少女の手を離してにこやかに何やら言っているアンリに対し。
「……シル…って……まさか……?」
アンリのそんな言葉に、何か戸惑い顔の女の子。
「もし、薬がいるようだったらお仕事終わってからでも僕達の宿においでよ」
「それか、オレたちが届けるけど?どこに届ければいい??アンリ?本当にその子大丈夫なの?」
そんなことを言っているアンリに、追加訂正をいれておく。
「大丈夫だってば。とりあえず熱は下げたし。
  今の簡単にいったら竜胆を直接体の中に叩き込むようなものだしね。
  それに、どうやらこの子の熱は過労から来ている熱のようだから。ゆっくり休めばよくなるよ」
竜胆…って。
ああ、例のアレか。
アンリが何かよく自然の力をつかって精製するとかいう薬。
あれってものすっごく効くんだよなぁ。
アンリ曰く。
何かそれらの根源をはぐっていけば古代中国の文献とかにも載っている…とかいうけど。
オレは詳しいことはよくわかんないし。
とりあえず。
「とにかく、お休みもらって。休んだほうがいいよ?」
過労から来ている。
というのならなおさらだ。
そんなオレとアンリの会話に。
「あなたたちって…それに……」
何か言いかけているもう一人の女の子。
と。
「おいっ!!」
何やら大声で店なのであろう、建物のほうから叫んでくる男の声。
その声に二人はふりむき。
「あ、店の人に呼ばれているから。それじゃ。おにぃさん。おねぇ?さん?
  じゃなくて声的には男の子のように思えなくもない感じの人。気がむいたらお店にきてね」
いつつも、戸惑いうろたえているニナ、という子をつれて、
何やら駆け足で二人は店のほうにともどってゆく。
そのまま店の中にはいっていってるけど。
きっとあの店で働いているのだろう。
「う〜ん……。ちゃんとお休みもらえればいいけどなぁ……」
そんな彼女たちを見送りつつ、つぶやくオレに。
「おまえはっ!見ず知らずのやつの心配までしてっ!へなちょこめっ!
  だからおまえは人がよすぎるというんだっ!」
「まあまあ。フォンビーレフェルト卿?そこがユーリのいいところだし。
  この性格はいくら生まれかわっても変わらないって。……とにかく、宿にいこ?」
叫ぶヴォルフラムににこやかに何やらいっているアンリ。
…生まれかわっても変わらない……って。
オレって昔というか前世でもこんなだったのかなぁ?
覚えてないけど。
「う〜ん。ほんの五年前にきたときにはこんな雰囲気じゃなかったんですけどね。」
そうつぶやくコンラッドに。
「お客さんたち。いい人だね。…ま、三ヶ月前にここの権利の持ち主がかわっちゃってね。
  で、こんなになっちゃったんだよ」
何やら別方向から歩いてくる女の人がいってくる。
くわえタバコに乱れた髪。
少し崩した着こなしのしかた。
「そうなの?というか歩きタバコはよくないよ?というかタバコは健康にわるいよ?
  女の人のばあい、将来の赤ちゃんにも影響するし。とにかくタバコはやめたほうがいいよ?」
それに、タバコをすったときにでる煙は、吸っている本人以上に周囲に害を及ぼすし。
ここでのタバコがそうかどうかはおいとくとして。
健康によくない。
というのは共通だろう。
そんなオレの言葉に。
「ほんと。あなたおせっかいね。…あら?もしかして、女の子と思ったらあなた男の子なの?」
くすり、と笑ってしげしげとオレを見た後に、驚いたようにといってくる。
「……母親似なもので……これでも男です…」
力なくいうオレに向かって笑いつつ。
「あらまぁ。でももったいないわねぇ。…あ。噂をすれば…みたいよ?ほら」

何か店がある方向から言い合う人たちが出てくるのをみてとり、
視線でそちらを指し示すその女の人。
みれば、何か仮面をつけている男の人・・・…ちなみに、発しているオーラの色から魔族とわかる。
そして、その人物と一緒に。
何かねったりとした、金儲けのことしか考えてませんっ!
というあからさまに判るオーラを発している男性が出てきている。
どうでもいいけど…何か最近、ぱっと一目みただけで。
その人のオーラの性質がわかってきているような気がするのは……オレの気のせいだろうか??

「いかさまだ!!」
客らしき人物が叫んでいるけど。

「……いっとくが。手をだすなよ?」
「まあ、彼らの問題だからね?」
がっし。
なぜか、がっしりとオレの肩をつかんで同時にいってくるヴォルフラムとアンリ。
いや、というか……
行動が読まれてる?
やっぱり?
そうかもしれないけど…さぁ。
見てみぬふり…というのは…さぁ……
「あ」

そちらをみて、何か短く声を発しているグレタの姿が。
「?グレタ?」
思わず問いかけるオレに、グレタの視線はそちらにと集中している。
やばい。
教育上はよろしくない。
喧嘩のシーンもどきなんて。
「……あの男……」
用心棒であろう。
おそらくは。
仮面の男のほうをみて、つぶやきつつもオレに視線をむけて。
「お願いですから首をつっこまずに。あなたは足を治すことだけを専念してくださいね?」
に〜こり。
と微笑みつつ、オレにと釘をさしてくるコンラッド。
だから…何で三人から同じことを言われるオレって……
そんなに行動がわかりやすい…のかなぁ?
そんな彼らの言葉に。
「あら?その子の足の治療できていたの?だったらここの温泉はいいわよ〜。
  美人の湯なんてものもあるし。ま、気がむいたらお店にきてね」
いって、ウィンク一つして、店のほうにと歩いてゆくその女の人。
見れば、視線の先では逆上した客らしき男がナイフをもって、
恰幅のいい、いかにもよくないオーラを発している男に切りかかろうとして、
あっさりと用心棒さんにと剣をはじかれている。
う〜ん。
あの魔族の人…かなり出来るとみた。
その用心棒がこちらに視線を向けて、何やらはっとした表情になるものの。
すぐにそのまま向きをかえて、もう一人の男性とともに、店の中にと姿を消してゆく。
それをみつつ。
「…あの男…かなり出来るな……」
「ええ」
などと話しているヴォルフラムとコンラッド。
「さ。とにかく宿にいこ。チェックインしてから温泉に。ね♪」
にこやかな、アンリの言葉に、はっと我に戻っている二人の姿があったりするけど。
何はともあれ。
アンリのいうことも最もではあるので。
とりあえず、オレたちは宿を目指してさらに歩いてゆくことに。



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