「おはようございます。」
「おはよう」
この世界にも四季があり、スヴェレラの一件が終わってからもう数ヶ月が経過。
今はちょうど寒い盛りで、外には時たま雪も降っている。
こちらの暦では十二の月にと入ったばかり。
といっても、こちらの暦は十三月ほどあったりするけども……
「って!?何か苦しいとおもったら!こんな全身でのっかってきてるしっ!」
天使の寝顔で悪魔の寝相。
フォンビーレフェルト卿ヴォルフラムが両手両足をしっかりと絡ませて、オレの安眠を妨害している。
ふりふりレースで絹の夜着。
これで女の子だったらいうことないのに……
「だぁぁ!毎日毎日!冗談じゃないよっ!こんなところギュンターに見られたらっ!」
何でかオレの部屋にと住み着いてしまったヴォルフラム。
オレとしては一人部屋が恋しいところ。
前回。
シーワールド水族館のイベント真っ最中にひっぱられこちらにやってきて。
アンリの出迎えによって一度あちらにもどったものの。
次の日…つまり、オレの誕生日にこちらにやってきてからそろそろ二〜三ヶ月が経過する。
「もう来ております〜!!」
重く、厚い木製の木の扉を豪打して、部屋の外でフォンクライスト卿ギュンターが叫んでいる。
オレのこととなったら、何かギュンターはすっとんじゃうし……
いつもののこととはいいながら、もう少し自分を大切にしてほしいものだ。
「陛下っ!どうなさいました!陛下ぁぁ!ここをお開けください!ここを!」
何やらドンドンと扉を叩いてるし。
「念のために鍵を」
オレに絡み付いている夢うつつのヴォフルラムをコンラッドが横に転がしつつ言ってくる。
「さすがコンラッド。助かった」
そのまま、ベットから起き上がり、向こうからもってきているトレーニングウェアーを身に着ける。
オレのために税金を使わせたくないのが本音なのだが。
ギュンターに押し切られ、仕方なく一着だけはこちらでトレーニングウェアーを作ってもらっている。
伸縮性にこちらで作ったものは不満が残るけど、それは今後の課題だろう。
服を着替え、ドアを開けると同時に。
「走ってくる!」
とだけ言い残し、ギュンターの横をすり抜ける。
背後ではよくもまあ。
毎日、毎日飽きないものだ。
と思える聞きたくない女の子のような悲鳴が。
「なぜあなたが陛下のお部屋にぃぃ!しかも褥の中にまでっ!!」
などというギュンターの叫びが聞こえてくる。
よくもまあ、毎日、毎日。
同じことが言えるものだ。
おそらく、これから毎日のこと…と慣れたくないけど慣れざるを得ない光景になるであろう。
そんな寝室を後にしながら、常々自分でも不思議だったことをコンラッドにと尋ねてみる。
「けどさ?ヴォルフは何でオレのとこに住んじゃってるんだ?
  こんな馬鹿でかい建物だし。他にも部屋はあるだろうに。
  いや、それ以前にどうして血盟城にいつまでも滞在しつづけるのかなぁ?
  ヴォルフの本拠地はビーレフェルト地方なんでしょ?」
そんなオレの問いかけに笑いつつ。
「ヴォルフはうれしいんですよ。陛下がずっとこの国に滞在していてくださることが。
  それに、陛下の代わりに執務をこなして警備目的で、
  グウェンダルもヴォルテール地方から、こちらに来てますしね。
  オレたち三兄弟はなかなか一緒に暮らす…ということは、今までになかったですし。
  それもあるでしょうが、何より。
  ヴォルフにとって陛下はこころおきなく話せて心許せる人ですからね。
  ああみえてあいつ寂しがりやなんですよ。表には絶対にそうは見えないようにしてますけど」
にこやかに、オレの問いかけに答えてくるコンラッド。
「それに。フォンビーレフェルト卿は生まれたときから王子って立場だったしね。
  おはよう。ユーリ。ウェラー卿」
ふと前をみれば、歩いてくるアンリの姿が。
「おはよう。アンリ」
「おはようございます。猊。」
アンリもオレと一緒に、ここ、血盟城にと滞在を続けてずいぶんになる。
まあ、ヴォルフラムが王子…というのはそりゃそうだけど…さ。
でもそれをいったらコンラッドやグウェンダルもそうだとおもうけど……
ヴォルフラムがさびしがりや……
まあ、それは何となくはわかってたけど。
あのわがままっぷりもきっと、その裏返しなのであろう。
……たぶん。
何はともあれ。
「?アンリも今日は一緒に走るつもり?珍しい?その格好は?」
見れば、アンリの格好もオレと同じジャージの上下だ。
「たまには朝走るのもいいしね。それにユーリに報告もあるし」
「報告?」
兵士がオレ達に気づいて敬礼するまえに。
「ご苦労さま!」
と声かけ、目の前を走り抜けて中庭に出たオレとコンラッドの前にて。
こちらに向かって歩いてきたアンリが何やらいってくる。
そんなアンリの言葉に思わず足を止めて聞き返す。
「うん。以前にユーリが提案していた、各村や町における、いわば派出所のようなものの実施ね。
  シーラの配下の風の精霊たちに協力してもらって。
  日々の連絡はついでだから、ということで常に王都に届けてくれることになったから。
  試験的にいくつかの村々で実施してみたら、結構反響がよかったらしくてね。
  治安も向上したとかで。で、本格的にシステム導入する動きになりそうだよ?
