大ホールを埋め尽くす、人、人、人…… とにかく人の姿。 いちいち挨拶しなければならないのが苦しいところ。 本日の主役たるグレタもかなり戸惑い気味だ。 どうでもいいけど…今年おふくろはオレ用のタキシードまで用意していたらしく、 それをアンリに言付けていたりすものだから…もう窮屈でしかたがない。 当のアンリはといえば、八ミリビデオをかかえて会場内の撮影に余念がない。 グレタやオレ、それにツェリ様やコンラッドを撮りつつ会場内を歩き回っている。 記録を残しています。 とアンリは人々に説明しているけど。 …それって【ここ】では通用しないとおもうぞ…… 言葉はおふくろたちにはわからないはずだ。 アンリが何か説明をいれつつ撮っているけど。 オレとしてはそんなことを気にしている暇がないほどに、 挨拶にやってくる人々の対応に追われまくりである。 そしてなぜか…… 「陛下!」 「うわっ!?アニシナさん!?それに…イズラにニナ!?」 なんでこの会場に彼女たちがいるのやら。 ヒルヤードの歓楽郷に残ったはずのアニシナさんの姿と、 そしてよくよくみれば数十人はいようかという女の子たちの姿も。 「『うわ。』とはあんまりですわ。陛下。わたくしはわたくしの発明品を取りにきたついでに。 少女たちにはもっと見聞を広めてもらおうと思いましてね。 と、ちょうどそこでグレタのお披露目パーティがあると聞いてやってきたのですよ」 ……ツェリ様といい、アニシナさんといい…… もしかして超能力というか、そういった勘が働く魔力があるのかもしれない…… そんな会話をしていると、 「あ。イズラ。ニナ!」 グレタがアニシナさんの後ろにいるイズラとニナに気づいて走りよってくる。 ドレス姿で走ったら転ぶぞ…グレタ…… 「お久しぶり。グレタちゃん。そしてユーリも。あ、陛下ってよぶべき?」 「ユーリでいいよ。王って柄じゃないもん。オレ」 イズラのそんな言葉に、思わず苦笑いしてしまう。 実際に王様って柄じゃないもん。 オレって…… 「でもよくこれたね。どう?皆のその後?」 そんなオレの問いかけに、 「今はアニシナ様の指導のもと、私達勉強しているんですよ。 あと数月もしたらお店が完成するので売りに出す商品を作りつつ」 イズラがにこやかに答えてくる。 どうやら彼女たちの待遇は無事に改善されたらしい。 「とりあえず。『女王様のお店』という名前に決定したわ」 「…うわっ…じ…女王様って……」 アニシナさんのネーミングセンスも相当なものだ。 …まさか魔族の皆さんのセンスってそういうものなんじゃあ…… 思わず薄ら寒くなってしまう。 …コンラッドという前例があるからなぁ…… 「とにかくよかった。皆元気そうで」 彼女たちが路頭に迷った利用の一つにオレの行動が関係しているのならばなおさらだ。 ずっと気にはなっていたのは事実だし。 何でもアンリの話によると、 『魔笛は雨を降らせる力をもっているものの、 それゆえに土中に埋めたりするとその雨の恵みの力を転換して、 雨を凝縮して特殊な石にと変化させる力をももっている』 らしい。 それが法石。 と呼ばれるものの一つであるらしいけど。 難しいことはよくわからない。 何しろ説明受けても理解不能。 はっきりいってオレは理数系というよりは体力系だ。 とりあえず、かの地に雨がまったく降らなくなったのも、笛を埋めたのが原因だとか何とか…… この世界の仕組みって本当に変わってる。 普通雨が古のは低気圧や前線といった自然現象による影響の賜物だろうに。 そんな会話をしていると。 「ユーリ殿」 何やらヒスクライフさんの声が。 「あ。ベアトリス。そだ。紹介するね。今度オレの娘となったグレタ。 で、グレタ。こっちがこのヒスクリイフさんの娘のベアトリス」 見ればヒスクライフさんに連れられてベアトリスもやってきていたらしい。 そういえば、ベアトリスにはまだグレタを紹介していない。 というか出会うことがなかったし。 ベアトリスにとグレタを紹介すると、子供二人してしばらく顔を見合わせ。 やがてお互いににっこりと微笑み、何やら意気投合して話し始めていたりする。 やっぱり子供って仲良くなるのが早い。 「そうそう。ユーリ殿。ヒルヤードの上層部の者がぜひといって見えられてますぞ?」 「?」 ヒスクライフさんの言葉にオレはただ首をかしげるのみ。 そりゃ、『パーティー参加者は自由』って決めたけど。 示された先を見てみれば、どうやらその人たちはツェリ様と対談中…… まあお邪魔しても悪そうだ。 「陛下」 そんなオレにと声をかけてくるコンラッド。 ……うっ! ……やっぱりやるのね……はぁ~…… コンラッドが言いたいことはわかっている。 判っているからこそため息が漏れ出してしまう。 …できたらはっきりいってやりたくない。 目立ちたくない。 というのがオレの本音。 …でもそういうわけにはいかないんだろうなぁ…… ご丁寧にアンリがオレの家からもってきていたラジカセとマイク。 それを通しての会場の人々へのご挨拶。 …そりゃ、これ使うと大声を張り上げなくてもいいけど…さ…… コンラッドに促され、とりあえず会場の前の方へと歩いていき、 ここ数日で叩き込まれた挨拶の口上を集まった人々にむけて述べてゆく。
「え~。本日は皆様。お忙しい中ご足労いただきましてまことにありがとうございます」 マイクを通しているので声がよく通る。 何かそれをみてびっくりしている人々の姿もあるけど。 とりあえず教えられたとおりの口上を述べていき、 最後に。 「尚。この声はある機械…というか装置を使って声を増幅して皆様にお伝えした次第です」 と一言のべておく。 この世界…何しろこういったマイク…とかいうのもないし…ね。 あとはあちらから持ってきていたクラッシック音楽を会場内にとかけておく。 だってずっと城に俗しているとかいう楽団の人に演奏してもらう。 というのは何か悪いし。 彼らにも休憩は必要だ。 ご飯とかも食べないといけないし。 バイキング形式の立食パーティ。 人間の皆様にはくれぐれも食べかすなどを投げ捨てないようにとお願いする。 何しろ衛生上、あれはこの上なく悪い…… 国が違えば習慣も異なる。 というので人々は心よく協力してくれている。 願わくばあの投げ捨ての習慣…人間達の国からもなくなりますように…… どうやらこの場に来ているカヴァルケードやヒルヤード。 そしてなぜか話を聞いてオレを見てみたい。 とかいう小国の人々… そういった人々もまた、物を投げ捨てるるという習慣は心のどこかで不衛生さを感じているらしい。 …だったらそういう悪い習慣…率先してやめればいいのに…… あれ、はっきりいって問題あると思うんだよなぁ~…… などと切実に思えども口にだしたりしたら国際問題云々、といわれているで口にはだせないけど。
ひとまず、集まっている人々にひとりづつきちんと挨拶をし。 そんなこんなで何かバタバタとしている間にあっという間に時間は過ぎて、 気づけばグレタのお披露目パーティーは無事に終わりを迎えることに。
公式行事って何かすっごく疲れる。 騒がれる人たちの気持ちがちょっぴりわかった気分……… その日。 オレはそのまま部屋にともどると風呂にはいりすぐに爆睡してしまった。 …かなり疲れた…… ふぅ……
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