「あ。何か縁があって。今日からオレの子になるグレタです」 「ユーリがね。グレタはユーリの子供だっていってくれたの」 そんなオレとグレタの会話に。 「ユーリどの……。申し上げておきますが…… おやさしいのはよろしいですが、そう簡単に養子縁組を決められては…… 特に貴殿は立場があるお人ですし……」 何か額に手をあてていってくるヒスクライフさん。 「いや。成り行きで。今後はないですよ。……多分」 そんなオレの素直な言葉に。 「まったく。あなたというお人は……。しかし、つかまっていた。とは穏やかではないですな。 まさか髪や瞳の色を気づかれましたか?なぜコンタクトをしておられないのですか? いくらここが魔族に寛容な地でも、この西地区の権利をもっている、ルイ・ビロン、という男は。 裏では人身販売もしているとか。もし貴殿の正体がわかって捕らえたのだとすれば。 それこそ一大事ですが……。それはそうと?護衛のかたがたは? ウェラー卿たちはご一緒ではないのですか?」 オレの言葉に一瞬笑みを浮かべ、そしてすぐさま深刻な表情で問いかけてくるヒスクライフさん。 「ヴォルフラムは疲れたのか宿で寝てます。 コンラッドは人に会うっていって出かけました。オレはこの子…あ、グレタっていうんですけど。 この子が人を探してるっていって夜外に出ようとするので。 そのままついてきたんですよ。アンリと一緒に。 途中具合のわるそうな女の人に声をかけたら何かからまれちゃいまして。 で、逃げてたんですけど、アンリは途中で追いかけてきた人たちをまくから。 とかいって、それっきりはぐれたままですし。 で、宿に向かおうとしたら、テントの中で偽札みたいなのを見つけてびっくりしてたら。 何かつかまっちゃいまして……あ。そういえば、ヒスクライフさん。 これってどう思います?やっぱり偽札?警察署どこでしょうか?」 いいつつ、ポケットに入っていた警察にもっていこうとおもっていた、 ニ・三枚ほどいれていた紙をとりだしてヒスクライフさんにと渡してみる。 「これは!?」 それをみて何やら驚いているヒスクライフさん。 「何か見世物小屋らしきテントの中の。牛の檻の中の藁のしたに山になってて。 みたら、裏面が白いし。びっくりしちゃって」 オレの言葉に。 「ここ、ヒルヤードの紙幣は片面印刷ですけどね。」 「そうなんですか!?」 やっぱりそういうのがあるのか…こ、この世界って…… 地球でもそういうの…あったっけ? オレ、世界情勢には疎いからなぁ…… ならこれはへそくり…? もしくは脱税している裏金?? 「しかし…これは我が祖国。カヴァルケードの紙幣。…ルイ・ビロンめ…偽札まで……」 あ、何か震えてる。 かなり怒っているみたいだ。 「ってやっぱり偽札ですか!?警察どこですか?もしくはFBI?それとも大使館!?」 オレのそんな言葉に首をかしげつつも。 「あ。失礼。?警察はともかく…えふ?たい??…何はともあれ…… しかし……話を聞く限り、貴殿のことが判って捕らえた。というのではなさそうですな。 ウェラー卿たちには私から連絡させましょう。宿はどちらに? 用事が済み次第お送りいたしますよ。あなたをお一人にはさせられませんからね。 御身に何かあっては大変ですから」 いいつつ、彼と一緒に入ってきた男性に何か言付けているヒスクライフさん。 でも、宿に戻ってもコンラッドは、ちんとした名前で宿帳には記載してないとおもうけど? そういいつつ。 「いかがでしょう?私は今からルイ・ビロン氏に会いに行くのですが。 護衛の方がこられるまでご一緒に行動いたしませんか?」 いって手を差し出してくるヒスクライフさんの姿 「そ〜いえば。ここの責任者に話がある。とかいってましたっけ? ちょうどいい。オレもいってやりたいことがあるんですっ!!」 オレの力強い言葉に。 「相変わらずですなぁ……何やら回りの人の苦労が目に浮かびますぞ。 貴殿は立場あるお人なのですから。あなたの身はあなた一人だけものではありますまい。 国の…いや、この世界すべての、といっても過言でありませんのに」 「そうかもしれませんけど…って、世界はちょっと大げさじゃあ? そういうヒスクライフさんだって。立場としてはカヴァルケード王の長男じゃないですか」 そんなオレの言葉に。 