐのである。
体育の時間中などにそれをやられてはたまったものではない。
いくらあれは空を飛ぶ乗り物だ、といっても信じようとしないのは年代が年代の幽霊だけにしょうがないのかもしれないが。
人間、何よりも柔軟性が必要である。
『そうはいっても。何ですか?けっきよくぶかつとは?』
「え~と、学校の中で学べるそれぞれの科目?みたいなものかな?自分が好きなものがただで習えるんだよ」
まあ、嘘ではない。
説明の仕方が間違っているような気もしなくもないが、それ以上ヒカルには説明の仕様がないのも事実。
『へ~、ほ~。すごいですねぇ。あ、ヒカルヒカル!あれ、何ですか!?あれ!』
佐偽にとっては見るものすべてが新鮮そのもの。
何しろこのように街中をあるくということすら約百四十年ぶり。
しかもふわふわとうかんでいる球らしきものなどみたことないものばかりであるがゆえにはしゃいでしまうのは仕方がない。
あのときは虎次郎と常にともにいた。
今は私はヒカルとともにいる。
その奇跡に感謝せざるを得ない。
そんなことをおもいつつ、何やらひとりはしゃいでいる佐偽であるが。
「おまえ、ほんっとみててあきないなぁ。…あれ?」
『あれ?あ、ヒカルヒカル!あそこ、あそこっ!』
ふとみれば、軒並み並ぶ屋台の一角に机のみが置かれている一角が。
その机の前には紙がはってあり、『碁』と一文字のみかかれていたりする。
「何か碁をやってるみたいだなぁ」
わくわく、どきどき。
くすっ。
それをみつけて佐偽の目がきらきらと輝いているのをみてとりおもわず苦笑する。
「少しいってみるか?」
『はいっ!!』
ヒカルの言葉にぱっと顔を輝かすその様子はたしかに見ていてあきない。
くるくるとかわる表情のそれは、まさに小さな子供がころころと表情を変化させるのとほぼ同じ。
ようはこいつ、何だか誰にもみえないペットみたいだよなぁ。
『?ひかる?ぺっと…とは何ですか?』
「何でもない。とにかくのぞいてみようぜ」
おそらく佐偽がその言葉の意味を理解していれば烈火のごとくに怒るところであろうが、佐偽にはその意味はわからない。
それゆえに話をはぐらかし、その一角にとヒカルは足をむけてゆく。

「では中級の問題です。三手まで示してください」
一人の学生が対面に座り、大人の男性を相手にしているのが見て取れる。
周囲にはさほど人はいないが、いるのは数名の大人のみ。
「まず、白がツケだろ。で、白が……」
『あ~…』
挑戦しているらしき人物のその手の内容に佐偽がかなりもったないないような声をだす。
つまり、間違えてる、ということだな、こりゃ。
ヒカルがそう思うとほぼ同時、
「それでは白がこのようにうってきましたらどうします?」
ぱちっ。
この一角をやっているのはどうやら一人の学生らしい。
「あ、そうか。むずかしいな。あはは」
いいつつも、挑戦していた相手はがたんと椅子から立ち上がる。
『?ヒカル、ヒカル。この本は?』
ふと机の横に置かれている本にと目をとめて佐偽が問いかける。
「?塔矢名人戦、詰め碁集?」
塔矢名人?
塔矢?
へぇ。
あの塔矢とおなじ名前かぁ。
すごい偶然。
そうヒカルはおもうが、よもやあのアキラがその塔矢名人の息子だとは夢にもおもっていないのがヒカルらしい。
名人、というからにはおそらくブロの一人なのであろう。
『ヒカル、ヒカル!ほしい!私ほしいですっ!!』
がばっ!!
いきなりそう叫びながらも後ろからしがみつかれてはたまったものではない。
あ~…わかった!わかったから!しがみつくなっ!
心の中でおもいっきり叫びつつ、
「ねえ、これ何?」
「ああ。それ?詰め碁の正解者に景品をあげてるんだよ。どう?君もやってみる?」
「あ。うん。えっと次いい?」
「どうぞ」
促されて席にとすわる。
「じゃあ、一番簡単なのからやってみようか。君、何年生?」
相手はどうみても小学生。
まあ、彼も中学一年なのでそんなことをあまりいってはいられないが。
「あ、六年です」
「じゃあ、これ。示してみて」
あれ?
