「とにかく。オレ達は待つしかありませんよ」 コンラッドや他の皆にも促され、ニコラが運ばれた部屋の前でと待機する。 妹が埋もれるときはもっとどきどきした。 あのときと同じ感覚。 あのときは外に雪がまっていた。 陣痛が始まったおふくろを兄貴がタクシーを呼んで病院へ。 オレはただ痛がるおふくろの手を握ることしかできなかったけど。 しばらくして病院におやじも駆けつけ―― 響き渡る泣き声を聞いたときとても嬉しかったのを覚えてる。 小さな手できゅっとつかまれた手の感触。 あのとき兄になったんだ。 と思ったものだ。 血のつながりなど関係ない。 それを再度実感したのもあのとき。 「陛下。陛下。落ち着いてください」 うろうろするオレに笑いながらコンラッドがいってくる。 「そうそう。ユーリがあせってもどうにもなんないって。 それよりさ。ちょうどこの場にフォンクライスト卿たちもいることだし。 グレタちゃんの正式なお披露目いつにするか話し合おうよ。 そんな話し合いしていたらそのうちに産まれるって」 まったく動じることなくさらりといってくるそんなアンリの言葉に、 「しかし。グレタは数年前。民衆と隣国によって滅ぼされたゾラシア王国の皇女。 そう簡単に養子縁組…というわけには……」 一人未だにそんなことをいっているギュンター。 「そんなの関係ないよ。それにユーリは決めたらてこでも考えはまげないよ?」 「ギュンター。陛下のご意思だ。それに陛下もかわいい娘ができて 『今まで以上にこの国のことを考えてお仕事してくださる。』 というのだからいいじゃないか」 「それとも何か?お前はこのグレタを情も何もないスヴェレラに送り返せとでもいうのか?」 アンリ・コンラッド・ヴォルフラムの続けざまの言葉に、 「ね!いいでしょ?ギュンター!お願いっ!」 そういえば、言われてみればグレタを正式にきちんと養女にする。 という話をギュンター達にいっていなかったのを今さらながらに思い出し、 アンリの言葉をうけてとりあえずこの場で懇願。 グレタを邪魔物扱いしていた国になど帰しては、それこそグレタが気の毒だ。 それにもう、グレタはオレの子だって宣言したし。 当人にも、それに…彼女たちにも。 「…ふぅ。わかりました。それが陛下のご意思なら」 オレの懇願をうけ、軽くため息をつきながらも、了解の言葉を出してくるギュンター。 「やった!」 喜ぶオレとは対照的に、 「いつかスピカちゃんとグレタちゃんも一緒に行動できればいいよね~」 ? なごやかに何やらアンリがそんなことをいっているけど。 「?何いってんだよ?アンリ?スピカはこっちにはこられないだろ?」 「そうでもないよ?スピカちゃんの前世の魂はこっちのうまれだしね。 だから条件などが整えば……」 「って!?それって初耳だぞ!?アンリ……」 「そうだっけ?」 というか、まったくもって初耳だってば。 しれっと重大なことをのたまわったアンリをもう少しさらに問い詰めようとしたちょうどそのとき。
えあ~!!ほぎぁぁ、ほぎゃぁぁ~~!!!
夜の城の中。 元気な赤ん坊の声が響き渡る。 「うまれた!?」 「うまれたのか!?どっちだ!?男か女か?!」 全員の視線が扉の方にと注がれる。 全員が注目する中、ガチャリと扉がひらき、中からギーゼラさんが先に出てくる。 そして。 「ニコラさんにお子さんは無事にお生まれになりましたよ。元気な女の子です」 『やった~!!』 手を取り合い、思わず叫ぶオレとヴォルフラムに、 「人と魔の橋渡しとなる子供の誕生だね♡」 ? 何か意味不明なことを小さくつぶやいているアンリ。 どういう意味だろ? 「今、産湯につけて身支度をしていますから。見るだけでしたらどうぞ中へ。 でもあまり赤ちゃんを驚かせないでくださいね?」 そんなオレ達にとにこやかにギーゼラさんがいってくる。 何はともあれ、赤ちゃんを見せてもらおうと、オレ達もまた部屋の中へと入ってゆく。
部屋の中へと入ると、ベットに横たわるニコラの横にと並べられている赤ん坊の姿が。 真っ白な産着に包まれた小さな赤ん坊。 妹のスピカが赤ん坊だったときのことが脳裏にと浮かび思わず比べてしまう。 見たところニコラのほうによく似ている。 お母さん似らしい。 何か特殊な力のようなものを感じるけど。 ま、魔族の血がはいっているんだし。 何があっても不思議ではないんだろう。 というかこの世界…不思議なことだらけだし…… 未だによくわかってないもんな~……オレ…… 「お疲れさま。ニコラ。そして、あとおめでとう」 出産は女の人にとってははっきりいって戦いだ。 それが判っているがゆえにひとまずニコラにと声をかける。 「ありがとうございます。陛下」 「だからぁ。ユーリでいいってば。そんな他人行儀にしなくてもさ」 「というか。ユーリの場合は未だに呼びなれていない。というのもあるけどね~」 「このへなちょこめ」 そんなニコラに対して話しかけるオレにとすかさず突っ込みをいれてくるアンリとヴォルフラム。 「そうはいうけど……」 なれないものは仕方がない。 「とにかく無事に産まれてよかった~」 もし何かあったりしたらそれこそオレの責任だし。 そんなことをふと思ってしまう。
しばし、ニコラの赤ちゃんの誕生に城中が酔いしれ―― そして、夜も遅い、というのでそれぞれ再び休むことに。
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