「……って?」
なぜか船が港につくと、そこにはグウェンダルやかなりの数の兵士の姿が。
珍しい。
「グウェンダルが迎えにきてくれたの?」
珍しいこともあるものだ。
そんな驚いて問いかけるオレの言葉とは対照的に。
ゆっくりと船からベットごと、ちなみに滑車つき。
とにかくベットごと下ろされたゲーゲンヒューバーにとグウェンダルは近づいていき。
そして。
そのまま、すらり、と剣を抜き放ちゲーゲンヒューバーにとつきつける。
って!?
「何を!?」
オレの叫びに。
「よもやこいつもまさか生きてこの地を踏めるとはおもっていまいっ!
  こいつはそれだれの罪を犯した!!」
いって動かないゲーゲンヒューバーにと刃を当てている。
「ダメだっ!彼はこのオレが助けたんだ。そんなことはさせないからなっ!
  過去はどうあれ。過去に何をしたのか。それはオレは知らないけど。
  だけど、殺させはしないっ!こいつは城に連れて帰ってニコラと対面させるんだ!
  そうすればきっと目を覚ます。目を覚ましたら彼にはこれからやってもらいたいこともあるしねっ!」
そんなオレの叫びに。
「やってもらいたいこと…だと!?こいつにか!?」
「ああ。そうだ。彼は二十年以上も苦しんだはずだ。自分の犯した罪の大きさに。
  自ら死のうとしても、死ねなくて。自分を殺してくれる人を求めるほどに。
  そういう人だからこそ、きっとこの世界を…平和に導く手助けとなるはずだっ!」
そんなオレの叫びに。
「確かに。このグリーセラ卿は過去に罪を犯している。
  それは僕も知っているよ。だけど、彼にはこれから役目がある。
  彼は生きて罪の償いをしなくちゃならない。その償いはその役目にかかわってくる。
  彼をそれでも殺す。というのなら…僕やユーリ。
  そして、眞王の心に逆らうことになるよ?ウォンヴォルテール卿?」
「ぐっ!」
アンリの言葉にグウェンダルが顔をしかめる。
グレタがぎゅっとオレにしがみついて不安そうにとみあげてくる。
大丈夫。
絶対にゲーゲンヒューバーを…ヒューブを殺させたりはしない。
そう心で思いつつ、ぎゅっとグレタの肩を抱きしめる。
「グウェンダル。それが陛下と、そして猊下の意思だ。そして眞王の」
コンラッドのそんな言葉に。
「勝手にしろっ!」
いって苦悩の表情を浮かべつつも、剣を収めるグウェンダル。
だが、その身からは怒りとそして憎悪がわきあがっている。
そしてそれらのオーラが向けられている対象は…ゲーゲンヒューバーだ。
「怪我は治っているけどね。慎重にね。彼心が死んでいる状態だから」
アンリが戸惑う兵士に指示を出して、彼を馬車の中にと移動させている。
そんな兵士やグウェンダル達の姿をみて。
「…本当だったんだ……。ヒューブが昔。とりかえしのつかない悪いことをしたっていうの……」
子供ながらに、グウェンダルや兵士達がヒューブを疎ましく、それでいて毛嫌いしている。
しかも彼に対してはかなり怒りと憎悪、といった感情が根強い。
それらに気づいたのか、グレタが弱々しくいってくる。
「大丈夫。大丈夫だよ。ぜったいにヒューブを殺させたりはしない。
  それに。城にもどったらヒューブの奥さんも、もうすぐ産まれてくるお腹の赤ちゃんもいるんだ。
  きっと目をさますよ」
不安そうなグレタにと話しかけていると。
「さ。陛下。俺たちもいきましょう。――ヴォルフ。大丈夫か?」
「う…うるさいっ!」
うずくまり、おもいっきり嘔吐としてたヴォルフラムがコンラッドの声に叫んでいるけど。
…本当、船に弱いの判っているんだったら初めからついてこなきゃいいものを……