これだと……
まだ碁を覚えたばかりとはいえ、何となくわかる。
佐偽。これなら俺にもわかるかも。だまってて。
『ヒカル?』
まあたしかに、盤面をみたかぎりはかなり初心者むけ。
「え~と…こことこことここ」
とんとんとん。
とんとんと白と黒を交互にうちながらも、石をとりあらたに置きなおす。
「お~」
「えらいえらい」
周囲にいた大人たちからぱらぱらとした拍手がおこる。
大人たちにとっても子供が碁に興味をもつのは好ましいこと。
「正解。はい。賞品」
いって出されたそれはポケットティッシュ。
「え~?ポケットティッシュ!?もっと難しいのやってよ」
まあ、あってこまるものではないが、ほしいのはそれではない。
「え?もっと難しいの?大丈夫?」
おもわずそういわれて問いかける。
相手は小学生。
しかも今の一手もかなり時間がかかったというのに。
そんな彼の思いとは裏腹に、
佐偽、頼むよ?
『はい』
こそっと佐偽にとバトンタッチしているヒカルの姿。
「じゃあ、有段者の問題だ。これは僕でも難しいかな……」
いいつつも相手が碁を並び終えたその直後。
『三の十四。四の十四。一の十六』
ちらりとみただけで即答している佐偽。
そんな佐偽の言葉に従い、とんとんとん、と示されたままに石をおいてゆく。
「……え?」
ざわっ。
考えるまもなくの即答。
それゆえに一瞬、周囲にいたギャラリーからどよめきがおこる。
「せ、正解……」
「おい。今この子、即答したぞ?」
「あ、ああ……」
はじめのどうでもいいような簡単な手には少しばかり時間をくったというのに。
どうみても難しい盤面の即答に大人たちからどよめきがわきおこる。
「え~?缶ジュース!?」
相手の即答に驚きながらも無言でジュースを差し出す。
この子…何もの?
そんな疑問が頭をよぎる。
「えっと。一番難しいのやってよ!そうだ、あの本がもらえるほどのさ」
「え?一番難しい…って。こんなの解けたら塔矢明レベルだよ」
ヒカルのセリフに驚きながらも、とりあえず言われるままにと石を並べる。
「え?塔矢!?塔矢ってあの塔矢!?あいつそんなにすごいの!?」
知っている名前をだされて思わず驚きを隠しきれないヒカルであるが。
「もうブロ試験にいつでもうかる実力だ、っていわれてるよ。大人相手に指導碁のようなこともやってるらしいし」
「俺、あいつの対局のときの顔、しってるんだ。まじ怖いくらいの顔だった。
  それに唖然としたときの顔とのぎゃっぷも」
対戦中はものすごく怖い顔をしていたというのに、アカリの行動に呆然となっていたアキラの姿が脳裏に蘇る。
「唖然とした顔。ってあの塔矢明がそんな顔するときってあるの?君、知り合い?」
「え~と。あったのは土曜日がはじめて。一昨日もちょっと偶然にあったけど」
あれは偶然、というよりは何ともいえない出会いであったが。
「そうなんだ。その塔矢明ならこの難問もとけるとおもうよ」
塔矢なら……
じっと盤面をみつめて思わず考え込む。
『ヒカル。自分でやってみますか?』
多少確かにレベルは高いうちにはいるのかもしれないが、佐偽からすれば造作もない盤面上。
まだ基礎を覚え始めのヒカルに解けるとはおもえないが、ヒカルには隠された才能があるのは明白。
それゆえにヒカルに問いかける。
「ふっ。一手目は…ここだろ?」
ヒカルが盤面上をじっと睨んでいるそのさなか、いきなり横に人の気配が発生し、
「何をするんだ!?」
いきなりあらわれた人物は口に含んでいたガムを盤面の一手にいきなりなすりつける。
「けっ。やめちまえ、やめちまえ!囲碁なんて辛気臭いものっ!
