ひとまず、立ち上がるのも困難。 と判断したコンラッドがオレを抱えてそのまま、部屋にと運び。 ベットの中にと運んでくれる。 動いたとき、もしくは動かした時以外に、痛みをあまり感じることはない。 ということはかなりひどくひねったようだ。 多分骨折まではしてないにしろ。 ……ちょっぴし骨がずれたかどうかくらいはしているのかもしれないが……
しばらくすると、小さな救急箱をもって、何か見慣れた女の人がやってくる。 「…あれ?確か…ギーゼラさん?」 確か彼女とは以前、国境の近くの村であっているはずだ。 オレの言葉に。 「覚えていてくださり光栄ですわ。おみ足を拝見させていただきます」 いってオレをベットにこしかけさせ…… といっても、腰掛けるのを手伝ってくれたのはコンラッドだけど。 ベットに腰掛、脚をベットの外にとほうりだす。 彼女はオレの右足を膝の上にとのせ、丹念にと調べている。 というか、女の子にこんなことわされたのなんて初めてだ。 当然ながら全身が、恥ずかしさで熱くなる。 「大丈夫。丹念にひねっただけですわ」 いって、患部にと手をあててくる。 「陛下に初めてお会いしたときにはそれはそれは驚きました。 猊下にもいえることですけど。高貴なる黒を髪にも瞳にも宿されたお方たちが。 私の前にいらして、敵味方の区別なく慈悲の心を皆におあたえになり。 お手を汚してまで人間と魔族をわけ隔たりなく治療に御力をお貸しくださるなんて」 足に手をかざしながら、ギーゼラさんがいってくる。 …あれ? 「…あれ?どうなってるの?何か傷みと腫れがひいてくみたい?」 気づけば何か、腫れがひき。 心ばかりか痛みすらも治まってきたように感じられる。 ?? 首をかしげるオレをみて、やさしく微笑み。 「これが私たち一族の魔術なんです。患者に触れて相手の心に語りかけながら。 肉体と精神の奥深いところに呪文をささやいて治癒の速度を何倍にも上げてゆく。 そのためにには何よりも患者の治ろう。という意思を引き出して気力を与えてあげることが大切です。 ですから瀕死のけが人相手でものんきに子守唄なんか歌っている人もいるんですよ?」 そういいながら、オレの足にと手を触れているギーゼラさんの手のしたでは腫れがどんどんと引いている。 「すごいっ!どんどん元にもどってく!?こういうの試合中とか便利だなぁ。 チームに一人は是非に回復役って。」 そんなオレの言葉に、慈愛の微笑みをむけ。 「陛下の巨大な御力をもってすれば、この程度の術などたやすいはずです。 現に陛下は死に掛けていた子供を蘇生させていますから。しかも五体満足な状態で」 ブランドン…のことかな? オレはまったく覚えてないけど。 でも、確かに、あの子は今でも元気にぴんぴんしてるし。 何でもオレが治した……らしいけど。 オレはまったく覚えてないし。 「でもオレ、まったく覚えてないし。そんなこと本当にできるの?」 水の竜とか、マドハンドもどきの泥人形や、骨人形。 それ以外にもできるのだろうか? それらすべてオレは覚えてないけども。 「ええ」 「う〜ん……何か実感ないなぁ〜……」 オレに慈愛の微笑みを向けてくるギーゼラさんにどぎまぎしながら思わずうなる。 オレの回りではギュンターが落ち着きなく動き回り。 なだめるコンラッドをさっきからずっと困らせている様子が目に入る。 あつくなる体をどうにか紛らわせようと、そちらに意識を向けると。
「やはり。国一番の医師を呼び寄せたほうが…… 陛下のおみ足をギーゼラごときに任せてよいものかどうか……」 「陛下を大切に思う気持ちは立派だが。打ち身から重度の刀傷まで。 ギーゼラはあらゆる負傷者を治療してきているんだ。 捻挫くらいならば彼女に任せれば安心だろう。自分の娘を少しは信じろよ」 とか言っている姿が見て取れる。 つられて何とも思わずに。 「そうだぞ。ギュンター。 オレみたいな健全高校男子にとっちゃあ女医さんは憧れベスト3に入るんだからな! それがたとえギュンターの娘であろうと……って…娘っ!?誰が誰の!?えっ!?」 そこまでいってハタと気づき、かなり驚きつつ。 「娘って…ええぇ〜!?ギーゼラさんがギュンターの!?それにしちゃそう歳がかわんない気が…… あ、実年齢は見た目じゃわかんないんだっけ。 けど何だよ。こんな大きな娘さんがいるなんて、そういうことはいっといてくれないと。 それにしても子持ちだなんて知らなかったなぁ」 ギーゼラさんとギュンターを交互に見つついうオレに、ギーゼラさんはにこにことしているまま。 言われてみれば、ギュンターは百五十歳近いとか。 孫とかいてもおかしくない。 