T字型のそれは、何か見覚えがある。 ボブ叔父さんや、うちの祖父が使っているものと同じだし。 「……が〜ん……若くしてステッキ生活……」 オレのつぶやきに。 「英国紳士みたいで素敵ですよ。陛下」 「コンラッド。それはだじゃれなの?それともなぐさめ?」 思わずいってくるコンラッドに突っ込みをいれてしまう。 何でここに英国紳士なる言葉がでてくるのか。 どうみても、映画の中の紳士のように見えるわけないっての。 「先端がマシンガンとかだったらさ。かっこいいのに……」 あとは仕込み杖とか。 ワインみたいにひっぱってみると。 シュポンッ! 軽い音がして、杖の先がすっぽぬけて、なぜか花が出現する。 「って!?マジックかいっ!」 思わず突っ込むオレに。 「お見事です。陛下」 いってくるギュンター。 いや、そうでなくてね? ……も、いいです…… と。 コンコン。 カチャリ。 「ユーリ?足の具合どうだ?」 いってこちらからの返事も待たずに、ヴォルフラムとグウェンダルが扉をあけて入ってくる。 そんな二人をみて。 「閣下。大丈夫ですわ。あとは大事さえとってくだされば」 いってたちあがり、ぺこり、と頭を下げているギーゼラさんの姿が。 「そういえば…あの子は?」 オレの問いかけに。 「何かかなり興奮していたらしいからな。今は猊下がその御力で眠らせている。 落ち着いたら少し話も聞けるだろう」 ヴォルフラムが先にと答えてくる。 そして。 「だがしかし…問題は。あの娘…グリーセラ家の徽章をもっていたらしい。 それで門番もすんなりと通したらしい」 「グリーセラ家の!?」 グウェンダルの言葉に驚いているコンラッドとギュンター。 …あれ? グリーセラって?? どこかで聞いたことが?? 「徽章をもつのはグリーセラ家当主と。あとは……」 そういいかけるギュンターに対して、コンラッドがちらり、と視線をニコラにうつし、 首を横にふってギュンターの言葉の先を押しとどめる。 「あの?グリーセラって…何かあのひと…ヒューブと関係が?」 不安そうにそんな彼らの言葉にニコラが聞いてくる。 あ。 そっか。 ゲーゲンヒューバーってひとの苗字だ。 グリーセラって。 グリーセラ卿ゲーゲンヒューバー。 ニコラの恋人であり、そしてまた、おなかの子の父親でもあり。 グウェンダルの従兄弟だという人物の。 「おまえは心配しなくていい。おなかの子供にさわる。あの子供が気づいたら話をきいてみる」 心配そうな声をあげるニコラにと話しかけているグウェンダル。 「でもさ。絶対にひどいこととかしたらダメだよ?相手はまだあんなに小さい子供なんだしさ。 怖がらせないように最新の注意を払って、それからきかないと」 そんな最もなオレの言葉に。 「おまえは命をねらわれたんだぞ!?」 何か叫んでくるヴォルフラムだけど。 「でも。あんな小さい子が意味なくそんなことをするはずないって!それにっ! もしかしたら、前のアルみたいに周りがいってるから魔王は悪い人。 だったら、魔王をやっつければいい。と単純に思っただけかもしれないし。 絶対に罰とかは与えちゃだめだからなっ!」 「……頑固だな。まあ、一理はある。話を聞かないことにはどのみちどうすることもできん。 それに。だ。小さな子供がここまで一人でこれた、とは考えにくい」 「つまり、誰かが手引きした可能性も……」 「十分にありえる。今調査をしているところだ。 とにかく。おまえはじっとして。怪我を治すことだけに専念することだ」 ギュンターの言葉に、グウェンダルがうなづき何やらいっている。 というかさ…… 「グウェンダル……。今、なぁ〜んか、『じっとして。』というのを強調しなかった??」 じと目で思わず問いかけるオレに。 「おまえはほっとくと何をしでかすかわからんからな」 「うっ!!?」 「さすが兄上。いいことわいいます。その通りですね」 グウェンダルにまで断言されるオレって…… 「とにかく。自分から原因を探ろう。などと思って動かぬことだ。 私は他にもすることがあるので退席するが…コンラート。後はたのんだぞ?」 「わかってるって」 そんな会話をしているこの兄弟。 「……グウェンダルにまで何か見通されてるよぉ……」 そんなオレのつぶやきに。 「やっぱりおまえは自分でも調べるつもりだったな!このへなちょこがっ!!」 「だって、だって、だってぇぇ〜〜!!!」 部屋にオレの叫びがこだまする。 だって、何で自分が狙われたのか…なんて、知りたいし。 知らなきゃいけないことじゃん? 普通は?