  石ころの陣地とりなんてくだらねえよ。将棋のほうが千倍面白いぜ。
  な~にが塔矢明だ。あんなやつ俺にまけたサイテー野郎だ!」
何やら袴のような着物をきている赤いかみの人物。
着物に将棋の文様が描かれていることから将棋関係の人物であることは明白であるが。
『ふむ。いささか素人には難しいかもしれない盤面をあっさりといた。この男、何もの?
  しかし…盤面上を汚すとはっ!ヒカルヒカル!盤面を汚す輩はこの私が一刀両断にします!』
何か横で憤っている佐偽の姿が気にはなるが。
「…誰?こいつ?」
おもわず素朴な疑問を口にするヒカルに対し、
「加賀鉄男。中学二年。前に塔矢明がいた囲碁教室にかよってたんだ。今は将棋部だけど。
  …塔矢明を直接知っている人は少ないよ。彼は大会にもでてこないし。
  この間の子ども囲碁大会にもでてこなかったし…って、そうだ!おもいだした!君はあのときの!」
あのとき、大会の途中、いきなり口出しした子供がいたことを思い出す。
ちらりとしかみなかったが、たしかに目の前の子どもだったはず。
「塔矢がまけた!?あいつがまけたっていうのか!?」
「はん。オレが強いからにきまってるだろ。ば~か」
むかっ。
何だかとてもむかついてしまう。
「何だと!?ガムをおしつけるような常識しらずのやつが強いはずないだろうっ!」
「何だと!?」
きっとにらんでくるヒカルにたいし、むかっとするものの。
「そういや筒井よぉ。囲碁部をつくるって話はどうなったんだよ。メンバー集めに必至だったよなぁ。
  条件次第じゃでてやってもいいんだぜ?」
「…囲碁部?」
部の人じゃないの?このひと?
「うちの学校には囲碁部がないんだ。三人そろえて団体戦に参加できれば学校が部として認めてくれるんだ」
「オレの腕はしってるだろう?お前の一千倍はつよいぜ?」
「…碁盤にガムをおしつけるようなやつに誰がたのむもんかっ!」
「けっ!よくいうぜ!この間、大会にでてくれって頭さげにきたのは誰だよ」
「ほら!詰め碁の景品!これもってさっさとあっちいけっ!」
何やら絡んでくるその人物につきつけるようにと景品の本をなげやりにと手渡すその筒井、と呼ばれた生徒。
「…塔矢名人戦、詰め碁集…」
景品といってわたされたそれをみて一気に顔色を変え、
びりっ。
ビリビリビリ。
「「ああっ!?」」
押しつけられたその表紙をみるなりいきなりビリビリと破きだす。
その様子に周囲にいた大人たちからも叫び声があがるものの、
「くだらねぇ!オレは塔矢明と囲碁がだいっきらいなんだっ!!」
ビリビリに本をやぶき、さらには地面にたたきつけておもいっきり踏みつける。
『ああっ…』
その様子をみて思わず悲しさから涙を流している佐偽であるが、
「何するんだよっ!おまえそれでも中学生か!?世間の常識なってないんじゃないのか!?
  本をやぶったり、ガムを盤面におしつけたりっ!!それに塔矢のことにしても!
  塔矢がまけたって!?お前のような常識知らずのやつにあいつがまけるものかっ!!
  塔矢が嫌いだって?わけをいえよっ!どうせおまえの常識がなってないからにきまってるっ!」
こういう常識はずれの輩はどうしても許せない。
それは昔からの性格。
「…何だと?調子にのるんじゃねえ。ガキが」
「調子にのってるのはおまえのほうだろ!?あやまれよっ!」
悪いことをしたら何はともあれ謝らなければいなけいというのに、目の前のこの人物にはそれがない。
「ガキがいきどおってるんじゃねえよ。あんまり調子にのるんじゃねえ。よぉくみてろ」
いいつつも、近くにあった碁石をつかみ、両手で石を交互に投げ始める。
「どっちだ。あてたら何だってはなしてやるぜ。そのかわりはずしたらわびをいれるまでボコボコにしてやる」
両手を前にとつきだしまるで挑発するようにとヒカルにいってくる加賀、とよばれた男性。
「つまらないことをいうな!加賀!君、もうかえるんだ!」
相手は小学生だというのに。
加賀は何をかんがえてるんだ!?
