「陛下?」 建物の外にとある小さな噴水にと座って空を見上げていると、何でかギーゼラさんの声が。 「あ。ギーゼラさん」 「呼び捨てでけっこうですのに。…どうなさいました?おひとりで?」 そういってオレの前にと建物の中から出てきて歩いてくる。 「…ヒューブ…いや、ゲーゲンヒューバーは?」 「今は姫様とニコラさんがついています。 私より彼女たちのほうが生きる気力を取り戻させるのは効果的ですから」 いいつつも歩いてきて、オレの横にと座ってくる。 「そっか。…ねえ?ギーゼラさん?オレがヒューブを連れて戻ったの…間違ってるとおもう?」 「え?」 オレの問いかけに戸惑いオレをみてくるギーゼラさん。 「さっき…さ。持ち帰った魔境で過去のことをちょっと…ね。 確かに彼の言葉で多くの混乱と悲しみと苦しみが生じたんだとはおもう。 彼はそんなつもりはなかったとしても。結果的にさ。 けど…彼は二十年、その罪と戦ってきた。だからって罪が許されるわけじゃないけども。 でも、それでも彼は戦ってきたんだ。自分の罪と過ちと…に。 オレは彼は生きるべきだとおもうんだ。生きて死んでいったものたちのことを忘れずに。 それは確かにつらいことかも…酷なことかもしれないけど。 だけど、死ぬべきではないとおもうんだ。 生きて…死んでしまったもの達のためにも二度と過ちが起こらないように見守ることが、 彼の義務であり責任でもある…と思うんだ」 そんなオレの言葉に。 「…過去を…ごらんになったのですね?…確かに。彼はそれだけの罪を犯しました。 …スザナ・ジュリアが死んだ悲劇も彼に責任があります」 うつむいていってくるギーゼラさん。 「オレ的にはわからなくもないけど……。 でもさ。ジュリアさんは確かに死ぬべきではかなったとおもう。 生きて、そして皆とともに平和に導くことだって……」 その場合はオレが生まれてこない。 ということになるけど。 そんなオレの言葉に。 「――彼女の身体ではそれはもう不可能だったんだよ」 ギーゼラさんとは違う、よく知っている声が聞こえてくる。 ふとみれば、いつのまに戻ってきたのかアンリがこちらにとやってきている。 「アンリ?」 「猊下?」 アンリの姿をみてオレとギーゼラさんの声が重なる。 「…ユーリ、みちゃったんだね。魔境で過去の出来事を……」 「断片的にだけど。コンラッド達ルッテンベルグ戦士団が誕生したわけとか…… シマロン国との戦争開始とか…そして……」 「そして――元、君でもあるフォンウィンコット卿スザナ・ジュリアさんの死…だね」 「元…って……ではやはり……」 アンリの言葉に驚いてオレを何やら見ているギーゼラさん。 「彼女は自分で決めたんだよ。そもそも、彼女は自分の存在意義をあるとき思い出していた。 自分の目が開かない理由もね。それは彼女が無意識下でしたことだ。 彼女もまた魂が同一でもある君だからこそわかるだろうけど…… 強大な力をもっていたんだ。…そう、強大な。 人と魔との血が少なかれ入っている彼女は…その力の大きさゆえに長くは生きられなかった。 あまり知られていないけれど、彼女の母親は人間とのクウォーターだったからね。 人の血により魔力は高まり、魔の血ゆえにその魔力は増強し。 魔力の大きさに耐えられずに彼女は消滅してしまうところだった。 だからこそ――次なる魂の器となるべき肉体を…人物を誕生させるために。 それがわかっていたからこそ、エドは昔、君の父上を旅にとだした。 ――ソフィアさんと出会い、そして結ばれ…そして、新たに君を誕生させるために。 ツェリさんとダンヒーリー・ウェラー卿が結婚する。 といったときに、運命はすでに動いていたからね。いや、その前から…… 正確にいえば、数百年以上も前から……」 「?存在意義?」 アンリの長い説明にふと疑問に思い、問いかけるオレの言葉にしばし戸惑い薄く笑い。 「そう。自分が『何』なのか。『誰』なのか。それまでの自分の転生した記憶と共に…ね。 だからこそ、再び自分自身で昔の様々な記憶を封じた状態で…… まっさらな状態として生まれ変わることを願った。 次の自分においては広い視野で物事を見て判断し、そして学んでほしかったから。 