さすがに町は歓楽郷、というだけのことはある。
町全体が明るくにぎやかだ。
だからといって電気が通って明るい、というわけでなく。
その灯りはもっぱら、ランプの灯された街灯や、建物からもれてくる灯りによってだが。
だがしかし、聞こえてくるのはマーチではなくよっぱらいと女性たちの嬌声と。
おそらく賭場場か何かであろう場所からのののしりあい。
「これって絶対、教育上。子供によろしくない環境だよなぁ……
  グレタ。危ないから離れただめだぞ?で?どっちいくの?」
何かオレたちをみて近寄ってくる酔っ払いたち。
グレタを引き寄せ脇にと移動させる。
近寄ってくる酔っ払いたちは、何やら関係のない空間をみて。
ほろよい気分で全員が遠ざかっていたりする。
どうやら彼らはかなりよっているらしい……
とりあえず、グレタの足の向く方向にオレたちは進んでゆくことに。
しばらく進むと、何やらおなかを押さえた女の人が薄暗い道端でうずまくっていたりする。
なのに誰も人通りはあるのに手を貸そう、という気配すらない。
う〜ん……
「アンリ。グレタをちょっとお願い」
このまま見てみぬふりをする…というのは、オレ的にはできないし。
「あ!ユーリ!」
アンリがそんなオレを止めてくるけど。
だってほっとけないじゃないか。

「大丈夫ですか?」
うずくまる女性にと話しかけると、女性はうずくまったまま、顔も上げる気配すらみせず。
「胃が痛くて……背中をさすってくださる?」
何か弱々しい声でいってくる。
歳のころは二十歳くらいだろう。
この場所は、様々な強い…というか、いろんなオーラを感じるので、
しかも悪い気なども感じたりするもので、オレとしてもちょっぴり頭が痛いところだけど。
…ま、昔ほどじゃないしね。
最近はだいぶ自分でそういうのもガードできるようになってきているみたいだし。
「いいですよ」
杖をついて歩き、女の人の顔を覗き込むと、顔色はものすごく真っ青だ。
だけども、病気で顔色が悪い…というだけでなくて。
何か脅されていやいややっているので顔色が悪い…という感じのオーラまでも発している。
どうやら本当に気分…というか具合まで悪そうだ。
「大丈夫ですか?何やらお医者さんにみてもらったほうが……」
オレが言いかけるのと。
「ユーリ。ユーリ。あのね……」
アンリが何か横から話しかけてくるのとほぼ同時。
その声をさえぎるようにして。
「おい!てめえっ!オレの女に何してやがるっ!」
「は?」
何やら声がして振り向けば。
オレたちの後ろには二・三人の男たちが。
あら〜……これって、もしかして美人局ってやつ?
まさか?
横ではアンリが、フードの下に隠れているが為にはっきりとは見えないが、盛大にため息をつき。
グレタはぎゅっとそんなアンリにとしがみついている。
「他人の女に手をだしておいて。ただですむとおもうなよ?そうはおもってねぇよなぁ?」
などと、何やら決まり文句のようなことを言ってくる男たち。
「…はぁ。つうかさ。基本中の基本の脅し文句をいってどうするんだよ?あんたたち?
  それより、この人、本当に具合が悪そうだよ?
  そんなことしている場合があったら、お医者さんでも呼んできてあげなよ?
  自分の恋人だって主張するんだったらなおさらにさ。
  それにオレは別に手はだしてないもん。うずくまってて具合が悪そうだから手をかしただけで。
  それで手を出したことになるなんて、いつだれが。
  何時何分何秒にどこの国で決められたのか教えてくれよ。
  そもそも、あんたたち。
  そんなに体格いいんだったら、こんなことしてないで。まじめに働きなよ?両親がなくよ?」
ついつい、いつもの癖で相手にお説教。
オレの悪い癖…とはわかっているけどやめられない。
だって言わないと気がすまないし。
「何だと!?てめぇっ!」
「ユーリッ!!」
ゴッウっ!!

