「お金を稼ぐのはいいけどさ。やっぱり。まだ子供なんだし。 地元で家から働きにでたほうがいいよ?両親も心配してるだろうからさ」 額から、何かけだるいような、そんな感覚をうけて、目を見開くと。 何かオレの手の先が光っている。 ……あれ? オレが不思議に思うと同時。 そんなオレの言葉に。 「スヴェレラには何もないわ。ううん。あるけどそれはお金がないとどうにもならない。 ニナとあたしは小さなころから一緒なの。同じ村で育ったの。 半年前までは法石を掘る場所で雇われてたけど、ある日、いきなり石はでなくなっちゃった。 少ししてからスヴェレラにも雨が降ったわ。 そして不思議な旋律が聞こえたかとおもうと、奇跡が起きて枯れ果てていた大地に緑が戻った。 作物も果物も、どういうわけか一気に実ったわ。 でも……その代わりにどこの採掘場からも法石はとれなくなった。 お金のある人は牛やヤギをかって下の生活を送れるけど。お金のないものは…… 兵隊たちはお金を払わない。ううん。払わなくてもいいんだもの。 そんなとき、村に来た男の人が皆を集めていったのよ。 ヒルヤードに仕事がある。娘をいかせるなら前金を渡すって。 それで村の大人たちが相談して……そして、あたしたちはここに来た。 仕事の内容なんてわからなかった。…でも……」 大人たちが相談して…って…… 援助の相談というか持ちかけを彼女たちの国の上層部の人々は突っぱねた。 個人的にしようにも、近くの村ならいざ知らず。 遠くてなかなか思うようにはいかなかった。 仕事をほうりだしてでも、何かの手を差し伸べたかったのに。 だけども、個人的にどうにかしようにも、魔族の施しはうけないっ! の一点張りで…… だからこそ、ヒスクライフさんに相談して、カヴァルケードに間にたってもらった。 少しでも、どうにかしたかったから…… 「どんな仕事がしたかったの?お姉さんは?」 横でグレタがニナにと問いかけている。 腕をわき腹にくっつけて、何かオレの横にぴたっとよりそい、たったまま体を小さくゆすぶっている。 「そうだよ。したい仕事があるんなら。今からでも遅くないよ。 何ならオレたちが君たちを責任もって家まで連れてってあげるし。 袖すりあうのも多少の縁。ってことわざもあるしね。 イズラは足が速いから手紙を届ける人になりたかった。っていってたけど。 君は?大人になったら何がしたいの?オレはいろいろとあるけどね。 したいことや、しなきゃいけないことは」 何か傷口付近に触れている手が暖かい。 そんなオレの問いかけに、しばし戸惑いつつも。 「……あたしはね。先生になりたかったの」 怪我をしているのに無理をして笑いながらいってくる。 まだ病気も怪我も完全には治っていない、というのに。 グレタが差し出したジュースを飲んで少しは一息ついているみたいだけど。 「教師かぁ。採用試験とか大学とか、研修とかいろいろと大変らしいよね。 苦労もおおいらしいし。でもその分確かにやりがいはあるよね」 最近では、何のための教師になったのか目的をもっていない。 という先生もいるようだけど。 基本的には先生、といえば生徒の将来を考えて導く役目を担う大切な存在だ。 先生の出会い一つによって、子供はよくもわるくも成長する。 子供が育つのは何も家庭環境だけではなく、学校行事、という場面でも重要な役目を担っている。 そんなオレの言葉に。 「だって先生はすごいのよ。字もかけるし本も読める。毎日学校にいけるのよ」 「…え?毎日学校にいかないとならないのは教師やってる大人じゃなくて。生徒のほうだろ?」 オレは皆勤賞を狙って、インフルエンザでも無理して学校にいった経験もってるけど。 おかげで小学校、中学校とも皆勤賞だ。 そんなオレの素朴な疑問に。 「生徒は滅多と学校にいけないわ。だって働かなきゃいけないもの」 「……う〜ん…スヴェレラではそうなの?というかこの世界がそうなのかなぁ?」 地球でも、貧富の差が激しいところではそういうことはある。 というのは知ってはいるけど…… つまり、子供も働き手だから、国が学校とかを奨励しても、いくにいけない。 生活がかかっているから。 という国がある…というのも一応は理解はしている。 だけども。 「オレが育ったところの場合は、国の法律で十五までは誰でも義務教育を受けれる制度。 というのもがあって、毎日学校にいってたんだけど…… 十五歳以上には次の学校もあるし。そこからは試験などをうけて入ることになるんだけど。 オレ今その学校にどうにか合格して一年生になって今そこに通っているけどさ。 最も、こっちの国というか世界とは常識から何から何もで違うし…… こっちの国というか世界でも、義務教育として誰でも自由に。 勉強とかそのほかいろいろとできるようになればいいんだけどね」 そんなオレの言葉に。 「??義務教育が義務?だなんて聞いたことがないわ。」 つぶやくニナに。 「あなたは何になりたかったの?」 グレタにと聞いているイズラ。 