それにしては、オーラが何か似通ってないけど… ?? 何はともかく。 「だけど、美人で優秀でやさしくて。申し訳ない娘さんだな。 これじゃ、つまんない男がよってこないかってパパとしちゃ毎日気が気じゃないだろ。 オレだって妹に悪い虫がつかないか、何か気になるるんだしさぁ。 そうだよな。考えてみたらギュンターってもう結婚してて、子供がいて当然。 孫もいて当然って年齢だよな。ひ孫の先はえっと……」 オレの言葉に。 「玄孫ですね」 「そう!玄孫!ってそんな知識までコンラッドはあるの?」 答えたコンラッドの隣では、なぜかギュンターが固まりたたずんでいる。 そして。 「わたくしは結婚などしておりませんっ!」 などと震えつつもいってくる。 へ? 「あ。じゃあシングルファーザー?すっげえ! 離婚にしろ死別にしろ、男で一つで娘さんを育てるなんて! あ、だからギュンター、オレに対してものすごい過保護なのかな? 子供もっている親って他人の子供とかにも同じように心配するし」 関係ないけど。 オレはよくアンリから、妹のことを心配しすぎ! とよく言われてたりするし…… それはオレの家族全員にいえるらしい。 「離婚どころか結婚もしておりませんっ!」 「へ!?あ、じゃあもしかして私生児!?」 つまりは、結婚しなくても子供ができる。 というパターンはよくあるし。 オレの言葉に笑いながら。 「養女なのですよ」 「へ?」 オレのくるぶしをさすっていたギーゼラさんが穏やかな口調できっぱりといってくる。 「幼いころに父親がなくなり。母も病弱だったもので。 きちんとした高等教育がうけられるように。と閣下の母上が縁組してくださったんです。 だから血もつながっていないし、顔も似てなくて当然です」 といってくるけど。 それでオーラに似た部分がないわけだ。 だけども。 「いや。遺伝的要素があるにしろ、ないにしろ。家族には違いがないし。 オレだって今の両親とは血なんかまったくつながってないけど、家族だし。 それにギュンターが子持ちってことは事実でしょ? しかも、こんなにりりしい職業の美少女をオレにも紹介してないし」 そんなオレの言葉に。 「わたくしごとで陛下を煩わせてはと……」 何やらそういってひざまづいてくるギュンター。 「よ〜し!今日からギュンターのことはパパとよんでやる。パパ。娘さん元気?とかきいてやるっ!」 オレに黙っていた罰だ。 だって女医兼ナース兼兵士って、どんな男でも一度は夢見るしっ! 何を。 といわれても困るけど。 「養父にお尋ねにならなくとも。私は陛下の軍隊の一員なのですから。 お召しとあらばいついかなるときも参じますとも。さて、とりあえずの処置はおわりました」 いってオレから離れるギーゼラさん。 ああ、もったいない。 女の子に触れてもらえる機会なんて、まずないっていうのに…… 「あと半月ほど右足に負担をかけないようにしてくださいね」 「うえっ!?半月…つまり二週間も!?治ったんじゃないの!?」 オレの驚きの言葉に。 「身体に無理をさせたわけですから。自然治癒したとよりはもろくなっております。 私の術は陛下のお使いになる他の自然の治癒力をそのまま相手に与える…… というものではございませんので。大事をとるにこしたことはありません」 いや、そういわれてもさ? オレってそんな力…本当にもってるわけ? ねえ? 「う〜ん……。つまり、治癒と復活。ホイミとベホマの差ってことかな?」 回復力に落差があるのは変わりがない。 「ケアルとかケアルガ、との違い。というかフェニックスの羽の差みたいなものですかね?」 「え?…ってコンラッド?FFやったことあるの?」 「十年前に陛下のいる地球に再びいったときに」 「……なるほど」 「それとか当時出たばかりの何かゲーム機種もありましたけど……」 「う〜ん。それだとスーファミかプレステかな?それだと。 う〜ん……でも二週間も……。は!?まさか寝たきりですごすわけ!?オレ!? 要介護認定レベルはいくつ!?」 そんなオレの叫びににっこりと。 「いいえ。普通に過ごされてかまいませんよ。ただし、歩かれるときだけは……」 いって、にっこりとギーゼラさんは何かの棒を差し出してくる。 「これをお使いください。」 「…つ…つえ?」 思わずつぶやくオレに。 「そうです。名前は喉笛一号」 「の…喉笛一号…って…杖に名前があるの?」 何で杖なのに喉笛?? 魔族のネーミングセンスはよくわかんない・・・… というか、この世界の常識そのものが、オレはよく理解できてないし……
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