あのベタベタぶりはどうにかならないものか。
鳥肌が立ち、歯の浮くように台詞も……
ツェリ様とファンファンさんは数日後のお披露目まで城に滞在するとか。
ファンファンさんはそれではかえって迷惑になるだろうから。
と断り、城下の宿へと流通状況のリサーチをかねて泊まるとか。
ツェリ様と一緒のときには歯の浮くような言葉の連発だ。
コンラッド・アンリ・ヴォルフラムに連れ出され、城下町を出てある場所にと足を進めている。
無論グレタも一緒に連れて。

「すっげえ……」
それ以外に何の言葉がある。
というのだろう。
お披露目パーティまであと三日。
次々に要人などもがやってきて、気がめいっているオレを連れ出したコンラッド達。
全ての疲れが吹き飛んでしまいそうなものが目の前にはある。
三日後のパーティの警備のために、
たしか交替で兵士達には休みを取らせていたんじゃなかったっけ?
目の前には確かに休みのはずなのに作業にいそしんでいる兵士達の姿も目に入る。
「驚いた?ユーリ?」
オレの横でアンリがいってくる。
「何!?何これ!?だってこれって……」
どうもても野球の球場じゃん!?
「そう。野球の球場です。
  猊下からあちらの野球場のあり方の本をいただいて。内々に建設していたんですよ」
「え?!」
「お前を驚かそうとおもってな。何しろお前は即位記念のプレゼントなんかはいらない。
  などと言い切ったし。それにもうすぐお前は十六だろう。
  一国の王の十六の誕生日ともなれば変なプレゼント。というわけにはいかないだろうが。
  かといって、お前は品物を受け取るより民に何かをしてくれ。と必ずいうタイプだしな。
  兄上やギュンターと話し合い、それに猊下の意見も聞いて決めたわけだ」
コンラッドに続いてヴォルフラムが馬を下りて腕を組みつついってくる。
丸い球場にはちゃんと段差でできた客席もあり、見れば兵士達がネットを柱にと張っている。
「本当は完成まで秘密にしておく予定だったんですけどね。色々ありましたし。元気付けようとおもって」
コンラッドが驚き目を見開いているオレにといってくる。
「というか、いつの間に!?オレなんかの為に!?」
あ。
何か感動して涙が出てきそうだ。
「みんな陛下が大好きなんですよ。この国をより好きになってもらおうと一生懸命なんです。」
「何で!?オレだってこの国好きだよ?王様としてはまったく頼りないだろうけど。
  でもこんなオレなんかの為に……」
言葉に詰まっていると、
「まあまあ。ユーリ。それはそうとおりてみようよ」
オレの叫びにアンリがにこやかにいってくる。
「まあ…国たるもの。秀でたスポーツがない。というのもあるしな。
  猊下の言われるとおり、たしかに体面的にも問題あるしな」
「このスポーツは男女といわず子供から大人まで楽しめるしね」
ヴォルフラムの声も、アンリの声も聞こえているが、オレは感動してそれどころじゃあない。
こんなすごいものをつくってもらって、オレはどうしたらいいんだろう。
余りの嬉しさに声にならない。
「ユーリ。ここって何するところなの?」
グレタがつんつんとオレの服をひっぱって聞いてくる。
「野球場。ボールを使った競技の一つだよ」
「今度グレタちゃんもユーリと一緒にやってみたらいいよ。
  ど~せユーリは国境沿いの村の子供たちにも野球教えにいってるし」
そりゃ、時間をみてはアンリに頼んで移動してはいるけども。
「うん!グレタもやってみたい!」
アンリの言葉にぱっと瞳を輝かせているグレタ。
今度グレタも一緒にあそこに連れて行ってみるかな?

