「……これは……」
彼が双黒の大賢者。
というのは知っている。
伝説では大精霊たちをも従えていた。
と言い伝えにはある。
だがまさか。
この目でその事実をみることが出来ようとは。
人々は空に浮かんでいる双黒の人物と。
飛び交っているどうみても『精霊』としかいいようのない存在にただただ狼狽するばかり。
「父母兄弟の孤高をしのぐべく、異国へと渡りし孝行者達。
  そんな彼らを哀れむどころか非道な仕打ち!
  金にむらがる愚民はだませても、余の慧眼けいがんはごまかせぬぞ!?」

ユーリが高々と言い放っている間にも雨は降り続き。
炎はすばらしいまでにすでに掻き消えており。
それによって生じたはずの煙すら、風によって吹き散らされていたりする。
ユーリにきっとにらまれて、ルイ・ビロンは身動きすら取れない。
さながらヘビににらまれた蛙のごとくに。
どうして人の地だというのに魔術が使えるのか。
そして、さらに人間の目には触れることすらなかった精霊らしき存在の姿までもが。
この双黒の者の一人は『大賢者』といっていた。
……まさか…本物?!
ここにいたり、ようやくルイ・ビロンは始めて恐怖を覚える。
自分が触れてはならぬものたちに金目当てで手を出してしまった。
ということにようやく気づく。
…でも、もう遅い。

「悪党といえども命を奪うことは本意ではないが、やむをえぬ!おぬしをきるっ!成敗っ!」
ユーリの声とともに、ユーリの後ろにいた三つの龍がルイ・ビロンに向かっていき。
そのまま彼の体を絡めとる。

「ユーリ。かっこい〜」
騒ぎで宿から出てきたらしいグレタがそんなユーリの姿をみて、
何やらうっとりとしている姿もあったりするのだが。

「うわぁ〜〜!!??」
叫び徒ともに、上空に龍たちによって持ち上げられた状態にと成り果てるルイ・ビロン。
それと同時に炎の龍までもが彼の体に絡みつき。
その身はやかれずても、暑さからすれば砂漠並み以上の暑さが全身にと伝わり。
さらには水と雷によって体がしびれたようになり身動きがとれなくなってしまう。
「汝の罪の重さとその深さ!その身をもって味わうがよいっ!」
そんなユーリの声とともに。
ルイ・ビロンの頭の中にと彼自身が酷使してきた人々の恨みや怨嗟。
といった声や感情が一気に流れ込む。
ルイ・ビロンはもはや、逃れることもできずに、ただただ叫ぶしかできない。
肉体的にも…そして精神的にも彼は今、かなりお灸をすえられている状態になっているがゆえに。
そんな彼をまったく意に介することもなく。
「心無きものの手により心あらずも形を失ったものよ。その形を取り戻すがよい」
そう言い放ち、ユーリがすっと片手を地面に向けると同時。
大地がその動作に反応して光を放つ。
淡い、淡い銀色の光を。
それをうけ。
「……ま、ここシルの力が…ここの温泉地には満ちているからねぇ…・…」
アンリが訳知り顔で何やらつぶやいていたりするのだが。
ヴォルフラムはそんな彼の声は聞こえていない。
というか目の前で起こっている状況を把握するのが何よりも彼にとっては大事であるがゆえに。
それと同時。
辺り一帯が光に包まれ。
次の瞬間。
壊れた建物などは当然ながらに、怪我した人々や生き物たちまで。
たちどころのその傷などはふさがってゆく―――



オレの中ではその間ずっと音楽が流れ続けている。
でも何でとある映画のテーマソングが?
せめて別の歌であってくれ……
「う〜……」
うなりつつも目を開く。
視神経に光が入ってまぶたの裏まで白くなる。
痛みをこらえて目をあければ、なぜか真上にきらめく金髪と湖底の緑がまたたいている。
これで性別が女の子だったら性格くらい我慢して付き合うのに……
「って!?うわっ!?ヴォルフ!?何でおまえがひざまくら!?」
そんなことをおもうと同時に現状に気づき思わず叫びつつ。
草の上を三回もころがってヴォルフラムの膝から身体を離す。
つうか何でどうしてオレはヴォルフラムに膝枕なんかされてたわけ?
四肢はだるく、何か頭もずきずきする。
「う〜……あたまいたい……」
頭に手をやり身体をおこすと。
「寝不足だ」
いってヴォルフラムはタオルを投げてよこしてくる。
「顔をふけ。それは湿らせてある。少しはすっきりするだろう。あれだけの魔術をつかったんだ。
  いつもならかなり眠るのに今回はそれほど休んでいない。頭痛がしても当然だ」
「魔術?そだ!?火は?!ルイ・ビロンは!?」
「ユーリ。大丈夫?」
オレの叫びと同時、心配そうにグレタが水をもってきてくれる。
「ルイ・ビロンはやってきた役人たちに連行された。ヒルヤードのな。
  カヴァルケードやシマロンにもルイ・ビロンが作った偽札が出回っていたらしい。
  彼に手をかしていた人々がなぜか一気に役所に出頭し悪事を全て話した結果らしい。
  猊下が何かなされたらさしがな。
  火は猊下とおまえの手によって、大精霊たちの力をかりて消し止められている。
  おまえの力で町並みもすっかり元通りだ。
  ついでにおまえはけが人なども全て治してたようだがな」
「…オレが!?…あれ?でも何か……?」
ぼんやりと、四つの名前を呼んだことまでは覚えてる。
そしてルイ・ビロンに説教をかました記憶も。
いつもなら綺麗さっぱりと何も覚えていない。
というのに。
「とにかくねてろ。本当なら宿に連れて行きたいところだが。町は騒然としているし。
  何より上空から崩れ落ちそうになったおまえを飛び上がって受け止めた猊下が、
  今はひとまず動かさないほうがとりあえずいい。とおっしゃったからな。
  広場の中にある草の水上でやすませていたんだ」
いわれてみれば、ここは町の中にある広場の一角らしい。
その広場の中にある草むらでオレは横になっていたようだ。
「まったく……。おまえときたら瀕死のものたちまで一気に治療するなど!
  少しは自分の身体のことも考えろっ!」
いやあの…はい??
「は?」
ヴォルフラムが何を怒っているのかがわからない。
「あ。ユーリ。気が付いた?まったく。無茶するよ。
  いくら君の体が負担に慣れてきたとはいっても、まだ完全じゃないんだから。
  下手をしたら命をおとすよ?力と体がついていかずにさ。
  まあそうはさせないように止めるのも僕の役目だけど」
そんなことを何やらいいつつも近づいてくるアンリの姿が目に入る。
「あ。アンリ。?えっと…何がどうなったの?」
アンリに気づいて問いかけようと声をかけると、ふとそんなアンリの後ろに見覚えのある人達が。



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