  各地区の自警団とかとも蜜に連絡を取り合うことでより安全基準を高めていこう。
  という意識が芽生えてきたみたい」
「本当!?」
アンリの説明に、思わずぱっと目を輝かす。
何よりも、何かあったときに、肝心なのは初動動作だ。
今までは、要所要所にしか兵士などが滞在していなかったらしいし。
あと連携とかもまちまち。
いいところは残したままで、連絡を蜜につめて、さらに目が届きにくい。
小さな村々にも派出所を…と提案したのは。
オレがこっちで即位して間もなくだったと思う。
村々などとの連絡の取り方で、難色を示されてはいたが。
シーラの配下。
つまり、風の精霊の一族が手伝ってくれるのならば、その問題も解決されるはずだ。
オレの目標としては、種族関係なく、それぞれが助け合い共存できる世界。
そんな世界にしたいし、なってほしい。
それがたとえ人間にしろ、魔族にしろ、精霊にしろ…である。
「昨日はヒスクライフさんから連絡があって。
  ようやくスヴェラレが少量ながら援助を了解したっていってたし。
  結局、こちらからの問いかけには聞く耳持たず…だったけどさ。……」
スヴェレラの一件以後。
幾度となく王家に新書を送ったものの、すべてがなしのつぶてで返事はなし。
噂では、かの地には雨がふり、なぜかその直後。
枯れ果てていた大地に緑すらももどったとか。
不思議なこともあるものだ。
と思っていたら、コンラッド達曰く、それもどうやらオレの仕業らしい。
……んなバカな。
だがしかし。
それまで採れていた法石が一切とれなくなってしまい、国は混乱しているとか何とか。
困っているのは国民で、あまりに長く続いた干ばつのために、家畜を買うお金もない…とか。
なのでこちらで生まれた家畜、つまりは牛などを提供しよう。
と申し込んでみたら、即座に却下された。
魔族の施しなどはうけぬっ!!
と。
仕方なく、ヒスクライフさんや、カヴァルケード王とも相談して。
ようやく援助の体制が受け入れられた。
という連絡があったのが、昨日のこと。
その分、仕事の量も何か多くなっているけど、ギュンターやアンリ。
そしてグウェンダルの協力もあって何とかこなしているこの現実。
「何よりも人々の安全が優先だもんね。かといって仰々しく軍隊配備…とかでなくてさ。
  こう、気軽に何でも相談できる役所ってここにはなかったようだしさ」
「だから。それぞれの村や町の出身者などをひとまず当ててみたみたいだよ?
  最低限の兵としての訓練に一・二年は要するから。
  各村などで希望者を募って、本格的にやるみたい。
  近々ユーリにもその許可申請がいくとおもうよ?」
アンリのとの根強い話し合いで、地球の警備・・・つまりは、日本などの警備状況。
警察などの体制も参考にされているらしい。
やっぱり、いいな。
と思うものは取り入れないとね。
「何にせよ。これで一つ。陛下の意見が現実化しましたね」
アンリの言葉をききつつ、横で笑っているコンラッドに。
「だからぁ。陛下ってよぶなってば」
「癖になってるんですってば。ユーリ」
にこやかに言ってくるコンラッド。
「…オレ、今だにそう呼ばれるのなれないんだよ?
  いくら王様っていっても、王らしいことまだ何もしてないしさ」
そんなオレの言葉に。
「そう思っているのユーリだけだって」
なぜか突っ込みをいれてくるアンリ。
そして。
「ユーリはしっかりと勤めを果たしていますよ。
  この国だけでなく他の国のことまで心配して動こうとしておられる。
  そんな王をもって、国民もオレたちも誇りにおもってますよ」
「そうかなぁ?そんなことないとおもうけど?」
そんな会話をしつつも。
かるくその場で屈伸運動を開始する。
「ま、今日は僕も走るよ。何か風がさわいでるしね」
「??」
アンリの言葉に首をかしげつつも、いつものごとくにジョギングを開始する。
卿もまた、サインしなければいけない書類は山積みで。
他にも考えないといけない問題も多々とある。
会わないといけない要人の数も、よくもまあ毎日つづくものだ。
とあきれるばかりの行列だし。
周囲のフォーローで何とかどうにかやっているオレが立派な王です。
なんていえるわけもない。
アンリとコンラッドを伴い。
いつものようにと中庭にとでて、城の周囲を一周する。
かるく一キロ以上歯あるしなぁ…この城の周囲は……

朝の光をあび、冬芝がきらめき、草の下には霜柱がたっている。
ふむとさくっと音がする。
冷たい空気がここちよい。
これは押し付けられたわけじゃなく、自分で選んだことのはず。
ならば、自分で出来ることをしていくっきゃないでしょう。
うん。



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