「第二十七代魔王ユリティウス陛下。双黒の大賢者村田健猊下。お二人がお見えになりました」 高らかな兵士の声とともに扉が自動ドアよろしく内側にと開かれる。 扉の向こうの部屋には長テーブルに腰掛けているグウェンダルとギュンター。 そしてヒクスライフさんともう一人。 何だか見慣れない人がいるけども。 それほどハンサム…とは言いがたいが、人間達の中ではそうでないのかもしれない。 この世界の基準、というものは未だにオレはわからないけど。 ツェリ様のいったとおり、たしかに人柄はかなりよさそうだ。 「あ。どうも。始めまして。ユーリです」 とりあえず初対面なのでそちらに向かってペコリと頭をさげておく。 「僕は村田健です。遠いところからようこそ。シマロンからのお客人」 アンリがいいつつ、手を差し出しているけども。 「これはご丁寧に。私はファウストキールといいます。いきなりお邪魔いたして申し訳ない」 ……何ですか?そのファーストキッスともファーストボールとも取れる名前は? オレ達の言葉に続いて立ち上がり、彼もまたこちらに向かって頭をさげてくる。 そして。 「なるほど。噂は本当でしたな。先日悪名高いルイ・ビロンなるものを双黒の魔族が懲らしめ。 その双黒の魔族は魔族の王だというのは」 などといって、何か一人で納得してるし。 …いやあの…… 「…あのぉ?もしかして噂になってるんですか?」 そんな彼にと思わず問い返す。 そんなオレの言葉に。 「商人は情報が命ですからな。いやしかし、商人代表としても御礼を申し上げます。 あのルイ・ビロンなるもの。なかなかの曲者でしてな。 我ら商売人の仲では危険視されていた人物なのですよ」 「…は…はぁ……」 そういわれ、オレの手を握られてきても、何と答えていいものか。 「しかし。魔王。という存在。我らは誤解していたようですな。先代魔王だったという、 我が愛しの麗しのツェツィーリエや、それにあなたのような方が魔王だとは」 何かそんなことをいってくるし。 『麗しの』……って…… さりげにのろけてますよ…この人…… 「それで?まさかそれだけのことを言うためにユーリに面会を申し込んだわけではないですよね?」 そんな彼にと話しかけるアンリの言葉に笑みを浮かべながら、 「ええ。そのとおりです。実は単刀直入に申しあげますが。 我が店でも貴殿の国との直接取引を許可願えれば…と存じましてな」 ? 「は?」 「今までこの国は、ヒルヤードのみと交流がありました。 しかし最近はカヴァルケードも参入しております。 私としましては良い品質のものを安くお客様に提供したい。 商売に種族も何も関係ありませんし。 あまり誰も口にはしませぬが、我ら人間の国ではこの国の品は重宝されているのです。 家具などといった品物もしっかりした作りですからね」 えっとぉ…… 「そなの?」 思わず目を点にして問いかけるオレの言葉に。 「ユーリィ。世界情勢くらいは把握してよ?というかそれくらいは。…っていってもどうやら無理そうだね」 苦笑しつつアンリがオレにといってくる。 そういわれても…… 「悪かったな。だって普通さ。産地直接買いつけとかって当たり前じゃん?」 よく宣伝などで耳にする、『産地直接買い付けだから安い』といううたい文句。 地球というか日本ではよく聞く言葉だ。 「地球。っていうか日本ではね。 だけどここではそれすら自由にならない。というのが今までの現状なんだよ」 ・・・・・・・・・・・ 「って!?え~!?だって普通さ。そういう権利ってあるじゃん!?流通の自由とかは!?」 「そんなのがここにあるとおもう?」 いや、あると思うからいってるんだけど…… 「でもさ。商業組合とか。そういうのはあるだろ?それを通じて普通どうにかしない?」 組合とか連盟とか。 そういったものはあるはずだ。 …まさかそれすらない…とか? いったいこの世界って…… 未だに判らないことが多すぎだ。 「そもそも。魔族はこの世界では畏れられている。というのがあるからね。 かつての戦いにおいて、創主を葬った魔族の力に恐れをなして人間達が地元から追い出し。 そんな人々がこの国にエドを頼って集まってきて国をつくったわけだし。 それに今ユーリがいったような組織は、人間達の国々でもそういった交流はないとおもうよ?」 「ええ~!?…そんな……」 まさかそういったものまでないとは…… ボランティアすらない。 とはきいてたけど…… 何だかなぁ…… ことごとくオレの中の常識が通じない世界だ。 そんなオレとアンリの会話に。 「…あの?産地直接買い付けは当たり前って……」 戸惑うファウ何とか…ツェリ様曰くファンファンさんが何やら聞いてくる。 「ユーリ殿は以前もそういわれていましたなぁ。 まあユーリ殿。この男は信用してよろしいかと。この男は筋はきちんと通すお人ですからな。 しかもかなり情熱的な人物ですぞ?」 ……ヒスクライフさんの基準はそこ? ねぇ……? 「オレは別に構わないけど。…だってさ。普通仕入れ業者と卸売業者。 もしくは生産者との話し合いって基本中の基本だし。 人々が困るようなことがないのならかまわないとおもうよ?」 「だ。そうだよ。とりあえず詳しいことはまたつめていくとして。」 いってアンリがにっこりし、 「それはそうと。そろそろお昼だよ?」 『エンギワル~!!』 アンリがにっこり言うと同時に、外から聞こえてくる正午を知らせる目覚まし鳥の鳴き声が――
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