ゆるやかに坂道を馬の背に揺られながらのぼってゆく。 午後になって空気は暖かくなり、向こうから持参のフード付きコートが少し暑く感じる。 こちらの世界にもダウンジャケットみたいなものはあるらしいけど。 技術的な問題で、革のコートと同じくらいに重い。 四画に区切れば、保温性やそのほかにもいろいろと効能性があがるのに。 コンタクトをはめてカツラをかぶり、ゆらゆらと馬をすすめる。 「あの子、かなり疲れてたみたいだね。今は死んだように眠ってるよ。かなり気をはっていたんだね」 同じく馬を並べて進んでいるアンリがいってくる。 ひとまず、女の子には城の一室をあてがい。 そこで話を聞こうとしたものの。 かなり興奮していたらしく、アンリがちょっぴり気を静めるために何かしたとか。 で、そのまま女の子は眠ってしまったらしい。 女の子が心安らぐ光景を幻としてみせたらしいけど。 詳しいことは判らない。 アンリはフードで頭を隠している。 眼鏡をかけているがゆえに、アンリの瞳の色が黒、だとはわかりにくい。 それに加えてアンリの瞳の色は、茶色に近い黒。 ということもあるし。 オレのはどうみても漆黒の黒だけど。 行き交う人々は、片手を上げて挨拶してくる。 馬はコンラッドが歩いてひいていてくれている。 少しでもオレの足の負担を少なくするため……だそうだ。 小学校の遠足でいくのではないか? という程度の高さの山。 山道にと入るとアンリもまた、馬から降りて手綱をひいている。 行き交う人々はほとんどコンラッドにと挨拶しているし。 結構コンラッドは有名人らしい。 「う〜……。みんな歩いてる…オレも歩きたいよぉ……」 オレのぼやきに。 「足が完全に治ったらね」 「無理はだめだってば。ま、こっちにいる間に治そうよ? あっちにもどったら確か八月の半ばごろに一度試合でしょ?」 コンラッドとアンリが交互にいってくる。 「そりゃそうだけど……」 「大丈夫です。今だけですよ。すぐに元通りに走れるようになりますって」 「わかってるけどさ……」 いつまでこっちに滞在するようになるのか。 という心配や。 そのほかにもいろいろと思うことがある中での捻挫。 エドさんがこちでまだしてほしい用事もまだわからない。 判らない以上、オレはこちらにいつづけたほうがいい。 というのがアンリの意見。 ……ま、正論ではある。 後ろにひっぱられたはずみでひねった右足首は、今は痛みもなく腫れも引いている。 だけど、歩くと少し痛み。 思わずびっこをひいてしまう。 昼前にと城からでて三十分くらい馬で走ると休耕中の田畑地帯もおわってしまい。 連山への一本道だけとなっている。 ギュンターにはアンリから、ユーリの気分転換をかねて展望台に連れ出してくる。 と何やら言ってあるらしい。 何か兵士をだす! とかいってきたらしいけど、アンリが断ったとか。 それについてはかなり感謝! だけども…… だって、他の一般の人たちにそんなことしたら迷惑かかるしね。 それに。 それよりはあの女の子と、あと他にオレを暗殺しようとした首謀者が他にいないかどうか。 という確認作業を改めて依頼したらしいけども。 整備された山道を登り始めてから小一時間程度。 突然常緑樹がとぎれ、視界がひらけ、何にも邪魔されない空間が突如として開けてくる。 「さ。ユーリ。足に負担をかけないようにね。馬は僕がもってるから」 いってアンリが馬の手綱をもち、コンラッドが補佐してくれる。 そんな中でゆっくりと馬から降りる。 使い慣れない杖を握り、左手に体重をかけて歩いてみる。 まあ、何とかいけそうだ。 頂上は展望台となっていて、転落防止のためか頑丈な柵で囲まれている。 吹き抜ける風は白く冷たいが、オレたちのほかにも何人かの観光客らしき人の姿がみてとれる。 そして、彼らは思い思いの方向を見下ろしていたりする。 「へぇ〜。何か遠足思い出すよ。山の公園で昼飯くったんだよな」 「あったねぇ。で、ユーリのお弁当は猿にとられたんだよね」 「うっ!…イヤなことまで思い出させるなよ…アンリ……」 なぜかオレの弁当だけ、生息していた猿に狙われてしまい。 その猿が子持ち…というのもあってオレは仕方なくそのお弁当をあきらめたのだが。 それは小学二年のときの話ではあるけども。 「ほら。気をつけて」 「ちゃんと喉笛一号を使ってください。」 アンリとコンラッドの言葉に。 「わかってるって。でもやっぱり山の山頂までくるとさ。ヤマビコを聞かずにはいられないよな」 横の子供たちも同じ考えらしく、口に手をやっている。 「やっ……」 「「うっふ〜んっ!!!」」 オレがヤッホー。 といいかけるよりも早く。 子供達が何やら叫んでるしる 「何それ!?何なの!?」 思わず当然のごとくに驚くオレに。 「え?山頂でのメジャーな掛け声ですけど?」 きょんとして言ってくるコンラッド。 「うえっ!?うっふんが!?じゃあ、あっはんの立場は!?というか、普通ヤッホーが定番じゃあ!?」 オレの叫びに。 「あ〜…そういえば、この国ではそうだったねぇ」 何やら思い出したように、にこやかにそんなことを言っているアンリ。 「しかし…ヤッホーとは。これはまた…色気の欠片もないですね」 コンラッドがそんなことをいってくるけど。 「というか。ヤマビコ相手に色気をアピールしてどうすんだよ……」 思わず脱力してしまう。 い…いったいこの国の…というか、この世界の常識って…… 何か信じられないことばかりだ……
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