「ほら。ユーリ。いくよ」
「アンリ!頼むから詳しくおしえてくれっ!」
「やだ」
「あれは思い出したらちょっと…ね」
オレの叫びに即答してくるアンリとコンラッド。
……あぅ……
「何をごちゃごちゃといっている!いくぞ!」
そんなオレたちにとヴォルフラムが叫び。
オレたちは、何でも賭けが行われるという、
このヒルヤードの歓楽郷の中にあるレース場にと向かってゆくことに。
何でも珍獣レースに決定したとか何とか……


こちらのパドックとなる動物はすでに待機しているらしい。
「?ユーリ?どうしたの?」
「…何かちょっとね……」
オレを心配してグレタが言ってくるけど。
学ラン姿であるくだけで周囲の人たちが道をあけてくる。
う〜ん…
黒の効果ってすごいんだなぁ〜……
アンリもオレも頭にとりあえず帽子などをかぶっている、というのに。
「ほら。俺たちの馬となるのはアレですよ」
いってコンラッドが示す先には。
何だか見慣れた白と黒のコントラストの生物が。
「って!?ケイジ!?ライアン!?」
なんで彼らがこんなところに!?
そこには、なぜかなつかし…ともいえるライアンと砂熊のケイジの姿が。
「実は。一昨夜はライアンに退職金を渡しにいってたんですよ」
コンラッドがオレにとそう説明してくる。
「……なるほど」
おそらく見世物小屋で働いているんだろう。
しかし、こんなところでライアンとケイジに出会うとは。
この前のシュトッフェルの館の一件以来だ。