「私はもう王家を出奔してエヌロイ家の婿養子として入ってますからね。 王室典範によって娘が王位を受け継ぐことは決まりましたが。 気分の国とは私が中間に入ってたってますけどね。縁、ということで。 それにですな。養父の築いた財産を目減りさせるわけには参りませぬ。 この西地区も元々、我がエヌロイ家が管理していたのですが。 管理を任せていた家人がいかさまばくちで権利を取り上げられてしまいましてな。 権利を奪った挙句にしかも人道に反する行いをこの地でしている。 私としてはみすごせないのですよ」 そう説明してくるヒスクライフさんだけど。 「それならオレだってみすごせないよっ!というかみすごせませんってば!! 子供を水商売みたいなところで働かせたりっ! いや、そもそも子供を働かせることすらも法律に反しているし、道徳違反っ!! それにっ!そうかといえば、けが人をろくに手当てもせずに倉庫みたいなところに閉じ込めてるしっ!」 水商売、といってもいろいろあるが。 どうも見た感じ…ここのは、きちんとした商売ではないのは見た目でも明らか。 少女たちの悲鳴に近いオーラがひしひしと伝わってきて、かなり痛い…… そんなオレの叫びにため息一つ。 「…どうやら放っておくと、何やらお一人ででも乗り込まれていかれそうに勢いですなぁ。 ……わかりました。では一緒にルイ・ビロンの所へまいりましょう。 ただし、そのフードは目深にかぶって。決して貴殿の御髪の色をみせられませぬように。 あとサングラスとかでもあれば瞳の色をも隠されていただきたい。 ルイ・ビロンは貴殿の瞳と髪の色に気づいたら、何をしでかしてくるか判らない。 そういうそんな男です。ユーリ陛下を危険な目に合わせるわけには参りませんからな」 いって、しっかりとオレをみて言ってくるヒスクライフさん。 「あ…あの?ヒスクライフ様?ルイ・ビロン氏がお待ちですので……」 そんなオレたちの会話に店のものが口を挟んでくる。 どうやらヒスクライフさんと知り合いだ。 と判り、オレとグレタを捕まえる……という気はないようだ。 「そうでしたな。そういえば、そちらのお嬢さんにはまだなのっておりませんでしたな。 私はヒルヤードのミッシナイのヒスクライフというものです。 あなたのお父君となられたこの御方にはなみなみならぬ恩恵を受けているのですよ」 いって、すっぽりと帽子とカツラを取り去って頭をさげてくる。 「うわっ!?」 それをみて、グレタが驚いてオレにとしがみついてくる。 「あはは……。普通驚くよね…普通…これは……。 これって、カヴァルケードの上流階級の挨拶なんだって。グレタ。 オレもまだこれには慣れてないんだけどね……」 調印式に出向いていったとき、国王様他、そのほかの重臣の人たちが全員で。 これをやってきたときにはもう、あのときばかりはオレ、その場で硬直してしまったしなぁ…… まさかみなさん全員ハゲ…というかツルピカで、しかもカツラとは…… まあ、それが文化だ。 といえばそれまでなんだろうけど…けどさぁ…何だかねぇ…… 「……ハゲが?」 うわっ!? グレタってばオレの説明に言ってはならない単語を口にしているし。 とりあえず。 「グレタは今の髪型が似合ってるよ?長く伸ばしてもかわいいかも。 お願いだから・・・…スキンヘッドにしてみたい。なんていわないでね?」 小さいときには何でも興味津々だから、ちょこっと不安になってしまう。 思わず本気でグレタの肩を両手でつかみ、視線をグレタと同じにして話しかける。 興味津々で自分もハゲにしてみたい。 と言い出されたらとても困るし…… 尼さんとかならよく髪を剃ったりしてる人はいるらしいけど…… そんなオレとグレタの言葉に。 「これは男性だけですよ。女性にとって髪は命ですからね。ではまいりましょうか? ユーリ殿。くれぐれっ!も無茶だけはしないで下されよ? でないと私は娘にすら顔を合わせることができなくなってしまいます」 「…多分気をつけます」 「「……多分って……」」 オレの素直な言葉に、なぜかグレタとヒスクライフさんの声が重なっているけど。 だって、相手の出方次第じゃ、オレ、自分自身を抑える自信…まったくないし……
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