現在・過去・未来を映し出す。
とアンリはいった、ならば…
見張りの兵士にいって宝物庫の中にと入り。
持ち帰ったばかりのラーメンドンブリを取り出す。
オレにしか…つまりは魔王にしか扱えないはずだ。
これが本当に魔族の秘宝だ、というのなら。
とにかく、昔何が起こったのか……
オレには真実を知る必要と義務がある。
そのまま宝物庫から魔境を持ち出し、部屋にと持ち帰る。
そして部屋にもどって、ベットにこしかけ、どんぶりを両手でもって念じてみる。
――オレは真実をしらなければいけないから。
ヴォルフラムは今日はまだ、部屋にもどって…というかやってきてないし。
しばらく器をもったまま、念じていると。
どんぶりの器の底が水など入っていないはずなのに、輝きを増し。
やがてその底に水面のような輝きが現れる。
そして―――

そこに一つのテレビ画面があるかのような映像がどんぶりの中にと映し出される。
断片的に。
人間との戦争に踏み切ってしまったシュトッフェル。
それを止められなかったツェリ様の表情から苦悩が見て取れる。
そして…長く続く戦況に、魔族側が人間におされ始め……
そんな中。
シュトッフェルにと進言している一人の男性。
人と魔との間に産まれたモノたちが人間達に味方をして情報を流している。
根もはもない根拠。
馬鹿らしすぎるプライドから、人間に負けそうになっている現状から。
そうシュトッフェルにと進言したのは……他ならないゲーゲンヒューバーの姿。
コンラッドは国に対する忠誠心と、そして身の潔白を証明するために。
同じ境遇の人々とともに、自ら前戦に赴いて、同じ境遇の人たちを集めて部隊を作った。
――ルッテンベルグ戦士団。
ルッテンベルグの獅子。
その中にはヨザックの姿も。
グウェンダルやグウェンダルは戦地に赴き留守で。
城にいるのはヴォルフラムだけ。
そんな中で新たに、ゲーゲンヒューバーがシュトッフェルにと進言し……
コンラッド達は予定よりも早く、武器や装備すら整っていない状況で出撃していった。
生きてはかえれないだろう。
と覚悟をきめて。
自らの誇りとプライドを取り戻すために……
そのときにはギュンターは一度城にもどってきてはいたが。
すでにもう状況は彼一人の手だけではどうしようもなくなっていた。
戦場で生き残ったのはわずか数名。
コンラッドとヨザックと…後は……
思わず目をそむけてしまう。
――これが戦争。
これが過去の…現実。
ルッテンベルグ戦士団の活躍で、魔族側は人間側を撃退し。
どうにかおしのけた。
それからは戦況が一変して魔族側が有利に立ち……
戦っている人間の国は大シマロン国。
力をもってして、全てを自分の統治下に。
という思想の…国。
巻き込まれた国民などはたまったものではない。
目をそらしたくなるような…惨状。
だけどオレには見届ける義務がある。
そして…魔族と人間の間に産まれた者達が国内で認められ。
何を考えたのか、おそらくあせったのだろう。
自分の進言が嘘であり、過ちである。
と国民の声が高まり始めたことに対して。
一人、勝手な行動にでたゲーゲンヒューバーの行為によって、
辺境の村が壊滅的なダメージをうけた。
「…あれ……は…?」
水鏡ともいえる器の中にと映し出されているやさしそうな女の人。
そして、一人は見知った顔立ち…ギーゼラさんだ。
直感的に理解する。
これがオレ。
オレが彼女……
彼女が……
『ジュリアッ!!』
力の全てを注いで、けが人達の治療にとあたり…そして……

