「何と!?双黒のものが二人も!?」
眼鏡をはずせば、アンリの瞳も黒だとわかる。
いつもは眼鏡の光の反射で判りずらいけど。
「ユーリを賭けの対象になんてさせないよ。なるんだったら僕がなる。
  別に問題はないだろう?僕だってこれでも双黒の大賢者って呼ばれるものだし」
しれっとアンリがそんなことをいってくる。
「って!?おまえ何いってんだよ!?こいつはオレを指名したんだぞ!?」
「君を危険な目にあわせられないってば。いい加減に守られることになれなよ」
「やだねっ!人を巻き込んだりするのってオレの主義じゃないのはアンリならよく知ってるだろうがっ!!」
「だからこそ。だよ。君に何かあったらそれこそ世界は終わりだからね」
「何だよ!?それっ!?」
そんなオレとアンリの会話に。
「ふはははっ!これはすごいっ!世の中に双黒のものが二人もいようなどっ!
  しかも、嘘かまことか『双黒の大賢者』ときたものだ!
  双黒の大賢者といえば、かつてこの地を救いし英雄とも言われている存在!
  その名をかたるとは何とも度胸があるものか、はたまは本物か。
  どちらにしろその肩書きは大変に気に入りましたぞ。
  よろしい、そちらの人でも対象は認めます。何なら二人でもいいですがね」
「猊下っ!!」
コンラッドがあわてた様子でいってくる。
「アンリッ!これはオレの問題でもるあんだぞ!?
  そもそもオレがきちんともって早くに隣国に援助を受け入れられてたら!あの子たちだって!」
「それは君のせいじゃないよ。魔族の施しはうけない。っていって。
  つっぱねたのはかの国だ。ボランティアとしていっても魔族の施しはうけぬっ!
  と突っぱねられただろう。だから中間に別の国にはいってもらったんだろ?」
「そうかもしれない。けどっオレには責任があるっ!」
「そうおもうなら。ユーリ。なおさら君自身を賭け事の対象になんてしたらだめだ。
  君の『力』を『誰か特定のもの』に渡すわけにはいかないからね。
  僕なら自分で何とかできるけど、今の君では無理だ」
「けどっ!!」
「くどいよっ!」
アンリに強い口調でいわれ。
ぴたり。
と何やらアンリに額に手を当てられる。
その刹那。
ぐらり。
とオレの意識がゆれてゆく。
「アンッ!おまえっ!」
「しばらくねむってて。話はこっちでつけるから」
ひきょぅものぉぉ〜〜!!!
オレの心の叫びはどこにやら。
アンリの手により、オレの意識は深い眠りの中にと引き込まれてゆく……


―――ユーリを巻き込もうとした時点で、この僕がこの人間を許すわけないじゃないか?


何かそんなアンリの声が聞こえたような聞こえなかったよ〜な……
前にも確か、どこかで同じようなことが……
あのときは……


―― 姉上っ!なら俺もっ!!
―― 君一人に重荷はおわせないよ。
―― 頑固もの〜。ま、ユリらしいけど。
―― だね。最後までつきあいますって。

――――…ならば、任せましょう。ですが…役目が嫌になればいつでも……

――銀河の命をどうするのかは……あなた次第……


??
何?この記憶??


…え?…記憶??



