二・三歳のころに連れて行かれたサーカスのことを思い出してしまう。 特殊メイクが怖かったらしく、ピエロがどこまでも追いかけてくる夢をみてしまった。 あれほど空は晴れていたのに、いきなり雷を伴う強い雨が降ったのも。 きっと幼心の恐怖をあおったのだろう。 オレずっと泣いてたらしいし…… 空中ブランコが終わり、像の芸が出てくるまでは。 腹が出ている妙ちくりんな格好をしている大人がチケットらしきものを握り締めながら、 何やら通りにむかって叫んでいる。 どうやらサーカスなどといったものの呼び込みは、異世界といえども共通らしい。 「さあ!おじょうちゃん!お坊ちゃん!見世物ごやによってかないか? 間違っても吸血鬼になんかなったりはしないよ!びっくりして楽しんでかえるだけだよ!!」 とか言ってるし。 「……この世界にもいるの?吸血鬼……」 思わずつぶやいてしまうけど。 やっぱり弱点は、十字架とか、にんにくとか? あとは白樺の杭?? 派手な看板には怪物らしき絵と、真っ赤な文字がでかでかと書かれている。 オレにも読めそうな短文だ。 「…えっと…世界の…ちん?」 文字をみつつ、読むオレに。 「ちん。じゃなくて珍獣ですね。世界の珍獣てんこもり。だそうです」 コンラッドがすかさず訂正してくれる。 「ふん。まだまだだな。あんなのも読めないとは!」 「……わるかったな……」 ヴォルフラムのつっこ身に思わず肩を落とす。 でもどうにか読めるようにはなってきた、ということだ。 以前はただの模様にしかみえなかったし。 この世界の共通文字や魔族文字といった代物は。 何はともあれ。 まずは宿にとチェックインをするために、ここも通り抜けて温泉ゾーンにと向かってゆく。 馬車を降りてから三十分あまり。 早くもそんなに時間が経過しているとは。 さすがにこの世界に名だたっているらしい歓楽郷だ。 見世物小屋の怪物の絵がこわかったのか、気がつくとグレタがぎゅっとオレの手をつかんでいる。 本人も無意識にやっているみたいだし。 今はそっとしておこう。
「おに〜さん。暇?」 ふと、歩いていると何やら声をかけられ、そちらを振り向くと。 そこには二人の女の子の姿が。 一人は満面の笑みで首をかしげているけど。 オレをみて、男?女?とどうやら戸惑っているのだ…とオーラが物語っている。 日に焼けた長い足を惜しげもなくさらしている短いスカート丈。 女の子って寒さに鳥肌たててまで、どうしてきわどい格好のおしゃれとかしたがるんだろう? 歳のころは十四か五歳程度。 オレとそんなにかわらない。 同い年か、もしくは少し下。 というところだ。 恋愛ゲームですら、いつも友達エンディングで終わってしまうオレにとって、 女の子から声をかけられることなんてまずないこと。 そして、少女はふとオレにと視線を移しつつ。 「何だ。彼女連れなの?子供もいるようだし」 とかいってくる。 「こいつは僕の婚約者だっ!」 そんな少女の言葉にすかさずヴォルフラムがいってるけど…… ……も、訂正するのも疲れてきました…オレ…オレ男なのにぃ〜…… 「悪いけど。これから宿に向かうところなんでね。遊んでいる暇はないし。 それに裏切れない相手がいるんでね」 いって、そんな彼女たちにとにっこりといっているコンラッド。 うわ〜。 こういう技もあるのか。 何かコンラッドがいっても、まったくキザでないのがすごいところだ。 普通なら、すごいキザのように聞こえるような台詞だというのに。 ……ん? 「…あれ?君何か具合がわるそうだよ?」 何かもう一人の子は顔色がわるいし。 しかもオーラもかなり乱れている。 条件反射てきに、 「ちょっとごめんね」 いって、ピタリと額に手をあてて、オレの額と比べてみる。 「って!?熱あるよ!?君!?早く医者にいかないとっ!? えっと、さっきのグレタ用の熱さましのこってない!?アイスは…あ。 あっちに溶けるからって残りはアンリがもってもどったんだっけ!? 確か、念のために熱サマシートの冷えピタはのこしてたよね!?」 いいつつも、とにかく熱があるのにこの格好は自殺行為だ。 女の子ってどうして具合わるくてもおしゃれに気を配るんだろうか…… オレが上着を脱いで、とにかく少しでも少女の保温度を高くしようとすると。 「おまえは何をしてるんだ!?」 なぜかヴォルフラムから抗議の声が。 「だって!?この子、熱あるんだよ!?風邪こじらせて肺炎になっちゃったらどうすんの!? 上着くらいは羽織ってたら少しは違うじゃんっ!」 オレの即答に。 「知らないやつにいい顔をするなっ!!」 「ほっとけないだろっ!?」 そんなオレたちの会話をききつつ、苦笑して。 「僕のを貸すよ。ユーリ」 いってアンリが羽織っていたフード付きマントの下に着込んでいた上着を脱いで、 女の子の肩にとかけている。 「薬は荷物と一緒に先に宿にもっいってもらいましたからねぇ〜……」 少し困ったように言っているコンラッド。 「お医者さんにいかないと!医者!病院どこ!?」 そんなオレたちの言葉や動作になぜか目を見開いて。 「お医者にいくお金なんて……」 とかつぶやいている熱のある女の子。 「…ニナ……」 そんな女の子のほうをむき、沈んだ声をだしているもう一人の女の子。 「お薬もないの!?そうだ。薬は…あ、荷物と一緒に先に宿かぁ。 グレタがまた熱だしたらいけないから念のためにもらってた薬あったよね? 宿についたら、もっていくよ。えっと、どこに届けたらいいかな?」 そんなオレの問いかけに。 「お〜ま〜え〜はぁぁ!少しは自分の立場を考えろぉぉ!!」 何かヴォルフラムが襟首をもってつっかかってくるし。 「……はぁ。ま、ユーリだしね。熱を下げて治すくらいなら僕にもできるよ。えっと。君手を出して」 「え?……あ、はい」 アンリにいわれ、戸惑いつつも差し出してくる少女の手を握り。 アンリが小さく何かをつぶやく。 と同時。 何か金色の光が少女の体を一瞬包み込む。 「はい。終わり。とりあえず大自然の治癒力を直接体に叩き込んだから。 少し安静にしていればすぐによくなるよ。 ここってシルの能力に満ちているからこういうのって簡単だしね」 何やらそんなことを言っているアンリだし。 ?また…『シル』? いったい何なの? 『シル』…って……? ときたまよく聞くなぁ??
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