ゆっくりと馬をおりて、球場にと降りてゆく。
足を踏みしめると人口芝ではない自然の芝生の青々とした感触が伝わってくる。
地面をならす見慣れた土ならしの道具も。
バットやグローブ。
といったものは、何でも眞王廟の巫女さんの一人の実家が何でも屋なので、
アンリを通して秘密裏に頼んで作ったとか。
見本をもっていったら、職人魂に火がついたらしくはりきって作ってくれたらしい。
何よりオレが好きな競技の品。
というのと、怪我もなく大人から子供まで遊べる。
というのに感動したらしい。
…いやあの…怪我は時々するんですけど…擦り傷とか、打撲とか…
あとはボールが変なところに当たったりとかさ……
ホームベースなどもきちんと大地に埋め込まれており、何とも感動的だ。
ベースとなっているのは白い石で何でも大精霊たちが協力してくれて各ベースを作ったらしい。
オレのために何でそこまでしてくれるのか……
オレとしては信じられないし、また申し訳ない気持ちで一杯になる。
『陛下!閣下!それに猊下も!まさかおいでになるとは……』
兵士達がこちらに気づいていってくる。
「皆…今日は休みのはずじゃあ……」
そんなオレの問いかけに。
「少しでも早く仕上げたいですし。それに体を動かしていたほうが楽なんですよ」
さわやかな笑顔でいってくる兵士の一人。
まあ体を動かしていたほうが楽。
というそれは判るとしても。
「でも、オレなんかの為に……体でも壊したら……」
それでなくても兵士達の勤務は大変だ。
毎日の訓練を見ていてもよぉぉく判る。
それでなくても、こんな巨大な球場。
人の手で道具もなしに作るなど、かなり大変のハズである。
「大丈夫ですよ。陛下。陛下の喜ぶ顔がみたいからって、
  四大大精霊の皆様や、その配下の精霊の皆様がたも手伝ってくれていますし。
  作業はかなり楽なんですよ?それに陛下の喜ぶ顔がみたい。というのは我ら兵士も皆同じですから」
そんなオレの思いを判ってか、何でもないようにといってくる。
「観客席などは地の精霊たちが土を盛り上げ。
  そしてその盛り上げた土のその上を火の精霊たちが燃やして。
  そしてレンガのように固まったところで、
  風の精霊たちが山から持ってきた岩を水の精霊たちが綺麗に切り刻んで。
  それらの岩を固まった土台の上にならべていったんですよ」
コンラッドが詳しく説明してくれるけど。
…だから、何で精霊たちがそこまで?
だけど。
「…も、オレ何といっていいのか……とりあえず、みんなありがとう!
  ありがとうって言葉だけじゃこれ、足りないけど…さ。
  何ていうか…オレ、すっげえ嬉しい!こんなもの作ってもらえてたなんて……」
感動して声がでない。
「きっかけは兄上だ。
  お前はまったく興楽にふけることも美食に走るということはしない。というのが明らかだからな。
  といって、王たるものが何か得意とするものがないと外面的に体制も悪い。
  ならお前の好きだ。という野球でもちゃんとした場所を作ったらどうか。といってな」
「グウェンダルが!?」
初耳だ。
「夏場には完成しますよ。陛下。普段は市民の憩いの場としても利用できますしね」
コンラッドはいいつつ兵士に作業にもどるようにと指示をだしている。
ここちよい風にのって芝生のいいにおいが届いてくる。
「……なあ。つまんないこといっていい?」
「?」
ゆっくりと芝生を踏みしめて胸の魔石を握り締める。
「ユーリ?」
そんなオレにたいして アンリが、そしてコンラッド達もまた首を傾げてくるけども。
「オレさ。…何ていったらいいかわかんないんだけど。いいな。っておもったんだ。
  オレの居場所はこごてもあり、そして日本でもある。
  二つの世界に居場所があるなんて、こんな素敵なことはないよ。
  それにみんなこんなオレを信じてついてきてくれている。
  もってオレ、しっかり頑張んなきゃ。ってね」
日本では野球チームをメジャーなチームにしていずれ全国大会会場までいってみたいし。
こちらでは全ての国と平和条約を結んで誰もが平等に暮らせる世界を作りたい。
そのどちらも本音。
「…よっし!せっかくだし!皆で野球やろ!オレ教えるからさ!グレタもやってみな。面白いよ?」
「うんっ!」
オレの言葉に顔を見合わせたコンラッドとヴォルフラムが一瞬目を見開き。
そしてコンラッドは微笑み、ヴォルフラムはといえば、
「…へなちょこが……」
とかつぶやいている。
別にいいじゃん。
こちらの世界で作られたバットやグローブ。
そしてボールにいたるまで全てが手作りだ。
バットは倒木を利用して作られたらしい。
あとグローブは使わなくなった革鎧やたてなどで。
全てが手作りの温かさを感じる。
「よ~い!いくぞ~!!」

とりあえず、日が暮れるまで皆と一緒に野球をいそしむことに。
皆に必要とされてオレは今…ここにいる。
と改めて実感しつつ。



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