エドやボブ。そして僕の精神は一種のテレパスみたいに伝えあうことができるからね。 だから…この世界で再び何が起ころうとしているのか。 君の魂を狙っている存在がいる…というのもわかってた」 ? 「何か起こる…とは、猊下?」 ギーゼラさんが不安気にアンリに聞いているけど。 「箱だよ」 「箱とは…まさか!?」 ギーゼラさんが何やら叫んで口を押さえている。 だから…箱って…何?? 「封印の中、しずかにゆったりとしていれば、彼らも元に戻るはずだった。 だけども人間達は…その力を使ってまた悪用を考えた。 元々彼らは人のそうした『負』の力に飲み込まれやすく純真だからね。 それゆえに――この地を滅ぼそうとする存在たちにとなってしまった。 数百年前、当時のシマロン王であるベラール卿が行動を起こした。 それゆえに。そのときの君…つまり当時のユーリと僕達で話し合ったんだよ。 再びこの地を消滅させないためにって。 だけど、全てを覚えたままで産まれてくる、というのはとてもきつい。 僕ですら未だに子供のころは何が現実で過去なのか、夢なのかごっちゃになるからね。 だからこそ、君には前世のことを話さなかった。 特に…一つ前の生で戦争なんてものを経験していればなおさらに…ね」 「……アンリ……」 アンリもまた、封印や箱云々はわからないけど、とにかくオレのことを心配していたのだろう。 昔…つまり前世のことを知ったオレが傷つかないように…と。 まったく、こいつは変なところで過保護だ。 前世は前世と割り切った。 といっているやつの行動とはとても思えない。 「……ま。昔のことはともかく。だけどユーリ?グリーセラ卿を助けたのは間違ってないよ? 彼は生きないといけない。これからのこの世界には必要な人物だ。 たとえそれが本人にとって、死ぬよりつらいこと…だったとしても。――だ」 アンリの言葉にしばらく下を向いていたギーゼラさんが顔をあげ。 「…そうですね。彼は…ニコラさんと、その子供の夫であり父親です。 それに……きっとジュリアもそういうでしょう。彼は生きないとダメだって。 彼女はそういう人でした。…白のジュリア…国民全てに慕われていた人……」 そうつぶやきつつ、オレをみて。 「彼女はいつもいっていました。いつか、戦争のない、誰もが平和な世の中になる…と。 誰の命も奪われないような、そんな世界が……」 『今は無理でも。いつか……』 「それまでには、たくさんの誤解や苦しみが生まれるかもしれない。 いくつもの血が流されるかもしれない。だけど、いつかは分かり合える。 そう、いつかきっと……」 思わずつぶやいたオレの言葉はギーゼラさんの声と重なる。 あとはなぜかするり、と口から漏れるように言葉がつむぎだされているオレ。 そう、だからオレは、そんな誤解などによって人々が傷ついたり、争ったりする。 そんな現実をなくすために…王になる。っていったんだ。 この世界を一から変えて、本当の平和な世界にするために…… 「陛下ならおできになりますわ。及ばずながら私も力をお貸しいたします」 オレの言いたいことがわかったのか、いってすくっと立ち上がるギーゼラさんに。 「ありがとう」 とにかくお礼をいっておく。 ギーゼラさんはジュリアさんが死ぬところに立ち会っていたはずだ。 それゆえに、彼女の心の痛みは計り知れない。 オレはあくまでもオレであって、もうジュリアさんではない。 いくらオレが生まれ変わり、といっても本人に成り代われるものでもない。 できることは…その意思をくむことのみ。 ――どこまでできるかはわからない。 けれども、オレの願いも彼女の願いも同じだから…… 「とりあえず。ユーリ?風邪ひいたらいけないから、部屋にもどろうよ?」 「あ…ああ」 オレの心の声がわかっているのかいないのか。 アンリがそっと手を差し伸べてくる。 大丈夫。 きっと…いつかはわかりあえる。 話し合えばこの世界の人々といわず存在全てが分かり合える。 そう信じたい…いや、オレはそう信じているから……
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