「みとめられんぞ!!」 上のほうの席では、何やら憤慨した表情で立ち上がって叫んでいるルイ・ビロンの姿が。 傍目にも怒っているのがよくわかる。 それってお門違いだとおもうよ? 「こんなことは絶対にみとめられん!事故で中断されたのだから、レースは無効。 再試合を要請するっ!」 とか叫んでるし。 「見苦しいですぞ。ルイ・ビロン。この通り貴殿は条件に同意された」 いって何やら調印書らしきものをつきつけているヒスクライフさんだけど。 「みとめんぞ!地獄極楽ゴアラが砂熊にまけるなど! だらか!あたらしいこまをひけっ!無効だ!無効試合だ!再レースを要請するぞ! もう一頭だ。そうだ、ラパカップだ。ラパカップをつれてこいっ!」 なんか叫んでるし。 「あのね〜!!あんたが提案してきたことだろうが!この賭け事は! 賭け事っていうのはな!時の運と実力と幸運。一回こっきりの勝負だろ!? それに無効試合を宣言できるのは当事者でなくて審判だけだろうが! しかも、妙に初紺のいいロバとも馬ともカッパともつかないような生き物はなんなんだよ!?」 立ち上がり、上の席にといるルイ・ビロンにむかって叫ぶオレ。 「ルイ・ビロン。これ以上の悪あがきは自身の名声に傷をつけるばかりですぞ? もっとも、悪評も名声のうち。とおおらかに勘定するのならば別ですがね。…あ」 驚いたことに、ルイ・ビロンはヒスクライフさんの手から証拠書類をむしりとって食べてるし。 ヤギですか? あんたは…… だがしかし。 「それを食べたところで、貴殿は罪からはのがれられぬぞ? 素直に権利を手放す。というならばいうまい。とおもっていたが…… 貴殿の屋敷からみつけたこの裏面白紙の紙幣。 これは我がカヴァルケードやシマロン、といった国々の紙幣。 むろん。我が母国のドラグマ紙幣は片面印刷などではない。シマロンの紙幣にしてもしかり! いくら貴殿がヒルヤードの役人に鼻薬をきかせていても、 カヴァルケードやシマロンからの追求はのがれられまいっ! さあ、観念しておとなしく、権利を手放し、行いを恥じて蟄居するがいい!」 指をつきつけて言い放っているヒスクライフさん。 何かピッカリ君かっこいいぞ。 思わず感心してしまう。 「……そんなにこの地の興行権がほしいか?」 この後に及んで何をいいだすのやら。 ルイ・ビロンは狂気をはらんだ笑みを浮かべ唇をすこしにやつかせ。 「ならば!のぞみどおりくれてやろうっ! こんな田舎の観光地の一つや二つ、こちらにとっては痛くもかゆくもないわっ! 文字通り、何もかもまっさらになったこの地区で偽善的なお綺麗な商売をおこせばいい! このルイ・ビロン。たつものとして後を濁さぬよう。 自分の行いは、自分できっちりぽんと片をつけていこうっ!」 そう叫ぶと同時。 バッンッ! 上空に向けて何やらクラッカーか何かのようなものを鳴らしている。 ?? 「炎で清められた歓楽街に教会でも寺院でも建てろというのだっ!」 ドッン!! ルイ・ビロンの声と同時に、何か街のほうから爆発音が。 あわてて、思わず周囲を渡すと、街の辺りから煙が数本立ち上っている。 「まさか!?」 オレの叫びと。 「いくよっ!ユーリ!」 そのまま駆け出すアンリに続き、レース場からオレたちもまた外にとでる。
外にでてみると、街のいたるところから煙と火の手が上がっている様子が見て取れる。 「おのれっ!ルイ・ビロン!どこまでも卑劣なまねを!」 ヒスクライフさんがそれをみて怒りで体を震わせている。 「とにかく!今は人々を避難させないと!消防車どこ!?ってうわっ!?」 ぼぐんっ! 音とともに、炎が近くの建物ではじけ飛ぶ。 炎の勢いは何やら増すばかりでどんどんと広がりを見せている。 みれば、逃げているのは男性ばかり。 女の子の姿は一人もみえない。 「夕方からきっちりぽんと働いてもらうために、娘たちにはたっぷりぽんと休養をあたえている。 うちは労働条件がいいからね。この時間はぐっとりぽんと眠っていることだろう。 