周囲をみてみれば、何か巨大なテントの並び。
……どうやらサーカス広場まで移動してきたようだ。
「っていうか?何でこうほいほいとシーラって手助けしてくれるかなぁ?ニルファもだけど。謎だよなぁ??」
オレの至極当然なつぶやきに。
「…シル様にアーリー様って…まさか……」
何やら深刻そうにつぶやいているイズラの姿。

「イズラ?あ、ごめん。驚かせちゃったよね。そうだよね。普通驚くよねぇ。
  オレだって初めて彼らにあったときは驚いたもん。
  でもさっすが、剣と魔法の世界って感じだけどさ」
『??』
オレの言葉になぜか顔を見合わせているグレタとイズラの姿があったりするけど。
「とりあえず……。まあ、アンリのことだから大丈夫。だとは思うけど。
  いうことを聞いとかないとあいつ、怒ったらすごいし。
  イズラもオレたちを助けてくれたのがバレたら危険かもしんないから。
  一度宿に一緒においでよ。他にも仲間がいるしさ。
  あとで送っていってあげるよ。ほら、イズラが声をかけてたコンラッドと。そしてヴォルフラム。
  あの二人、腕はたつし。オレはまったくだめだけどね。
オレの問いかけにもイズラはなぜかしばし無言。
そして。
「あなた……ユーリっていったわよね?」
何か深刻そうな顔をして問いかけてくる。
「そだよ?」
「……ユリティウス?」
「へ?!何でその名前…というかオレの本名しってんの?」
オレですら何か自分の名前っていまだに実感ないのに…さぁ……
本名、といわれても。
ずっとユーリといわれてて、いきなりユリティウス。
といわれても…ねぇ?
パスポートとか戸籍には元の名前は記載されてるようだけど。
普通そんなことって一般生活においては必要ない、というか気にしないし。
オレの言葉に。
さらに深刻そうな顔をして。
「お母様の名前は?」
「え?オレの母さん?実の?ソフィアだけど?」
「……そんな……じゃ、あなたまさか……」
??
何かイズラはオレの質問の答えに対して戸惑ってる。
何だっていうんだろ?
と。
「あ、何か音がするよ?」
いってテントのほうにと歩いていっているグレタに気づき。
「あ!こら!グレタ!離れたら危ないって!って。勝手に中にはいっちゃいけませんっ!」
住居不法侵入罪になっちゃうぞ?!
何か再び問いかけてくるイズラの声を聞く暇すらもなく。
オレはあわててグレタを追いかけて、そのままテントの中にとはいってしまう。
どうも無理したせいか足に力が入らなくてびっこをひいてしまうけど。
……捻挫って癖になる…っていうからなぁ……
杖をもっててよかったよ。
なかったら間違いなくオレはみっともなくこけている。


どうして子供というものは、ダメ、といわれることをするのだろう。
オレもよく小さいころはやってたけど。
何に対しても興味津々で。
でもそれは、子供だから許される特権。
「ここは?…どうやら珍獣サーカス小屋の控えの間よ」
オレを追ってきたイズラが周囲をみていっている。
みれば。
「みてみて!すごい!二本角の牛ぃぃ!」
グレタが一つの檻を指差してそんなことをいってるけど。

「二本って…普通じゃん?」
オレの言葉に。
「え〜?牛は普通五本の常だよ?二本のは珍獣だよ?」
そんなことをいってくるグレタだけど。
「…オレとしてはそっちのほうが珍獣だよ。
  …どうもこの世界の生き物事情…いまいちわかんないなぁ……
  何しろサメ…どうみても肉食のはずのホオジロザメがベジタリアンだったりさ……
  パンダが巨大で肉食だったり……あ、でもクマハチはかわいかったなぁ」
そういや…ポチは元気かな?
そんなオレのつぶやきに。
「……この世界って……」
イズラが何かまたまた、後ろで何かつぶやいているけど。
「?これな〜に?」
グレタが何かそんな檻の中にある藁のしたから何かを取り出していってくる。
「え?何だろ……って!?」
思わずびっくり。
なんで藁のしたに札束が!?
「え!?お金!?なんで!?どうして!?」
オレの叫びに。
「これは…まさか……黒い噂はいろいろあるけど……」
それをみて、口元にと手をあてて言っているイズラ。
「って!?裏面が白!?」
手にとってみてみれば、なぜか片面印刷のみ。
ということは、これってまさか偽札!?
え〜と、FBIとか警察の人に通報するのが義務だよな?
いや、でもこの世界なら、裏面が白いお札があっても不思議じゃないかもしんない……

「きゃっ!」
「え?」
あまりのことに、思わず立ちすくんでいると、背後からイズラの短い叫びが。
「イズラ?」
振り向いてみれば、いつのまにか、そこには男たちが数人。
イズラをホールドアップして捕まえていたりする。
「こんなところで何をしてるのかな?店をやめたい。とかいって飛び出した女が」
とか男たちの一人がいってるし。
「おい!その人をはなせっ!」
オレの叫びに。
「ふん。ガキや女を殺されたくなかったら、大人しくするんだな」
みれば、土佐犬のような犬がグレタのそばに見えている。
「グレタっ!イズラ!……く。わかった」
とにかく二人の身の安全が最優先だ。
ここは素直に大人しく従おう。
そのまま。
手を後ろでつかまれ、オレたち三人はどこかに連れて行かれるハメになってゆく……


