「……魔族の…王の…隠し子?」
何か、ぴくり、とニナの体が震えている。
「そ。グレタはこのオレの隠し子。この子がそういってたし。完全に今決定っ!」
そんなオレの言葉に。
「魔族なのっ!?あなた魔族なの!?」
あ、ニナが何か飛び起きて、壁際にとはりついてるし。
よくみれば、どうやらいつの間にか怪我は治っているらしい。
ま…まさか、本当に怪我の治療ができるとは……ある意味驚きだ。
「落ち着いて。落ち着いてニナ」
そんなニナをなだめているイズラ。
「どうしよう。あたし魔族に触られた。さわられたわっ!きっと呪われるっ!神様に罰を与えられるっ!!」
何か興奮して叫んでるし。
だがしかし、その興奮のためか顔色がかなりよくなっている。
「何で!?何でそんなことをいうの!?親切にしてもらったんだよ!?
  助けてもらったんだよ!?なのに何で!?」
グレタがそんなことをいっているけど。
「いいんだよ。グレタ。彼女はスヴェレラの人だし。この反応もわかるよ。
  オレもいろいろと抗議文送ってもらったりしたけど。
  あの国は国が決めた相手以外の人を好きになったりしただけで。
  女の人だけが罪に問われる。なんて理不尽さに満ちてる国だから。
  魔族と恋に落ちただけで収容所に隔離される。
  そんなところで育ってるんだ。この反応に仕方ないよ。
  それに、この世界って魔族に偏見もたれているらしいし。
  大体魔族って知ったら怖がられたりするしね。
  ……もっとも、オレもいまだになかなか自分が魔族だなんて実感ないけどね」
グレタがオレの顔を見上げて、それでいいの?
というように視線で問いかけてくる。
そんなグレタに無言でうなづく。
そんなグレタやオレたちの言葉をさえぎるかのように。
「落ち着いて。落ち着いて、ニナ。この人は大丈夫よ。
  ……だって…このユーリは……ユリティウスの母君の名は…ソフィア様だもの」
「……え?」
イズラの声に、ニナの叫びが一瞬とまる。
えっと??
「あ、あのぉ?イズラ?思ってたけど、もしかしてオレの母さん知ってるの?」
そういや、気になってたけど、何か言いたそうだったし。
オレの質問とは関係なく。
「嘘よっ!!第一十八年前に暗殺されたってきいたわっ!!」
何か叫んでいるニナ。
「え?そうなってるの?
  つうか、もしかしてオレ、そのころに地球に送られたからかなぁ?覚えてないけど」
アンリなら赤ん坊のときのことでも覚えてるだろうけど……
そんなオレのつぶやきと同時。
『シル様におかれましては。地球に…別の惑星に。
  その御身をお守りすべく避難していただいておりましたからね』
何やら部屋の隅のほうから、聞きなれた声が……
「って!?ニルファ!?ど〜してここにっ!?」
「?」
「「なっ!?」」
オレの声と、グレタが首をかしげるのと同時。
イズラとニナは何やらその姿をみて絶句している。
みれば、そこには水でできた女性の姿が。
そんなオレの言葉をうけてか。
『水は私の一部。アーリー様よりあなた様を探すようにとご指示がありまして。
  私が先導いたします。ここからでて皆様と合流してくださいませ』
そういってくるニルファの声と同時。
「おまえらっ!ギャ〜ギャ〜うるせえぞっ!」
運がわるいのか、いいのか。
見張りらしき人物が扉をあけてこの部屋の中にと入ってくる。
ビュルッ!
ぼぐっ!
きゅぅ……
「……あれ?」
瞬間、男の足に水がからまり、倒れたところ。
何でかその場にて目をむいて倒れている男の姿が。
みれば、イズラが剥製の頭をもってその場にとつったってるし。
……えっと?
「…え、えっと?イズラ?もしかして君…それで殴ったの?」
思わずびっくり。
どうやらイズラが男の頭を殴ったようだ……
「いってください。その子をつれて」
そうオレをみて言ってくるイズラだけど。
「え?でも。君たちも一緒に……」
オレの声に。
「あたしたちなら大丈夫。大人数だと目立つしね。……あなたは逃げて。予言にありし双黒の魔王陛下」
「……え?」
予言って…何?
イズラの言葉に、はた、と気づけば、いつのまにか深くかぶっていたはずのフードが取れている。
あた〜…
もしかして、いつからオレ、黒髪を彼女たちの前でさらしていたんだろうか?
「嘘…?双黒?…それに…このひとは……」
何か震える声でオレと、そして横をみて言っているニナ。
みれば、そこにはニルファの姿が。
そだ。
「ニルファ!この二人を安全な場所につれていって!お願いできる!?」
そんなオレの声に。
『それは可能ですが……しかし、シル様は……』
「オレなら大丈夫だって!オレなんかよりその人たちをお願いっ!」
何しろニナは怪我人だ。
しかもまだ病気が完全でもないかもしれないし。
そんなオレの言葉をうけてか。
にこやかに微笑み。
『…いたしかたありませんね。我らにとってはあなた様のめいは絶対。
  シーラに連絡をし、アーリ様につなぎをとってもらいます。くれぐれもご無理をなさらぬように……
  通路は確保しておきます……』
そういうなり、すっとニルファが二人にその手をかざすと。
その瞬間、ニナとイズラの体が何か見ずのような球体のようなものにと包まれる。
「二人をおねがいね!」
『わかりました。』
オレの言葉をうけてか、天井付近にある天窓にむかって二人の体が浮き上がる。
そのまま彼女たちの入っている球体が天窓から外にとでてゆくのを確認し。
何かニナたちはかなり驚きを隠せないようだけど。
ひとまず危険はないはずだ。
「…ユーリ?今の……」
それをみて、オレにしがみついて聞いてくるグレタに。
「ん?ああ。水の大精霊ニルファーレナ。さ。オレたちも脱出だ!」
「うんっ!」
一応グレタにと説明しておき、そのまま気絶している男をそのままに。
オレたちはオレたちで扉から部屋の外にと出てゆくことに。