「とにかく。VIP席にいこうよ。僕らの席らしいよ?」
しばらく話した後に、オレたちは観客席にと移動する。
この場所は、よくこういったレースのようなものがあるのか。
ちょっとした木々が生えているコースとなっているらしい。
観客席にとたどり着いてみれば、すでに観客席は満員御礼だ。
出場動物紹介のアナウンス…といっても、マイクとかではなくて。
なぜかメガホンをもった男性がたけっていたりする。
こ〜いうとき、マイクとか音量調整できる機械があると便利だな。
とおもってしまう。
日本では当たり前のことなのにそれがない。
というのは不便なんだな〜…と妙に感心してしまう。
オレとアンリ。
そしてコンラッドとヴォルフ。
そして上の席にはヒスクライフさんとルイ・ビロン。
グレタは先ほどひとまず宿にと送り届けている。
ゲーゲンヒューバーのこともあるし、何よりもグレタだってまだ本調子ではないかもしれないから。
「赤コース〜!!世界の珍獣てんこもり。オサリバン見世物小屋所属〜!
  167イソガイ〜。砂熊〜。ケイジ〜」
どうでもいいけど、喉がかれそうになってるぞ?
叫んでいる人は。
実際、いっている人の声は何かかすれてうわずっている。
「うぉ〜!!」
「砂熊かよっ!?」
「あの砂漠で人間くってるあな砂熊が走るのが見られるんだぜ!?」
「砂熊かわい〜!!」
観客席からは様々なそんなどよめきがおこっている。
「いや、その前に…紹介方法が競馬とかレース向けじゃないような……
  っていうか、167イソガイって何!?イソガイって!?」
「青コース〜。世界に名だたるルイ・ビロン氏所属ぅ。201イソガイ〜。地獄極楽ゴアラ〜!!」
何やらまたまたイソガイ、という単語が……
「イソガイ。っていうのはね。売れた券の枚数みたいなものだよ。
  というか少ないほうが倍率が高いんだけどね」
オレの疑問にアンリが横で答えてくるけど。
「ちょっとまて。倍率って……」
「つまり。馬券とかと同じなわけ。でも地獄極楽ゴアラか。やっぱりね〜」
「…いや、やっぱりって……」
アンリがそういうのと同じく。
周囲の客席の客たちからは。
「うぉ〜!地獄極楽ゴアラかよ!」
「あれだろ?あのぶら下がらないときゃ悪魔で、主食は誘拐という、あの」
とかいう声が聞こえてきていたり。
いや、とゆ〜か……
「?主食は誘拐でなくてコアラだったらユーカリじゃあ……
  にしても。コアラ?ゴアラ?地獄極楽って…それって仏教用語じゃん!?」
何か驚くポイントが違うような気もするけど。
そんなオレのつぶやきをききつつ。
「見れば面白いですよ?いわゆるジキルとハイドみたいで。
  見た目は地球のコアラの大型版ですけどね」
コンラッドが笑いながら説明して、何やら視線を下にと示してくる。
その視線の先をみてみれば。
ガラガラと、何やらコース上にと現れているケイジの相手となるべき存在の姿。
一見したところ、どうみてもやっぱり普通のコアラ。
大きさは砂熊と同じくらいはあるであろうが……
でも、どうして太い幹ごと運送されてきてるんだろうか?
枝を両腕で抱え込み、目を閉じてうっとりとぶら下がっているコアラの姿が見て取れる。
「?あれのどこが地獄極楽?」
「枝からおりたらわかるって」
オレの素朴な疑問にアンリが答えてくるけども。
レースはトラックを一周して、このオレ達の座っている席の前がゴールとなる。
砂熊ケイジの背中にはライアンが乗っているけど。
ゴアラ側はといえば、なぜか斧をもった男が三人ほど幹を取り囲んで立っているだけ。
彼らは何がしたいんだろうか?
スターターの右手が高く上がり。
その手が振り下ろされるのと同時に、斧がゴアラが抱きついている幹にと振り下ろされる。
太い幹がそれと同時にゆれていき……
ごどっ。
鈍い音を立てて、ゴアラが幹から落っこちたかとおもうと。
その刹那。
ゴアラと呼ばれた動物の顔が一変してるし……
見開かれた目は充血して真っ赤。
血管が今にも浮きそうな茶色い鼻。
口を開けば並んでいる尖った犬歯がむき出しにとなっている。
そんな牙ともいえる歯をむき出しにしながら、泣き声、というか雄たけびをあげ。
「ゴア〜!!」
「うわっ!?」
思わずびっくり。
「……なるほど。たしかにジキルとハイド…ね。なるほどね……」
思わずコンラッドの言葉に納得してしまう。
スムーズにスタートを切っていたケイジたちをおいかけて、ゴアラもまたコースをかけてゆく。
「砂熊がゴアラに照るものか。これで双黒のものは手にはいったも当然」
何か上の席でそんなことをいっているルイ・ビロンの声が聞こえてくる。
「まだ勝負はきまっておりませんぞ!」
そんなルイ・ビロンにといっているヒスクライフさんの声も。
「って!?うわっ!?おいつかけるっ!おいつかれるよ!?」
見れば、ぐんぐんとゴアラは距離を縮めている。
そんなオレの叫びに。
「まあ。地獄極楽ゴアラは肉食獣ですからねぇ」
「嘘!?」
コンラッドの言葉に思わずびっくり。
コアラっていったら主食はユーカリだろ!?
大きさはともかくとして。
ジャイアントパンダ…でなかった砂熊といい、コアラ…というかゴアラといい…
ここの動物って一体……
「ま。大丈夫だってば。ユーリ。だってやっぱりコースをここに選んでくれたしねぇ」
オレの横でにこやかにそんなことをアンリがいってくるけど。
「アンリぃ〜…。おまえ、自分を賭けの対象にしておいて、そんなのんびりと……」
「まあまあ。みてなって。ほら」
アンリがいって、指差すほうを見てみれば、
今にもゴアラがケイジに飛び掛ろうとして、思いっきりジャンプしていたりする。
「…危ないっ!」
オレの叫びはだがしかし。
次の瞬間。
「…あ゛?」
思わず口をあんぐりとあけた間のぬけた叫びにとなってしまう。
そのままゴアラはジャンプして、コースの横にと生えている木の枝にとぶら下がっていたりする…
隆起のある太い横枝にしがみつき、うっとりとしている。
遠くからみたらやっぱり地球のコアラそのものである。
しつこいようだけど、大きさはともかくとして。
遠近法もあってかそんなに大きくはみえないし。

「なっ!?馬鹿な!?」
上の席では驚愕の声を上げているルイ・ビロンに。
「これはどうやら。我々の勝ちですな。走者とコースの相性を調べなかった貴殿の失態ですな」
などといっているヒスクライフさん。
「…えっと?何がいったいどうなったの?」
見れば、ライアンとケイジはそのままゴールポイントへ。
それをみて、歓喜の雄たけびをあげる観客と、舞い飛ぶ無数の外れ券らしきもの。
っていつのまにか公営ギャンブルに?
そ〜いや、さっき倍率がどうの…とかアンリがいってたっけ?
「ゴアラはね。凶暴な肉食獣だけど好みの枝をみつけるとぶら下がらずにはいられないんだよ」
にっこり笑ってアンリが説明してくるのに続き。
「それまでどんな状況におかれていても。好みの樹木に出くわすと、我を忘れてしまうんですよ」
コンラッドが追加説明してくれる。
…豹変するゴアラにおもわずびっくり。
凶暴な姿を見なければ、きっとマスコットキャラクターにもなれそうだ。
「ふん。棄権パターンだな。さすが猊下。ここまでみこしていたのか」
一人ヴォルフラムが関心した声を上げている。
ということは、オレの身代わりを申し出ていたアンリの身はもう安泰、ということだ。
負けたらアンリをおしのけて、やっぱりオレが…とおもってたけど。



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