自分の望みはコンラッドに自らの魂を預け、無事にソフィア様に届けること――
そして、出来れば…彼に生まれ変わった自分の名前をつけてほしい。

出発前、眞王廟の託宣の間でジュリアさんがウルリーケに言っている様子も……
ジュリアさんは知っていたんだ。
自分が死ぬ。
ということを。
死んで、そして生まれ変わり、新たな魔王となることを。
――この世界に本当の平和をもたらすために――
そう映し出されている映像の中でジュリアさんがいっている。
そして…
『ジュリア…』
泣きそうな顔のウルリーケの姿も。
『今の私では…ダメなの。この身体では…限界が限られている』
??
ジュリアさんの言葉が気にかかる。
ジュリアさんはそのまま、前戦に赴いて…そして命を落とし…
そして……アーダルベルトは国を捨てた。
オれの…いや、ジュリアさんの魂は、奇跡的に生きてもどったコンラッドにと手渡され…
そこで映像が途切れる。
――断片的だけど、衝撃的な過去の出来事。
胸の魔石をぎゅっと握り締める。
これはジュリアさんがコンラッドにあげたものだ。
そしてコンラッドからオレに……
アンリがいっていた。
元の持ち主に返したのだ。
…と。
昔の記憶というか前世の記憶は取り戻さないほうがいい。
…と。
断片的ながらもアンリがオレを心配していってくれていた意味がわかった。
平和な日本で育ったオレには衝撃的すぎて…だけど否定する気にはならない。
これが真実だ。
と。
本能的に判るから。
それにヴォルフラムたちからも酷い戦いがあった。
ということは聞いている。
その一端を担ったのが…ゲーゲンヒューバーにもあるとすれば……
国民やギュンター達の彼への対する怒りは…はかり知れない。
と、いうのも理解はできる。
でも…それでも……
オレはオレであってジュリアさんの意識はおそらくオレの中で眠っている状態なのだろう。
と何となくわかっても、オレはオレの信じるものがある。
ジュリアさんが命をかけて人々を助けようとしたように。
オレは…この国だけでなく、この世界全体をも平和にしたい。
それが…『オレが魔王になるっ!』と宣言してしまった理由でもあるから……


寝付く気分でもないので、どんぶり…もとい、魔境をテーブルの上においたまま部屋からでる。
「もしオレが…ジュリアさんの立場だったら……」
やっぱりオレも同じことをするだろうな。
自分の力で誰かが一人でも助かるのならば。
その結果、命を落としたとしても、次なる生の道がはかならずも示されていたならば……
心のこりはあっただろう。
家族との…婚約者の…友達の……
でも、それより何より、大切なのは、この星に生きづく全ての命。
全てを投げ出してでも……ジュリアさんが守りたかったもの。
普通、死んでしまえばそれまで。
だけど、ジュリアさんは生まれ変わった自分を…オレを信じ、そして託した。
そこまでジュリアさんの気持ちまでをも視たわけではないけども。
映像を見てオレが感じたのは…その事実。
そして、巻き込みたくないからその直前…というか、戦いが激しくなるその前に…
アーダルベルトとの婚約破棄をツェリ様に頼んだ…というのも。
映像として見てはないけど、脳裏に浮かび上がって…理解した。
きっとこれがオレの中に残っているはずのジュリアさんの…真実の思い。
誰よりも強く振舞っていても、弱いから。
だからほっとけなかった。
コンラッドとは恋愛…というよりは心から信頼しあっていた。
まるで自分の一部のように。
アーダルベルトはそれをよくおもっていなかったようだけど。
「っ!」
外にでて、思わずそんなことを思っていると鈍い痛みに頭を抱えてしまう。
鈍い痛みとともに、なぜかそれ以上の記憶のリバースがとまる。
――まだ思い出しては…ダメ。
ジュリアさんの声が頭の中で響く。
アンリがいっていた。
人格は…それぞれ生まれるけども、今は今。
自分の過去の人格も自分の中にある…と。
ジュリアさんの声を聞いてはっきりした。
いつも夢の中で昔からオレに語りかけていたのは…彼女だ。
と。
そして……
ふと。
外の空気を吸おうと、廊下を歩くオレの耳に。

「しかし…いくら、陛下と猊下のご意思といっても!
  あいつが何をしたのか忘れたわけじゃないだろう!?
  いや、おまえが忘れるはずはない。あの男のせいでジュリアはっ!!」
グウェンダルの声が聞こえてくる。
そして。
「俺が許せないのはっ!陛下に…ユーリに剣を向けたことだっ!!
  二度と…二度とヤツをユーリには近づけさせはしないっ!!」

そんな会話が聞こえてくる。
何となく気になってひょっこりと、角から声のしているほうをみれば。
そこにはコンラッド達三兄弟の姿が。
そして。
剣に手をあてて、カタカタと怒りで震えているコンラッドの姿。
「あいつは…俺を本気にさせるためだけにユーリを狙った!
  だが…俺は陛下のお心を何よりも尊重したいっ!」
そういうコンラッドの声に苦渋の声。
……どうやらオレが出て行ったらややこしくなりそ〜だ。
そのまま、そっとその場を離れて建物の外にとでてゆく。
そういえば、城の中でも護衛もなしに動き回るなんてあまりなかったかも……



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