しばらく、あまりの衝撃に呆然としていると。 少し離れていた場所にいたおばさんが、オレの杖と顔を見比べてから近寄ってくる。 そして。 「気の毒に。若いのに足がわるいんだね。あっちの方向に祈るといいよ。 あっちには眞王廟も王城もあるから。きっと願いを聞いてくださるよ。 …あら?これはウェラー閣下。この子が足が悪いのを見かねてのつきそいですか? 観光客にまで気配りしていただき本当にありがとうございます」 などと、オレと、そしてコンラッドにといってくる。 そんな彼女の言葉に。 「いや。この方は俺の知り合いの子供ですから」 「まあ。そうなんですか」 いってコンラッドの言葉をうけ。 「しかし、とてもかわいらしい娘さんですね」 がくっ! 「って!?ユーリ!?」 思わずがっくりと力が抜けてよろけてしまう。 それをみてコンラッドとアンリが叫んでるけど。 「あのぉ…オレ男なんですけど……」 思わず脱力しつつ答えるオレに。 「まあ!?そんなにかわいいのに!?もったいないっ!」 ・・・・・しくしくしく…… もったいない、という言葉がやけに強調されている。 「ほらほら。いじけない。いじけない。いつものことじゃん」 おばさんの言葉に脱力し、いじけるオレにとアンリがとどめの一言をいってくる。 いやまあ、そうかもしれないけどさぁ…… 「でもだいぶ、以前より筋肉はついてますよ?そんなにいじけないでください。 それより、寒くないですか?」 いいつつ、オレに手をかして、きちんと立ち上がらせるコンラッド。 「右足に負担をかけないようにしないとさぁ。というか、回復術くらい。 マスターしようよ自分の意思で使えるようにさ。イヤでもしばらくしたらできるようになるだろうけど」 ? 「?アンリ?何でしばらくしたら出来るようになる。って断言できるの?」 オレの素朴な質問に。 「だって。こっちに来た日。ユーリ誕生日だったでしょ? しばらくこっちにいることは、身体の安定をもたらすためにもちょうどいいし」 「??」 わけのわからないことをいうアンリの言葉に首をかしげていると。 「え?ではそちらでは、七月二十七日を過ぎたんですか?」 「過ぎたっていうか、当日」 そりゃ、オレの誕生日。 七月二十七日にこちらにきたけど。 「ではこちらの世界では、へ…いや、ユーリはもう成人ですね。 あれ?でも何でみんなにいわないんですか?」 首をかしげて問いかけてくるコンラッド。 「儀式っていうの?あれがねぇ……この先の人生を決める。なんてどう答えたらいいものか…… どう生きるかって、それって目標とはまた違うし。 かといって、向こうとこちらでまだまだ学ばないといけないことは多いいし…… そういや、オレってこっちではどのようにして産まれたの?」 オレの問いかけに。 「そういえば、話してなかったですかね?」 「うん。聞いたことないよ?」 そんな会話をするオレたちに対して、横では首をかしげているおばさんの姿が。 そして。 「ユーリ?七月って意味だね。その名前は女神様をも示す言葉でもあるから。 いい名前をもらったね。ウェラー卿のお知り合いなら後で眞王廟に祈りにいくといいよ」 そんなことをいってくるけど。 「は…はぁ……どうも……」 というか。 たびたびいってますってば。 眞王廟には。 オレもだけど、アンリは特に。 ふと、何やら家族の人なのであろう。 連れの人に呼ばれてオレたちにと挨拶して、立ち去ってゆくおばさんの姿を見送りつつ。 「しかし…十六歳ですか。おめでとうございます。陛下。 儀式はそんなに難しく考えなくてもいいですよ。それに陛下の場合はもう即位されていますし」 回りに他の人がいなくなったのを確認してか、コンラッドがいってくる。 「でもさ。どう生きるかって…目標と生きる目的とは違うしさぁ。 オレの最終的な目標は。この国だけでなく、この星すべての生き物が。 様々な種族と仲良く共存し、助け合い平和に暮らせる世界にしたい。 というのはあるけど。それはでも誰でも思っていることでしょ? 魔王としては、まず人々の偏見を取り除いて他の国々と和平協定を結んで…… とか。上げていったらきりないし。 個人としては、この四月につくった草野球チームをブロの集団のように。 皆が上手になって、できたらチームからブロ入りできる人が出ればいいなぁ。 とか。そんなことも目標だし。 自分がいきる方向を決める。って、何か一言で、どの自分の立場で…というのが難しくて……」 オレの言葉に笑みを浮かべつつ。 「まあ。確かに。この国では十六の誕生日に先の人生を決めますけどね。 自分がこの先どういきるのか。を。