そんなイズラの言葉に、少しうつむいて。 「グレタはね。子供になりたかったの」 『子供じゃん!』 グレタの言葉に、思わずオレを含めてイズラもニナもが突っ込みをいれている。 気のせいか、ニナはかなり元気になってきているらしい。 というか? 何か気のせいか、顔色もよくなって、にじんでいたはずの服の血まで消えているような?? …ここはかなり薄暗いから気のせいかな?? 「違うよ。ちゃんと誰かの子供に。お父様とお母様のいる子供になりたかったんだよ」 え?それって…… オレが疑問を口にするよりも先に。 「グレタはね。スヴェレラのお城に住んでいたの。でもそこの子供じゃあなかったの。 最後の日にお母様がいったの。 『グレタ。あなたは明日からスヴェレラの子供になるのよ』って。 『でもあちらのお二人はあなたを子供として育ててくれないかもしれない。 だからこれから先あなたは誰も信じてはいけない。自分だけを信じて生きていきなさい。』って」 そういえば、アンリと屋台のオヤジの口調だと、グレタが産まれ育ったらしきゾナシア王国はもうない。 といっていた。 おそらくグレタのははおやは、それを見越してグレタを安全と思われる地に送ったのだろう。 …オレが赤ん坊のときと同じように。 「お母様のいったとおり。スヴェレラの陛下と妃殿下はグレタを娘にはしてくれなかった。 あんまり話すこともなかったし、会うこともなかった。 グレタの話し相手はしろの地下牢にいる魔族の人だけだった。 けどグレタはスヴェレラの子供になりたかったの。 ちゃんとお父様、お母様って呼べる人がほしかったの。 だから王様たちの気に入ることをすれば。 褒めてくれて喜んで、あの国の子供にしてくれるんじゃないかって思ったの」 そんなグレタの告白に。 「やっぱり……あなたは……」 戸惑いつつも何やら言っているイズラに、凍りついたようになっているニナ。 グレタのりりしい眉が寄せられて、今にも泣きそうな顔になる。 「四ヶ月くらい前からかお城では魔族の悪口が多くなった。 援助を申し出てくるなんてきっと、この国に攻め入る口実だ。とかいって。 たまに陛下と妃殿下とお会いしたときにも、魔族に腹をたてて悪口ばかりいってたの。 だから魔族の王様を殺したら二人とも喜んで、えらいって褒めてくれると思ったの。 スヴェレラの子供にしてくれるんじゃないかと思ったの」 こんな小さな子がそんなことを考えて…… 「……グレタ」 思わずぎゅっと片手でグレタを抱きしめる。 オレの妹と同い年の女の子だというのに、つらい思いをしたんだな。 「だから。地下牢にいた、仲良くなっていた魔族の人と取引して、一緒に城を抜け出したの。 グレタが眞魔国にいきたい。っていったら徽章とかいうのをくれて。 そして国境をこえて、城の近くまで連れて行ってくれたの。 それをみせたら城に入れる。王様の隠し子といえばすんなりと入れるって教えてくれたの。 だから、そういって、お城に連れて行ってもらってユーリを殺そうとしたんだよ?」 子供なりに一生懸命考えたんだな。 でも、この子には罪はない。 悪いのは子供の前でそんなことばかりいって、子供にそんなことをさせてしまった大人達だ。 「もういい。いいから。グレタのせいじゃないよ。オレはおこってないから」 少し震えている少女の体を強く抱きしめる。 オレの腕の中で涙をこらえて震えつつ。 「……いい人だ。なんて思わなかったの。 あんなに悪くいわれてたからユーリがいい人だなんて思いもしなかったんだよ。 もう、グレタ、だれかの子供になんかならなくてもいい。ごめんね。ユーリ」 しゃくりあげて泣きながらそんなことをグレタはいっているけど。 「何いってんだよ!?グレタ!おまえはオレの隠し子なんだろ? つまり、おまえは誰かの、じゃなくてもうちゃんとしたオレの子だろうがっ!」 グレタを抱きしめた状態で、グレタの体を少し離し、その瞳をみて話しかける。 そんなオレの言葉に。 「…ほんと?」 涙で顔を崩した状態でオレを見上げていってくるグレタに。 「ほんとだよっ!いいか?家族っていうのはな。血のつながりがあるからうんぬんじゃないんだぞ? 娘っていったら娘なのっ!いい例がオレだよ。 オレの家族は何の血のつながりも関係もないのに、オレを実の子として育ててくれてるし。 また、そう思ってくれている。両親だけじゃなくて、兄貴も妹も。 ようは気持ちだよ。家族のつながりは。 だからっ!グレタがオレの隠し子っていうかぎり、おまえはオレの子なのっ!!」 ギュンターがいたら、多分失神ものだろう。 まさか、恋愛どころかファーストキスすらもしていないこの若干十六のオレが、 よもや十歳の子持ちになろうとは。 だけどオレ的には譲る気などはない。 グレタはもうオレの子だ。 こちらでは多分養子縁組とかは年齢は関係ない…と思うし……
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