大概は、いつも歓迎モードなのだが。
今回は人々はひっそりとしている。
オレやアンリは歓迎してくれてはいるけど。
あからさまに後ろに続く馬車のほうには、怒りと悲しみ。
そして…戸惑い。
そんな感情を人々は抱いている。
どうやら国民の皆様もヒューブが過去に何をやったのか。
というのを知っているらしい。
ずらり、と軒並み兵士達が並んでいる道を進み。
グレタを連れて王城にとむかってゆく。
城門をくぐると、目の前にはギュンターの姿が。
「あ…あはは。只今。ギュンター」
怒られるのを覚悟して話しかける。
が。
「ああ。陛下。よくぞお戻りくださいました。このフォンクライスト・ギュンター。
  再びお会いできる日を心待ちにしておりました」
オレに抱きついてくるわけでもなく、
胸に手をやりうやうやしくお辞儀をしていってくるギュンターの姿。
「…怒ってないの?しかも泣いてないの!?」
そっちのほうが驚きだ。
「…何か悪いものでも食べたんじゃないのか?」
驚くオレの横でヴォルフラムがもっともらしいことをいっている。
そ〜かもしんない。
いつもならすぐに抱きついてくるか、顔をぐしゃぐしゃにして泣いているのに。
涙も鼻水も今回はまったくギュンターは流していない
「怒るなど。何ゆえにそのような俗世にまみれた感情を。陛下。わたくしは悟ったのです。
  愛とは全てを受け入れること。
  そして愛に付随する厳しい試練は何もかも、大いなる存在の思し召し」
・・・・・
「お〜い?フォンクライスト卿〜??」
アンリまでもが、そんなギュンターをみて目を点にしている。
気持ちはわかる。
オレも唖然としているんだし。
「…うん?何をしているんだ?ダカスコス?」
ふと、何やらコンラッドがギュンターの後ろのほうをみて何やらいっている。
うっすらとした煙と光でギュンターが光って見えるのは気のせいだろうな?
などとオレはおもっていたのだが。
コンラッドの視線のほうを向けば…何か、おそらくアニシナさんの発明品だろう。
スポットライトのようなモノと、
パタパタとうちわで扇いで煙をギュンターにと向けている兵士の姿が。
「ああ!?ダカスコス!?あれほど目立たぬように動けといったではありませんかっ!
  これではわたくしの過酷な体験修行が水の泡ですっ!」
何やら後ろをむいてそんなことをいっているギュンターだし。
「…た、体験修行って……」
「全然悟ってないじゃん」
「やっぱりウォンクライスト卿はフォンクライスト卿だよね〜」
ヴォルフ・オレ・アンリの言葉が同時に発せられる。
どうやらギュンターは演出に凝っていただけのようだ。
おかしいとはおもった。
うん。
ふと、何やらそんなことをいっていたギュンターの視線が、馬車のほうにと向けられ。
馬車から下ろされたベットの上のヒューブの姿をみて顔色をしかめている。
「?ギュンター?」
「申し訳ありません。すでにかのものの部屋は用意してあります」
ギュンターもかなり戸惑っているようだ。
彼への許せない気持ちを内面にと隠しているのがよくわかる。
と。
「ヒューブっ!!」
バタバタと城で待っていたらしいニコラが建物の中から走ってでてくるけど。
そんなに走ったりしたら、お腹の子供に障りが……といえる状態でもない。
「ヒューブ!ヒューブっ!!」
ヒューブの横に走っていって、すがりついて名前を呼んでるし。
「あ。ごめん。ニコラ。何かさ……」
オレが言いかけると首を横にふり。
「いいんです。こうして又生きてあえたんです。それだけでも…ありがとうございます。陛下」
「彼を部屋へ」
アンリが指示を出すと、兵士達がヒューブを寝台ごと中にと運んでゆく。
「陛下。お帰りなさいませ。」
ふと声がして振り向けば、見ればギーゼラさんにも連絡がいっていたのか建物の中から出てきて。
ギュンターの横からオレにと挨拶をしてくるけど。
「あ。ギーゼラさん。只今。…ヒューブのこと、頼んだよ?」
オレの言葉に少し戸惑いつつも。
すぐに表情を改め。
「お任せください。陛下。全力をつくします」
いってニコラと共に城の中にと入ってゆく。

城の中に、戸惑い、怒り…そんな気が充満している。
一体彼は過去、何をやった。
というのだろうか?
アンリは眞王廟に用がある、といって出かけていった。
ウルリーケから…つまりは賜詞巫女から正式に眞王の言葉を伝えてもらうためらしい。
彼を今まで殺さなかった…というか死なせなかったのは、眞王の意思でもあるらしいから。
罪は罪。
だけども……
「ユーリ?グレタもヒューブについていてもいい?」
心配そうにいってくるグレタに。
「うん。いいよ。グレタやニコラがそばについてたら、きっと彼も目をさますよ。」
「うんっ!」
オレの手を離してグレタもまた、ヒューブが運ばれた部屋にとむかってゆく。

とにかく、誰かに彼のことを聞こうとするものの。
留守にしていた間のお仕事が山とあり。
誰かに聞く暇もなく、あっという間に築けば時間は夜にと……



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