動物好きも様々で、以前にコンラッドの隊から砂熊と駆け落ちし、戦闘離脱した人もいれば。
こうして罪もない動物を殺して剥製にして飾る人もいる。
そのために絶滅する動物もいる。
というのに。
「…えっと?珍獣だらけ?」
つれてこられて、押し入れられた部屋には所狭しと剥製の姿が。
「……小型のステゴザウルス?」
近くの壁から突き出ている顔の部分のみの剥製をみて思わずつぶやくオレに。
「ゾモサゴリ竜!」
何かグレタがうれしそうな声を上げている。
どの世界でも恐竜は子供に人気があるらしい。
文字通り、首ねっこをつかまれて、手をひねられてつれてこられた場所は、
どうやら見たところ剥製置き場らしい。
フードを剥ぎ取られなかったのは不幸中の幸いだとおもう。
黒髪ってバレなかったし……
「うわ〜……何て悪趣味…って!?何で人間まで!?」
とにかく扉をがっしりと閉められてしまい、仕方なく部屋を見渡すオレの眼にと飛び込んできたのは。
なぜか部屋の奥に横たわっている一人の女の人の姿。
その姿をみて。
「ニナっ!?」
イズラが叫んで駆け寄っている。
その声をうけてか。
「…その声…イズラ?」
弱々しい声を出しているのは。
確か昼間アンリが病気を治したはずのニナ、という少女。
「って!?君!?大丈夫!?」
みれば、何やらかなり怪我をしているようだ。
「何でニナが……」
戸惑いの声をあげるイズラに対し。
「私とイズラが仲がいいからって……イズラが店をやめるっていったから…見せしめだって……」
「そんなっ!?」
え…えっと?
そんな会話をしているニナとイズラだけど。
「と、とにかく!怪我の治療をしないと!救急箱はどこ!?って!?手当てもろくにされてないじゃん!?」
みれば、腹部からじわり、と血がにじんでいるし。
「ねえ!ちょっと!けが人がいるよぉ〜!!」
ドンドンと扉を叩くが反応なし。
「無駄よ。あいつらが手当てなんて……」
ニナがイズラに抱えられ、上半身を起こしてそんなことをいってくるけど。
「……何だよ…何でこんな…けが人をろくに手当てもしないでこんな……」
あまりの理不尽さに憤ってくる。
「ユーリなら治せるよ?」
グレタがオレにといってくるけど。
「ええ!?アンリじゃあるまいしっ!?…あれ?でもそ〜いえば?
  何かギーゼラさんもできるようなこといってたっけ?」
確か、オレの力をもってしたら簡単だ…とか何とか……
「ものは試してみるしかない?このままだったら……」
みれば、かなりニナはつらそうだ。
「え〜と?確かアンリがいってたのは。自然の回復力を直接叩き込むうんぬん…とかいってたかな?
  でもって、ギーゼラさんは治癒力を高めるとか何とか…そんなこといってたっけ?とりあえず……」
イズラに抱えられているニナのおなかの辺りに手を触れる。
女の子に何てことをするんだ。
傷なんてつけて。
とにかく、心から傷口がふさがり、ニナが元気になるようにと祈ってみる。
眼をつむってみて、とにかくその一点のみを考える。
できるとしたら多分このやり方のような気がするし。
今まで無意識にいろいろしていたらしい。
というオレの力。
どうか彼女を助けるために、今こまこで力をかしてくれ。
と念じつつも、ギーゼラさんがいっていた方法も試してみる。
確か話しかけて気力を引き出す…だったっけか?
「と、とにかく。自分で元気になるっ!とがんばらないとだめだよ?
  君もイズラと一緒でスヴェレラから働きにきたの?
  だったら、この前ようやくスヴェレラの国はカヴァルケードからの援助を了承したらしいし。
  きっと国民の皆にも援助が行き届くよ。まず不足していた家畜とかを配布するはずだし。
  そうしたら、家族と一緒に暮らせるんだよ?だからがんばって」
目をつむり、意識を集中させながらニナにと話しかける。
「……元気になったら……お金を稼がないと……」
喉の奥に張り付いたようなしゃがれた声。
はっとグレタが思い立ったように、首からぶら下げていた水筒からオレンジジュースを取り出して。
「はい。これ甘いよ?ね?」
いって、コップについで差し出している。
「ニナ」
それを受け取って、イズラがニナに飲ませている気配が感じられる。
グレタからうけとったコップ、というか、水筒の蓋兼コップをみてか、
「かわったコップ……」
とかイズラは何やらつぶやいてるけど。
ま、この世界にはプラスチックなんてものはないから当然の反応かもしれないけど……



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