男たちがオレにつかみかかってこようとしたその刹那。
偶然にも突風が。
……って…あれ?
「……シーラ?」
みれば、なぜか空中というか、オレたちの少し上にはシーラが実体化してそこにいるし。
どうやら、もしかしたらアンリが何か頼んだのかもしれない。
でも何で風の大精霊が?
「今のうちに!いくよ!足元に気をつけて!」
「え?あ…うん」
アンリの言葉に思わず素直にうなづく。
見れば、風にて吹き飛ばされた男たちは壁にと叩きつけられている。
う〜ん……
ま、怪我はないようだな。
あ、それよりも。
「あ。そうだ。今のうちに、君家にもどったほうがいいよ?本当に具合が悪そうだから」
いって、女性の上に余分に羽織っていた上着をかけておく。
そういうオレに。
「ユーリっ!」
「あ。はいはい、わかったってば。だけどさ。いい?もうあんな奴らと付き合ったらだめだよ?
  きちんとお医者さんに見てもらってね?」
アンリに促され、女の子にと声をかけて、そのまま、アンリの後ろを走ってゆく。
と。
「こっちこっち!!」
しばらく走っていると、何やら手招きする小さな手が。
オレが疑問に思うよりも早く。
その手は、ぐいっとオレをひっぱっ、夜の繁華街の町を走り出す。
そんなオレの後ろからアンリもまたグレタとともに付いてきているけど。
……ていうか、走ったらまだ足が痛いんですけど……
どうやら完全にはいまだに足は治ってないらしい………
オレの手をひいている人物を、ふとよくよく見てみれば。
「…あれ?昼間の?」
オレが気づいてあげる声に。
「ほんっとうに。やっかいごとに首を突っ込む性格なんだね。お客さん」
とか笑って走りながらいってくる。
確か昼間の二人連れのうちの一人だ。
そんな彼女の言葉に。
「まったくだよ」
走りながらも、アンリがその言葉に肯定の言葉を発している。
「だってさぁ。見てみぬふりなんてできるわけないじゃん。それに。
  誰も注意しなかったらあの人たちもずっと気づかないかもしれないし」
そんなオレの言葉に。
「今までそれで危険な目にあいそうになってても、よく懲りないよねぇ。ユーリも。」
「産まれついての性分なんでね」
走りつつ話す、そんなオレとアンリの会話に。
「へぇ。あなたユーリっていうんだ。いい響きだね。まるで女神様の名前の一つみたい。私はイズラよ」
そんな彼女の言葉に。
「え?お母様の名前とおんなじだ!」
今まで黙っていたグレタが叫ぶ。
「え?」
その声に、イズラ、と名乗った少女が振り向き。
そして。
「…もしかして……」
とかいっているけど。
「とりあえず、この辺りまできたら大丈夫じゃない?」
ふと気づけばいつのまにか、海沿いの近くの路地裏にとやってきているオレたち。
そんなアンリの言葉に。
「そうね。あいつらしつこいけど。ここまでくれば大丈夫。
  杖をもっていたから走れるかどうか心配だったんだけど。怪我や病気じゃなかったんだね」
そういうイズラ、となのった少女の言葉に。
「なんか捻挫しちゃって。足に負担をかけるようなことはやめとけっ!
  っていわれてたんだけどね。とりあえずありがと。助かったよ」
そんなオレの言葉に。
「どういたしまして。昼間。ニナを助けてくれたしね。あの子、不思議とあれから具合よくなったし」
いって、にっこりとしてくるイズラ。
どうやら具合が悪かったあの子はよくなったようだ。
ひとまず安心というところか。
「でもさ。君足はやいねぇ」
そんなオレの言葉とは対照的に。
「……念のためにシーラ。彼らが追いかけてこないか見張っといて」
アンリが空中にむかって言うと同時に。
風がすっと吹き抜ける。
「?誰にいってるの?まあ、走るのは早い自信はあるわよ?
  私、子供のころから走るのがすきで。男だったら手紙を届ける人になりたかったんだ」
そんなイズラの言葉に。
「え?何で郵便配達に性別が関係してるの?
  飛脚とかでもちょっときついけど女の人でもできるんじゃあ……」
イズラの台詞に首をかしげるオレに。
「スヴェレラでは女は職につけないの。……だからここに出稼ぎにきてるのよ」
いって空を見上げるイズラ。
って……!?
スヴェレラ!?
「スヴェレラ!?君、スヴェレラの人なの?あれ?でもさ。
  雨もふって、草も茂って。それでもってこの間ようやく援助を受ける了解が出た。って聞いたけど?」
オレの素朴な疑問に。
「ユーリ、ユーリ。それはまだ一般の人には援助の一件は知られてないとおもうよ?」
「そなの?というか、やっぱり、ユニセフとかボランティア団体が必要だって」
「今のこの世界ではというか惑星上では無理だってば」
そんな会話をするアンリとオレの会話に首をかしげつつ。
「?援助?よくわからないけど……そういえば、あなたたちがもしかして親子だったの?」
「オレは男ですっ!断じて女じゃありませんっ!
  ソフィア母さん譲りのこの顔…というかっ!
  生き写しらしいこの顔で生まれてこのかたずっと女の子と間違われてるけどっ!!」
即座に否定するオレの言葉に、なぜか。
「?ソフィアって…もしかして…あなた?」
イズラが何やらいいかけて、オーラに迷ったような色が浮かび上がる。
イズラが何か言いかけると同時。
ぐぅ〜………
何やら誰かのおなかの音が……
みれば。
「ん?グレタ?どうしたんだ?」
うずくまっているグレタに問いかけると。
「…おなかすいた……」
とかおなかをおさえていってくる。
「あ〜……走ったもんね」
子供には夜間の運動はちょっときつかったのかもしれない。
スピカもよく夜食はほしがるし。
「とりあえず。今のところ追っ手もどうやらいないみたいだし。
  宿に戻るか、それかどこかで何かたべていく?」
アンリが苦笑しつつ提案してくる。
そんなアンリの言葉に。
「あ、ならいい場所をしってるわ。こっちよ」
イズラに案内され。
そのままオレたちは路地裏を進んでゆく。



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