軍人として誓いを立てるか、文民として繁栄を担うか。 あるいは偉大なる先人の魂を守り祈りの日々を送るか。を。 決めなくてはならない事項はひとそれぞれです。 グウェンダルもヴォルフラムも父と母。どちらかの氏を選ばなければならなかったし。 俺は十六で魔族の一員として生きることを決めた。…人間側として、ではなく」 オレの背後に立ちつつも、周囲に気を配りながら説明してくるコンラッド。 その声に後悔がにじんでいなかったことが、オレにとっては思わずほっとしてしまう。 もし、コンラッドが国を離れたい。 といったら、オレには引き止める手段は……ない。 「ギーゼラはやっぱり。十六でフォンクライスト家の養女になることを選択したはずです。 一生のうち、一度は後の運命のかかった決断をしなければならないときがあって。 魔族にとってはそれが十六の誕生日なんです」 「へぇ。それじゃ、オレの選択ってどうなるんだろ?」 「すでに陛下は即位してらっしゃいますからねぇ。…今後の生き方の目標とかじゃないんですか?」 「…う〜ん……。何か難しいなぁ〜……」 オレのそんなつぶやきに笑みを浮かべつつ。 「とりあえず、夏までは。 陛下が自分からおっしゃらない限りは十六を迎えられたことは黙っておきますよ。 陛下はこちらの世界の七の月の第四の月の日の夜。満月の灯りがいつもより明るい夜。 眞王廟にと養生にいかれていたソフィア様が御産みになられました。 俺はそのとき、眞王廟にいましたからね。あの日のことはよく覚えてますよ。」 いって、どこか遠い目をして過去を懐かしみつつ言っているコンラッド。 その視線の先にはちょうど血盟城の背後に位置している眞王廟の姿が。 かがり火は、昼も夜も決して絶やされることはないという。 一般の観光客の皆様も、そちらにむかって何やら拝んでいるけども。 でもさ? いまだにエドさん…旅行中らしいよ? ごくごく一部の関係者しか知らない事実だけどさ。 「というか…夏までに考え…まとまるかなぁ?? というか、オレずっとこっちにいるわけでないし…… あっちとこっちに両方居場所があって。 それぞれからいろいろ学ぶ。それが今のオレにできることだ…とは思うんだけどね…… いいシステムはこっちでも取り入れて。より皆が安心できる場所を提供する。 オレにできるかはわかんないけど」 そんなオレの言葉に。 「そんなはずがアラスカ」 ・・・・・・・・は? 今、一瞬鳥肌が……というか、気温が下がったような…… 「い…今、何ていった?」 オレの震える声の問いかけに。 「いえ。元気がないみたいだから。ちょっと笑わせようかと……」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ こんなに非の打ち所がないやつも珍しい。 とは思っていた。 顔も性格も腕もたって、気の利いたことがさらり、といえる。 影のある過去を抱えていて、しかも子持ちでも、バツイチでもない。 しかも、前王の息子。というおまけつき。 完璧すぎる…とはおもっていたけど…… ま……まさか、ギャグが破壊的に寒い人だったとは!? 「あ〜……彼はそういや昔からそうだよねぇ〜……」 どこか遠い目をして何やらつぶやいているアンリ。 ・・・・・・・・・ 「コンラッド!今後一切笑わせようだ。なんて考えなくていいからなっ!」 こんなのちょくちょく聞かされていたら精神崩壊を起こしてしまう。 ある意味、とある小説にでてくる、というかアニメにもなったけど。 某スレイヤーズの中にでてくる、黄金竜のミルガズィアさん並みだ…… 彼とコンラッドのギャグはもしかしたらいい勝負かもしんない…… そんなオレの言葉に。 「いやだなぁ。いっかいすべったくらいで。もう一度チャンスをくださいよ。」 「いや、いわなくていいって。ウェラー卿。 それより。ユーリの足を治療するのにヒルヤードの温泉…何てどう?」 何やら冷や汗をかきつつも、アンリがコンラッドの肩をポン、と叩いていっている。 どうやらアンリもコンラッドのギャクは聞きたくないらしい。 「ああ。それはいいかもしれませんね。リハビリをかねて。捻挫は癖になる、といいますからね」 アンリの言葉にコンラッドも何やら同意しているし。 「……?ヒルヤード?」 それって、確かヒスクライフさんが住んでいるところじゃあ??
とりあず、あまり遅くなっては…と。 オレたちはしばしその場にて景色を楽しんだのちに。 それから血盟城にともどってゆく……
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