そんなことをおもいつつ、この場を開いていた筒井が抗議の声をだし二人の間に入り込む。
「けっ。覚悟もなしに人をなめたセリフをいいやがって。むかつくんだよっ!」
『ヒカル。やめたほうがいいです。あのものには勝負強さを感じる。
  勝負なら囲碁にしなさい。わたしがこものに知らしめてやりますっ!』
勝負強さ?
そんなの関係あるものかっ!
それに…それに……
「ふざけるなっ!!!!どっちの手にもないじゃないかっ!
  塔矢にかったって!?どうせ今のそれのようにずるしたんだろうっ!!
  インチキしたにきまってるっ!それか塔矢が本気じゃなくてわざとまけたんだっ!」
叫びながらも差し出された両方の手をはたいておもいっきり叫ぶ。
石の動きがみえていたわけではない。
ないが、わかる。
どちらの手にも石がはいってないということくらいは。
「なんだと…もういっぺんいってみろっ!」
「ああ!幾度でもいってやる!おまえなんか塔矢にまけて囲碁から逃げて将棋にいったにきまってるっ!」
こんなやつにあの塔矢がまけたなんて絶対にありえない。
自分たちのたわごとにすら本気でおこったあの塔矢が。

いらいらいら。
「…どけ!筒井!」
自分の手さばきには自信があった。
それなのにいともあっさりと見破られ、さらには気にしていることをずばっといわれて黙っていられるはずがない。
「そこまでいうならこぞう!俺の実力をみせてやるっ!」
ばっ!
憤りにまかせて筒井が座っていた席にとすわり、手にした扇をばっとひろげる。
「オレが負けたら土下座でも何でもしてやらあ!そのかわりお前がまけたら冬のプールにでもとびこみやがれ!」
『ぷーる?』
たわいのない子供の喧嘩ではあるものの、相手の言葉の意味がわからずにきょとんとする佐偽。
「いったなぁ!!佐偽っ!」
こいつ、こてんぱにしてやれっ!!
佐偽の実力はよくわからない。
だけどもこんな傍若無人の輩は絶対にゆるせない。
『わ~い。対局、対局v』
お前、負けたら承知しないからなっ!
何だか場違いに喜んでいる佐偽にひとまず釘をさしておく。
『十七の四。右うわすみ、小目』
佐偽が示したままにことりと石を盤面上においていく。
「何だ、てめぇ。そのうちかたは」
相手の素人まるだしのそのうちかたにいらいらがさらにつのる。
「うちかたなんてどうでもいいだろ!?」
ヒカルに打ち方を求めるのはまだ早いというもの。
何しろ彼は石を始めてもってからまだ数日しか経過していない。
だが、そんなことは対戦者である加賀は知る由もない。
『十五の四』
「生意気な口はかってからにしろ!」
こんなやつにオレの気持ちがわかってたまるかっ!
本当は囲碁でなく将棋がはじめからやりたかった。
それなのに親は囲碁教室にとかよわせた。
その教室にかよっていたのがあの塔矢明。
自分はライバルとおもっていたのに、相手はそうはおもっていなかった。
いらいらする。
どいつもこいつも、いつもいつも彼のことばかり。
そんなことをおもいつつも、目の前の子どもと対戦を続ける加賀。
しかし…それにしてもこいつ、やるな。
自分の打ち込みにどうじることなく、逆に何だか翻弄されているような気がしなくもない。
…へぇ。
この子、以外とやるな。
あの加賀あいてに……
どうみても子供のほうが相手を振り回しているのが見て取れる。
『十一の十五。十二の十六』
…楽しい。
このもの、塔矢明にはおよばないものの私の一手一手に面白い手をうちかえしてくる。
勝つことは造作もないがまだまだ遊びの一手をたのしみたい。
わくわくしつつも指示をだす。
……何となくいやなよかん。
ちらりと背後に目をやれば、何やらにこやかに支持をだしている佐偽の姿。
…おまえ!あそんでるだろ!?本気でやれよっ!こいつが何をしたのかわすれたのか!?
