『シル様。アーリー様。ご連絡です。かのものが目覚めました』
「ありがとう。シーラ。…それはそ~として。その『シル様』って…
  オレのことじゃないように感じるからユーリでいいよ?」
ふとそんな会話をしていると、風が吹き抜けてシーラの声が聞こえてくる。
『そういうわけには……。シル様もアーリー様も。どのようなお姿でもお二人には変わりありませんから』
風がふわり、と微笑む感触。
「じゃ、いってみよっか」
「あ。うん」
そんな会話をしつつも立ち上がり、とりあえず、アンリが先に部屋にといき。
オレは一度部屋にもどって、それからヒューブのいる部屋にと向かってゆく。


部屋にいくとすでに、グウェンダル達もがやってきており。
部屋の隅にとなぜかつったっている。
「あ。陛下」
ヒューブの横に座っていたニコラが立ち上がり、オレにぺこり、と頭を下げてくる。
「ニコラ。…ヒューブの様子…というか具合どう?」
そんなニコラにと話しかけると。
「ええ。おかげさまで。あとは安静にしていれば……」
「よかった~」
いいつつも、アンリと一緒にそばにと近づいてゆくと。
「…陛下……」
オレの後ろに心配そうな顔をしてついてきているコンラッド。
オレがベットの横までいくと。
「…申し訳……ありません……
  私は…またとりかえしのつかないことを……魔王陛下に剣を向けるなど……」
オレをみて起き上がろうとするヒューブだけど。
「気にしなくてもいいってば。それより本当に体、大丈夫?
  あなたの体はあなた一人のものじゃないんだから。
  ニコラや、そして生まれてくる子供を守らないと…ね?」
そんな彼にとにっこりと微笑みかける。
「彼は死に場所を求めてさまよっていたんだって。ヒルヤードでウェラー卿の姿をみて。
  彼に斬られることが、自分の運命だ…と思ったらしいよ?」
どうやらオレがつく前に、何かヒューブが話していたようだ。
「グリーセラ卿は自分の罪の重さに押しつぶされそうで、死にたかったんでしょ?
  でも、死んだらダメだよ?――グウェンダル。
  グリーセラ卿ゲーゲンヒューバーの罪の償いは、二十年前に与えた魔笛探索なんだろう?」
そんなオレの問いかけに。
「そうだ」
腕を組んだままで、オレをみて何やら答えてくるグウェンダルの姿。
「…ゲーゲンヒューバーはこの二十年間。きちんと償いはしたよ。
  二十年、という長い年月をかけて、魔笛もちゃんと見つけて…いま、この城にそれはあるし。
  ゲーゲンヒューバーはつまり、きちんと役目を果たした。…だろ?」
「確かにな」
横をむいていっているグウェンダル。
グウェンダルって結構照れ屋のところがあるからなぁ。
まあ、これはそれだけじゃないだろうけど。
思いとしては複雑だろうし……
「つまり。あなたはきちんと罪をつなぐったんだ。だからもういいんだよ。これ以上苦しまなくても」
そんなオレの言葉に目を見開くヒューブの姿。
「しかし……」
彼の戸惑いとかもわかるけど。
「生まれてくる子供のためにも…さ」
「それに。ユーリの目指す世界平和には君のような人の力も必要だしね。
  納得いかないなら、眞王からも何か発表させるけど?」
アンリがオレの横でいってくる。
「あ。それいいかも。でも、エドさん協力してくれるの?」
アンリに問いかけると。
「そりゃ、彼を死なさなかったのもエドの意思でもあるしね。
  何より彼は自分の罪と向きあって何が正しいのか。何が間違っているのか。きちんと判断できるしね」
そんなオレとアンリの会話に。
「と。ということだ。おまえは一度ヒルヤードで死んだ。今後はどう生きるかはおまえの自由だ」
憮然としてグウェンダルがそんなことをいってるけど。
そんなオレ達やグウェンダルの言葉に。
「…閣下…それに陛下に猊下も……」
何か驚きに目を見開いているヒューブの姿があったりするが。
「恩義を感じるならその魔王陛下に忠義を尽くすんだな。
  魔王陛下と猊下。それに眞王陛下の決定は絶対だ」
「こんなへなちょこでも、ユーリは魔王だかな。まったく人がよすぎるけど」
ヴォルフラムの言葉に。
「それが陛下だろ?」
笑っていっているコンラッド。
「手伝ってほしいんだ。あんたにも。この世界全ての誰もが笑って暮らせる世界をつくる手伝いを。
  種族関係なく全てのいきものが平和に暮らせる…そんな世界にするきっかけのためにも」
「いっとくけど、ユーリ、これ本気でいってるよ?」
手をヒューブに差し出すオレに苦笑いをしていっているアンリ。
「…全ての……」
何かそういいかけて、小さく何かジュリアさんの名前をいってるし。
「うん。人は話せばわかりあえる。――だろ?
  争いとかでなくて、人と人を知ることできっと平和は築ける。オレはそう信じているから」
「陛下なら出来ますよ」
オレの言葉ににこやかにいってくるコンラッド。
「手伝ってくれるよね。ヒューブ」
いって手を差し出すオレに。
「――この私で力になれるなら……」
とまどいつつも、やがて決意したように言ってオレの手を握り返してくるヒューブ。
「ヒューブ。よかった……って…いたっ…!?」

横でニコラが安心した声を出すとともに、お腹を押さえてうづくまる。
「?ニコラ?」
「……うまれ……」
何やらその場にうずくまってるけど。
うまれって……
でぇぇぇぇ!?
「ええ!?もしかして陣痛が始まったの!?まさか!?」
驚き叫ぶオレに。
「ニコラ?!」
ゲーゲンヒューバーの戸惑いの声が重なる。
っておもいっきり大変じゃん!?
「救急車!!救急車っ!!ってここにはそんなものないかっ!うわぁぁ!医者っ!!
  でなかった、助産婦さんっ!それか産婆さんを早くっ!」
「落ち着いてください。陛下。すぐには産まれませんから。」
騒ぎパニックになるオレにコンラッドがいってくるけど。
だけど!
「そうはいうけど!産まれる時間は人それぞれ違うし!
  破水でもしたら一大事だよ!?お湯わかして!あとニコラベットに早くはこばないとっ!」
「…ふぅ。ギーゼラさん。任せてもいいかな?ユーリパニックになりかけてる」
おたおたしているオレを後ろから抱きかかえ、何やら冷静にそんなことを言っているアンリ。
「はい。猊下。」
そんなアンリの言葉をうけ、てきぱきと女性陣にと指示をだし、
ニコラを部屋にと運んでゆくギーゼラさん。
とりあえずオレ達もまた、その後にと続いてゆく。



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