安心して休める環境づくりのために不審者の侵入などを防ぐためにも鍵もかけてある。 窓にはきっちりと鉄格子もはめてね。境遇のいい店作りが身上だったのでね」 しれってそんなことを何やらいっているルイ・ビロンの姿があったりするけど。 「それじゃ逃げられないじゃないかっ!」 どくんっ。 心臓が高鳴る。 とにかく…とにかく、皆を助けないと!! 「…ニルファ!シーラ!アスラ!フレイっ!!力をかして!!」 ほとんど無意識。 空に手をかざし、四つの名を呼ぶ。 「この地に眠りし我が力!わが意に答え不浄なる炎を消しあわれな者度もをすくいたまわんっ!」 自分で自分が何をいっているのかわかんないけど。 そんなオレの言葉に答えるかのように、空に黒雲がわきあがり。 次の瞬間、雨が大地を打ちつける。 風が吹き、そして雨は帯となり、小さな場所にも入り込み、炎を瞬く間にとかきけしてゆく。 そしてそれと共に、吹き上がる炎はまるで火柱となって空にと巻き上がり、 そしてその火は雨の中でかききえてゆく。 「……あた〜……この地だからさ。やりかねないのはわかってたけど……」 横で何か額に手を当てて何やらつぶやいているアンリに。 「…あれは……」 戸惑いの声を上げているヒスクライフさんや。 それをみて驚いて固まっているルイ・ビロンの姿。 空にあからさまに人の姿をした…しかし人でない『何か』がとびかっている。 それは見なくてもわかる。 精霊たちの一族だ…と。 ……罪もない人々を女の子たちをつらい目にあわせやがって…… どくっんっ! さらに高らかに心臓が高鳴り… オレはすっと目をとじる。
――できる。 そう、自分にならば。 半ば夢をみているような浮遊感。 そのまま、オレは本能のままにと突き動かされてゆく――
「……飛んでるし」 「とんでるな」 「さすがユーリ殿」 見上げる彼らの目にはふわり、と上空にと浮き上がったユーリの姿。 ヴォルフラムにコンラッド・ヒスクライフの三人がそんな彼の姿をみてそんな声を出しており。 「ま、四大精霊を召還しちゃってるからねぇ…ユーリは。 でもよかったぁ。出てきたのがこっち側の力でさ」 横では何やら意味不明なことをいっているアンリの姿もあったりするが。 その言葉の意味が理解できるのはこの場においてはアンリとコンラッドの二人のみ。 腕組をした姿で浮き上がり、ユーリの周囲には銀色の光のようなもの゛か満ちている。 町を見下ろす高さに浮かび上がり、そのまま地面を見下ろし。 「…日々の糧を与える善人の仮面をかぶり、 異郷の地より家族のためにと出向いた少女たちに非道な仕打ち……」 きっ。 と上空からルイ・ビロンを見据えていっているユーリ。 そんなユーリの後ろには水・炎・雷。 この三つから出来ているとみなされる龍の姿が。 「さすがですね」 そんなユーリの姿をみて思わずつぶやくコンラッドに。 「……だから。ユーリには魔力の制限はないのか?…ここ、仮にも人間の土地だぞ?」 あんぐりと口をあけてそんなことをいっているヴォルフラム。 「ま、ユーリだしねぇ。ちょうどいいや。というかこうなったら隠す必要もないだろうしさ。 四人とも!ここの住人たちや従業員たち。 彼らを家々や建物の外にと出して避難させて!…姿をみせるの許すからさ」 いいつつも、ふっとその手にまるで虚空から取り出したかのようにと杖を取り出し。 虚空にむかって何やらそんなことをいっているアンリの姿。 こうなったら。 彼らに協力してもらって、注意を彼らにひきつけておいたほうが。 ユーリが『誰か』というのがわからなくなる…というものだ。 魔王、というのはバレてもかまわないが…だが…… あれは絶対にまだ…知られてしまうのは…早すぎる…… そんなことをアンリは思いつつ、大精霊たちにと語りかけていることを。 この場の誰も知るはずもない。
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