何となく佐偽のわくわくした感情がつたわってきて確認したら案の定。
何やらおもいっきり楽しんでいるような佐偽の姿が目にとまる。
それゆえにおもわず心の中でおもいっきり叫ぶヒカルであるが。
こいつは、碁盤の上にガムをおしつけるようなやつで、しかも人からもらった本をやぶるようなやつなんだぞ?!
さらにはそのやぶった本を地面になげつけふみつけた。
『……そういえば。すっかり失念してました。このものが面白い手をうちかえしてくるものでつい……』
ヒカルにいわれてそのことをようやく思い出す。
つい、じゃねえっ!
俺はこいつにあやまらさないと気がすまないのっ!だからお前も本気でやれっ!!
『…仕方ありませんね。まあ、ここまで遊びの一手を楽しんだのでよしとしましょう。
  では、ヒカル。これから一気にいきますよ?』
まだまだ遊びの一手を楽しみたいものの、たしかにヒカルのいうとおり。
神聖なる碁盤を汚したのも事実である。
「よっしゃ!そうこなくちゃっ!これからが本番だっ!」
「…な、何だと!?」
ばちっ。
今まではどちらかというと互角以外の何ものでもなかったというのに、あっという間に形成は逆転の様子をみせてゆく。
ごくっ。
「・・・このこ、何もの?」
おもわずごくりとのどをならす。
このままでは先手の黒が中押しで負けるのは明らか。
それほどまでに子供の力量がはるかに勝っているのが素人目にもわかる。
くそっ。
何なんだ!?こいつは!?
おもわず焦りがでてしまう。
よっし。
このまま…佐偽、おまえやればできるじゃん。
そうおもいつつ、ちらりと背後を振り向くヒカル。
と。
「…あ、あ~~~!!アカリ!!あいつ今ごろっ!!」
ふと後ろのほうにアカリの姿を認めておもわず席をがたんと立ち上がる。
「…えっと、君の番だよ?」
「え?あ、うん」
とりあえず横からいわれて何も考えずに近くに石をおいてしまう。
『ヒカル!そこではっ!!』
「アカリ!!…って…え?…ああ!まった!」
あきらかに誰か知り合いをみつけてミスしたのは一目瞭然。
「けっ。まっただと?…碁にまったはない」
どこか内心ほっとする自分にきづいて情けなくなってしまうものの、だがこれで助かったのも事実。
「あ…あ~。黒がしんじゃった」
誰の目にも子供が知り合いの姿をみつけておもわず石をどこでもいい場所においたのは明らか。
だがしかし、囲碁には打ち直し、というのもは存在しない。
「けっ。こんなミスをするようなやつだったのかよ」
そういうのは自分に対していっているようなもの。
言わずにはいられないほどに目の前の子どもは彼を追い詰めていた。
『ふぅ。仕方ありません。十二の十五』
「へへ。さっきの一手が命取りだったな」
相手のミスで手にいれたのは実力にはあたらない。
それでもミスはミス。
それゆえに容赦なくうちこみ石を六個一気に取り除く。
「え~?!そんなに!?というかまったっていったじゃないかっ!」
『ヒカル。石は一度おいたら動かせません。それが一手の重みです』
「でもっ!」
『おちついて。ヒカル。まだ逆転のチャンスはあります。さあ全力でおいかけますよ?』
「へへ。投了するなら今のうちだぜ?冬のブールがまってるぜ~」
むかっ。
「何を!勝負はこれからだっ!!」
『いきますよ!ヒカル!』
「みてろよっ!」
さきほどのあれはアカリの姿をみつけて気をとられてしまった自分の失敗。
今度はきちんと集中し絶対に打ち間違いはしないっ!