連行されたときの印象では、そう広い建物だとはおもわなかった。
裏口から入ったらしいからかもしれないが。
そりゃ、うちの家よりは広いけど。
血盟城と比べたら…って…何か怖いことにオレ…感覚が麻痺してきてるかも……
「しかし。ニルファが来てくれて助かったぁ。二人をニルファに任せれば絶対に安心だし」
そんなオレの言葉に。
「ユーリって精霊さんともお知り合いなの?さすがだね」
「というか。一方的に向こうがオレをしってる?って感じ?」
そんなことをいいつつ、確かにニルファの言うとおり、
軒並み廊下に人間達が伸びている。
……いったい、何をしたのやら。
……まあ、深くは考えまい……
白目をむいて、横たわっている人々を道しるべに、そのまま外にと向かってゆくことしばし。
時計をみたらすでに十分ばかりは走っている。
万歩計でもあれば面白いかもしれない。

階段を三度降りたあとに、ようやく店らしい雰囲気のペースにとたどり着く。
高い天井にはシャンデリア風の照明が輝き、どうも何か光る物質を入れているようだ。
やはり電気ではないらしい。
二十人以上の女の子たちが、ひな壇で所在なげにしている様子がみてとれる。
フロアに置かれたいくつかのソファーでは、
吟味中の客や、常連らしい人々の笑い声がざわめいていて、気分が悪くなってくる。
切実なまでの少女たちの悲鳴に近いオーラが一気に感じられ、もうどうしようもないほどに。
しかも見たところ全員少女たちは未成年らしい。
少女たちは皆、家族のためにと働きにきているのだ。
一見すると、カラオケキッサや飲み屋のお姉さんの役。
といったところか。
「グレタ。みちゃだめだよ?」
いって、フード付きマントでグレタを覆う。
寒いから見た目も別に違和感はないだろう。
しばらく進むと前方に用心棒らしき男が数名。
入り口らしき扉の前でたたずんでいる。
甘いマスクなのでは多分あろうが、何か店を監視している様子があからさま。
さって……どうやって出ようか?
ここはやっぱり外見を利用して女の子のふりをしていくか?
そんなことを思っていると。
しっかりと閉じられている目の前の扉が開かれ、そこから三人の男たちが入ってくる。
「今だっ!グレタ!走るぞ!」
その隙をみて、ダッシュをかけようとするオレの声に。
「おや?その声は??」
いいつつ、三人組みの一人が近づいてくる。
その声に聞き覚えがあり、思わずそちらをみれば……
「って!?ピッカリ君…じゃなかった!?ヒスクライフさんっ!?」
なぜかそこには、顔見知りの人物がいたりするし。
そんなオレの言葉をうけ。
「やはりユーリ殿?……こんなところでどうなさったんですか?」
「閉じ込められて捕まってました。って!?そんなことより!?ヒスクライフさん!?
  どうして何であなたがこんなところに!?」
素直にいってどうするよ?オレ……
ついつい、捕まってました。
と正直にいってるし……
「私はここの地区の管理者に用事がありましてな。
  しかし…お一人なんですか?ご自身のお立場を考えられたほうが……」
そういってくるのは、いうまでもなく。
ミッシナイに住んでいる、というヒスクライフさん。
これでもカヴァルケード王の長男だ。
今は商家の娘さんと結婚して、王家を出奔しているらしいけど。
「不可抗力ですって。アンリとはぐれちゃって……で、何か捕まって、今さっきまで閉じ込められてて。
  で、ようやく部屋から逃げてきたんですけどね」
素直に説明するオレの言葉をさえぎり。
つんつん。
「ユーリ?この人だぁれ?」
そんな会話をしていると、マントの下のグレタがオレをつついて聞いてくる。
「え?あ。ヒスクライフさんっていって……」
オレが説明しかけると。
「おや?そのお嬢さんは?」
グレタに気づいて問いかけてくるヒスクライフさん。
そういえば、まだ紹介してなかったっけ……



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