「って!!アンリッ!!」
がばっ!
飛び起きるとなぜか天井が目に入る。
えっと??
「気が付いたか?」
横を見ればヴォルフラムの姿が。
「あれ?オレ?…って!そうだよ!!アンリは!?ゲーゲンヒューバーは!?ヒスクライフさんは!?」
なぜかベットの中に横たわっていたオレは、布団から出て思わず叫ぶる
布団の中でしかもベットに横たわっている。
ということは、おそらくアンリに強制的に眠らされてしまったのだろう。
何かさっきまで変な夢みてたようなきもするけど……内容わすれたし。
夢のことよりも、今はなにより。
そんなオレの問いかけに。
「おちつけ。まず第一に。ゲーゲンヒューバーのやつは、猊下が束縛を解くと同時に。
  自らの腹を剣で貫いた。すぐに手当てをして命に別滋養はないが、目覚めない状態だ。
  今はグレタがつきそっている。第二に。猊下は自らを賭けの対象とされて。
  明日の賭け事の珍獣レースの会場を見に行かれている。他にも用事があるらしいがな。
  コンラッドは今は珍獣の手配にいっている。
  明日、権利と猊下の身をかけて、レースが行われることにきまった。
  おまえが猊下に気絶させられてから決まったこどた」
説明してくるヴォルフラムだけど。
「って!?剣でつらぬいたって…何でっ!?」
オレの言葉とともに。
ギィ。
鈍い音とともに、扉がひらき。
「ユーリ。目がさめたの?大丈夫?」
心配顔のグレタが部屋にと入ってくる。
「グレタ。グレタこそ平気か?」
気のせいではなく顔色の悪いグレタにと話しかけると。
オレの問いかけに少し悲しく微笑んで、オレにとだきついてきて。
「ヒューブがね。目を覚まさないの。本人に生きる気力がたりない。ってお医者さんがいってた。
  ヒューブはいっつも死にたい。っていってた……
  ヒューブは昔、とても悪いことをしたんだ。っていってた。
  生きているのがつらくなるほどにひどいことをしたんだって……
  前、グレタに話してくれたことがあるの。
  でも与えられた仕事があったからどうにか考えずにすんだんだって。
  そのうちに生きていてもいいのか、と思えるようになって、でも、罪は許されるわけなくて……
  好きな人ができて赤ちゃんが出来た、って知った直後にすぐに引きかばされたって……」
ニコラと知り合い恋におち、周囲に引き裂かれた。
魔族と人間、というそんな理由で。
「お城の地下の牢屋でずっと座り続けて。
  やっぱり自分は罪を許されてないんだってわかったんだって。
  でも自分で命を絶とうとすると、自分が死においやった女の人が夢に出てきて。
  死んじゃだめ。まだ死んじゃダメ。っていうんだって……
  だから自分では死ねなくて。殺してくれる誰かを待つんだ。っていって……
  だから一緒にお城を出たの。グレタは抜け道とか隠し通路を衛兵たちよりよく知ってたから」
いいつつも、グレタの瞳に涙がたまっている。
グレタはいっていた。
牢屋にいた魔族が唯一の話し相手だったって。
そしておそらく、今グレタがいっていることが、
コンラッド達とゲーゲンヒューバーの間の遺恨であろう。
グレタはいっていた。
女の王様じゃなかった。
と。
だからこそ、グレタはオレの隠し子だ、といってきたのだろう。
……ツェリ様ならそういうことがありえても不思議じゃないから。
牢屋の中での情報は魔王交替の情報までは届いていなかったのだろう。
といっても時期的に、オレが即位したのはどうみても。
ゲーゲンヒューバーが牢を抜け出した後になるわけだし。
旅の最中もきっと情報がはいらなかったのだろう。
「……途中まで……ヒューブは城の近くまでつれていってくれたんだよ?
  でも、ヒューブは自分の死に場所を探すっていって……」
泣きながらそういってくるグレタの言葉に。
「自分を殺してもらうために用心棒になったのか……」
横で小さくつぶやいているヴォルフラム。
「大丈夫だよ。グレタ。ゲーゲンヒューバーを死なせはしないって。
  過去がどうあれ、彼は二十年もその罪を背負って忌憚だ。
  死ぬことは確かに生きることよりも楽かもしれない。けど、死ねば罪を償うことはできない。
  罪を背負って生き、二度と同じ過ちが起こらないようにする。
  それが彼の役目だともおもうし、また義務だとおもうんだ。
  生きるっていうのは酷かもしれないけど…でも。けど…生まれてくる子供には罪はないし。
  きちんと自分がどんな間違いをして、どうしたのか。後世に伝えていく義務はあるハズだ。
  だから…オレは絶対に彼を殺したり、殺させたりはしないよ。
  それが本人にとって望まぬことだったとしても…だ。
  生き残った命は未来に伝える力とならないといけないんだ」
おそらく……戦争のきっかけになるようなことをいったのかもしれない。
その辺りのことは詳しくはわからないけど。
以前聞いたことがある、二十年ほど前の人間の国との戦争。
それに深く彼はかかわっていたのだろう。
これは勘だけど。
シュトッフェルによからぬ進言をした人物…というのが……もしかすると……
それでも、彼は生きるべきだとおもう。
たとえ、それが彼にとっては地獄かもしれなくても。
その想いはきっと、本当の本当の意味での平和を導く力となるはずだ。



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