そう心に固く誓いつつ、改めて盤面にと向かってゆくヒカルの姿がしばしその場において見受けられてゆく。

「?ねえ。さっきヒカルの声がしなかった?」
「え?進藤くん?」
おもわず振り向くがそこには見慣れた姿はない。
「あ!わかった!私たちの前に誰か誘った、っていってたの。あれ進藤くんでしょ!?」
「もう!何よっ!」
女の子の三人組。
ゆえに女の子があつまればそういった類の会話になるのは仕方がない。
「てれちゃって。アカリ、かわい~」
「そういえば、このタコヤキおいしかったね。どこだったっけ?」
「たしか校舎のあっちがわだったよ?」
「じゃ、またかいにいこ!」
きゃいきゃいと騒ぎつつも、その場をあとにしてゆく彼女たちであるが。
彼女たちが立ち去ったのち、何ごとかとのぞいていた男性がふと位置をずらす。
男性の姿で座っているヒカルの姿がアカリたちの目からはみえなかっただけで実際にヒカルはそこにいるのだが。
そんなことに彼女たちはきづくことなく、なごやかな会話をしつつもタコヤキをもとめてあらたに歩き始めてゆく。

「・・・あれ?進藤くんじゃない?」
しばらくのち、また先ほどとおなじ場所にともどってきた。
ふと目にはいったのは何やらイスにすわっている進藤光の姿。
「本当にきてたんだ」
アカリといっしょにいたもうひとりの少女がおもわずつぶやき、やがて二人してにっと笑みを浮かべて顔を見合わせる。
「じゃ、私たちはこれで!」
「そうね~」
アカリがヒカルを好きだ、というのは傍目にもあきらか。
ヒカル自身はまったくもって気づいてもいないようだが。
それゆえに気をきかせてその場をたちさるアカリとともに行動していた二人の少女。
「え?そんな」
「進藤くんによろしく!」
「もうっ」
ひらひらと手をふりつつもその場をあとにしてゆく二人の姿をみつつ、おもわず文句の一つもいいたくなってしまう。
二人の姿をみおくりつつも、ヒカルがいる場所にむかってアカリは進んでゆく。
「ヒカル、きてたの?いかないっていうから私、サヤカたちときちゃったの。何してるの?…碁?また?」
何やらイスの前には机がありそこには何か祖父の関係で見慣れた碁盤がみえている。

「……なっ……」
おもわずその盤面をくいいるように見詰めてしまう。
絶句する以外のなにものでもない。
『コミをいれて白六十八目半。黒六十八目。…半目負け。一歩とどきませんでしたか……』
一手をうつ間も目測をしているがゆえに半目ほどまけた、というのは自覚している。
それゆえにため息まじりにつぶやく佐偽。
「くそっ!!佐偽!おまえだいじょぅぶっていったじゃないかっ!」
『わ、私はせいいっぱいやりましたよっ!』
あとすこし盤面があればたしかに逆転は可能であったであろうが。
何しろこちらが先番の黒である。
相手にコミとして五目半ほどあるのでジゴにはもちこめない。
そんなルールがなければ間違いなく逆転勝ちをしている盤面なのだが……
「ばかやろう!アカリ!おまえのせいだ!おまえに気をとられてうちまちがえたんだ!
  あ~!冬のプールぅぅっ!」
たしかに佐偽をせめてもどうにもならない。
打ち間違いをしたのは自分なのだから。
ゆえにどうしても原因をつくったアカリに八つ当たりをせずにはいられない。
冬のブール、というからにはおそらく十二月かそこらに泳げ、ということに違いない。
まだ今の季節ならばそれほど苦でもないがくそ寒い日に泳ぐなどそんな趣味はない。
それゆえに頭をかかえて叫ぶしかないヒカルなのであるが。
そんなヒカルの様子に気づくこともなく、
「あの大差から半目差までおいつめた…嘘でしょ?」
呆然と盤面上をながめてつぶやいている筒井。
あそこまで大差が開いたというのに。
普通というか常識では考えられない。
「し…信じられない。あ、あの大差からコミをいれてしかも半目差までおいつめた。
  この怒涛の追撃。…かとおもえば筒井でもやらないようないくら知り合いに気をとられたとはいえ中盤のボカ……」
あのとき、たしかにほっとしたのは事実。
あのままでは中押しでまちがいなく負けていただろうから。
相手のミスで逆転したものの、蓋をあけてみれば半目かち。
つまりはコミなどがなく、自分が先手ならばまちがいなく相手が勝っていたはずである。
「僕でも、はよけいだっ!」
加賀のセリフに思わず突っ込みをいれるものの、たしかに目の前の子どもの実力に驚愕せざるを得ないのも事実。
何やら知り合いらしい同い年とみうけられる女の子と言い合いをしているヒカルのほうと盤面上を交互にみつめ、
何やらとても複雑な思いに駆られてしまう。
と。
「…筒井。学ランぬげ」
「・・・え?」
「いいからぬげって!」
「何で!?ブールにはいるのは彼なんだろう!?」
文句をいうよりさきに、はぎとられるようにして制服が脱がされる。
そのまま筒井から奪った制服をいまだにアカリと言い合いをしているヒカルにと投げつけ、
「筒井。囲碁大会の団体戦のメンバーがきまったぜ。俺にお前に、こいつだ!」
「・・・え?」
「…はぁ!?」
いきなり学ランがなげつけられ。前がみえなくなりもがくヒカルの耳にとどいてきたのは意味不明な言葉。
「そ、そんなのダメだよ!彼はだって小学生だよ!?」
加賀の言葉にいっしゅん、間の抜けた声をだすものの、はっと我にともどりあわてて言いつのる筒井。
「負けたんだろ。ならいうこときけ。冬のプールよりはましだぜ?」
「って、何の話だよ!?」
まったくもって話の方向性がわからない。
それゆえにヒカルとすれば叫ぶしかない。
そんなヒカルの思いとは裏腹に、
「オレが大将で、こいつが副将、んでお前が三将、な」
「何で僕が三将なんだ!?」
何やらかってに話しが進んでいる…というか、加賀と呼ばれた男性が勝手に話しを進めているような気がする。
「実力順だろ?ものすごくわかりやすいじゃないか」
「というか小学生に副将をやらせるわけにはいかないよっ!というか彼はまだ小学生だぞ!そんなのがばれたらっ!」
筒井の言い分のほうがはるかに常識的に理にかなっている。
ようやくそんな会話の意図を悟り、
「ってそんなのダメにきまってるじゃん!まあ冬のブールよりはましかもしれないけど!だけどっ!」
あわてて抗議の声を上げているヒカルであるが。
いったいどうしてそんな話になっているのかまったく佐偽には理解不能。
アカリもまた何を彼らが話しているのかまったくもって理解不能。
「筒井。よかったな。どうせまだ一人も部員あつまってないんだろ?これで大会参加で部ができるぜ?」
「か、加賀!だけどもしバレたらっ!」
中学生の大会に小学生がでるなどきいたことがない。
そもそもバレたらおおごとすぎる。
「そうはいうけどな。筒井。お前もこいつの本当の力、みてみたいだろ?」
「そ…それは……」
あの怒涛の追撃。
実力がなければできるはずもない。
難しい盤面を即答したあの能力。
たしかに力をみてみたい、というのはかなりある。
「ヒカル?何のこと?大会?」
「だから!おまえのせいだってば!こいつとの対戦中、お前の姿をみつけてつい別の場所に石をおいちゃったのっ!俺はっ!」
「?なら石をおきかえればいいじゃない」
「それができないからこんな目になってるんじゃないかっ!というかお前がそもそも強く二時に集合っていったんだろ!?」
「よっし!きまりだ!」
「……大会にでるか。それとも冬のブールか。おまえどっちがいい?」
…うっ。
アカリと言い合いをしている間にどうやら話はまとまってしまったらしい。
「……わかったよ。それで、その大会っていつなの?」
「えっと。今度の二十三日の秋分の日。海王中学で。時間は十時から」
「よっし!じゃ、さっそく筒井、大会にもうしこめ!」
「ヒカル?いったい何がどうなったっていうの?ねえ?」
「だ~か~らっ!ぜ~んぶおまえのせ~だぁぁ~~!!」
一人、よく理解していないアカリの質問に、叫ぶヒカルの声がしばし葉瀬中学の校庭内に響き渡ってゆく……


                              -第6話へー

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あとがきもどき:
薫:さてさて。ここから原作&アニメとだ~~いぶ展開がかわってきます(笑
  そもそも、本来ならば創立祭りの前に塔矢名人とのかかわりがありますしねぇ。
  それがいままでない、というのはこれからの複線なのですよv
  というわけで(何が?)次回でその塔矢行洋名人の登場ですv
  あ、緒方さんもでてきますよv
  ではでは、また次回にて~♪

2008年7月23日(水)某日

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